英語ができない魔法使い   作:おべん・チャラー

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3話

ホグワーツ城はクリスマスムード一色だった。大広間には本物のもみの木のクリスマスツリーが飾られた。

 

明日からクリスマス休暇に入る。学期終わりのまとまった休みには日本に帰国するオーシャンだが、クリスマスの短い休暇でそれが叶う訳もなく、寮での居残り組に名前を書いた。

 

今年は双子のウィーズリーに加えその弟のロン、兄のパーシー、ハリーも寮に残る事になっていたので、思っていたより楽しい休暇になりそうだ。

 

すきま風で冷えている廊下をオーシャンが歩いていると、ハリーとロンとハグリッドが立ち止まっていたので声をかけた。するとハグリッドの影に隠れていた、スリザリンの生徒と目があった。

 

「あら、ごめんなさい。お邪魔しちゃったわね」

オーシャンがそう言うと、そのスリザリン生が慇懃な態度でオーシャンに言った。

「お前は…グリフィンドールにいる日本人だな。日本では未だに洞穴で暮らしているんだろう?グリフィンドールに集まる連中はみんな飛んだ田舎者だな」

 

「なにをっ…」とハリーが声を荒げたのを制して、オーシャンはスリザリン生に言った。「だからどうしたというの?」

もちろんオーシャンは日本で洞穴になど暮らしてはいないが。

 

「私たちの生活レベルを心配してくれているのね。でも大丈夫、心配ないわ。だって貴方達には関係無いんですもの」

ね、とハリーとロン、ハグリッドに目配せして、オーシャンは笑った。

 

「日本には「嫌よ嫌よも、好きのうち」という言葉があってね?」

「それが何だと言うんだ?」

スリザリンの少年はいきり立ったが、オーシャンは「さぁ、それ以上は自分で考えて?」と言い残して、他の3人を連れて大広間へ向かった。

 

ロンはオーシャンの隣を歩きながら憤懣仕方がない様だった。

「マルフォイって、ほんと嫌なやつ!」

「マルフォイって、さっきの子?」オーシャンが聞くと、ハリーが補足した。

「ドラコ・マルフォイ。この学校で一番憎たらしい奴さ。いつも僕たちに突っかかってくるんだ」

オーシャンが「貴方達と友達になりたいんじゃない?」というとハリー、ロンに加えてハグリッドまでもが「まさか!」と言った。

 

「Ms.ウエノ。気持ちが悪くなる冗談は止してくれよ」とロン。

「僕たちをこきおろして、楽しんでるだけなんだ」とハリー。

「オーシャン、アイツはただ根性がネジ曲がっとるだけよ」とハグリッド。ハグリッドがここまで言うのは、珍しい。オーシャンは英国流に、肩をすくめた。

 

大広間に着くとハグリッドが持っていた大きなもみの木をマクゴナガル先生とフリットウィック先生に渡し、オーシャンとハリー、ロンは席について本を読んでいたハーマイオニーに近づいた。

 

ハリーがハーマイオニーに言った。「ニコラス・フラメルについて、何か分かった?」

ハーマイオニーが振り向くのと、オーシャンが口を開いたのが同時だった。

「ニコラス・フラメル?貴方達、錬金術でも始めるの?」

 

その一言で、三人全員がオーシャンを期待を込めた眼差しで見つめた。

「Ms.ウエノ、知ってるの!?」

「え、えぇ。日本にいた頃の授業で少し習ったから。日本では、魔術以外に錬金術や陰陽術、それから忍術についても初等教育で教えてくれるわ。…まあ、浅く広くといったところかしらね」

「えぇ!?それってすごい!私、日本の魔術学校に行ってみたいわ…」と声を弾ませて言ったのはハーマイオニーだ。ハリーは「そんなことより!」と声を大きくしてハーマイオニーの意識を戻させた。

 

「Ms.ウエノ!何をした人なの、ニコラス・フラメルって…」

オーシャンは古い記憶を引っ張り出した。今ではほとんど使われなくなった所の記憶だ。

「えぇと…あれよね、「賢者の石」を作り出した人よね…」

「賢者の石?」

「!…そうよ!賢者の石よ!」ハリーとロンが首を傾げる中、ハーマイオニーだけがピンと来た様で二人を引っ張って、荷物をそのままに大広間を出ていってしまった。

 

「…忙しい子達ね」

オーシャンは笑って一人言うと、ハーマイオニーが残していった荷物をまとめ始めた。

あの三人があんなに真剣になっているという事は、もしかして例の四階の件だろうか?一瞬授業の関連の質問なのかとも思ったが、ハリーとロンがあんなに前のめりに質問してくるなんて、授業の事ではあり得ないだろう。

…であれば、禁じられている四階にいるという番犬は、まさしくそれを守っているのだろうか?

