素晴らしい世界かもしれないが不死人には物足りない   作:みーと

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日が空いてしまった。
それもこれも、ガチャがゴミと噂の某スマホゲームの所為。イベント進めるのに執筆に使う時間を使ったからね(すまない。



第8話

 

 

 

 

地を砕かんばかりに踏み込んだ。

迫り来る銀閃が鎧を掠める。鈍器で殴られたような衝撃によろめきそうになる身体を踏ん張り、剣を握る両手に力を込める。裂帛の気合いと共に剣を振り上げた。身体に加えた捻り、腕の振り、果ては手首のスナップまで、全身を余すことなく使った一撃はまさしく必殺。鋼鉄であろうと容易く両断する一撃は、しかし鎧を裂くことはなく、敵を吹き飛ばすに留まる。

 

断つことが出来なかったことにいくばかの驚愕を感じながらアルトリウスは思案する。いくら砕けぬ鎧を纏おうと中の肉体まで無事に済むわけがない。

 

だが、どうだ。身体など衝撃で潰したと思ったが、なんと立ち上がるではないか。よろよろとした緩慢な所作ではあるが、二本の足で立とうとしている。

 

なるほど、一筋縄ではいかないようだ。アルトリウスは評価を改める。流石は人類を脅かす魔王軍とやらの幹部。目の前の存在は聞けば、その中でも武闘派というではないか。己の見立ての甘さを恥じつつも、並々ならぬ実力を持つ騎士、ベルディアを賞賛する。

 

「……凄まじい威力だった。俺の鎧が特別で、なおかつ種族がアンデッドでなければ確実に死んでいたぞ。さぞ名のある騎士と見受けた。名告れ」

 

「名乗るほどの者でもないのだがな。しかし、聞かれたならば答えるほかあるまい。アルトリウス、少しばかり腕に覚えのある浮浪者よ」

 

この誇り高い騎士相手には出し惜しみするのも失礼か。そう判じたアルトリウスはいくつかの指輪を取り出す。

 

『狼の指輪+2』『緑化の指輪+2』『寵愛の指輪+2』『虜囚の鎖』

 

どれもこれもがこの世界では一級品のアイテムである。ひけらかすつもりなど毛頭ないので素早く身につけ、敵を睨んだ。そして腰を低く落とし、大剣を担ぐという独特の構えを取る。それはかつて相対した本物の姿を真似たもの。本物には酷く劣るが、不死でもない相手を斬るのには十分だろう。それに鎧は砕けなくとも中の肉を潰せばいい。

 

力強く地を蹴り、空へと飛び上がる。

取り敢えず、ジャンプ斬り3連続だ。

 

 

アルトリウスは謂わゆるロールプレイとやらに興じている。本音を言えば片手で頭を抱え、もう片方の手で剣を振るうデュラハンはパリィマンであるアルトリウスにとっては絶好のカモである。すぐさま終わらせろと言われれば、パリングダガーでもセスタスでも取り出し、スズメバチ致命で終了である。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

それはとある日の昼下がり。

 

いつも通り依頼をこなしていたアルトリウスだが、最近は張り紙が少ないと思いながらも気に留めてはいなかった。彼が受けている高難度な依頼は依然として存在するからだ。

カズマ少年達とパーティーを組んだ現在もアルトリウスはソロ活動をしている。ギルドの方から直接モンスターの討伐を依頼されることも多く、カズマ少年達を連れていては危険なモノばかりというのが理由だ。

 

ここでアルトリウスは首を傾げた。

なぜかパーティーを組む前よりも、組んだあとの方が1人でいる事が多くなった気がする。やはりめぐみん嬢の世話役として彼女に同行する機会が減ったからだろうか。依頼で適当なモンスターの討伐などに保険として同行するくらいだ。一日一爆裂とかいうワケの分からない事に連れ回されることもなくなった。代わりにカズマ少年やらアクア嬢がやっているらしい。

 

最近はナニカを超えたのだろう、先日とは打って変わって爽やかな笑顔のルナ嬢の元へと向かう。アルトリウスには分かっていた。アレは苦難を乗り越え、また1つ強くなった者の姿だ。何を超越したのかは預かり知らぬことだが、知人の成長を嬉しく思わないはずもない。

 

「ルナ嬢、今日は随分と顔色が良い。せっかくの美貌も影が差してしまっては勿体無い。そのように健全な姿がやはり好ましく思える」

 

「それを貴方が言いやがりますか、キチガイ野郎」

 

ん?、とまた首を傾げる。なんだか酷く毒を含んだ口調で語られた気がしたが、キラキラと輝かんばかりの笑顔を浮かべた彼女が言ったのだろうか。困惑気味にルナ嬢の顔色を窺うが、彼女は見つめる己を不思議そうに眺めるだけだ。

 

「おっと、そうだった。この依頼を受けようと思ったのだ」

 

依頼書を手渡す。

強靭な四肢が特徴の狼型のモンスターらしい。非常に動きが疾く、鋭利な爪牙で敵を引き裂くという攻撃性の高いモンスターだ。

 

