「どうやら上手く撒けた様だ、しかし蓮蓬と入れ替わった地球人の末路があんな事になるとはな」
ここは蓮蓬の母星の上層階、徳川茂茂は桂小太郎と共に無事に司波深雪達を連れて敵から一時的に逃れる事に成功した。
「三人共、ケガはないか」
「いや俺達より……」
倉庫らしき薄暗い部屋に隠れると、安否の確認を取る茂茂に対し深雪はジト目を向けながら
「テメーの身体の方を心配しろ! 何こんな連中の巣窟に入り込んでだコノヤロー! 言ったよね俺! 将軍の身体傷付けない為にも隠れてろって! 俺がお前の代わりに妹の身体護ってやっからって言ったよね俺!?」
「悪いが深雪を護れるのは俺だけだ、アンタ等に任せる事は出来ない」
「任せる任せない以前にテメーの身体が誰なのかぐらいキチンと把握しておけハゲ!」
「ハゲじゃない、マゲだ」
茂茂より背が低い深雪は顔を見上げながら彼に向かって抗議するも茂茂の方は終始無表情。
全く聞く耳持たない様子の彼に彼女はギリギリと歯ぎしりしながら
(なんてこった……コイツまさかここまで妹に対して固執してたなんて……なんなんだよコイツ、どんだけシスコンなんよ。司波深雪もヤバいと思ってたけどコイツもヤベぇじゃねぇか、けど何故だ……)
内心ドン引きしていた深雪だったが徐々に体に思いもよらぬ変化が
(なんでコイツに颯爽と助けられてきてから体の中が妙に火照っててんの!?)
「やだ、顔赤いわよ銀さん」
「どうしたの?」
「あ、赤くなんてなってねーよ!」
「いや誰がどう見ても真っ赤なんだけど」
何故か無性に体温が上がっている事に深雪自身訳が分からない様子。
そんな彼女に桂と雫がキョトンとした様子で尋ねるが深雪は必死に否定するがどう見ても熱く火照っている。
「ちくしょうどうなってんだコレ……コイツが来たら色々とマズイってわかってるのに、何故かお兄様が来てくれて無性に嬉しいと思えて来ちまうこの感情はなんだ……!」
「銀さん、それはきっと恋だよ」
「お前いつの間に俺の背後に!?」
小声でボソボソと独り言を呟いていた深雪にそっと後ろから近付いて助言してきたのは光井ほのか、彼女は何故かこちらにグッと親指を立てて
「深雪がいない今がチャンスだよ」
「コイツだけ蓮蓬の所に置き去りにしとけば良かった、もしくはこの場で抹殺したい」
腹の立つドヤ顔を浮かべるほのかに深雪はイラッと来ながらそう呟くと、再び茂茂の方へ向き直る。
「おいお兄様、お前がいたら迷惑なんだよ。送ってやるからさっさと船に戻れ」
「ん? ここからどうやって引き返すというんだ、ここは上層部だ、連中が隠し持ってる物もあるかもしれないのに」
「じゃあそれは俺等でぶっ壊しておくから、ここで身を潜めて隠れててくれませんかね?」
「慣れないその身体でどう戦うというんだ、こっから出てもまた連中から追われ続けるだけだぞ」
「うっせーないいから隠れろって! 深雪さんはお兄様の身体が心配……は!」
将軍の身体ではなくその中にある司波達也の方の身を案じているような感情が芽生え始めていた事に気づき、突如深雪は部屋の壁の方に移動して腰を後ろに反らすと
「消えろ俺の中の司波深雪! 消えろ俺の中のこの感情! カムバック坂田銀時!!」
「銀さん本当にどうしたの?」
「自分の気持ちに気づいて銀さん!」
「お前頼むから黙れ300円上げるから!」
余計な感情を消し去るかのように壁に向かって何度も頭を突きつける深雪。
しかし不思議に思ってる桂と拳をグッと固めて謎のエールを送るほのかをよそに、茂茂がそっと背後から近づいて彼女を羽交い絞めにする。
「深雪の身体を傷つけないでくれと言っただろう、それにそんな音を立ててると奴等に気づかれるぞ」
「うるさいバカ兄貴! セクハラしないで下さい変態! 訴えますよ!」
「深雪じゃなくて別の人になってるような気がする」
茂茂に体を触らせてとち狂ったように叫びながらもがく深雪に雫が珍しくツッコミを入れていると、何やら深雪の様子に勘付いたのか茂茂は彼女から手を離してアゴに手を当てて観察する。
