第三十一訓 一丸&一刀
その四人には決して誰も歯が立たなかった。
「銀時、上から振ってきたぞ! 迎撃しろ!」
「銀時じゃねぇ銀雪だ!」
彼女達が入り込んだのは長い長い通路だった。その先の見えない薄暗い通路の奥には何かがあると察し、いよいよ大詰めの所まで来ていたのだ。
「マヒャド!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
銀時と深雪の融合体、銀雪が天井に向かって手をささげると立ちどころに天井を覆うほどの氷が展開され、天井から落ちてこようとしていた春雨軍をあっという間に凍らせてしまう。
「はい次ぃ!!」
「ていうかお前の魔法それで合ってるのか?」
「ああ? 呪文の名前なんて一時的なノリで決めりゃあいいだろってヒャダルコォ!!」
隣を並走している真由美との会話の途中でまたしても銀雪は近づいて来た春雨軍に魔法式を展開。
膨大なる魔力を体に持つ彼女であれば魔法の連発などなんの問題も無い。
「そうか、確かに呪文の名前などあっても意味の無いモノ、要はその場に合わせたテンションに身を任せて叫べばいいのだな」
「ヅラ! 後ろから来てるぞ!」
「ヅラじゃない桂だ! そして尻波絶対凍風ォ!!」
「ギャァァァァァァァ!!!」
「お前の場合は魔法も名前もどうなんだよそれ?」
銀雪に後ろから迫ってると言われ真由美はすかさず背後に迫る春雨軍に尻の部分から強烈な冷気を発射する、彼女自身が編み出したオリジナル魔法を炸裂。
威力は凄いのだがそのあまりにもカッコ悪さに銀雪の目は冷たい。
「ったくよぉ、俺に比べてはるかに格下のテメェ等には十分すぎる相手かもしれねぇけど、この程度の雑魚ばっか相手してちゃ退屈過ぎてヅラみてぇえに屁が出そうだ」
「屁ではない尻波絶対凍風だ! 確かにこの辺は春雨の者達がウヨウヨと沸いて来るな」
「大方なにか大事なモンがあるんだろ、この先に」
見渡す限り春雨軍、ここまで警備が厳重なのを察するに、どうやらこの通路の奥には本当に何かがあるらしい。
もしかしたらそれは自分達がずっと探していたある物かもしれない。
二人がそう予感していると、負けじとエリカも両手に持った刀で走りながら次々と春雨軍を蹴散らしていく。
「ヅラ! 銀時! 攘夷戦争の時はおまん等に手柄よく譲らせちょったが! 今回はそうはいかんぜよ!」
「なんなんだコイツ等! たった四人でここまで来るとは……ぐわ!」
「久しぶりに刀握れるたぁいい気分じゃのぉ! それに!」
本来の体、坂本辰馬の時であれば古傷が元で刀を握る事すら出来なかった。
しかし今の体は自分のではなく千葉エリカの肉体、その体を駆使して彼女はかつての攘夷戦争時代を彷彿とさせる機敏な動きで圧倒していく
「おまん等と一緒に戦るのはまっこと久しぶり過ぎて楽しくなるのう! 高杉もそう思わんか!?」
「よせよ、テメェ等バカ共とこうして共闘しているだけでも虫唾が走るってのに」
血に濡れた刀を倒した敵の服で拭いながらエリカが前を一人走っている中条あずさに叫ぶと、彼女はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らしながら突然上空へと飛びあがり
「互いにこんな体になっちまってんだから笑いすら出ねぇ」
「がはぁ!!」
壁側にいた敵を物も言わずに刀で一刀両断、エリカと違い彼女の肉体は本来近接戦闘には向いていない。
しかしそれでもなお春雨に打ち勝つ程の力があるのは、その肉体に宿る魂が持つ狂気にも通じる執念が、肉体に眠っていた力を無理矢理たたき起こしたのだろう。
「だからこんなモンさっさとしめぇにするぞテメェ等、全てが片づいたらそっからが本当の戦いだ、そうだろ銀……」
目の前に現る敵を倒していきながらあずさは銀雪の方へ微笑を浮かべて振り返ろうとするが
「ヒャダイン!!!」
それを狙ったかのように銀雪はすかさず彼女目掛けて魔法式は発動。
