やはり俺がチート部隊の隊長をするのは間違っている 作:サラリーマン
1月の正式入隊日の三日後、今日は戦闘訓練以外の地形踏破訓練などの訓練がある日だ。しかし俺はそっちの手伝いには参加せずに本部の会議室に来ていた。今日はここでこれからあると予想される大規模侵攻についての会議が行われる。まあ会議といっても、参加者は上層部の一部の人と、俺、ユイ、風間さん、迅さんくらいの小さな会議だ。三輪も来る予定だったが体調不良で欠席とのことだ。
今は迅さんがまだ来ていないため、皆でモニターの個人ランク戦ブースの様子を見ながら待っている。そしてそのモニターでは今、空閑が三バカ相手に無双していた。
「あれが空閑の息子か……風間、お前の目から見て奴はどうだ?」
「まだC級なので確実なことは言えませんが、明らかに戦いなれた動きです。戦闘用のトリガーを使えば、マスタークラス、8000ポイントくらいの実力はあるでしょう」
俺もそう思う。戦闘の経験値だけで言えば会議室の中ではだれよりも、フランやファルと同じくらいの経験値はあるだろう。
「ならば一般の隊員と同じスタートにしたのはまずかったかもしれんな。初めからポイントを高めにして早くB級にあげるべきだった」
「そうしたかったけどなー城戸さんに文句を言われそうだったし」
「…やつはなぜブラックトリガーを使わない。昇格するにはS級になるのが一番早いだろう」
「そうしたら城戸さんトリガー没収してたでしょ。『入隊は認めたけどブラックトリガーの使用は認めてない』とか言って」
林藤さんの城戸さんのものまねけっこう似てたな
「…雨取千佳。先日基地の壁に穴をあけたのも玉狛の人間だったな」
「あーあの子はトリオンが多すぎてね。いずれ戦力になるから大目に見てやってよ」
「ブラックトリガーのネイバーとトリオンモンスター、そいつらを組ませてどうするつもりだ」
「もしかして城戸さんって俺や迅がいつも何かを企んでると思ってないか?チーム組むのもあの子たちが自分たちで決めたことだよ。千佳は攫われた兄と友達を助けるため、遊真ともう一つの隊員はそれに力を貸しているんだ」
へぇ~そんな目的があったのか。けどそれは現実的に厳しくねえか?ネイバーフッドのどの国に攫われたのかわからないし、攫われたのがいつの話か分からないが生存さえしていない可能性もある
「ばかげた話だ。ネイバーに攫われた人間をネイバーが奪還するなど」
「だからやめろと?」
「まあまあ目的があってそれに向かって努力するのは悪いことじゃないでしょ。それが救出であれ、復讐であれ。なあ比企谷、蒼也?」
林藤さんは俺と風間さんに話を振ってくる
「俺は別に両親の復讐をしようとは考えていませんよ。妹やユイもいますし、みんなでワイワイやってるのが楽しいんで。それを壊そうとするなら容赦はしませんけど」
「蒼也はどうだ?」
「三輪辺りはそうでしょうが、自分は比企谷と同じく復讐をしようとは考えていません。ボーダーの命令に従って任務を遂行するだけです。三輪は先日の小競り合い以降何やら悩んでいるようですが」
「ありゃまどしたの?」
「詳しくは分かりませんが、迅と太刀川に何か言われたようです」
噂をすればなんとやら、ちょうど迅さんがやってきた
「全員そろったな。それでは会議を始める。今回の議題は近くあると予想される大規模侵攻についてだ」
忍田さんの号令で会議が始まった
***
ユイの情報をもとに会議を進めているが一つ思ったことがあるんだけど…
「あの、空閑も参加させた方がいいんじゃないですか?ユイの情報で侵攻してくるかもしれない四国、リーベリー、キオン、レオフォリオ、アフトクラトルでしたっけ?そこに空閑がいたことがあったらもっと詳しい情報が得られるんじゃないですか?」
「それもそうだな。城戸さんよろしいでしょうか」
「ああ、かまわん」
「迅悪いが遊真君を呼んできてくれないか」
「わかりました。さてと…」
「空閑ならランク戦ブースで緑川を圧倒してるようですよ」
「へ?なんでそんなことわかんの?」
「うちのバカも一緒に居るみたいなんで」
「ああ、そういうことか」
自分で言っといてあれだが、うちのバカで伝わるあの子は何なんだろうね
「では行ってきます」
迅さんが空閑を連れて売るために会議室から出て行った
「比企谷一つ聞きたいことがあるんだがいいか」
「なんでしょう忍田さん」
「君は今生身だよな?トリオン体なら通信すればランク戦ブースの情報が得られるかもしれないが、君は生身でどうやって情報を得たんだ」
「俺とフランとファルは生身で通信できるんです。災禍の鎧の中から俺に乗り移ってから通信というか、テレパシーって言った方が妥当かもしれないっすけど、できるようになって、実体化しできるようになってからもこうしてテレパシーできるとは思ってもいませんでしたけど」
「比企谷、災禍の鎧から乗り移るとか、実体化とか何を言っているんだ?」
あれ?もしかしてまだフランたちの詳しい説明してなかったっけ?
