魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第八訓 集合&登場

司波深雪が千葉エリカと出会ってから数時間後の事であった。

学校は終わり放課後、エリカは既に他生徒はいなくなっている自分のクラスの1年E組の教室でお腹を抱えてしゃがみ込んでいた……

 

「……」

「銀時から聞いた……テメェどうして今まで隠れてやがった」

 

そんな彼女をドスの利いた声で呟く少女、中条あずさが静かに見下ろす。

彼女に睨まれながらもエリカは顔を上げずに口元を押さえながらしゃがみ込んでいる。

 

「さっさとツラ上げてこっち見ろ」

「……いやだって」

 

彼女にそう言われてエリカは遂に両膝を震わせながら立ち上がると、口元を押さえたままグラサン越しにあずさの顔を見て

 

「まさかあの高杉がこんな可愛らしいお嬢ちゃんになってたら誰だってブフゥ!! 笑ってしまうわ!! アハハハハハハ!!!」

「……」

 

遂に堪えきれずにエリカは口元から手を放してゲラゲラと大きな笑い声を上げた。

掛けたグラサンの下から涙が出て来るほど笑っている彼女を前にあずさはただジッと立っていると。

 

「おいおい笑ってやるなよ辰馬君よ」

 

あずさの背後からエリカを注意する声が

彼女達と一緒にこの教室に来ていた司波深雪である

 

しかし彼女もエリカに注意しながらも必死に涙目で笑いを堪えている。

 

「高杉君だって俺等と同じ被害者なんだよ。ちょっと前まではこの腐った世界をぶっ壊す~だの中二病クサイ事言ってたのに目が覚めたらモノホンの中二みたいな体の女の子に……ぶふぅ!! 笑っちゃいけねぇってホント……ダメだ腹痛ぇ! ギャハハハハ!!」

「……テメェ等も人の事言える体してんのか」

 

遂にエリカ同様腹を押さえながら笑い出す深雪。そんな彼女を坂本に対する以上に殺意を放ってあずさが睨んでいると今度は彼女の横から

 

「おい銀時、坂本、その辺にしておけ」

 

彼女達3人と同じく、教室に来ていた七草真由美が二人を静かに諭す。

 

だが彼女であってもさすがにここまで笑いが広がっていると我慢できないのかプルプルと身体を震わせ口元を押さえながら

 

「高杉の今の身体はあーちゃん殿の身体だ、高杉を笑うという事はあーちゃん殿の体型を馬鹿にしているのと同義。彼女を笑うのは生徒会長であるこの俺が絶対に許さ……ぶッ!」

「テメェ等まとめて首飛ばされてぇのか……?」

 

人3人程殺せそうな手頃な凶器が無いかとあずさがふと考えていると、タイミングよく教室に複数の生徒が入ってきた。

 

「お、お邪魔します……」

「え、なんで皆さん笑ってるんですか……?」

 

最初に人のオーラを感じ取れるという特殊な目を持っている柴田美月が遠慮がちに入って来て、続いて彼女の後から教室で笑っている3人を見て困惑した表情で窺っている吉田幹比古。

 

「おーおーやっぱり坂本さんの旧友だわな、揃いも揃ってにぎやかな人達だぜホント」

「楽しげに眺めるのは結構だが、俺は見た目が司波の妹や七草会長なおかげで全然笑えん……特に手酷い目に遭わされた中条と入れ替わった侍相手にはな」

 

続いて反対方向のドアからやって来たのは西条レオンハルト、そして彼と共にやって来た一つ上の先輩桐原武明が複雑な表情が入って来る。

 

「アハハハハ!! ようしおまん等来たか! じゃあ早速始めるとするか!」

 

新しく4人が入ると教室の一番後ろ側で坂本はパンパンと両手で叩いて全員にこちらを向くように合図する。

危うく衝突しかけていた深雪、真由美、あずさも彼女の方へ振り返った。

 

「まずはわしから自己紹介、わしは千葉エリカっちゅうお嬢ちゃんの身体を借りとる坂本辰馬というもんじゃき、ここの滞在期間は入学式の日じゃったから4人の中で一番長い。好きなモンは船で宇宙ば駆ける事とキャバクラすまいるのおりょうちゃん、夢はデッカく宇宙一の商人じゃ、応援よろしく。アハハハハ!」