 

「…まさか。確かめるまで、何とも言えないわ」

オーシャンが思案を打ち消すと、フレッド、ジョージ、アンジェリーナが姿を見せた。昼食の後は、みんなで「魔法生物飼育学」である。外は寒いだろうから、双子にまたカイロを貰わねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス休暇一日目は、オーシャンはゆっくり過ごす事を決めていた。

朝は少し寝坊して、毛布にくるまって談話室の暖炉で暖まってから、天気が良ければ少しだけ外を散歩しよう…ハーマイオニーと約束している英語の書き取り練習も、今日だけは午後からにさせてもらおう…。

 

例年のクリスマスならばその計画がうまくいったかもしれないが、ここは住み慣れた日本ではないうえに、寮にフレッドとジョージが居残っている段階でそれがうまくいくはずもなく、今朝は窓にぶつけられる雪玉の音に起こされてしまった。

 

「うぅ~っ…」

外がうるさい、でもまだ寝ていたい…布団にくるまって身をよじり、最後の抵抗をしたオーシャンだったが、バスッ、ボスっ、と窓にぶつかる雪玉の音でたまらずに身を起こした。

 

窓の外を見ると、やはり双子が寝室の窓に向かって雪玉を投げて遊んでいた。窓辺にオーシャンが姿を現した事で外の二人は指を差して喜んだ。

 

「まったく…人の事を指差さないって、お母様に教わらなかったのかしら」

そう一人ごちながら、次に飛んで来た雪玉を、ちょい、と窓越しに指でつついてみせた。

雪玉は一旦空中に制止し、直後にフレッドとジョージ目掛けて帰っていった。

 

オーシャンはベッドの毛布を引ったくり、談話室の暖炉を独占するために寝室を出たのだった。

 

 

 

次に起こされたのは、英国人が自分の名前を呼んだ時だった。「HEY!ocean!」と呼ばれるが、そのあとは全く聞き取れない。

暖炉の前に置かれたソファに横になっていたオーシャンだったが、起床して自分を呼んだ犯人を見ると、またもフレッドとジョージだったので、ぷるぷるっと頭を振った。

 

「え、ごめんなさい、何ですって?聞けなかったわ」

寝起きのオーシャンに双子は声を揃える。「「だからぁっ…」」

要するに何故雪合戦に来ないのか、ということだった。どうやら、さっき雪玉を投げ返したのが、OKのサインだととられたらしい。

 

「…私、OKって言った覚え無いわよ」

「でも、投げ返しただろ!」

「だってゆっくり眠りたかったのだもの…」

「今何時だと思ってるんだよ!そろそろ昼食の時間だぜ!」

「…お布団って、魔法の道具だと思わない?」

「あー…」「まぁ、それは否めないな」

 

「また丸め込まれてる。ハリー、見ろよ」

そう声がして、見れば寝室から出てきたロンが、ハリーと一緒に笑っていた。

「おっと、ロニー坊や」「聞き捨てならないな。今、何て言った?」

双子がロンを向いたところで、オーシャンのお腹の虫が鳴った。

 

ぐう。

 

みんながビックリしてオーシャンを向いた。ところが当のオーシャンは「お腹空いた…おにぎりが食べたい…」と、ボサボサの頭で最近の口癖を唱えるのだった。

がちゃりと扉が開いた音がして、上の階からパーシー・ウィーズリーが降りてきて言った。

「何をしている。みんな食事に行かないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマスの朝は、オーシャンはいつもの時間に起きて英語の書き取り練習を片付けようとしていた。

やはり苦手なものは億劫になってしまうものである。ハーマイオニーに約束した練習目標まで、まだ半分たりないのだ。

 

ベッドから起床し、一つ大きく伸びをして、どてら(日本の受験生御用達の羽織もの)を着込んだ時、足元に置かれたクリスマスプレゼントに気づいた。

アンジェリーナからは、新しい羽ペン。メッセージカードがついていて、「貴女によく似合うわ」的な事が書かれているらしいのが、辛うじて読み取れた。細かいニュアンスは違うと思うが、今のオーシャンにはこれを読み取るだけでも精一杯だ。

 

ケイティからは白いマフラー、アリシアからは大きなお菓子の包みだった。ハーマイオニーからもメッセージカードと、おしゃれな懐中時計が贈られてきていた。高かっただろうに、オーシャンが英国大好きと豪語しているのを聞いて、わざわざ彼女の好みそうなものを選んでくれたのか。

 

