魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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銀魂の桂と魔法科高校の劣等生の生徒会長が入れ替わったら面白そう

という安易なアイディアで始まったのがこの作品です。




最終訓 入学

持てる力を全てだし切り、バラバラとなった快援隊の戦艦、快臨丸はかろうじてとある文明の栄えた惑星へと不時着し、戦艦の補強やら物資の蓄えを終えて何とか無事に出港出来る準備が整った。

 

「やれやれ、宇宙の辺境までぶっ飛ばされた時はどうなるかと思うちょったが、コレもまた日頃の行いのおかげかの」

「安心するのはまだ早いぜよ、坂本」

 

出港前に見納めに世話になった星の地形を眺めながら呑気に呟くのは艦長である坂本辰馬。

 

そんな彼にすっかり慣れた様子で釘を刺すのは副艦長・陸奥。

 

「この星はわし等の船を直す事が出来る程の文明があったのは幸いじゃが、全く持ってこの場所が宇宙のどの辺なのかは皆目見当つかんきに。いざ船を出してもまた漂流する羽目になるのがオチじゃて」

「せめてどっちの世界の地球に辿り着ける事が出来る方法でもあればいいんじゃが」

 

彼等は今この星が銀河のどこに位置するのかさえわかっていなかった。座標を調べてもどこにも自分達が住んでいた地球は存在しない。

 

どうしたもんかと考えながら坂本は不意に後ろの方へ振り向く。

 

「のぉ高杉、おまんはどっちの地球に最初に戻りたい、やっぱりわし等の地球か?」

「……いや、まずはコイツ等の地球へ行くのが先だ」

 

にこやかな表情で彼が振り返った先にいたのは、船を眺めながらキセルを吸う高杉晋助だった。

 

彼の傍には今にも泣きそうな表情で未知なる星をキョロキョロと見渡す中条あずさと、周りの警戒を怠らずにいつでも腰に差してる刀を抜けるよう準備している桐原武明が立っていた。

 

「あうぅ~早くみんなのいる地球に帰りたいです……早く会長に会いたい……」

「中条、残念だがあの会長は多分俺達の地球じゃなくて向こうの地球に行ったんじゃないだろうか……あの人の変貌ぶりを察するにもう元の会長に戻る事はまずないだろうし」

「そんな事ない! わ、私は会長を信じてる!」

 

会長こと七草真由美との再会を心から望んでいるあずさに、桐原は心痛めながら現実的な予想を呟くも、彼女はまだ希望を捨ててはいない様子

 

いつかきっとあのカリスマ性溢れ、生徒達を導く存在であった生徒会長・七草真由美はきっと悪い夢から覚めて戻って来る事を

 

しかし彼女は知らない、七草真由美は現在、そのカリスマ性で生徒ではなく攘夷志士を導いてる事に

 

「会長に会うまで私達も死ねません! ですよね高杉さん!」

「俺はいつでもテメェを殺すつもりだぞ、うっとおしいからさっさと消えろ」

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

よせばいいのに自ら高杉に同意を求めようとするあずさだが、案の定ギロッと横目で睨み付けられ、彼女はすぐにその場で震えて萎縮してしまった。

 

「で? テメェはどうするんだ桐原」

「俺?」

 

キセルに溜まった灰を落としながら、高杉は不意に縮こまっているあずさの隣にいる桐原に話しかけた。

 

「テメェがその気になりゃあ、ウチの隊に入れても俺は構わねぇぜ」

「……」

 

最初はこちらの事などまったく眼中になかった筈の高杉が、まさか向こうから仲間になるかと誘って来るとは思いもしなかった桐原。

 

そしてしばし目を見開き無言で驚いて見せた後、桐原はフッと笑いながら首を横に振る。

 

「いやよしておこう、俺は自分の地球でたった一人の存在を護るだけで精一杯だ。世界を相手にするにはまだまだ俺は未熟だ」

「……そうかい、そいつは残念だ」

「様々な経験を学ばせてくれた事には、アンタには感謝している」

「感謝される筋合いはねぇ、俺はただテメーの喧嘩をやってただけなんだからな」

 

桐原に断られても高杉は満更でも無さそうにニヤリと笑いながら再びキセルを咥え始めた。

 

「坂本、俺はもうガキの相手なんざもうゴメンだ。とっととコイツ等送り返しに行くぞ」

「素直じゃないのおまんは、しかしわしもそっちの地球に行くのは賛成じゃ、なにせこっちにもおまんと同じくガキ一人抱え込んでる事じゃしの」

 

高杉の素っ気ない態度を見て思わずアハハハハと笑い声を上げながら彼の意見を肯定しつつ、坂本はサッと後ろの方へ振り返る。

 

「そんじゃ、ま、まずはおまんの星に帰る事にするかの、共にゲロを吐き合ったわが友よ」

「……」

 

彼の後ろにいたのはあずさや桐原と同じく向こうの地球出身の千葉エリカだった。

 

彼女もまた坂本や高杉と共にここまで流れ着いてしまい、その感情の無い表情からかなり疲れ切っているのが窺える。

 

だが彼女からの返答は

 

「……いやアタシはいいから、もうほおっておいて」

「アハハハハ! へ?」

「元の地球に帰るとか今更どうでもいいし、つかむしろ戻りたくないっていうか……もはやアタシの居場所なんかどこにもない所に帰りたくないというか……」

 

何を言い出すのかと思いきやエリカは死んだ目をしながら徐々に声のトーンを落としていく

 

坂本が拍子抜けた様子で彼女の方へ歩み寄ると、エリカは急にバッと顔を上げて

 

「という事でアタシ、もうしばらくこの船で働かせてもらいまーす」

「うえぇぇ!? いきなり何言い出すんじゃこの娘っ子は!」

「うるさい! こちとらアンタのせいで楽しく愉快な学生ライフを一日たりともエンジョイ出来なかったのよ! 実家もぶっちゃけあんま好きじゃないし! 何も取り戻せないのならいっそ新しい人生をエンジョイしてやるわ!」

「アホか! そげな真似をこの船の艦長である坂本辰馬が許すとでも思うたか! のぉ陸奥!」

「好きにさせとけばよか」

「陸奥ぅぅぅぅぅ!?」

 

突然の海援隊への就職宣言をするエリカに流石に坂本も動揺を隠せない。

 

すぐに傍にいた陸奥に助けを求めようとするが、彼女はまさかの彼女の就職を承諾してしまう。

 

