魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第九訓 同盟&再会

深雪達がとんでもない人物と会っていた数十分前。銀時達のいる世界でもまた事態は急変していた。

 

「深雪さぁぁぁぁぁん!! まさかこんな所で会えるとはでぶるふぁ!!」

「ちょっとぉ深雪さん! なんでいきなり会長さん殴ったの!!」

「すみませんいきなりロンゲの男性に抱きつかれそうになったのでつい反射的に」

 

場所は見渡しの広い江戸の公園。

中身は司波深雪、身体は坂田銀時という状態で、これまた中身は七草真由美で身体は桂小太郎という状態の彼がいきなり涙を流しながら両手を広げて抱きついてきそうだったので反射的に拳でカウンターを決めてしまう。

銀時の隣にいた志村新八が叫んでる中、いきなり顔面に一発入れられると予想していなかった桂は流れる鼻血を手で押さえながらヨロヨロと立ち上がる。

 

「先程新八さんから色々聞いて急いで駆けつけてきました……まさか深雪さんも私と同じこっちの世界に来てしまっていたなんて……」

「すみません七草会長、本来なら坂本さんと出会った時点でこの世界について話しておくべきだったのですが。迂闊に情報漏れを起こすと敵方にバレる可能性があるからとお兄様に口止めされていたので」

「全く達也君は……私にまで秘密にすることないじゃないですか」

 

鼻血を手で拭き取りながら桂が嘆いていると、銀時の傍にいた志村新八がふと気になった疑問を桂に。

 

「そういえば会長さん、さっきなんで真撰組の屯所周りをウロウロしていたんですか? 桂さんは国家転覆を企む攘夷志士として指名手配されるほどのお尋ね者なんですから幕府の息のかかった相手の場所に近づくのは危険なんですよ」

「それもわかってるんですけどちょっと用がありまして、幕府の犬共に天誅を下す為にエリザベスさんと一緒に時限爆弾の設置を」

「コイツ遂に身も心も攘夷志士に成り果てたよ!!」

 

後頭部を掻きながら平然と答える桂。

真撰組とは幕府直属の泣く子も黙る警察組織である、そこを爆破しようと企んでいた彼に新八は再び叫ぶ。

 

「なに真撰組相手にノリノリで攘夷決めこんでるんですか!! 自分が異世界の人間だって自覚あんの!?」

「運転免許の実技試験を落とされた腹いせに……けど後悔はしてません!」

「胸張って言ってんじゃねぇよ犯罪者! 腹いせにも程があるんだよ!」

 

一点の曇りのない目でそう言い切る桂を怒鳴りつけながら新八はバッと銀時のほうへ振り返る。

 

「ちょっと深雪さん何か言ってくださいよ、この人深雪さんのいた学校で生徒会長やってた人なんですよね」

「ええ、誰からも慕われ人望のある素敵な方でした」

 

才色兼備という言葉でさえ足らないほど名門七草家の者として素晴らしい実績も人望も持っていた七草真由美。一科生も二科生も関係なく平等に接し、兄である達也の事も何かと配慮してくれていたので自分も好感を持っていたのだが。

 

「まさかここまで変貌するなんて、一体どうしたんですか七草会長」

「深雪さん私わかったんです、七草家という立場から異世界の侍となって一ヶ月、七草真由美だった私は今までいろんな物の重荷を背負い自由という物を知らずに生きていた事を」

 

心配しながら尋ねてきた銀時に桂はフッと笑いながら答える。

 

「こうして生徒会長という立場と七草家としての振る舞いも忘れた今、私は本当の意味で自由となれたのだと深く実感したのです。そう今の私は……」

 

腰に差した刀を抜いて高々と掲げると

 

「この国の幕府の象徴である将軍を討ち取り幕府その物を滅ぼして新しき時代を作り! 天人共を1匹残らず駆逐し新なる日本の夜明けを目指す革命家となったのです!」

「いやそれ生徒会長からテロリストにジョブチェンジしただけだろ! なに桂さんみたいな事言ってんの! 入れ替わると思考も感化されちゃうの!?」

 

刀を天に向けながら叫び完全に立派な攘夷志士思考になった桂。

すると彼は銀時の方へ歩み寄り

 

「という事で深雪さん、私と一緒に将軍の首を取りにいかないかしら。あなたの力があれば国家転覆も夢じゃないわ、共に剣を取りこの国に新しい時代を築きましょう」

「いや私早く元の世界に戻りたいしさっさと自分の身体取り戻したいのでお断りします」

「なにこの勧誘の仕方、滅茶苦茶見覚えあるんですけど……思い切り桂さんがいつも銀さんに言ってる事なんですけど……」

 

