ゼシカの婚約者 ラグサットとして   作:ひつまぶし食べ隊

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いつの間にか評価に色が付いてました。
ありがとうございます。


06 未来の嫁と義兄(未定)

 サザンビークに着き、自宅に帰ってきた。

 

「ただいま帰りました」

 

「帰ったかラグサット。1ヶ月振りだな、少し体つきが良くなった。修行は一段落したのか?」

 

「はい父上。モリー師匠にそろそろ実戦を経験しても良いと言われました」

 

「モリーがそう言うなら大丈夫だろう」

 

「最初はモンスターの弱いトラペッタ辺りを薦められたのですが、念のため仲間が一人は居た方がいいとも言われました」

 

「成る程、確かにトラペッタ地方のモンスターは弱いと聞いた事がある。それに仲間か… ふむ、何とかなるかもしれん」

 

「本当ですか? 最悪一人でも行くつもりだったんですが」

 

「うむ、数日待っていなさい。知人に連絡を取ってみよう。それと母さんにも挨拶してきなさい」

 

「分かりました、お願いします」

 

 1ヶ月振りに母上にも会った。母上も久しぶりに会って嬉しいらしく、しばらく相手をするよう言われた。修行の話を催促されたり、買い物に付き合わされたり、美容師の手配をしてもらったりした。

 母上の相手をしながら修行していたある日、父上から話がついたのでこれから向かうと話があった。

 

「父上どちらに向かうのですか?」

 

「トラペッタ地方の隣にあるリーザス村だ。知人がそこの領主に嫁いでいてな、残念ながら領主は亡くなられて、今は知人が領主をやっている。その知人に子供が二人居てな、上の子が男の子、下の子が女の子だ。確か上の子がお前と同い年で祝福の儀も終っているはずだ。その子と一緒に戦うというのはどうだ?」

 

(リーザス村領主の二人の子供って…)

 

 遂にこのときが来た。俺がこの世界に転生した理由はラプソーンを倒すことだが、俺のこの世界における目的、ゼシカと結婚すること。そのために今までギャルゲーを参考にしたり、色々な策を考えて来た。それを実践する時だ。

 

(父上とゼシカの母アローザは知り合いだったのか。それならゼシカとラグサットが、婚約者になったのも理解できる)

 

「それは良い案だと思います、早速向かいましょう! いや、その前にお土産を買ってきます」

 

「喜んでくれているようで何よりだ。待っているから急ぎなさい」

 

 土産を買いに街に出る。何がいいだろうか? 持っているお金は1700G。銀のかみかざりなら1450Gで買えて実用性もあるが、初対面の男性から贈られる物としては高価だろう。

 

(サザンビークで宿泊すると一人10G。つまり145泊、約五ヶ月分。初対面でこれは重いなんてもんじゃないな)

 

 無難にお菓子を買うことにした。サザンビーク城下町で人気のスイーツショップに行き、ケーキの詰め合わせを購入する。5G、これなら常識的な範囲だろう。

 

(詰め合わせならどれか好きなものが入っているはず、それを観察し好物を探ろう。フフフ、なんという策士)

 

 家に帰り準備を整える。

 

「準備はいいな? では行くぞ」

 

 父上がキメラのつばさを使い、リーザス村へと飛ぶ。

 

(ここがリーザス村、ゼシカの居る村)

 

 風車に迎えられ、村に入るとのどかな風景が広がる。子供が二人駆け回っている、あれがポルクとマルクだろうか? 川を渡り坂道を登ると大きな家が見えてきた。

 

「あれが知人のアローザの家だ」

 

 父上がノックすると、メイドが対応してくれ案内してくれる。階段を登り二階に進むとテーブルに女性と青年と女の子がついていた。

 ゼシカだ。原作では兄にしか心を開いていないということなので、人見知りをしているのだろうか。少し気後れしているようだ。

 髪はツインテールではなく、ポニーテールにしている。14歳だからか美人というより可愛い。だが、何か違和感を感じる。それが何なのか分からないまま会話が始まってしまった。

 

「久しぶりだな、アローザ。紹介しよう、息子のラグサットだ」

 

「ラグサット・ライトアームです。よろしくお願いします」

 

