めざめてソラウ   作:デミ作者

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繰り返しますよ。
この小説はわりと不真面目な内容です。考察はわりと真剣にやってますけど。
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ソラウちゃんと冬木市ハイアットホテル

 冬木市ハイアットホテル。

 聖杯戦争の行われるこの冬木市、新都に新しく完成した高級ホテルの名前。未遠川を跨いだ東、冬木の中で最も高いセンタービルの近くに建てられたこのホテルは、その立地や掛けられた金に恥じないほどの満足を、宿泊客に与えてくれるだろう。

 最上階はスイートルーム。最上階や、そこでなくとも高層から眺める新都の夜景はまさに圧巻。夜景と川、そしてその川の流れ込む海。晴れた夜に月が海に沈む景色の見事さなど、それだけでハイアットホテルの評判が広まり高まるほどだ。

 そして、そのホテルの最上階、スイートフロアを丸ごと豪華に貸し切った者こそ――何を隠そう、我らがケイネス先生と言うわけだ。

 しかしこのハイアットホテル最上階、一部屋取るだけでも生半可な値段ではない。それを一フロア丸ごととは、アーチボルトの財力は無尽蔵か……と考えた事もまあありました。けれど、よくよく考えれば俺――ソラウの実家、ソフィアリ家の財産もまた似たようなもの。少なくとも、俺が使途不明に結構な額を使い込んだとしても追及すらされない程、魔術の名家とは金があるものなのだ――例外(トオサカ)は除いて。

 とまあ、そんな訳で俺は考えることを辞めた。どうせ直ぐに爆破されるのだ、なら、せめてそれまでの間は好きに使わせて貰おう。そう思い立った俺は――

 

「…………んっ、ふぅ。流石は高級ホテル、という訳かね。いやあ、俺、こんな良い風呂入ったこと無いよ」

 

 ――思う存分、バスタイムを満喫していた。

 倉庫街の戦いから帰還した俺は意気揚々と凱旋するケイネス・ランサーの二名とホテル近くで合流し、意気投合する二人を胡乱げな目で見ながら最上階へと帰還した。俺は勿論この後に起こることも知っている、故にすぐさま次の手を打とうかと思考していた際に声を掛けられたのだ。君は風呂で疲れを落としてはどうかね、と。

 どうやら彼等は俺の胡乱げな――こいつらなんでこんなに仲良くなってるんだよという視線を、精神的疲労によるものだと認識したらしい。

 初めは断ろうと思ったものの、良く良く考えてみれば次の策の為にはケイネス達の余裕が無くなる方が良く、またホテル爆破までの間に態勢を整える時間が無い方が都合がいい。そんな訳もあって、俺はその言葉に従い、()()()()を施してから彼等より先にバスタイムに突入した訳だ。まあ、潮風に当たりっぱなしで気持ち悪かったのも事実だから有難いと言えば有難いのだが。

 

「しっかし……うん。……うん」

 

 少し熱めの湯に浮かべた薔薇の花弁を指で弄びつつ、全身の筋肉を解してゆく。緊張と疲労でかちかちに固まった脚を爪先までぐっと伸ばし、脚を組み、バスタブの淵に伸ばして置く。俺は、何とはなしにその脚へと目をやった。

 すらりと伸びたそれは健康的ながら色香を感じさせ、透き通った白い肌は湯の熱のせいか仄かに桃色に染まっている。そこから順に視線を滑らせれば、たおやかに曲線を描いた太腿、身体全体のプロポーションの肝となるヒップ。次は下腹部――と行こうとした所に、いきなり飛び込んでくる所がある。

 それがバスト。つまり胸だ。全体の半分ほど湯に浸かり重力から解き放たれたそれを、俺はおもむろに下から持ち上げてみる。

 

「……重い」

 

 細い腕にかかる重量感と、指にめり込む弾力と柔らかさ。そのバストサイズ――九十一。なんと、原作のソラウがこの時期に記録していたバストサイズ八十八を優に上回る、かのリーゼリットに迫る数値を叩き出していたのだ。

