めざめてソラウ   作:デミ作者

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そろそろ知識の浅さが露呈してきたザコ型月おじさんです。
感想欄で沢山意見を頂いたことを反映させて頂き、前半は前回のアレに関するフォローから入ってます。
いつも助かってます、本当にありがとうございます!

これからもご意見やご感想、批判点など宜しくお願いします!


目覚めつつあるソラウ、十三歳

 降霊術、という魔術系統が存在する。

 読んで字のごとく、霊を降ろし、それを使役し、あるいはその霊の力の一端を借り受ける魔術だ。俺――ソラウの生まれたソフィアリ家はこの降霊術を生業とする魔術の大家であり、当然ながら他の魔術師の家系よりもこの魔術に秀でている。それは血であり、知識であり、魔術刻印である。

 そして、当たり前のように俺の身体――ソフィアリの第二子として生まれたソラウの身体にも、その血は流れており、俺の育ったソフィアリの屋敷には降霊術に関する蔵書が山のように存在する。刻印こそ引き継げはしないが、生まれ持った血を十全に活かす分には問題ない。

 そして、だからこそ、俺はそれら蔵書を読み漁り、術式を解析し、盗み、血に馴染ませ、『ソフィアリの財産』の全てを『原作知識』を組み合わせることを当然のように発想し――

 

「……でも、やっぱマズったかなぁ」

 

 ――結果、去年のこの時期に、とんでもないことをやらかしてしまったらしい。

 擬似……と言うには烏滸がましい、型落ちあるいは粗悪品の『カルデアスの原型』の製作。あれは、俺の存在を降霊科のロード(お父様)天体科のロード(マリスビリー氏)に刻み付けるには十分、いや十二分に機能したようだ。

 そもそも、何が問題だったのか? その結論から言えば、『何もかもが問題だった』と言わざるを得ない。

 件の似非カルデアス製作、俺にとっては――理論的な意味では――決して難しいことではなかった。なぜなら、『完成形』と『結論』……即ち、『答え』が分かっているのだから。出発点が他人とは違う、と言い換えても良いだろうか。

 例えば、『カルデアス』とは、地球に魂が存在すると仮定した上でその魂をコピーし形にしたもの。よって俺以外の魔術師はまず、その魂の存在を確かにする術式の構築から始めなければならない。また、カルデアスが完成したとして、それをどのように使い、どのように稼働させるかもまだ手探りの段階だ。故に、現段階の開発はまず『カルデアスに可能な事柄の最大限度』を探すというプロセスを踏まなければならない。これは、相当な手間だ。なにせ、結果的に無駄に終わるかも知れない数多のことにも力を注がねばならないのだから。

 ――だが、俺は違う。なぜなら、他ならぬ俺だけは『完成したカルデアス』を知っているのだから。ゴールを知っているのだから、そこに至るための道筋を模索するのも楽になる。『カルデアスは地球の魂をコピーしている物』なのだから、『降霊術と置換転換術式を応用すれば良いのでは』と言うように。そこに、『地球の魂の有無を確認する』だとかの面倒かつ無駄な作業は必要ない。

 ……これが一点目の間違い。そしてもう一つ、二点目の間違いは使用した術式が不味かったことだ。

 俺が似非カルデアスの製作に当たって使用した魔術は降霊術、転換魔術、置換魔術。だが、そこに使用した理論はプリズマイリヤに於けるエインズワースの埒外の置換を基にしたもの。そして、その埒外の置換を模したものを活用できるようにチューニングした降霊術と転換魔術の術式だった。そして、そのチューニングした降霊術こそが問題の肝となる。

 ここで、エインズワースの置換を振り返ってみる……と言っても今更理論を振り返る訳ではない。ここで思い返すのは、俺がいつもモチーフとしていた、彼等の象徴となる絶技――即ち、クラスカードの作成について。

 勿論、俺はクラスカードの作成なんて出来ない。が、そこにある程度までなら迫ることは出来る。それは俺が原作知識を持っていることと、転換置換を得意とすることが原因だが、その根底にあるものを知っていると言うのも一因だ。

 クラスカードの根底となる物、それが何であるかは言わずもがなであろう。そう、冬木における英霊召喚だ。

 詰まる所、俺は『冬木における英霊召喚の技術をモチーフにした置換魔術に合わせて、降霊術を変質させて使用した』と言うことになる。

 第二の問題は、これだった。厳密に言えば冬木の英霊召喚、そこに用いられている『魔法』の一端……術式に第三魔法の一端が用いられていたことこそが地雷だったのだが。

 製造において、俺の主観的に言えば『サーヴァント召喚・夢幻召喚の発想を置換魔術と降霊術に応用して他の魔術と組み合わせただけ』だけだった。だが、それを目撃した二人がいけなかった。

 片や『降霊術』に関して尋常でない腕と知識を持つ降霊科のロードである俺の父、片や将来聖杯戦争に参加する可能性が存在し、英霊召喚に対して造詣の深いであろうマリスビリー氏。二人から見れば俺は、『第三魔法を基盤とした魔術理論を応用した魔術を更に改良して使用した』風に見えてしまったのだ。しかも、それらに関する知識が一切無いにも関わらず。

