特典持ちなのに周りが化け物ばっかでつらい件について 作:ひーまじん
「ねーねー、そーくん!こんなのはどうかな!?」
朝一番に机の上に広げられた設計図を見て、俺はがくりと肩を落とした。
先日から篠ノ之の手伝いをさせられているのだが、こうして朝から設計図みたいなのを書いた紙を机の上に広げてくる。
これでもかなり自重が入っていて、最初は普通にパソコン持ってきた上に授業中だろうが御構い無しに俺の横に待機、俺が首をかしげるような部分があったら即座に解説を入れるという、やはり周りそっちのけな事をしていた。俺と織斑の説得というか説教の元、やっとアナログ的な設計図になり、解説も俺が聞きたい時限定になった。
「……銃器の類は……まあ出来なくはない。でも、ビームは出せないぞ」
いや、出せなくはないんだが……それは魔力頼りだし。科学的なビームはちょっと専門外。銃器の類ってだけでも魔力消費が著しい上にものすごい集中力が要求される。
「そっかー……じゃあ、こっちは?」
「これなら出来る。ギミックを再現するのには、もう少し理解するのに時間が欲しいな」
「ん、わかった。じゃあ、また放課後にねー!」
そして、これを渡しては学校から去っていくのが篠ノ之スタイル。こればかりはどうにもならなかった。一応授業に出るようにとは言ったんだが、『受ける意味がない』と言われたらもうどうしようもない。テストは全部百点だし、終いには教師を論破するためだけに教科書の全ページの内容は覚えてるとか言ってた。
最初は俺が来たからって真面目に来てたんだけどなぁ……ま、わかりきった結果ではあるが。
……しかし、件のズレてる奴と仲が良いわけだから、周りからは『
不服極まりないが、これも仕方のないことなので目を瞑る。一概に俺は無関係だなんて言えないわけだしな。というか、このクラスに馴染む?キッカケみたいなのもあの二人のお蔭というのもあるので、それを考慮するととんとん……でもないな。
「篠ノ之さんと仲良いねー、天城くん」
「それ何?何かの計画書?」
「まぁ、そんなところ。篠ノ之との約束なんだ」
「へ〜、いいなぁ。篠ノ之さん」
「え?何が?」
「天城くんを独り……あ、織斑さんとだから二人占め?できて」
クラスの女子がそんなことをいうが、何が何やらさっぱりだ。あ、戦力的な意味でとかか?織斑と互角以上の試合を繰り広げて以降、助っ人の頼みをされることもままあるからなぁ。やっぱり特技が部活の助っ人とかいうべきじゃなかったか。
「私達としては是非ともお近づきになりたいのにー」
「そうそう。突然現れたイケメン転校生とか、こんな少女漫画みたいなこと滅多にないし」
「基本的に天城くんは織斑さんか篠ノ之さんと一緒だから、全然チャンスこないもんねー」
「は……え、えーと」
何が何やらさっぱり……と言いたいところだが、成る程。顔か。
あれだけはっきり言われて『誰の話だ?』とは言わない。転校生俺だけだし。
どうやらイケメンじゃないと思っていたのは俺だけだったらしい。あの父親と母親を考えると見てくれがよくなるのは確かに必然。遺伝子的にもう殆どイケメン確定状態なのだ。世に言うイケメンとなるのも仕方がない。それに顔の良さというのは第三者の視点から決められるので、イケメンと言われるのなら多分そうなんだろう。
だが、顔が良いからといって、それを鼻に掛けるつもりはない。イケメンでもモテないやつは総じて性格が残念というかもう救いようがないことになっているわけで。そういうやつは割といた。顔はそこそこ良いのに、他がダメな奴。
とはいえ、元々の俺自体は顔は中の下から上と人によって分かれるタイプだった事もあり、こういうのは少しばかり恥ずかしい。後、母さん。イケメンに産んでくれてありがとうございます。
しかしながら、イケメンというだけでこの対応。やはり『ただしイケメンに限る』の説は正しかったようだ。見た目だけでいうなら、許される事は多々ある。あれ、イケメンって超便利。妬まれる理由がよくわかる。
まぁ、未だに告白もラブレターもないあたり、転校生というステイタスもあり、ちょっとした話題にされているだけレベルなんだろう。顔は良くても性格はイケメンとは誰も言ってない。
