GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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タイトル通り準備回です。


前章:Parabellum/戦闘準備

 

 

 

 

 

<準備期間>

 特地派遣残留部隊

 ファルマート大陸・帝国各所

 

 

 

 

 

 

 

 そうして取り残された者達は自らの生存を賭けて動き出す。

 

 

「方針は決まった。ならば次は作戦計画の詳細を詰めていくとしよう」

 

「動かせる人員を使って宮殿周りの情報を片っ端から搔き集めさせますわ」

 

「では我々は手元の装備で使えそうな物をリストアップしてきます」

 

「妾にも何か出来る事があれば言ってくれ」

 

「ではピニャ殿下には宮殿内から上がって来る情報の裏付けと、それから外からでは分からない宮殿内部の構造について教えて頂けますか?

 侵入に最適な部分、皇族しか知らない秘密の脱出路、警備兵の詰め所……とにかく役に立ちそうな事であれば何でも構いませんので」

 

「うむ任せろ」

 

 

「狭間司令。本作戦は何と呼称しますか?」

 

「そうだな……プライス一尉。些細な願掛けではありますが、幾つもの困難な作戦を達成してきた貴方に名付けて頂きたいのですが構いませんかな?」

 

 

 

 

 

 

「――――キングスレイヤー。血まみれの王を殺すんだ、これ以外に相応しい名前などなかろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――悪事を千里走らせる――

 

 

 

 

 

 

 悪所街でも最上級と称される娼館を兼ねた高級酒場、その中でも選ばれた客しか座る事を許されない貴賓席に悪徳を一手に引き受けるスラムの顔役――ゴンゾーリ、メデュサ、パラマウンテが勢揃いしていた。

 

 彼らを呼び出したのは自衛隊の悪所街事務所を仕切る新田原三佐だ。

 

 

「話は聞いてるぜ、ジエイタイの旦那さんよ。お宅らの塒があるアルヌスが大変な事になってるそうじゃあねぇか」

 

 

 虎の獣人種、パラマウンテが不遜に言葉を投げかけるが新田原を見つめる眼光は鋭く、毛皮に覆われた顔は隠し切れない緊張を孕んでいる。 

 

 アルヌスの陸空で繰り広げられた激しい戦闘から数週間が経過している事もあり、人伝い口伝いで広まった事の顛末は帝都の市民の間にも知れ渡っていた。

 

 どこまで正確なのかはさておき、表裏に様々な伝手を持つ裏社会の顔役である彼らは、自衛隊がこの度の戦闘でかなりの被害を受けた事も掴んでいた。だが同時に彼らは、ベッサーラの手下を根こそぎ蹴散らした挙句屋敷も派手に吹き飛ばした事も忘れていなかった。

 

 弱みを見せまいと敢えて挑発的な態度を取りつつも本心はベッサーラみたいに自衛隊の怒りを買いたくない、だが今後の動向も気になる……そんな内心を正確に読み取った新田原は、パラマウンテの態度は敢えて見なかった事にしていきなり本題を告げた。

 

 

「単刀直入に言わせてもらおう――そちらに儲け話がある。報酬も弾もう。

 何安心してくれ、依頼の内容も至極簡単な内容だ。情報を幾つか広めてくれればいい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――灯台下暗し――

 

 

 

 

 

 

 

「よもやよもや、やなぁ」

 

「こういうのを瓢箪から駒と言うのでしょうかね」

 

「それか海老で鯛が釣れたってところやな」

 

 

 書類を覗き込んでいた今津と部下は顔を上げると揃えたかのように感嘆の吐息を発した。

 

 書類の内容は波形と数字とモザイク状の画像が並ぶ、一目見ただけではさっぱり内容が読み取れないデータの羅列に過ぎない。

 

 だが適切な知識と適切な分析能力を持つ専門家による翻訳が加わる事で情報の価値は一変する――――

 

 

「まさかピニャ殿下から情報提供して頂いた皇族専用の隠し地下通路を捜索していたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは……」

 

