特典持ちなのに周りが化け物ばっかでつらい件について 作:ひーまじん
俺ガイルの小説の息抜きに物は試しとよくある神様転生の特典もあるよ!に挑んでみました。
息抜きなので投稿速度は遅いかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
「はーい、どーもです☆呼ばれて飛び出てはひふへほー!皆の崇める神様ですが?」
前半のテンションから後半いきなり冷静になったな……えーと、神様さん。
「そう。私は神。ネタとかじゃなくて神。死んでしまった君を転生させてあげるために現れたわけさ。どう?嬉しい?」
はぁ……まぁ……。特典みたいなものがあるとかなり。
「そこはほら。お約束だし、当然あるよ。ただ……ルーレット方式だけどね」
選ばせてはくれないんですか。
「だって選ばせたら偏りがあるんだよね。皆、チートばっかり選ぶし、やる事なんて揃いも揃ってチートハーレムばっかりだし。そりゃあONE PIECEに学園都市一位の能力でいけば相手なんているわけないよ。色々概念が違うんだから」
苦労してらっしゃるんですね。
「他にもいるよ。東京喰種にネウロのスペックと魔界能力とか。片手で梟を片手間で倒してたっけ。ヒーローアカデミアはサイタマのスペックの時はオールマイトが可哀相だったなぁ。ゴッドイーターじゃ王の財宝使ってアラガミ一掃してた」
凄いですね。皆さん第二の人生謳歌してるみたいで。
「そりゃあね。もれなく超モテ体質は要求されるから、余程の事がない限り転生者の人を好きになるしね。人によれば取っ替え引っ替えさ」
それはまた……。
「そんなわけで。デジャヴュっていうか、そろそろ同じ展開は飽きてきたから、これからは僕が選んだ特典ルーレットで決めるのさ」
ルーレットって……的が全部真っ黒で見えないんですが。
「まあね。その方がスリルがあっていいでしょ。お互いにわからないわけだし」
わくわくじゃなくて、スリルなんですか……それで投げるやつはどこですか?
「ん?的に向けて投げるモーションをすれば勝手に当たってるから。不正は心配しなくていい。神様は公正じゃないと務まらないからね」
じゃあ……とりゃ。
「お、一発で当たったね。これ投げるやつが見えないから、二、三回外す人が多いんだよ。えーと……お、やるね。特典は……『エミヤ』に関する魔術だ」
エミヤって……あのfateの?
「そうそう。ただ、『エミヤ』だから。シロウだけじゃなくてキリツグもあるのさ。嬉しいだろう?」
嬉しいです。……あ、因みに他の候補は何だったんですか?
「気になるかい?仕方ない。決まったわけだし、見せてあげよう。オープン」
妄想幻像、幻想殺し、螺湮城教本、エゴのミニマム……あの、何ですか、この嫌がらせ。
「はは、実を言うとそろそろ面白くないからハードモードでも良いかなって思って。因みに妄想幻像の場合は君の人格を強制的に八十に増やす。ああ、もちろん特技は自分で何とかしてもらうから。幻想殺しは言わなくても良いよね。螺湮城教本は生贄が必要さ。行く世界次第じゃ生贄は必要ないかもしれないけど。エゴのミニマムはちゃんとコントロールできないとミニマムホルダーで溢れかえる。もちろん君はエゴのミニマムホルダーだからそれ以外の能力は発言しない。どう?楽しそうだろ?」
……そうですね。死んでおいてアレですけど、自分の運に感謝します。よくもまあ特典どころか足枷にすらなりそうなものを貰わなくて済んで。
「違いない。一個だけ言い訳がてら当たりを入れてみたけど、それを当てたのは運が良い。使い方については直接情報を脳みそに叩き込むから。二回目の人生を謳歌しなよ、名もなき転生者くん」
というわけで、無事転生を果たした俺の名は天城宗介。
もちろん、この世界での名前であり、以前の名前に関しては全く忘れている。おそらく、間違えて昔の名前を名乗らないようにと神様の計らいなんだろう。
目を覚ました時にはいきなり七歳児。記憶の方は天城宗介の数年分と過去の俺のものがあった。そして特典のこと。
初めは使うのに四苦八苦したものの、今はある程度慣れたし、母から剣術を習っているため、戦闘能力に関しては一般人の中でそれなりにあると思われる。
どこの世界に転生したのかは知らないが、願わくば命のやり取りをしない世界が良いな。何て思っていたのは既に昔の話である。
「宗介ー、準備はできましたかー?」