「いやアンタの事は俺達とっくに知ってるから今更自己紹介しなくていいって、むしろ千葉エリカの方を知りたいぐらいだわ、ハハハ」

 

得意げにグラサンをクイっと上げながらヘラヘラ名乗るエリカにレオが苦笑しながらツッコミを入れていると、彼等の傍に立っていた真由美がスッと軽く手を上げ

 

「俺は七草真由美殿と入れ替わってしまった桂小太郎という日本の夜明けを目指す侍だ。滞在期間は一ヵ月、好きな物はそばだ。夢は生徒会長して皆の模範となれるような人間になる事、そして最終的にはニ科生も一科生も関係なく皆平等に教育を受けられる方針で学校を革命する事が俺の目標だ、皆、生徒会長であるこの俺を信じて後について来てくれ」

「いやあの桂さん、夢の部分から完全にこっち側に浸食してるんですけど……どう考えても生徒会長としての志になってるんですけど……」

 

言ってる事は立派なのであるが桂と言うより真由美の夢に近いのではないだろうか……。

ボソッとツッコミを幹比古が彼女に入れていた時、今度は教壇のすぐ前の机に足を伸ばして座っていた深雪がけだるそうに小指で鼻をほじりながら

 

「あーこの娘っ子と入れ替わった坂田銀時でーす、万事屋っていう何でも屋やってまーす。ここに拉致られたのは数日前、好きなモンは甘い物、ジャンプ、結野アナ。夢はあ~……なんだろ? ああ、今指突っ込んでる鼻の奥にあるでっかいハナクソ取ることでいいや」

「み、深雪の姿でそんな事しないでください!!」

「うるせぇ今こいつの体は完全に銀さんの支配下にある。俺が何しようが俺の勝手だ、あ、取れた」

 

少々ビクつきながらも深雪に対して果敢にも注意する美月だが深雪はそんな事お構いなしに鼻に突っ込んでいた指を引っこ抜き、ぶっきらぼうに小指を親指で弾く。

 

「誰にだってハナクソの一つや二つ鼻の中に溜め込んでるモンなんなんだよ。司波深雪だってきっとお前等に隠れて鼻に指突っ込んでるよ、誰だってそうなの、みんなみんなハナクソ溜めて生きていくモンなの」

「ならせめて人前でやらないで下さい! 深雪自身が人前で堂々とそんな事してると誤解を受けるじゃないですか!!」

「いいんだよ堂々としてて、主人公を引き立てる為におしとやかに一歩下がるヒロインの時代はもう終わったんだよ。今は主人公を押し退けて人前で恥じらいも無くゲロ吐き散らせるヒロインの時代だ」

「そんな時代一生来ません! ああ今度は耳に指を!」

 

具体的な例えを言いながら鼻の次は耳に小指を突っ込もうとする深雪を美月がついに身を乗り出して止めようとしている中、彼女達の前方にある机の上に胡坐を掻いて座り込んでいる中条はというと懐から取り出したキセルを口に咥えながらフゥーと教室内に煙を撒き散らす。

 

「……こんなくだらねぇ事続けるんだったら俺はもう帰るぞ」

「す、すまない高杉さん、中条の体で校内で堂々とキセル咥えて煙を吐き出すの止めてくれないか……もしバレたら中条が退学に……」

 

退屈そうにしながら堂々と教室内で喫煙しているあずさを桐原が恐る恐る止めようとするが彼女はギロリと彼を睨み付けて

 

「俺がガキに気をかけて身なりを整える様な奴に見えんのか? それと俺に気安く話しかけんじゃねぇ」

「……坂本さんこの人本当に俺達の味方になってくれるのか? 俺はもう完全に自分の心が折れた音が聞こえたぞ」

「アハハハハ! 心配せんでもよか! 高杉はシャイボーイじゃからの! 昔皆で遊郭ば行ったときもコイツ指名した女の前でただ目を血走らせながら酒飲んでるだけで! 最終的にその女に「クソつまらない男だった」とか散々な感想を言われ……!」

 

ヘラヘラ笑いながら大昔の話を掘り返して語りだすエリカの頬をヒュっと何かが掠めてそのまま彼女の背後にある壁にヒビを入れて突き刺さる。

刺さった物は先程どこぞの誰かが口に咥えていたキセル……

 

「悪い、やっぱまだこの体に慣れてねぇみたいだ……本物の体なら今頃テメェの喉を突き刺してたっぷり煙吸わせてやったのによ……」

 

