最初の方のラグサットの口調は一応原作準拠です。
「明日はいよいよお前の16歳の誕生日だな、ラグサット」
「ついに祝福の儀を受ける日が来たのさぁ、どんなスキルを授かるか楽しみさぁ。父さん、僕の祝福の儀が終わったら、授かったスキルの武器や防具を買って欲しいさぁ」
「分かったよ、ラグサット。このサザンビークで一番良い物を買ってやる、ちょうどバザーもやっているしな」
「ありがとうさぁ、父さん」
「祝福の儀は神から祝福され、スキルと呼ばれる力を授かる儀式。これを得て鍛えることで始めて儂ら人間は魔物と戦えるようになる。どのようなスキルを得るか分からんが、決して怠るなよ。商人だろうと、鍛冶屋だろうと、城勤めだろうと、ある程度は鍛えていないといざというとき何も出来ないからな」
「僕、頑張るさぁ」
「ラグサット、もう夜も遅いわ。明日に備えてもう寝なさい」
「そうするさぁ、母さん」
「「お休み、ラグサット」」
「お休み、父さん母さん」
部屋を出て自室に向かう。
(明日は16歳の誕生日、何か大事なことがあった気がするさぁ)
自室に入り、寝巻きに着替えベッドに入り眠ることにした。
(思い出せないけどまぁいいさぁ。明日に備えてもう寝るさぁ)
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夢を見ているようだ。俺は赤ん坊で、母親らしき人に抱かれている。近くで父親らしき人が名前を考えているようだ。
「トンヌラかもょもとか、どちらにすべきか」
(トンヌラってパパスかお前は。もょもとって今どう発音したんだ? どっちも嫌だよ)
力の限り泣き叫ぶ。
「そんな名前は嫌ですって」
「そうか… それなら○○はどうだ?」
(○○って俺の名前だ)
「その名前より、ラグサットというのはどうですか?」
「おぉ、良い名前だ。お前は○○ではなく、ラグサットだ。ラグサット・ライトアームだ」
(俺は○○ではなく、ラグサット?)
『起…』
(ラグサット… ラグサット・ライトアーム…)
『起き…』
(そうだった、俺○○は以前死んで神様に頼みごとをされ、転生特典を使ってラグサットに転生したんだ)
『起きなさ…』
(俺は○○だったラグサット・ライトアームだ)
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「起きなさい。起きなさい、私のかわいいラグサットや」
女性の声が聞こえ、体を起こす。女性を見ると貴婦人といった外見の女性だった。俺の、ラグサットの母親だ。
「やっと起きましたね。おはよう、ラグサット。もう朝ですよ」
「おはようございます、母上」
「母上?」
まずい、今まで母さんと呼んでいたんだった。前世の記憶が戻ったばかりの上、貴族っぽい見た目だったからつい口走ってしまった。なんとか誤魔化そう。
「私ももう16歳。ライトアーム家の長男として、今までの言動を改めようと思いまして。変でしたか?」
「いいえ、立派ですよラグサット」
誤魔化せたようだ。
「今日はとても大切な日。ラグサットが16歳になり、教会で祝福の儀を受ける日だったでしょ」
「はい、母上。私も支度したら教会に向かいます」
「分かりました。教会に向かう前にお父様に挨拶なさいね」
そう言って母親が部屋から出ていった。
支度の前に状況を整理しよう。俺の名前はラグサット・ライトアーム、原作には無かったが名字がある。大臣を輩出した家だ、名字くらいあって当然だな。
15歳までの記憶も覚えているし、前世の記憶も覚えている。
前世の死因は、アパートでジーンズにTシャツを着て勉強していたら、トラックが突っ込んで来て轢かれたんだったな。
オムツ? 大の大人がそんなものを穿く訳がないでしょ、常識的に考えて。
死んだ後、神に会い頼みごとをされた。この世界に転生し、ラプソーンを倒す。所有スキルはブーメラン、打撃、扇スキル、格闘、これから分かる固有スキル。
転生特典は、ラグサットに転生、スキル熟練度が上がりやすい、十個の呪文。