「どうせその内故郷が恋しくなって帰りたくなるに決まっちょる、それまでは船の中の掃除でもさせちょれ」

「帰らないわよ! 絶対地球になんか帰らないわよ! 私の故郷はここぜよ!!」

「なに人の足にしがみ付いてんじゃ貴様は、つか勝手にわし等の船を故郷にするな」

 

いつの間にか陸奥の足下にしがみ付きながら断固として帰る気は無いと宣言するエリカ

 

足下にしがみ付かれて無言で振り払おうとする陸奥と、それに必死で抵抗する彼女を眺めながら坂本はハァ~とため息。

 

「……ったく最初から最後までほんにワガママな小娘じゃき、近頃の娘の扱い方はわし等おっさんには難易度高すぎじゃて」

 

そんな事を嘆きながら坂本は顔を上げて頭上の空を眺める。

 

地球とは違った空を眺めながら彼は思っていた言葉をポツリと口に出すのであった

 

「こりゃヅラと金時の奴も相当手こずってるじゃろうて」

 

ここにはいないかつての同志達も大変だろうとしみじみ思いに馳せつつ

 

坂本はふと、目の前のけしきをながめながらポツリとずっと思っていた疑問を陸奥に投げかけた

 

 

 

 

 

 

「そういえばこの星の名前なんていうの?」

「確か、”イスカンダル”っちゅう名前ぜよ」

「アハハハハ!……わし等ほんに地球に帰れるのかの?」

「知らん」

 

地球と大差無い美しい景色ではあるが一面は海ばかり

 

坂本は現状ここから地球までどのぐらい離れているのかますます不安になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、坂本達のいる惑星から遥か遠くの存在にする別の惑星・地球

 

と言ってもここは天人に支配された方の地球ではなく

 

魔法というモノがごく一般的にありふれ、天人ではなく魔法師という存在が支配している地球である。

 

しかし蓮蓬による入れ替わり騒動が起こった事により宇宙人の存在は世に知られる事となり

 

これによりは地球の各国は慌ただしく宇宙人、天人が再び来襲した時にどう対策するかについて日々議論を展開し続けていた。

 

そして政治家や軍人でもないただの学生に過ぎない国立魔法大学付属第一高校でも何やら騒がしくなっていた。

 

「宇宙行ってたせいでTSUTAYAで借りてた「ドラえもんのび太の宇宙漂流記」の延滞料金が凄まじい事になってた、どうしようほのか」

「いや散々前振りで地球が緊急事態だって煽ってたのに、雫の緊急事態はそれでいいの?」

「宇宙のおかげで私がピンチだという事に変わりない、お金貸して」

「いや別に良いけどさ……」

 

ここは1年の中でもとびっきりの才能を持つ者のみが在籍できるA組。

 

教室内ではいつもの様に仏頂面でさして慌ててない様子の北山雫に

 

窓辺に立ちながら彼女の悩みに首を傾げる光井ほのかの姿もあった。

 

「もっとこう大変な話しようよ、ビデオの延滞料金ぐらい深雪に比べれば安いモンだよ」

「安くはない、めっさ高く着いた。今度から二度と生半可な覚悟でドラえもんを借りない事にする」

「ドラえもん借りるのに覚悟が必要なんだって初めて知ったよ私……ってそうじゃなくて」

 

向かいに立ちながら腕を組み、キチンと腹をくくってレンタルをしようと決心する雫をよそに

 

ほのかはふと窓際の席で頬杖を突いたままボーっと座っている少女の方に目をやる

 

「大丈夫、深雪? さっきからずっと上の空だけど」

「……え?」

 

1万人の男がすれ違えば1万人全員が振り向くであろうと思わせるぐらいの黒髪ロングの美少女。

 

司波達也の実妹にして四葉家の跡取り候補・司波深雪に

 

心配した様子でほのかが話しかけると、彼女はハッと我に返ったかのように顔を上げた。

 

「ごめんなさいちょっと考え事してて話聞いてなかったの、何か言った?」

「ドラえもんの声はのぶ代派? わさび派?って話」

「私は富田耕生派です」

「うぇーい、ここでまさかの初代で来るとは思わなかったー、バカボンのパパの人だっけ?」

「いやドラえもんはもういいから! 蓮蓬との騒動が終わっても深雪の所は大変だねって話!」

 

ボケた話に深雪が真面目に答え、雫は妙に変なテンションで声を上げている中で

 

一人常識人であるほのかが急いで訂正した。

 

「だってほら、深雪ってばお父さんがいきなり酢こんぶ工場に転職しちゃったみたいだしこの先の金銭事情とかで大変そうだなーと思って……」

「ああその辺はご心配なく、ぶっちゃけ今の方が前の会社よりも儲かってるらしいの」

「マジでか!? 酢こんぶで!?」

「酢こんぶは今も昔も需要があり、ニーズに合わせて行けば今後より一層あらゆる年齢層の購買者をリピーターとして買い続けてもらえるとかであの人も頑張ってるみたい、今頃きっと泣きながら工場長を務めてる頃かしら」

「お父さん泣いてるの!?」

 

父・司波龍郎の事をあの人呼ばわりしながらあまり興味無さそうに話す深雪にほのかは驚きながら

 

彼女の父は本当に本意で酢こんぶ工場長を務めているのだろうかと、友人よりもその父を心配する。

 

「やっぱ色々と大変そうじゃん深雪の所……それにホラ、私はよく知らないけど叔母さんも騒動に巻き込まれて大変だったとか言ってたじゃない、そっちの方はどうなの?」

「叔母上ならもっと心配ないから、なんか奥さんに逃げられた旦那さんと同棲してるみたい」

「心配しかないんだけど!? それ明らか不倫以外の何物でもないよね!?」

「まあ別に私には関係無い事だし、私は個人で向こうが何やってようが構わないし、今後関わってこなけばどうでもいいって所ね」

「ドライ過ぎる! 深雪はお兄さん以外の身内にはドライ過ぎるよ!」

「え、ドラえもん?」

「雫は黙ってて!」

 

ほのかはあまり知らない事なのだが、どうやらこの蓮蓬の騒動にて深雪の叔母も巻き込まれていたらしい。

 

それがどういった形で巻き込まれたのかは知らないが、とにかく色々と大変だったと前に深雪から聞いていた。

 

奥さんに逃げられた旦那と同棲……その言葉通りの意味であれば明らかに身内が不倫してますと言ってる様なモノだが……

 

えらく冷めた様子であっけらかんとぶっちゃける深雪にほのかは頬を引きつらせつつ、フゥとため息突いてゆっくりとまた口を開いた。

 

「それじゃあその……お兄さんの事はもう大丈夫なの? アレからまだ行方知れずなんでしょ?」

「……」

 