「どうやら入れ替わった地球人が本当の蓮蓬と同じ思想に染まった様に。深雪と入れ替わった彼も精神の変化が起きているらしい」
「ええ、そんな! てことは私も!?」
冷静に状況を判断して見事な分析能力で原因を弾きだした茂茂。
そんな彼の言葉を聞いて桂は真っ青な表情で頭を両手で押さえて
「てことは私もいずれ桂さんの様に国家転覆を狙う恐れ多いかつ崇高な志を持った素晴らしき攘夷志士に成り果ててしまうというの!?」
「安心して下さい、七草会長はもうとっくに引き返せない所まで堕ちてます。もはや俺の知る会長は死にました」
静かにツッコミを桂に言った後、茂茂は考える。
「七草会長といい精神の変化にはそれぞれ個人差があるようだな」
「じゃあお兄さんは大丈夫なんですか?」
「俺はまだ大丈夫の様だ、強いて言うなら向こうの世界に置いて来た将軍の妹の事が少々心配になっているぐらいだな」
心配するほのかに茂茂は優しく答える。確かに彼自身も自覚していなかったが微量な変化があった事に気付いた。どうやらこの入れ替わり現象、一筋縄ではいかないらしい。
「しかしこのままだと身体に精神を乗っ取られ完全に徳川茂茂になってしまうかもしれない。そちらもな」
「誰がテメェの妹になんざ成り果てるか! 俺は坂田銀時だ! 誰の色にも染まらねぇ!!」
話を振られ、ムキになった様子で答えながら深雪は茂茂にチッと舌打ちする。
「時間がねぇって事ならここで不毛な争い続けている訳にはいかねぇ、仕方ねぇから俺についてくる事を許可してやるよお兄様」
「元よりそのつもりだ、それより入れ替わり装置が何処にあるのか当てがあるのか」
「あ? ねぇよそんなの」
手に持った木刀で自分の肩をトントンと叩きながら深雪はニヤリと笑う。
「こちとら何事もその場その場の土壇場勝負よ、場所がわからねぇなら敵に聞けばいいんだよ」
そう言いながら深雪はふと一つ気になった事があった。
「そういやお前、どうやって坂本達を出し抜いてここまで来たんだ」
「ああ、桂さんと七草会長が上手く手引きしてくれたおかげだ」
「ヅラとコイツが?」
ここまで来れた経緯を茂茂から聞いて深雪は口をへの字にして桂の方へ振り向く。
「てことはコイツ等100%何か企んでやがるな」
「フハハハハ! 何を言うんですか銀さん! このような非常事態となれば攘夷志士も将軍も関係ありません! 仲良く手を取り合って奴等に天誅を食らわせましょう!!」
「おいお兄様、コイツには絶対隙見せるなコイツ喋り方まで段々ヅラになってきてるから。もう完全に攘夷志士だから寝首掻かれるぞ、なんなら今の内に殺した方がいいんじゃねぇか?」
「わかってる、アンタ達の世界から出発する時点で七草会長はもう俺の知ってる人ではないとしっかり理解しているからな」
高笑いをしながら豪語する桂だが深雪と茂茂は全く信用していない様子。
かくして多少の不安要素はあるものの、深雪達一行は将軍と裏切り要員を連れて上層部の探索を開始するのであった。
その頃、本物の将軍である方の司波達也はというと、本物の攘夷志士である方の七草真由美と共に中層部の奥へと進んで行っていた。
「見ろ桂、この辺には敵らしき者達が見当たらない。奥へ進むべきだろうか」
「案ずるな将軍、きっと蓮蓬の者達はランチタイムなのであろう。さあこの隙に奥へと進んで装置を破壊しに行こうではないか」
「うむ」
蓮蓬軍の姿が無い今を好機と捉えて真由美は達也をどんどん奥へと進ませ自分も後に続く。
「達也殿が妹を護る為に向かっていった、ならば我々も我々の目的を果たさねばならぬ、こちらの世界も負けじと向こうの者達に遅れを取ってはいかぬからな」
「さすがは俺達の国の将軍だ。その勇気を賞賛してこの桂小太郎、地獄の果てまでついて行ってやろう」
調子の良い事を言いながら達也をさらに人気の少ない方向へ誘導させていく真由美。背後か彼の後をついて行く彼女の表情には不敵な笑みが
(クックック、愚かなり将軍。達也殿はともかく貴様であれば容易に討ち取れる事ぐらい既に我々攘夷志士は見切っている、達也殿を真由美殿の協力で分断させたのも狙いの一つよ。誰もいないこの階層で事故死を装って葬ってくれるわ……)