「実はその前に受けて貰いたい依頼があるのですが、構いませんか?」

 

「勿論だとも。俺と貴方、ひいては冒険者とギルドの関係だ。持ちつ持たれつというのは当然だろう」

 

はてさて、一体どんな事を依頼されるのやら。

 

「実はですね、このアクセルの街の近くに魔王軍の幹部が住み着きました。そのおかげでモンスター達が隠れてしまって冒険者の方々が困っているのです。ですから、サクッと魔王軍幹部倒してきてください」

 

「了解した」

 

勿論、ギルドには他の冒険者達がいる。話を聞けば卒倒モノではあるが、誰もが遠い目をしていた。彼らは知っているのである、アルトリウスのキチガイさを。きっと魔王軍の幹部だろうとなんだろうとサクッと倒して来るのは理解出来ていた。アルトリウスの理不尽さに精神をやられた犠牲者は着々と増えている。

 

 

 

ギルドを後にし、アルトリウスは戦いの為の準備に向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

それはかなり空が暗くなり、雨でも降るのかという頃合い。

アクセルの街の正門ではカズマ達と冒険者がベルディアと対峙していた。

 

めぐみんが謎の自己紹介をかまし、爆裂魔法は誘き寄せる為の罠だったと豪語する。正直、無理やりなのはめぐみん自身も分かっていたが、実際ここまで誘い出せば此方のモノとも思っていた。これだけの冒険者が集まっているのだ、きっと彼もこの中にいる。あとを任せれば魔王軍幹部だろうが、魔王だろうが、神だろうがサクッと倒してくれるだろう。

 

「というわけで、先生お願いしますッ!」

 

しかし、返ってくるのは静寂。

その静けさを破るようにアクアが一歩前に出た。

 

「しょうがないわねぇ」

 

「チェンジで!!」

 

にべもない交代要求にプライドを傷つけられ、崩れ落ちたアクアを尻目にめぐみんは焦燥の表情を浮かべていた。なぜだ、見回してもアルトリウスの姿がない。まさか何かの依頼を受けて街を離れているのだろうか。それは不味い、非常に不味い。彼がいるから適当な法螺だって吹いたのだ。

 

「あ、アルトリウスは何処です!?隠れてないで出てきてください!」

 

「アルトリウスさんはいませんよ!」

 

ルナ嬢が叫んだ。

 

「アルトリウスさんは先ほど魔王軍の幹部を討伐に出かけました!!」

 

空気が凍った。

まさかの入れ違いである。おそらくアルトリウス頼りだろうと考えていたカズマやダクネスは頭を抱える。そしてそれは他の冒険者達もだった。彼が居れば何とかなると思っていた者も少なくなかったのだ。

 

「あ、あわわ」

 

震えだすめぐみん。

何となく空気が澱んだのを理解した常識人ベルディア。仕切り直しの意味を込め、咳払い一つ。

 

「ともかく、紅魔の娘には俺の城を破壊した報いとして苦しんでもらおう」

 

ーーー汝に死の宣告を

 

ベルディアの指先から昏い魔力がめぐみんに向かって放たれた。そこにダクネスが駆け、その間に入り込み、身を盾にしようとする。

 

 

 

………………。

 

しかし、何の変化も訪れない。訝しげに、伏せていた目を開けば傷だらけの鎧と千切れたボロボロの群青色のマントが映る。

 

「まったく、何かおかしいと戻ってみれば、これはどういう状況だ?」

 

『狼騎士の大盾』を構えたアルトリウスがいた。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

こうしてベルディアとアルトリウスの戦いは始まった。

俺の呪いを弾くだとッ!?みたいなやり取りもあるにはあったが、所詮は些事、捨て置け。

 

 

 

互いの一撃は重く、撃ち合う度に鈍重な金属音とオレンジ色の火花を撒き散らしていた。至近距離で顔を突き合わせるようにして鍔迫り合い、噛ませた刃を滑らせ一閃。

レベルが下がろうとその技術の全てが失われたわけではない。培われた直感に従い、本能のまま剣を振るう。奇しくもそれはかの騎士の狼を彷彿とさせる剣技と同じことである。理性よりも本能を、計算よりも直感を。

 

腕力で負けようとも、技術とも言えぬ小手先の技を披露する。技量も下がった今、神業ともされる剣捌きなど望むべくもないが、その程度ならば可能だ。

 

「随分とチグハグだな、アルトリウスよ。貴様は能力と経験が一致していない」

 

この数回の斬り合いでそれを察するとは、やはり一流か。だが、それを知られて、言いふらされるようなことがあれば面倒だ。殺ってしまおうか。ベルディアの気づいた事実はアルトリウスから遊びを奪うくらいには意味のあるモノだった。

 

密かに左手の武装を持ち替える。拳に嵌めたセスタスに意識を向け、わざと相手の攻撃を誘うように動く。スズメバチの指輪をしていないのが、残念だが仕方ない。

 

「隙を見せたな、貰ったぞ!」

 

予想通りに片手での大剣ぶんぶん。

アルトリウスは勝負は決まったと兜の中でほくそ笑んでいた。

 

 

 

 


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