流石に兄・達也の事となると深雪も何処か思いつめた表情で黙り込む

 

事件後、バラバラとなった戦艦から、奇跡的にもこちらの地球に流れ落ち、命からがら助かった自分達と違い

 

今の所達也や一部の他の者達も終息が掴めていない(達也と同じく七草真由美も行方不明だが、こちらは深雪にとってはどうでもいい)

 

深雪も居候の男と共にどこへ消えのか探してはいるのだが一向に所在を掴めず、もしかしたらこの星ではない遠く離れた場所まで飛ばされてしまったのではないかと推測している。

 

そしてしばらくして彼女は頬を緩め、心配そうに見つめるほのかに健気に顔を上げた。

 

「お兄様なら私が心配しようが大丈夫、あの人はきっと生きている筈だから」

 

確固たる自信を持ってそう呟く深雪に向かって

 

”隣りの席”から消しゴムのカスがピンと彼女の黒髪に当たるも、深雪はスルーしながら話を続ける。

 

「きっとお兄様の事だから元気にやってるのはわかっている、だから私も落ち込んでなんかいないでしっかりこの世界で強く生きて行かないと」

「そうだね……お兄さんなら宇宙の果てまで飛ばされても帰って来るよきっと」

 

兄が健在だと事を一切疑わずにそう信じ抜くと決意する深雪にほのかもまた優しく頷く中で

 

 

またもや”隣りの席”から深雪に向かって消しゴムのカス・今度はさっきよりも増えてパラパラと黒髪に降りかかるも

 

深雪は依然スルーしながらほのかに微笑んだ

 

「それに決めたの私、これからはいつもお兄様に護られる妹じゃなくて、護ってくれるお兄様を逆に護ってあげれるぐらい強くなるって、だからもう一人で泣いてなんかいられないの」

「うん、前から深雪は強い人だと思ってたけど、あの騒動が終わってからは一層力強くなった気がするし」

「幸か不幸か、私にとっては数々のトラウマを生んだあの事件は成長の兆しとなったみたい」

「まあ深雪にとっては一生モンのトラウマばっかだよね、向こうの世界でも色々大変だったみたいだし」

「おかげで自分はまだ未熟だというのも自覚できたし、良い人にも沢山会えたから悪い事ばかりじゃなかったけど」

 

心中察するほのかに深雪は苦笑しながらかつて短い間、坂田銀時であった出来事を思い出す。

 

確かに大変ではあったが、今となってはそう悪くない思い出である。

 

しかし深雪がこの数日の間で心の整理はしっかり出来たとほのかに報告する一方で

 

その一方では”隣の席の人物”が両手でコネコネと何かを練って固め、そして……

 

「だからもう心配しなくていいから」

 

最後に深雪は思いやってくれる友人に感謝しながら笑顔を浮かべる

 

彼女のそんな態度にほのかも一安心したかのように胸を撫で下ろそうとした、その瞬間

 

 

「私はもう大丈……ぶぃ!!」

「深雪ッ!?」

 

突然深雪の横顔にソフトボール位の大きさの球体が鈍い音を立てて派手にぶつけられる。

 

会話を終えようとするタイミングを狙ったかのように彼女にぶつけられたその謎の球体は、深雪の机のコロコロと転がり落ちた。

 

ほのかがよく見るとそれは、徹底的に硬くする為に練り込んだ、消しゴムのカスの集合体だった。

 

「……さっきからなんのつもりですか? 氷漬けにしますよ」

「お、やっとこっち振り向いた」

 

赤くなった頬をさすりつつ深雪は痛みに堪えながら、ずっと嫌がらせ行為をして来た隣の席の人物の方へ初めて振り返った。

 

僅かに殺意の込められた彼女の目つきに対して

 

隣りの席に座っている人物・”沖田総悟”は全く怖がる様子無く顔をこちらに向けていた。

 

「えらく無視するからこっちも思わず意地悪しちまったぜ、さっきのが無視されたらコイツをお見舞いしてやろうと思ってたのによ」

「デカ!」

 

沖田の両手にはいつの間にか先程よりもずっと大きなカスの塊が……机に収まりきらない程の大きさに深雪よりも先にほのかが叫ぶ。

 

「そんな巨大な消しゴムのカス玉投げる気だったの!! ていうか製造過程が知りたい!」

「どうでぃこの大きさ……」

 

どれ程の消しゴムを消耗したのか気になる程の大きさにほのかが驚いている中で、沖田は自慢げにニヤリと笑いながらそれを両手に抱えて

 

「ドラえもんの頭みてぇだろ……」

「なんか無理矢理ドラえもん談義を復活させて来た! いいよ無理矢理繋げようとしなくても!」

 

雫と話してたおかげで、丁度あの猫型ロボットの頭位の大きさかなと内心思ってはいたが声には出さない様にしていたが、まさか向こうから持ちかけて来るとは……

 

「ナンセンス、そんなモノはドラえもんとは言わない」

「うわヤバい! 雫が早速興味持ち出した!」

「ほうコイツは面白れぇ、一体俺のこのドラえもんヘッドの何が気に食わねぇんだ小娘」

 

さっきまで黙っていた雫が急に沖田に挑戦的な言葉を叩きつけ、彼に対して雫は何時の間に両手に抱えていたある物を見せつける。

 

「頭だけじゃダメ、身体があってこそドラえもん」

「ってうえぇ! いつの間にか消しゴムのカスでドラえもんのボディ作成しちゃってるよこの子! ちょっとの間にどんだけ消しゴム擦りまくったの雫!」 

「やるじゃねぇか、確かに全身あってこそ真のドラえもんだ」

 

そもそもキーボード操作が当たり前のこの学校で消しゴムを使う機会など無いのにどうして所持しているかと色々とツッコミたい所あるのだが

 

その様な事は些細だと思えるぐらいデカデカとしたドラえもんボディを得意げに作り上げていた雫。

 

これにはあのドSの沖田も感心し、自分が持っていた頭を雫の身体にくっ付けさせて

 

見事な等身大ドラえもん人形(消しゴムのカス製)を完成させるのであった。

 

顔も描かれてないし色も消しゴム使ってるおかげで真っ白なので、ぱっと見は雪だるまである。

 

「コイツは力作だ、強度もあるしぶん投げたらさぞかしかなりの威力を誇りそうだ」

「投げちゃダメ、ウチに持って帰って部屋に飾る」

「一回ぐらいやってもいいだろ、司波深雪の顔面に思いっきりドラえもん投げてぇんだよ俺は」

「仕方ない、なら一回だけ」

「いやなに私の許可なく投げて良いことを承諾しているの?」

 

