素晴らしい世界かもしれないが不死人には物足りない   作:みーと

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なんか予想外にぽんぽん感想が来るので驚いている作者。



第5話

 

 

 

 

気怠い。

すごい倦怠感だ。

起き上がるのも一苦労。このまま『大の字』でベッドから起き上がりたくない。かつては末世を救うなどと虚偽の使命に駆られ、神々の古都すら駆け抜けたこの俺だが、見る影もない。そもそも魂を擦り減らした亡者の状態なのだし、これはある意味正しいのではないか。意味があるようでない問いに頭を悩ませ、布団の上をごろごろとする。

しかし心地が良い。一体、まともな睡眠を取ったのなどいつ以来だろうと常に思う。この世界に来てからは非常に人間らしい生活をしているが、巡礼の頃など篝火の炎に安寧を得るのが精々だったというのに。

 

そういえば昨日の彼女はどうなったのだろうか。見た目は麗しいが、中身は酷いものだろう。カズマ少年の胃に穴が開かないか心配である。なにやらステータスで運の値は高いらしいが、まったくそうは思わないのは俺だけだろうか。可哀想なくらいに悲惨な思いをしているように見える。聞けば、寝床も馬小屋を借りているらしい。流石に年端もいかない少年とアクアと名乗る女神が馬小屋生活はないだろうと宿代くらいは貸すと言ったのだが丁重に断られてしまった。どうやら周囲には認知されていないようだが、アクア嬢は正真正銘の神霊だろう。今まで数々の神に接した己は分かる。アレは本物の超越種である。まぁ、俺も『火』を灯せば神霊に近い存在ではあるのだが。

 

目が醒めた後、特有の倦怠感を振り切り、身体を起こす。鎧を纏っていない己の身体は実に痩せ細り、骨と皮しかないように見える。見た目の筋肉量に依らない能力を持つ不死人であるからこそ、重い鎧と盾を持ち、剣を振るえるのだ。いい加減にどうにかしなければならないだろう。一度死んで女神エリスに相談してみようか。彼女も神としての権能は持ち合わせているワケだし、何か方法があるかもしれない。なんだかんだ言って己と己のいた世界を知るのは彼女だけなのだ。

 

ソウルに収納していた武具を取り出し、着込んでいく。

一度、背を伸ばし軽く屈伸運動をした。ようやく完全覚醒を迎えた脳を働かせ、今日は何をしようかと考えた。

 

そこで笑みが零れる。

 

なんて人間らしいことをしているんだろう。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

端的に言って騒然としていた。

何時ものように依頼を受けようとギルドに入るとカズマ少年とその愉快な友人、そして昨日の女性と見知らぬ誰かが騒いでいた。周囲はその行方を見守っていたが、若干どころかかなりカズマ少年が女性陣に睨まれている。

 

そこでウェイターを1人捕まえ、事情を聞いた。

 

なんとカズマ少年が見知らぬ少女とめぐみん嬢のショーツをスティールなるスキルで盗んだらしい。少女からはあり金すべてと、めぐみん嬢には公衆の面前で。かなりの鬼畜だ。ここまでだったとは、………接し方を変えざるを得ないかもしれない。

 

「あ、アルトリウスさん!ちょっ、俺を助けて!」

 

こちらを見つけたカズマ少年は懇願するようにこちらに視線を寄越した。当然、周りの目もこちらに向くワケで……

 

「すまんな、犯罪者の助けをする気はない」

 

「誤解だッ!?」

 

「事情は聞いた。スティールというのがランダムで相手の持ち物を奪うスキルだと言うのは理解した。しかしだ、それならば直ぐに返せば良かったではないか。それを家宝にするだのとほざく貴公が悪い」

 

反論出来ないカズマ少年は顔を青くして、震えている。

彼らに近づいていく。いや、騒ぎに加わりたいワケではなく、単純に依頼が貼られた壁が彼らの先にあるだけだ。

 

そこで件の少女と目が合った。

見つめ合うこと数瞬、どこか既視感のある容姿に納得した。

 

「ああ、かぼたんではないか」

 

「………人違いです」

 

「いや、どう見ても貴方はエr…」

 

「人違いです!」

 

喰い気味に否定された。

なるほど、謂わゆるお忍びというやつか。ならば邪魔をするほど無粋ではない。知らぬふりして通り過ぎようではないか。

 

「そうか、貴方も辛いことがあるのだろう。こんな時くらいは羽根を伸ばして休むといいさ」

 

「え、いや……はい」

 

壁の前まで行きつき、依頼書の数々に目を通す。

あまり割の良いものがないようだ。というより俺が片付けてしまった。とにかくさっさと依頼を選んでこの場を去らないと変態に絡まれてしまう。

 

「貴方は昨日の騎士殿ではないか!昨日はいつの間にか居なくなってしまっていたが、是非とも貴方に話を聞いて欲しいんだ!」

 

絡まれてしまった(絶望。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

頭のおかしい騎士ことアルトリウスは頭のおかしい光景に目を剥いていた。

 

それは遥かに昔のことだが、確か農夫だった自分にとって作物の収穫は当たり前のものだったはず。しかし、目の前の光景は当たり前の収穫ではなかった。

 

 

何処の世界に飛び回り、人を襲う野菜があるのだろうか。

 

 

 

 

 

事の始まりは、ダクネス嬢を適当にいなしながら女神エリス、地上でのクリス嬢と話をしたいと思っていた頃のこと。

 

けたたましいサイレンの音ともにルナ嬢の緊急クエストの通達、異様な雰囲気に包まれた街。西門に集合せよというのだから来てみれば、野菜が群をなして空を飛んでいた。何を言ってるのか分からないと思うが(ry。

 

そして暫く、戦闘が開始される。

 

 

凄まじい勢いでこちらに飛来する数々の作物。文字どおり数の暴力。

捌ききれない。盾で防ぎきる事もない。であればどんどん数を増していくキャベツに蹂躙されるのは道理。

 

不死人は数の暴力には弱いのだ。

 

 

 

 

 

アルトリウスは10分と経たずにひっそりと死んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 





野菜の群れ、あの数的に不死人はリンチで殺される。

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