魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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お久しぶりです、という事で引き続き番外編です


バレンタイデー編 義理&勲章

「今更言うのもアレなんだけどさ、銀魂クロスSSの銀さんって大概周りに女はべらしまくってモテてる描写が多くね?」

 

真っ暗な暗闇の中でポツンとライトが照らされた真下で、足を汲んで椅子に座る銀時が顎に手を当て一人呟いていた。

 

「正直アレってどうなの? 原作の銀さんだってさ、周りに女ばっかな時もあるけど基本はモテないキャラってのがスタンスだよね、自分で言うのもどうかと思うけど、銀魂における坂田銀時って主人公は基本的には女からモテちゃいけないタイプだと思うんだよねぇ」

 

珍しく真面目な表情をしながら目をキリッとさせて、銀時は更にグダグダと独り言を続ける。

 

「いや別に批判してる訳じゃないんだよ、銀さんという主人公がいるのであれば、それを支えるヒロインも必須ってのはわかるし、女キャラばっか出て来る作品とクロスオーバーされたら、必然的に周りが女だらけになるのもなんらおかしい事ではないってのはわかってるから、けどだからと言ってさ、一人ならともかく複数の女から言い寄られる銀さんって違和感あるんだよ」

 

何も見えない真っ暗な空間に向かって話しかけるように呟きながら、銀時は両手を膝に当てて前のめりの体制に

 

「そもそも銀さんつったらアレだよ? ぶっきらぼうでガサツだわ、下ネタばっか言って周りドン引きさせるわ、たまにカッコいい事するけど最終的にチャラにしかねない暴挙に出て好感度がた落ちさせる様なキャラだよ? なんでそれで数話ぐらいでコロッと女が惚れちゃうの? おかしいよねぇ、流石にこれはちょっと不自然過ぎるよねぇ」

 

一旦そこでハァ~とため息して頭を左右に振った後、銀時は再び顔を上げて愚痴を再開

 

「つうかそもそもアレなんだよ、銀魂クロスSSにおける銀さんってなんかこう……優し過ぎない? なんか相手が女キャラだとコロッと甘い事を囁いたり、普通にイチャつきあったり、そんでそのままフラグ立ててはいヒロイン一人ゲットって流れをよく見るんだけど?」

 

「いやいや銀さんだって確かにたまには優しくはなりますよ? でも基本的には相手が女だろうがガキだろうが顔面にドロップキックするようなドSの俺様キャラですよ? なんでそんな暴君が

 

『俺が俺でいられる事が出来るのはお前だけだよ、いつも傍にいてくれてありがとよ』

 

とか全身の肌からサブいぼが吹き上がる様なセリフを恥ずかし気も無く吐いてんの? テメェの事だよ、「竿魂」の銀さん、なんなのお前? 合法ロリヒロインと金髪電波ヒロインを掛け持ちとかどんだけ欲張りなの? 殺すよ? 「三年A組銀八先生」の銀さんの次に殺すよ?」

 

軽く舌打ちしながら名指しで”どこぞの坂田銀時”に投げかけると、腕を組んで思いきりしかめっ面を浮かべる。

 

「つまり結論から言うとだな、銀さんってのは本来モテ過ぎちゃいけないキャラなんだよ、ヒロインがいようがくっつくだなんてあり得ないし、甘い言葉も囁かないしイチャイチャしない、そう、特定の人物のモノじゃなくてみんなのモノなんだよ銀さんは、銀さんは誰にもなびかない、いわばアイドルみたいな存在であるべきなんだよ」

 

自分で言った事にうんうんと頷きながら、銀時は一人で納得したように結論を出すと、突然こちらに向かってビシッと指を突きつける。

 

「よって! 銀さんというのは本来誰ともフラグを立たせずに常に侍らしく女なんざ軽く流して己の信念のままに生きるスタンスであるべきこそが真の正しい姿なんだよ! だから当然!!」

 

 

 

 

 

 

「バレンタインデーだからってヘラヘラしながら女の子にチョコなんか貰う真似なんて絶対しねぇんだよ!!」

 

溜めに溜めて喉の奥から雄叫びを上げかの様に銀時がそうキッパリと宣言すると

 

「はぁそうですか、長々と気持ち悪い自分語りするのは結構ですけど」

 

パチッと生徒会室の照明の電源を付けて、カーテンをシャーッと開きながら司波深雪が素っ気なく呟いた。

 

