魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

30 / 53
第三十訓 大戦&勃発

 

中層部は下層部や上層部よりも広大だ。

ゆえにより多くの人達をその場に招集する事が出来る。

こちらは少数の兵、向こうは数え切れないほどの巨万の兵。

彼等とここで対峙するという事は事実上天下分け目の大戦。

この戦に敗北すれば入れ替わり装置の破壊をしてもすべてが水泡に帰す。

逆に勝利すればまだ束の間の希望を保っていられる。

二つの世界の命運を賭けて、体も奪われてなお抵抗する異世界連合軍と強敵・連蓬本軍が雌雄を決する戦いが始まった。

 

「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」

『迎え撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

『『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』』』』』

 

ここは巨大な荷物やら機器やらを保管、配送する為に置かれた広大なフィールド。

かつて、連蓬が地球征服の切り札として作っていたモビルスーツ、『頑侍無』が配置されていた場所だ。

 

大将であるゴリラこと近藤勲が号令をかけると共に連逢の姿をした地球人達が一斉に動き出し。

それに対し連蓬の副将、レフトドラゴンといわれるかつてはもう片方のライトドラゴンと共に連逢軍の双璧を担っていたといわれる連蓬軍生粋の猛将が、巨大なプラカードを一人で持ち上げて戦闘開始を告げる。

 

「ついに始まったな十文字……まさか宇宙人でこんな大戦を体験することになるなんて学校にいた頃は夢にも思わなかったよ」

 

前衛同士が衝突間近なその時、茂茂達と別れて一足早くこちらに赴いていた渡辺摩利は大将のいる本陣からその光景を上から眺めながらボソリと呟く。

 

「この戦いに勝てば全てが終わるというわけではないんだがな、この争いを負わせるには私達の生徒会長とあの男次第……十文字、その為に私達は私達なりに精一杯の尽力をこの戦いに尽くしてあの二人の助けになってやろうじゃないか」

 

そう言って摩利は背後にいるであろう十文字のほうへ微笑を浮かべて振り返るのだが

 

「いや俺近藤なんだけど?」

「え?」

「渡辺、十文字は俺だ。そっちは真撰組の大将・近藤勲だぞ」

 

そこにいたのは十文字と同じくゴリラになってしまっている近藤勲。

いきなり彼女に話しかけられて彼がキョトンとし、これまた摩利もキョトンとしていると、ノシノシと近藤と同じくゴリラになっている十文字克人が歩み寄ってくる。

 

「何度言わせれば済むんだ渡辺、俺と近藤を何度も間違えるとは失礼にも程があるぞ 体調が優れないのなら後方に退いてもらうが」

「あ、ああすまない……私とした事が」

「まあまあ十文字君、俺は別に気にしてないからさそんなに怒らないでやってよ、ほら、彼女もきっと長旅で疲れているんだろうし」

 

怒られて素直に非礼を詫びる摩利を近藤が優しくフォローしてあげると、十文字はハァ~とため息を漏らす。

 

「戦を前にして疲れていては万全の状態で戦えはしないだろう、渡辺、お前が出撃するのは俺と近藤と同じタイミングでいい、俺と近藤の強力タッグの後ろに回って援護射撃に徹しくれるだけでいい」

「後ろ盾がいるのは大いに助かるからな、敵の攻撃は俺たちで食い止める、だから君はなんの心配もせずに俺達をバックアップしてくれ」

「わ、わかった……私も君達に負けぬよう全力で仕事をさせてもらうよ、近藤局長殿……」

 

大将の護衛とはこれまた重要な仕事だ、大将が傷付けば味方の士気に関わり、結果的にそれで戦の勝敗が決まる事だってあるのだ。

大事な任を任されて摩利は戸惑いつつも了承し、信じてくれた近藤の方へ顔を上げた。だが

 

「ウホ」

「……」

「渡辺、そっちは近藤ではない、ただのゴリラだ」

 

これまた人違いならぬゴリラ違い、顔を上げた先にいたのは相手は近藤と入れ替わってなおその体をゴリラと変化させてしまった普通のゴリラ。黒い制服は着ているもののそれは間違いなくただのゴリラである。

