特典持ちなのに周りが化け物ばっかでつらい件について 作:ひーまじん
転校してから一週間。
人外の領域にあった俺たちの試合は瞬く間に全校生徒に知れ渡ったものの、それで俺が敬遠されるようになったかといえばそういう事もない。至って普通の中学生生活を送っていた。
なんでも、化け物じみた出来事は大体織斑で慣れたらしい。何をしていたのかはわからないけど、無駄に畏怖されなくて良かったと言える。
しかし、だ。
一つ問題がある。
「おーい、天城。これ、織斑に渡しておいてくれるか?」
「あ。天城くん。織斑さんにこれも渡しておいて」
「良いところにいた。天城、織斑に伝言よろしく」
何故かわからないけど、気がついたら織斑への橋渡し役に認定されていた。
曰く、織斑は基本的に話しかけ辛く、なんかピリピリしてるから終始ビビりっぱなしになるんだとか。
その点、来た時から親しかった天城ならなんとかなるよな?という理論で二日目からこんな感じに。織斑もそれを察している点はあるが、思うところがあるのか、聞くだけ野暮だと思っているのか、何も言ってこない。
まあ、基本的に織斑とは一緒にいることが多いので、それはさしたる問題でもないわけで。
それが余計にクラスメイトたちの行動に拍車をかけている。終いには告白の仲介役までさせられる羽目になった。無論、織斑の返事込みで。
なんだかんだ言っても、織斑は美少女。モテるのなんの。
その鋭いオーラから萎縮するものもいるが、逆に燃えるものもいる。デレた時のギャップは確実に萌える。などと豪語している奴もいるくらいだ。なお、それには俺も全面的に同意する。○○デレシリーズは○○とデレのギャップに差があってこそ、その破壊力を増していく。ある意味防具のようなものだ。病んでいるのはともかくとして。
今日もまた、そんな一日が始まる……と思っていた。
支度をして、靴を履き、玄関を開けたその時。
「おっはろー!そー」
バタンッ!
兎がいた。それも超厄介な。
何もしてないのに勝手に旋風を巻き起こし、後片付けは人に全投げ。挙げ句の果てには私は悪くない。と殆ど
……もう一回確認してみるか。
ガチャ。
「もー!せっかく挨拶してるのに閉めるってどういう了見なのさ!束さんだって怒るんだぞー?」
……幻覚の類ではなかったか。本当の本当に篠ノ之束らしい。
「……何用かな、篠ノ之」
「んーとね。ちょっと引きこもってたら、ちーちゃんからそーくんがうちの中学に来たから学校に来れば面白いぞって言われたの。だから行くことにしたんだけど、一人じゃ退屈だし、じゃあそーくんと一緒に登校すればいいやって」
俺は餌か……。というか、発信源は織斑か。
「ね。一緒に行こ?」
「別にいいけどさ……」
絶対何か企んでるよね。碌な事じゃないよね。
「んふふ~。束さん大勝利ぃ~」
何がですか、大天災殿。
そこはかとなく、波乱が巻き起こりそうな予感がするけど……出来れば何も起こらないで欲しいな。
俺の予感は的中してしまった。
学校に着くなり、全校生徒が目をむいて、授業が始まっても篠ノ之は自由きままに動き回り、俺や織斑に話しかけてくる(織斑は鬱陶しがり強制的に沈めていた)。他の先生生徒はノータッチ。触らぬ神に……天災に祟りなしといった具合だ。
そうこうしているうちに昼休みが来たけど、以前篠ノ之のテンションは高いまま。鬱陶しい事この上ない。
「わーお、そーくんのお弁当豪華だね。誰が作ってくれてるの?」
「俺だよ。父さんが凄い料理の腕前なんだけど、どういうわけか小学生の頃から教えられてたんだよ。で、偶々物覚えが良かったから、大体の料理はできるようになった」
「ほぇ~、凄いよね。ね、ちーちゃん」
「……そうだな」
「ちーちゃん、テンション低いよ?どったの?」
「一体誰のせいだと思ってる。馬鹿」