「出来たー。今行くー」
転生してかれこれ六年経つが、未だにこの世界が何の世界なのかはわからない。
俺のいた世界と違うのは確かなのだが、学園都市みたいなものはないし、ともすれば魔法学校とかそういうものもない辺り、裏の世界とか、ひょっとするとヤンキー漫画の可能性もある。
違う事が分かったのは、俺の父と母の存在。
何せ、姓は違えど顔も声も父は衛宮士郎その人であり、母もまた騎士王アーサーのまんまなのだ。
神様はどうやらその辺りの調整をするのが至極面倒だったらしい。見た瞬間、この世界はFateなのかと思いかけたが、姓とFateの原作キャラがこの二人以外不在ということ、見た目は騎士王だが日本人とイギリス人のクォーターという事もあり、その辺はなくなっていた。
ぶっちゃけた話、そろそろ何の世界かっていうのはそこまで重要ではなくなりかけていた。
特典は貰ったが、世界次第では俺なんて瞬殺。なら、原作とは関わらず生きたほうがよほど建設的なのかもしれない。特典の意味はあまりないけど。
「宗介。今日は剣道の大会、もう少し気を引き締めるべきですよ」
「わかってるよ、母さん。でも、母さんより強い人をまだ見た事ないよ」
俺の母はどうやら剣術の方も騎士王並とまではいかないが、超強い。段持ちだし、未だに一本も取れた試しがない。今現在俺の目標とする人物だ。
「だとしてもです。今日は部活動ではなく、一般の大会なのですから、まだ見ぬ強者がいるかもしれない、ということを肝に銘じておきなさい」
とは言ってもなぁ……いくら県をまたいで参加するとはいえ、特典による裏技を含めた俺は未だに母以外に負けた事はない。幼い頃から鍛え上げられた剣術と目、そして勘に関してはよほど汚い手を使われない限り負ける気がしない。
おまけに一般の大会と言っても、中学生限定の男女混同である。優勝すればゲームを買ってくれるという事で多少は気合が入っているものの、『どうせ母さんより弱いし』と思ってしまう。
「舞、宗介。早くしないと間に合わないぞー」
「すみません、士郎。さあ、行きますよ、宗介」
「りょうかーい」
試合の方はともかく、今日は俺の娯楽がかかっているんだ。
とりあえず、強い弱いは置いておいて、ちゃちゃっと優勝してしまおう。
ワーっという歓声と共に拍手がホール内に響く。
勝ったのは俺で、例のごとくストレート勝ち。
別に相手は弱いわけじゃなく、この手の大会に出る人間は腕に多少の自信がある輩なのだろう。それなりに強い。
ただ、やはり母さんのほうが強い。常日頃から、一番強い人と稽古をしている俺からしてみれば、全てが遅く思える。フェイントなんてあってないようなものだ。
「お疲れ、宗介。またストレート勝ちだったな」
「普段母さんと稽古してるんだから、そこらのやつには負けないよ」
「油断は禁物です、宗介。あなたの他にも強い人間はいるのですから」
母さんが言った矢先、ホール内が沸く。
試合は見ていなかったが、おそらくあちらもストレート勝ちだろう。俺より少し後に始めたのにもう試合が終わっていた。
「彼女もそうですね。剣に迷いがない」
「彼女?あれって女の子なのか、母さん」
「ええ。ですが、武道武術に性別は関係ありません」
「……母さんが言うと凄い説得力あるよな」
男とか女とか、そういうのは些細な事なんだと母を見て、しみじみと思わされる。元より女だからと油断はしないつもりであるが。強いやつは強い。
「おそらく、宗介の決勝戦の相手は彼女になるでしょう」
「まだ三回戦だぜ、母さん。そんな事言っていいのかよ」
「純然たる事実です。よほどの事がない限り、宗介や彼女に勝てる人間はこの場にはいないでしょう」
「なんだかんだ言っても、母さんは宗介に甘いよな」
「し、士郎!?そういう言い方はやめてください!私は全ての試合を見たうえで話しているだけで、甘やかしているわけでは」
「わかってるわかってる」
……やっぱりこの二人。何年経っても衛宮士郎と騎士王にしか見えん。先入観だけじゃなくて、もうやりとりとかその辺も。後、公然でいちゃつくのはやめていただけますか、ご両人。息子の肩身が狭い上にとんでもなく恥ずかしいので。
「と、ともかく、彼女との試合は私と稽古をしている時と同じ気持ちで当たったほうがいいでしょう。私の見立てが正しければ、彼女は宗介、あなたよりも強い」
落ち着いた母さんはそう口にした。
俺よりも強い……?