二人で出来上がった傑作を眺めながら何か話し合ってる沖田と雫に、やっとこさえ深雪がジト目を向けながらボソリと冷ややかなツッコミを入れた。

 

「ていうか沖田さん、なんであなたさも当たり前の様にウチの学校の制服を着て私達と同じ教室にいるんですか? しかも私の隣の席に座って」

「近藤さんがこっちで遊んでるって聞いたんでね、俺も暇だからこうして遊んでるって訳よ、いずれはここのメスガキ共を全員調教してやる」

「ウチはゴリラとサドの遊び場ではありません、由緒正しき魔法学校です」

 

よく見ると沖田の格好は真撰組の恰好ではなく、近藤と同様ここの学校の制服を着ていた。

 

入手経路はともかく、一般人、というより異世界の人間が一体どうやってこのセキュリティ万全の学校に潜りこめているのか、深雪は不思議で仕方なかった。

 

「それよりテメェはどうなんだ小娘、もう仲良くやっていけてるのか」

「は? 誰の事を言ってるんですか?」

「とぼけんじゃねぇ」

 

そう考えている彼女をよそに沖田は一つ質問を問いかけて来た。

 

「異世界から遥々とやって来て家に転がり込んで来た”ドラえもん”に決まってんだろ」

「……アレは四次元ポケットも愛嬌あるデザインも無いポンコツです、人の家を我が物顔で住みながら人のどら焼きを貪るだけのただの厄病神ですから」

「その厄病神を自ら家に住ませてやった奴はどこのどいつでぃ?」

「……路頭に迷わせているとその内ロクでもない事やらかしそうだと思ったので」

 

沖田の言っている人物にはかなり心当たりある深雪は顔をしかめながら目を背ける、

 

正直、自分でも何故アレを家に連れ込んでしまったのかよくわからないのだ。

 

ほおっておいてもその内、雫やほのかが家に引き取ってくれるだろうし、どうして忌み嫌う彼をわざわざ自分の家に呼び寄せてしまったのだろうか……

 

「まあ見えない所で迷惑かけられるよりは、自分の手元に置いた方がマシだと判断したのは確かです」

「その辺は私も心配なんだよね……あの人と上手くやっていけてるの?」

「上手くやっていけてるとは到底思えないけど、なんとかやっていけてる気がするって所かしら」

 

悩みながら捻りだすように答える深雪にまたもやほのかが不安そうに声を掛けると、苦笑しながら深雪は曖昧に答えていると

 

 

 

 

 

ガララララッと教室のドアが乱暴に開かれた

 

「チーっす、おいガキ共さっさとテメーの席に着きやがれ」

 

ドアを開けてけだるそうな口調で入って来た人物がやって来た途端

 

教室の空気がガラリと変わった。

 

さっきまでクラスメイト同士で談笑していた生徒達は彼を警戒する様に見つめながら自分の席に着き

 

雫とほのかもまた急いで自分の所に座ったと同時に

 

スーツの上に白衣を着て、足元はサンダルというラフなスタイルで、ポリポリと銀髪天然パーマを掻きながら

 

男は教壇に立ち生徒達を死んだ魚の様な目を伊達眼鏡越しで見下ろすと

 

「よーしそれじゃあ”銀八先生”の朝のホームルーム始めんぞー」

 

銀八先生と名乗るこのふてぶてしくて胡散臭い男。

 

名は坂田銀時

 

少し前のとある事件を機にこの世界に流れ着いた別世界の住人。

 

自分の星に戻れない事に嘆いていた彼は司馬深雪に拾われ新天地での生活を始める。

 

そして未だ未知なる別世界の事をよく知っている銀時を、ここの学校側がなんと教師として採用してしまったのだ。

 

向こうの世界がどういった所なのかを生徒達に教えて欲しいという訳だろうか。

 

という事で銀時はよくわからない世界で路頭に迷う事無く無事に住む家と仕事の両方を手に入れられたのだ。

 

と言っても本人としてはさっさと元の世界に帰りたいというのが心情である。

 

「ていうかホームルームって何やんだっけ? よくわかんねぇからとりあえずエロ崎は廊下に立っとけ」

「森崎です! 生徒に変なあだ名付けたり体罰与えるのは良くない事だと思うのですが!」

「黙れ裏切りエロ崎、テメェが俺達地球人を裏切って蓮蓬に売り飛ばした事は今でもちゃんと覚えてるんだぞコノヤロー」

「いやそれは一時的な洗脳効果を受けていただけですってば! いい加減信じて下さい!」

 

壇上の丁度一番前の席に座っている男子生徒・森崎に早速無茶振りをする銀時。

 

蓮蓬との戦いの中で彼に罠に誘い込まれてまんまとハメられた事を未だに銀時は根に持っているらしい。

 

そのせいなのか知らないが、銀時はここに赴任してから何かと森崎に対して嫌がらせするのが日課となっている。

 

それに対して森崎も毎度の如く席から立ち上がって必死になって弁明をしていると、窓際に座っている深雪がため息交じりに

 

「ハァ……どうでもいいのでさっさとホームルーム終わらせてくれませんか?」

「どうでもいいとか言わないで司波さん! この男のおかげで僕の株はここ数日の間でノンストップ急降下状態なんだ!」

「いやだからどうでもいいですってば、そのまま一生降下し続けて下さい」

 

こちらに振り返りムキになった様子で叫んでくる森崎に、深雪は目すら合わせずに素っ気ない態度で聞き流そうとする。

 

銀時との入れ替わりを行った原因なのか、以前に比べてけだるそうな言動が増えているのがよく見て取れる。

 

「こんな事で時間を潰されるなら、朝一のパチンコの行列並んでた方がよっぽど有意義に感じます」

「深雪、その例えは女子高生が使うにはどうかと思うよ……まさかパチンコとかやってないよね?」

「パチンコと言えばあの時店員に気付かれなければ……あそこで追い出されずに続けていれば勝てたかもしれないのに……」

「うんもう呟くの止めよう深雪、でないと退学になるから」

 

次第に両肩を震わせながら歯がゆそうに愚痴を言い始める深雪を前に座っていたほのかがすかさず黙らせる。

 

やはり入れ替わりの影響で微量ながら銀時の成分が入り込んでしまったらしい……

 

そんな彼女をほのかがジト目で見つめながらそう感じていると

 

壇上に立っている銀時がやれやれと肩に手を置きながら首をコキコキと鳴らす。

 

「ったくよぉどいつもこいつも好き勝手私語を言いやがって、先生の話を聞けよ頼むから」

 