その点、以前も言ったが織斑はモテる。具体的にはファンクラブが出来るレベル。もちろん非公式かつ密かではある。男女比率はなんと女子の方が高い。この時から『千冬様ー!』だ。大人になろうがなるまいが、結局は持て囃される人間らしい。あの化け物じみた身体能力といい、選ばれた人間としか言いようがない。弟も主人公だしな。
……なんだかそう考えると転生者って、あんまりイージーじゃないな。ISでこれだもんな。
「……ふぅ。なんとかモノにはなったか」
「何度見ても不思議なものだな。お前の超能力というやつは」
昼休みに織斑付き添いの元、例のごとく、朝渡された設計図から試作品を投影してみている。因みに、創ったものは、高周波ブレードのようなもの。見た目は武器だが、武器ではない。
まぁ、それは当然のことで、今の時点でのISは『宇宙開発用』であって、闘うことを何一つ想定していない。故に、見た目こそアレだが、用途は全く違う。
今やっているのは、どれぐらいの完成度かの確認と、きちんと構造を理解できているかの確認でもある。篠ノ之はあんなだから、基本一発で投影してやらないと暇を持て余して何をするかわかったものじゃない。
「いつも思うが、どういう理屈だ?」
「うん?さあ?俺にもよくわかってない」
というか、説明のしようがない。魔力の概念がないこの世界において、それを生成できるのはおそらく俺だけ。いや、ひょっとしたら魔力ではない別の概念という可能性があるし、この世界にも
「天城。ちょっとそれを貸してくれないか?」
「いいぞ。はい」
投影した試作品を織斑に渡す。
織斑は俺から少し離れると、軽く振るう。因みに大きさは二メートル弱。中身はあまり詰まってないとはいえ、強化なしで持って見た感じは二十キロ前後と思うんだが………おかしい。なんか木の棒を振ってるみたいに見えるんですが。
「……感想は?」
「確かに軽いな。本物ならこれの二倍はあるだろう?私が片手で扱える辺り、完成度は確かに高くはなさそうだな」
え?そういう基準?ってか、あなたモノホンのIS装備を余裕で振り回してましたよ、原作では。
思わず引き攣りそうになった表情を咳払いで誤魔化し、織斑から返してもらった試作品を消す。
「しかし、何もないところからそうやって創り出せるのなら、あれでも上等だろう。等価交換という言葉を完全に無視しているしな」
「わかってる。だから、多少は自重してるつもりだ」
無から有を生み出すというのは、確かに便利な能力だ。
だが、それを便利だからと無闇矢鱈に使っていると、いずれどこかでその帳尻合わせが来る。だからこその篠ノ之の手伝いも一日三投影までということにしている。まあ、この昼休みも含めると四になってしまうが、それでも溜められる魔力は溜めるし、無駄使いもしない。というのを一応心の片隅には置いている。固有時制御はって?あれは一部を除いては織斑との試合ぐらいしか使ったことがない。体にダメージが来るし。
「それならいい。見ての通り、束は好奇心と探究心が服を着て歩いている言っても過言ではない奴だ。手伝いもいいが、止めるときは止めろ。でないと、取り返しがつかないことになるぞ……お前が」
「……俺がなのか……」
「ああ。今まで一通り被害を受けてきた先人が言うんだ。間違いはないさ」
「しかも、体験談なのかよ……」
一体、今まで織斑はどんな目にあってきたというのか。篠ノ之の発明品にはロクなものがなかったと聞いたが、もしかしてその発明品の被害を全部受けてきたのだろうか。だったとしたら、織斑はなんだかんだ言って、篠ノ之のことをーー。
「もっとも、大体のものは先に叩き壊したが」
「あー、納得した。やっぱりお前はそういうタイプだよな」
訂正。織斑みたいな人間が、馬鹿正直に何度も被害を被るような真似をするはずがなかった。
「お前まであいつに悪ノリだけはしてくれるな。一人でも手一杯だというのに、二人も相手にしきれん」
「それは安心していい。悪ノリする相手ぐらいは選ぶ」
篠ノ之相手に悪ノリなんて確実にヤバイことしか起きない。だって、天災だもの。
……まぁ、これを手伝っている時点で、立派に悪ノリしてるのかもしれないけどな。
いや、なんとかなるはずだ。
篠ノ之の歴史的かつ世界にその名を知らしめるきっかけになったパワードスーツ、IS。
本来意図しない形で世に広まってしまったのは、篠ノ之のあの性格とあまりにも突拍子のない話だったからだ。話を持ちかけられた方も、よもやそれが本当にできるものだなんて思ってもいなかっただろうし、何より男に使えない時点でとんでもない欠陥品だとでも断じたんだろう。