中身は違うのに毎度お馴染みのシーンを見せ付けられて新八が困惑の色を浮かべていると

 

「ふむ、やはり陸奥殿の言うとおり白夜叉と狂乱の貴公子も入れ替わったという訳でござるか」

「え? あ! あなたは!」

 

こちらを観察するように独り言を呟いてる声に反応して新八が振り向くとそこに立っていたのは両耳にヘッドフォンを付けて背中に三味線を掛けたサングラスの男。

 

「た、高杉さんの所の!」

「河上万斉でござる、ぬしは白夜叉の傍にひっついていた小僧か」

 

河上万斉、鬼兵隊という高杉が作り上げた組織の一員だ。高杉を始め鬼兵隊とは銀時達万事屋にとっては因縁深い相手である。

 

「どうしてここに! まさか今の銀さんと桂さんなら容易に殺せると思って!」

「落ち着け、そんな事するのであれば拙者自ら出向かなくても事足りるはず、安心せい小僧、今の拙者達は貴殿達と刃を交えるつもりはないでござる」

「え……?」

 

戦う意思はないと冷静に諭してくる万斉に構えようとしていた新八は呆気に取られる。

更に万斉は

 

「今日来たのは貴殿達と一時的な同盟を結ぶ為に、鬼兵隊代表として拙者自ら使者としてやってきたのだ」

「ど、同盟!? 鬼兵隊が僕らと手を結ぶって! 一体どういう事ですか!? 話が全然読めてこないんですけど!」

「それはわしから説明するぜよ」

「陸奥さん!」

 

いきなり因縁深い相手に同盟だと言われても新八は混乱するばかり。すると用事から戻ってきた陸奥がフラっと彼等の元に現れた。

 

「実は今回の入れ替わり騒動、鬼兵隊の総督、高杉晋助も被害に遭うたらしい」

「ええぇぇぇぇぇ! 高杉さんも!? ってちょっと待ってください! てことは高杉さんもあんな風に!? あの高杉さんが!? あの高杉さんがぁぁぁぁぁぁ!?」

「……」

 

慌てて銀時と桂のほうへ指差す新八に、基本めったに表情を崩さない万斉が突如顔からダラダラだと汗を流し始め

 

「……あの程度ではござらん」

「えぇぇぇぇぇぇ! マジですか!? いやホントマジなんですか!?」

「マジじゃ、ついさっきわしも同盟協定を結ぶがてらに高杉を見てきたが」

 

銀時達以上に変貌してると聞いて新八が物凄く興味を持ち始めていると陸奥は静かに頷き

 

「久しぶりに腹を抱えて大笑いしてしもうた」

「ポーカーフェイスの陸奥さんが腹抱えて爆笑するレベル!? ヤバい! 超見たい! 万斉さん僕にも見せてください!!」

 

滅多に表情を崩すことはないあの陸奥が人目も気にせず笑ってしまうとは一体今の高杉はどうなっているのだろうか、俄然興味が沸いてきた新八、だが彼に向かって万斉はいきなり両膝と両手を地面を着き

 

「それだけは勘弁して欲しいのでござる、どうか他の者にも晋助については決して触れぬようにしてくれとぬしから言っといてくれ……」

「土下座したぁぁぁぁぁぁ!! どんだけ秘密にしたいんですか! なんか興味よりも見たらどうなるんだっていう恐怖が込み上げて来たんですけど!」

 

彼から見れば若輩の小僧である新八に対し深々と土下座までする万斉、そんな姿を見て新八はこの世にはどんなに興味を持って見てはいけない物があるのだと実感した。

だが今度は先程の話を傍で聞いていた桂と銀時が近寄り

 

「あのー万斉さんでしたっけ? そちらでも私達と同じ入れ替わりがあったとか? 一体誰がこちらの世界にやってきたんですか?」

「貴殿等になら話してもよかろう……晋助と入れ替わったのは中条あずさ殿でござる」

「あーちゃんが!? そんなあの子もこっち来てたなんて!」

「私が元の世界にいた時にいきなり学校休み始めたんですけど、中条さんそんな理由があったんですね」

 

土下座をするのを止めて立ち上がりながら万斉が言った名前にいち早く反応する桂と納得する銀時。すると桂は万斉に歩み寄り

 

「今すぐあーちゃんと会わせて下さい!」

「な、ならん! それだけは絶対に駄目でござる! 安心せい! 今は拙者の仲間であるまた子が不自由なく世話してやってる筈なので貴殿等が心配してるような真似はしておらん!」