「たぶん言い忘れてたと思うので言いますけど、あの二人、フランとファルは幽霊?なんです。普段はたぶんメタトロンの中にいるはずなんですけど、最近は勝手にどっかいってることが多いです、特にフランは。…ファル出てきてくれ」
きっとメタトロンの中から見てるであろうファルに呼びかける
「皆さんこんにちわ。呼ばれたんで出てきました」
ユイ以外の会議に参加してた人が唖然とした顔になる。
「比企谷どういうことだ。説明してもらおうか」
それから迅さんが空閑を連れてくるまでの時間つぶしとしてこれまでのことについて話した。もちろん心意のことは伏せてだ。俺もフランとファルの監視の下心意の修行をしているからわかる。心意は強い反面、心の闇が襲い掛かってくる。心の闇に飲まれれば自分が自分じゃなくなる。だから俺たちは知らないのならだれにも話さないと決めたのだ。
「そうかそんなことが…」
「迅さんたちが来たみたいですし、聞きたいことがまだあるようでしたらあとでにしましょう」
心意の修行と並行して進めている識のおかげで到着した迅さんたちの様子が扉の外からでもわかった。
「失礼します」
迅さんが空閑と三雲と陽太郎を連れてきた…なんで陽太郎?
「我々の調査で近々ネイバーの大規模な侵攻があることが分かった。先日の爆撃型のネイバーの攻撃、比企谷がいなければ多数の犠牲者が出たと予想される。我々は万全の備えで被害を最小限にしたい。平たく言えば、君にネイバーとしての意見を聞きたいということだ」
陽太郎の存在は無視され、会議は進められる
「なるほど。それなら俺の相棒に聞いた方が早いな。よろしく」
『心得た』
空閑の指輪から黒い炊飯器が出てきた
『初めまして私の名前はレプリカ。ユーマの父ユーゴに作られた自立型トリオン兵でユーマのお目付け役だ』
黒い空飛ぶ炊飯器――レプリカは自分のことを自立型のトリオン兵だと言った。ユイは次世代型自立トリオン兵の試作機だと言っていたので、レプリカはユイの先輩(まだユイみたいな次世代型が完成しているかわからないが)ということになる
『私の中にはユーゴが遺したネイバーフッドの国の記録がある。おそらくそちらの望む情報を提供することができるだろう。だがその前にボーダーにはネイバーに無差別に敵意を抱くものがいると聞く。私自身まだボーダー本部を信用しきれていない。ボーダー最高責任者殿には私の持つ情報と引き換えにユーマの身を安全を保障していただこう』
レプリカはああ言ってるが、実際、口約束などどうとでもできるだろう
「よかろう。ボーダーの隊務規定に従っている限りは隊員空閑遊真の安全と権利を保障しよう」
三雲がちらっと空閑を見る。俺も前に嘘に反応されてことがあったし、もしかして空閑は嘘を見抜くことができる系統のサイドエフェクトを持ってたり?
