英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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75話

「終身クィディッチ禁止!?」

 クィディッチシーズン一戦目の対スリザリン戦が終わり、勝利したにも関わらず打ちひしがれている彼らの理由がそれだった。グリフィンドールチームからクィディッチ終身禁止令が出されたのは、何と三人。ハリーにジョージ、それにフレッドだった。

 

「そうよ、何もしてないフレッドまで!」と悔しさを露わにするアンジェリーナだったが、「止められてなかったら、俺もマルフォイを殴りに行ってた」と言うフレッドの肩に、ジョージがポンと手をかけた。

 

 その場に居合わせなかったオーシャンが、ギリギリと爪を噛んだ。

「そんな事まで仕組んでくるなんて、あの女……。そもそも状況的には、スリザリン生全員が悪いじゃないの……理不尽がすぎるわ……」

 

 今朝から悪い予感はしていたのだ。スリザリンだけではなく、ちらほらと他寮の生徒までが全員揃いの悪趣味バッジを付けていた時点で。

 

 オーシャンも当初、今日の試合を見に行っていた。スリザリンの生徒が『ウィーズリーは我が王者』とかいう最悪極まりない歌を大合唱しているあの場に、居合わせた。

 

 歌っている全員を呪い殺してやろうとしていたオーシャンを何とか押しとどめていたのは、隣に座るハーマイオニーだった。今日あのスタンドで死者が一人も出なかったのは、彼女のおかげに他ならない。

 

 しかし死者は出なかったものの、怒りが振り切れたオーシャンの魔法は、またしても本人の意図せず観客席を陥没させるという事故を起こした。

 

 結果として試合は一時中断。先生達総出で観客席を直している間、オーシャンは鬼気迫る様子のマクゴナガル先生に観客スタンドから追放された。

 普段のマクゴナガル先生であればしないような乱暴な措置だったが、ハリーは今朝、先生から『死ぬ気で勝て』と遠回しに言われたそうだし、グリフィンドールの寮杯がかかった大事な時期にこれ以上の邪魔は許さぬと言う意味だろう。

 

 そんなわけで、ハリー達があの狸女――アンブリッジにクィディッチを奪われようとしているとは夢にも思わず、オーシャンは一人寮に戻り、談話室の暖炉の前でぬくぬくとやっていたわけだ。

 悔しさに顔を歪めるアンジェリーナの前で、オーシャンはがくりと膝を折った。

 

「ごめんなさい、アンジェリーナ……! 私があの女にもっと目を光らせていれば……!」

 アンジェリーナはオーシャンの手を取る。

「顔を上げて、オーシャン。……誰が悪い訳でも無いわよ。卑怯なスリザリンとアンブリッジ以外はね」

 

 そして彼女は、自身とグリフィンドールを鼓舞する様に立ち上がって言った。

「さあ、これから忙しくなるわよ。グリフィンドールチームの選抜と再編成! まさかこの寮には、こんなアクシデントでみすみす寮杯を逃す軟弱者しかいないのかしら!?」

 

 アンジェリーナの言葉に、それまで沈んでいた談話室全体がざわついた。ハリーとフレッド、ジョージに代わるシーカーとビーターを選ぼうと言うのだ。親友の頼もしい一言に、オーシャンは微笑んだ。

「それでこそ、私が好きなアンジェリーナだわ」

 それを聞いて、アンジェリーナはウインクして見せた。

 

 *

 

 ハグリッドが帰ってきたと言う。

 その嬉しいニュースを聞いたのは、月曜の朝食の席での事だった。

 聞いたと言うより、気付いたと言った方が正確だろうか。

 教職員席に今までいなかったハグリッドの姿を見つけて、広間全体が生徒達の噂話でさんざめいていた。何せ彼の顔は、酷い傷だらけの見ていられない有様だったのだ。

 

 アンジェリーナ達も久々に見たハグリッドのその姿には驚いていた様で、土曜から続いていたクィディッチチームの新選手選抜の日程の議論も忘れていた。女子三人が額を寄せ合う。

 