そう言うと銀時は改まった様子でザッと教室にいる生徒達を見渡す。

 

「もうとっくに知ってるだろうがこの地球は俺達の世界にいる天人に一度標的にされた、一度あったつう事は二度目や三度目もあるかもしれねぇ、もしかしたら俺達の地球みたいに連中に支配されちまう可能性だってある」

 

死んだ目でそう呟きながら銀時は掛けている伊達眼鏡をクイッと押し上げながら、現在この世界が未曽有の危機に陥っている事を改めて説明した。

 

「テメェ等の使う魔法とやらがアイツ等にどこまで通用するかは俺もよく知らねぇよ、だが一つわかるとするならば、その魔法だけで連中をどうにかできるとは思うなって事だ」

 

魔法の力だけでは天人には対抗できない、生徒に対し銀時はそう言い放ちながら話を続ける。

 

「これからは魔法だけに頼らずにテメー自身が強くなるよう心掛けろ、大切なモンを護り抜くっていう覚悟と信念がありゃあ、人間ってのは何処までも突き進む事が出来る単純な生き物なんだよ」

 

自分の話を怪訝な様子で聞いている生徒達を、銀時はフンと鼻を鳴らしながら仏頂面で。

 

「そしてその生き方って奴を、この異世界からやって来た侍の坂田銀八先生が教えてやるから覚悟してついて来い」

 

両手を白衣のポケットに入れながらハッキリと言う銀時に、しばし生徒達が真顔で沈黙していると

 

 

 

 

 

 

 

銀時はいきなりポケットから両手を出して強くパンパンと叩き

 

「はーい、と言う事でそれじゃあ転校生を紹介しまーす」

「え!? この流れで転校生ぇ!?」

 

唐突な話題の切り替え方に困惑するクラス、ほのかも慌てて席から立ち上がって声を上げる。

 

「ビシッと締めたと思ったのにここで!?」

「締めた後もグダグダ続くのがウチの世界の常識なんだよ、これもまた俺の教えの一つだ」

「そんな教えはいらないんですけど!? もっと役に立つ事教えて!」

「それは今から現れる転校生が教えてくれるかもな」

「へ?」

 

気になる事を言いつつ銀時は廊下の方へとドア越しに口を開いて

 

「おーいもう入っていいぞー」

 

やる気無さそうに彼がそう言い放ったと同時に

 

 

 

 

 

ドォォォォォン!という衝撃音と共に閉まっていたドアが問答無用に破壊され、その場一帯に破片を撒き散らした。

 

「でぇぇぇぇぇぇ!! 何事!? またテロリストでも襲撃に来たの!? つい先日来たばっかなのに!」

「紹介しまーす、ウチの転校生の……」

 

ドア付近にいたおかげで衝撃に巻き込まれた生徒達がぶっ倒れている中で

 

彼等を踏みつけて行きながらスッと一人の男が入って来た。

 

この学校の制服ではなく一昔前のヤンキー高校にいる様な番長の様な格好で

 

背中に天上天下唯我独尊という刺繍が施された背広を靡かせ

 

唖然とする生徒達に満面の笑みを浮かべながら

 

「どもー春雨高校から転校して来た……」

 

 

 

 

 

「”神威”です」

「ウソだろオイィィィィィィィィィィィ!!!」

「はーいほのかちゃんちょっと口調変わってるよ~、自分のキャラ大切にして~、お前だけが最後の柱なんだから」

「ねぇ先生、俺と一緒に転校して来た阿伏兎知らない?」

「アイツはE組に配属されたよ」

「呑気にそんな事言ってる場合じゃないでしょうが!!」

 

ニコニコと笑うその顔を見て思わず口調が変わってしまう程驚いてしまうほのか。

 

それもその筈、この神威という男。

以前の事件で一度は倒され、二度目は銀時達と協力してなんとか撃退した難敵だったのだ。

 

ほのかとしてはあまりいい思い出がない相手、というか完全に敵である。

 

「なんであの時の敵がノコノコとウチの学校に転校して来てんの!? おかしいでしょ!」

「それじゃあ神威君、軽く自己紹介的なモンを言ってみようか」

「はい先生」

「一度殺り合った仲なのに自然と教師と生徒の関係に!」

 

銀時に促されて神威は素直に頷くと、凍り付いている生徒達に向かってにこやかに

 

「改めまして神威です、最初に言っておくけど俺は強い奴にしか興味ありません。初日でこの学校のトップ目指したいんで、まずはここにいるクラスメイト全員俺がシメるんでよろしくお願いします」

「ちょっとぉ! なんか不吉な事言ってるし完全にウチの学校潰しに来てるよ! 先生早く止めて!」

「コレもお前等を可愛く思ってる上での先生からの試練だ、お前等の力でこの化け物を排除しろ、300円上げるから」

「要するにめんどくせぇからお前等で何とかしろって事でしょうがそれ!」

 

ここでまさかのこの場にいる者全員を標的に見定める事を宣言する神威に、ほのかも即座に銀時に救難信号を送るが彼はいつの間にか取り出したジャンプを読みながらやる気無さそうにこちらに丸投げ

 

「どうしよう深雪……あんなのがウチに転校してきたら、ただでさえ主戦力がいなくなったウチじゃあっという間に崩壊の危機に……」

「大丈夫よほのか、いくら強かろうが一度は私達が負かした相手。向こうから仕掛けてきたらこちらでカウンターかましてまたぶっ飛ばせばいいだけの事でしょ」

「いやいや理屈ではそれで合ってるけども……」

 

こちらに振り返りどうしたもんかと声を潜めて話しかけて来たほのかに、深雪は至って冷静な様子で神威を眺めながらあっけらかんとした感じで答えていると

 

神威は彼女の存在に気付いたのか「あ」っと短く声を出すと指を差しながら銀時の方へ振り返り

 

「とりあえずあの娘が一番強そうだから先に殺していいですか、先生」

「ヤバい! 深雪が早速ターゲットに!」

「バカ野郎今ホームルーム中だ、やるなら休憩時間にやれ」

「はーい」

「そこは止めろ教師!! 仕事放棄にも程があるぞ!」

 

両手で開いて読んでいるジャンプから目を逸らさずに深雪を仕留める事を簡単に許してしまう銀時についほのかもキレた様子で指を突き付けながら叫んでいると

 

「待ちな、テメェみたいな戦闘バカにこのガキを譲るつもりはねぇぜ」

 

そう言いながらガタっと席から立ち上がったのは深雪の隣に席に座っている沖田であった。

 