「そういうの関係なく私は同じ攘夷志士として共に幕府打倒を目指そうとあーちゃんに頼みたいんです!!」

「それこそ絶対に無理な話! 今の晋助を世に出すことは出来ぬ! 国を革命する前に自分が革命されているのだぞ! ホント勘弁して欲しいのでござる! いやホントマジで!!」

 

断っても詰め寄ってくる桂に万斉が必死になっている姿に新八は虚ろな目を向け

 

「鬼兵隊のナンバー2があんなにうろたえて隠そうとしてる……」

「まあ確かにウチの艦長もあんな風になったら船の倉庫に縛り付けて隠そうとするの」

「そこまで!?」

 

ポロッと漏らした言葉に反射的に振り返ってきた新八に陸奥はため息交じりに。

 

「まあ今の艦長も出来るなら隠しておきたい所なんじゃがの、出来るのであればまだまともそうなおまん等の所のモジャモジャと交換したい所じゃきん」

「そ、そうなんですか……あれ? あそこにいるのって……」

 

陸奥が愚痴をこぼしていると新八はふと彼女の背後から何者かが近づいてくるのが見えた。

モジャモジャ頭でサングラスを掛けた男……どっかで見た覚えのある姿に新八が見つめていると男は陸奥の隣に立ち

 

「どうも……この身体と入れ替わった千葉エリカです……」

「なんか暗ぇぇぇぇぇぇぇ!! こんな暗い坂本さん見た事無いんですけど!? グラサン越しの目が完全に死んでるんですけど!」

 

現れたのは坂本辰馬の身体を借りている千葉エリカ、滞在期間は七草真由美よりも長く、2カ月以上身体を借りてるせいか心身共に疲れ切っている様子。

こんなに生気が感じられない坂本を見たのは初めてだ。

しばらくして坂本はグッタリと項垂れて

 

「……しょうがないじゃないの、記念すべき高校生活1日目でいきなりモジャモジャ頭のおっさんになっちゃったのよ……期待と楽しさを胸に向かった高校生活は一瞬にして暗い宇宙での生活に……毎日無愛想な女にど突かれたりあたしの人生最悪よ……」

 

どうにもかなり参ってる様子、さすがに新八も何を言っていいのかわからず頬を引きつらせるばかり。

 

「この人大丈夫なんですか陸奥さん……」

「大丈夫じゃなか、こげな役立たず押し付けられてわし等の士気もだだ下がりじゃ」

 

坂本の目の前で堂々と役立たず呼ばわりしながら陸奥はため息を突く。

 

「商売の方はなんとかわし一人でやっていけるがさすがにあの男がいないと色々難しい所もある、わし等の商いは金の縁より人の縁じゃ、あの男の交渉でないと首を縦に振ろうとせんモンもんおるしの」

 

そう言いながら陸奥は坂本に横目を向けて

 

「なのにコイツは交渉どころか船の床磨く事さえまともに出来ん。一応見習いとして船の技術叩き込んでおるがてんで駄目、どうせ入れ替わるのならせめてもっと骨の良い奴をよこして欲しかったわい」

「アンタに何がわかるのよぉ!」

 

散々言われた事に遂にむかっ腹が立ったのか坂本は突然勢いよく陸奥の胸倉を掴み上げる。

 

「あたしは魔法師として今まで育ってきたの! 交渉とか床掃除は専門外なの! わかる!?」

「そげな事知るか、その辺に捨て置かずに食わしてやってるだけありがたいと思わんか」

「あーそうよね! 坂本さんの身体だもんね! アンタの大切な坂本さんの身体だもんね! それじゃあ捨てる真似出来ないわよね~!」

「……」

 

坂本の言い方が癪に障ったのか僅かに額に青筋を立てて顔をしかめる陸奥。

すると更に坂本は悪ノリして。

 

「アンタってばアタシが坂本さんと入れ替わった時は数日ぐらいテンションずっと低かったもんね~! な~んか意地張ってそういうの隠してたけどあたしにはバレバレだから! 無理に無表情キャラやってないで素直になりなさいよこのヘタレ! ぶへら!!!」

 

胸倉掴んだ状態でニヤニヤ笑いかけて来る坂本に遂に限界が来たのか、無言で彼の股間を蹴り上げる陸奥。

女の時には味わえなかったその衝撃と痛みに耐え切れず、坂本はバタリと後ろ向きに倒れた。

 

「わかるか、わしがコイツの事心底ムカついてるのを。コイツはこういうくだらん事を周りに言い触らすラブコメ脳で、根も葉もないしょーもない種をそこら中に撒き散らす奴なんじゃ」

