GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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お待たせしました。主人公のターンです。
今回は悪ノリと原作オマージュが半々となっております。


交響曲:Dies iræ/怒りの日

 

 

 

<第2次突入時刻>

 伊丹耀司 特地派遣残留部隊・特殊対応要員/『主役』

 帝都・皇宮上空/CH-47JA(チヌーク)改・空中通信管制型

 

 

 

 

 

 

 

「目標まで1分!」

 

 

 搭乗員の隊員が怒鳴り声を発すると、それを間近で聞かされた彼の傍で機材に取り付いていた通信科の隊員。

 

 そして一緒にCH-47JA改へ乗り込んでいたテュカとロゥリィは、あまりの大音量に驚いてビクリと肩を跳ねさせた。

 

 

「そんな大声で怒鳴らなくても聞こえてるわよぉ」

 

 

 顔を顰めて抗議の視線を向けられたのみならず、ロゥリィから文句まで言われてしまった搭乗員は自分の失敗に気付くと、小さく頭を下げる事で謝罪の意思を示すとすぐに己の仕事に戻った。

 

 

「緊張で普段の癖が出ちゃったんだろうねぇ」

 

 

 同じく機内の人である伊丹は搭乗員の気持ちも分かると苦笑を浮かべる。

 

 炎龍の鱗を使った装甲戦闘服(アーマースーツ)の上から弾薬と各種手榴弾等で全てのポーチが膨らんだチェストリグを着用し、細かな龍の鱗の欠片を集めて固めた防護プレートを手の甲部分を仕込んだ防護グローブも装備。

 

 右のレッグホルスターにサイドアームの拳銃を押し込むのみならず、チェストリグの金具にストラップで別の火器もぶら下げる今の伊丹は、指先まで肌を覆い隠し頭部だけ露出した姿だ。

 

 本来は備え付けのヘッドセットを使わなければ怒鳴り合いに等しい大声でなければ掻き消されてしまう程やかましいエンジン音に支配されている筈の機内であるが、伊丹達が今乗っているヘリに関してはエアコンの動作音程度とエンジンの駆動音が大きく抑制されている状態だ。

 

 大島での戦いでも活用されたテュカの精霊魔法による音の静粛化魔法であった。一部の騒音だけカットし話し声などは変化無く伝えるフィルタリング機能をも有する、地味ながら極めて高性能な魔法である。

 

 エンジンとローター、機体にぶつかる大気による機体の振動はそのままだが、聴覚を害するレベルの騒音が消えただけでも乗り心地は格段に違う。

 

 

「ううむ、やはり燃料補給が確保できた暁にはヘリ部隊の運用要員にエルフとダークエルフの現地採用員を採用して各機に配置する案を狭間指令に具申せねば……」

 

 

 と唸るのは第4戦闘団団長の健軍一佐。今回の作戦に於いては動画配信用設備を含む各種通信機器を貨物スペースに増設、あとスピーカーも乗せたこの現地改修版空中通信管制型CH-47より作戦空域上空にて指揮を行うのが彼の役回りである。

 

 機外では指揮機であるCH-47JA改を中心に、周囲をAH-1に武装型UH-1J改といったガンシップが編隊を組んでいる。

 

 それらの乗員用スペースにも1機に着き1人ずつ、ダークエルフが乗り込んで同様の精霊魔法を行使しているから、約10機もの中大型ヘリが集まって飛行しているにもかかわらず、帝都の夜空は地上での戦闘音を除けば奇妙なまでの静けさが広がっていた。

 

 機材が並ぶスペースには通信管制を担当する通信科隊員と並び、テュカとロゥリィと同じくレレイもタブレット端末片手にヘッドセットを被るというスタイルで作戦に加わっている。

 

 ヤオは効率的な人員配置を鑑みた結果、別のヘリの担当に回されたので彼女の姿は大型ヘリの機内には無い。

 

 搭乗員が機体後部の大型ランプの開閉ボタンを押した。油圧式のランプが開いていくにつれて風が一気に吹き込み、静けさは激しい風の音に塗り替えられた。

 

 同時に眼下の戦闘音も明確に聞こえるようになった。

 

 何十もの激しい銃撃音に混じって微かに届くのは帝国兵が発した断末魔の悲鳴。

 

 ヘリが皇宮上空へと到達すると、足元に広がる夜の陸地がにわかに明るくなった。

 