「ピニャ殿下の話では案外皇宮ではその手の噂話は珍しくなかったそうだからな。時の皇帝の名によって何百年にも渡り皇宮の増改築が繰り返し行われていたそうだし、当時の支配者が自分だけの秘密の脱出路を構築しては次代が封印してを繰り返された結果忘れされられてしまった地下空間……

 それをハリョが見つけて自分達の住処に仕立て上げた。そう考えていいだろう」

 

 

 今津ら第2科のメンバーの反応から分かる通り、ハリョの地下拠点の発覚は完全なる偶然の賜物であった。

 

 ピニャから教えられた皇宮地下に設けられた皇族専用の秘密の脱出路。宮殿の敷地外まで延びている抜け穴の存在は地球でも数々の城で発見されていた歴史を踏まえ以前から想定されていた。

 

 その内でピニャが把握していた地下通路への入り口―皇宮から見た出口―を探し当てた偵察部隊はレーダー波により地下構造を調査する為の機材一式を持ち込んでいた。どれだけ放置されていたか定かではない地下トンネルに崩落の危険性などが無いか確認しておく為であった。

 

 するとなんと、トンネルの壁面を構成する岩盤の僅か1メートル向こうにも空洞が存在するという解析結果が出てきたのである。

 

 調査を担当した部隊は追加調査を試みた。小型削岩機で人差し指程の直径の穴を開け、記録機能搭載型モニター付きファイバースコープを設置。

 

 岩盤を挟んで向こう側の地下通路は明らかに今でも頻繁に何者かによって利用されていた。壁には灯りが点り、地面に真新しい足跡が残されていたからである。

 

 調査部隊は距離を開けて更に数か所同様の穴を穿つと、記録モードで極細のカメラを穴に残して一時撤退した。灯りと言っても陽光届かぬ地下通路は灯明皿や燭台程度の光量では未だ大分暗く、壁に生じた指先程の穴とそこに通した超小型カメラなど目を凝らしても早々気付かれない。

 

 その後回収したカメラの記録映像には如何にも人目を忍ぶ身なりの荒んだ雰囲気を纏った亜人が複数名且つ複数回、通路を利用する姿が記録されていた。

 

 撮影された者の中にはアルヌス駐屯地で破壊工作を実行している姿を監視カメラに記録され、捕獲・無力化(殺害)される事無く逃亡を遂げたノッラの姿もあったのだ。

 

 どう考えてもクロである。皇宮襲撃の作戦目標にゾルザルと協力関係にあるハリョの排除が追加された瞬間であった。

 

 

「これまで確認された地下通路の利用者は約40名。純粋なヒト種の特徴を持つ者は確認されておりません」

 

「未発見の通路を利用している可能性もあるな。連中が利用してる通路はどこまで繋がってるのかは判明しているのか?」

 

「出口の詳細な位置は別でしょうがピニャ殿下から情報提供された通路と同じく皇宮の地下に達しているのは間違いありません」

 

「その根拠となる情報は?」

 

「皇宮内に料理人として潜入中の隊員(古田)によるヒューミント(人対人諜報活動)及びシギント(電子的諜報活動)情報です。彼が接触したゾルザルの側近を務めるヴォーリアバニー、人物名テューレに仕掛けた盗聴器がボウロなるハリョの頭目と思われる人物とのやりとりを傍受しました。こちらがやりとりを書き起こした物になります」

 

 

 聞き覚えのある名前に分析担当の隊員は訝しげに眉を寄せた。

 

 

「……テューレなる人物は確かヴォーリアバニーの部族を率いていた元女王だったか」

 

「己の身柄と引き換えに部族を保護する約束を一方的に破られ奴隷にされた元女王が、素直に元凶であるゾルザルを支える側近として勤めると思います?」

 

「そんなわけあるか。テューレとボウロがどのような経緯で手を組んだのかは知らないが、このやりとりだけでゾルザルとは別の思惑で動いているのは明らかだろ」

 