彼女の狙いは地球を飛び立つ前からずっと実行しようとしていた将軍の暗殺。やはりまだ諦めていなかった様子で彼等を上手く口車に乗せて(少なくとも本人達はそう思っている)、皆がいない所で将軍を謀殺しようと企んでいたのだ。
「背中が隙だらけだぞ将軍……覚悟!」
こちらに背を向け進んでいく達也に向かって、手首にはめたCADが正常なのを確認して魔法式を展開しようとする真由美、だが
「くおらぁ! 何やらかそうとしてんだ貴様ァァァァァァ!!!」
「どぉふぅ!!!」
背後からの突然の奇襲。真由美の後頭部に飛び蹴りをかまして彼女を前のめりに床に激突させた。
それは陸奥から要請を受けて将軍と攘夷志士の追跡を行っていた
「今将軍に向かって何をぶっ放そうとした桂ァ!!」
「あれ? どうしたのだ摩利殿、こんな危険区域まで来ては危ないではないか」
「そんな危険地区に狡猾に将軍をノコノコ連れて行ったのはどこのどいつだ!!」
後頭部を押さえながら上体を起こしてこちらに振り返って来た真由美に叫んだのは蹴りを入れた張本人である渡辺摩利だった。
どうやら船に桂と真由美がいない事を知ってすっ飛んで来たらしい。
ゼェゼェと荒い息を吐いている所から察するに相当走って来たのだと思われる。
「なんなんだろうなお前は……むしろそこまでして空気を読まずに将軍の命を狙おうとする所を逆に褒めてやりたい気分だよ」
「ハッハッハ、俺が何か良からぬ事でも企んでる様に見えるか摩利殿。俺はいつだって世界の為に一生懸命働いてるだけだぞ」
「世界の為とか都合の良い事言って……もうとっくにネタは上がってるんだからいい加減認めろ。それとお前の身柄は事が解決するまで船の倉庫に閉じ込める事が決定したぞ」
しらばっくれて上手く逃げようとする真由美だが摩利はあからさまに怪しい彼女を見逃さない、そして彼女が半ば拉致してこんな所まで連れ込んだ達也の方へ振り向き
「無事ですか将軍!」
「うむ」
やってきた彼女に達也が短く返事するとか摩利はとりあえずホッと胸を撫で下ろす。
「それなら結構ですがご自分の身をご理解して下さいよ。今頃貴方のお付きのボディガードも必死に探しているでしょうし。この様な所にまで迂闊に出歩いてはいけない方なんですよ貴方は」
「その事に関しては本当に済まないと思っている、そなた等の目を掻い潜ってこの様な真似をした事は後に全身全霊を持って詫びようと思っていた。だがそれでも理解してほしい、ただの置き物としてでなく余は一人の将として自らこの戦に参加したかったのだ」
彼女に対して深々と首を垂れると、達也は決意の込められた目で顔を上げた。
「この身体となってから様々な場所を旅した故にであろうか、二つの世界が共に手を取り合って挑むこの戦いを黙って見ている事などやはり出来ぬ。目の前で仲間達が死ぬかもしれない戦地に赴いている中でのうのうと生き延びようとなど、その様な重荷を背負う程の覚悟は持ち合わせておらぬ」
「……いずれそういう時が来る可能性があるんです、貴方はそういう身分に置かれている御方なんですから」
「余の首を狙いに来る者は決して少なくないからな、この先いつか桂か高杉か、死闘を繰り広げる大戦が待ってるやもしれぬ」
自分の行いがどれだけ愚かなのはわかっていた。大将首自らこの様な場所にまで出ているなど愚策もいい所だ、だがそれでも”司波達也の身体”だというのが影響しているのか。
今の将軍、徳川茂茂は妙に頑固になっている事が摩利にも見て取れた。
「だがその前に、この戦いにだけは参加させて欲しい、願わくば一人の将としてこの戦の終末を見届けたい」
「将軍様……」
もはや言っても聞かぬ様子、摩利はどうすればいいのかと困惑した様子で神妙な面持ちでいると
背後からコツコツと足音が聞こえて来た。
「どうも~」
「!」
不意に聞こえた呑気な声に彼女と真由美はバッと反応して達也の盾になるように身を翻す。
そこに立っていたのは
「初めまして異世界の人達~、ようこそ悪の巣窟へ~」
