私の住む村がちょっとおかしい   作:ぴぴるぴる

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5~6歳ごろ

青海月 省日

 今日は日記を書く気分ではなかったが今日の訓練の余韻なのか興奮していて気が鎮まらない。手慰みに書いてみようと思う。

 どうにか戦闘訓練は終わった。

 体の至る所が痣だらけだが顔だけは守った。守り通した。悔しいがちょっとだけ自信がついたのがわかる。

 

 初めは同じ年頃の子と合同訓練だった。足運びの型の模倣とか当たり障りのない練習のみ。

 あれ?楽勝じゃんと思ったが、そんな甘っちょろいことはなかった。

 訓練の最後は模擬戦になり、突如として周りの子たちがピリピリし始めた。気分は牛追い祭りに巻き込まれた観光客のようだった。

 

 いやー、初めて子供が怖いと思ったね。

 技術なんてないからどの子もノーガードの殴り合いから始まり、最終的にはどちらかがマウントポジションとられて殴られるまで終わらなかった。

 顔面パンチは当たり前。目つぶしはお辞儀のようなものだった。

 なぜ村の女には美人かゴリラしかいないのかわかった気がした。

 

 そんな模擬戦を見ながら私は戦慄していた。

 どこが模擬戦なんだろうか。模擬戦という名のデスマッチに限りなく近い。ちょろっと何か出た気もするが全部じゃないからセーフだと思いたい。

 不思議なものでいざ模擬戦が始まると命の危機と感じたのか体はちゃんと動いてくれた。防戦一方だったけど…。

 

 明日もこの訓練が続いていくのかと思うと憂鬱だ。しかもこれが少なくともあと1年は続き、水瓶マラソンがお休みになることはないというのだ。もちろん雨天中止になることもない。鬱だ。

 しかもこの戦闘訓練が終わったら各家の母親からマンツーマンの指導に移ることになる。

 村のみんなが民族衣装を着た蛮族にしか思えなくなった。

 あぁ、やっと眠くなってきた。おやすみなさい。

 

 

 

バヤンカラ月 山脈日

 戦闘訓練が始まってちょうど1ヶ月がたった。訓練内容はいまだ変わらない。殴り合いがより白熱し始めたくらいだろうか。

 この頃持ち始めていたちっぽけな自信はアイスクリームのようにベチャッと地面に落ちた。

 さすが村長の家系だわ。曾孫さんちょーつよい。

 しかし顔だけは指一本触らせなかった。

 

 

 

ボロ月ボロ日

 戦闘訓練が始まって3か月。体捌きの型が増えてきた。

 おかしい。この頃、村長の曾孫としか模擬戦をしていない。

 守るのに必死で他の娘よりも面白味なんてないと思うのに毎日のように絡んでくる。

 ちくしょーっ。私が一体何をした!

 

 

 

心を月 燃やせ日

 相も変わらず村長の曾孫に毎日のように模擬戦で殴られている。

 理由を聞いてみたらスカッとするからだとさ。ハハッ。

 こいつはいつか絶対泣かすと心に誓った。

 

 

 

不思議月 発見日

 戦闘訓練4か月目にしてついに氣について教わることになった。

 これで人外の領域にまた1歩踏み出せると思うとワクワク……なんてしなかった。

 しかしやらねばこれまで以上にタコ殴りにされるので、嫌でもやるしかなかった。

 

 氣と言っても大きく別けて2種類あり、内気功と外気功というものがあるそうだ。

 これからは身体強化にあたる内気功を中心に習うことになる。

 大まかな説明が終わると先生に考えるな感じろと素で言われた。この人先生に向いてないじゃないかな。

 

 今日は初めてということで先生の体に触りながら実際に氣を感じてみることとなった。

 結局私は一番最後までかかってしまい、終わった時にはさすがの先生も辛そうだった。

 そして、そんな私を見てあの娘は鼻で笑いながら私の側をこれ見よがしに通って行った。

 あのクソガキがあぁぁ!

 

 

 

訓練月 半年日

 この頃、やたらと見切りと守りの型だけがうまくなっていくのを実感する。

 人は日常的に殴られ続ければ人の気配に敏感になるようだ。

 しかし有効な攻撃が全くできていない。氣もあまりうまくないから結局はただ最後まで耐えるだけである。

 明日から模造だが武器解禁だ。このままで大丈夫だろうか。

 

 

 

狩猟月 解禁日

 まだ体が痛い。頑丈になってきたと思っていたが今日は本格的にぼっこにされた。

 無駄に器用に持ち手の位置を変えてくるのでリーチが測りづらい上に、相手が鈍器なのも問題だ。

 

 みんなが思い思いの模造刀を手に取っていく中、あの娘だけは嬉々として鈍器を選んでいた。

 なぜかって?刃つぶす必要もないし破壊力も高いからだ。さすが蛮族である。

 こっちはトンファーで応戦したが如何ともし難かった。

 しかし武器の選択は間違っていなかったようだ。トンファーキックを試してみたら綺麗に入ってくれた。

 その代り向こうの火をつけてしまったのか最後はぼこぼこだった。顔だけは守れたからよしとしよう。

 

 

 

そんな装備で月 大丈夫か日

 どうしよう。この頃防戦すらできていない。今日初めてまともに顔にもらってしまった。

 くそう。何か!何か私に有効な攻撃手段を!トンファーキック以外で!

 

 そんな私を神は見捨てなかったのか見かねた村長が直々に鍛えてくれることになった。

 やったね!これであの娘をギャフンと言わせてみせる!