その誰かことあずさは坂本をまっすぐに睨み付けながら静かに言葉を告げる。

それに対しエリカはポリポリと頭を掻きながらふと隣にいるレオの方へ振り向いて

 

「わし、なんか悪い事言った?」

「……アンタよく今まで生きてこられたな、そこん所は本当に凄ぇよ」

 

悪びれもせず真顔で自分を指差すエリカにレオは呆れを通り越して尊敬すら感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

数分後、入れ替わり組の自己紹介が終わり(一人を除く)、とりあえず皆が話を聞く態勢になるとエリカがアハハハハ!と笑いながら話を始めた。

 

「じゃあわし等の事は話し終えたからそろそろ「蓮蓬対策・二つの玉を護ろう計画」を説明するぜよ!」

 

大々的に計画名を発表するエリカに深雪はふと頭を下げて自分の体を見つめる。

 

「タマを護るつってもタマどころか棒さえもうねぇんだけど?」

「いやいやそっちのタマじゃなか銀時、地球の事じゃ地球」

「んだよまぎらわしい」

 

エリカの説明で初めてわかったように深雪はしかめっ面で顔を上げた。

 

「それじゃあ計画名は「蓮蓬対策・二つのタマを取り返そう計画」にしろよ」

「そうじゃなぁ、考えてみればワシら4人ともタマ無くしてしもうたきに……よくよく考えればこれが一番の問題じゃ、わしはまだ使い足りんかったというのに……」

 

心底どうでもいい事を呟きながらエリカは意を決したかのように顔を上げて

 

「よしじゃあ計画名は変更して「わし等の金タマ取り戻せ計画」で!」

「坂本さんもうどうでもいいんでさっさと話を続けてください……」

 

最終的に下らない計画名になったところで幹比古がボソッと口を挟みやっと話が始まった。

 

「皆には話したが蓮蓬とわし等はかつて一度は和解したものの、それを良く思わんと思っていた連中が一斉に立ち上がり今回の入れ替わり騒動を起こした。この騒動を終わらせるにはまず蓮蓬のいる宇宙ば行って連中の星に向かう。そんでそこにあるであろう入れ替わり装置を破壊することじゃ、連中は前いた所と変わっていないのであればきっと次元と次元の狭間におる筈じゃき、つまりわし等の世界とこっちの世界の丁度真ん中に奴等は拠点を築いとるっちゅう事になる」

「坂本さん、質問いいか」

 

事の経緯と今後の目的を説明するエリカに挙手して尋ねたのは桐原。

 

「宇宙に行って奴らの野望を阻止するのはわかったが、宇宙船が飛びかうアンタ達の世界と違って俺達の世界にはそんな技術簡単には手に入らない。星を探すどころか宇宙に飛び立つ事さえ難しい状況だ、その辺はちゃんとしっかり考えているのか」

「無論心配せんでよか、船の事でこのわしがなんにも考えておらんわけないじゃろうが」

 

こちらの世界には天人はいない、ゆえに宇宙船などという存在すらなく、宇宙飛行士でもない彼等が宇宙へ飛び立ち敵の星を探す事が出来るのであろうか。

桐原の的を射た質問にエリカは笑いながら返す。

 

「この世界に宇宙船の技術が無いので作ればいいだけじゃ。船の事ならわしの頭に事細かく叩き込んでおるきに、ある程度の船ならこちらの技術で補って作れるじゃろうて」

「と言っても宇宙に飛び立つほどの大きな船を浮かせる技術となると未だ解明されてない飛行魔法や伝記に残されている古式魔法を使わないと無理な筈だ」

「情報漏れば起こさん為におまん等には言っておらんかったが、実は“あの男”がこの世界にあるとある古い伝説を探し回って見つけたそうじゃ、この世界に眠る空飛ぶ船を」

「なに! あの方が!」

 

グラサンの下からニヤリと目を笑わせてエリカが問題ない風に言うと桐原は驚く。

 

「あの男はとある組織に協力してもらってるみたいで完成も間近じゃと言うとった、飛行テストも終了済みじゃからほんにもうすぐじゃ」

「なんてことだ……しかし確かにあの方ならそんな事も造作も無いはずだと思えてしまう」

「わしも一度出向いて覗いて見てみたが、空飛ぶ船というより空飛ぶ要塞じゃったわ。つまりわしの予想以上の出来になっちょる」

「……わかった船の件は俺も納得だ、あの方がやってくれているのであればもう何も心配する必要は無いみたいだな」

 