 地上部隊によって煉獄と化した近衛兵駐屯地からは上空数百メートルを飛ぶヘリ部隊の飛行高度に達する程の激しい黒煙が立ち上っていた。

 

 上昇気流に乗って改造放火車がブチまけたナパームの燃料臭に、人体を含むあらゆる物体が焼ける異臭がヘリの中まで雪崩れ込む。

 

 

「うっ……」

 

「テュカ、大丈夫か?」

 

「うん……大丈夫。平気よ。ヨウジや皆の為だもの、我慢出来るわ」

 

 

 家族友人を炎龍に焼き滅ぼされた記憶がフラッシュバックしたテュカが吐き気を堪える様に口に手を当てるも、すぐに顔を上げて心配そうな様子の伊丹へ儚げな微笑みを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ワルキューレリーダー(健軍)より地上各隊へ。状況報せ」

 

『こちら大道具1(駐屯地強襲班)、所定の目標は完了。残敵掃討後友軍の援護へ向かう』

 

『こちら大道具2(皇宮担当班)。各分隊は担当地点周辺の確保を完了、封鎖線の構築ももうすぐ完了する』

 

 

 炎上する近衛兵駐屯地上空を通過すると機体の床1枚挟んだすぐ足元は皇宮だ。

 

 地球に存在すれば世界遺産認定間違いなしの荘厳な建造物が並ぶ帝国の象徴も今や戦場と化している。

 

 大道具2、もう1つの地上機甲部隊の役回りは帝都を取り囲む城壁に匹敵する高く強固な壁に取り囲まれた皇宮の封鎖である。

 

 玄関といった主要な出入り口に重武装の車両部隊を配置してバリケード兼機銃陣地とし、外部からの敵の援軍や皇宮内から逃げ出す者への対応が彼らの役目。地上の方々から聞こえてくる発砲音の出所が彼らであった。

 

 

「おい何だあのデカブツ!?」

 

 

 皇宮内から迎撃に出てきた警備兵に向かって64式小銃を射撃していた隊員が驚きのあまり叫んだ。

 

 慌てる部下に呼ばれた上官が部下の指差す先へ目をやれば、巨大な体高と全身を覆う角ばった装甲と相まってロボットアニメの雑魚敵役に出てきそうなジャイアントオーガーが、怪異使い達の指示を受け唸り声を発しながら隊員達を薙ぎ払おうとこれまた巨大な棍棒を振り上げて近付いてくるのが見えた。それも複数。

 

 これには上官も驚きを露わにする。存在自体は知っていたとはいえ、73式大型トラックをも軽々超えるサイズを誇るジャイアントオーガーの迫力は、直接目の当たりにすると驚嘆を覚えてしまうだけのインパクトだ。

 

 

「あんなのを皇宮内に配置していたのか?」

 

 

 纏う装甲の厚みは目算で2センチ前後か。歩兵の火力なら最低でも擲弾、完全撃破ならLAM(パンツァーファウスト)が必要なレベルだ。帝国軍の戦力としてはかなりの高脅威目標である。

 

 分隊を指揮する上官は考える。

 

 リアルロボ系の下手な二足歩行兵器と取っ組み合いが出来そうなデカブツにあれだけの装甲、それを纏って尚動き回れるのを考えると筋肉の層という第2の鎧も相当な物だろう。

 

 となれば50口径の連装でもかなりの弾数を消費させられる筈だ。しかも鎧だけでなく、同じぐらいの厚みを持つ盾も構えられては尚更である。

 

 実際、ジャイアントオーガーを発見した機銃座から12.7ミリ弾が巨大怪異へと降り注ぐも、ジャイアントオーガーは盾と鎧全体から着弾を示す激しい火花を散らしながらも歩みを止めない。一部貫通弾も出ているようだが完全撃破には中々至らない様子。

 

 足元の帝国兵も砕けたり跳ね返ったりした銃弾と鎧の欠片で若干の被害を出しつつ、ジャイアントオーガーを矢面に出して自衛隊員からの銃撃を凌いでじりじりと距離を詰めつつあった。

 

 仮にあの巨体に取り付かれてしまえば73式やMRAPでさえもひっくり返され封鎖線は崩壊するだろう。

 

 

 

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 LAMも相当数を持ち込んではいたが、もっと手っ取り早くてデカブツにも歩兵にも有効な代物の存在を上官は思い出した。