成る程、母さんが言うなら確かにそうだ。試合を見ていない以上、どんな強さを誇るのかはわからないが、さっきの触れれば切れそうな程の隙の無いまるで一本の刀のようなオーラ。俺より強いというのは納得できる。
それ以上に強いの度合いにもよるが、母さん以外で初めて、俺よりも強い人間がいる。
もしかしたら、彼女とは尋常じゃない試合をできるかもしれない。
そう思うと心が躍る。
母さんとは実力差がありすぎて、楽しみもへったくれもなかったものの、もし一段階上ぐらいなら、実力が拮抗しているのなら。
この大会。ゲーム以外にも参加する価値はあったのかもしれない。
俺は風に当たろうと一度ホールから外に出る。
あー、熱い。
剣道をやるのはいいが、やり終わると汗まみれでもう凄い事になってる。水をぶっかけられたのかってくらいだ。
クーラーとか効いていればいいんだが、そういうわけにもいかず、さらに人の熱気でもう嫌になる。剣術はいいけど、剣道が嫌なのはその辺ぐらいだろうか。
中と違って、外は思いの外静かだ。
聞こえるのは車の走行音と中の少しの喧騒だけ。後は……カラスの鳴き声くらいか。
どこか適当なところに座って、スポーツドリンクでも飲もうかと辺りを歩いていたら、いい感じに風通しの良い日陰になっている場所を発見した。
ラッキー……と思ったら。
「あれ?先客がいたか」
そこには既に一人の少女がいた。
胴着姿に首からタオルをさげ、水を飲んでいる辺り、彼女も参加者の一人のようだ。
少女は俺を一瞥した後、何事もなく、視線を虚空へと戻す。どうやら特に話をするつもりも無いらしい。
少し離れた場所に腰を下ろして、俺もスポーツドリンクを飲む。
気まずいといえば気まずいけど、あちらは全く話すつもりは無いらしいし、俺も無理して話しかけようとは思わない。
……ただ、何処かで顔を見たような気がするんだけど……はて。
まあ、人の顔を覚えるのはあまり得意では無いし、何処かですれ違った程度なのだろう。
なんて考えていると、少女はスッと立ち上がって、どこかに行ってしまった。どこかに行ったと言っても、ホール内に戻っただけだろうけど。
さっきの子といい、俺より強いと言ってた子といい、最近の女子は強いんだなぁとしみじみ感じさせられる。
ひょっとしたら、女の子が活躍する世界なのかもしれない。だとしたら、俺に出番なんてあったもんじゃ無いが、その時はその時か。命懸けの闘いに巻き込まれなかっただけ、良しとして生きていくしか無いな。
大会はあっという間に進んでいき、いよいよ残すところ決勝戦となっていた。
決勝戦は母さんの予想通り、俺と例の女の子。
ゲームとかその他諸々がかかっている俺はいつぶりか、試合前に軽く精神統一をした後、試合に臨む。
竹刀を持ち、試合場に入って二歩進んで礼をした後、三歩進んでの辺りでふと視線が防具についている名前のところにいく。
名前に興味があったわけじゃ無い。本当にたまたまだった。
だが、その名前を見て、俺は危うく変な声をあげそうになった。
そこに書いてあった名前は『織斑』。
『織斑』で女。休憩中に外で会った女の子。そしてどこかアニメや漫画、ライトノベルの世界であるここ。
何かがかちりと噛み合うような音がした気がした。
織斑ってあの織斑千冬なのか!?
インフィニット・ストラトスと呼ばれる世界において、まさしく世界最強。IS乗りとしての描写こそ無いものの、生身でIS武装を振りまわせる上に倒すことはできなくとも、ISと正面から戦うことのできる正真正銘の怪物。
中学生しか参加できないこの大会に参加していることと、まだ世の中にISというものが存在しない事を考えるにもしかして原作前なのか?いや、だとしてもなんでよりにもよってこのタイミングで織斑千冬と会うんだ!中学生っていっても、多分化物並みに強いぞ!?俺の優勝した後のゲーム天国をどうするんだ!?