「おごぉ!」

「陸奥さんわかりましたから! だからそれ以上股間蹴らないで上げて下さい!」

 

倒れた坂本に追い打ちをかけるように股間に何度も足を振り下ろす陸奥に新八が悲痛な声で叫んで止めさせる。

すると股間を蹴るのを止めてくれた陸奥は坂本の頭を掴み上げてズルズルと引きずり

 

「ほれ、他の者共に挨拶ぐらいせんか、3人の内2人はおまんと同じ入れ替わり組じゃぞ。同じ世界出身なら仲良くやれ」

 

銀時・桂・万斉の所へ引きずると陸奥は無理矢理坂本を立たせて彼等に紹介する。

 

「おまん等、コイツは坂本辰馬という男の身体借りちょる……おい、おまんの名前ってなんじゃ沢尻とかなんとかじゃったっけ?」

「何度も言ってんでしょ! あたしの名前は千葉エリカよ!」

 

さほど短い間の仲でもないのに名前さえ覚えていない様子の陸奥にキレる坂本。

すると桂は千葉エリカと聞いて「おお」と手をポンと当てて

 

「ブランシュ事件の時に達也君と一緒に戦ってた千葉さんね、凄かったらしいわねあの時は、達也くん達とブランシュの潜伏場所に行って大暴れしたとか」

「ブランシュ事件って何!? 達也君って誰!? アタシそんなの知らないんだけど!?」

「え? じゃあ達也くん達と一緒に休日に海行った時に、深海に太古の昔に存在した古代文明を見つけたとかなんとか西城くん達と騒いでなかった?」

「それこそますますわからん! つうかそもそもアンタ誰!?」

 

いきなり自分の事を知った感じで話しかけて来るのかと思えば経験した事のない話ばかり始める桂に慌てて坂本は指を突き付ける。

すると銀時が桂に耳打ちして

 

「七草会長、彼女は入学式当日に坂本さんと入れ替わった方です。ブランシュ事件の時や古代文明を見つけた話は全て坂本さんと入れ替わった後の事ですので」

「ええそうなの!? じゃあ私が今まで千葉さんだと思ってた人は異世界の人だったのね」

「そうです、私達が本来の彼女と直接顔を合わせるのは初めてです、合わせられてませんけど」

 

見た目は銀時・桂・坂本なので坂本視点からだと誰が誰だかわからない様子。

すると桂は改めて坂本に頭を下げて

 

「初めまして生徒会長の七草真由美です、一緒に攘夷志士になって国家転覆目指しませんか?」

「攘夷志士!? ドサクサに変な勧誘しないでよ! アンタ本当に生徒会長!?」

「私は司波深雪です、初めまして千葉さん」

「ああどうも初めまして……エリカでいいよ」

 

互いに名を名乗って自己紹介している三人。そんな彼等を見ていた万斉は「ふむ」と頷き

 

「晋助含み、攘夷戦争時代四天王と呼ばれたあの四人が異世界に飛ばされるとは、実験に使われたにしては少々偶然では片付けられないでござるな」

「恐らく蓮蓬の行った実験にはもう一つの狙いがあったんじゃろう、わし等地球の戦力の低下、優れたリーダーの損失による被害」

 

彼の疑問に陸奥が冷静に分析しながら答える。

坂田銀時、桂小太郎、坂本辰馬とは過去に戦った経験があるので無論、蓮蓬にとっては憎き敵、入れ替わりの実験に使われたのも容易にわかる。そして高杉晋助は国はおろか宇宙海賊春雨にまで喧嘩を売り宇宙中でその名も知られている。蓮蓬の得意な情報収集術でその高杉がかつて銀時達と共に戦っているのが知られたら尚更だ。

 

「実際あの四人を失ってしまってわし等の戦力も大幅に下がっちょる、快援隊と鬼兵隊、桂一派に万事屋、皆をまとめられる四人のリーダーが欠けたこの状況で星一個潰すには厳しい戦力よ」

「状況は絶望的という事か……」

 

勝てる保証はおろか戦いになるかどうかすらも怪しい。

現状を理解しながら万斉が思わず嘆いていると

 

「おーい戻ってきたアルよ~」

「……来たか」

 

数メートル先から傘を差してこちらに手を振ってやってきたのは万事屋一派の一人、神楽。

彼女が戻ってきたことを確認すると陸奥はすぐに彼女のほうへ振り返った。

 

「ちゃんと連れてきおったか」

「うん、そよちゃんに頼んで会ってきたネ、用事済ませたらすぐ来るって」

「そうか、ならあの男が来たらそろそろ出発じゃな」

「え? 一体誰を待っているんですか?」

 