先程よりも強い冷気であずさを氷漬けにしようとするも、あずさはその行動を予知していたのか、ヒョイッと高くジャンプしてそれを回避する。
「チッ! 避けやがった!」
「はん、誰が食らうかテメェのちゃっちい氷なんざ」
「おまん等こんな状況でなに当たり前の様に仲間割れしとるん!?」
普通に避けられた事に舌打ちする銀雪をエリカがすぐに彼女達を追ってツッコミを入れる。
「わし等みんなで協力して入れ替わり装置の破壊に来とったんじゃなか!? なげに高杉VS銀時の対戦マッチおっ始めちょるんじゃ!」
「おー辰馬さん、とりあえずコレだけはテメェに言っておいてあげマース、俺、アイツ、大嫌い、OK?」
「なんで片言!? いや昔から仲悪いのは知っちょるがここでやらんでもええじゃろが!」
エセ外国人みたいな喋り方で高杉に対する率直な感想を言う銀雪にエリカが叫ぶが、その間に真由美が割り込んでフッと笑い
「よせ坂本、そもそも俺達が仲良く手を組んで戦うなど攘夷戦争時代も無かったではないか。俺達の戦い方はこれでいいんだ」
「そうかのぉ、わしはこういうシーンは王道じゃといがみ合ってたモン達が結束し合って巨大な敵と対峙するというお約束展開の流れにするべきじゃと思うんじゃが」
「それに見ろ、銀時の背中を」
不満げな様子のエリカに対し、真由美は銀時の背中を見ろと指示。
そこにあるのは銀雪の白くてあちこち跳ねッ毛の付いた長い髪……
「銀時が勢い付けて走れば走る程、なんか白い毛虫がクネクネしながら蠢いているみたいで気持ち悪いであろう」
「あ、本当だ! 気持ちワル!」
「なに唐突に銀雪さんのヘアスタイルディスりに来てんのお前等!?」
緊迫した状況の中でも四人はいつもとなんら変わりない。
そして四人は突き進む、この先にあるかもしれない希望へと……
春雨第七師団の隊員は皆集まっていた。
隊員は皆傭兵部族・夜兎、そしてそれを率いているのは副団長である阿伏兎。
そして彼等がいる場所こそが入れ替わり装置が置かれた最も厳重に護らなければならない大部屋であった。
「ったく団長の奴どこほっつき歩いてんだ? さっきから向こうでドンパチしてる音が聞こえるからもう少しでこっちも動かなきゃならねぇってのに」
巨大な入れ替わり装置を背後に構えながら未だ帰って来ない団長である神威に対して愚痴る阿伏兎。
するとしばらくして彼の懐に入れていた通信機から雑音が流れたかと思いきや
『もしもーし、こちら団長でーす、阿伏兎生きてますかどうぞー』
「チッ、噂をすればなんとやらってか……こちら副団長、バカ団長どうぞ」
相変わらずの気の抜けた声が通信機から聞こえて来た、ため息をこぼしつつ阿伏兎は通信機を手に取って声を当てると、通信相手である神威からすぐに返事が来た。
『阿伏兎、やっぱり地球人ってのは面白いね。どんな窮地に追い込まれようとあらゆる場所から可能性を見つけ出そうとするあの執念、俺達夜兎もウカウカしてられないよこれじゃ』
「ああ? いきなりなんの話だ? んな事より早くこっち来てみろよ、アンタが期待してる様な戦いは出来ねぇかもしれねぇが、どうやらその地球人がこっちに近づいて来てるらしい」
いきなり意味深な事を口走る神威に首を傾げつつも、阿伏兎は前方にあるたった一つの通路を眺めながら鼻で笑う。
「大方体を入れ替えられた地球人達が玉砕覚悟で突っ込んで来てるんだろうがね、雑魚相手になら通用するかもしれねぇが、この通路の奥には夜兎族である俺達がわんさか集まっている事を知ったらどんな反応するかお前さんも見たくねぇか?」
『ああ、きっとその地球人俺を倒した奴だと思うよ、阿伏兎』
「……は?」
『正確にはぶっ飛ばされただけだけど』
通信機から聞こえた神威の情報に阿伏兎は耳を疑った。
我等の戦闘狂である団長が地球人にやられただと……
「ちょ、ちょっと待て団長! それは一体どういう事だ! つまり今からここに来るって奴はアンタを!」
『そう、俺を倒す程の腕前を持つ二人で一人の地球人……』
「!」