『確かに承った。それではネイバーについて教えよう。すでに知っていると思うがネイバーフッドを構成しているもののほとんどは果てのない夜の暗黒であり、その中でネイバーの国が星のように浮かんでおり、決まった軌道で回っている。この在り方をユーゴは『惑星国家』と呼んだ』
惑星国家、か。空閑の父親はもともとこっちの世界の人なのか
『太陽を回る恒星の動きとは異なるがほとんどの国はこちらの世界をかすめ遠く近くを周回しており、こちらの世界に近づいた時に門を開き、侵攻することができる。そして攻めてくる国を知るには今どの国がこちらの世界に近づいているのか知る必要がある。林藤支部長、ネイバーフッドの配置図があるなら見せていただけないだろうか。もし不十分であれば私の持つデータを追加しよう』
「はいよレプリカ先生。けど、それは必要ないと思うぜ?ユイちゃん」
「はーい!」
ユイが用意されていたプロジェクターに接続されていたパソコンを操作し、配置図を映し出す
「おお~!もしかして俺たちが持ってる配置図よりでかいんじゃないか?」
『そうだな。差し支えなければこれほど大きな配置図をどうやって作ったのかご教授願いたい』
林藤さんが城戸さんに許可を求める。
「実はな、このユイちゃんはレプリカ先生と同じトリオン兵なんだ」
「次世代型の人型自立トリオン兵の試作機、それが私です。つまりレプリカさんは私の先輩ということになりますね」
「我々はこの配置図からリーベリー、キオン、レオフォリオ、アフトクラトルの四国が近づいておることが分かっておる。」
「さらに、ユイの話では先日の爆撃型と偵察小型。その二種類から可能性が高いのはキオンとアフトクラトルって聞いたがお前たちはどう思う」
「うん。俺たちもそう思う。イルガー使う国ってあんまりないし」
空閑たちもアフトクラトルとキオンだと思うらしく、この二国が相手と仮定した話を進めてもよさそうだ。
「ひとまず、その二国が相手だとして話を進める。次に知りたいのは敵の戦力、特にブラックトリガーがいるかどうかだ」
「私のデータではアフトクラトルには十三本、キオンには六本のブラックトリガーがあることになっています。空閑さんたちの方はどうでしょう」
『私たちがその二国に滞在したのは五年以上前だが同じだ』
「そういえばレプリカ。俺たちが滞在してた時にある噂がなかったか?」
「ある噂?」
俺は空閑の言う噂というのが気になった
「うーんと…セブンアークスっていう超強い七本のブラックトリガーがあって、そのうちの一本をアフトクラトルが持ってるって言う噂。もしあったとしても話を全く聞かないから使い手は見つかっていないと思うけど。そういえば噂といえばもう一つ。災禍の鎧がこっちの世界に向かったって言う噂を聞いたんだけど」
災禍の鎧は向こうでもやっぱり有名なのな
「災禍の鎧なら討伐したぞ。セブンアークスが一つ、開陽≪ザ・ディスティニー≫。それが変化した姿が災禍の鎧、≪ザ・ディザスター≫で、今は俺のブラックトリガー≪メタトロン≫だ」
幻覚か?レプリカから冷や汗が出てるぞ
「どうやって討伐したの?あれ倒した人に憑りついて永遠になくならないって聞いたんだけど」
「まあ色々あったんだよ。それより話を進めようぜ。遠征にブラックトリガーの複数投入はされないんだよな?」
『ブラックトリガーはどの国でも貴重なためその可能性が高い。また、船はサイズが大きいにしたがってトリオンの消費も大きい。したがって攻撃には卵にできるトリオン兵を使うのが基本だ』
「つまり敵の主力はトリオン兵で、人型は少数ということだな」
『現在の情報ではそうなる』
「では、人型の参戦も考慮に入れつつトリオン兵団の対策を中心に考えていこう。さあネイバーを迎え撃つぞ」
忍田さんの号令の下、俺たちはさらに話し合いを積み重ねた。