 

 

「ガンタンクをこっちにまわせー!」

 

 

 上官が無線で呼びつけると、連装重機関銃座搭載の73式トラックの陰から別の73式がバック運転で姿を現した。

 

 その73式の積み荷もまた機銃であった。見た目も座席型回転ターレットの両サイドにM2重機関銃を左右2門搭載した機銃座に近い……が、全体的なスケールと延びる銃身、何より銃口を超えた砲口と呼ぶべきサイズはこちらの方が上だ。

 

 その正体はエリコン社製90口径35ミリ対空機関砲という。

 

 元々は87式自走高射機関砲の主砲であるそれが何と砲塔ごと73式大型トラックの荷台に搭載されているのだ。

 

 第2次アルヌス攻防戦においてアルヌス駐屯地に配備されていた87式がゾルザル派の潜入工作員とダーによって運用人員ごと攻撃を受けてしまい、その内自走に不可欠な車両の駆動系周りに被害を受けはしたがが砲塔部分は使用可能な車両が何台か存在した。

 

 そこからもったいない精神を発揮した整備部隊により無傷の砲塔を再利用する案が浮上。DIY重機関銃座の親玉じみた35ミリ対空機関砲搭載73式トラックの誕生に至ったのである。

 

 本来は空自の事前空爆を免れた竜騎兵が存在した場合に備えて開発・投入された代物だ。何せ竜騎兵が運用する翼竜は12.7ミリの徹甲弾でようやく防御の薄い腹部を突破できるという防御能力を持つ。

 

 第2次アルヌス攻防戦において高射砲部隊は運用兵器のみならずそれらを運用する人員にも甚大な被害を出している事から、運用要員の削減を図るべく操作系統にも大幅な手が加えられている。

 

 具体的には砲塔のRWS化だ。砲塔内には入らず73式トラック側の助手席に増設したディスプレイとコントローラーを射手役の隊員が操作する。

 

 M2重機関銃よりもずっと太く、長い砲身が機敏な動きで旋回。その砲口を迫るジャイアントオーガーと帝国兵へと向けた。

 

 

「火線上より退避!」

 

「退避よーし!」

 

 

 上官の指示を受けて自衛隊員達は一斉に35ミリ機関砲から大きく距離を取り、他の車両の陰へと身を隠した。

 

 35ミリ砲の発射炎は12.7ミリよりも更に凄まじく、生身のまま近くに突っ立っていたら窓ガラスや木々の枝葉を軽く粉砕するレベルの衝撃波に巻き込まれる羽目になる。急激な圧力変化対策に耳を塞いで口を開けておく事も忘れない。

 

 

「射撃よーい……てーっ!」

 

 

 世界を引き裂くような轟音が空気を塗り潰した。

 

 35ミリ機関砲の砲口が砲弾と共に吐き出した発射ガスの量が膨大だったせいで、刺激的な火薬臭漂う白煙によって搭載車両の周囲が包み込まれた。煙を浴びた一部の隊員が咳き込んでしまったぐらいだ。

 

 ジャイアントオーガーの表面で12.7ミリの着弾を遥かに上回る爆発が連続した。徹甲榴弾の着弾による炸裂。爆圧と破片が嵐となってジャイアントオーガーとその足元の帝国兵にまとめて襲い掛かる。

 

 弾頭重量も発射薬の装薬量も歩兵用弾薬とは比べ物にならないその威力は、命中した部分周辺を鎧諸共ゴッソリ吹き飛ばすという形で現れた。

 

 複数体のジャイアントオーガーは鎧と一緒に瞬く間に原形を失った。その足元にいた帝国兵達は直撃こそ受けずとも、弾頭に装填された炸薬が生み出した爆圧と爆散したジャイアントオーガー共の鎧から榴散弾へと変貌した破片によってズタズタに引き裂かれていく。

 

 人体に35ミリ弾が直撃していたら命中した人物はそれこそ風船よろしく弾け飛んでこの世から消滅していたのは間違いなく、手足が胴体に付いたままの死体が残っているだけ帝国兵はまだ運が良いと言える。

 

 一部の砲弾は攻撃目標が消失した結果、その背後に存在した皇宮へと着弾。当時の職人によって刻まれた精緻なレリーフごと大理石製の壁面が打ち砕かれ、拳大の破片が降り注いだ先に居た帝国兵が悲鳴をあげた。