「私はアローザ・アルバート。そして、息子のサーベルトと娘のゼシカです。よろしくお願いね」

 

 前に出て右手を出し握手を求める。アローザさんは笑顔で応じてくれた。

 

(これは俺の策の第一歩。未来のお義母さんからの第一印象を良くし、次に繋げる一石二鳥の策)

 

「サーベルト・アルバートです。君とは同い年だね。トラペッタ地方でモンスターと戦いたいんだって? 僕もそうなんだ。なのに母さんが許してくれなかったけど、二人なら許してくれることになったんだ。これからよろしくね」

 

 今度はサーベルトから握手を求めて来た、良い流れだ。流石お義兄さん。そして次は…

 

「ゼシカ・アルバートです…」

 

「ラグサット・ライトアームです。よろしくね」

 

 美容師に切ってもらったばかりの爽やかな髪型、品がよく上質かつセンスの良い服、そして輝かんばかりの笑顔で挨拶し、前に出て右手を出す。

 

(自己紹介後の握手の流れは俺が作った、人見知りだろうが逃れる術などない。これが俺の策。さぁゼシカ俺の手を掴むんだ)

 

 おずおずと右手を出し、握手してきた。策を弄したとはいえ、第一印象は悪くは無いようだ。

 

(フフフ、我が策成れり。それにしても柔らかい、そして良い匂いがする)

 

 ゼシカの手の感触と匂いを堪能していると、先ほどの違和感がなんだったのか気付いた。近くで見るとはっきり分かる、気のせいではない。

 

(…貧乳?)

 

 ゼシカの最大の特徴であるあの胸が小さいのだ。14歳だしこれから成長するはず、むしろ成長を見守れて素晴らしいことだと考えていると、右手に痛みが走った。我に返りゼシカを見ると右手を強く握り締めており、顔にはっきりと怒りの感情が表れていた。

 

「…何処を見ているんですか?」

 

 不味い、つい見過ぎてしまったようだ。女性はそういう視線に敏感だと聞いていたのに。もしかしたら気にしているのかもしれない、慌てずにフォローする。

 

「ごめん、誤解させちゃったね。そのネックレスが綺麗でつい魅入っちゃったんだ」

 

「そうでしたか、ごめんなさい。亡くなった父からのプレゼントだったんです」

 

「良いネックレスだ、良いお父さんだったんだね」

 

「ありがとうございます。父さんも喜ぶと思います」

 

 父親からのプレゼントを褒められ、少し嬉しそうにしている。

 

(危ね、何とかフォロー出来たようだ。運良くネックレスをしていてくれて助かった。モリー師匠の精神コントロールの修行を受けたのは伊達ではないな。ありがとうございますモリー師匠、戦闘以外でも役に立ちました)

 

 モリー師匠に知られたら修行が厳しくなりそうなことを考えつつ、次の一手を実行する。

 

「俺の住むサザンビークで人気のスイーツショップで買ったケーキだよ。良かったら皆で食べよう」

 

 魔法の袋からケーキの詰め合わせの入った箱を取り出し、ゼシカに渡した。

 

「ケーキですか!?」

 

 凄い食い付き様だ、やはり女の子は甘い物が好きなのかもしれない。

 

(バッチリ、いい印象を与えたみたいだぞ)

 

「ラグサット、私は久しぶりにアローザと話をするからな。しばらくしたらトラペッタに向かうのだろ? キメラのつばさを渡しておくから日が暮れたら使いなさい」

 

「分かりました、父上」

 

「ゼシカあまり食べ過ぎないようにね」

 

「分かってます!」

 

「それと、私の分は残しておくように」

 

(アローザさんも甘い物好きなのか、次リーザス村に来るときもお土産を買ってこよう)

 

 父上はアローザさんと別室に向かった。

 

「もう、母さんはいつも小言ばっかり」

 

「それだけ心配してるってことさ。母さんの気持ちも分かってあげな」

 

「兄さん… 分かったわよ。それより早く食べましょ。いっぱいあるけど私はやっぱりショートケーキね、兄さんは?」

 

(ゼシカの好物はショートケーキ、覚えたぞ)

 

「僕はチーズケーキで。ラグサットは?」

 

「アローザさんなら何を選びますか?」

 