 

「近藤、やはり渡辺は少し休ませたほうがいいんではないか? さっきからどうも人の認識が出来ていないようだ。体だけでなく心も憔悴しきっているらしい」

「言われてみれば確かに……そもそも彼女は俺達のように入れ替わってない一般生徒だしな、それにこんな戦いを目の前にすれば精神の身が保てないかもしれん……」

「ウホウホウッホホ」

「いやゴリラ、確かにお前の言うことも一理あるがやはりこうまで人の区別が出来ないとなると戦場に出すのはやはり危険……」

 

三匹のゴリラが顔を合わせてヒソヒソと摩利について話し始めた。

そして話し合っているゴリラを摩利はジト目でしばし眺めた後肩を震わせ……

 

「わかるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 私は別に心身ともに疲れているから人の認識を間違えてるんじゃない! ただお前達ゴリラの区別が出来てないだけだ!!」

「え? 俺達そんな似てるかな十文字君?」

「いや、全く似てないが?」

「言っておくが私だけじゃなくてほかの連中もお前達ゴリラの区別なんて出来ないからな!」

 

そう、別に摩利が疲れているから間違えているわけではない。

全く瓜二つの外見であるからいきなり目の前に現れると近藤だか十文字だか普通のゴリラだかわからないのだ。

ゴリラの事はあまり詳しくない彼女にとって、彼等をキチンと把握するのは無理な話である。

 

それを聞いて近藤達は同時に首を傾げ再び顔を合わせる。

 

「えー俺達そんな似てるかな? だって十文字君の方が俺なんかよりイケメンじゃん」

「そんな事を言うなら近藤だって俺よりもずっと男らしい顔つきをしているぞ」

「ウゴゴ、ウゴ」

「無論、お前も立派な顔付きだゴリラ、きっとジャングルに行けばすぐにスカウトされてモデルに抜擢されるぐらいの逸材を持っている」

「ウホー!」

「ホントホント、ジャニーズにいてもおかしくないものこんなゴリラ、ていうかもういたよねジャニーズにゴリラ顔の」

「だからわかるかって言ってるだろうが! ゴリラ同士で認識できても私達人間には全く区別出来ないんだよ! どっからどう見てもみんなゴリラゴリラゴリラとしか認識できないんだよ!!」

 

勝手に盛り上がっているゴリラ三匹に向かって摩利が指を突きつけて怒声を上げていると、彼女たちの元へタッタッタッと何者かが駆けて来る足音が

 

「土方十四郎! ただいま大将である近藤さんの所に参上仕ったんだぜ!」

「だからオメーは土方じゃねぇだろうが! 土方は俺だ!!」

 

駆けつけて来たのはこの戦いに参加せんと意気揚々と現れた土方と、彼と共にやってきた本物の土方ことリーナであった。

 

「おおトシ! 戻ってきてくれたのか! あれ? そっちのお嬢さんは誰?」

「近藤さんコイツは敵に情報を流していたスパイだ、遠慮せずにスパッと斬ってくれ」

「コイツどんだけ過去を捨てて俺になりたいんだよ……向こうの世界じゃ結構な職に就いてただろうが……」

 

ここで助っ人として彼等が現れるのはデカい、両手を広げて喜ぶ近藤に土方を差し置いてリーナがすぐ様前に出る。

 

「近藤さん、俺が本物の土方だ、すまねぇな来るの遅れちまって……こんな姿になっちまったが俺はどこぞの銀髪バカやブラコンバカと違って決して自分を見失っちゃいねぇ、アンタ達真撰組の事も一度たりとも忘れちゃいねぇよ」

 

そう言ってリーナは自分よりずっと大きな図体相手にフッと笑う。

 

「だからアンタは安心して大将らしくドンと後ろで構えてろ、アンタはそうやって俺達のことを後ろから見守ってくれるだけで俺たちは何者にも負けねぇ組織になるんだよ、近藤さん」

「悪いが俺は近藤ではない、十文字だ」

「……あれ?」

「間違えてる! ほらやっぱ普通に間違えるだろ!?」

 