わざとらしく丁寧に彼等に向かって自己紹介したのは
「俺は宇宙海賊春雨の第七師団団長の神威」
宇宙海賊の幹部にして神楽の兄である神威であった。
「ああ大丈夫そんな警戒しなくていいから、俺はね、今からアンタ等を始末しようとか全然考えてないから、むしろ……」
そして笑顔を浮かべながら彼は早速警戒している様子の3人を見渡すと静かに歩み寄り始める
だが
「!!」
神威が彼女達に歩み寄ろうとしたその瞬間。
突如彼の首筋目掛けて鋭い刃がどこからともなく飛び出して伸びてきた。
「うおっと」
自分に向かって振るわれたのは一本の刀、そう認識したと同時に神威は上体を逸らしてギリギリ回避してバックステップ。
「やれやれ、まだやりあうつもりはなかったのに」
呑気にそう呟きながら神威はヒラリと真由美達から距離を取った。
彼と彼女達の間に突如現れた人物と対峙する様に。
それは赤い髪とマントをなびかせ、右手には日本刀を握る仮面をつけた人物。
鋭い眼光を仮面の奥から光らせ、将軍である達也を護らんが為に現れたその者を見て、摩利は怪訝そうな表情を浮かべる。
「……お前は、私達の味方か?」
「……勘違いすんな、俺はテメーの職務を全うする為に来ただけだ、俺はただの……」
神威に対して刀を突き付けたまま、こちらに振り向かずぶっきらぼうに仮面の人物は答える。
声からしてまだ若い少女の様にも聞こえる。少なくとも摩利達とはさほど年の離れて無さそうな感じ、しかしその喋り方はまるで数多の戦いを生き抜いてきた猛者の様に冷たく、力強い響きがあった。
そして彼女達に背を向け、仮面の少女はしっかりと目の前の脅威を見据えながら
「通りすがりのお巡りさんだ」
そう短く呟くと床を蹴って神威目掛けて飛び掛かるのであった。
達也達と謎の仮面少女が宇宙海賊の幹部と鉢合わせしてる一方では。
地下層にいた新八達は思わぬ助っ人である近藤勲率いる反乱軍と会合をしていた。
「そうか、まさか新八君達が俺達の為にこんな所まで来てくれていたなんて。あれ? てことはお妙さんもここに!?」
「来てないですよ」
「セーフ!!! 良かった! こんな身体になっちまった事を見られるのかとヒヤヒヤしたぜ!」
「いやビフォーもアフターもそんな変わってないですから心配しなくていいですよ」
上機嫌な様子でウホウホと叫ぶゴリラを前に新八は冷たくツッコミを入れる。
この目の前で毛深いゴリラこそその近藤勲その人だ。他の人と違い彼は何故かゴリラと体が入れ替わってる状態に
そして腰にチャンピオンベルトを巻いたもう一頭のゴリラがスッと腕を組みながら現れる。
近藤と同じくゴリラ被害者の一人である十文字克人だ。
「お妙というのは、近藤。お前が生涯愛し続けると誓った妻の事か?」
「おいクソゴリラァァァ! アンタ異世界の人になにウソ八百教えてんだコラ! いつウチの姉上がテメェの所に嫁いだぁ!!」
ゴリラなのに腕を組みながら落ち着いた風格と知的な雰囲気を醸し出す十文字。しかし近藤から下らぬ嘘を教え込まれていたらしい。
「なんだ貴様ぁ! まさか俺のベルトだけでなくお妙さんまで奪うつもりか! ベルトは奪われてもそれだけは絶対に許さん! もし奪い取るというのならもう一度俺と戦え!!」
「ハナっから姉上誰の者でもねぇよ!!」
「思い違いだ、俺はベルトを賭けて死に物狂いで戦えた強敵であるお前の強さの根源とやらを知っておきたいと思っただけだ」
ムキになって胸を叩いて威嚇する近藤に対し十文字は微動だにせずに口だけを動かす。
「それにしてもベルトよりも女が大事か。どうやらお前はまだまだ俺に対し本気を出していなかったようだな。ならば俺は俺の道を究めて再び相見えようか」
「さっきからこっちのゴリラやたらと喋り方カッコいいんですけど、ウチのゴリラと全然違うよ、声もイケメンだし……」
「心外だぞ新八君! ゴリラにカッコいいなんていらないんだ! 自然体でいる事こそゴリラなんだ! 俺なんかもう的確に人の顔面にウンコ投げる事だって出来るぐらいゴリラなんだぞ!!」