 村長としては何か思惑はあるのだろうが構うものか。

 

 

 

神は月 死んだ日

 やばいよ、あの村長。人外どころじゃないよ。ほぼサイヤ人だよ。

 いざ訓練となりどこへ行くかと思えばいつも走らされている山の中へ。

 そして大人の身の丈を超える大岩の上に陣取り今から教える技をご教授頂けたのだが、指先一つであの大岩を粉々にしてくれやがりましたよ。

 爆砕点穴という技らしい。どうやらこの村長この技を習得しろとおっしゃるようだ。

 

 この技もし人間相手に使えば肉片くらいしか残らなくなると思うが、村長の曾孫相手に使ってもいいのだろうか。

 まぁ、いざとなったら相手の足もとでやってあげよう。

 これであいつの泣き顔が拝めるならやるしかなかろう!女は度胸である。

 

 ちなみに近くにいた私はがんせきほうをまともに食らった。

 こうかはばつぐんだった。

 

 

 

かたく月 なる日

 もうそろそろで9ヶ月になりそうだ。

 模擬戦では防戦に持ち込めるようになったし、硬気功だけはずば抜けて上達している。

 それもこれも村長のおかげである。村長のせいとも言う。

 訓練内容からしておかしいんだよ。目隠ししながら振り子のように迫る大岩を粉砕しろと言われても無理がある。

 爆砕のツボを見切って突くだけだと事も無げに言ってくれるが、そう簡単に見切れるはずがなかった。

 

 最初の頃は気配もない大岩がただただぶつかってくるだけで生命の危険をヒシヒシと感じるだけだった。

 常に硬気功を維持しないと気づいた時には走馬灯を見ているといえばどれほどつらいかわかるだろうか。

 トイレ以外では排便をしないという信念を数回ほど曲げざるを得なかった。

 何度朝食べた朝食にこんにちわしたことか。

 その甲斐あってか爆砕点穴の方はついに3回に1回は成功するようになっている。

 今では目隠しをしてもぶつからずに歩けるというのが私の特技である。

 

 あとひと月もすれば完成するだろう。今から楽しみだ。

 私は慈悲深いので、百回くらいやったら満足するだろう。

 

 

 

訓練月 10ヶ月日

 ついに念願かなって爆砕点穴を習得した。

 しかし、村長が蛮族の長だということをすっかり失念していた。

 これで終わりなんかじゃなかったのだ。爆砕点穴はただの前座でしかなかった。

 この言葉を聞いたとき、私は膝から崩れ落ちた。

 少し呆然自失としていたが、村長から物理的に喝を入れられ訓練は再開された。

  

 今度覚える技は飛竜昇天破。

 本来であればこの技が私に教えられることなどない程の秘拳中の秘拳らしい。

 ではなぜ教えるのかというとあの曾孫の鼻を明かすためだと村長は言った。

 傲りの目がでてきたので少し軌道修正を図るそうだ。私にしかできないとも言われた。

 この一家ストイックすぎるだろ。アンタ6歳児に何を求めてるんだ。

 しかしこれは悪くない。せっかくの機会なので村長の企みに私も乗せられておこう。

 

 ところで村長の持ってるあの杖なんなの?石つぶてごときはもう小雨と変わらない私が普通にタンコブこさえさせられたぞ。

 アダマンチウムでも中に入ってるんじゃなかろうか。

 

 

 

訓練月 11ヶ月日

 ただひたすらに飛竜昇天破の型の練習をしている。

 傍らには人の羞恥心をこれでもかと刺激してくる鬼婆が二匹。

 村長とマイマザーが爆砕点穴の訓練時の醜態を執拗に攻めてくる。くそがっ!

 

 技自体はすでに問題ないがどれだけ相手を乗せられるかが鍵だ。

 爆砕点穴はまだシャンプーには見せてはいないがそろそろ期限が迫っている。

 あと2週間ちょっとでシャンプーの方が合同訓練を終えてしまうのだ。

 この鬱憤ごとシャンプーを絶対に吹き飛ばす!

 

 

 

訓練月 終了日

 やった!ついにやってやった!

 飛竜昇天破で上空へと吹き飛んでいくシャンプーの姿はまるで心が洗われるようだった。

 先生からも合格を貰いホッとしている。これで集団訓練は終了だ。

 

 明日からは家々に伝わる一族の秘術や秘拳などを教わることになる。

 この日記を書いてもう1年近くになるのか。長いものだ。

 感慨深げに日記を読み直してみると……。

 

 あれ?私洗脳されてる?

 

 次第にバトルジャンキーの思考へとシフトチェンジしているように思えるのは間違いだろうか。

 

 

 

新しい月 朝が来た日

 いくら私が思い悩んでも明日は来てしまうもので、今日から新しい修行が始まった。

 と思っていたのは私の勘違いだったのだろうか。マイマザーから教えを乞うはずがなぜか訓練場に村長とシャンプーがいた。

 

 え?合同訓練終わったよね?なんて思っているとマイマザーがこうなった訳を教えてくれた。

 秘拳である飛竜昇天破を私に教えた時点で村長からいろいろ教わることは確定だったらしい。

 解せぬ。ていうか私聞かせれてないんだけど!

 

 ついでにマイマザーからおめでた宣言された。私聞かされてないんだけど!?

 一子相伝の秘技は代わりがいるから大丈夫だという冷たいお言葉もいただき修行が開始されてしまった。

 目の前には私をどう料理しようか思案している妖怪が一匹。隣には私に対して闘志を燃やす紫髪の娘っこが一人。

 ……神なんてこの世にいない。

 

 家に帰ったら今日から村長の家で暮らす段取りになっていた。泣きたい。


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