「お望み通り、私はあなたなんかにチョコを上げる様な愚かな真似はしないのでご安心ください」

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

深雪の感情の込められていないその一言に傷付いたかのように、突然銀時は椅子から転げるように落ちて床に両手を突いた。

 

「なんで!? 本来銀魂クロスSSの銀さんは基本的にモテモテなんだろ!? 全ての女は銀さんの嫁になるモンなんだろ!? なのにどうして俺だけ完結しても誰ともフラグ立ってねぇんだよ! ぜってぇおかしいよコレ! 俺だって銀魂クロスSSの銀さんなんだよ!?」

 

「いや知りませんから」

 

「今日はバレンタインデーだぞ! なのに誰からもチョコ貰えないってふざけんなよチクショウ! 今頃は「禁魂」の銀さんや「銀輪蓮廻魂≼⓪≽境東夢方界」の銀さんはチョコ貰いまくってるよ絶対!」

 

「だから知りませんって、あなたの事も余所の作品の事も」

 

ここにはいない別の次元に坂田銀時に対して激しい憤りを感じながら両手を何度も床に叩きつける銀時を哀れんだ目で見下ろしながら深雪はボソッと呟く。

 

「ていうかあなた、もしかしてバレンタインデーで女性からチョコを貰いたいとか思ってたんですか? その天パと性格をもってして女性にモテたいと考えてるとしたら正気を疑うんですけど」

 

「天パは別によくない!? モテる事はこの際どうでもいいんだよ! バレンタインデーで女子からチョコを貰うというのは正に男として地位が上がる勲章モンなんだ! 俺はただ男の勲章と純粋にタダで食えるチョコが欲しい! 愛などいらぬ!」

 

「名言っぽく言ってるみたいですけどそれあなたが言っても単なる負け犬の遠吠えですから」

 

両手を床についたままガバッと顔を上げてこちらに力強く叫ぶ銀時に、深雪は振り向きもせずに冷たく返すと

 

その時、生徒会室のドアがガチャリと開き何者かが恐る恐る入って来た。

 

生徒会ではないが銀時の雄叫びを聞きつけてやってきた深雪の友人、光井ほのかである。

 

「あの、さっきから銀さんの叫び声が廊下に響き渡ってるけどどうし……?」

「チョコ寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ佐伯伽椰子ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

何事かと慎重にドアを開けて中を覗き込んで来た彼女に向かって、ホラー映画の様に凄まじい形相を浮かべながら床を這いずり近づいて来る銀時に悲鳴を上げるほのか。

 

すると生徒会の書類に目を通しながら深雪が冷静な様子で

 

「その人、バレンタインデーで誰からも好かれないせいでチョコ貰えないの気にしてるんですって」

 

「えぇ!? 銀さんそんなの気にする人だったの!? 基本的に周りからどう思われてようが気にしない傍若無人だと思ってたのに!」

 

「欲しいのは好感度じゃねぇ! 男の勲章とチョコだ! 俺が求めるのは男として名を上げる為の地位と甘いモンだけだ!」

 

「ごめん何言ってんのか全くわかんない……」

 

自分の足元で叫び続ける銀時を困惑した様子で見下ろしながら、ほのかは彼を飛び越えて部屋の中へと入って来た。

 

「そういや今日バレンタインデーだったんだ……残念だね深雪、深雪の事だからお兄さんの為ににチョコを用意するとか考えてたんでしょ」

 

「ええ、勿論そのつもりだったんだけど、お兄様は未だ向こうの世界からご帰還出来ないらしいから、マカオ便行きの飛行機はキャンセルしておいたわ」

 

「マカオ!? 原料から作り上げようと思ってたのチョコ!? 愛が重いッ!」

 

不意にほのかの口から出て来たお兄さんという単語に耳をピクリと動かし反応した深雪は

 

酷く残念そうにため息をつきながらさりげなくとんでもない計画を練っていたことを呟いた。

 

敬愛すべき兄である司波達也ともなれば、これぐらい努力するのは至極当たり前だと考えているのだろう。

 

「という事で私にとっては今年のバレンタインデーは普段と変わらない一日なのよ」

 

「そうだね、お兄さんいたらマカオで現地人からチョコの作り方教わってたんだもんね……」

 

「おい俺を無視してガールズトークしてんじゃねぇぞクソガキ共!」

 

「うわ! まだ床に這いつくばってたの銀さん!?」

 

マカオ行きを諦めた深雪にほのかがハハハと力なく笑っていると、床をゴロゴロと転がりながら銀時がこちらに向かって怒鳴りつつスクッと彼女の目の前で立ち上がった。

 