「同い年なんだし、ゼシカだけでなく僕にも敬語はやめてくれ」

 

「分かった、サーベルト」

 

「母さんもショートケーキが好きな「私のよ」…んだけど、何でも良いんじゃないかな」

 

「それならモンブランにしようかな」

 

「それじゃお願いね」

 

 ゼシカはメイドにケーキの箱を手渡す。準備をしてもらうようだ。

 

「さて、それじゃこれからの話をしようか。ケーキを食べたらトラペッタに向かうってことで良いかな?」

 

「それで良いよ。歩いてく?」

 

「昔、父さんに連れていってもらったからね。僕がキメラのつばさを使えばトラペッタまですぐさ」

 

「なら頼む」

 

「後は戦力の確認をしよう、僕のスキルは剣、ヤリ、オノ、格闘で剣を集中的に鍛えてる。固有スキルはリーダー、仲間と組むことで力を発揮するスキルらしい。これのせいで一人で戦わせてもらえなかったんだ」

 

「俺も一人でも大丈夫だろうけど、仲間がいた方が良いって言われたからな。初の実戦なんで心配してるってことさ」

 

「分かってはいるんだけどね、ラグサットが来てくれて本当に良かったよ」

 

「次はこっちだな。俺のスキルはブーメラン、打撃、扇で格闘も含め全体的に鍛えてる。固有スキルは守る事に特化したガーディアンだ」

 

「ガーディアンか良さそうなスキルだね。相性は良さそうだ。モンスターが多いときはラグサットが後ろに居てブーメランで全体的に、僕が前で各個撃破。少ないときはラグサットも前に出て打撃、扇、格闘で攻撃、僕は変わらずでいいかな?」

 

「まずそれでやってみて色々試してみよう」

 

「次は特技や呪文だね。僕はかえんぎりと、ホイミしか覚えてないよ」

 

「ホイミか、回復呪文があるのは有難いな。俺はブーメランがクロスカッターとスライムブロウ。打撃がシールドクラッシュ、扇が花吹雪。格闘だとあしばらいと、とびひざげり。呪文は…」

 

「ちょっと待って。全体的に鍛えてるんだよね? それにしては覚えた特技が多くない?」

 

(転生特典とは言えない…)

 

「師匠達が厳し…いや優秀な上、四人もいるからな」

 

「師匠が居るのか、羨ましいよ。この村には戦いに詳しい人は居ないからね」

 

(ライアンさん辺りに生け贄として捧げれば、修行が楽になるかもな。フフフ、我ながら色んな意味で恐ろしい策を思い付いてしまった)

 

「剣の達人も居るから今度鍛えてもらえるか聞いてみようか? 次いつ会えるか分からないけど」

 

「本当か? 是非頼むよ」

 

「多分大丈夫だけど、許可下りるか分からないぞ」

 

「もし駄目でも構わない」

 

「許可下りても恨むなよ」

 

「恨むわけないだろ」

 

「その言葉忘れるなよ、絶対忘れるなよ!」

 

「おかしな奴だな…」

 

(よし、言質は取った)

 

「しかし、師が居ないとなると… 精神高揚は知ってるか?」

 

「精神高揚?」

 

「精神を高揚させて、力を増す技術なんだけど」

 

「テンションのことか? それなら父さんに教わってて少しは出来るけど」

 

(テンションで通じるのか、地域によって違うのか? そのうちどっちかに統一しよう)

 

「そうそれ。俺は一段階目は確実に出来て、二段階目は出来ないことがあるくらいだな。三段階目はまだ無理」

 

「僕は一段階目は確実に、二段階目はまだ到達出来ない。ここでも先を行かれてるね」

 

「大丈夫だ、師匠達に鍛えられればすぐ追いつくさ」

 

「追いついてみせるさ。ああ、楽しみだ」

 

(修行に耐えられればな。ああ、俺も楽しみだ)

 

「それで、呪文は?」

 

「スクルトとニフラムだ」

 

「にふらむ? 」

 

 ニフラム。これが転生特典で選んだ十個の呪文の内の一つだ。神に相談したとき正気を疑われたが、少なくとも二回は大活躍すると思っている。普段の戦いでもダメージ軽減能力持ちのゾンビ系やエレメント系に有効なはずだ。

 

