私の住む村がちょっとおかしい   作:ぴぴるぴる

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12~14歳ごろ

補充要因月 求ム日

 手持ちの水が切れそうだったので呪泉郷に補充しに行くことにした。

 シャンプーも誘ってはみたが手伝ってくれるわけもなく、一人寂しく荷車引きながら往復してきた。

 

 ただ歩くだけというのもつまらなかったので、前々から試してみたかったことをやってみた。

 下半身に馬溺泉の水をかけてみたのだ。

 予想通りにギリシア神話のケンタウロスのような姿になれた。

 

 最初は手足が6本もあることに混乱したが1kmも歩けばすぐに慣れた。

 山2つを越えるのにこの体は最適だ。

 

 しかし、水がかかる度にズボンがはじけ飛んでしまうのは困る。

 村長ならうまく手直しできるだろうか。しばらくはこのままの姿で過ごすことにしよう。

 

 追記 

 ガイドの人から面白い話が聞けた。

 もうひとつの呪泉郷がこのバヤンカラ山脈のどこかにあるという伝説だ。

 拳精山の呪泉郷を全て試したわけではないし、今のところ急いで探す必要もない。気長にちょこちょこ調べてみよう。

 

 

 

私の髪は月 手綱じゃない日

 朝起きたら農耕具が取り付けられ、田圃に出された。

 すでに逃げられない状態だった。現実は無常である。

 

 これも修行だと開墾の手伝いをさせられることになった。

 どう見ても村長の個人的な願いにしかみえなかったが、日ごろお世話になっているのだしこのくらいなら手伝ってあげることにした。

 

 洗濯を終えたシャンプーが救援に来てくれたが、ただ私の背中に乗りたいだけだったようだ。この娘、手伝いどころか邪魔しかしてくれない。

 シャンプーを振り落とそうとしても余計に喜ばせるだけだった。

 こいつは私をロデオマシーンか何かと勘違いしてないか。

 

 このケウタウロスもどきはダメだ。背中に乗られるといいように遊ばれてしまう。特にシャンプーに。

 さっさと他の呪いに上書きしてしまおう。

 

 

 

お前の誕生日を月 呪ってやる日

 今日はシャンプーの12歳の誕生日だ。

 寝ている間にシャンプーに猫の耳と尻尾をプレゼントしてあげた。

 そのまま寝起きドッキリをしてあげたら、飛び上るほど喜んでくれた。

 やはりツチノコに変身してからのエイリアンごっこは楽しい。

 

 夜中にシャンプーの部屋を覗いてみたら鏡に向かってニャアニャア言っていた。

 存外気に入ってくれたようだ。よかったよかった。

 私はそっと扉を半開きにして、村長を呼んであげた。

 

 ところでシャンプーにスパイクメイスなんて物騒なものをプレゼントした阿呆は一体どこのどいつだ?

 いつもよりも数倍は痛かったぞ。

 

 

 

どこまでも月 諦めない日

 瓶底メガネ君が遂に私たちの村にまでやって来た。

 あー、……名前なんていったっけ?

 背中に鳩溺泉の水をかけたのは失敗だった。

 鶏溺泉程ではないが時々物忘れしてしまう。

 

 思い出した。ムースという名前だったはずだ。

 確かに以前の彼とは見違えるほどに強くなってはいたが、それ以上にシャンプーも強くなっていた。

 早々に彼は肩を落としながらお帰りになった。

 

 ムースは気づいていなかったが、シャンプーは思いっきし手を抜いていた。

 このままだと彼は一生シャンプーに勝てないだろうな。

 暗器程度で今のシャンプーをどうにかできるはずがないのだ。それなら今頃私は常勝無敗だ。ただし村長は除く。

 

 しかし、シャンプーがまさかムース相手に手加減するとは…。

 もしかしたらもしかしたりするのかもしれない。

 

 

 

伸び月 悩み日

 土竜螺旋墜の完成は未だ遠い。

 手を使えば何とか狙った位置に吹き出すのだが、予備動作が多すぎて今のままでは実戦に使えない。

 足から出せとか村長も無茶を言うもんだ。

 手慰みにやっているどどん波モドキの方が上達していっている。

 

 シャンプーの方はすでに寸勁の練度を高める段階まで至っていた。

 愛用の玉錘を使うよりも徒手空拳の方が遥かに強くなっている。

 試しにどの程度なのか私にやってもらったらその場に止まることもできずに後ろに吹き飛ばされた。

 まだ痛みがとれない。

 

 頑丈なだけではもう不十分のようだ。

 このままだとシャンプーに負け越し続けてしまう。受け流す技術も必要か。

 村長から追加で合気も教えてもらうことにした。

 ついでに消力とかいう変態技術を見せてくれたが、さすがにあれは無理だ。

 

 

 

パパから月 オトンへ日

 突然オトンが村長宅に私を訪ねてきた。珍しいこともあるものだ。

 私の部屋で当たり障りのない会話を済ませると村長と少し話して帰っていった。

 娘に好かれたくなるお年頃なのかね。

 オトンと呼ばれるのがそこまで嫌なのだろうか?