「どちらにせよボウロ達もゾルザルと同じく先日の襲撃に深く関与している共犯であるのは間違いない以上、我々が排除せねばならないHVT(高価値目標)として認識すべきだ」

 

「当然だな――連中はやり過ぎた」

 

「今津一佐。地下空間は狭く、至近距離の遭遇戦が想定されます。大規模な戦力投入が不可能な点と特殊な環境下での掃討任務となる事を考慮し、特戦群の投入を具申します」

 

「ワイの方から狭間司令に伝えとくわ」

 

「トンネルネズミの真似事ですか、ゾッとしませんね」

 

「そやけどこれは闇の中に隠れとる連中を根こそぎ刈り取る千載一遇のチャンスでもある。ゾルザルの事もひっくるめてこの一撃で終わらせるんや。敵の穴倉の中に送り込まれる彼らの為にも、継続して出来る限り地下空間の情報を集めるで。ええな?」

 

『ハッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――龍に翼を得たる如し――

 

 

 

 

 

 

 

 

「既に話は聞いております。帝国にとって恐怖の象徴となる伊丹二尉に相応しい装備を用意しました」

 

 

 各種兵器の整備・補給・回収・輸送等を一手に引き受ける後方支援部隊の陸曹が作業台の上に置いたのは、一見するとレーシングスーツと警察の機動隊が着用する暴動鎮圧用防護装備が合いの子となったような代物だった。

 

 観察してみると強靭そうな素材の布地の表面を大小様々な鱗状のパーツがびっしりと覆っていて、他の装備を上から着込んだ際に細かなそれらが浮き上がって引っ掛かりを起こさないよう曲げ伸ばししても布地にフィットする処理も行われている。

 

 

「……何これ」

 

「武器科の有志とアルヌスの街の職人の協力を得て作成しました。防御性・運動性・耐久性・衝撃吸収能力に優れたバイク用レーシングスーツをベースに各部を過去の戦闘で確保、もしくは鱗の採取販売事業を手掛けていた地元住民より供与された翼竜の鱗でコーティング。

 被弾時致命部位(バイタルパート)には上の許可も得て、試作品とは違い基地に保管されていた炎龍と新生龍の鱗も使われておりますので、これにより現行のボディアーマーと比較しても数分の1の重量でありながら理論上では非貫通能力に限れば機関砲弾クラスでも耐えるまでの性能となりました」

 

「はぁ? つか、炎龍の鱗まで使ってんの!?」

 

 

 思わぬ単語に伊丹の口から素っ頓狂な驚きの声が飛び出した。すると陸曹の後ろに控えていた現地住民――ドワーフの職人が髭面に分かりやすいドヤ顔を作った。

 

 

「おうよ。寝床も仕事場も帝国軍どもに焼かれちまったのには参っちまったが、神殿か宮廷の専属職人でも滅多にお目にかかれない古代龍の鱗をふんだんに使って英雄様が纏う防具を仕立てさせて貰ったとなりゃ、子孫代々まで言い伝えられる自慢話になるってもんだ!」

 

 

 未だ当時の傷が治りきっていないのか額にガーゼが貼られているにもかかわらず、樽のような体格という表現に相応しい分厚い胸板を自慢げに張るドワーフの顔色は達成感で生き生きとしている。

 

 

 

 

 

 パンツァーファウスト(LAM)3を被弾したものの、実質的な致命傷は眼球を貫通後眼窩内で炸裂した12.7ミリ爆裂徹甲焼夷弾(HEIAP)による頭蓋内部の破壊であった炎龍の死体。

 

 落下時の損傷を差し引いても命を奪うのに至ったのが体格に比して極めて小さい傷であった為、その死体から確保された鱗は大半が傷や欠けの殆ど見られない極めて品質の高い物が大量に採取出来たのである。

 

 一部は研究用に日本へ運び込まれたが、それを差し引いてもジャンボジェットに匹敵する巨体の全身を覆っていただけにその量は膨大。むしろC4のゼロ距離起爆で撃破された2頭の新生龍の方が損傷が激しく、まともに残っていた鱗の量も少なかった位だ