自分が話しかけていた相手が近藤ではなく十文字だと知って目をぱちくりさせるリーナ。

それを見て摩利がやっぱりそうだと確信していると、土方の方が得意げに

 

「やはりあなたが偽者だったわねリーナさん、本物の土方であれば我らが大将、近藤勲を間違えるわけないわ。これでわかっただろう近藤さん、俺が正真正銘本物の土方君だぜ」

「ウホー」

「お前も間違えてるぞ! それただのゴリラ!!」

 

肩を寄せ合い真撰組の強い絆をアピールするが土方が肩を組んでいる相手は普通のゴリラ。

どうやら二人もやはりどれが近藤なのか十文字なのかわからないらしい。

 

「おいどういう事だ、俺は幻とか思ってたがマジで近藤さん3人に分身したのか? いつの間に影分身覚えたんだあの人」

「もうこの際だからみんな近藤さんでよくない? てかゴリラ=近藤さんでいいような気がしてきたわ」

「バカ野郎、近藤さんはこの世でただ一人だ、もう一回考えて選んでみるぞ」

 

目の前に三匹いるゴリラを二人で目をやりながらしばらく長考した後、「あ」と二人は気づいて、近藤だと思われる者の両肩に手を置く。

 

「悪いな近藤さん、気付くのが遅れちまったよ」

「俺は決して気付いてなかった訳じゃないんだぜ、ちょっとしたジョークだぜ近藤さん」

「私は渡辺摩利だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ポンと自分の両肩にそれぞれ手を置き微笑む土方とリーナに摩利は勢いよく叫び声をあげた。

 

「なんでゴリラの中からじゃなくて私選んだ!? ゴリラってか!? お前達から見れば私もゴリラの1匹と捉えられるってか!?」

「あれよく見たら近藤さん……髪切った!?」

「髪切ったじゃ済まないだろ! 性別もろとも全くの別人だから!」

「あれよく見たら近藤さん……豊胸手術した?」

「コレは元から私のモンだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

リーナに尋ねられ更には土方もセクハラまがいの事を言ってくるので摩利はツッコミつつ否定していると、今度は三匹のゴリラが彼女の元へ近づき

 

「気にするな近藤、彼等もまたお前の急な変化に戸惑っているのだろう、直にお前を認めてくれる」

「いやなんでお前まで私を近藤と認識し始めた十文字!? ゴリラ同士なら認識可能なんだろ!?」

「ま、こういう言われ合いが出来るのも今の内さ、戦が本格的になればアンタも戦いに出向かないといけないしな、近藤君」

「近藤お前だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 自分の存在見失うなゴリラ! お前が本当の真撰組の大将だから!」

「ウホ、ウホホホホ、ウッホーイ」

「………………わかるかぁぁぁぁぁぁぁ!! ちょっとばかり何言ってるか読もうとしたけどやっぱりゴリラの言葉なんかわかるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

皆から近藤勲を認識されつつある摩利は両手を頭に付けながら天井を見上げる。

 

「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 早くこの入れ替わり騒動を止めてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

その必死な叫び声はむなしく、周りの様々な騒音のおかげで微かに響くだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして近藤達本陣から離れた激戦区では、蓮蓬VS地球人&元地球人の蓮蓬の戦いが始まっていた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

『げふ!』

 

そんな中で数少ない入れ替わり組ではない普通の地球人、志村新八が雄たけびを上げながら死に物狂いで蓮蓬相手と戦っていた。

得物の木刀で蓮蓬の一人の頭上に兜割りを決め、次々に襲い掛かる彼等と対峙していく。

 

「ダメだ! やっぱり数の差からして圧倒的にこっちの分が悪すぎる!」

 

やはり兵力の差がここにくると痛い、このままだとジリ貧だ。

荒い息を吐きながら新八はふと周りを見てみると、苦戦している味方が多く見られる。

 

