『今日開店したホストクラブ行ってみる?』
『えー今日だったの? 行く行く超行くー!』
『髪伸びたからそろそろイメチェンしてみようかなー』
『髪の毛三本しか生えてないのにどうイメチェンするの?』
『お前俺のはじめの一歩全巻そろそろ返せや!』
『あれ100巻以上あるから持ち運べねぇんだよ!』
その空間は蓮蓬の星の中を6割は有するであろうとてつもない広さであった。
かつての薄暗い雰囲気とは違い上には明るく照らす太陽の様な光が差し、住宅施設の様な物が立ち並んで住民たちの生活を安全確保している。
そんな中を見渡す限りに謎の生物エリザベスそっくりな生き物がわんさかとひしめき合い、顔を合わせてプラカードで談笑しながら歩いていた。
「……どういうことですか山崎さん」
「見ての通り之が俺たち蓮蓬と入れ替わった連中達さ」
そんな光景をこっそり隠れながら眺めているのは志村新八、そしてそれに答えるのは先程出会った蓮蓬に体を奪われた真撰組の密偵、山崎退
「最近じゃどんどん増えてもう一つの都市と化して来ているんだ」
「いやまあ確かにこの大きさだと江戸ぐらいはありそうですが、なんでみんな普通にあんな体でまったりと日常ライフ満喫してんですか?」
「あれが入れ替わった連中の末路なのさ」
新八が見る限り体を奪われた連中はみな楽しげな様子で歩いており誰も自分の体が入れ替わってしまっていることに絶望さえしていなかった。
心の底からこの生活に満足してるかのように生きている住民達に新八は恐怖さえ覚えていると山崎が話を続ける。
「入れ替わった人間は気づかない内に徐々に精神を蝕まれ、最終的にはあんな風に蓮蓬の体として生きて行くことになんの疑問も持たないようになるんだ」
「え!?」
「自分が元人間だというのはしっかり認知してはいるんだけど、それでもこの体として、蓮蓬として生きる事に抵抗感も見せずに順応していくんだ。そしてやがてはこの星の支配者の傀儡と成り果て完全なる蓮蓬に生まれ変わる」
「地球に送られた蓮蓬の方はどうなるんですか?」
「僕等と違って何も変化しないよ、蓮蓬の心を持ったまま国を滅ぼす。つまり奴等にはなんのデメリットもないんだ」
ここにいる者全てがかつての人間の心を持ち合わせていながら蓮蓬として生きる事になんの抵抗もないだと? 信じられない事実に新八が目を見開くと山崎は静かに答えた。
「『人類蓮蓬化計画』、これが奴等の本当の狙いだったんだ」
「恐ろしいってレベルじゃ済みませんよそれ……そんな情報一体どこから手に入れてきたんですか」
「こんな体でも俺は真撰組の密偵だよ、情報収集ぐらいお手のもんさ」
そう言って山崎はグッと短い腕を上げる。
「でもまさかやっと情報を伝えれる相手を見つけられて良かったよ新八君。もうここにいる者のほとんどが蓮蓬として生きる事になんの躊躇もない、僕等人類を助けれるのは自分の体を持っている君達だけなんだ」
「でもなんで山崎さんはまだ自分を保ったままでいられるんですか?」
「精神の変化は個人差があるみたいでね」
自分の世界の人達が蓮蓬と化し、そして蓮蓬と入れ替わった彼等もまたいずれは蓮蓬の傀儡となる。どうやら事態は思ったよりも深刻のようだ。
「変化の兆しが見えるのに数日かかる者もいれば、1時間足らずで変化してしまう者もいるんだ。俺は幸運な事にその変化の進行が遅い方らしい」
「不幸中の幸いってやつですね、おかげで僕等も衝撃的な事実を教えてもらえましたし」
「でも俺もいずれはああなるのさ」
そう言って山崎は隠れながら街中を楽しげに歩いている連中を見つめる。
「だから俺が正気を保ったままこの事実を誰かに伝えたかったんだ。奴等は俺達に剣を抜く暇さえ与えず無血で星という名の城を奪おうとしている事をね」
「山崎さん……あ!」
「ん? どうしたの?」
入れ替わると精神が蝕まれいずれは抵抗感も失う……その現象と似たようなものをつい最近感じた事を新八は思い出した。
「なんてことだ、やっぱり深雪さんが徐々に銀さんみたいになってきてるのはこうなる事の予兆だったんだ……!」
「え! まさか旦那も入れ替わってるっていうの!?」
「ええ、と言っても山崎さん達と違って銀さんは実験台として異世界の人間と体を入れ替えられたんですけど」
「異世界か、俺達もここに来てからその存在をはじめて知ったよ。異世界の人間と体を入れ替えるか、まさかそんな事もやっていたなんて……」