 無論のことだが、俺は第三魔法を基にした魔術式など全く知らない。が、そう見えてしまったことが運の尽き――いや、ルートの分かれ道とでも言おうか。期待に目を輝かせたマリスビリー氏を見送った後、見たことが無いほど真剣な顔をした父に魔術についてあれやこれやと質問をされ、ついでに今まで行っていた魔術訓練等について洗いざらい喋らされた結果――

 

『ソラウ。ソラウ、準備は出来たかね』

「――はい、お父様。私の用意は終わっております。それでは今日も向かいましょうか――()()()へ」

 

 ――俺は弱冠十三歳にして時計塔に入学することとなっていた。

 

「……うむ、問題は無さそうだな、ソラウ」

「ありがとうございます、お父様」

 

 魔術回路のスイッチを()()()返事をする。体感時間を引き延ばし、思考を高速化させていた魔術が抜けるにつれて、思考速度が通常程度に落ち着きつつある頭で準備をする。俺は傍に置いてあった上質な革のバッグを片手に自室の扉を開き、父の前へと出る。服装はこの一年で馴染んだもの――原作ソラウが纏っていた衣装を、今の俺の年齢に合わせてダウンサイジングしたものだ。上機嫌で鞄を片手に提げた俺は、そのまま父に連れ添って時計塔――大英博物館地下ではなく学術都市の方だ――に存在する、ソフィアリの()()から外へと踏み出した。

 

「今日は……そうね、降霊科の講義を聴いて、私のお仕事を済ませたら後は自習にしましょうか」

 

 時計塔での俺の仕事は二つ存在する。

 一つは勿論、魔導の探求を志す者として講義を受け、魔導の研鑽を積む仕事。最近の俺はどうやら『兄のスペア』から『兄のスペアかつ高品質な魔術師に成長する可能性のある子供』にランクアップしたようで、魔術の研鑽を積むに当たっての補助や口利きを受けられることも増えた。

 メインで所属し学んでいるのは、もちろん父の管轄する降霊科。本当ならば他の様々な学部の魔術についても学んでみたかったものだが、流石にそう上手くはいかない――一箇所、天体科を除いてだが。

 そう、おそらくマリスビリー氏の口利きだろうが、俺はサブとして天体科の施設にも出入り出来ている。どうやら俺……というより『降霊科(ソフィアリ家)の娘が天体科に出入り出来ている』という事実自体がソフィアリとアニムスフィアの友好性を示し、権力争いに対する牽制となっているようであるのだ。そんな関係で、俺は天体科の講義にも出席することを義務付けられている――俺にとってはメリットしか無いが。

 そしてもう一つ、俺が時計塔で父から課されている仕事が存在する。それは、時計塔に於ける父の秘書役だ。

 主に講義時間や他の幹部との会合の日程を調整したり、父の行う講義内容を纏めた文書を作成したり。後は、ごく偶に父の講義の補助を行うこともある。本来ならば兄であるブラムが行う事なのだろうが、彼は現在ソフィアリ家にとって最も重要な刻印の移植を段階的に行っている最中。加えて、ブラムは次期ロード故に法政科にも通う必要がある。簡単に言えば、秘書仕事など今の彼にはやっている暇が無いと言うことなのだ。故に、その代役を俺が務めているという訳だ。

 だが、その秘書業務も案外捨てたものではない。スケジュール調整などの雑事を行う際には『体感時間を引き延ばす魔術』を行使すれば――言うまでも無いが置換の応用である――良い訓練になるし、父の講義内容を纏める際にはその内容を学ぶことが出来る。講義補助として魔術を行使する際などは事前に父から手解きを受けられる為、これまでと比べれば格段に改善点を指摘されることも増えた。要するにこの環境は、俺にとっては良いことずくめなのだ。

 

 ――まあ、その全ては『ある一つの目的』の前には瑣末事なのだが。

 

「置換の精度に関してはどうしようもないし、そろそろ本格的に使える全ての魔術を組み合わせることを考えた方が良いかしら。いえ、『zero』に備えるならば礼装を充実させることも必要ですし、そう考えるならばやっぱり夢幻召喚をどうにかしてモノにしなければ――あら?」

「や、やあ。おはよう、ミス・ソフィアリ。今日も良い天気だね」

 

 その『ある一つの目的』そのもの。俺が時計塔に所属するに当たって、最も重要視していたそれ――ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。今はまだ十六歳と年若い彼が、父と別れて歩いていた俺の前へと現れた。

 

「あら、御機嫌よう。アーチボルト家次期当主にこんな朝から出逢えるとは、私は運が良いわ。けれど、どうにも空は曇っているようよ?」

「あ、ああそうだね。私としたことが、うっかりしていたようだ」

 