神楽の話を聞いて出発準備を始めようとする陸奥にふと新八が尋ねると彼女は

 

「5人目の入れ替わり組じゃ、前にも話した司波達也じゃ」

「ええ! 深雪さんのお兄さんが来るんですか! ぐえ!」

「お兄様が!」

 

その名を聞いて驚く新八の頭を押しのけて身を乗り出してきたのは銀時。

血相を変えた様子で陸奥に顔を近づける。

 

「あなたに何度尋ねても何処にいるのかさえ教えてくれなかったあのお兄様が!?」

「だからここに来ると言うとるじゃろうが、そのツラでお兄様連呼するな。気色悪か」

 

こちらに顔近づけて確認を取る銀時にジト目ではっきりと答える陸奥。

 

「正直"今の"あの男を連れて行くのはわしは反対じゃったんじゃがしつこくての、終いには権力使ってわし等の船ば取り上げるとか言って来たから仕方なく連れて行くんじゃ」

「ああ、この日をどんなに待ち侘びたことでしょう……」

「良かったですね深雪さん、でも銀さんの体で腰くねらせないで下さい……」

 

抱きしめるかのように両腕を組んだ状態で腰をクネクネさせながら恍惚とした表情を浮かべる銀時を心底気持ち悪いと思いながら新八が呟く。

 

「でもどうして今まで会わせてあげられなかったんですか? 陸奥さんと情報を交換し合ってたってのは前に聞きましたけどそれ以外の事を尋ねても何も言わずに帰っちゃいましたし」

「あの男から口止めされてたんじゃ、迂闊に自分の情報を漏らす事はマズイと。ただでさえヤバイモンと入れ替わってしもうてるからの」

「高杉さん以上にヤバイ人なんているんですか……」

「いや高杉と比べるとどっちもどっちじゃの、神楽に聞いてみるといい」

 

達也に会ってきてここに来るよう誘ったのは神楽だ。

新八はすぐに彼女の方へ振り返った。

 

「神楽ちゃんどうだったの、達也さん?」

「驚いたアル、新八もきっとビックリして目ん玉が眼鏡のレンズぶち壊して飛び出てきちゃうぐらい驚く筈ヨ。すぐ来るって言ってたから待ってるヨロシ」

「いやそんな古典的なギャグ漫画じゃあるまいし……」

 

神楽が言うには大層凄い人らしいが、高杉の件があるのでまさかそこまで驚かないだろうと苦笑する新八。

 

するとそこへ

 

 

 

 

 

「悪い、待たせてしまったようだな」

 

その男はやってきた。

 

声のした方向を振り向いて新八は目を大きく見開く。そして目玉が飛び出てきてもおかしくない程絶句した表情を浮かべた。

 

溢れ出る高貴な佇まいとその顔立ち、頭にしっかり結われた髷。江戸に生きる者で知らぬものなどいる筈もないあの人物……

 

「少々時間をかけてしまったかな」

「しょしょしょしょ将軍んんんんんんんん!!?? どどどどどうしてここにィィィィィィ!?」

 

紛れもない徳川家十四代目征夷大将軍、徳川茂茂その人であった。

思わず腰を抜かしてしまいそうになる程驚いて声も震えている新八に、将軍茂茂はフッと笑い。

 

「残念ながら俺は将軍などという器になれるような大層な人間ではない」

「え? いや何を言って……あァァァァァァ!! まさかあなたは!」

「陸奥さんから話は聞いていたようだな」

 

誰なのか検討ついた新八、すると茂茂は正面を見据えるかのような視線で

 

「俺の名前は司波達也(しばたつや)一ヶ月前に将軍茂茂と入れ替わってこの世界にやってきた国立魔法大学付属第一高校の一年の二科生だ」

「そ、そんな!? まさか深雪さんのお兄さんが入れ替わった相手が僕らの国のトップである将軍様だったなんて!?」

 

将軍といえば幕府の中の頂点に君臨するお方。そんな人物とまさか入れ替わっていたとは

全く想像だにしなかった展開に驚愕する新八に陸奥が背後から声をかけた。

 

「蓮蓬は地球から優れたリーダーを消す為に入れ替え実験を行った、ならばわし等の国の頂を狙うのも当然といえば当然じゃ」

「た、確かにそうですけど……ていうか陸奥さん、アンタ将軍になってる達也さんと情報交換してたんですか?」

「向こうから来たんじゃ、坂本からわしの事を聞いておったらしくての」

「ああ、俺は坂本さんから向こうの世界で随分と話を聞いていたからな」

 

