特典持ちなのに周りが化け物ばっかでつらい件について   作:ひーまじん

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友達になった日

 

次に目を覚ました時、俺は病院のベッドの上にいた。

 

身体の至る所で毛細血管が破断し、内出血の痣があちこちに出来ている。

 

さらに全身筋肉痛。意識が飛んだのは連続的な加速による血液の集中で、解除した時にブラックアウト状態になった事と三倍速の負荷が大きかったからのようだった。

 

お医者さんは「なぜ剣道の試合でこんな状態になるのか?」と首を傾げていたが、俺もあくまで知らぬ存ぜぬを通した。本当の事を話したところで、何の意味もないどころか、精神病院送りにされる。

 

こんな事になったけど、優勝したのでゲームは買ってもらえるし、怪我をするほど無理をした点については怒られたけど、勝ったことは素直に褒めてくれた。固有時制御がどの程度使えるかもわかったし、痛い事を除けば、大体良い感じである。

 

……それはさておき、気になるのはやはりあの織斑千冬である。

 

偶然とは思えない。

 

倍速に即座に対応してくる戦闘能力の高さも含め、やはりあれはインフィニット・ストラトスのキャラクターである織斑千冬と考えてもいいだろう。

 

そうなるとこの世界はインフィニット・ストラトスで、かつまだ原作が始まる前という事になる。

 

原作開始前と言うのはわからなくもないけど、これでは原作が始まる頃には俺はもう成人している。神様は一体何を考えているのやら。皆目見当もつかない。

 

「……ところで、何か用ですか」

 

さっきからベッドの横にある椅子に座って、こちらを見てくるセーラー服の少女。

 

やけに上機嫌なのは何故かわからないけど、とても嫌な予感がする。

 

「初めまして。えーと、天城宗介くんだっけ?そーくんって呼ぶね」

 

「お好きにどうぞ」

 

なんだこの感じ……デジャヴュだ。絶対俺は彼女の事を知っているぞ。何処となく、幼稚なあだ名のつけ方。無駄にテンションが高そうな……うーん。後一押しが足りん。

 

「いやはや、びっくりしたよー。まさかちーちゃんに剣道で勝てる人が同世代にいたなんてねー。単純な身体能力ならお父さんよりも上なのに、それを上回り速さでちーちゃんに一本も取らせなかったんだって?凄いね」

 

ちーちゃんが織斑千冬を指しているとして………あ、わかってしまった。こいつの正体が。

 

「名前、聞いてもいいですか?」

 

「ん?そうだね。私は訊いたのに教えないのは不公平だもんね。私の名前は篠ノ之束。ちーちゃんの親友で、後に歴史に名前を残す天才科学者さんだよ」

 

やっぱりかー!?

 

うさ耳もつけてないし、一人不思議の国のアリス状態じゃないから、インパクトに欠けていたが、やはり彼女は篠ノ之束その人だった。

 

インフィニット・ストラトスを創り、原作では影で暗躍していた張本人。頭脳だけでなく、肉体も細胞単位でオーパースペック。闘う科学者というに相応しい人外っぷりで、対等に戦えるのは織斑千冬のみだった。

 

……やばいぞ。とんでもないやつに目をつけられた。

 

篠ノ之束に関してはあまり描写はないものの、自分の認知した人間以外にはマッドサイエンティストに近い。下手をすれば全身解剖すらもあり得る。なんとかして凡人として認識してもらわなければ。

 

「あれはまぐーー」

 

「ちーちゃんがまぐれで負けるなんて思えないし、勝った後そのまま病院送りになったっていうのも気になるんだよね。一撃も当てられてないのに」

 

「……」

 

だ、駄目だ。適当に誤魔化そうかと思ったけど、全く誤魔化せそうな気がしない。

 

いや、でもバレたら詰む。なんとかして誤魔化さないと。

 

「まあ……初見なら俺は強いから、二度目は負けるんじゃないかなー……なんて」

 

「どうだろうね。ちーちゃんも天才だし、後二回見れば、対応できるんじゃない?」

 

二回見るだけで対応できるのかよ……。これじゃ魔術も形無しだぞ。あれか、特典に頼るなっていいたいのか?