「聞いたことない呪文ですね」

 

「ゼシカ、敬語じゃなくてもいいよ」

 

「そうですか? 分かりま、いえ、分かったわラグサット」

 

 最初は人見知りしていたようだが、随分打ち解けてきているのが実感できる。ケーキって凄い、あのスイーツショップは贔屓にしようと決めた。

 

「ニフラムは聖なる光で邪悪な魂を光の彼方に消し去る呪文だよ。くさったしたいやメラゴーストみたいなのに有効なんだ」

 

「聞いたことないわ、珍しい呪文を覚えているのね」

 

 ゼシカは素直に感心しているようだ。

 

(バッチリ、いい印象を与えたみたいだぞ。いや、ギャルゲー的思考はもう辞めよう。ここはゲームでは無く現実なんだ)

 

「最後は装備だな。僕ははがねのつるぎにちからのたて、家宝の鎧にてつかぶとだね。ちからのたても家宝なんだけど」

 

 そう言うとサーベルトは魔法の袋から装備を取りだし身に付けた。

 

(盾と鎧が場違いに強いだろ。ちからのたては守備力38で俺のまほうのたてより強く、火炎吹雪耐性もあり、最大の特徴である戦闘中に使うと戦場の空気に呼応し、自らを回復できる効果付き。鎧は原作におけるサーベルトのよろいだろう。守備力80にメラ、ギラ、イオ、バギ、ヒャド系のダメージを2/3に軽減、駄目押しに移動時HP回復の効果。トラペッタやリーザス辺りで死にようがないだろ。俺の装備も強すぎると思ってたけどそれ以上だ)

 

「俺の武器は、ウィングエッジ、ウォーハンマー、てつのおうぎ。防具はまほうのたて、シルバーメイル、てっかめん、怒りのタトゥー。呪文に強い装備だな」

 

 サーベルトに倣い、魔法の袋から取り出し装備する。

 

「視界悪くないか?」

 

「後ろに居る間は上げておくから多少はまし。前に出るとき下げるけど」

 

「ゴツいし、格好悪くない? 武器屋のおじさんみたい」

 

 武器屋のおじさんとは俗に言う荒くれだろうか、ゼシカは気に入らないようだ。

 

(守備力がそこそこ高い、しかも仮面部分が上下に動かせる兜を装備する俺を荒くれと同じように見下すとは、つくづく女というものは御しがたいな)

 

 馬鹿なことを考えていると、サーベルトが複雑な表情で話しかけてくる。

 

「なぁ、僕達トラペッタに行く必要あるのか?」

 

「…こんな言葉がある、戦場では臆病者の方が生き延びるって。取りあえず今日はトラペッタ周辺で戦ってみよう」

 

「そうだね。大丈夫そうなら次はリーザス周辺で戦おう」

 

 今後の予定を決めているとメイドさんがケーキとお茶を持ってきた。

 

「すいません、遅くなりました」

 

 ゼシカとサーベルトとケーキを食べながら話をする。ゼシカはサーベルトだけでなく俺にも話を振ってくる、サザンビークの事や祝福の儀の事。師匠達の話を催促されるとサーベルトがやたら食いついて来るが上手く濁した、万が一サーベルトに心変りされると困るからな。

 楽しい食事が終わり、トラペッタに向かう。いよいよ初めての実戦だ、緊張も恐怖もない。慢心ではなく、これだけの装備をしている俺達が負けようがない。恐怖? 師匠達との模擬戦の方が怖いと確信している。

 

「よし、行くぞラグサット」

 

「いつでもどうぞ」

 

「サーベルト兄さん、気を付けて。一応ラグサットもね」

 

 そう言いながら少し笑っていた。可愛い。

 サーベルトがキメラのつばさを放り上げる。

 

「トラペッタへ」

 

 俺達二人はトラペッタに向かって飛び始めた。




ケーキは軽く調べたら中世にあったようなので、ドラクエ世界に合わないかもしれませんが、分かりやすさ重視でだしました。

精神高揚とか変に変えなくてもテンションのままの方が良いような気もする。しばらく考えてどちらかに統一したいと思います。

今回ドラクエの呪文は平仮名にすると可愛いと思った。
にふらむ、まひゃど、べほまずん


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