驚く山崎に新八は説明を続ける。
「出会ったばかりは見た目は銀さんでもおしとやかで優しい性格だったんですけど、徐々に銀さんみたいに粗暴になってきたりたまに死んだ魚のような目になっていたりと違和感を覚えるようになってました。桂さんと入れ替わった会長さんも最初は……いやあの人は最初からなんかおかしかったっけ、個人差によってやっぱ変化に順応するのが早かったのかな」
「旦那どころか桂まで!? なんてこったもしそうだとしたら俺達の様になるのも時間の問題だよ!」
時間が経つに連れ本来の体の持ち主である坂田銀時に似てきた深雪。もしかしたらと新八が頭の中に秘めていた仮説はそこで初めて事実だという事に気付いたのだ。
入れ替わった人間同士、その体に適応していき性格までも変わってしまう。山崎の言う通りだと最終的には……
「このまま進行するとやがては旦那と入れ替わったその人物も旦那の様になってしまう、頭の中では違うとわかっていても坂田銀時として生きて行くことになんの抵抗感も失せてしまうんだ」
「そういや銀さんの方も達也さんの事をお兄様って普通に呼んでいた……アレが変化の予兆だとするとこのままだと銀さんは逆に深雪さんっぽくなってしまう!」
遂に山崎の言う蓮蓬の本当の恐ろしさの正体について突き止めた新八、両手で頭を抱えるとあまりの恐ろしさに絶句の表情を浮かべる。
「そうなったらもうどっちを銀さんと呼ぶべきか深雪さんと呼ぶべきかわかんなくなるよ! ただでさえめんどくせぇ連中なのにこれ以上めんどくさくなったら! 早く二人の体を元に戻さないと!」
「あれ? ところで新八君、その旦那と体が入れ替わった人は今どこに?」
「え?」
この事実を早く伝えないという所でふと新八は山崎に尋ねられた。
新八は周りをキョロキョロと見渡すがそこには自分と山崎以外誰もいない。
「ええ!? 勝手にどこいったんだあの人! 神楽ちゃんまでいないし!」
「なんてこった生身の体のままこの辺をウロつくのは危険だ! 本物の蓮蓬に見られでもしたら間違いなく捕まる! 侵入者なんだろ君達は!」
「急いで探さないと!」
「待って新八君! そのままの状態で探すのは自殺行為だ!」
慌てて二人を探しに行こうとする新八の肩を強く掴んで止める山崎。
「街中にいる可能性もある、ここは変装して周りに悟られぬ様にコッソリ探そう」
「ああそうか! 前に僕等が蓮蓬に乗り込んだ時も蓮蓬に変装して潜り込んだんだ! いや僕は吹き出物だったけど……」
かつてここに来た時も蓮蓬の格好になって内部から探っていく作戦を行っていた。
その時はあんまりな扱いを受けていたので新八にとってはぶっちゃけ思い出したくもない事なのだがそんな事言ってる場合ではない。
「てことは僕も蓮蓬に変装すればいいですね、いやー前は銀さん達のおかげで散々な姿にされたから最悪だったんですけど、今回はさすがに完璧に変装出来ますよね」
「それが今ちょうど持ち合わせがなくてね」
「え?」
嬉しそうにそう言う新八に対し、山崎がひょいと両手に抱えたのは
「白ペンキと黒マジックしか無いからこれでうまく変装してくれない?」
「……」
どこかで見た事のある二つの道具を見て、新八の目は一瞬にして虚ろになった。
数分後、新八は山崎と一緒に堂々と街中を歩いていた。周りの連中は彼が現れてもなんの警戒もせずに通り過ぎていく。つまり新八の変装は完璧だと言うことだ。
全身をくまなく真っ白にコーティングし、真っ白なブリーフだけを履き、メガネには二つの黒い点をマジックで書かれている。これだとどっからどう見ても蓮蓬と瓜二つ……
「なわけあるかぁぁぁぁぁぁ!!!」
街の中心で新八は大きく叫ぶ。
「なんで誰も僕のこと怪しまないんだよ! また吹き出物としか認識されてないの!? 仮に吹き出物だとしてもなんで吹き出物単体で街中を歩いている事を受け入れてるんだコイツ等!!」
「新八君落ち着いて、そんなに叫ぶとバレるから」
「バレねぇよ! さっきからこうして歩いているのに誰も僕の事を怪しまないし! いっその事こいつ等はっ倒していきましょうか!?」
ブリーフ一丁で歩いてるのに誰も気付かない、というより存在そのものを認識していないのではないかというぐらいのスルーっぷりに間抜けな格好で新八がキレているのを山崎がなだめる。