坂本の説明にすんなりと受け入れて一息突く桐原。

彼等がここまで強く信頼するほどの人物一体あの男とはどの様な人物なのであろうか……

 

すると今度は真由美がスッと手を上げ

 

「坂本、先程の話の中で気になった事があるので一つ教えてくれまいか」

「おおヅラ、お前が聞きたいのはあの男の事か、しかしこれをヅラや高杉の前で言うのはちと問題があってじゃな……」

「いやそっちじゃなくて」

「え?」

 

エリカもある程度彼女が何を聞きたいのか読んでいたのだがどうやら違うらしい。

 

「先程から桐原殿の声がどうも銀時と似てる様な気がしてさっきからずっと気になっていたのだ」

「そっちぃ!?」

 

こちらに向かって首を傾げる真由美に思わず叫ぶエリカ。すると真由美は桐原の方へ振り向き

 

「いや本当に似ていてな、ああ今の銀時でなく本当の身体の方の銀時だ」

「いや似てると言われても困るんだが……」

「銀時、お前も感じるであろう?」

「あ~? 俺こんな変な声だったか? お前の記憶違いだろヅラ」

「へ、変な声!? なぜだか知らんが今無性に腹が立ったぞ!」

「いやいや絶対似てるだろコレ、叫び方もクリソツだ。高杉もそう思うだろ」

「声聞いてるだけで何か苛立ちがおさまらねぇと思ったらそういう事か」

「声だけで苛立ってた!? ちょっと待ってくれ高杉さん! そんな理由でさっきから俺に対して敵意をむき出しにしてたのか!?」

 

気になりすぎな真由美に聞かれて深雪とあずさから散々な事を言われる桐原。

するとエリカも「ああ~」と便乗して手をポンと叩いてレオの方へ振り返り

 

「言われてみれば確かに似とるの~、のうヒデキ」

「いや俺は坂田銀時さんの声知らねぇし、ていうかヒデキじゃねぇって何度も言ってるだろ、誰だよヒデキって……」

 

どんな名前の覚え方すればそんな風に間違えられるのかとレオはうんざりした様子で返事していると、幹比古がまたしても身を乗り出し

 

「坂本さんまたグダグダになってます……蓮蓬の事忘れてませんか?」

「あり? そないな話じゃったか、すまんすまん、なにせこうしてわし等4人揃う事はほんに久しぶりじゃきん!! ついはしゃいでしもうた、アハハハハ!!」

「僕らの世界がヤバイ事になってるのに同窓会気分ではしゃがないで下さい……」

 

子供の頃から知っている彼女がグラサン掛けながら口を大きく開けてゲラゲラ笑う姿を複雑に眺めながらツッコミを入れる幹比古。するとやっと彼のおかげでエリカは話を再開する。

 

「うん、そういう事で直にあの男が船持ってきてわし等を宇宙に連れて行ってくれる。けども宇宙は危険でいっぱいじゃ、その上蓮蓬っちゅうデッカイモンを相手に立ち向かわねばならん、向こうから見ればわし等は母星を破壊した憎き相手じゃきん、容赦はせんじゃろ。そして何よりわし等の戦力はこの教室の中でも容易に納まるのに対し奴等はこうしてる間にもどんどん数ば増えちょる、星一個じゃ収まりきらん程にな」

 

蓮蓬の母星のシステムを担うSAGIが生きているとしたら蓮蓬の兵力はほぼ無限に増え続けるであろう。そもそも彼等は全てSAGIから生まれた存在なのだ。そのSAGIを殺した相手となれば本気で牙をむいて襲い掛かってくるに違いない。

 

「そこで銀時、ヅラ、高杉。最後にお前等に言っておくぜよ」

 

かつての戦友達に向かってエリカは腕を組みながら見つめる。三人も彼の方へ顔を上げた。

 

「はっきり言って今のおまん等の状態では戦争時代を生き抜いてきた力の半分も出せん筈じゃきん。その程度の力であの蓮蓬を打ち倒すなど無理もいい所、死にに行くようなもんじゃ、わしは友を失うのはごめんじゃ、だから」

 

 

 

 

 