 そして肝心のその理由だが……これには深い、本当に深い理由がある。自分でもどうしようもない、仕方がないと思える理由が。

 俺の精神は男としてのパーソナリティを持っている。これは俺の前世が型月厨の男だったこと、そしてその自我を何故か引き継いでいることが理由だが、二十年弱女性――それも美幼女、美少女として生活して尚精神が女性に染まらないのは、俺が自分に施したある魔術に依るものだ。

 

 それは『記憶を魂に刻み込む魔術』。完成した魔術として成っていないどころか、そもそもが幼少期に無理やり行った魔術だ。

 その効果は読んで字のごとく、自らの保有する記憶を魂に焼き付け刻み込む、つまり何があっても忘れないようにする魔術。

 それを行った理由は、型月世界に生きる上で俺が引き継いだ『原作知識』の数々がどんな宝よりも貴重になると理解していたから。

 そして、それがもたらした結果こそが、数々の『原作知識』と密接に結びついていた俺の自我を、原作知識ごと魂に深く深く刻み付ける、といったものだった。

 

 つまり、俺の『男である』という自我は最早どうしようも無いくらいに俺の魂に焼き付いている。以前――と言っても結構前だが――ソラウの人格を再現する上で自らの精神構造を作り変える魔術を試してみたことがあったが、全く作用しないうちに霧散する結果となったことがある。つまり、俺の人格、自我は俺が俺として生きる限り変わらない、変えられない。

 ……さて、それが何故ソラウボディのバストサイズ増加問題に繋がるのかと言うと、実に簡単な話である。俺も男だった、と言うことだ。

 いやだって、仕方ないじゃん。寝ても冷めても鏡に映るのは美少女だし、聞こえてくる声も一級品だし、男としての意識が残ってるからいつまで経っても身体を『自分の身体』ではなく『他人の身体』として見てしまうし。霊体でも何でもない肉の身体を得て食欲と睡眠欲を日々感じているにも関わらず()()()()を感じない訳もなく。

 

「……何度触っても、柔らかいよなぁ」

 

 ごく健全に、色々とやってきたのだ。そりゃもう色々と。

 魔術の訓練と淑女教育に明け暮れ娯楽なんて殆ど無かったから、なんやかんやと。成長したら成長したで元の身体との違いに目が行ってなんやかんやと。男とは違い芯に残り、何度でも繰り返せる()()()()に翻弄されてなんやかんやと。

 そもそも、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリという人物は感情の薄い人間だった。原作においてもそれはディルムッドと出会うまでは変わらず、他者になど興味が無かった筈だ。そんなソラウが俺程に()()()()訳がなく、しかしそれでいてzero随一のプロポーションを誇っていたのだ。そこを、『Fateって元は十八禁だからしょうがないよね!』なんて言い訳をせざるを得ない程に色々として来たならば、女性ホルモン等が原作以上に分泌されるのは当たり前で。

 結果――このソラウボディ、あるいはソラウバストは原作を超えてしまったと言う訳だ。正に『約束された勝利の胸(エクスカリバスト)』、否、原作を超えて豊満になったから『最果てにて輝ける胸(バストミニアド)』と呼ぶに相応しいと言えるだろう。

 

「……上がるか」

 

 そんな『最果てにて輝ける胸(バストミニアド)』を鷲掴みにしていた指を離し、俺は湯船から立ち上がる。シャワーで汗と花弁を流し落とし、浴室の戸を開ける。いかにも高級そうな手触りのバスタオルで全身の水気を取り、魔術で髪を乾かす。下着を身につけ、ハイネックのシャツを着れば、俺は上機嫌を装って二人の元へと戻っていく。

 

「先に頂いたわよ、ケイネス」

「ああソラウ、おかえり。疲れは取れたかい?」

「お陰様で、もう十分にね。それにしても随分楽しそうじゃない?」

「ふむ、そう見えるかね。いや、楽しいのは事実なのだけれどね、ソラウ。ランサーの話――神秘の色濃く残る時代の英雄譚は、私の想像を超えるものばかりだからかな」

 

 リビングへ戻れば、ケイネスとディルムッドが談笑している所だった。ケイネスはいつもの青い外套をハンガーに掛けソファに腰掛け、ディルムッドはそれより少し離れた()()()の中で直立している。別にこれは、ケイネスがディルムッドに嫌がらせをしている訳ではない。彼を立ったままにしたのは、誰あろう俺なのだから。