そしてつい先程前世の記憶を思い出し、今日これから教会に行き祝福の儀を受け、スキルを授かる。こんなところだな。
大体の状況も把握出来たので、これからの指針について考えることにした。
(原作開始までスキルを鍛えつつレベルも上げて、原作開始したら主人公達に合流する。これが基本方針だな)
基本方針が決まったが重要なことが分からない。原作開始まで後どれくらいの年月がかかるかだ。原作でのラグサットの年齢を知っていれば良かったが、ラグサット年齢なんて多分設定されてない。
(知っているのはゼシカが17歳、主人公とミーティア姫が18歳、ヤンガス32歳のときに原作が開始するってことだ。この四人の今の年齢が分かれば原作開始がいつ頃か大まかに分かるんだが… この中じゃゼシカが一番会える可能性が高いが、婚約者になるのは何時なんだろう。まぁまだ慌てる必要もないな、そろそろ支度しう)
寝巻きから着替えようとしたとき問題が発生した、服がダサいのである。
ゲームで着ていた、赤い服に下がスカートっぽい服と紫色のマント、赤タイツまである。これが一番まともなのが恐ろしい、他は語るまい。
続いて鏡を見る。髪型もダサい、男でおかっぱは無いだろう。顔もイマイチ締まりがなく、垂れ目の優男という感じだ。控えめに言っても普通レベル、戦いを経験していけば少しは厳つくなるだろうか?
ゲームと同じ様な服を着つつ、服を買い替えて髪を切る事を決意した。
「父上、母上。お待たせしました」
支度を終え、両親の元に向かい挨拶した。
「おはよう、ラグサット。母さんから聞いたが、本当に言葉使いが変わっているな。いい心掛けだ」
二人とも嬉しそうにしている。今までの言動を一言で表すとバカボンって感じだからな、まともになったらそりゃ嬉しいだろう。
「生まれ変わったつもりで頑張ります」
「うむ。お前もとうとう16歳、祝福の儀を受ける日だ。終わったら昨日言っていた武器防具を買いに行くからな、誕生日プレゼントだ」
「散髪と新しい服もお願いしたいのですが」
「散髪は私が手配しておきます。教会から帰ってきたら切ってもらい、服はその後で買いにいきましょう」
「ありがとうございます、母上」
「そうと決まれば早く行って来るといい」
「それでは行って参ります」
散髪と買い物の約束もしたので、教会に向かうことにした。
教会に向かう中、城が見える。ゲームでも迷ったのに更に大きい、サザンビークはかなりの大国のようだ。
といっても城なんて、まだ他に見たこと無いのだが。
続いて城下町の様子を見る。神の言う通り本当に家も人も多い、一番遠い城壁まで何キロあるのだろう。
バザーに出店している店も多い。ゲームでは武器防具屋と道具屋くらいだったが、食料品や服飾品等の店もあり、大道芸人や音楽隊もおり比べ物にならないほど賑やかだ。
色々見て回りたい気持ちを抑え、足早に教会に向かう。河に架かる橋を渡り、ようやく教会に着いた。
中に入りシスターと目が合うと話しかけられた。
「ラグサット様ですね。祝福の儀はこちらで行います」
話は通っているようだった。案内され祭壇の前で跪くと、祭壇に立つ神父が厳かに話し出した。
「ラグサット・ライトアーム、神に祈りを捧げよ」
自分の名前を呼ばれ、両手を組み祈りを捧げようとした。
(神に祈る…か、この神とはあのときのおっさんなんだろうか? きっとそうだろう、この世界創ったと話していたし)
どう祈ろうか悩んだが、シンプルに近況報告することにした。
(無事、転生し前世の記憶を思い出しました。とりあえずこれからスキルを鍛え、レベルアップして強くなろうと思います)
(頼むぞ、ラグサット・ライトアーム)
(神様? 会話出来たのですね。あれっきりかと思っていました)
(教会や優れた神父、シスターの前で祈ればな。困った事が有ったら祈りに来い、助言くらいは出来るだろうさ。さておき、今は祝福の儀の最中だからな、取りあえず力を与えるぞ)
頭に声が響き、体が熱くなり力がみなぎる。