 残念だが、お小遣いをくれなくなった時点でオトン呼びは確定だ。

 外で見かけたら少しは優しくしてあげよう。

 

 

 

今日から君も月 実験体日

 ムースは未だに足繁くこの村に通っている。

 毎回こっぴどく追い返されているのにちっとも心が折れる様子もない。

 頑張ってくれ、ムース。もしかしたらワンチャンあるかもしれない。

 ムースの頑張りに敬意を表して私も協力(実験)してあげよう。

 

 

 

逃げるのが先か月 食卓に上がるのが先か日

 ムースに犬溺泉の水をぶっかけてシャンプーに見せたら村長宅で飼うことになってしまった。

 やたらシャンプーに懐くので気に入ってしまったのだ。

 そりゃ懐くのは当然だ。中身はムースなんだし。

 暢気に尻尾振ってるけど村長には非常食としてしか見られてないといつ気づくだろうか。

 このまましばらく見ているのも面白いそうだ。

 なんて思っていたら目を離したすきにシャンプーがムースを連れて水浴なんかしてくれちゃったから、さぁ大変。

 バラすにバラせなくなった。

 

 これは非常にまずい。

 正体がバレたらムースと一緒に私まで地獄を見ることになってしまう。

 後で念入りに口止めをしておかなくては…。

 

 寸勁ができるからと興味本位でシャンプーに獅子戦吼なんて教えるんじゃなかった。

 あいつの寸勁は火中天津甘栗拳と合わさって今では立派な獅吼爆砕陣だ。

 いや、殺劇舞荒拳の方が近いか。

 

 

 

み~月 つけた日

 やっともう一つの呪泉郷の場所が判明した。

 自力で探してはみたのだが大した成果もなく、泣く泣く村長に頼ると確度の高い情報が聞けた。

 さすが齢三桁だ。長生きしているだけはある。こんなことならさっさと頼ればよかった。

 

 どうも聞くところによると拳精山近くの険しい山頂にしか泉はなく溺れる動物は鳥ぐらいだとか。

 拳精山の近くで険しい山と言えば南方に(そび)え立つ鳳凰山くらいしかない。

 鳥しか溺れないというのはちょっと肩すかしだったが、それでも気にはなるので機会があれば行ってみよう。

 

 

 

オトンの月 お客さん日

 オトンの親族がこの村にやって来た。

 一目で高いだろうなとわかるほどの煌びやかな服に身を包んだ3人の男性だった。

 あんなの着て眼が痛くならないのだろうか。

 やんごとなき血筋なのかあの村長が緊張していたのには驚かされた。

 オトンに呼ばれ男性3人に私を紹介すると途端に全員の顔が一瞬だけ厳つくなった。

 女性を見るたびに顔が強張るのはオトンの一族の特色なのだろうか。

 私が呪泉郷に月1で通っているのを知ると心底面白そうに笑っていた。

 オトン達の笑いのツボがよくわからん。

 

 御客人たちが帰っていくとオトンも弟を連れて村を出ていった。

 せめて私に何か言ってから出ていっていけよ!

 私のお別れの挨拶にどどん波にした。

 

 

 

氣は月 お友達日

 やっと震脚からの土竜螺旋墜ができるようになった。

 村長からも無事太鼓判を貰い、完成と相成った。

 なんだかんだで3年近くかかったんじゃないかな。まさかここまでかかるとは…。

 これでも覚えるのが早い方だと村長は言う。珍しく褒められた。

 

 3年でも早いってどれだけ難しいのさ。

 村長の要求するハードルがこれ以上高くならないことを祈るばかりである。

 私に消力覚えさせようとする時点で無理だとはわかっているがそう思わずにはいられない今日この頃である。

 

 

 

これは月 ピンチ日

 毎年恒例の武闘大会が開催された。

 シャンプーが出る様子もないし特に興味もなかったんだが、村長が言うには15歳になったら1度は出ないといけないらしい。

 それなら仕方ない。村長に薦められるがままに見てみることにした。

 

 会場近くの看板を見るに対戦方法はトーナメント形式のようだ。

 実際に試合を見てみると4本の柱から両端をぶら下げた1本の丸太の上で戦っていた。

 

 なるほど。村長が私に見せたがるわけだ。

 私は地上戦メインなんだぞ。不安定な足場の上では爆砕点穴かどどん波モドキぐらいしか使えない。

 早急に何か対策を練る必要がある。

 

 

 

そうだ月 ラミアになろう日

 たどり着いた答えは単純だった。

 要は丸太から落ちなければいいのだ。

 それなら話は簡単だ。

 私は自身の下半身に大蛇溺泉の水をぶっかけた。


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