挑戦的な態度で神威を見下ろしながら、彼は得意げに自分を親指で指し

 

「このガキを最初にシメるのは俺でぃ、こういう反抗的なガキが一番俺の好物なんだよ」

「こっちはこっちで頭おかしいのいたよ!」

「へぇそいつは面白い、じゃあどっちが先にその娘の相手に相応しいか勝負といこうか」

「上等だ、あの大食いゲロ吐き残念ヒロインの兄貴なんざに俺が負けるかってんだ」

「いやちょっと! あなた達二人がこの場で戦ったら本当に学校そのものが崩壊する危険が!!」

 

互いに目を合わせながら不敵に笑い合う沖田と神威、どうやら互いに戦う理由が生まれたらしい。

 

正に一触即発の状態で他の生徒達もザワザワと不安感を募らせていると

 

「待てぇお前等! 何勝手に自分達で司波さんを取り合おうとしてんだぁ!!」

 

この状況下で一人果敢に立ち上がった人物、まさかの森崎が勇ましく神威の方へと得物を取り出して駆け寄っていく。

 

「天人だろうがなんだろうが知った事が! 選ばれし精鋭達が揃うブルームの力を思い知れぇ!! 見ていてください司波さん! あなたを狙う不埒物をこの森崎が見事排除してみせ……」

 

勇ましくそう叫びながらすかさず神威に魔法による一撃をかまそうとするのだが……

 

「えい」

「ぬっほ!」

「森崎弱ッ!」

 

魔法式が展開される前に森崎は一気に距離を詰められ神威の踵落としを食らい、言葉を放つ暇もなく床下に沈められてしまった。

 

床から頭だけを出した状態で白目を剥いて気絶してしまった森崎を見下ろしながら神威は

 

「次邪魔したら……殺しちゃうぞ♪」

「ヤバいよこの人ぉぉぉぉぉぉ!! 次の犠牲者が出る前に銀さんお願いだから止めてぇ!!」

 

小首を傾げながら茶目っ気たっぷりの神威を見てほのかは本格的にヤバいと感じてすぐに銀時に助けを求めると

 

彼はやっとこさジャンプからスッと目を離して顔を上げて

 

「おいおい、転校生といじめっ子が一人のヒロインを取り合うとかどこの少女漫画だよ。コレってなに? まさか教師枠として俺もヒロイン争奪戦に出場しなきゃいけないパターン? でも取り合った先に手に入るのがあのクソガキでしょ? 得るモノが何もねぇじゃん、という事で俺はパスで」

「ふざけた事言ってると頭ねじ切りますよバカ天パ」

 

訳の分からん事を言いながらまたジャンプの方に視線を戻してしまった銀時

 

そんな彼を深雪は冷たく睨み付けながらこの状況に顔をしかめる。

 

「どっちがかかってこようが構わないというのに、どうせいずれは3人まとめて私が血の海に沈めるんだし」

「深雪も挑発しないでよ、ていうかサラッと銀さんの事も含んでるし……」

 

どちらが自分を先に倒すか決めようとしてる時点で不愉快だというのに

 

深雪はおもむろに席から立ち上がると、沖田、神威、ついでに銀時を見まわしながら目を細めながら冷たい口調で

 

「誰が来ようが構いません、私はお兄様に頼られる程の強い妹になる為に、あなた達程度に負けるつもりは毛頭ないので」

「ほーん、やっぱテメェは俺の思った通りシバき甲斐がありそうだ。面白れぇ、そっちから喧嘩売ってくるなら話は早ぇ」

「このまま全員でバトルロワイヤルでもおっ始めるって事? 俺は全然構わないよ、どうせ俺もこの場でやるつもりだったし」

「おいおい若い奴ってのは血気盛んでいけねぇな、ここらで大人の怖さって奴をそのちんけな脳みそに教えてやんのも教師の務めってか?」

「いやなにシレッと銀さんまで戦う姿勢見せてんの!? あーもう誰でもいいからこの4人を止めてぇぇ!!」

 

深雪の誘いに乗ったかのように沖田がニヤリと笑い、神威もまた拳を鳴らし、そして何故か銀時もジャンプを置いて戦闘モードに

 

互いに睨み合いながら今にも誰が先に手を出すか牽制し合ってる四人に

 

遂にほのかは両手で頭を抱えながら半ば泣き叫ぶような声で天井に向かって叫んでいると

 

 

 

 

 

 

「!」

 

突如、床が震え、否、学校全体が大きく揺れ始めた。

 

いきなり立っていられない程の衝撃が学校を襲い、戦闘寸前であった銀時達も突然の出来事に目を見開く。

 

「おいどういう事だこりゃ、いきなり学校が揺れ……」

「銀さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「ああ?」

 

さっきまでよりも更に大きな声を上げながら

 

ほのかが教室の窓から外を指差しながら銀時に叫ぶ。

 

何事かと銀時も窓から顔を出してみると

 

 

 

 

この学校の敷地内全てが浮上し、真下を見ると住んでた町がみるみる小さくなっていくではないか。

 

「深雪さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「なんでそこで私の名前叫ぶんですか?」

 

驚きのあまりつい彼女の名を叫んできた銀時に、深雪はジト目で首を傾げると。この突然の現象に顎に手を置きながら思考する。

 

「突然私達の学校が浮かび上がるとは一体……この様な真似が出来る人物はかなり限られます。もしかして”あの人”が?」

『フッフッフ、その通り。君達がそうして下界を見下ろせているのは私の力のおかげだ』

「!」

 

少々心当たりがあった深雪の耳元に不意に聞こえて来た声。

 

すぐに彼女は顔を上げると、いつの間にか教団の背後にある教師が用いる為のモニター画面にパッと一人の

 

 

モブみたいな見た目をした影の薄そうな青年が映し出された。

 

 

 

 

 

『諸君、私の名は服部・範蔵・ウル・ラピュタ。古の歴史に消えていった一族の末裔にして王の血を引くものだ』

「やはりあなたでしたか服部先輩……」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 何してんのあの人!?」

 

現れたのはなんと1年先輩の服部であった。

 

あの事件を機にどこぞの大佐の魂でも乗り移ったのか、異常など程ラピュタに執心していた男であったが

 

事件後はそのラピュタを失い激しい虚無感に襲われ、一日中虚ろな目でずっと空を眺めていた。

 

そんな彼が今、あの時の様に生き生きとした表情で、色素の薄いサングラスを掛けながら得意げに演説を始めている。

 