性別に関しては鍛えればどうにかなるとか、勉強すれば追いつけるとかそういうものじゃない。まして、男だけでなく、女にも一部使えない人間がいるとなると確かに致命的だ。ISの出現から原作に至る頃には無人のISを使ったり、そもそも誰が触っても起動するように細工が出来ていた辺り、ひょっとしたら女しか乗れないんじゃなくて、
そう考えると、辻褄のあってくることがいくつもあるが、そこは今考えるべきところじゃないな。あくまでも、それは原作の話で、こっちの話ではないんだから。
「んんっ!……と、ところで天城。物は相談なのだがな」
「どうした?急に改まって」
相談なんて珍しい。後、妙に歯切れが悪いところも。
「一夏の……私の弟がだな。またお前に会いたいと言っているんだ。どうにも、以前お前の力を見たときに、いたく気に入ったようでな」
ああ……一夏か。
ものすごく目を輝かせていたしな。テレビの向こう側でしか起こらないようなことを現実にする人間がいれば、子どもなら気に入らない道理はないだろう。
「別に会うのはいいけど、あんまり期待には応えられないぞ?」
「わかっている。それは一夏にも言ったのだがな……その、説得に失敗してだな」
「意思は変えられなかったと……」
「う、うむ。すまない」
弟(幼児)には勝てないってか。流石のブラーー。
「今、不快なことを考えなかったか?」
「いいや」
早い。考えてる途中で反応したよ。地獄耳なんてものじゃないよ。
「まあいい。考えておいてくれないか?都合があえばでいいんだ」
「了解。近い内に、って伝えておいてくれ。お姉ちゃん?」
冗談交じりにそう言うと、織斑はふっと頬を緩ませる。
……が、次の瞬間。ものすごい勢いで突き出された拳が顔面に迫っていた。
それをしゃがんでかわせたのは殆ど奇跡に近かった。後コンマ数秒遅かったら、殺人的な速度で放たれた拳が顔面にめり込むところだった。
「天城。よく覚えておけ。私はな、身内ネタでからかわれるのが死ぬ程嫌いだ」
「お、おう。肝に銘じておく」
そういえばそうだったな。
しかしだな、織斑。いきなりグーはないんじゃないかな。しかも忠告よりも先に拳が出ていた。
本当に奇跡的にかわせてよかった。と俺は密かに胸を撫で下ろした。
「んー、そーくんのお蔭で順調順調。うんうん、持つべきものは優れた友人だね」
「世に与える影響でいえば、お前の発明ほどじゃないけど。まぁ、褒め言葉として受け取っておく」
「そーくんも隠さないなら、十分世界を変えられると思うよ?」
「変えられないと思うぞ。せいぜい、世の中の不思議が一つ増えるだけだ」
「あー……そう言えばそうかも。束さんにもわからないんだし」
キーボードを高速で叩く篠ノ之の近くに腰を下ろして、そんな話をする。
もちろん、今日も織斑と試合済。結果はギリギリ引き分けだが、かなり押されていた。機転をきかせてなんとか引き分けに持ち込んだ感じ。やっぱり世界最強になる人材だけある。化け物だ。
引き分けという煮え切らない結果に織斑にはもう一戦要求されたが、篠ノ之との約束があると言って、先にこっちに来た。織斑は白黒はっきりさせたいらしいが、二戦もやってられるか。疲れるなんてものじゃないんだぞ。
というか、暗に自分が世の中で一番頭が良いって言ったな。いや、多分この世界じゃ一番頭いいのは事実だけど。
「それにしても凄いね、そーくん。ちーちゃん相手にまだ負けなしでしょ?」
「ん、一応な」
本当に一応。余裕で勝った事なんて一度もない。いつ負けるかわかったものじゃない。
「私は斬り合いとかそういうのは得意じゃないけど、ちーちゃんがどれくらい強いのかはよく知ってる。正直な話、ルール無用なら、ちーちゃんとマトモに闘えるのって束さんだけだと思ってたんだ」
まぁ、細胞までオーバースペックだもんな。原作でも今と似たようなことを言っていたような気もするし。
「でも、こんなにも早くにちーちゃんや私を超える人が現れるんだから、世界って不思議だよね」
「全くだ」
神様転生なんてものがあるんだから、世の中不思議なのも頷ける。ついでに人間なはずなのに、人智を超えた生命体が二人もいるんだ。これを神秘と言わずなんというのか……あ、違うか。神秘というか、突然変異。