「バレてないなら幸いだよ、さあ旦那達を探そう」
「わかりましたよ……しかし一体どこにいるんですかねあの二人……」
新八は辺りをうかがうがそれらしい人影は見当たらない、なにせ施設の中とは思えない広大な場所だ。何万、何十万人の人達が住んでいるこのスペースで一体どこから探せばいいのやら……。
そう思っているとふとこんな場所にとある店がある事に気付いた。
「パチンコ屋まであるんですかここ……ホント一体何の目的でこんなモンまで作ったんですか連中は」
「多分ここにいる連中が要望して建ててもらったんだと思うよ、そうやって望むものを与えて自分達は何も危害を与えるつもりはないとアピールしているんだ」
「だからって宇宙まで来てパチンコするような奴が一体どこに……」
呆れた様子で目の前に現れたパチンコ店に新八が顔をしかめながらふと店の中を覗いて見ると
「……山崎さん見つけました」
「え、何を?」
「宇宙まで来てパチンコ打ってるバカです」
死んだ目をした新八の視線の先には
新八が店内を覗いていると、周りの蓮蓬達がジャラジャラ音を出しながら白熱している中で、一人だけ銀髪天然パーマの頭をした蓮蓬がそこにいた。パチンコ台の前に座って死んだ魚のような目で画面を見ている。
「あ、連チャン来た、ヤベェですね当たり台確定ですわこれは」
「ユッキー箱持ってきたヨー、どうアルか酢こんぶと取り替えれるぐらいまで玉出たアルか?」
「大丈夫ですよ神楽さん、酢こんぶどころか毎日卵かけご飯食い放題ですよこんだけ出れば」
天パの蓮蓬の傍にチャイナ風のぼんぼんを頭に二つ付けた蓮蓬が玉を入れる為の箱を持ってやってきた。
「いやこれマジでヤベーですよ止まらねーですよ。もう終わらないんじゃすかこれ? ラオウまた昇天しちゃうんじゃないですかコレ?」
「ユッキーもうそろそろ行った方がいいかもしれないネ、きっと新八の事だから私達の事探してる筈アル」
「もうちょっとだけ待ってもらえません? 数時間ぐらい。もうこれ完全に幸運の女神が舞い降りてるんで絶対、もうコレ逃したら次は無いってぐらいフィーバーしてるんで。おおまたラオウやっつけましたよ! うっしゃぁぁぁぁぁぁ!!! もうこれ閉店までやるしかねぇぇぇぇぇ!!!」
再び連チャンが始まったのか思わず席から立ち上がって天に向かってガッツポーズを掲げるテンパの蓮蓬。しかし
「やるしかねぇじゃねぇぇぇぇぇぇッ!!!」
「はやみんッ!!」
そんな彼の頭上に店の中に入ってきた新八が思い切り踵落しを決める。
「なに世界の危機に敵の船でパチンコ打ってんだアンタぁ!! 完全に目的どころか自分さえ見失ってるよこの人!!」
「あれ? なんで白塗りブリーフになってんですか新八さん? よくそんな恥ずかしい格好でいられますね」
「うるせぇ! 今のお前の方がずっと恥晒してるよ!!」
頭押さえながら黄色いクチバシの中から顔を覗かせたのは坂田銀時。どうやら新八同様変装して上手く潜り込んでいたらしい。そして彼と一緒にいたぼんぼん付けたこの蓮蓬も。
「神楽ちゃん勝手に深雪さん連れ回さないでよ、この人実は思ったよりヤバイ事になってんだからね! 頭の方が!」
「神楽じゃねぇよ、グラザベスだヨ、私の吹き出物の分際で指図すんなコラァ」
「誰が吹き出物だ!」
グラザベスこと神楽に向かって新八が叫んでいると、一緒に店に入ってきた山崎が遠回しに銀時を観察する。
「どうやら思った以上に侵食してるみたいだね、ここまでいくといずれ旦那になるのもそう遠くは無い」
「どうすればいいんですか山崎さん! 早く対処しないと達也さんこれ見たら失神しますよ!」
「大丈夫だよ、まだ打つ手はある」
安心させるようにそう言って山崎はパニック状態の新八を落ち着かせる。
「新八君、俺達蓮蓬と入れ替わってしまった連中は三つの階層に分かれて隔離されている。上の階は完全に蓮蓬となってしまったもののいる階層、下の階はまだ自分でいられる者が収容されている場所、そしてここは三つの中の丁度真ん中、蓮蓬という体に徐々に適合されてきた人達がいる階層なんだ」
「え?じゃあまだ蓮蓬に染まりきってない山崎さんは何故ここに?」
「俺はスパイとしてここに送り込まれてきたんだ。情報を探ろうとしてたら偶然君達に会ったって訳」