織斑もうんざりしつつ、弁当を食べている。篠ノ之と中身が被っているのは、おそらく篠ノ之の親に作ってもらっているからだろう。織斑には両親がいないわけだし、原作ではあれ程の主夫スキルを発揮した弟の方もまだ幼いはずだから、当然の事だ。あくまで憶測なのでなんとも言えないし、聞く気もないが。
「ところでそーくんさー。聞きたい事があるんだけどね」
「何さ」
「そーくんのDNA調べたけど、特に何もなかったんだー」
「まあ、絵に描いたような凡人だしな。ちょっとだけ特異なだけで」
「あれでちょっと特異なだけとはよく言えたな」
「ああ。あれを使っても圧倒できない人間がいるし」
具体的にはあなたとか。と言ったら怒られるだろうか。殺し合いをするなら確かに圧倒できるだろうけど、存外殺すというのは実力差が拮抗していてもできるものだ。殺さない方が実力の高さを要求される。そういった意味では俺と織斑に大した差はない。
「一説には超能力は人間が元々持ってるものともいうしね。特に何もないのは普通だけど……私が聞きたいのは別の事だよ」
篠ノ之は目をキラキラと輝かせつつも、それとは対照的にひどく冷静に話す。
「そーくんが創ったあの剣。あの時ばれないようにこっそりスキャンしたのを調べてたんだけど、構成材質があり得ないものだったよ。それこそ現代には存在しないもので出来てた」
「現代には存在しないもの……?」
織斑もこれには興味を示した。なんだかんだいって、織斑にも人並みに興味があったらしい。
「うん。遠い昔か、それとも未来か。どちらにしても現代にあるもので該当するものはないと思うよ。超能力にしても元素を集めて創ってるのかと思ったけど、そうでもないみたいだし……正直な話、私もお手上げかな」
降参とばかりに篠ノ之は手を上げて頭を振る。
わかられても困るんですけどね。あれは意識して手を抜いていないから普通に宝具なわけだし、構成材質が違うのも魔力とかも通ってるわけだから。魔力の概念が全く存在しないこの世界においては誰も答えにたどり着くのは不可能だ。例え篠ノ之でも。
「そーくんは他のも創れるの?」
「うん?まあな。ちょっと疲れるけど大体のものは創れる」
隠しても仕方ないのでもう言う。投影がばれた時点でいずれはバレる事なのだし。
「ただ、あんまり小難しいのは創れないぞ。あくまで俺は凡人だからな」
創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。それがエミヤの投影魔術であり、俺に与えられた特典。
違うとすれば、俺の起源が『剣』でないこと。それによるメリットもデメリットもないということ。
なので銃も創れなくはない。ただ、銃に関しては弾一発につき一投影とカウントされるのでサブマシンガンやアサルトライフルなどは投影するのにあまり建設的ではない。
何よりISに関しては武装ぐらいは出来るかもしれないけど、IS自体を創るのは不可能だろう。コアもそうだが、その他の機能も専門分野の人間でもない限り無理だ。
「そっかぁ……じゃあ、やっぱりお手伝いを頼むのは無理っぽいね」
「お手伝い?」
「ううん、こっちの話。今、束さんの一世一代の大作を創ってるところだから」
「また碌でもないものを創っているのか?いい加減、マトモなものを創れ」
「創ってるじゃん、いつも。時速百キロで走るスケートボードとか」
「ああ、一瞬で百キロになるから乗っている奴が凄まじい速度で頭を地面に打ち付けるアレがか?」
「うっ……太陽光発電の携帯電話とか」
「一時間以上充電すると爆発する携帯電話の事か?」
「………なんでも透けさせる眼鏡は?」
「距離感がわからなくなる上に八割の確率で失明するのだったか、それが?」
「…………」
「碌なもの作ってないな……」
リスクリターンが無茶苦茶だな。
「ぐすっ……て、天才の発明は時に常人の理解を超えてる事もあるもん」
「理解したくない境地だな」
「悪いな、篠ノ之。俺も織斑に同意だ」