 

「お疲れ様、ランサー。ごめんね、ずっと立たせっぱなしで?」

「いえ、お気遣いなく、ソラウ様。どちらにせよ私は、ソラウ様に命ぜられずとも主の身を守る為に控えているつもりでしたから」

「そう? それなら有り難いわ」

 

 ランサーの足元に敷かれた魔法陣は、淡い菫色に発光している。そして同時に、そのランサーと正対するように距離を空けて設置された台座の下にも、同じように菫色に発光する魔法陣がある。台座の上には一枚のカード。剣を胸の前で真っ直ぐに掲げた、以前は黒い染みのような傷に覆われていたそれ。『セイバーのディルムッド』を夢幻召喚する為のクラスカードが、そこに安置されていた。

 ところで、俺はクラスカードを作成することが出来る。そのクラスカードを夢幻召喚することも出来るだろう。ただ一つプリヤに敵わないのは、カードを通じてアクセスする英霊の自我を潰すことが出来ないという点だ。

 俺の作成するクラスカードは黒化英霊でなく英霊の能力を参照し、それを自らに置換するモノ。その弊害が英霊の自我、精神に有るというのは以前から分かっていた通りだ。プリヤ――エインズワースはその問題を、英霊を汚染するという方法でクリアした。だが、その手段は俺には再現不可能だ。そう、再現不可能――ならば別の何かで代替すれば良い。それが魔術師という人種の基本理念だ。

 故に、俺はこの『英霊に繋がったクラスカード』を研究した。汚染し潰すのではなく、どうにか英霊の自我に繋がる部分だけを検出し、それを封じられるように……というのが基本コンセプト。ヘラクレスのカードを実験台に、あらゆるアプローチを試みた――そのどれもが、あまりに複雑過ぎて現状では不可能という結論を出したのだが。

 しかし、その結論は覆る。他でもない、召喚された英霊の存在によって。

 英霊召喚とは基本的に、座に存在する英霊のコピーを生み出すものだ。当然、召喚されたばかりの英霊は座に存在する大元と酷似――否、同一である筈だ。ただ一つ、クラスに当て嵌められているという点を除いて。

 夢幻召喚とは基本的に、座に存在する英霊のコピーを自らに上書きするものだ。カードを通行証として座にアクセスすると説明されていた通り、クラスカードには座の英霊の能力を引き出す機能がある。

 では、ここで疑問が生まれる。そう、『座から召喚されたばかりの英霊』に『座の英霊の能力と人格』を組み込めばどうなるのか、だ。

 単純に考えるなら、両者が食い合う筈だ。ミユがギルガメッシュのカードに身体を乗っ取られかけたのと同じように、英霊Aに英霊Bを組み込めば取り返しのつかないことになるのは目に見えている。

 だが、もしも組み込む英霊が元になる英霊と同じものであれば? 座から召喚されたばかりの英霊と、座本体の英霊の自我は同一。であれば、組み込んだところで両者は齟齬なく同一化するだろう。同一化し、消えて無くなるはずだ――クラスカードによって付与された、自我以外の全てを残して。

 この台座と二つの魔法陣は、いずれもそれを検証する為の限定礼装。魔法陣内部に置かれた物質の比較と、そのデータの記録をする為だけに、俺が組み上げた装置。これを以って、俺は『ランサーディルムッドの中に夢幻召喚されたセイバーディルムッド』と『座から参照されるセイバーディルムッド』の情報を比較した。

 結果は良好。礼装は、俺の望んでいた通りのデータ――即ち、自我だけが欠如したセイバーディルムッドの情報を観測したのだ。データさえ出揃えば、あとは単純な引き算だ。後者から前者を引けば、残るのは『英霊の自我』という部分のみ。それを普遍化し、あらゆるクラスカードに適応させられるようになれば、理論上はあらゆるクラスカードから英霊の自我を排することが出来るようになるだろう。

 先行きは未だ不安だが、少なくとも上手く行っている。膝から屈み魔法陣に触れ、そこから情報を読み取れば、俺はわざとらしく笑みを浮かべた。

 