「酷いわ、あの顔」「何かあったのかしら」「違法なドラゴンでも飼ってるの?」「だから学校に来られなかったの?」

 思い思いの想像を語る彼女達に、オーシャンはさりげなく混ざり込む。

「可哀想に……この『休暇中』に何があったのかは知らないけど、痛々しい姿ね」

 

 言いながら、つ、と近くに席を取ったハリー、ロン、ハーマイオニーの三人を見ると、彼らは夢中で何やら話し合っていて、こちらの視線にも気付かなかった。

 あの三人がそこまで熱中する程の情報。噂話、なわけは当然無いから、恐らく彼の『休暇中の出来事』の話だろう。

 

 だとすると、もしかしてもう『旅行先』あるいは『そこで起きた出来事』の話も、彼自身に聞いたのかもしれない。なんにせよ、オーシャンに必要があれば、後輩達が教えてくれるだろう。今は、余計な憶測を呼ばない事の方が重要か。

 

「『――』みたいね」

 近くにいる者のみに聞こえるよう、呟くように、しかしはっきりとその言葉を口にする。案の定、アンジェリーナとフレッドが食いついた。

「『――』ってなんだよ?」

 

「日本の妖怪の一種よ。まあ、妖怪というよりは『噂話』が一人歩きして形を取った都市伝説に近いのだけれども」

 そこで一旦区切り、音を立てずにジュースを啜りつつ、自分の言葉の効果を確かめる。思った通り、これまで聞いたことの無かった日本の情報に、アンジェリーナとフレッドだけではなく、ジョージやアリシア、ケイティまでもが手を止めている。こちらを見つめるその瞳は、話の続きを促している様だ。

 

「昔日本に、列車に轢かれて亡くなった女の子がいたの」

 話し始めると、その内容に三人ともが同じ表情を見せた。眉を顰めて息を飲む。

「胴体を切断されて、命が潰えるまでの短い時間、上半身だけで助けを求めて這いずり回ったらしいわ」

 

 アンジェリーナは思わず、自分の胴体を両腕で抱きしめた。まるでそこが繋がっている事を確かめる様に。

「車輪に足を巻き込まれて、胸から下を無理矢理引きちぎられたのだもの。想像を絶する痛みよね。後悔も怨念も無く、その痛みだけ感じながら死んでしまった女の子は、彼女が息絶えた黄昏時になると人里に現れて、残った二本の腕を足のように使って歩き回るらしいの」

 

 所謂『怖い話』を語るのは得意では無いオーシャンだったが、その語り口は存外に効いたらしい。みんな顔色がみるみる青くなっていく。ジョージが口を上滑りさせながら聞いた。

「んな……なんで、腕でなんて歩き回るんだ? な、何か探してんのか……」

 オーシャンがにこりと笑って口にした回答は、彼らの食欲を一気に奪った。

「もちろん、下半身よ」

 

 

 

 

 

 オーシャンの語った『都市伝説』は面白い様に広がった。噂話が大好きな生徒達のために付け加えた情報が、狙い通り彼らに切迫した当事者意識を持たせたらしい。――

『この名前を聞いた者のところに、ソレは必ず現れる』

 

 

 

 

 

「『――』って知ってる?」

「聞いた。下半身を食いちぎられた女の人なんだろう?」

「道連れにするために、若い男を狙うんだって」

「『ポマード』って言うと消えるらしい」

 

 早くも加えられた尾ひれは留まるところを知らない。『ポマード』などは確か別の都市伝説の情報だったと思うが、果たしてどこから出てきたのやら。

 

 新たな噂話が潮騒のように飛び交っている廊下を歩く。

 新たな噂話は、生徒達のハグリッドに対する興味を失わせた。思惑通りに事が運んだ事にオーシャンが内心ほくそ笑んでいると、見知ったつま先に行き会った。

 顔を上げると、今日も威厳をたっぷりと湛えたマクゴナガル先生であった。

 

「マクゴナガル先生、こんにちは」

 いつもの様に挨拶をすると先生は、いつもより少し、すました顔で挨拶を返した。

「ええ、こんにちは。ウエノ――今から少しお茶をする所です。あなたもどうですか」

 