「どうにかして突破口を見つけないと! ニセ沖田さん! ニセ神楽ちゃん! お願いします!」

「へ、突破口なんざいくらでもつけてやるぜ、あのツラ見てるだけでも忌々しいクソ兄貴が出る暇もねぇぐらい仕事してやらぁ」

「あの私の言うこと全然聞いてくれないアホたれお兄様に代わってメインヒロインであるこの私が大活躍してやるアル!!!」

 

入れ替わっているが体によって精神を支配されている沖田と神楽が勢いよく前に出る。

一か八かここはこの二人に先陣を切らせ連中の本陣へと突っ切ろう。二人が危うい状態であるのは確かだが、その剣術と怪力は蓮蓬達を圧倒するには十分だ、ここで使わず腐らせる前に、新八は二人に本陣へ向かえと指示する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ほわちゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

刀と日傘を持ち、二人揃って血気盛んに突っ込んでいく。

その背中を見て新八が心配であるものの心強いと思うことが出来た。

 

だが突如、二人の行進はピタリと止まった。

 

「「……」」

「あ、アレどうしたんですか二人共? 急に足止めちゃって……」

 

戦いの真っ只中で隙を見せるとは即ち死に直結する。

足を止めて固まってしまった二人を新八が何事かと歩み寄ると、二人は同時に彼のほうへ振り返り

 

「「思い……出した……!!」」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! このタイミングでぇぇぇぇぇぇ!?」

 

新八は絶叫した、思い出したというのはつまり本来の自分の記憶が目覚めたという事であろう。

すると沖田は髪を撫でながらいつもとは全く違う雰囲気になり

 

「そう、私は元の世界ではフォア・リーブス・テクノロジーの元研究員で今は管理部門所属として働き、司波龍郎と16年間に渡る長き愛人生活の果てにようやく夫婦となれた司波小百合よ」

「沖田さんの中の人女性だったの!? なんか見た目沖田さんだから余計不気味なんスけど!?」

 

女口調になって自己紹介し始めた沖田に新八があまりにも不気味さに戸惑いを隠せないでいると、今度は神楽のほうが腕を組んだポーズをしたまま仏頂面で

 

「そして私がフォア・リーブス・テクノロジー開発本部長であり小百合の夫である司波龍郎だ」

「ってこっちは旦那の方かいぃぃぃぃぃ!! 夫婦揃って入れ替わった上に入れ替わった先がまさかの険悪コンビの沖田さんと神楽ちゃん!? どんな奇跡だよミラクルにも程があるだろうが!」

 

こちらもまた雰囲気がガラリと変わりいつものチャイナ口調は身を潜めすっかり普通の口調で自己紹介する神楽。

突然の変貌に驚きつつも新八はふと彼等の姓に気付く。

 

「え? 司波小百合さんと司波龍郎さん? 司波って事はもしかして……」

「気付いたようだね新八君、何を隠そう君の知っている司波深雪と司波達也は私と前妻の間に生まれた子供なんだよ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! まさかの一家丸々入れ替わりに巻き込まれたって事ぉ!?」

「そういう事になる、小百合、とんだ災難だったね」

「そうね龍郎さん、まさか別の体になった上に記憶まで失うなんて」

 

まさかの達也と深雪、あの兄妹の両親だと知って新八が驚く中、全てを思い出した事に沖田と神楽は喜びをかみ締めると、二人で互いの腰に手を当てたまま

 

「ということで新八君、我々はこんな血生臭い戦いなど参加したくないので、我々を安全な場所へ避難させてほしい」

「ちょっと待たんかいぃぃぃぃぃ!!! なに戦の最中に逃げ出そうとしてんだコラァ! 体は沖田さんと神楽ちゃんならなんとか戦えるだろ!」

「いや無理よ無理、私まだ死にたくないし、それに龍郎さんが傷付く姿も見たくないんだから」

「そうだね小百合、私達は安全な場所でゆっくりと身を潜めながら事が全部解決するまで待っていようか」

「傍観者気取ってんじゃねぇよ! 安全な場所なんかもうどこにもねーし! ここ戦場のど真ん中だよ! わかってんの!?」

 

懸念していたとおり、二人の記憶が戻った事がやはり仇となってしまった。この二人、戦うどころか戦う意思さえ持っていない様子。

神楽と沖田で仲睦まじい光景を見せてくる彼等に新八は額に青筋を浮かべて怒鳴り声を上げた。

 