 我々型月厨にとっては大人気の彼、言わずと知れたケイネスと会話しながら講義教室までの道のりを歩く。彼とは、既に父の秘書業務を通じて幾度か出会っている。最初に出会ったのは数ヶ月以上前になるが、それから彼はずっと出会うたびにこうだ。まあ、俺がソラウなのだからそれも予想通りと言えよう。

 隣に立つケイネスは、その年齢も相まってか俺よりも頭一つ以上背が高い。対する彼は上機嫌に口を動かしている。なぜ、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが俺にとっての最重要案件であるのか。それは偏に、彼が『この世界を原作通りに進める為に必要なキャラクター』だからだ。正確に言えば、俺――ソラウが死ぬ寸前まで原作通りに進めるため、だが。

 俺――ソラウはとても死に易い。その原因は、間違いなくこのケイネスだろう。俺がソラウであり、ケイネスが父の教え子である以上、俺は必ずこのケイネスの婚約者とならなければならない。そしてケイネスのとばっちりを受けて死ぬ。その最たる原因は第四次聖杯戦争での敗死だが、それがあっても無くてもケイネスは死ぬ。そして俺も死ぬ。

 その死の運命からの離脱において、最も最初に思い浮かぶことは『第四次聖杯戦争に勝利すること』だろう。原作知識を活かして他の陣営を倒し、戦場全てを俯瞰して危機を逃れる。あるいは、衛宮切嗣だけは先に殺しておく等の戦法を取って勝つのも良いだろう。事実、俺もまだソラウに転生する前はそう考えていた時期もあった。そう、『時期もあった』。

 今はそう考えてはいない。むしろ、何があっても勝っては――聖杯を顕現させてはならないと考えている。その根拠となるのは『Fate/Grand Order』の期間限定イベントの一つ、通称ゼロイベだ。

 ゼロイベにおいて俺が注目したのは、抑止力によって現界したアサシンが登場したこと。無論一型月厨としてはその正体やら活躍やらに悶えたりしたことは確かだが、今注目すべきはそこでは無い。

あのアサシンは、アイリスフィールを始末するために現界した。『間違いなく顕現するであろう聖杯の器であるアイリスフィール』を狙って。

 この事実が示すものは一つ。即ち、『第四次聖杯戦争において聖杯の顕現が確実となった場合は抑止力が仕事をする』と言うことだ。

 つまり、勝てない。いや、勝ってはいけない。聖杯は原作通りに切嗣とセイバーに破壊して貰わなければいけないのだ。むしろそう考えると、原作の第四次聖杯戦争に集ったマスターの中で最も魔術師として格上だったケイネスが切嗣に殺されたのも抑止力の後押しあってのものだったのかも知れない。

 ともあれ、俺たちは勝ってはいけない。切嗣を勝たせた上で、つまり敗北した上で、生存していなければならないのだ。これほど難易度の高いものがあるだろうか。本音を言えば救える命は救いたいが、そんな事よりもまず自分の命だ。

 最悪、ケイネスだけに死んでもらって俺はとんずらでも構わない。いや、むしろそれが一番生存確率は上がるかも知れない。

 

「――それでだね、ミス・ソフィアリ。なんと、私はもう直ぐで講師となるのだよ。時計塔の講師に。これは降霊科では最年少の抜擢らしい。それもこれも、君のお父上の教えあっての賜物だよ」

「流石はエルメロイの俊英、アーチボルト家次期当主ね。父もよくあなたのことを褒めているわ。彼は間違いなく天才だ、と。願わくば、一度あなたの語る魔術理論なんて聴いてみたいものね?」

「……っ、ああ、君にそう言って貰えると光栄だよ」

 

 ――四十八の美少女奥義の一つ、『ソラウスマイル』!

 いつの間にか進んでいた会話に適当に、花の咲いたような笑顔で相槌を打ちながら歩く。そう、これもまた俺の生き延びるための計画。ケイネスを今のうちから、少しでも俺が操縦し易いようにしておく。その為だけに、俺は彼と交流を続けているのだから。

 

「ああ、ミスター? 良ければ今度買い物に付き合って貰えないかしら」

「……! あ、ああ喜んで! それで、何を買いに?」

「下着よ」

「えっ」

「――うふふ、冗談よ。私はそんなに羞らいのない女に見えた?」

 

 頭の中で、いかにケイネスを生贄に生き延びるかを構築しつつ、俺達は歩幅を揃えてゆっくり歩く。

 ――すまない、ケイネス先生。本当にすまない。

 心の中で形だけの謝罪を繰り返しつつ、俺達は、表面上は和気藹々と降霊科の講義教室へと向かうのだった。




ケイネス先生は報われます(ネタバレ)

もっとこう、美少女ソラウちゃんがいろんな男を骨抜きにする話を書こうと思ってたのにどうしてこうなるんや……。
ケリィとアイリがイチャコラしてるとこに乗り込んで「どうも愛人二号です☆やっほー本妻さん☆ねぇケリィ同盟組もう???」「えっ」ってギャグをぶちかませなくなってしまう……。

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