 

「ねえ、ぶっちゃけどんな裏技使ったの?」

 

「だから、初見の時は」

 

「私、ちーちゃんの勇姿は全部撮ってるんだよね。永久保存で。だから前の試合ももちろん撮ってるし。君がいきなり速くなったりしてたのも見てるよ」

 

「あれは母さんに教えてもらったやつで」

 

「あの姿勢から更に速くなるなんてあり得ないよね。人体構造的におかしいもん。そうなるとドーピングとかじゃない、私の知らないナニカを使ってるとしか思えないんだけど……どうなの?」

 

駄目かー。

 

天才相手にうまく丸め込もうなんて虫が良過ぎたか。

 

ならば、最後の手段を取るしかない。

 

まだちょっと本調子じゃないけど、動かないわけじゃない。

 

扉までの距離は六メートル。やってやれないことはない。

 

ベッドから降りて、篠ノ之の前に立つ。

 

「わかった。完敗だ。教えるよ」

 

「へぇー、その割には臨戦態勢だけど……やる気かな?」

 

「まさか」

 

戦って勝てる相手ならそれも悪くないとは思うが、それが出来ない相手なのは重々承知だ。

 

父さんや母さんが来るまで十分。どうにかして、こいつをここから排除しないと。

 

だったら、選択は一つ。

 

固有時制御二倍速(Time Alter double accel)!」

 

逃げるだけだ!戦略的撤退だ!

 

ドアの方に……と見せかけて、窓から脱出!

 

ここは二階だが、そこまで高くない。さらに下は芝生だ。余程受け身をミスらない限り、足がちょっとじーんとするだけだ。

 

着地と同時に固有時制御が解けて、身体に負荷がかかるが、あれから逃げないともっとやばいので、無視して逃走。

 

「なんだ。入院していると聞いていたが、思ったよりも元気そうだな」

 

「へ?」

 

聞きなれない声に、間の抜けた声をあげながらもそちらを向く。

 

そこにいたのは何時ぞやの少女。

 

こちらもセーラー服に身を包み、鞄を持ってそこに立っていた。

 

「こうして話すのは初めてだな。私の事は覚えているか?」

 

「ブリュ……織斑だろ。前の大会、決勝戦で戦った」

 

危ない危ない。うっかりブリュンヒルデって言いかけた。

 

「ほう。わかるのか。あの時、顔は合わせていなかったはずだが」

 

「わかるさ。雰囲気で」

 

こんな鋭いオーラを放っているのは彼女ぐらいのものだろう。俺でなくてもわかる人間にはわかるはずだ。

 

「それはそれとして、何故窓から飛び降りてきた?自殺志願……というわけではあるまい」

 

「そういえば、忘れてた。早く逃げ……」

 

「それはもう遅いんじゃないかなー?」

 

織斑と話しているうちに気がつけば、そいつは隣にいた。

 

投影開始(トレース・オン)!……あ」

 

「「あ」」

 

パニクった挙句、俺はよりにもよって、アーチャーの使っていた夫婦剣のうち片方、干将を投影し、篠ノ之に突きつけていた。

 

投影の技術に関しては特典であることが関係しているのか、一瞬の投影も殆ど何の問題もなく創れる。

 

これもバリバリの宝具であるし、あのアーチャーの奥の手も使えることには使える。どうやら、投影できる剣に関しても情報を頭の中に叩き込んでくれたらしい。わけのわからない武器さえも、俺はそれの使用者と伝承を知っているから。

 

それはそれとして、何やら微妙な空気が流れる。

 

これは非常にまずい。

 

固有時制御に留まらず、投影までしてしまった。

 

……一か八か、言ってみるか。

 

「て、てじなーにゃ?」

 

「「いや、それは無理がある」」

 

駄目みたいでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君凄いね!あんなこと出来るんだ!」

 

「はあ……生まれつきなんとなく」

 

「生まれつきって事は超能力かな?それとももっと別の何か?何もない所から物を生み出すなんて、まるで魔法みたいだけど、非科学的だし……でも、そもそも超能力だってオカルトの域を出ないし……うーん」

 

病室に帰ってきた俺は織斑と篠ノ之に先程のことを問いただされた。

 

喋らないとバラされる気がしたので、仕方なく、虚実織り交ぜて説明。

 