「うわーん!ちーちゃんとそーくんの馬鹿ぁぁぁ!」
お弁当の中身を一気にかきこみ、篠ノ之は走り去ってしまった。思ったよりも豆腐なメンタルだな。こういう意見には耳を貸さないと思っていたのだが。
「少し言い過ぎたか」
「ああ、アレの事は気にするな。鳥頭だからな。すぐに帰ってくる」
天才なのに鳥頭とはこれ如何に。まあ、付き合いは織斑の方が圧倒的に長いし、そいつがそういうのならそうなのだろう。豆腐メンタルで鳥頭なら、駄作量産にも頷けるし。
「しかし、驚いたな。束のあのウザさにマトモに対応できる人間が存在するとは思わなかった」
そういう割には別段驚いた様子も見せない織斑。ポーカーフェイスだからだろうか。だとしたら、それを超える篠ノ之は相当なウザさを誇るようだ。
「ウザいっていっても、まあ可愛いもんだ」
「今の所は……か?」
「よくわかってるな」
「くくっ……そんなところだろうとは思っていたがな」
押し殺したような笑い声をもらす織斑。ちょっと悪役っぽいというのは言わないほうがいいかもしれない。
「それはそれとして。今日の練習は来るのか?」
練習というのはもちろん剣道部の。
織斑はあまりにも強すぎるせいか、他の部員では練習にならない。今までは色々と制限をつけることで練習としていたらしいけど、俺が来てからはこうしてお互いを練習相手として男女の枠組みを超えて練習している。もっとも、身体能力の強化抜きには織斑とは到底やりあえないわけだが。
「いや、今日は用事があるから休むし、主将にもそう伝えてあるから」
「そうか……それは残念だな。唯一の楽しみなのだが」
本当に残念そうに織斑は言う。とはいえ、今回ばかりは勘弁してほしい。俺にもやらなきゃいけないことがある。
「明日、また血湧き肉躍るような試合にするから、それで勘弁してくれ」
「ほう。言ったな?今の発言、忘れるなよ」
「ああ」
時々思うけど、織斑って絶対戦闘狂だな。
「
爺さんからの命令で十キロ先の知り合いの家まで贈り物を渡すために重りをつけて往復させられた後、帰ってきた俺は両手に黒と白の夫婦剣【
俺が今から何を始めるのかというと、それは……なんというか、至ってシンプルなもので、修行のようなものだ。
今の今までは父さんや母さんがいたため、出来なかった事ではあるけど、今爺さんが出かけているお陰で俺は本来の修行を行えるわけだ。
それは投影した武具の能力の模倣。
本来の担い手ほどに使えるわけではないけど、アーチャーの持つ剣製ごと渡されていた俺は投影すればその投影したものを振るうことで、アーチャーと同じくらいには使えるようになる……と俺は思っている。
身体能力の差は如何ともし難いところではあるけど、元々アーチャーはそれらの差を技量で埋めていた。なら、アーチャーの戦術は俺にも出来るし、やってやれないことはない。
もちろん、一瞬でとはいかない。剣製に記憶させたのは俺ではない以上、このように投影して、実際に振るうことで一つずつ馴染ませていく。特典というのも、案外簡単なわけではないらしい。なんだかんだで弓なんて一つも当たらないし。
一振りする度に自分に流れ込んでくる経験と記憶。それらを生かしながら、戦闘スタイルを複製し、より完全に近い形にしていく。
母さんに教えられたのは一刀流だけど、織斑との試合でわかったことが幾つかある。
単純な贅力は織斑の方が上で、強化を使っても張り合えるものの、僅かばかり押されている。
これはもう織斑が化け物なだけだ。それなりに鍛えていたのに、これには舌を巻くばかりだ。
そして第二に力技は俺にあまり向いてない。織斑に勝つ時は総じて手数の多さや速さの部分がある。
これなら俺は一刀よりも二刀の方がやりやすい。目指すならアーチャーの戦闘スタイルを置いて他ならないわけだ。
剣道で二刀流を使う人間は少ないし、余程のことがない限り、一刀流の方が強いとされているが、使いこなせることができれば、その限りではないだろう。二刀流の強みを活かして、勝利をつかむ事が出来るはずだ。