 

 ほんの数秒間の斉射で複数のジャイアントオーガーを含む帝国兵部隊は全滅に近い半壊状態と化した。35ミリ砲弾の嵐を生き延びた帝国兵も自衛隊側の歩兵によって掃討されていく。

 

 

 

 

 特に激しい銃撃音を響き渡らせている確保地点の上空を、伊丹達を乗せたヘリが通過していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降下準備! 魔法解除、下に居る連中を驚かせてやれ!」

 

 

 降下地点――――皇宮・南宮近くまで到達したCH-47改が高度を下げ始める。

 

 この南宮に今作戦の第1目標――――ゾルザルが居る。

 

 同時に各機を覆っていた精霊魔法が健軍からの合図によって解除された。途端に南宮一帯は皇宮各所から響く戦闘音を掻き消さんばかりに轟くプロペラの羽音の大合唱に覆われた。

 

 南宮に配置された警備の帝国兵は、戦闘音や駐屯地から立ち上る炎と黒煙でただでさえ浮き足立っていたところへ、突如空気を震わせながら舞い降りてきたヘリ編隊が出現した事で度肝を抜かれる形となった。

 

 他の武装ヘリも高度を下げ、右往左往する帝国兵へ威嚇するように旋回し、時折搭載した機銃で蹴散らして回る。

 

 

「これぇちゃんと映ってるのぉ?」

 

「大丈夫。ちゃんと『カメラ』からは映像が送られてきている」

 

 

 ロゥリィが龍の鱗でコーティングされたフルフェイスヘルメットを抱え、こめかみ部分にマウントされたアクションカムのレンズを覗き込みながら疑問を口に出すと、タブレット端末でアクションカムから配信される映像をチェックしていたレレイがそれに答えた。

 

 ゴスロリ亜神が持つそれを伊丹は受け取ると手の中でひっくり返して頭に装着。コンコンとヘルメットを叩いて収まり具合を微調整する。

 

 この際伊丹の顔が大写しになり、そのまま視点が移動した事で、中継を見ている者達へカメラからの映像が伊丹の視線を流しているのだと周知される形となった。

 

 一人称視点の映像の中で、視界の主である伊丹は次に機内の壁に立て掛けてあった大型のバックパックを背負い、そこから伸びる金属製のレールを歪な形状をした機関銃の右側面へと接続した。

 

 左側面から生える手動装填用のボルトを後退させ初弾を装填。

 

 後部ランプへ向かう。今回は垂直降下(ラペリング)用のロープや低高度用パラシュートは必要ない。

 

 高所恐怖症の()がにわかに頭をもたげそうになるが、それを押し殺す事にもとっくに慣れてしまっていた。

 

 隣にロゥリィが立つ。極短時間で瞬く間に積み上がって行く帝国兵の死を感じ取っていた彼女の唇は、血と殺戮を求めて既に黒を帯びた紅に染まっていた。

 

 そのすぐ後ろで、テュカとレレイもそれぞれ愛用のコンパウンドボウと魔導杖を手にして控えていた。

 

 伊丹とロゥリィは地上に降りて戦闘に参加。残る2人は機内に残ってそれぞれのやり方で援護を行う。

 

 

「まったくお姫様も俺なんかに無茶な役回りを押し付けてくれたもんだ……!」

 

 

 こんな時こそだからか、ついつい伊丹は愚痴をこぼしてしまった。耳に届いたのか、ロゥリィが愉快そうに笑みを浮かべた。

 

 

「伊丹2尉! 武運を祈る!」

 

「ヨウジの事任せたんだからねロゥリィ!」

 

「……指示と援護は任せて」

 

『此の身も空より御身の手助けを!』

 

 

 健軍の、テュカの、レレイの、無線越しにヤオの声援を受けた伊丹は掲げた拳の親指を立てる事で少女達に応じた。

 

 攻撃ヘリの護衛を受けながら、CH-47JA改は予め降下地点に定めた中庭上空でホバリングに移行する。

 

 

 

 

 

 

 

 それに伊丹が気付いたのは偶然だった。

 

 明らかに混乱状態の帝国兵がそれでも四方八方からヘリ部隊を迎撃すべく中庭へ出現する中、その流れに逆らうように集結している一角が視界に引っかかる。

 