「ゴリラになれた代わりに人間としての尊厳を失いかけてるんだよアンタは、もう一生そのままゴリラとして生きていて下さい」
ゴリラの身体の影響で精神が浸食されている事に気づいていない様子の近藤に新八がツッコミを入れている中、十文字は新八達と同行していた坂田銀時の方へ振り返る。
「そちらの話は大体は聞かせてもらった。このしまりのない顔つきの男の中に俺の知る司波深雪の魂が宿っているのだな」
「そうです、私が司波深雪です」
「……司波が志村けんみたいな喋り方したのは気のせいか、言い方が変なおじさんと瓜二つだったぞ」
「気のせいじゃないネイケメンゴリラ」
入れ替わっているというのが本当なら銀時の中にいるのは自分が知っているあの司波深雪の筈。だが出会ってのっけからいきなりボケをかましてきた彼に対して十文字が少々困惑していると、銀時の隣にいた神楽が説明してあげる。
「ユッキーは今段々銀ちゃん化してきてるアル、このままだとどんどん深刻化して来て、終いには人前で堂々と鼻の穴に指突っ込んでハナクソほじり出す最低なおっさんに成り果てるんだヨ」
「恐ろしい事態だ、司馬達也がこの現状を見たらさすがに動揺は隠せないだろうな」
「何言ってんですか私のお兄様がこの程度の事で動揺する訳ないじゃないですか、寝言は寝て言えやこのゴリラ、壁にウンコ投げてろ」
「……本当に恐ろしい事態だ」
けだるそうにこっちを睨み付けながら彼女であれば絶対に言わないであろう台詞をなんの躊躇もなくぶつけて来る事に、十文字はますます心配になって来た。
「どうやら一刻も早くこちらも動かねばならん様だな、近藤」
「ああ、二つの世界の為、そして何よりお妙さんの為に俺達の身体を取り戻さねば」
十文字に促されて近藤は頷くと、毛深く太い腕を掲げて声高々に
「行くぞ野郎共ぉ! 今こそ俺達反乱軍が奴等に一泡吹かせてやろうじゃねぇかぁ!!!」
「「「「「おー!!!!!」」」」」
周りにいる蓮蓬達に向かって決起の合図を放つと皆一斉に立ち上がり、この時を待っていたと言わんばかりに咆哮を上げる。
正面衝突による戦いは近い。
と思いきや
「「え?」」
突然ゴリラ二人の頭上の天井がピシリとヒビが走ったと思いきや
激しい音を立てて一気に崩れ落ちてきたではないか
「「ぐおはぁぁぁぁ!!!」」
「ギャァァァァァ!! 今から戦いが始まるってタイミングで速攻大将格二人潰されたァァァァァ!!!」
ピンポイントに近藤と十文字目掛けて落ちた天井の瓦礫。
あまりにも突然の出来事にあっという間に潰されてしまった二人に驚いて飛び退く新八。
しかし新八は更に驚く事になる。
いきなり崩れ、落ちて来たその瓦礫の山の上にスタッと突如ある人物が落ちて来た。
「あり~? なんかきな臭いと思ったら化け物共がわんさかといるじゃねぇか、なんでテメーの巣窟なのにこんな所でコソコソと隠れてやがったんでぃ?」
「ってあれぇぇぇぇぇぇぇ!? あ、あなたは!!」
その者は自分達の世界にある江戸で見慣れた黒い制服を着た若き青年。
内面の腹黒さとは対照的に甘いフェイス
栗色の髪、仏頂面、腰には自慢の刀を差したその人物の名は
「お、お、お、沖田さぁぁぁぁぁぁぁん!?」
「あ、こりゃ旦那達じゃねぇですか。奇遇ですねこんな所で会うなんて」
現れたのは何を隠そう新八達の世界で泣く子も黙る警察組織、真撰組として活躍していた一番隊隊長・沖田総悟であった。
こんな辺境の宇宙でいきなり現れた事に新八が声を上げておったまげてる中でも、相変わらずすました顔で新八達万事屋に挨拶。
「つっても俺等はおたくらが乗ってた船にコッソリ入り込んでた口なんですが、そうですよね土方さん」
「フン、テメェ等バカ共の行動はお見通しだ」
「そ、その声はまさか!」
そして今度は彼の背後からまたしても意外な人物が……
Vの字ラインの前髪をなびかせ、沖田の背後からゆっくりと現れたその人物。
真撰組の頭脳・鬼の副長と呼ばれ敵だけでなく味方からも恐れられる……
「この鬼の副長である土方十四郎がおいそれと見逃すと思ったら大間違いだぜ」
「だぜ!?」
真撰組のナンバー2、土方十四郎ここに推参?