特典持ちなのに周りが化け物ばっかでつらい件について   作:ひーまじん

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夢が動き出した日

篠ノ之との不思議なやりとりをした数日後の事。

 

宣言してから日は経ってしまったが、俺は織斑と試合をする事になった。

 

……なったのだが。

 

「何で真剣なんだ、織斑」

 

織斑の持つ物は真剣。そしてここは学校の体育館ではなく、篠ノ之道場である。

 

「何。束のやつから聞いた。お前には多種多様な戦闘スタイルがあるとな。ならば、剣道でも剣術でもなく、自由形式の実戦ならばお前の全力を見られると思ったまでだ」

 

「だから真剣なのか……」

 

篠ノ之め余計な事をいったな。いずればれてただろうけど。

 

「これでないと鍔迫り合いもままならないだろうしな。わざわざ借りたのだ」

 

俺と全力で闘うためにそこまでするのか、と思ったけど、そういえば織斑は戦闘狂の気もあるから割と仕方のないことかもしれない。

 

「それはともかく、鍔迫り合うならそれじゃダメだ。どうあがいても一撃で変形するぞ」

 

「む……それは弱ったな。私のでない以上、そうなるとこれは使えないな」

 

「ああ。だからその刀少し貸してくれ」

 

「?構わないぞ」

 

織斑に渡された刀を持ち、その刀を解析する。

 

ふむふむ……成る程なかなかの代物だ。流石に俺程度との試合で粉々になったりするのは惜しいぐらいの。

 

よし、剣製に記憶した。後は投影するだけだ。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

空いているもう片方の手に全く同じような刀を創り出す。

 

本来なら真作には劣るものの、魔力の概念の存在しない神秘を全く纏っていないこの剣よりは俺の精製したこの贋作の方がまだ耐久性も切れ味も良い。

 

「驚いたな。そんなことも出来るのか?」

 

「ああ。限りなく真作に近い贋作だ。使い勝手は悪くないだろう」

 

刀を渡すと、少し距離を置いて、織斑が振るう。

 

ヒュパッという空気を切る音、目にも留まらぬ居合い抜きの速さには舌を巻く。

 

「……成る程。全く問題ない」

 

「それは良かった。じゃあ、こっちは置いとくな」

 

本物の方を離れた場所に置き、道場の真ん中に立つ。

 

強化(トレース)開始(オン)

 

まずは身体能力の強化。これがないと話にならない。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

そして創り出すのは干将莫邪。エミヤの特典からか、これが一番しっくりくる。

 

試合開始を告げるものはいない。今、この時点からが試合だ。

 

お互いに間合いを測り、相手の出方を見る。

 

あちらに俺がどう映っているかはわからないが、俺から見る織斑には全くと言っていいほどに隙がなかった。この歳でもう達人とかそういうクラスの人間なのか?

 

「はあっ!」

 

先に仕掛けてきたのは織斑。上段から振り下ろされる一閃は俺を両断せんとばかりに襲い来る。

 

ギィンッ!

 

だが、それを俺は手にした二刀で受け、そして流す。

 

この身に宿る技術は不完全とはいえ錬鉄の弓兵のもの。元々鍛えていた俺の技術はまだまだ未熟だが、あの英雄の技術があれば、その限りではないーー!

 

刀を受け流してすぐ、俺は織斑の胴に蹴りを放つ。

 

それを織斑はあろうことか、身体を後ろに反らしてかわし、そのままバク転しながら斬りあげるように刀を振るう。

 

体勢の悪い一撃だというのにその剣戟は重く、受け止めたはずだというのに身体が僅かばかり宙に浮く。

 

しかし、ここで後ろに退くと織斑に主導権を握られてしまう。

 

俺が一歩斬りこむと、織斑はそれを間合いギリギリで躱し、横一閃。鋭い剣戟を身を伏せて躱す。

 

数本の髪が斬れ、背筋に冷たいものが流れる。

 

強い。

 

やはり織斑も、あの試合においては本気ではなかった。いや、あの試合で出せる本気ではあったかもしれないが、少なくとも今の方が強いのは確かだった。

 

そしてアーチャーの剣技を会得して、技量でこそ拮抗、或いは上回っているが、並外れた身体能力と野生の勘、センスはその技量差を容易に埋めていた。何から何まで想像以上だ。

 

お互いに寸止めだとわかってはいるのに、織斑の狙いは確実に首を刎ねんと斬り込まれ、俺もそれをいなして、斬りかかる。

 

双剣による連撃は確かに織斑に届く可能性を秘めている。

 

だが、織斑は元来勘がいいんだろう。あえて防御をせずに回避する時もある。そして防御に手を回さなかった分を攻撃に回している。

 