『驚くのも無理はない、しかし君達は喜ぶべき事なのだ。この地球上で唯一、この天空の城に乗る事を許された選ばれし者達なのだから」

「天空の城ぉ!?」

『諸君達は堕落した地上を捨て、未知なる宇宙へと飛び立つのだ!!」

「宇宙ぅぅぅぅぅぅ!?」

 

服部の突拍子もない発言に生徒達が驚き叫ぶ中で、モニターに映る服部の背後にゾロゾロとどこかで見た様なアヒルだかペンギンだかよくわからない被り物をした集団が

 

『紹介しよう、今回この学校を宇宙へと飛ばす為に素晴らしい力を与えて下さった同志達だ!!』

『服部王万歳!!』

『いざゆかん! 我々の新天地へ!!』

「地球に侵略行為した蓮蓬を連れて来ちゃってるぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

モニターを見つめながらほのかは口をあんぐりと開けて驚いた。

 

何処へ消えたかのかわからなかった蓮蓬達は、なんと服部の所でお世話になっていたのだ。

 

『この学校はただいまを持って、我々の新たなラピュタと成り代わるのだ! フハハハハハハハ!!!』

「いや学校は学校ですから……あなた、もうこの際ボコボコにしてもいいから服部先輩を止めに行って来て下さい」

 

せっかく平和な生活に戻ったというのにこのままでは再び宇宙へと飛び立つ羽目になってしまう。

 

なんとしてでも阻止しようと深雪はすぐに銀時に指示を飛ばすのだが

 

「そうか……ラピュタはここにあったんだな……」

 

一人みるみる小さくなっていく地上を眺めながら静かに微笑を浮かべつつ呟いた後

 

銀時はゆっくりとこちらへと振り返り

 

「はいそれじゃあホームルームの続き始めまーす」

「スルーした! 現実から逃避して何事も無かったように話を進めてこのまま完結させるつもりだ!」

「ホームルームはもういいから……!!」

 

極々自然な態度を装ってホームルームを再開しようとする銀時にほのかがツッコむ中で

 

深雪はずっと隣に置かれていた、沖田&雫の作成した消しゴムのカスドラえもん人形をガシッと両手で掴むと

 

「止めて来なさい!!」

「ばるすッ!!」

 

思いきり銀時に投げつけ、豪快に彼を吹っ飛ばすのであった。

 

 

 

 

 

お兄様、お元気ですか。

 

私はもとても元気です。

 

学校の方は、慌ただしい事もあって毎日がハードで、たまに命狙われたりサドられたりするけど

 

あの事件がキッカケで少し自信が着いたのか挫けずになんとかやっていけてます。

 

いざという時には決めてくれる事はあるけれど

 

 

 

 

 

私、やっぱこの坂田銀時という男は嫌いです。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、もう一つの地球では

 

「はぁ~今日は真撰組が城内で揉めまくって大変でしたね」

「いい加減内輪揉めしてないでさっさと籍入れれば良いアル」

「いずれは俺達で周りから固め、最終的に式を挙げさせるのも手かもしれないな」

 

一仕事終えて城から帰って来た志村新八・神楽、そして代理店主の司波達也が自宅へと続く階段を昇りながら談笑していた。

 

「それにしても会長はどうしましょうか達也さん……今回は逃げられましたけどまたいつか将軍の首狙いに来ますよ絶対」

「その時は今度こそ殺せばいいだけだ」

「曇りのない目でハッキリと言わないで下さい、テロリストに堕ちた先輩を救ってあげるという慈悲の心は無いんですかアンタ」

「俺に出来るのは抹殺と言う名の救済だけだ」

 

どこまでも七草真由美に関しては心底冷たい達也に、新八はジト目で窘めながら家の玄関の戸に手を引っ掛けると

 

「ってアレ? カギ閉めてなかったっけ? 戸が開いてる……」

 

ガララッと開いた戸に新八が不思議に思っていると、ふと玄関に草鞋が綺麗に置かれている事に気付いた。

 

「なんだろう、僕等が留守の間にお客さんでも来てるのかな」

「ひょっとしたら物盗りかもしれないネ、見つけたらボコボコにしてやるアル」

「安心しろ神楽、俺達から盗まれる者など何もない、先日食料が尽きたばかりだからな、フ」

「フじゃねーよ! 盗まれるモンがない程貧乏だという事実に悲しくならねぇのか!」

 

ここん所まともな食事にありつけてない事に対し、さほど危機感を覚えていない達也にツッコミながら新八は玄関へと上がり、居間へと向かってみると

 

 

 

 

 

「ハッハッハッハ!! 待ちくたびれたぞ三人共! 俺はずっと前からここでスタンバっていたというのに!」

「……」

 

お客用のソファに腰着かせていたのは攘夷志士・桂小太郎であった。

 

高笑いを浮かべながらこちらに上機嫌に手を振る桂を見て、一同無言で今へと入っていく。

 

「……何やってんですかアンタ?」

「はて? 俺はまだ何もしていないが」

「とぼけないでください、会長が城に潜り込んで将軍暗殺を謀ろうとしてる情報をくれたのって」

 

小首を傾げながらわかっていない様子の桂に、新八は呆れた様子で問い詰める

 

「桂さんなんでしょ」

「うむ」

「言い訳もせずに即答しやがったよコイツ! コイツ仲間を幕府に売りやがった!!」

「まあまあ落ち着け新八君、俺とて同志を仲間に売ったつもりはない」

 

先日、郵便ポストに七草真由美が桂一派を引き連れて城の周囲を探っているという情報が書かれた便箋が入っていた。

 

あまりにも詳細に書かれていたので、送り主は桂一派の内部に属する者、そしてそれが桂だと達也は察していたのだ。

 

「仲間を売ったかなんてどうでもいい、茂茂の敵であるお前が目の前に現れたとなれば、俺がやるべき事は一つだけだ」

「待て待て落ち着け達也殿! 今日ここに来たのはお主と刃を交える為ではない!!」

 

問答無用で目と鼻の先に銃口を突き付けて来た達也に桂は慌てながら懐から何かを取り出す。

 

出したのは数枚の文字の書かれた紙。

 

「近い内に将軍が江戸で起こる大イベントに観覧しに来るのであろう、その時に俺達の組織が闇討ちを仕掛けようという算段なのだ、はいコレ、闇討ちする為の企画書」

「組織のリーダーが暗殺計画また漏らしに来たよ! 桂さんアンタ本当に倒幕する気あるんですか!?」

「ヅラ、お前何考えてるアルか? 地球に戻ってからずっとおかしいアル」

「俺達にこう何度も自分の組織の内部事情を売りに来るとは、一体何が目的だ」

「く! わかってくれ! これは銀時が信頼している貴殿達にしか頼めんのだ!」

 