「子供二人が頑張ってるのに親のアンタ等が敵前逃亡しようとしてんじゃねぇよ! 根性見せろお前ら! 家族揃って仲良く元の世界に戻りたいんなら死ぬ気で戦えや!」

「いや私別にあの二人とは血が繋がってるわけじゃないし、ぶっちゃけ戸籍上親子でもほぼ他人なのよね私達って、妹のほうには毛嫌いされてるし」

「深雪の事は心配だが達也がいればなんとかなるさきっと、アレはこういう非常事態の為に作られた兵器みたいなモノだからね」

「家族仲最悪だな司波家! いや達也さんの態度から薄々察してはいたけれど!」

 

子供が頑張ってると聞いても全く他人事だといった感じで冷め切っている二人。

そういえば達也こと茂茂は彼等の正体を見抜いていたような節があった、あの時の彼の態度もどこか突き放す感じであったので恐らく家族関係はあまりよろしくない一家なのであろう。

両親は既に他界し、唯一の身内は姉だけである新八にとってはよくわからないが、色々と複雑な家庭らしい。

 

「ということで新八君、早く我々夫婦だけでも生き残れるような安全なシェルターにでも」

「お願いするわね新八君」

「だから今あんた等をんな場所へ案内する余裕なんてある訳……!」

 

夫婦揃って自分の保身を考えている事に新八はイラッときながらビシッと言ってやろうとしたその時

 

『地球人!』

「うわ!」

 

突如蓮蓬の一人が新八に襲い掛かる、喋りに夢中で忘れていた、ここは一寸の油断も出来ない戦場であると。

プラカードを振り下ろされすぐ様木刀でそれを防ぐ新八だが、沖田達のいる方から悲鳴が

 

『覚悟』

『消えろ』

「いやぁ化け物が襲ってきたぁ!」

「ギャァァァァァァァ! 助けてくれ新八君!」

「えぇ! もうこっち交戦中なんですけど!?」

 

こちらもまた蓮蓬の2体が手に槍と刀を持って襲い掛かってきていた、沖田と神楽は抱き合ったまま新八に悲痛に助けを求めるが彼は今戦闘中である。

 

このままだと夫婦共々蓮蓬に……

 

そう思った矢先であった。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、テメェの体に入ってる野郎はとことん情けねぇ野郎みたいだなチャイナ娘」

「そういうお前の体の中に入ってる女もピーピー吠えるしか能のない役立たずみたいアルな」

「!」

 

交戦中でありながら新八の耳にふと声色は違うが聞きなれた口調が聞こえた。

その声が聞こえた方角は上……新八は恐る恐る上を見てみると

 

一組の男女が戦場であるこちらに向かって舞い降りてくるではないか。

 

そして沖田と神楽に襲い掛かっていた蓮蓬二体目掛けて

 

「俺のドSボディに触るんじゃねぇ」

「そのプリチーなボディは私のモンネ!」

『『げふぅ!!』』

 

後ろから飛び蹴りをお見舞いし一撃で地面にひれ伏させ昏倒させてしまった。

予想だにしなかった助っ人に新八が驚いていると、その二人はこちらに振り返って来た。

 

「よう、旦那の所の眼鏡じゃねぇか久しぶりだな、近藤さんとマヨネーズバカは知らねぇか?」

「久しぶりアルな新八、銀ちゃん何処に行ったか知らないアルか?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

一人はスーツを着た目つきの鋭い女性

もう一人はどこか司波達也と似ている風貌をした中年の男性。

どっからどう見てもこんな戦いに現れるのはいささか場違いである。

しかしこの二人の口調と自分を知った風に話しかける二つの点から、退治していた蓮蓬を退けながら新八はすぐにハッとした表情で気付いて振り返った。

 

「ま、ま、まさか沖田さんと神楽ちゃん!?」

「おう」

「さすがアルな新八、すぐに私の事気付くなんて」

「ウソォォォォォォォ!? ど、どうやってこんな所に!?」

 

入れ替わり組の助教から判断するに、沖田総悟の魂が宿っているのが司波小百合で

神楽の魂が宿っているのは司波龍郎である。

 

恐らく二人共向こうの地球にいるのだろうと思っていたのだがまさかこんな所までやって来てくれたとは……。

しかし一体どうやって? 深雪達が乗って来たあのラピュタにはいなかった筈、ならば別の宇宙船でここまで追いかけて来たというのか? 一体どうやってそんな事が? そもそも何故そういった手段でここに来る事になったのか?