道場内を縦横無尽に動き回り、幾度となく剣戟を繰り広げる。

 

ただの一度もお互いに入らないまま、続いていく試合の中で織斑がふと笑みを浮かべる。

 

「正直驚いた。単純に私よりも技術に秀でている人間を見るのは久しい」

 

「そうか。まあ、世界は広いということだ」

 

「そうかもしれないな……!」

 

無駄話はここで終わりとばかりに織斑が踏み込んでくる。

 

先程よりも速い一撃。ここに来てさらにギアが上がった。

 

ならば、とこちらもギアを上げたいところだが、残念ながら今が十分MAX。これ以上速くはならない。

 

ならどうするか。答えは簡単だ。

 

一撃目を防ぎ、二撃目を躱す。

 

そして防ぐことのできない三撃目が俺を襲うーー。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

はずだったが、それを新たに投影した魔槍に持ち替える事で防ぐ。

 

防御の手が間に合わないなら、一度武器を棄て、新たなものに変えればいい。

 

本来なら間に合わないなんてことはないはずだけど……もっと身体に馴染ませる必要があるみたいだ。アーチャー達の剣技を完全に会得しなければ。

 

「っ!?」

 

俺の武器が変わった事で織斑が目に見えて動揺した。

 

その隙、流石に見逃すわけにはいかないな!

 

思いきり踏み込み、刺突を放つ。

 

織斑はそれを躱しているものの、槍使いと闘ったことがないのだろう。僅かに先程よりも反応速度が落ちていた。そしてそれは今現在の俺なら見逃さない。

 

槍を支点に宙を舞い、廻し蹴りを放つ。

 

それは紙一重で躱されたが、体勢が崩れた。そのまま喉元に槍を突きつける。

 

「詰みだな」

 

「……ああ、実戦ならば今ので即死だな」

 

宣言すると、織斑は刀を落とし、両手を上げて降参のポーズを取った。

 

「まさか二刀から槍に変わるとは思っていなかった。流石に驚いたぞ」

 

「血湧き肉躍る闘いをご所望だったんでね。こっちも勝つ為に少しズルい手を使わせてもらった。不服だったか?」

 

「いいや。負けたことは悔しいが、これはこれで良い。当分はまだ目標がある上にお前の強さに底が見えていないからな」

 

「おいおい、あまり期待していでくれよ。こっちはこれでも勝つのに必死なんだから」

 

毎回毎回闘うたびに強くなる。才能という点において負けている以上、こっちは常に裏をかかなきゃいけない立場なわけだから、どうやって裏をかくか必死なんだ。

 

「必死……か。一応訊くが、あとどれ程の戦闘スタイルがある?」

 

「……さあ?」

 

「考えた上でそれか……」

 

だって、わからないもの。投影した武器次第で幾つもの戦闘スタイルがある以上、基本スタイルがアーチャーだとしても、そこからいくらでも派生できるわけで。

 

「まあいい。毎度新しいものが見えるのなら、新たな楽しみも……」

 

と、織斑の視線が俺の後方に向けられた。

 

俺もそれと同時に視線を感じ、後ろを向くと……そーっと道場の木戸の隙間から覗き込む二つの瞳が見えた。

 

「……なにあれ」

 

「全く、あれ程見に来るなと言っておいたのだがな。そこにいるのはわかってる。出てこい、二人とも」

 

織斑がそう言うと、木戸が開かれ、道場内にとてとてと歩いてくる二人の子供。

 

まだ幼い。どう見ても幼稚園児みたいだ。

 

「この子達は?」

 

「私の弟の一夏と束の妹の箒だ」

 

「おりむらいちかです!よろしくおねがいします!」

 

「うん、よろしく」

 

一体なにをよろしくするのか知らないが、相手は幼稚園児なので取り敢えず頷く。

 

「しのののほうきです」

 

ぺこりと一礼して、ぷいっと視線をよそにやる。人見知りなのか、その様子に思わず苦笑してしまう。

 

これが原作主人公とヒロインの一人か。

 

昔はあまり仲が良くなかったと聞いていたが、確かに何か一枚壁のようなものを感じる。

 

「すごいな、にいちゃん!ちふゆねえにかつなんて!」

 

目を爛々と輝かせて言う一夏。

 

「それにまほうみたいにいっぱいだすし!もしかしてにいちゃん、まほうつかいなのか!?」

 

「え゛っ……」

 

思わず、織斑の方を見てしまった。

 

織斑は額に手を当てて、溜息を吐く。

 

試合に集中して、全く気がつかなかった。まさか、そんなところから見ていたとは。

 

しかも、魔法とは言い得て妙だ。魔術の概念が存在しないこの世界において、俺のしている事は魔法と何ら変わらない。ともすれば、これは魔法だと言えるだろう。

 