慌てて神威に問いかけてる途中でこちらに向かってコツコツと静かに近づいて来る複数の足音に、阿伏兎は通信機を握ったままハッとした表情で顔を上げる。
段々と四人の人影がこちらに迫り徐々にその姿を現す。
『魔法使いと侍が合体した俺達夜兎を相手にして恐れも抱かない怪物さ』
「おいおい冗談きついぜ団長……てことはアレか? 俺達は今アンタを倒す程のその怪物と戦わなきゃいけねぇって事かい?」
『せいぜい死なない様に気を付けてね、そんじゃ俺しばらく休んでるからあとよろしく』
そう言って神威からの通信が切れると同時に、阿伏兎の目の前に一人の可憐な少女が現れこちらにニッコリと笑ったままペコリと頭を下げた。
「皆さんごきげんよう、私、坂波銀雪と申します。今日は皆様に特製のかき氷を召し上がってもらおうとはせ参じました、もっとも……」
警戒している面持ちで殺気のこもった視線を向けて来る夜兎の精鋭達に。
銀雪はゆっくりと顔を上げるとその笑顔はまるで別人に切り替わったかのように歪な笑みに変わっていた。
「材料に使う氷はテメェ等だけどな……!!」
それと同時にあちらこちらに発生する氷柱が床から天井へと伸びていく。
目の前が一瞬にして銀幕の世界に、こんな状況を前にし阿伏兎は頬を引きつらせて苦笑するしかない・
「おいおい、これが魔法って奴か? 常識から外れた俺達でさえ思わずブルッちまうぐらい非常識じゃねぇか」
「貴様等の奥にあるモノ、それがもしや俺達が今の今まで必死に探していた入れ替わり装置か?」
氷柱などただの警告に過ぎないといった表情でこちらに笑って見せる銀雪の隣に、今度は真由美が腕を組んだまま静かに現れる。
「それを壊せば、ようやく俺達の体を取り戻せるという訳だな」
「その口ぶりだとおたく等みんな入れ替わり組か? テメーの体じゃねぇってのにここまで来れるたぁ大したもんだな」
「おまん等なんか勘違いしておらんか? 例え体が入れ替わろうがわし等はちぃとも弱くはなっとらん」
真由美とは反対方向の位置で、エリカが銀雪の隣に刀を肩に掛けたまま現れる。
「同じ地球人の体、同じ所に飯を入れ、同じ所からクソ捻り出せるなら、わし等はそれで十分じゃきん。それだけで十分わし等は一人の侍として戦えるんじゃ」
「フ、蓮蓬はどうやらおたく等地球人を軽く見過ぎてたみてぇだな……いや侍って奴を」
こちらに対し三人で現れた銀雪、真由美、エリカ。阿伏兎は入れ替わり装置の破壊に来た彼女等を前に。
自分の得物である大傘をバッと掲げて肩に掛ける。
「だがおたく等もちぃと勘違いしてるな、例えどれ程雑魚相手に無双できようが、それが夜兎族にも通じると本気で思い込んでたら笑い話にもならんぜ?」
そう言うと共に阿伏兎の周りにいる夜兎の精鋭達が身構える、皆が武器である日傘を持ち、いつでもこちらを仕留めに来そうな殺気を放ちながら。
そして阿伏兎は手に持った大傘を掲げて銀雪の方へ突き出す
「来な、子兎の皮を被った狼達よ」
阿伏兎の周りにいた夜兎は同時にダッ!と身を乗り出してこちらに全員で襲い掛かって来た。
それに対し、銀雪は挑戦的に笑みを浮かべ
「ヅラ! テメェの考えた作戦で行くぞ!」
「坂本! 俺に続け!」
「了解!」
最初に動くのは銀雪ではなく真由美とエリカの方であった。
彼女達はここに来るまでに事前に打ち合わせをし、こうなる事を予測していたのだ。
二人は銀雪の前に立ち、彼女を護る様に陣取ると
「いけぇ銀時! 深雪殿! ここは俺達が持ちこたえる!」
「おまん等の魔法で装置を破壊するんじゃ!」
「わーってるよ、形あるモンを壊すのが銀雪さんの専売特許だ」
襲い掛かって来た夜兎を刀で受け流しつつ、銀雪には近づかせないようにする真由美とエリカ。
そして彼女達を盾に銀雪は手の平から今まで以上に巨大な魔法式を展開し
「マヒャドデス!!!」
ノリノリで呪文名を叫ぶ銀雪であるが本当の公式魔法名はニブルヘイム。
液体窒素の霧を含む大規模冷却塊を作り出し、攻撃対象にぶつけるという高難易度魔法。
銀雪がバッと手の平を掲げるとたちまち奥に置かれている巨大な入れ替わり装置が一瞬にしてピキピキと音を立てて氷漬けになっていく。