次から次へと沸き上がる疑問が頭の中に浮かび、どれから尋ねればいいのかと新八が呆然と立ち尽くしていると、抱き合ってた沖田と神楽の方も彼等の存在に気づく。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 龍郎さんあの姿私達じゃないの!」

「おお! まさか私達の体に助けられる事になるとは! おいこっちだ! 早く私達を助け……!」

 

二人に向かって神楽がすぐに手を振って助けを求めようとすると……龍郎の方が突如ダッと彼等の方へ駆け出して

 

「私の体でそいつの体に抱きついてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「こやすッ!!」

「龍郎さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 

 

自分の体であるというのに容赦なく飛び蹴りを噛ます龍郎。モロに顔面に食らった神楽はそのまま蓮蓬達を道連れに後ろにぶっ飛んでしまった。

 

「こちとらただでさえおっさんの体になっちまったから滅茶苦茶イライラしてんだヨ! これ以上気色悪い光景見せるんじゃねぇゴラァァ!!」

「おのれ! あなたよくも龍郎さんを!」

 

ブチ切れた様子で叫びながらぶっ飛ばした神楽を追いかけに行く龍郎、夫を蹴飛ばされた事に腹を立てて沖田がすぐ様身を乗り出そうとするが

 

「おっと、テメェの相手は俺でぃ」

「な!」

 

自分の頭をガシッと鷲掴みにされ沖田は体が恐怖で固まってしまう。

恐る恐る振り返るとそこには見た目は自分の姿をしているが中身は全くの別人だとはっきりとわかる目をしている小百合の姿が。

 

「安心しろぃ、俺は元の世界では至って真面目で善良なるお巡りさんだ。手荒な真似はしねぇよ」

「い、一体私に何する気……!」

「いいからいいから、あんな旦那の事なんか忘れちまうぐらい楽しい事教えてやるよ俺が」

「へ!? い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 助けて龍郎さぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

嫌がる沖田にニヤリと笑いかけながら後ろ襟を掴みながらズルズルと引きずっていく小百合。

悲鳴を上げて必死に助けを求めている沖田を何処かへ連れて行く彼女に対し、味方だけでなく蓮蓬まで恐怖して即座に道を空け始めた。

 

その光景を新八は呆然と眺めている内に、彼等に何故ここにいるのかと尋ねる事さえ忘れてしまっていた。

 

「何これ? 頼もしい戦力二人来たと思ったら一人は自分の体蹴り飛ばして、もう一人は自分の体お持ち帰りしたんだけど……」

『ウォー!』

『よくわかんないのがいたけどとにかく勝つぞ!』

『勝つのは我々蓮蓬だ!』

「うお! ヤバい蓮蓬達がまた動き出した!!」

 

現れた司波夫婦と彼等の奇行にしばし固まっていた蓮蓬達が次々と動き出した事に新八は動揺する。

よくよく考えれば今自分の周りには誰もいない、これでは的が自分だけになってしまう。

 

「クソ! こんな時に銀さんが来てくれれば!!」

 

あの男なら、どんな状況でも覆せる力を持つあの坂田銀時がここにてくれればどれだけ頼りになるか……。

 

 

新八が歯がゆそうにそう呟いた時であった。

 

 

 

 

 

 

「あの男じゃなくて悪かったな」

「え?」

 

その男は音もなく自分の背後に現れた。

気品に満ちたオーラを纏いしその者は、右手に刀を左手に銃を携えて新八の隣にすっと立った。

 

「なるほど、アレが援軍か……あの二人があんな風になるとはな、こんな状況でも思わず笑ってしまいそうだ」

「あ、あなたは……!」

 