「……どうしましたソラウ様、随分と嬉しそうな顔をされておられますが」

「え、あら? 顔に出てたかしら……恥ずかしいわね。けど、仕方ないかも知れないわ。長年の研究の課題を一つ、攻略出来そうなのだもの」

「ふむ、どうやら君の研究も捗っているようだね、ソラウ? そろそろキリが良くなりそうだと推察するが、今後の聖杯戦争の展開について議論したいと思うのだよ。どうかな、構わないかね?」

「ご、ごめんなさいケイネス。私、自分のことばっかり優先して。……ええ、構わないわ。それじゃあ始めましょう。聖杯戦争の事でも、伝えておかなければならない事があるわ」

「手を取らせてすまないね、ソラウ。では、始めようか」

 

 ケイネスがソファから立ち上がり、エスコートするように此方へ手を寄越した。その拍子に、彼が首から下げたルビーのアミュレットが音を立てる。俺が『()()()』として彼に贈ったそれは、彼の数少ない外見的な原作ブレイクポイントだ。ついでに言えばそれは俺とのペアになっているもので、贈った時の彼は小躍りせんほどに喜んでいたか。

 

「ええ。……それでね、ケイネス。話し合う前に一つ、ケイネスに伝えておきたいことがあるの。私がずっと見張ってた、おそらくアインツベルンに与する協力者――いえ、傭兵と言った方が良いかもしれない彼についてよ」

 

 ――ところで。俺の設置した限定礼装の機能は二種の比較だが、その際に敷かれる魔法陣は他の魔術に流用することも出来る。その魔術とは、対象内部を確認する際に用いられる魔術……即ち『解析』。先程魔法陣に触れた際に、俺はその解析結果を入手していた。勿論、このホテルについて――正確に言えば、ホテル爆破の為の爆薬についての解析。

 

「彼、か。ふむ、君が口に出すのならば、相当な難敵だと見受けるが」

「ええ――何処でかは忘れたけれど、以前彼の情報を得たことがあるのよ。それで気付けたの。彼の通り名は『魔術師殺し』、名前は衛宮切嗣――」

 

 切嗣のことをケイネスに伝えるのは、俺の策にとっては決定事項だ。起源弾をぶち込まれでもしたら目も当てられない、故にそれらに関しては口を出す気でいた。

 けれど、あまり早く伝え過ぎて対策を取られても困る。少なくとも、この冬木市ハイアットホテルに運び込まれた魔力炉等の高価な礼装は、テロでフィナーレされなくてはならない。でなければ、エルメロイ二世が誕生しない恐れがあるから。

 故に、

 

「ッ! 主、ソラウ様、備えて――」

「――きゃあっ!?」

「ソラウッ!!」

 

 爆音、爆風。階下から響く轟音と衝撃が床を揺らし、バランスを崩しそうになる。差し伸べられるケイネスの右手をひっ掴み、胸元へ抱き込む。手袋越しの彼の手が胸に当たっているが、これは作為的(あててんのよ)だ。そうして、俺は魔法陣に触れていたままの状態……つまり、魔術回路を起動したまま、彼の右手を掴むことに成功する。

 

 ――魔術発動。

 ――『置換』。

 ――対象発見。

 ――模倣(コピー)完了。

 ――貼付(ペースト)完了。

 

 ケイネスの水銀に周囲を覆われ、奇妙な浮遊感を感じながら、俺は胸元へ手をやった。ケイネスの右手からコピーした()()を、まだ生きている魔力炉からの魔力で以って胸元に完全に再現する。

 ハイネックのシャツの奥に走る三画の熱。俺の極めた置換の秘奥、それが成ったことを正確に把握し、俺は一人ほくそ笑んだ。

 

 ――令呪三画、ゲットだぜ!




この令呪は今のところどのサーヴァントにも繋がってませんし、魔術工房がテロでフィナーレした関係で魔力炉も無くなったので今後増産することも不可能です。

え?ソラウちゃんの胸を盛った理由ですか?
趣味ですよ!!

あ、あと魂に記憶を刻みつけ云々は何話か前の『ソラウちゃんとケイネス先生』でさらっと触れてるのでぽっと出の設定じゃないです。

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