 

 参考ながら、第1次アルヌス攻防戦で対空陣地に撃破された翼竜の死体から確保出来た鱗の量は損傷・サイズ不適合の規格外品除き2体で200枚程度である。

 

 ちなみに今後の基地運用費の確保手段として大量に保有する炎龍の鱗をマーケットに流すという案も司令部で議論されているとか。

 

 あと(この前に試作品もあったって事は、さては『門』が無くなる前々から作ってたなこの人達……)等と勘付く伊丹だったり。

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 

「でもそれってさ、貫通は防いでも衝撃までは防げなくて着てる人が結局酷い事になるパターンなんじゃないの?」

 

「否定はしません。衝撃吸収能力自体にも限度はありますからね。ですが火砲技術が存在していない特地では神話に匹敵する防御性能なのは間違いありませんよ。

 防御が薄くなりがちな関節部もケブラーと翼竜の被膜を複数層重ね合わせてありますから斧でも通しませんのでご安心を」

 

 

 地球と特地の技術が融合したドラゴンスケイルアーマー(全身タイプ)とでも呼ぶべき代物の説明を終えた陸曹は身を屈めると、作業台の下から異様な形状のヘルメットを取り出して台上に置いた。

 

 顔まで隠すフルフェイスタイプのヘルメットだ。ご丁寧にペイントで隈取りまで施されている。

 

 

「ローニン社のバリスティックヘルメットを参考に制作しました。これにも龍の鱗による防護処理を施してありますから以前二尉殿が受けたようなバリスタが直撃しても今度は貫通を許しませんよ。

 目の部分は拳銃弾まで阻止できるライオットシールドと同等のポリマー素材で保護してあります。敵への威圧と恐怖心を駆り立てるペイントはおまけです」

 

 

 他にも同様の改造を施したグローブ・ネックプロテクター・ブーツまでもがズラリと作業台の上に並べられた。

 

 

 

 

 

 全ての品物の紹介を終わらせた時の陸曹達の顔は、それはそれは達成感に満ちたものだったと、後に伊丹は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――弘法の筆を選ばせる――

 

 

 

 

 

 防具の次は武器である。

 

 この度の作戦における伊丹の武器係を担当するのは特殊作戦群の武器係であり、所属から分かる通り海外以前の所属における伊丹の同僚(と言っても顔見知り程度の関係)だった礼文陸曹であった。

 

 

「幸運にも今回の伊丹二尉の役柄に相応しい品物が見つかりましたので是非こちらをお使い下さい」

 

 

 直前の焼き直しが如く作業台の上にガチャガチャと金属音を伴いながら重い音を立てて乗せられた代物に、伊丹は困惑と驚きが入り混じった表情となった。

 

 

「こいつは実際に目にするのは初めてだわ。一体どっから持ってきたのこれ?」

 

「『門』が崩壊する直前にプライス特務一尉が運転していた敵の輸送トラックに積まれていた積み荷の中から発見されたものです。

 どうやらそのトラックは武器弾薬の輸送に使われていたようでして、この他にも拳銃から重機関銃に果ては対物火器に至るまで、ロシア製のみならず西側各国の製品を含む様々な銃火器が弾薬と一緒に満載されていました」

 

「あー。マカロフん所(インナーサークル)も武器に関しちゃ西も東も関係無しに扱ってたからな。銀座を襲ったバルコフとやらもそれを受け継いでたのかもねぇ」

 

 

 テロリストの代名詞のAK(カラシニコフ)から米軍の現役採用銃であるM4ライフル、珍しい物では西側でも特殊部隊向けにしか出回っていないMP7・PDW(個人防御火器)やAA-12という性能が尖り過ぎて採用国が無いフルオート連射可能なショットガンまで入手していたかつての仇敵を伊丹は思い出す。

 

 デルタ上がりの米国側諜報組織実働要員とペアを組んで占領当時の銀座に潜入したユーリによればバルコフの兵隊はロシア軍でも採用されたばかりのASh-12.7ブルパップライフルまで運用していたそうだ。