「死ぬ時は皆一緒じゃ、つまりこうしてわし等4人仲良くあの世に行く事になるきん、それが嫌なら必死に奴等との戦いに足掻いてみせぃ。本来の実力が出そうが出せまいが、それを言い訳にしたまま死んだら、わしはすぐ後を追って一発ぶん殴って叩き起こしに行くからの」

 

グラサン越しに目を覗かせながらエリカはフッと彼女達に笑いかけると、しばし黙り込んでいた深雪達は一斉に立ち上がる。

 

「テメェ等との心中なんざ御免こうむるぜ、それにもしこの身体で死んじまったら司波深雪に俺の万事屋奪われちまう。そいつを阻止する為なら星の一つや二つ落とす事なんざ造作もねぇよ」

「例えどんな身体になろうが俺にはやらねばならぬ事がある。幕府を打倒し天人を国から追い出し、新たな国を作り上げ新しい日本の夜明けを迎える。それまで俺は死ぬわけにはいかんのだ、貴様等のようなやかましい連中と一緒に死ぬなら尚更だ」

「発破かけたつもりだろうが坂本、俺はテメェが何を言おうが俺は何も変わらずテメーのやりたい事をやるだけだ。宇宙に実った腐った果実を叩き落す、それだけだ」

 

姿変わっても三人に迷い無し。各々決意を固めている様子の彼女達を見ながら美月はそっとエリカに耳打ち。

 

「あの、皆さんやる気みたいですけど大丈夫なんですか? てっきり私は坂本さんは三人を止めるのかと……」

「アハハハ! そないな真似したらわしがあの三人に殺されるぜよ!」

 

深雪達の身体を気遣って心配している美月にエリカは笑って答える。

 

「わし等は歩く方向はてんでバラバラでもその歩みを止める事は無い、ただひたすら真っ直ぐ自分の信じた道を突き進む。そして今バラバラに歩いていたわし等の道が久しぶりに繋がりおった」

 

エリカはニッと彼女に笑いかけながら振り返る。

 

「こうなってはもう誰も止める事は出来ん、わし等四人が揃えば隕石だろうが星ごと降ってこようが迷わず突っ込んでしまう後ろ振り向かずただまっすぐに、そういう不器用な奴なんじゃ、わし等侍っちゅうモンは」

「侍……」

 

彼女の言う侍という物の強さを、この場にいる四人を眺めながら美月は僅かだがその意味を理解するのであった。

 

しかしそんな事も束の間

 

「お、おい坂本さん窓を見ろ!」

「ってなんじゃあ急に!」

 

ふと窓を見ていたレオは目を見開いて慌ててエリカを呼ぶ。彼女もまたすぐに窓の方に振り向くとその光景は

 

「街中に”あの雷”が落ちてきちょる!」

「なに!」

 

それは天変地異の前触れかの様な現実離れした景色が広がっていた。

 

ここから数十キロ程離れた街中に向かって上空から尋常じゃない数の雷がまるで雨の様に降り注いでいるのだ。

驚くエリカの後に急いで真由美も振り向く。

 

「あ、あれは俺達が入れ替わった時に見た奴と同じ光! 奴等もうこの世界に攻撃を!」

「いえ連中はもう大分前から攻撃を仕掛けていましたよ」

 

真由美の背後から幹比古が同じように眺めながら冷静に伝える。

 

「数日前から各国の代表を務める事も有る様な人物達を中心的に暴動事件が多発する様になりました。彼等はもうその時からこの世界を我が物にせんと動いているみたいです」

「なんだと! それじゃあ俺達の世界も!」

「同じ様にやられてるだろうさ、全く気に入らねぇ。大方数日前に俺の事を散々追いかけて襲い掛かった来た連中も奴等だったって事か」

 

この星が襲われているという事は自分達の世界も……危機感を抱く真由美にあずさは心底面白くなさそうな顔で答えた。

 

「こんな世界なんざどうだっていいが。先生が生きたあの世界を壊せるのは俺だけだ、他の奴にやらせはしねぇ」

「はん、テメェ等らしい理由だな。アイツを倒すのは俺だけだってか? ベジータ気取りかよテメェ」

 

彼女の呟きに今度は深雪が答えながらいつの間にか手に持っていた木刀を肩に掛けながら街中に降り注ぐ雷の雨を遠い目で眺める。

あの雷に撃たれた者は蓮蓬と体を入れ替えられて傀儡と化すのであろう。入れ替え先は恐らく収容施設か奴隷にでもして母星に閉じ込めてるのかもしれない……

 