「バレンタインデーが普段と変わらない一日とか抜かしてんじゃねぇぞ! この日は男にとってモテない野郎供を見下して優越感に浸る事の出来る戦争なんだよ! という事で俺にチョコ下さいお願いします!」

 

「え、絶対やだ」

 

「ええ!?」

 

勢いよくこちらに手を差し出してチョコをくれとせがむ銀時に対し、意外にもほのかはそれをバッサリと断る。

 

「だって義理だとしても銀さんにチョコあげたなんて周りに知られたら、学校で変な噂されるし。私の青春である学園生活に余計な火種は作りたくないからごめんなさい」

 

「お、お前結構ド直球で強烈な火の玉ストレートぶん投げて来るなオイ! てっきり押しに弱いタイプだと! 勢いで言えば普通にくれると思ってたんだけど俺!?」

 

「いやホントに、銀さんの事は嫌いじゃないけど異性としては全く見れないし何より私よりずっと年上だし、だからホントにごめん」

 

「なんか俺が告白してフラれたみたいになってんだけど!? ただのツッコミ要因としか思ってなかった奴に結構なダメージ負わされたんだけど俺!?」

 

真顔で銀時からの催促を丁寧にお断りして、異性としては全く意識した事が無いとぶっちゃけてあえなく銀時は玉砕。

 

銀時自身も彼女に対して別に好かれようとは思っていなかったが、いざ言われると結構胸が痛むものである。

 

「っつうかなんでお前しかいないんだよ! いつも一緒にいるむっつり顔の相方はどうしたんだよ! ボケ担当の! アイツなら頼めばワンチャンある筈なのに!」

 

「雫の事? まあ確かにあの子なら噂とか気にしない性格だし頼めば板チョコぐらい銀さんにあげるかもしれないけど……残念だけど雫は今日学校来てないんだ……」

 

「なに?」

 

 

どうやらよくほのかと一緒に行動している筈の北山雫はそもそも学校にさえ来ていない状況らしい。

 

銀時から視線を逸らしながらボソッと呟くほのかに銀時が怪訝な表情を浮かべると、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「なんか正月用にとっといたお餅が、今頃になって大量に残ってたのがわかって全部一日で食べてみたら、それが全部賞味期限が切れてたとかで……」

 

「なにその古典的なギャグ!? それで腹痛めて学校休んでんのかアイツ!?」

 

「うんまあ……大晦日に引いたくじ引きで激凶引いたみたいだったし……それが当たっちゃったのかな、二つの意味で」

 

「上手くねぇんだよ! なんだそのしたり顔! ムカつくんだよ!」 

 

自分で言ってちょっと頬を引きつらせて笑いかけて来るほのかに声高々にツッコミを入れると、頼みの綱が切れたと銀時は頭を両手で押さえて天井を見上げるしかなかった。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ!! ふざけんなよチクショウ! 俺ってばお前等以外の女とはロクに絡んでねぇんだぞ!  今から他の女子生徒に向かってチョコねだるとか流石に銀さんでも出来ねぇよ!」

 

「渡辺風紀委員長とか生徒会会計の市原さんとかいるじゃないですか」

 

「もうとっくにチョコくれって言ってるよあの二人には! けど片方は彼氏持ちとかでもう片方は「チョコが貰えずに嘆きながらも奮闘するあなたを見ていたい」とか訳わかんない事言われて断られてんだよ!」

 

「前者はわかるとして後者の考え方がやけに怖いんですけど……あ、ていうか」

 

既にちょっとした知り合い程度の相手からもチョコをねだっていたと告白する銀時に対し

 

ほのかはふとある事に気付いた。

 

「私や雫よりもずっと身近にいてチョコくれそうな子がいるよね、銀さんには」

 

「は? 誰?」

 

「いやほら……」

 

彼女の言葉に顔をしかめて首を傾げ、分かってなさそうな銀時

 

するとほのかは、同じ部屋にいながら、すっかり会話する気など微塵も無い様子で椅子に座って生徒会の仕事を片付けているもう一人の少女を指さした。

 

「深雪とか……ってうぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おかしいわねほのか、なんで先程の会話の流れで私がいきなり出てくるのかしら」

 

ほのかがこちらに顔すら上げない深雪を指さした瞬間、彼女の眉間に鋭く尖ったボールペンが突き刺さる。

 