実戦に関しても、今のうちに色んな武器を投影して、経験を積んでいくことでその場に応じた戦術も組める。遠距離戦が出来ないのは残念な事ではあるものの、それはそれ。いざとなったら当たってくれる矢を創るまでだ。
「誰だ?」
視線を感じ、俺は剣を一つ投げようとして……やめた。当たったら大惨事だし、よく考えたら宝具投げると木に刺さる程度で済まない。
「びっくりした〜。殺されちゃうかと思ったよ」
矛先の向いた場所にいたのは篠ノ之。
一体いつ、どこから入ってきたのか。
「……いつから見ていた」
「途中から。普通に会いに来たんだけど、話しかけられそうな雰囲気じゃなかったから、待ってたの」
「そうか」
投影したものを消し、ふうっと息を吐く。まだまだ気配察知能力は低いな。これでは他の人間にも投影するところを見られるかわかったものじゃない。
「さっきの剣技はお母さんから?」
「いいや。これは我流だよ。隠れて磨くのに随分時間がかかったけどな」
大嘘である。こんな剣技を身につけたのは今しがた。少し前までは全く出来なかったものだ。
「隠してるの?あんな凄い力の事」
「凄い事には凄いけど、広めるようなものでもない。俺の『これ』は些か以上に異端だ。他の人間に認めてもらいたいとは思わないし、極力使うのは避けてる」
緊急時に備えて、というのもそうだが、無闇矢鱈と使う道理はない。固有時制御の時のようなものは常人には理解しかねるが、投影はすぐにでもわかる。だから使うのは強化などにとどめていた。
「なんで?凄いものは認めてもらうべきだよ。その辺の有象無象とは全然違うんだから」
「大差ないさ。俺は織斑や篠ノ之のように優れた人間というわけじゃない。特に篠ノ之。お前のその頭脳は大多数に認められるべきものだ。確かに少しばかりズレているかもしれない。でも、大体の天才はズレてる。だからまあ……そうまでして他と違う事を誇示する必要はないよ」
「っ……」
「誰がなんと言おうとお前は天才だ。何れ世界を変革できる。どんな形であれ、俺はそれを楽しみにしているよ。有象無象の一人としてな」
ISが出来たところで俺が乗れる保証はどこにもない。乗りたくないといえばロボットのようなISは男の夢なので嘘になるけど、篠ノ之にさえも織斑一夏がISに乗れた理由がわからないと言っている以上、俺には無理だろう。最初はともかく、それ以降が無理になる。
「……と、話が逸れたな。俺に何か用があったんじゃないか?」
「………んーとね。単純に暇を持て余したから会いに来ただけ」
「なんだそれ……別に俺のところに来ても暇は潰せないぞ」
「そんな事ないよ。さっきのは芸術レベルの領域だしね。凄いからもっと見たいな〜、なんて」
にこにこと笑みを浮かべ、篠ノ之は実にわざとらしく、俺を持ち上げていた。
投影が知られている以上、別にこれ以上は奥の手を除いて見られても構わないし………まあいいか。
「見ててもいいけど、それなら爺さんが帰ってきたら教えてくれ。天才だし、この辺監視するのぐらいは余裕だろ?」
「もっちろん。任せといて」
懐から丸い球体を取り出し、それを空に投げると、遥か上空に飛んでいく。
「あれは?」
「お手軽衛星試作型三号だよ。半径一キロの映像を映してくれる。まあ、二十四時間教えてくれるから、一日しか持たない上にオーバーヒートで木っ端微塵になるけど」
「流石にそこまで美味い話はないってわけか。まあ、いいんじゃないか。今使えればそれで」
「そうだね」
「それじゃあ……しっかりと目に焼き付けとけよ」
投影したのは紅い槍。真名を解放すれば必ず心臓を穿つ因果逆転の魔槍。
「わお、槍も創れるの?」
「まあな。ま、驚くのはここからだけどな!」
そこから俺は爺さんが帰ってくるまでの間、俺は篠ノ之に見せ続けることになった。