「よしこのまま……ってうお!!」
根元から徐々に凍り始めて行く入れ替わり装置だがまだ完全には破壊されていない。
ならば凍らせるのではなく砕く魔法を使えばと銀雪は更なる魔法式を行使しようとするが、どうやら時間切れらしい。
自分を護っていた真由美とエリカのガードを弾き飛ばして、夜兎族が一斉に襲い掛かって来た。
「チッ! なに簡単に打ち破られてんだテメェ等それでも俺の舎弟か!」
「誰が何時貴様の舎弟になった! 夜兎族相手に数秒持ちこたえたのだぞ! 表彰モンだろこれは!」
「アハハハハ! さすがに相手がコレだと分が悪すぎじゃて!」
夜兎に真横に飛ばされつつ、真由美とエリカは未だ余裕の様子。そんな彼女達に銀雪が額に青筋浮かべて怒鳴り声を上げていると、氷漬けになった入れ替わり装置の前で阿伏兎はひとりほくそ笑む。
「残念、一手足りなかったな」
「おいおい決めつけはよくねぇな、一手ならここにあるぜ、とっておきのがな」
「なに?」
周りにいる夜兎達を全員相手に二つの木刀を振り回しながら銀雪が上に向かって叫ぶ。
「いけぇ高杉ィィィィィィィ!!!」
「チ、もう一人隠れていやがったのか」
銀雪の真上を飛ぶようにあずさが入れ替わり装置目掛けて刀を両手に持って飛び掛かる。
銀雪は入れ替わり装置を凍らせて舌ごしらえ、真由美とエリカは彼女が高難易度魔法を行う為のしばしの護衛。
そしてそれ等を下敷きにしてあずさは一人切り先を入れれば容易に打ち崩す事の出来る入れ替わり装置の破壊にやってきたのだ。
しかしそれに対して阿伏兎は別段驚いた表情もせずにすぐ様床を蹴って
「んな真似させらせれねぇよ!」
「……」
夜兎の精鋭は皆銀雪に集中してあずさに気付くのに遅れてしまったが、一人動かずに状況を観察していた阿伏兎は違った。
彼はすぐにあずさがやって来たのを確認し、すかさず飛び上がって正面からあずさの刀に自分の傘をぶつけたのだ。
「おいおいもしかしておたくあの高杉かぃ? しばらく見ねぇ内に随分と可愛くなったじゃねぇか、へへ」
「そういうテメェはあのバカのお守り役か、今の俺のツラ見て笑うなんて随分とテメーの命が惜しくねぇみてぇだな」
「よせよ、その体のアンタに何が出来るっていうんだ。現にこうしてアンタ等の会心の一手は簡単に止められちまった」
夜兎の一撃と対峙しているのにあずさは笑みを浮かべながらそれに負けじと対抗している。
しかしそれもほんの数秒程度しか持たないであろう、力の差は大人と子供の差とかそんな次元の差ではないのだから。
呆気なく彼女達の奇襲は無駄に……そう思う阿伏兎だったが、あずさは彼と向かい合ったまま床に着地してもまだ笑みを崩さずに顔を上げ
「……いつ俺の登場が会心の一手だと言った?」
「強がりはよせよ、今ここに来たのはおたく等四人だけの筈だぜ?」
「いや、”アイツ”はこの星に来てからずっと俺の傍にいたよ、何故なら俺がそう命令したからな」
「……なに?」
「いつかここぞというタイミングでとっておきの、一手を生み出す為に”アイツ”はずっと俺の影に潜みこの時を待っていたのさ」
そう彼女はこの星に来てからずっと”彼”を自分の影に潜ませ行動していた。
決して表に出るなと忠告し、例え自分達が追い込まれようと自分の指示が出るまで決して動くなと
全てはこの時の為に
「やれ、”桐原”」
「御意!!!」
「な!」
あずさの後から一人飛び出して現れたのは桐原武明。
今までずっと隠れて行動していた鬱憤を晴らすがごとく凄まじい形相で、面食らっている阿伏兎を飛び越えて入れ替わり装置の方へ飛んで行く。
「見ててやるよここで、テメェが誇る”異世界の剣”って奴よ」
「しかとその目で見ていろ高杉! その為だけに俺はここまで来たんだ!!」
両手に持ったCAD搭載の刀を振り上げて、桐原は異世界装置のてっぺんまで昇り詰める。
それを夜兎達と戦いながら見ていた真由美は
「いけぇぇぇぇぇぇぇ!! えーと……銀時とよく声が似てる人ォォォォォォォォ!!」