 そうだ、あの建物に、確か。

 

 注目していた建物の扉が勢い良く開かれたかと思うと、別の帝国への集団が飛び出してきて、その集団の中心にたった1人明らかに違う豪奢な衣装を纏った男の手には無線機が握られていて――――

 

 反射的に、伊丹は無線を繋いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

ゾルザル・エル・カエサァァァル!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリの爆音の中でも伊丹の声は無線機を介してゾルザルの下へと届いた。周囲を兵に守られながら逃げ出そうとしていたゾルザルが足を止める。

 

 手にしたままだった事に今頃気付いたような態度で手元の無線機を見下ろしたかと思うと、周囲に視線を走らせ始め……ゾルザルもまた伊丹の存在に気付く。

 

 最初、ロゥリィと並んでホバリングするヘリのハッチに立つのが伊丹だとゾルザルは気付かないそぶりを見せた。今の伊丹はフルフェイスヘルメットで顔を隠しているから仕方のない事ではあった。

 

 だから分かりやすく無線の応答ボタンへと見せつける様に手を当ててもう1度、自然と硬く、冷たく、鋭さを帯びていく声で呼びかけてやる。

 

 

「こうして話すのは玉座の間以来になるが、俺の声を覚えているか?」

 

 

 途端、ゾルザルの目がカッと見開かれ、伊丹が乗ったヘリを指差しながら、帝国の最高権力者の座を手にした筈の男は2歩3歩と後ろにたじろいだ。その顔に浮かんでいる感情は恐怖だった。

 

 あの男のせいで多くの自衛隊員とアルヌスの住民が犠牲になった。

 

 殺し殺されは兵士稼業の宿命であると覚悟はしているが、それでも超えてはならない一線というものがある。

 

 ゾルザルはそれを踏み躙った。民間人を狙って巻き込む事で無防備な隊員の背中に襲い掛かり、兵士も民間人も区別無く殺し回るよう命じた。それが許せなかった。

 

 

 

 

 それはまるで――――()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 だからこそ、こういうのは自分のガラではないと伊丹自身自覚しつつも、冷静な思考と相反して煮え立つ感情に駆り立てられて宣戦布告の言葉をゾルザルへと叩き付ける。

 

 ちなみにこの無線交信もしっかりとリアルタイムで中継に流れているのだが、この時は伊丹もゾルザルも気付いていなかった。

 

 

「今日ここで死ぬ覚悟は充分か。お前にとっての死神が今から向かうぞ……!」

 

 

 再び伊丹を指差して喚き出したゾルザルの声はヘリの羽音と戦闘音に紛れて聞こえはしなかったが、何を叫んでいるかの見当は付いた――――何をしている。早くアイツを殺せ!

 

 

「英雄殿の出陣だ! 最高の曲で送り出して差し上げろ!」

 

 

 健軍のその言葉を合図に、彼の部下がコンポのスイッチを入れた。

 

 ボリュームを最大にセット。それはイタリカで第4戦闘団のヘリコプター部隊が初陣を飾った時の焼き直しであった。

 

 あの時流れた曲は戦乙女を題材にしたベトナムのジャングルが似合いそうなクラシックの名曲であったが、今回は別の曲を健軍達はチョイスしている。

 

 大音量でまず流れたのはバズドラムによる力強い鼓音。

 

 それは19世紀頃に作曲・演奏された曲でありながら、ヘヴィメタルを思わせる激しさとクラシックに相応しい荘厳さを兼ね備えた、歴史に名を刻む一大葬送歌(レクイエム)

 

 

 

 

 

 

Dies iræ(怒りの日), e-e-e-e-e-eea-eea-eea-e-e-a!≫

 

dies illa(今日こそその日), e-e-e-e-e-eea-eea-eea-e-e-a!≫

 

 

 

 

 

 

「アルヌスでの礼を返しに行こうか……!」

 

「ええ、それじゃあ逝っくわよぉ!!」

 

 

 

 

 そして伊丹とロゥリィは、命綱も無しにヘリから敵地のど真ん中へ飛び降りたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『御怒りの大いなる日が、既に来たのだ。誰がその前に立つ事ができようか』 ――黙示録第6章

 

 

 




この曲は別バージョンですがWaWでも使われてたのでずっと自分も使って見たかった…!


感想お待ちしております。

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