 

 対物火器クラスに匹敵する12.7ミリもの特殊な大口径弾を使用する()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 大口径至上主義に定評のあるアメリカ人も顔負けだ。恐るべし露国面。

 

 

「1つ1つの中身を精査していく度に姿を現す数々の最新銃器……まさに天国のような一時でした」

 

「そ、そうか」

 

「ちなみにこちらの装備には『コヤンスカヤ』と自分が命名しました」

 

「タマモ属ですね分かります」

 

 

 ※後に公式で否定されますが彼らはまだ知りません。

 

 どこぞの人理継続保障機関所属のマスターでなければ分からないようなネタを交わすオタク2人はさておき。

 

 礼文は()()()()に使う弾薬を専用ケースごと作業台の上へ並べた。

 

 次から次へと山積みにされるそれらは旧ソ連方式のベルトリンクにより数珠繋ぎにされた状態で鈍い光を反射した。西側のベルトリンク式弾帯は発射後排莢時に分解される一方、旧ソ連式は発射後薬莢だけ弾帯から弾き飛ばされ、ベルトリンク自体は分離されずひと繋がりになったまま銃機関部の外へ押し出されていく仕組みとなっている。

 

 作業台に並べられた分だけで歩兵1個分隊(4名)相当が作戦時携行する量に匹敵する規模の弾薬量だったが、伊丹は他に良さそうな武器はあるかと礼文に追加を求めた。

 

 

「そうだな、1発が強烈な破裂モノが使えるヤツが欲しいな。最低でもグレネードランチャー付きのライフルか、出来れば連射可能なランチャーがあればありがたいんだけど」

 

「……想定される敵の規模が規模なのは存じていますが、これだけでも相当な重りとなりますが二尉は大丈夫なので?」

 

「数が数だからこそ、さ。敵が大勢待ち構えてる中に斬り込んで暴れ回るのに武器と弾が多過ぎて困る事は無いよ。前に似たような事をした時よりも防具が軽くて済む分、武器と弾に余裕を持たせときたいしね」

 

「前、というのは例の『銀座事件』の時の話で?」

 

「いや更にその前(アラビア半島)

 

「いつかその話を詳しく聞かせて頂きたいものですね」

 

 

 そう言いながら、要望の武器を取りに礼文は武器庫の奥へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――芸は身を助く――

 

 

 

 

 

 

「ありったけ搔き集めてきました。日本側に撤退してそのままになってた隊員の私物まで掻っ攫ってきましたよ」

 

「よし、スピーカーはこれで十分だろう。カメラの方はどうなってる?」

 

「こちらも数は充分です。問題はリアルタイム中継を行う為の中継局ですね。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけですから、我々が使い慣れた野外通信システムの設定をするのとは訳が違いますよ。

 通信科や以前広報官やっててネット向けにこの手の動画作成に携わってたようなこの手のシステムに精通した人員も、ここじゃ人手不足ですからね。カメラ自体も機能設定やメンテを行う必要もありますので、システム全体の構築とチェックにはもうしばらく時間が必要です」

 

「その件に関してだが、偵察班や他部隊(よそ)の隊員にその手の趣味を持つ者が何名か混じっているそうだから彼らを借りれないか掛け合ってみよう」

 

「頼みます。今は猫の手も借りたいところです。何なら残ってる部隊全体に募集をかけて欲しい位ですよ」

 

「スピーカーの類は健軍一佐達に任せてしまおう。地獄の黙〇録ごっこしたさにわざわざ専用のコンポを用意してヘリに乗っけてるような連中だ、彼らには楽な作業だろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――創意工夫、或いはコペルニクス的転回――

 

 

 

 

 

 

 

「こんなの無茶ですよ!」

 

 

 改造案を見せられた特地派遣部隊の機甲部隊の整備・改修を手掛ける整備部隊の責任者は堪らず悲鳴を上げた。

 