彼と知り合った経緯を話す陸奥の所へ茂茂が歩み寄る。

 

「アンタの事はよく聞いていた、あの人がいつも「頭も切れるし腕も立つ副艦長」と評価していたアンタなら、俺も信用してこちら側の情報を提供したんだ」

「異世界から来たとのたまう男の話を鵜呑みにするたぁ随分お人好しじゃの」

「お人好しじゃない、俺は人が嘘をついてるかどうか見極めるのが得意なだけだ」

 

そう言って茂茂は千葉エリカとして異世界でゲラゲラ笑っていた坂本辰馬を思い出す。

 

「あの人は嘘をつけないというより嘘をつかないタイプだ。そんな相手だからこそ俺はあの人のいう異世界の存在を信じた」

「残念ながらあの男は宇宙海賊よりタチの悪い詐欺師じゃ、嘘をつかん性格というのは正解じゃが、迂闊に奴を信じ込むのは不正解ぜよ、いつの間にか足元すくわれて身ぐるみ剥がされ全部奪われるぞ」

 

フンと鼻を鳴らしながら陸奥が茂茂にそう言ってやると彼女達の所に銀時が駆け寄ってくる。

 

「お兄様! 私です! お兄様の妹の司波深雪です! 今はこんなモジャモジャ頭の男になってしまいましたが私は!」

「大丈夫だよ深雪」

 

すっかり変わり果ててしまった自分の事を気づいてくれるのかと不安な気持ちで一杯な銀時が必死に訴えると優しく微笑む茂茂

 

「例えお前がどんな姿に変わろうが俺は一目で妹の事はわかるさ、そしてどんな姿でも俺にとってお前はこの世で一番大切なモノさ」

「お兄様……!」

「あの二人供! 感動的な再会やってる所悪いんですけど自分の姿思い出してください!傍から見たらおっさんとおっさんですからね!」

 

おっさん二人で背景に大量の花を置いて見詰め合ってる姿にさすがに新八が叫んでツッコミを入れていると……

 

「将軍の首……!」

 

突如茂茂の背後から刀を抜いて飛び掛る人影、その正体は

 

「この七草真由美が!! 頂戴いたすゥゥゥゥゥ!!!」

「ってお前は何やってんだ!! その人将軍じゃねぇから!! 深雪さんのお兄さんだから!!!」

 

刀を抜いて茂茂の首めがけて振り下ろしてきた桂、攘夷志士の彼にとって将軍とは絶対に討つべき存在なのだ。

すると慌てて叫ぶ新八を尻目に、茂茂は振り向かないまま筈かに上体を逸らして

 

「なに!」

「避けたぁ! 会長の一撃を僅かに身体を動かしただけで避けたぁ!!」

「やれやれ、第一高校の生徒会長が何やっておいでなんですか?」

 

刀は虚しく空を切り空振りに終わった事に驚く桂と新八。

しかし対照的に茂茂は全く動じずに振り返ると微笑を浮かべ

 

「さあ、俺達のいる世界に帰りますよ、七草会長、俺と深雪と一緒に」

「あ、あなたもしかして達也君!? ウソ! まさかこっちの世界に来ていたなんて!」

「それと俺の背中を取りに行くなら殺気を隠さないと無理ですから」

「そんな……私、私……!」

 

斬りかかった相手があの司波達也だと知ってショックで刀を掴んだまま地面に両手を突く桂、と思いきや

 

「っと見せかけて天誅ゥゥゥゥゥゥ!!!」

「達也さんそいつはもうアンタの知る会長じゃないです! ただの過激派攘夷志士です!!」

 

手に持った刀を振り上げて雄叫びを上げながら再度首を狙いに行く桂。卑怯な戦略に新八が叫ぶ中茂茂と桂の間に一人の男が手に木刀を持って立ち塞がる。

 

「お兄様を殺しにかかるとはどういつもりですか七草会長」

 

洞爺湖と彫られた木刀で桂の一撃を防いだのは銀時、向かい合って刀ごと突き飛ばすと銀時は鋭い目つきで桂を睨む。

 

「おふざけにも程があるのではないですか」

「く! お前ともあろうものが幕府の犬に成り下がったかぁ銀時!!」

「深雪です、全くこっちの世界で何を覚えたのか知りませんが正気に戻って現実を見てください」

「いやだって目の前に将軍いたらそら斬るのが現実であって……」

「攘夷志士でなく生徒会長ですよあなたは」

 

兄に斬りかかられた事で少々ご立腹の様子の銀時。桂が渋々刀を鞘に納めていると

 