まさかの内部告発を二度続けて、しかも今度は本人直々に証拠を持参して来るという始末

 

これには神楽と達也も目を細めて怪しく感じていると、桂は切羽詰った表情を浮かべながらおもむろに席から立ち上がると、目の前の達也の両肩を強く掴み

 

 

 

 

 

「俺と真由美殿の結婚を阻止するために! どうか将軍を護ってくれ!」

「いや将軍殺そうとしてる奴が頼む事じゃねぇだろ!」

「なるほど、会長と結婚するのが嫌だから倒幕を阻止しようとしていたのか」

「実はそうなのだ……つい倒幕出来たら結婚するって約束してしまった為に、真由美殿はもうノリノリで攘夷活動に積極的になってしまって……」

 

彼の思惑が読めた達也は銃口を下ろして素直に話を聞く態勢に

 

桂はガックリと首を垂れながら落ち込んだ様子で吐露を始めた。

 

「ここ最近ではもう俺の同志達は俺よりも真由美殿を慕っている気がするし……おまけに俺にも早く結婚しろだのなんだの言って来るし……なんかこう結婚しようとしない俺が悪い感じの雰囲気になってるし」

「あ、それ完全に周りから囲まれましたね、リーナさんと同じ手口です」

「もはやあそこに俺の居場所は無い! しかしだからといって結婚はせん! 確かに真由美殿は頭も良いし実力も申し分ない! 見た目も美しいし性格も非常に俺と合う! だが!」

 

突然桂は膝から崩れ落ちて両手を床に叩きつける

 

「人妻じゃないんだ!」

「当たり前だろうが! 相手女子高生だぞ!」

「俺にとっておなごをおなごとして見る為の条件は人妻か未亡人だけだ! 真由美殿は確かに素晴らしいおなごだ! しかし俺にとってはあくまで有能なる同志としか見られんのだ!! く! せめてバツイチであれば!」

「おい新八、なんで気持ち悪い性癖を我が家で思いきり叫んでるアルかコイツ」

 

ギリギリ、バツイチだったらいけるかもしれないと言った感じで悔しそうに首を振る桂に神楽が軽蔑の眼差しを向けていると、達也は感情の無い表情でそんな彼を見下ろす。

 

「茂茂を護るのはこの世界に流れ着いた俺にとっては義務みたいなモノだ、お前に言われなくても将軍の身は俺はが護る。お前のフィアンセもいずれ地獄に叩き落とすつもりだから安心しろ」

「何! さては真由美殿を討つつもりか! 我が同志を討つとなれば俺も黙っていられんぞ!」

「アンタ一体どこの立場なんだよ! もうブレブレじゃねぇか! さっさと結婚して丸く収まれ!」

「いやだから結婚は出来んと言っておろう! だって真由美殿は俺にとってはまだ……あ」

 

真由美がやられると聞いてすかさず立ち上がって腰の刀を抜こうとする桂に新八が叫ぶと

 

彼は急に何か閃いたかかのように手をポンと叩くと達也の方へ振り向き

 

「達也殿、ちょっと真由美殿を上手く口説いてそのまま彼女と結婚してくれぬのだろうか、それで2、30年後に俺が横から真由美殿を寝取ればこれで無事に解決……だんぶぅ!!!」

 

いきなりの提案に達也は無言で彼を思いきりぶん殴った。

 

顔に一撃叩きこまれた桂は宙を舞いながら華麗にぶっ飛んで、窓ガラスを割って豪快に家を出て行ってしまう。

 

「……これ程までに怒りを覚えたのは何時振りだろうな、叔母上に桃鉄で破産に追い込まれた以来だ」

「案外軽くないんですかその怒り?」

「とりあえずアレを回収して真撰組の所へ連れて行くぞ、上手く行けばそれを聞いて七草会長が助けに来るからそれを迎えて今度こそ討つ」

「そのまま二人共仲良くあの世で祝言を挙げれるかもしれないアルな」

 

一仕事終えたかのように両手をパンパンと叩くと、達也はフゥーと珍しくため息を漏らす。

 

「全くここの世界の住人はおかしな連中ばかりだ、おかし過ぎて俺達の世界の住人にまで感染する始末だぞ」

「感染した件についてはマジで謝りますけど……僕等の世界の住人はあんなのしかいない訳じゃないですからね、僕等の世界を変に誤解しないで下さいよ」

「それをお前が言うか、新八」

「へ?」

 

自分の愚痴に慌てて弁明しようとしてきた新八に対し、達也はゆっくりと彼の方へ振り返る。

 

「俺からすればこの世界で最もおかしな人間はお前だぞ」

「はぁ!? 何言ってんすか! 僕はこの世界では極めて希少な超常識人ですよ!」

「いやだって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に地球に戻ってもなお全身白塗りのブリーフ一丁というスタイルはマズイだろ」

「アネゴも泣いてたアル、地球から戻ってきた弟が変態になって帰って来たって、あんなのもう私の可愛い弟じゃないって」

「……」

 

二人に言われて新八は頭を下げて初めて自分の姿を省みた。

 

これ以上ない真っ白な素肌に身に着けているのはこれまた真っ白なブリーフのみ……

 

 

 

 

 

 

 

「ってまだ僕服着てなかったんかいィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

 

 

 

銀さん、深雪さん、お元気ですか。

 

僕も神楽ちゃんも、達也さんもとても元気です。

 

仕事の方は、相変わらず全然なくて貧乏のままだけど

 

達也さんはそれなりに楽しくこの星でやっていけてるみたいです

 

でも僕はずっと落ち込んでます

 

銀さんに深雪さん

 

 

 

 

 

僕の服は一体何処に行ったんでしょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上で『魔法科高校の攘夷志士』は完結となります

最初は10話ぐらいで終わらせようとしたのに

展開を盛りに盛り過ぎていつの間にか50話になってしまいました。

けれどもここまで長く続けられたのは読者の方達が呼んで下さったおかげです

感想や評価を書いて下さった方々

誤字の訂正を協力してくれた方々

毎話読んでくださった方々

完結まで読んでくださり誠にありがとうございました。

それと実は完結といってもまだ書いてみたい話もありまして……

最終回なのに長谷川さんの出番が無かった事も心残りですし

もしかしたらいずれは後日談的な話を書く事があるかもしれません。


そして最後にもう一度


本当にこんな連中の珍道中を読んでくださりありがとうございました。

たまにはこんな作品があった事を思い出してくれたら幸いです。

それではまたどこかでお会いしましょう


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