それはさっきからずっと深雪が使っていたボールペンであり、当然彼女に投擲した犯人は深雪だ。

 

「ほのか、あなたはもっと賢い人だと思ってたのだけれどそれは間違いだったみたいね、私がこの人にチョコを渡す可能性がある? 冗談でも笑えないわ」

 

「いや私も冗談じゃ済まされない状況になってんだけどぉ!? 全然笑えないんだけどぉ!?」

 

眉間に刺さったボールペンを無理矢理両手で引っこ抜いてブシャー!と血を噴出させながらほのかが叫んでいると

 

重い腰を上げて深雪が死んだ魚のような目をしながらつまらなそうな表情でこちらに向かって立ち上がって見せた。

 

「確かに日頃から世話になっている相手とかになら義理チョコをあげるくらいしたと思うけど、こんなガサツで周りに迷惑を掛けてばかりの足の臭い天然パーマなんかに義理なんかかけるつもりは毛頭ないんで」

 

「おい、足の臭い所と天然パーマな所は仕方ねぇだろ、そういう体質と毛質なんだから」

 

「こんな男に情けを掛けるなんて私は死んでもごめんです」

 

「はん、俺だってテメェみたいなブラコン娘なんざに情けなんざ貰いたくねぇよ、チョコならいくらでも貰うけど」

 

「だからあげないって言ってますよね私、さっきからずっと」

 

 

最も相性が悪い相手である自分であろうともはや恥すら捨ててボソッとチョコを欲しがる銀時に、深雪がジト目を向けながら冷たい言葉を浴びせていると、ほのかが血が吹き出た箇所を手で押さえながら二人の間に入って来た。

 

「い、いやだって二人って前の戦いだと結構良いコンビだったんでしょ? それが引き金となって実はもうフラグが立ってるとか……」

 

「本気で言ってるのほのか? お兄様以外の相手に私がそんなモノを立てるとでも? 以前ハッキリと否定したのにまだわかってないの?」

 

「ったくこれだから小娘はダメなんだ、嫌よ嫌よも好きの内とか、喧嘩ばかりしてるけど本当はとか、そういう少女漫画のお約束的な発想をすぐに現実でもあり得るんじゃないかと錯覚しやがる」

 

恐る恐る呟くほのかの一言に過剰に反応し、深雪と銀時は二人揃って顔をしかめて彼女をたしなめる。

 

「言っておくけど俺達はマジで仲が悪いから、もうぶっちゃけ互いに相手の事を死んでくれと強く願っている様な間柄だから」

 

「そういう事です、どうして私がこんな幼稚で下衆な男と……」

 

「いやそうやって二人で仲悪い仲悪いって言ってるけどさ……」

 

自分達がいかに仲悪いかをアピールする銀時と深雪

 

するとほのかは顎に手を当て眉間にしわを寄せながら二人を交互に見つめた後

 

 

 

 

 

「なら銀さんさ、現在進行形で自分と深雪がどんな関係なのか落ち着いて考えてみてよ」

 

「同じ屋根の下で一緒に住みながら互いの産まれたままの姿をはっきりと見ている程度の関係?」

 

「それもう完全にヤバい関係だよね!? フラグ何本かすっ飛ばした上で作られた関係になっちゃってるよね!?」

 

「いや一緒に住んでるのも俺が住む家ねぇから転がり込んでるだけだし、互いの全裸見たのも入れ替わりのせいだから別に卑猥な事は言ってねぇだろ」

 

「そういう細かな説明を省略するから変な言い方に聞こえちゃうんだよ!」

 

かなり誤解を招くその関係の説明に、ほのかは銀時に指を突き付けながら叫んだ。

 

「ていうか気づいてないみたいだからこの際言うけど! 銀さんが周りに深雪とどんな関係なのか聞かれた時に毎度そういう風に答えるせいで! もうこの学校の生徒達の中ですっかり噂されてるんだからね! 「我が学校に舞い降りた完璧な美貌を持つ女神が、あろう事か天パ教師の毒牙にかかって同棲してる」って!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

思いもよらぬ新事実を突きつけるほのかに、銀時ではなく深雪の方が叫んでしまった。

 

確かに学校には一緒に原付で登校する事が度々あるし、なんだかんだで共に行動する事が多かったが、まさかそんな風に見られていたとは考えすらしなかった深雪は激しく取り乱す。

 

「ど、どういう事ですかあなた!? まさか私が最近クラスで浮き始めているのはあなたのせいだったんですか!? 周りにヒソヒソ言われてる様な気はしてましたけど、よりにもよってあなたとそんな淫らな関係になっていると誤解されていたなんて!」