「神楽ちゃ~ん! 兄上様~! お見送りに来ました~!」

「!」

 

突然着物を着た可愛らしい少女が手を振ってこちらに向かって嬉しそうにやってきた。

しかも茂茂に向かってしっかりと兄上様と呼んだ事に銀時はいち早く反応して目を見開く。

将軍茂茂の妹君であり神楽の親友のそよ姫だ。

 

「そよ姫、城外は危険だから出てはいけないとあれ程言っただろう」

「え~でも“NEW兄上様”とこれっきりになってしまうのですからせめてお別れの挨拶を」

「やれやれ、将軍の妹という自覚を少しは持ってほしいな」

 

呆れながらもフッと笑いながらそよ姫の頭を撫でる茂茂。

それを見た瞬間銀時の頭の中でプツンと何かが切れる音がした。

 

「お兄様ァァァァァァ!! その馴れ馴れしくお兄様に接してきやがった小娘は一体何者なんですかコノヤロー!!」

「深雪さん落ち着いて! なんか銀さんの口調と交じってますよ!」

 

目を血走らせて木刀を肩に掛けながら茂茂に叫ぶ銀時。

後ろから新八がツッコンではいるが彼の耳には届いていない。

すると茂茂はそよ姫の頭に手を置いたまま

 

「紹介しよう深雪、俺と入れ替わった将軍の妹のそよ姫だ。俺が入れ替わったばかりの時は彼女とお付きのじいやに色々と助けてもらったんだ、いわばこの世界での俺の恩人だ」

「も~NEW兄上様ったらそんなに褒めないで下さいませ~。私はただNEW兄上様にお役に立てるならと色々教えてあげただけなんですから~」

「おい小娘! なに私のお兄様に顔赤らめて照れてんだゴラァ! 脳天かち割ってもっと顔面真っ赤に染め上げるぞクソガキ!!」

「何言ってんですか深雪さん! 相手は将軍の妹ですよ!」

 

桂同様見た目はおろか中身まで浸食されているんじゃないかというぐらい荒れ狂う銀時を後ろから新八が羽交い絞めにして必死に止めていると。

 

「コラ姫様! はしたないですぞ! こんな所まで出歩いてはいけませぬ!」

「あら爺やもNEW兄上様とお別れを?」

 

かなりのお年頃の男性がゼェゼェと荒い息を吐きながらそよ姫の所へ駆け寄ってきた。

先代の頃から長らく幕府に仕え今はそよ姫のお世話役をしている六転舞蔵だ。

どうやら城外に出たそよ姫を追ってここまで駆けて来たらしい。

 

「達也殿にこれ以上迷惑を掛けてはいけませぬ! 別れを惜しむ気持ちはわかりますが再び茂茂様と会う為にはいたしかたない事なのでございます!」

「もーそれぐらい私もわかってます! そりゃあNEW兄上様も素敵な方でしたが本当の兄上様にだって早く会いたいと思っておりますが最後の挨拶ぐらいさせて下さい!」

「全く姫様は……」

 

困り果てたように舞蔵は首を横に振った後、茂茂様の方へ顔を上げた。

 

「達也殿、その身体はこの舞蔵にとっても姫様にとっても、そして何よりこの国にとってなくてはならない存在でございまする。どうか無事に茂茂様の下へその身体を返して来て下さいませ」

「ええ、手筈通り将軍の影武者を用意して場をしのいでおいて下さい。全ての事が済むのに時をかけるつもりはないですから安心して待っていてくれればいいので」

 

舞蔵に心配かけぬ為にそう言う茂茂、だが舞蔵は彼の背後に立っている桂と万斉の姿を見て目を光らせる。

 

「ご油断なされるな達也殿、あそこの連中はかつて我々が何度も手を焼いた連中です、事を上手く運ぶにはそう簡単にはいきますまい……くれぐれも背中から刺されぬようお気を付けて下され」

「ご忠告ありがとうございます、舞蔵さん。彼等なら心配しないで下さい、自分はそう簡単に寝首を掻かれるつもりはないので」

 

彼が心配するの無理はない、桂一派と鬼兵隊は幕府にとって脅威と呼ぶに相応しい連中だ。

舞蔵の言葉を茂茂はしっかりと記憶しておくと、そよ姫がプンスカ怒った様子で

 

「もー! どうして私より先に爺やがNEW兄上様とお別れの挨拶をしているの!」

「そよ姫、これは別れの挨拶でなく人生の先輩からのアドバイスをしてもらっただけだ」

 