周りに聞こえぬよう声を小さくしながら山崎は話を続けた。
「俺が本来いるべき場所はこの下、未だ自分の事を保っていられる者のいる階層だ」
「てことはこの下に山崎さんのように自分でいられる人達が集められてるんですね」
「ここよりずっと酷い環境だけどね、けどそこには新八君の味方になってくれる人達がいる」
「それって!」
「そう、俺達は蓮蓬の体になってもこの侍の魂だけは連中に消させない」
そう言って山崎はドンと自分の胸を力強く叩く。
「エレベーターに乗って下の階に行こう、そこには共に蓮蓬を打ち倒そうと虎視眈々と計画している反乱軍がいるんだ、無論そこには俺達真撰組もいる」
「反乱軍……!」
思わぬ所で見つけた頼もしい味方達。
体を奪われても心と誇りは譲らない
地球人の戦いが始まる。
一方その頃、山崎と同じく蓮蓬と化した森崎駿に案内させられて司波深雪達はエレベーターの前へと来ていた。
「これに乗ればすぐです、司波さん」
「あちこち歩かせやがって、それにしてもなんでこんな蓮蓬の連中は見当たらねぇんだ」
「今はほとんどが地球に出払っているとかで、米堕卿の護衛をしている隊ぐらいしかいないんですよ」
「米堕卿ねぇ……ありゃ完全に殺った筈なんだけどな、しぶてぇ野郎だ全く」
エレベーター前で森崎がそんな会話をしているとチンと音を鳴らしてエレベーターのドアが開いた。
森崎の大きな体でも十分に入り、三人も後を追って中へと入った。
「米堕卿とかいうのがこの星で一番偉い人なの?」
「偉いっつうか星そのものだな」
ふと隣から尋ねてきた光井ほのかに深雪は簡単に説明する。
「米堕卿っつうのも実際はこの星の中枢システムのSAGIって奴の傀儡なんだよ」
「この星そのものと相手しなきゃならないんだ……」
「前もやっつけたし今回もなんとかなるだろ」
安直にそう答えているとほのかとは反対方向に立っていた北山雫はふとエレベーターの目的地がどこか見上げる。
「上の階に行ってる?」
「……」
顔を上げたままぼそっと尋ねる雫の声が聞こえなかったのか森崎は無言。しばらくして再びチンと音を鳴らしてドアが開いた。
「……着きました、僕等と同じく入れ替わった人達が収監されている施設です」
「おいおい、随分と薄暗い場所だな」
「なんか気味悪いね……」
森崎をエレベーターに残して深雪を先頭に三人はその施設とやらに入ってみる。
「チッ、ホント暗くて前が見えやしねぇ、おい、このまま奥行けばいいのかエロ崎」
「……」
「?」
後ろにいる森崎が尋ねても無言だったので深雪が振り返ろうとしたその時。
突如電源のスイッチが入ったかのように彼女達のいる場所が明るくなった、そして視界が晴れて見えたものは
「コレは!」
「変なのがいっぱい」
「どういうこと……!」
数十人はいるであろう武装した蓮蓬がいつの間にか自分達を取り囲んでいる光景だった。
皆銃口をこちらに突き付け、いつでも打てる構えを取っていた。
「……おいエロ崎、コイツはいったい何の真似だ」
「……」
振り返って深雪がドスの低い声で尋ねると、エレベーターから出てきた森崎は無言のまま懐から
『残念だったな反逆者よ』
取り出したのは会話を用いない蓮蓬が常備しているプラカード。
『我々は蓮蓬として生きる事を選んだ者達だ、ここに貴様等の戯言を聞くような愚か者はおらん』
「蓮蓬として生きる……?」
「……なんだか様子がおかしい」
先程までの様子とは打って変わった態度を取る森崎に深雪と雫が異変を感じていると。
「銀さん! 雫!」
前方を見ていたほのかが慌てて指を差す、二人はすぐにそちらのほうへ振り返ると。
取り囲んでいる蓮蓬の連中が空けていた隙間に、シュコーという音を鳴らしながら一人の真っ黒な蓮蓬が入ってきた。
真っ黒な体とマントと兜、それを見て深雪はハッとした表情で目を見開く。
「米堕卿……!」
「あ、あれが米堕卿!?」
現れたのは先程ほのかに話していたかつての支配者、米堕卿であった。
何の前触れもなしに突然現れた事に深雪とほのかが驚いていると、米堕卿もまた他の蓮蓬と同じくプラカードを取り出す。
『よく来たな、愚かな地球人共よ』
言葉を用いないが彼から発せられる威圧感は凄まじかった。
『せっかくの客人だ、盛大に歓迎してやろう。だがその前に』
『降参か、死か、この場で選ぶがいい』
最悪な二者択一が深雪達に迫られる