途端、篠ノ之は目を爛々と輝かせたのでこれは死んだなと思い、やるならいっそ一瞬でひねってくれとお願いしたら、「何で殺さなきゃいけないの?マッドサイエンティストじゃないんだから」と至って普通に返された。

 

曰く、「興味のある人間には手は出さない。自分で解明するから意味がある」らしい。まあ、バラしたところで何もわからないんですけどね。

 

織斑は織斑で負けた理由を知ったら、何故か闘志を燃やし始めた。

 

どんな理由であれ、反則や卑怯な事をせずに真正面から自分を倒した俺に興味が湧いたとか。

 

この不思議パワーは反則じゃないのと聞いたら、生まれつきならそれも本人の能力なので反則じゃない、とのこと。いや、器がでかいな。

 

で、今は篠ノ之に投影した干将を見せている。

 

投影はやろうと思えばいくらでもできるが、疲れないわけじゃない。

 

この世界には魔力がないから、地球にある自然の力とかそういうのを俺の中で魔力に還元して使用しているわけで、体力も含めれば一日貯蔵しているのは大体三から四投影分ぐらい。まあ、俺の基礎体力が上がれば増えるし、かなり溜まったんじゃないかな。固有時制御でいくらか持ってかれたとしても。

 

「見れば見るほど凄いね……ねえ、もしよかったらDNAちょうだい!家でゆっくり調べたいから!」

 

「髪の毛とかでもいいのか?指一本とか嫌だぞ」

 

「髪の毛でいいよ……会ったばかりなのに、なんで私の評価はそんなに酷いのさ」

 

がくりと肩を落として、篠ノ之はそういった。

 

だって、原作の篠ノ之束を知ってるからなぁ……寧ろ妥当な評価と言える。

 

髪の毛を一本抜いて、篠ノ之に渡すと、篠ノ之は何やらカプセルに入れて、ポケットに入れる。

 

「ありがと!これでまた私は未知への一歩を踏み出すことができたよ!」

 

「それはよかった」

 

多分、DNAを調べたところで意味はないと思うんですけどね。だって、特典とかだし。肉体変化系をチョイスしたわけじゃないし……あ、でも一応体内で魔力は精製してるから、若干違うかもしれないな。

 

「うん。私、そーくんの事が気にいっちゃった。これからよろしくね」

 

にぱーっと笑いながら、手を差し出してくる篠ノ之。

 

この様子だけ見れば、普通に可愛い女の子で通じるんだけどなぁ……多分違うんだろうな。学校とかじゃ、すっごいテンション低いか、そもそも学校にすら行ってない可能性もある。

 

「まあ……よろしく」

 

とはいえ、危なくないなら、友達になってもいいだろう。いや、寧ろ友達になるとかなり安全だと思うので、是非ならせて頂きたく存じます。

 

妙にこれからを強調したのが気になるところだが、気のせいだろう。

 

「はい。ちーちゃんも握手〜」

 

「?何故だ?」

 

「だってもう私達友達だよ?フレンドだよ?ズッ友だよ?」

 

「ズ、ズッ友?よくわからないが、お前はもう少し他の人間にもそのコミュニケーション能力を回したらどうなんだ?」

 

「へ?なんで?」

 

「……まあ、そういう反応だろうな」

 

こめかみに手を当てて、織斑は溜息を吐いた。

 

これは相当苦労しているようだ。

 

「こんな奴だが、よろしく頼むぞ、天城」

 

「……その言い方にはそこはかとなく不穏なものを感じるけど、よろしく。織斑」

 

と、なりゆきで二人と友達になった時、ちょうど良い感じに父さんが病室に現れた。

 

「ごめん。ちょっと遅れた……ん?」

 

「父さん。母さんは?」

 

「今日は外せない用事があるから、父さんだけだよ。……で、知らない子達だけど、学校の友達か?」

 

「そんなところ」

 

「良いじゃないか、両手に花で。宗介は父さんと違ってモテるみたいで嬉しいよ」

 

快活に笑いながら、父さんは言うものの、母さん曰く『士郎は大変異性に好意を持たれていましたよ。ですが、全く気づかないので、私も苦労しました』との事。そこまで元の人間に似せなくても、と思った。