そして「クィディッチ今昔」を贈ってくれたのは、誰あろう、オリバー・ウッドだった。メッセージカードには無骨な字で「君も興味を持ってくれ」の様な事が書かれていた。先月の対スリザリン戦直前のやり取りを思いだし、オーシャンは思わず吹き出してしまった。後から双子に手伝ってもらって、読んでみよう。

 

その双子からのプレゼントらしきものが、紙切れ一枚だった。「階下」らしき文言が読み取れる。プレゼントは談話室に隠したぞなんて、双子が仕掛けそうな下らないいたずらだ。

 

最後に、父と母、そして妹からは手紙が届いていた。懐かしい日本語で書かれた宛名に、思わず涙腺が緩む。

 

 

さて、では手紙は後でじっくり読むとして、先に双子からのプレゼントを片付けるか。そう思ってオーシャンが談話室に下りると、そこにはプレゼントを手にはしゃいでいる、みんなの姿があった。

 

「メリークリスマス」みんなが言うのでオーシャンも微笑んで返した。「メリークリスマス」

すると早速フレッド。「オーシャンって編み物も出来たんだな」フレッドとジョージには、手編みのマフラーを贈ったのだ。

 

「貴方達のお母様には叶わないけれどね」

とオーシャンが言うと、ロンが「いいなぁ」と言った。

「栗色のセーターより、そっちの方が絶対いいよ」

ロンは辟易とした声を出した。

「あら、私はそっちの方が素敵だと思うわよ、ロン。ところで貴方達、私に何か、渡すものがあるんじゃない?」

オーシャンがロンから視線を移して双子に聞いたので、フレッドとジョージは待ってましたとばかりにニヤリと笑った。

 

「こりゃ驚いた。かのオーシャン・ウェーンが俺たちに物をねだるとは」

「ああ、ジョージ。俺は腰が抜けそうだ…」

二人がふざけるので、オーシャンは腰に手を当てる。

「まったく。その様子を見ると、随分自信がありそうじゃない?」

「そうともさ。…オーシャン、涙の準備はいいかい?」

「涙?」

フレッドの言葉にオーシャンが訝しげな顔をすると、ジョージがナフキンのかかった皿を捧げ持ってやってきた。

「これさ!じゃーん!」とジョージが皿に被せてあったナフキンを取り除くと、なんということだろう、そこには二つのおにぎりが載せられているではないか!

 

「えっ!嘘!?ジョージ!フレッド!」

ずっと食べたかったものを目の前に出されて、オーシャンは感動でパニックになりそうだった。…というか、なっていた。

ジョージが「お前がずっと食べたいって言ってたから、俺たち頑張って調べ…」と説明したオーシャンが理解できる言語は完全にフェードアウトして、途中からジョージの何を言っているのか分からない英語が続いた。

 

ジョージが説明を終えると、オーシャンは恐る恐るジョージに近づいて、おにぎりの持った皿を指差し、「イート、オーケー?」と双子に聞いた。

どうやらパニックになるほど喜んでくれたオーシャンを見て、二人は「オーケー!」とはにかんで答える。

 

オーシャンが恐る恐るおにぎりを手に取り、口に含むと、何故か全員が「oh…!」とどよめいた。

オーシャンは涙に濡れながら、久々の白米を咀嚼する。お米の炊き加減がイマイチでも、時々塩の固まりがじゃりじゃりと音を立てても、塩の加減が所によりまばらでも、双子が頑張って作ってくれたおにぎりだ。美味しいと言わずになんと言おう。

 

おにぎりを感動しきりで食べていたオーシャンだったが、おにぎりの中ほど、大体は具が入る辺りで、更なるパニックに陥った。

お米の中にある、程ほどの弾力がありながらも柔らかい、プニっと弾けるものを見つけたのである。

 

ものには、「食べ合わせ」というものがある。

そして「ご飯」と「バーティ・ボッツの百味ビーンズ」は、「あり」か「なし」かで言われれば、完全に「なし」だった。

あまりの衝撃とパニックにオーシャンは気を失ってその場に崩れ落ちたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は一日オーシャンのパニックは静まることがなく、彼女にとってある意味で忘れられないクリスマスとなった。

 

休暇が開けたときにおにぎりの中身の理由を二人に問いただしたところ、「だって調べたら、中身の具材は色々な種類がある、って書いてあったし」「それなら、百味ビーンズもありかなと思って」

 

クィディッチの練習が始まった日に、オーシャンは取り寄せた具材で本物のおにぎりを作り、グリフィンドールチームに、差し入れとして持っていった。

 

それを食べた双子は、心底反省した顔でオーシャンに謝ったのであった。

 

 

 

 




今回はギャグ?回でした。
グリフィンドール生の、仲の良いところが大好きです!



UA 629 お気に入り4件、感想1件、ありがとうございます!感涙です。

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