「こんな事が俺達の世界でも始まってるなら江戸も大混乱だろうよ、おい辰馬。さっさと宇宙でもグランドラインでも何処へでも行くからさっさと船出せ。時間ねぇぞ」

「い、いやちょっと待ってくれ銀時! 確かに緊急事態じゃが船を出そうにもあの男が来てくれなきゃ何も始まらんのじゃ!」

「ああ!? さっきから誰だそのあの男ってのは! いい加減名前ぐらい言えやコラァ!!」

 

未だ名前すら明かさないその正体不明の謎の男に徐々に深雪がイライラしていると……

 

 

 

 

 

「すまない、待たせてしまったな」

 

あの男は突然現れた。

 

 

二科生の制服をなびかせ男は静かに教室の前に立って現れた。

長身の黒髪の男性、どちらかというと2枚目の方の顔立ちが無表情でこちらを見据えている。

 

突然現れた謎の男に深雪は「は?」と顔をしかませているとエリカは彼を見て「おお!」と嬉しそうに駆け寄り

 

「ええタイミングで来てくれはりました! 星が攻められてどうすればいいのかと思っていたところですたい! よう間に合うてくれましたなぁ! アハハハハハ!!」

「うむ、本当はもっと早く為すべき事を成し遂げるべきであったが思ったより時間がかかってしまった。おぬし等には不安な思いをさせて申し訳ない」

「いやいやわし等はあんたが戻ってくるのをずっと信じておりましたのでちっとも不安じゃありませんでしたわ!」

 

敬語を交えて男に向かって気さくに話しかけるエリカ。

しかし誰だか知らない深雪は歩み寄って

 

「おい辰馬、誰だこいつ」

「何言うとるんじゃお前の兄貴じゃろ、アハハハハ!」

「は? 俺に兄貴なんか……ああ俺じゃなくて司波深雪の兄貴か、へーコイツが……って兄貴ィィィィィィィィ!?」

 

ずっと探していた男が突然向こうから現れたことに深雪は驚愕する。

そう、彼こそ深雪の兄である司波達也。二科生ながら生徒会や風紀委員に一目置かれている程の実力を持つ謎の一年生魔法師。

そして目の前にいるこの男を前に深雪が呆然と立ち尽くしているとエリカは更に言葉を付け足す。

 

「でも今達也の体の中にいる人間は別の人間じゃき」

「そういや兄貴も入れ替わったとか言ってたな……じゃあお前らの言うあの男だのあのお方だのって言うのはコイツと入れ替わった相手か?」

「そうじゃ、入れ替わってもなお達也に代わってわし等をサポートしてくれた方なんじゃ」

 

エリカは得意げにそう言うと達也に向かって後頭部に手を置きながらお辞儀をして

 

「すみませぇん、コイツ入れ替わったばかりの新人でまだあなた様の事知らないようなんですわ。ここらでちょっと自己紹介してくれませんかね?」

「うむ」

「何がうむだよ、偉そうに。おい辰馬、お前もヘコヘコしてんじゃねぇよみっともねぇ」

 

なにバカ丁寧に頭を下げているのだとエリカと目の前の男に若干イラ付き始める深雪に。

 

達也はまっすぐ背筋を伸ばしたまま教室にいる者全員を見渡すように顔を向けて

 

 

「余は司波達也殿と入れ替わってしまい一月程この世界に住んでおる者、好きな物は民達の笑顔と気の触れた友人達。そして夢は上の者も下の者も関係なく手を取り合い、誰もが笑って暮らせる国を作る事。余の名は」

 

 

 

 

 

 

 

「代々連なる徳川家十四代目征夷大将軍、徳川茂茂である」

 

 

 

 

 

よく耳に入る透き通った声で達也は堂々と言った。

深雪はその名を聞いた途端石になったかのように固まり、しばらくして突然ガクガクと肩を大きく震わせると

 

(将軍かよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)

 

とんでもない真実に心の中で叫び遂に肩だけでなく全身を震わせる深雪。

しかしそんな彼女の背後で真由美とあずさは

 

「将軍だと……よもやこの世界で幕府打倒の好機を得るとは」

「クックック、まさか将軍自らアホ面引っさげて目の前に現れるとはな……」

「待てぇお前等! こんな時に攘夷志士の血を滾らせてるんじゃねぇ!!」

 