隣りに現れた人物に新八は目を見開く、何故ならそこにいたのは

 

「状況はこちらが明らかに劣勢、しかしまだ覆せる余地はあるぞ」

「た、達也さん!? いや将軍様!? 服装は将軍様で見た目は達也さんって一体どっち!?」

「両方だ」

 

現れたのは茂茂の様にも見えるが達也にも見える、彼の登場に新八が驚いていると彼は静かに返事をする。

 

「新八、俺はあのノートの最後のページの謎を解いた」

「ノート!? もしかしてあの!」

「あそこに書かれていた入れ替わり現象におけるイレギュラーは『融合』、入れ替わった者同士が真に心通わせることにより出来る究極の秘術だったんだ」

「融合!? てことはもしかして達也さん! アンタ将軍と!」

「そうだ今の俺は司波達也と徳川茂茂が合体し二人で一つの姿」

 

群がる蓮蓬達の足元に向けて銃口を向けると、その先から光線のようなモノが

 

「徳川達茂だ」

「!」

 

本当の助っ人、徳川達茂により放たれた魔弾は勢いよく飛び出し、蓮蓬達の足元にある床を抉る程の熱量で辺りを派手に吹っ飛ばしてしまう。

その手際の良さと威力に新八が言葉も出ぬ程ビビっている中、達茂は歩き出す。

 

「行くぞ新八、この戦をすぐに終わらせる為に将軍である余自ら敵の本陣へ乗り込む」

「あ、待ってください! 色々起こり過ぎて頭ん中パニクってるんですけどこれだけは教えてください!」

 

敵の本拠地へ向かおうとする達茂を前にして新八はすぐに我に返るとすぐ様呼び止める。

 

「銀さんは! 銀さんと深雪さんは大丈夫なんですか!? 妹さんの事はほおっておいていいんですか!?」

「……実の所本当は今すぐにでも深雪の所に行ってあげたい、だが今俺がやるべき事はアイツの元へ行く事じゃない」

『ぐ!』

『怯むな! 止めろ!』

『その男は危険だ!』

 

達茂は右手に持った刀を強く握り、峰討ちで次々と蓮蓬達を一撃でノシてしまう。

魔法だけでなく剣の腕まで強化されているらしい。

周りにいる敵を蹴散らしながら達茂は背後にいる新八の方へ振り向かずに

 

「俺がやるべき事は深雪が笑っていられる世界を護る事だ、そして深雪は今俺に護られる必要はない、何故なら」

 

団体に銃を構え再び撃ち出すと、命中した敵の一人はグッタリとした様子でその場にガクリと頭を垂れて動かなくなってしまった。

相手の気力を奪うだけの非殺傷魔法、それらも操りながら達茂は本陣へ向けて走り出す。

 

 

「深雪は今あの男と、坂田銀時と共に入れ替わり装置の破壊へ向かっている」

「え、本当ですか!?」

 

走り出した達茂を必死に追いながら新八が驚く。

そして達茂は頭上から落ちて来た蓮蓬の奇襲部隊の方へ顔を上げ

 

「だからこそ俺はあの二人が戻ってくる為に、この戦場を完全に支配する」

『『『ぐぼぉぉ!!!』』』

「この将軍の首、容易く取れると思うでないぞ」

 

足を止めて一体ずつ正確に照準を合わせると、達茂は手の平から魔法式を彼等の背後に展開し、そこから光弾を撃ち発射させ次々と床に落としていく。

 

(す、凄い……蓮蓬達をまるで子供を相手にしてるかのように次々と……)

 

いとも容易く敵を倒していくその姿に新八が呆然としたまま見とれている中。

 

未だに数の多い蓮蓬軍に目をやりながらフッと笑った。

 

 

 

 

 

 

「深雪、銀さん、こっちはなんとかしてみせるからそっちは任せたぞ」

 

例え離れていようが想いは消えない、兄と妹は自分の道を選びそれぞれの戦いを始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




3章はひとまずこれで終わりです、次回から遂に最終章が幕開けです

それでは

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。