内心で悪態をつきながらも、トントン拍子で進んでいき、後は審判の始めの合図を待つだけである。
少し前までの余裕はどこへやら、相手が織斑千冬の可能性が高いとわかるやいなや、俺の勝率は激減した。
一挙手一投足を見逃さないように相手を見ながら、聴覚はただ審判の合図に傾ける。
「始め!」
来た、とそう思った瞬間には既に彼女は眼前に迫っていた。
速すぎだろ!と心の中でツッコミをいれる暇もなく、吸い込まれるように俺へと振るわれた竹刀は綺麗に面を……。
バシッ!
打ち抜く前に殆ど脊髄反射の領域で出た竹刀が受け止めていた。
それには俺も驚いたが、相手は全く意に介さず、すぐにガラ空きの胴に狙いを切り替えた。
これは負ける、自分の敗北を確信した俺は、咄嗟にあの言葉を口にした。
「
その詠唱とともに、周囲の動きが遅くなったような錯覚に囚われる。
実際のところは周囲が遅くなったというよりは、俺が速くなっているだけに過ぎない。
後ろに下がってはどちらにしろジリ貧。
ならばと一歩踏み込み、今度は俺が竹刀を彼女の胴めがけてふるう。
バシンッッ!!
こちらの一撃が彼女の胴をとらえた。
「一本!」
審判の言葉とともに旗が挙げられ、息を飲んでいた観客が一斉に歓声をあげる。
固有時制御が解け、その直後身体に一気に負担がかかる。
この固有時制御は体内を固有結界とし、術者の時間を加速・減速を行えるというものだが、その際に術者の時間と世界の時間の間に生まれた齟齬を修正するための負荷がかかるため、連続使用する事は無謀に近い。とされるのが本来のもの。
どうやらこの世界。Fateのような魔術関係の世界で無いためか、世界からの修正はそこまで強く無いらしく、二倍速を使用した後でも一度だけなら急激な疲労程度で済むのだ。これがFateの世界では無いと確信した理由の一つでもある。
続く二戦目。
こちらの攻めが効いたらしい。先手必勝とばかりに攻めてきた彼女は、今度は間合いを測り始めた。
防いだ事はまぐれで済まされるが、予想以上の速さで攻められたことが、彼女の中では警戒するに値するらしい。
後の世界最強に認められたような気がして、少し嬉しかったりするが、気を引き締めて、呼吸を整える。
今のままでは駄目だが、固有時制御を使用すれば、反撃することができるのはわかった。
後はタイミング次第。相手の攻めに合わせて、固有時制御を使い、カウンターで倒す。
間合いを測っていた彼女が一歩、二歩と踏み込んだと同時に仕掛ける。
「
加速に合わせて一気に踏み込む。
間合いを測って、その上で攻めてきたのなら、倍速で動いて、間合いを急速に詰める。
そうすれば、相手の目論見は外れ、その間合いの取り方は致命的になる。
試合開始とは打って変わり、勝利を確信した俺だったが、今度は俺が驚く番だった。
踏み込んだと思っていた足はそのまま後ろにひかれ、彼女は一歩後ろに下がった。
フェイント!?と思ったのも束の間、完全に攻撃の間合いを測り損ねた俺の一撃は空を切り……そのまま彼女の竹刀が振り下ろされる。
マズい。
もしこのまま三本目に持っていかれれば、この身体では瞬殺されるのがオチだ。
そうすればゲーム天国はご破算、母にしごかれる毎日が始まる。
それだけは避けねばならない。俺の安寧のためにも、今はなりふり構っている場合では無いのだ。
「
倍速になっていた時間を解除し、等倍に戻す。
途端、疲労感に上乗せされる形で全身を激痛が襲う。
短時間での倍速の連続使用は流石にマズかったらしいが、今はどうでもいい。それよりも次に来る痛みに耐えなければ。
等倍に戻ったことで、あちらも竹刀を振るまえにピタリと止まった。
そこから止まれるのかよ、とボヤく暇もなく、俺は再度詠唱した。
「
二倍で対応されるなら、そのさらに上を行くだけだ。
ブラックアウトしかける視界を歯をくいしばって耐えきり、相手が反応しきるまえに面を打ち抜く。
「い、一本!」
審判が僅かに戸惑いながら、そう宣言するとホール内が 一気に沸いた。
一瞬の闘いだったが、まあある意味人知を超えていたと思う。倍速で動くやつと、それに対応する化物。こいつら絶対人間じゃねえだろ。
試合が終わり、最後に礼をしようとした時にふと身体に痛みが無いなあ、と思っていたら、礼ついでに頭から床に突っ込んだ。
ああ、成る程ね。
限界超えて、何も感じなかったわけだ。
勝利の余韻に浸る間もなく、俺の意識は闇に落ちた。