「大体そんな感じだ」

 

かといって、魔法使いだと答えるわけにも行かないので、曖昧に答える事にしたのだが……。

 

「おお……!すげえ!ほんとうにまほうつかいなんだ!」

 

「いや、魔法使いじゃなくて、それに近いというか……」

 

うおおお、と興奮したように叫ぶ一夏に、訂正するタイミングを見失ってしまう。

 

まさに夢のような存在とでもいうべきか、俺の立ち位置は。

 

箒はどこか懐疑的だが、一夏は俺のことを本当に魔法使いだと認識したらしい。

 

「……どうするつもりだ。天城」

 

「どうするって……どうしよう」

 

説明出来ん……手品って言ってごまかすか?

 

……でも、なんか篠ノ之辺りが本当の事を話した時に一悶着ありそうだよなぁ……あいつ口軽いしなぁ。ぽろっと言っちゃうしなぁ。

 

「やっほー!ちーちゃんそーくん、楽しんでるー!?……あれ?いっくんに箒ちゃん?ていうか、終わってた?」

 

と、ここでその危険人物登場。

 

「ああ。お前も終わったのか?」

 

「?なんかやってたのか、篠ノ之」

 

「まあねー。ちょっと創りたいものがあって」

 

にひひと笑い、篠ノ之は手にしていたパソコンの画面をこちらに向けてきて……っ!

 

「どうどう?名前はまだ無いけど、世界を変えるだけの最高傑作だと私は思うなー」

 

「自分で言うな。私は詳しくわからんが、今までのよりは……天城?どうした?」

 

「………あ、いや何でも無い。ちょっと突拍子もない事だったから、言葉を失ってただけだ」

 

実際はそうではない。そのパソコンに映し出されている事を、俺は殆ど理解出来ない。当然だ、俺は天才じゃないから、篠ノ之がやろうとしていることなんて理解できるわけもない。

 

ただ、一つの単語が、それをあるものだと俺に認識させるに十分だった。

 

『宇宙開発用パワードスーツ(仮)』。

 

これが他の人間なら、他の物を連想するのだが、これが篠ノ之なんだから、必然連想するものが一つに集約されてしまう。

 

「まだ形にはなってないけど、もう少し時間をかけたら、ちゃんとしたものを見せられると思うんだ」

 

「それならそれを私達に見せろ」

 

「一応ね。二人には知っておいてほしいかなーって。特にそーくんには」

 

「俺?」

 

「うん。色々手伝って貰いたいし」

 

「手伝うって……俺そんなに頭良くないぞ」

 

「大丈夫。アレしてもらうだけでいいから」

 

アレ……って、投影のことだよな。十中八九。

 

「ほら、そーくんのアレって、ノーコストノーリスクだし。すぐ用意できるから」

 

「いや、まあその通りだけどな……アレって構造とか材質とか色々知らないと張りぼてだぞ?」

 

「え?そうなの?んー、じゃあ、その時は教えるからOKだよね」

 

「それはOKなのか?」

 

「大体束のは自分都合だ。アテにはならん」

 

だよな……。流石は天災。

 

「しょうがないじゃん。私をその気にさせたのはそーくんだよ?」

 

「へ?」

 

「何?」

 

聞き捨てならない事を聞いた。なんで俺がそんな不穏な事をしなきゃいけないのか。

 

「だから責任は取ってもらわないと、ね?」

 

それだけ聞くと、完全に俺はしでかした人というか……いや、篠ノ之を焚きつけた時点でしでかした事には間違いないだろう。

 

「……私は知らんぞ」

 

織斑に視線を向ける前に突き放された。そんな!俺達は仲間じゃないのか……同じ被害者として。

 

「……もしかして、そーくんは私をその気にさせておいて、知らぬ存ぜぬを通すつもりだったの?」

 

「え、いや、そうじゃなくてだな。前にも言ったが、この能力はあまりぽんぽんと使っていいものじゃ……」

 

「酷い!私の心を弄んで!私とは遊びだったのね!」

 

「おい!その言い方はやめて!俺がただのクズみたいじゃん!?」

 

わざとらしく泣き真似をする篠ノ之。

 

そしてその瞬間に向けられる一夏と箒の『え……この人ひょっとして悪い人?』的な視線!違うんだ!俺は悪くない!いや、ひょっとしたら少しは悪いかもしれないけど、篠ノ之の言い方程悪いことはしていない!

 

「わかった!手伝うから!泣き真似はーー」

 

「本当に?やったー!言質取ったー!」

 

「あ゛っ」

 

「だから私は知らんと言ったんだ……」

 

この瞬間、俺は篠ノ之の夢への手助けをする便利ロボット的な役割を担うことが決定されました。まる。


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