 きょとん、と目を丸くする。そして、頭の中の奥深い所が警報を鳴らす。

「非常に残念ですが、急いでおりますので――」そう早口に言って手刀を切りながら先生の脇を通り抜けようとする。が、無論、その様な事は無理だった。

 見えない力に襟首をつかまれ、「遠慮せずにいらっしゃい」と強引に引きずられていく。

 

 変身術の教室の奥にあるマクゴナガル先生の事務所に到着すると、先生は魔法でドアをバタンと締めて鍵をかけ、こちらを振り向きながら言った。

「――それで、事実無根の噂話を学校中に垂れ流したお気持ちをはどうですか、ウエノ」

 

 

 

 

 

 

 

 オーシャンが流した都市伝説のお陰で生徒達が恐怖しているのはもちろんのこと、特に低学年のクラスに関しては、授業がまともに進まない程らしい。

 それについてたっぷりと叱られ、この二週間、毎夜マクゴナガル先生のお説教を受けるという『罰則』を受けた。

 

 おかげで数回、DAの集会がある日に全く身動きが封じられてしまったし、毎日眠りにつく前に必ず説教を受けなければいけないという生活は、クリスマスを前にしてオーシャンの精神力を限りなくゼロにしていた。

 早急な回復魔法が必要だ。

 

 

 

 

 十二月が訪れて、城内はクリスマスの装飾で彩られた。キラキラとした城の中とは対照的に、ハリーは連日の宿題とクィディッチができないストレスで今にも潰れてしまいそうだった。

 

「大丈夫? あまり根を詰めない方がいいわよ」

 人狼に関する書籍(ハーマイオニーの協力の下、翻訳済み)を片手に心配そうに後輩を見つめたオーシャンに、ハリーはテーブルに突っ伏して珍しく弱音を吐いて見せた。

「も~、これほど城から出たかった事ってないよ……」

 

 数々のストレスに襲われているハリーの唯一の捌け口がDA会合だった訳だが、クリスマス休暇で大半の生徒が帰宅するとなれば、会合も一時中断せざるを得ない。ハーマイオニーは両親とスキーに行くというし、ロン達ウィーズリーの兄弟も『隠れ穴』へ帰る。一緒にテーブルを囲むロンも、気遣わしげな視線を送った。

 

「――仕方ないわよ。二人きりのクリスマスも悪くないわ、きっと」

 例年通りクリスマスは留守番組に名前を書いているオーシャンが、ハリーを慰める。しかし、きょとんとして異論を唱えたのはロンだった。

「何言ってるんだよ。ハリーは僕と一緒に帰るんだよ」

 

 今度はオーシャンとハリーの方が目を丸くする番だった。ハリーの顔を見て、ロンは『やだなぁ』と言うように彼の肩を小突く。

「君も初めて聞く様な顔するなよ。何週間も前に、ママから招待するように手紙がきたって言ったろう? 今年はウチで、クリスマスパーティだ!」

 

 親友からそう聞いてハリーが顔を晴らせば、今度はオーシャンが眉尻を下げる番だった。

 口では「良かったわね」といつもの言葉が出るものの、やはり留守番仲間だと思っていた者がいなくなるのは、寂しい。かと言って自分もお邪魔したいと言い出せば、突然の定員増加に頭を悩ませるのはウィーズリーおばさんの方だろう。のんきな子供達と違って、親御さんに迷惑はかけたくない。

 

 ページをめくりながらオーシャンは、休暇中の計画を立てなくちゃね、と静かに微笑んだ。

 





久しぶり過ぎて剥げそう!!読んでくださる皆さま、原作者さま、ほんっっっっとぉぉぉ~~~~にありがとうございます!

改めてハリー・ポッターが好きですし、ホグワーツが好きですし、何より書き始めた当初より自分がオーシャン・ウェーンを好きになっていてビックリしました!

今年、2023年はSwitchでハリポタゲームが発売予定ですね。
オーシャン・ウェーンでやるか上野三郎(魔法が使える世界線)でやるか悩みます

エタりぎみでも温かいコメントをくださる読者様、本当にありがとうございます!あなたのおかげで書けました!!
亀もビックリな更新速度ですが、引き続きゆるりとお付き合いいただけると幸いです

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