同じく彼女と共に戦っているエリカも
「わし等の思いをその一撃にこめるんじゃあ!!えーと……キョン? いやジョゼフじゃっけ? あ、そうじゃった、ラグナァァァァァァァァ!!!!」
そして二つの木刀を振るいながら銀雪も彼の方へ顔を上げて
「叩き込めぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 杉田智和ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
皆の叫びと思いを一身に背負い、桐原を目に少々涙を溜めながら
「誰も俺の名前覚えてねぇじゃねぇかァァァァァァァァァァ!!!!」
体の中から湧き上がる叫びと共に、凍られた入れ替わり装置に今、彼の気合の一刀が突き刺さると同時に一気に振り落とされて、入れ替わり装置は派手な音を鳴らしながら真っ二つになるのであった。
今まで積み重ねた苦労と旅路、全てはこの一撃の為に
ダークホース桐原が大手柄を上げたその頃、彼等のいる中層部より遥か高き所にある上層部の頂上にある部屋では不穏なる影が動いていた。
真っ暗なその部屋の中で一人宇宙を見つめる頭からローブを被った謎の人物。
その部屋の自動ドアが静かに開き、入ってきたのはこの星でありこの星を統括しているボス、米堕卿だ。
『中層部の入れ替わり装置は破壊されました、全てはあなた様の計画通りです』
黒づくめの人物に近づくと米堕卿はその者に向かってまるで目上の者に対する態度の様に状況の報告をする。
この星で最も偉いのは他でもない彼自身の筈だ、しかしこの入れ替わり計画にはまだ裏があるのかもしれない。
『かの者達をすぐにこちらへ連れてこさせます、そうすればあなた様の計画は全て完遂されるでしょう』
『まだそうと決まった訳ではない』
米堕卿に対してその者もまた、背中を向けたままプラカードを取り出して返事をする。
『あの二人は元から素質のある者達であったが、以前とは比べ程にもならない強さを感じる。恐らく異世界から来た者となんらかのイレギュラーな現象に見舞われ大いなる力を手に入れたに違いない』
『それはあなた様が欲していた秘術……私以外の蓮蓬達に悟られぬ様ずっと隠していたあの』
『そうだ、そして間もなく私の”片割れ”もここへと来る筈、その時こそ私もまた真の力を手に入れる事が出来る……』
どうやら入れ替わり装置を破壊したとしても事は順調に進まぬみたいだ。
二人の会話は所々に怪しい気配がし、未だ出していない切り札をまだ持っている様である。
そしてそんな二人にしかいない筈の最上部の部屋で、微かにペタリと足音が聞こえた。
『何奴!』
米堕卿がすぐに背後に振り返るとそこにいたのは
「残念ながらあなたの計画とやらを完遂させませんよ」
『貴様は……』
一見蓮蓬と同じ姿をしているがプラカードによる会話方法を使用していない。
着ぐるみの中から女性のような口調で話し出すその人物に米堕卿は警戒していると、ローブ姿の人物がいつの間にか彼の前に現れスッと手を出して制止させる。
『我々をコソコソと嗅ぎまわっていたのはお前だったか』
「僕はあの人達の影です、影は影なりにやるべき事があったまで、そして今の私はあなた達を止める鬼となる為にここまでやって来ました」
『ほう、そなた一人で私を仕留められると?』
「一人じゃない、私達は”二人”です、そしてあなたを無傷で倒せるとは思っていない」
そう言ってその者は手に持った刀を鞘から一気にに引き抜く。
「相打ち覚悟で止めさせてもらいますよ、僕の世界にいる大切な人達と、私の世界にいる大切な人達を護る為に」
『面白い……ならば余興代わりに私が直接手を下してやろう』
そう言ってローブを翻し、謎の人物は戦闘態勢に入る様に両手をばっと大きく広げると。
「宇宙一の魔法師となったこの”銀河帝国皇帝・M”の力をを存分に味わうがいい」
プラカードではなく自身の低い声で名乗り、真なる強敵が今表舞台に立つ。