二人から僅かに感じる殺気にいち早く気づくと深雪は慌てて振り返る。

 

「テメェ等そんな体になってもまだ国家転覆を考えれんの!? よく考えてみろ今の将軍様の体は将軍じゃなくてお兄様なんだよ! お兄様傷付けたら殺すぞゴラァ!!」

「兄を護ろうとする妹にしては随分とガラ悪いな……」

 

真由美とあずさに向かってケンカ腰でメンチ切ってる深雪を眺めながら傍にいた桐原がボソッと呟いてる中、

 

司波達也の体を借りてる徳川茂茂はそんな二人に怯えも見せずにそっと自ら歩み寄る。

 

「お主達のことは辰馬から聞いておる。桂、高杉、確かに我等は共に幾度も刃を交えた敵同士だ」

「「……」」

「しかし今回だけは共に手を取り合って協力してほしい。今の余の体は達也殿の体、自分のせいでこの体が傷ついてしまうのは自分の身を切り刻まれるより痛まれる」

 

怖気もせずにそう言うと達也は口元を僅かに動かしてフッと笑い

 

「おぬし等と戦う時はお互い元の身体でやり合おう。その時が来たらいくらでも余の首を狙いに来るがいい。だから今はその目的のために共通の敵と戦い……」

 

スッと手を差し出し敵である二人に敵意は無いというアピールで握手を求めてきた達也。しかしそんな彼の背後からドドドドド!と何やら騒がしい足音が聞こえたかと思いきや……

 

 

 

 

 

「おらぁぁぁぁぁぁ!! 食らえクソ兄貴ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

いきなり現れた深雪の友人、光井ほのかが達也の後頭部目掛けて飛びかかり、ロングスカートにも関わらず豪快な蹴りをお見舞いしたのだ。

突然の出来事と衝撃に達也は声すら上げれずに深雪達の目の前で前のめりに倒れる。

 

「深雪! 私深雪の代わりにお兄さん殴っといたよ!」

「い、いや殴るっつうか蹴ってなかった……? ていうかなんでウチの兄貴に蹴り入れたの?」

「え?だって前に深雪が言ってた筈だよ、誰が最初にお兄さんを殴るか勝負だって」

「いやそれお兄さんじゃなくて将軍ッ!!」

 

飛び蹴りかました後達也の背中に綺麗に着地して親指立ててこちらにバッチリ決めポーズをとるほのかにほほを引きつらせながらツッコんでいる中、いつの間にかほのかと一緒にいた北山雫が倒れている達也の下半身に向かって両手の指を合わせ

 

「そんな蹴りじゃまだ甘い、深雪が溜めた想いはきっとその程度じゃない筈。だからこうすれば、えい」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!! 何将軍のケツにカンチョー決めてんだクソガキィ!!」

 

達也の臀部に勢いよくカンチョーをしながらも表情に変化のない雫に慌てて深雪が近づこうとするが

 

「負けるかぁぁぁぁぁぁ!!」

「お前も更に追撃かまそうとすんじゃねぇ! おいお前等も見てねぇでこのバカ二人止めろ! 特に将軍のケツに無表情でカンチョー連射してる奴!」

 

今度は達也の頭を思い切り踏みつけようとするほのかを慌てて深雪は後ろから腕を回して彼女を止める、そしてすぐにずっと一部始終を見ていた他の生徒達も慌てて彼女と一緒に止めに入る。

 

「おい北山! なんでか知らないけど司波にカンチョーするの止め……! アッー!」

「桐原先輩のケツが刺されたぁぁぁ!!」

「見境なし!? 柴田さん今の北山さんに近づいちゃ駄目だ!」

「あれ、雫とほのかもあちらの世界の人と入れ替わってる訳じゃないんですよね!?」

 

桐原、レオ、幹比古、美月の坂本陣営の先鋭達が混乱しあってる中。

 

「高杉」

 

真由美は冷静にそんな光景を眺めた後、目の前で白目をむいて倒れている達也を見下ろす。

 

「俺達が手を出さずとも倒幕してしまったぞ」

 

幕府の象徴である将軍を倒したのは桂でも高杉でもなく

 

相手が将軍である事さえ知らない無垢な女子高生であった。

 

 

 

 

かくして彼等は向かう。

 

自分達の世界、否、二つの世界を救う為に

 

 


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