 

因みに俺の場合はモテるの意味合いがちょっと変わる。

 

母さんのお陰で剣道が化け物じみて強く、運動神経もそれなりに良いもんだから、助っ人とか練習相手に引く手数多というだけだ。固有時制御もあるから、素人でも多少はなんとかなるし、それは当然同性異性問わずなので、好意を持たれているというよりは信頼が厚いの方が正しい。

 

「そういうのじゃないよ、織斑と篠ノ之は。なんていうか……前の試合で興味を持ったから、ここに来たんだって」

 

「ああ、片方はあの時の子か。母さんが感心してたよ。今時君みたいな子は珍しいって」

 

「いえ……私はまだまだです。天城に手も足も出ませんでした」

 

「うちの息子はここぞって時に強いからね。前の大会も優勝したらゲームを買うって約束をしてたから、気合の入り方も違ったわけだし」

 

「ゲーム……ゲームって、小学生じゃないんだから」

 

「うるさい」

 

プルプルと肩を震わせて笑いをこらえる篠ノ之。

 

たまたま欲しいゲーム機が有ったんだから仕方ないだろう。人間、欲には逆らえんのよな。

 

まあ、実際のところ、ここぞって時に強いのは単に特典とかを駆使しまくるからなわけで。

 

速さ、手数、物量などの特典でなんとかなる事が賭けの内容に含まれていれば、それはもう強くもなる。もれなく肉体にダメージがあるわけだけど。

 

「……と、もうこんな時間か。宗介、退院したら爺さんが迎えに来るから。当分、爺さんの家から学校に行ってくれ」

 

「爺さんのって……県が変わるじゃん。急すぎるよ、学校どうすりゃいいんだよ?」

 

「悪い。これも仕事なんだ」

 

父さんと母さんは同じ仕事をしてるって聞いた事があったけど……何の仕事をしているのかは知らない。というか、教えてくれないから、ひょっとしたら人に言えないものなのかもしれない。聞いた時はいつも適当にはぐらかされるし。

 

「……わかったけど、一人暮らしじゃ駄目なのか?もう中学生だし、一人暮らしぐらい」

 

「それは駄目だ。宗介を一人にはできない」

 

「過保護すぎだって……一人でもやっていけるよ」

 

「しょっちゅう原因不明の怪我ばっかりする息子を一人暮らしなんてさせられるか」

 

ぐっ……これは痛いところをつかれた。

 

いつもそれで迷惑をかけているし、俺が親なら全く安心できない。次に帰ってきた時には半身不随くらいになってるんじゃないかと思ってしまう。

 

「それに一人暮らしだと不摂生な生活を送るかもしれないし、若いうちのツケは歳をとってからくるからな。ちゃんと爺さんの言うこと聞いて、健康な生活を送るんだぞ。後、母さんから『日々の鍛錬は怠るな』って」

 

「……了解であります。父上」

 

相変わらず父さんは健康とかにはうるさいなぁ……。逆に母さんはその手の事には大雑把なんだけど、その分父さんはそういう事にはとてもうるさい。

 

「詳しい事は爺さんが知ってるから、また退院してから爺さんに聞いてくれ。じゃあな、宗介」

 

「ああ、いってらっしゃい、父さん」

 

足早に病室を後にする父さん。

 

余程の急用なのだろう。父さんにしては珍しく人任せにしている事が多いみたいだった。

 

「私達もこの辺りで帰らせてもらおう。誤解も含めて、色々と迷惑をかけたな」

 

「じゃねー、そーくん。ばいばーい」

 

「ああ、ばいばい」

 

父さんが帰るのが、ちょうどいいタイミングだったみたいで、織斑や篠ノ之も一緒に帰って行った。

 

二人の話し声が遠くなっていくのを感じ、俺はふうっとため息を吐く。

 

織斑千冬に篠ノ之束。

 

よりにもよって、原作キャラ二人に特典の事を知られる羽目になり、その結果、何故か友達になってしまった。

 

別に悪いことではないと思うのだが、なんとなく、これがきっかけになりそうな気がしなくもない。

 

それがなんなのかはわからないけど、近い内に一波乱ありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして転校初日。その予感は的中する。

 

 

 

 

 

 

 

 


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