 

「いやいやいや俺は悪くねぇよ、悪いのは人の言い分を変な風に誤解したガキ共だよ。俺はただ正直に事実だけを言っただけだから、そりゃお前と一緒に原付で登校する度にいちいち男子のガキ共からしつこく聞かれるモンだから何度か適当に言った事はあるけども」

 

「100%あなたが悪いんじゃないですか!! どう落とし前つけてくれるんですかコレ!!」

 

非情にマズイ事になった……銀時が適当に他人に自分達の説明をしたせいで学校中でよからぬ噂が広まりつつあるらしい

 

この事態に深雪は目の前にいるこの男を本気でぶっ飛ばしてやりたいと強い衝動に駆られながらも、今はそれどころではないとすぐに理解する。

 

「とにかく今からでも遅くはありません! 今ここでハッキリと私達の噂をもみ消さねば! さもないとお兄様が晴れてこちらに帰還出来たとしても! あなたとの噂のせいでいらぬ誤解を持たれてしまいます!!」

 

「いやお兄様なら大丈夫だろ、たかが噂程度をあっさり信じるような男じゃねぇよ。例えどんなヤベェ事が起きようが動じずに対処する、それがお兄様の良い所なんだよ、きっと軽く笑って流してくれる筈さ、だってお兄様だもの」

 

「なにわかった風にお兄様の事を! あなたにお兄様の何がわかるんですか! いいから一緒に来て下さい!」

 

やれやれと言った感じで司波達也がこれしきの事で動揺するわけないと自信たっぷりの銀時に怒りを燃やしながら

 

彼の腕を引っ張って深雪は生徒会室を後にしようとする。

 

「今から学校中を駆け巡って生徒達に一から説明し直して誤解をとかないと!」

 

「はぁ? たかが噂程度でなんで俺がそんなめんどくせぇ真似しなきゃいけねぇんだよ。やるならお前一人でやれよアホ臭ぇ」

 

「あなたと一緒に説明しないとはっきりと身の潔白を証明出来ないんです!」

 

「ほーん、それじゃあ……」

 

自分がいてくれないと上手く誤解を解ける自信が無いと言う深雪に対し

 

彼女に腕を掴まれながら銀時はもう片方の手をスッと差し出す。

 

「今日俺が最も欲しいモンをくれるんだったら協力してやるよ、ほれ寄越せ」

 

「……」

 

「別にくれなくてもいいんだぜ? その時は一緒にいかねぇけど、俺は噂なんざ全く気にしねぇからな、誰かと違って」

 

「……」

 

こちらに意地の悪い笑みを浮かべながら取引を持ち掛けて来た銀時をしばし無言で見つめた後

 

「くッ!」

「深雪!?」

 

これ以上なく芽生えて来た強い殺意を無理矢理抑え込むかのように生徒会室の壁を思いきり拳で殴る彼女に驚くほのかを尻目に

 

深雪は苛立ちを覚えながらも平静さを装って再び銀時の方へ振り返り

 

「…………帰りの途中にあるコンビニでチロルチョコでも買ってあげます」

 

「正直ゴディバとか食ってみてぇとは思ってたがまあいいだろ、しばらく食ってなかったしたまにはいいかもな、チロル」

 

「義理ですからね……」

 

「わ~ってるよ、結野アナならともかくオメェなんかに本命なんざ貰いたくねぇ」

 

「……それじゃあ行きますよ」

 

「へいへい」

 

自分の腕をこれでもかと強く握りしめて来る深雪に連れられて銀時は共に生徒会室を後にした。

 

そして去り際に一人残されたほのかに軽く手を振って

 

「オメェのおかげで助かったよ、おかげで一個ゲットだ」

 

そう言って笑いかけると銀時はグイッと深雪に引っ張られて行ってしまった。

 

そして残されたほのかは去っていく銀時の背中を見送りながらはぁ~と深いため息

 

 

 

 

 

「あんなんだからモテないんだよなあの人……」

 

光井ほのかは銀時という男をまた二つ理解した。

 

あの男は狡猾でズル賢く、どんな時でも常に手段を選ばず己の目的の為に行動する様な奴だと

 

そして何より

 

当然そんな下衆な男が女性にモテる訳がないのだと、言葉では無く心で理解するのであった。

 

 

 

 

 




『ホワイトデー編 本命&闘争』は3月に投稿します

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