「そーくんはさ。もしも世界が退屈で、それを変えられる力が自分にあったとしたらどうする?」
「変えるだろうな。退屈しないための世界に」
誰しもそれはある。退屈を好む人間はそういない。新しい事や面白いことに挑戦する人間は、得てして刺激を求めている節がある。
「だよね。じゃあ、それを周りが望まないとしたら……どうする?」
「それなら考える……けど」
「やっぱりするよね。だって退屈だもん」
結局のところ、人間は自分本位だ。それの度合いが酷いかどうかくらいの差でしかない。自己中心的と言われるのは他人を顧みえないからで、人間少なからずそういう部分はあって、それを上手く誤魔化して生きているだけだ。
「退屈っていうのはね、人を殺すものなんだ。だから、私は世界に殺されないように、先に今の世界を
パソコンの画面に向けられた篠ノ之の表情はわからない。
わからないが、篠ノ之は冗談で言っているわけじゃないことは十分にわかっていた。ふざけた事も、珍妙奇天烈な事も言う篠ノ之だが、これが真剣かそうでないかは俺じゃなくてもわかることだった。
篠ノ之は本気で、世界を変えようとしていた。
それが望まれようが望まれまいが、篠ノ之は世界に変革をもたらすのだ。
退屈か退屈でないかはわからない。わからないが、やらないよりもマシなのは確かだ。少しでも可能性があるなら、それに突っ込んでいくのが篠ノ之のようなタイプの人間だ。
だが、今後の展開を知っている俺はどうするべきだ。
白騎士事件の後、ISは世に知れ渡る。
それは篠ノ之の望む形ではなかった。宇宙に進出するためにではなく、スポーツとして運用される裏側で、兵器としての有用性を示していた。既存の兵器を圧倒するそれを世界が放っておくはずがない。
そうやって篠ノ之の夢の結晶は、別のものに変わっていた。あまりにも成果を急ぎ過ぎたというのもあるかもしれない。十年や二十年、篠ノ之が他のもので結果を残していれば、ISは正しく運用されていたかもしれない。
ただ、それを篠ノ之が待ちきれなかった。その前に、自分が世界に
それが白騎士事件を起こすきっかけになった。
被害がなかったとはいえ、それは許されることではないけれど。
「この子が
篠ノ之の気持ちも理解できた。今まで生きているのか、死んでいるのかわからなかった世界に漸く価値を見出せる機会を得ることができるということを。
「それじゃあ、俺はそれを間近で見られるように期待させてもらうな。稀代の天才科学者の数少ない友人として、有名人にでもなれそうだ」
「あはは、そーくんてば、言ってることが小さいなぁ。なんなら、束さんの彼氏ぐらいは言ってのけないと。私は割と大歓迎」
「それは断る」
「早っ!?」
篠ノ之の彼氏とか四六時中胃薬と頭痛薬常備じゃん。絶対嫌だよ。
見た目は美少女でも、他が見た目でカバーしきれないレベルだしなぁ。
総合値なんてマイナスに限界突破してるもんな。
「まぁ、安心してよ。そーくんには迷惑かけないからさ」
「そいつは良かった。心配する必要がなくて」
「酷い言われ様……束さんも流石に傷つくかも」
この時、正直俺は自分で思っていたよりも篠ノ之を甘く見すぎていたのかもしれない。
文字通り、篠ノ之が稀代の天才であることも。この世界そのものも。
アンケート欄であの二人の子どもなんだから、イケメンじゃんと突っ込まれたので主人公はイケメンということで。
よくよく考えたら、主人公の設定も明記していなかったのでこんな感じで。
名前:天城宗介
身長:165cm
体重:56kg
特技:身体能力の高さだけでどうにかなること、投影、料理。
天敵:人智を超えた天才
よくある二次創作系転生者。ルーレットでなんとかハズレを引かずに転生したものの、周りに将来世界最強と大天災がいるせいで無双できる気配なし。元々するつもりもないが、ちょっと慎重に生きようかなとは思っている(尚、実行には移せていない)。
両親が両親だけにイケメン。アイドル級の、とまではいかないが密かにモテているのだが、人智を超えた存在に気に入られているためか、告白される気配はない。
親のおかげで比較的強い。でも特典なしでは織斑千冬には張り合えない。
頭は悪くないが、時として悪ノリする。周りの人間が人間なのでこいつが悪ノリし始めたら本格的に終わり。