 彼が見せられたのは74式戦車を特地仕様に改修と称して米軍から供与された市街地戦用キットや追加装甲を取り付けるといった、云わば車両本来の役割を補強するに過ぎなかったこれまでの内容とは真逆の、まったくの正反対の役割へ転換する為の改造計画であった。

 

 その計画表を見せた柘植二佐―第1戦闘団団長であった加茂一佐が銀座側に出撃したまま『門』が崩壊した為、現在は彼が2代目団長として残存戦力を統率している―は真面目腐った表情を保って滔々と責任者を説き伏せにかかる。

 

 

「無茶ではないぞ。構造や機能そのものに大規模な改造を施す訳ではないからな。搭載する中身を変更して上手く流れるよう調整を施し、車体に幾らかの装甲を追加して末端部分にも幾らかの改造を加える――簡単な作業さ」

 

「そんなわけないでしょう!? 本来の想定とは全く別の液体が流れ込めば内部からの圧力や負荷も変動して故障の原因になるに決まってるでしょうが! コイツでそんな事が起きれば出なくなるだけならまだマシで、最悪炎が配管内部を逆流して周りの友軍ごと火達磨になりかねませんよ!」

 

「生憎これは俺よりも(狭間司令)からの命令でもあるんだ。改良すべき点があればそちらの裁量で自由に手を加えて構わんから、とにかく使い物になるレベルに仕上げてもらいたい。

 コイツが作戦に投入できるかどうかで、今後の我々に対する現地勢力の認識が大きく変わってくるのは間違いないからな」

 

 

 有無を言わさぬ上官の注文に込められた重要性を同じく理解していた責任者は、やがて諦めた様子で肩を落とした。

 

 

「……ハァ、了解です。

 ですが()()によりにもよって()()()()()を行うなんて、何だかバチが当たりそうですね」

 

「今更バチの1つや2つ恐れてなんぞいられんさ。我々は今や背水の陣に置かれている以上、手段を選んでいられる余裕なんて残されていないのだからな。

 ああそれから絵心がある奴に頼んでノーズアートのデザイン案を出すようにも言っといてくれ。とびっきり迫力のあるドラゴンの絵を頼むぞ」

 

「伝えておきます。しかし今回の作戦についてはこちらも耳にしてはいますが、カメラにアンプに移動中継車おまけに車両を仮装させて持ち込むなんて、軍事作戦というよりは映画の撮影準備をしている気分になってきますよ」

 

「今回の作戦はどれだけハッタリと演出で観客の度肝を抜かせられるかが勝負なんだ。そういう意味では、確かに映画の撮影に似ているのも当然だろう」

 

「言えてます。おまけに中東かアフリカの民兵みたいな真似事までやってるときてる」

 

 

 整備部隊の責任者は自らの城である整備施設をぐるりと見回した。

 

 彼の視界にまず()()()()()()()()()()()()()()()が目に入り、その奥ではバルコフの部隊から鹵獲された2両のBTR-80(内1両は戦闘時に破壊されたハッチが取り外されている)と障害物排除用の楔形ブレードを備えた改造タイフーン装甲車に整備部隊の隊員らが取り付いて改造を施している。

 

 更にその奥では複数台の73式大型トラックが隊員が操るクレーンによって幌付の荷台部分が車体から外され、空いたスペースへ新たな機材を取り付けられていた。

 

 荷台部分を交換する事で別の役割を持たせるという利用法は民生品・軍用品問わずこの手の大型車両ではよくやるやり方だが、今回彼らが行おうとしている改造は云わばひとつの()()()()だ。

 

 

「他の車両の改造案はそちらに一任するとしていたが、具体的な内容を教えてくれ」

 

「では並んでいる車両から順番に説明していきます――――」

 

 

 責任者は改造真っ最中の車両の列へと歩きだし、柘植もそれに続く。その際柘植は手にしていた改造計画書を近くの作業台の上に投げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画書の添付資料にはこう書かれている――――『参考兵器:チャーチル・クロコダイル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『汝平和を欲さば、戦への備えをせよ』 ――ラテン語の警句

 

 

 

 




次回、作戦開始。



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