先を越された様子でご機嫌斜めになっているそよ姫に茂茂は慣れた手つきでなだめる。

 

「そよ姫、君が淹れたあのぬるい茶をもう飲めなくなるのは少し寂しいが、俺にも将軍と同じく大事な妹がいるんでな、その妹と一緒に一刻も早く元の世界に帰らなければいけないんだ」

「私も寂しいですが私にも大事な兄上様がおります、だからお二人がご無事にそれぞれの居場所に戻れるようにお城で願っていますね」

「ああ、さよならだこの世界の俺のもう一人の妹」

「お気を付けて、別の世界の私のもう一人の兄上様」

 

最後にそよ姫の頭に手を乗せて彼女と別れを済ませると茂茂は銀時と新八の下へ戻ってきた。

 

 

「さあ行こうか」

「行こうかじゃねぇよ! なにさっきのやり取り!? なんで爺やさんとそよ姫様の好感度カンストしてんだよ!!」

「色々あってな、将軍としての務めをなんとかやっていたら認めてもらえたんだ、そよ姫とは「将軍妹誘拐編」で舞蔵さんとは「初代将軍復活編」を機にな」

「そんな長編シリーズウチでやった覚えねぇんだけど!? なに人が見てない所で将軍様の身体でスペクタクルな大冒険繰り広げてんの!?」

 

スピンオフが作れそうな将軍茂茂の華麗なる活躍を聞いて新八が思い切りツッコミを入れる中、銀時はほれぼれする様に茂茂の顔を見つめ

 

「さすがはお兄様です! 入れ替わり現象に巻き込まれたのにも関わらず瞬く間に幕府の方々から強い信頼を得るとは! あの世間知らずの小娘に好かれていたのはいけ好かないですけど!」

「いやさすがつうか末恐ろしいよ! 将軍の身体使いこなしてる時点で尋常じゃないヤバさだよ!!」

 

彼を褒め称えている銀時にも新八が叫んでいると何も知らない様子で神楽が戻ってきた。

 

「そよちゃんにしばらく宇宙旅行行ってくると言ってきたネ」

「じゃあ神楽ちゃんも戻ってきたことですし行きますか」

「ああ、いつでも構わない、行こう深雪」

「ええ、お兄様となら何処へでも」

「だから絵面キツイから見つめ合わないでください……」

 

隙あらば二人の世界に入ろうとする茂茂と銀時に新八が死んだ目でツッコンでいると上空から突如轟音が鳴り響く。

 

見上げると空には数台の宇宙船が到着していた。坂本辰馬が率いていた艦隊、快臨丸や鬼兵隊の船があった。

するとまず万斉が歩き出し

 

「拙者は鬼兵隊の方の船に乗っていくでござる、よもや討ち滅ぼす相手である将軍と共に戦を仕掛けることになるとは……晋助が聞いたらどんな反応するであろうな」

 

 

続いて陸奥が坂本の尻に蹴りを入れながら

 

「出発の時間ぜよ、おら行け沢尻」

「千葉エリカだっつってんでしょ!」

 

一人と二人が別々の船の方へ向かったところで万事屋一行と将軍茂茂も出発する。

 

「では僕らも陸奥さんの所の船に乗りましょうか」

「銀ちゃん達を助けにいくアル!」

「そうですね、早く私の身体をこのモジャモジャヘアーの男から取り返さないと」

 

新八、神楽に続いて銀時も二人の後を追おうとすると。

すると彼等の後ろにいた茂茂はふと桂が部下達と何か会話しているのに気付いた。

 

「ええ! エリザベスさんがいない!? ついちょっと前まで私と一緒にいたわよ!」

「それが連絡してもまったく通じず何処へ行ったのやら……とにかく今はここにいる者だけで行きましょう」

「イヤですあの人を置いてはいけません! あの人は見知らぬ世界で一人ぼっちになってしまった私に初めて手を差し伸べて助けてくれた恩人なのです! 共に来てくれないのならせめて別れの挨拶を済ませないと!」

「いけません会長殿! まもなく出航です!」

 

部下達に無理やり連行されて船へと連れてかれる桂、それでもなお「エリザベスさ~ん! どこ~!」と必死に連呼している彼を眺めながら茂茂は顎に手を当てる。

 

「この世界で世話になった恩人に別れの挨拶か、確かに全てが終わったらもう俺達がここに来ることは無いからな……」

「どうかなさいましたかお兄様?」

「いや、なんでもない」

 

銀時に尋ねられると茂茂はフッと笑って歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「さあ行こう、俺達の身体と俺達の世界を取り戻しに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

不穏な影と共に

 

 


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