「ラグサット・ライトアーム。貴方に授けられたスキルを告げます。一つ、ブーメラン。このスキルを鍛えればスライムやメタルスライム等に有効な特技や、雷の力を借りた特技等を覚えるでしょう」
(予定通りか、しかし何を覚えるかもある程度教えてくれるんだな。スライムブロウにメタルブロウ、後はギガスローは確定だな)
「一つ、打撃。このスキルを鍛えれば岩を砕く特技を覚え、魔神のごとき一撃を繰り出す特技等を覚えるでしょう」
(打撃はドラムクラッシュ、会心技が確定か。ドラムクラッシュがあるならデビルクラッシュもあるといいな。しかし、本当に良い所取りにしてくれたみたいだな)
「一つ、扇。このスキルを鍛えれば水に住むものに有効な特技、生死を操る特技等を覚えるでしょう」
(扇は波紋演舞に死のおどりと精霊の舞か。神がアゲハの舞の変わりに追加した特技は分からずじまいか)
「一つ、格闘。このスキルを鍛えれば、足を使った特技を覚え、直接触れることのない特技等を覚えるでしょう」
(足技か、あしばらいやまわしげりとかかな? 後はしんくうはだろう)
これで武器スキルは終わった、後はいよいよ固有スキルだ。
「最後に貴方の性質を表す固有スキルを告げます」
(性質を表すか。主人公はゆうき、ヤンガスはにんじょう、ククールはカリスマ、モリーはねっけつ、どれも納得出来る。ゲルダのアウトローも法に守られず、自分の信念や弱肉強食が正義という世界に自ら好んで身を置く者、と言う意味なのでとても良く納得出来る。しかし、ゼシカの性質がおいろけって… 貴方の性質はおいろけです、とか言われても反応に困るだろ。もっと他に無かったんだろうか…)
「貴方の固有スキルは、『ガーディアン』です」
(格好良いの来た! ガーディアン、守護者か。いいじゃないか、当たりだろこれ)
「貴方の自身がレベルアップしていけば、守ることに特化した呪文や特技を覚えるでしょう」
(守ることに特化した呪文、スクルト、フバーハあたりか? 特技はだいぼうぎょくらいしか思い付かない)
「祝福の儀の最中に体が熱くなり、力がみなぎる感覚が有りましたね? あれがレベルアップです。貴方はは祝福の儀を終え、スキルを授かり、レベル1になりました」
(あの感覚がレベルアップだったのか…)
「以上で祝福の儀は終了です。研鑽を怠らないように、神はいつでも貴方を見守って居ますよ」
教会を出て、家に向かう。歩きながら手を開閉し、自分の力を確める。先程より足取りが軽く、力も増している気がした。
そして何より気持ちが昂る、例え死にかけていても、自分に合った血を吸い最高にハイになったかの様に。レベルアップ時にHPMPが回復するのも頷ける。
カンフー映画を観た後の様に、体を動かしたくて堪らない気持ちを抑え、家路を急ぐ。
(家に帰り髪を切る、そしたらバザーで買い物だ)
予定を思い浮かべる。外見を改善し、ゲームより賑やかなバザーを回ることを想像するだけで、楽しみで仕方ない。
「待ってろよゼシカ、今に強くなってお前だけの守護者になってやるぜ」
数分後に落ち着きを取り戻した時、恥ずかしさに悶え苦しむ様な事を口走り、自宅を目指した。
オリジナル設定説明
ライトアーム姓
大臣が名字無しはあり得ないだろうと考えた結果。
ラグサットの固有スキル案にサポートというものを考えていた時期に、原作主人公の右腕的存在で父親が大臣、国王の右腕的存在と連想。
祝福の儀
ゲームのスキルシステムをどうにか現実的な世界観で表そうと四苦八苦した結果。
16歳で受けられ、スキルを授かると同時にレベルアップして初めてモンスターと立ち向かえる様になる。
スキルが無いと武器を装備しても満足に扱えないが、スキルを得ると訓練せずともある程度使いこなせるようになる。
祝福の儀前は鍛えていてもスライムにすらギリギリで勝てる位、祝福の儀後は素手でも勝てるし、スキルに対応する武器を持てば楽勝。こんな感じです。
武器を装備出来る、出来ないということについてはもう少し後で詳しくやると思います。