司令官はよくいなくなる   作:Jasper Finley

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提督が来た その2

「ふぅ。少し食べすぎたかな……」

「司令官って結構小食なのねぇ。睦月ちゃんも皐月ちゃんも結構食べるから同じくらい作ったのだけれど……」

「うん、実はそうなんだ。ま、とっておいて後で夜食にするよ」

「はいはい! 睦月、食べたいにゃしぃ!」

「睦月ちゃんはさっき味見したでしょ、明日作ってあげるから今日はダメよ」

「殺生にゃ!」

「…………ラップ、もってきたよ」

「ありがとう、弥生」

 

「――さて、じゃあ僕は執務室に行こうかな。明日からにしようかと思ってたけど、やっぱり今ちょっと触って感覚を掴もうかな」

「じゃあ私もついていった方がいいわね」

「ありがとう叢雲。別に他のことしててもいいんだよ?」

「他のことはアンタが寝てる間にするわよ」

「あー、そうか。じゃあ、よろしく頼むよ」

 

 睦月型のみんなのエールを受けつつ、私と司令官は席を立った。ふたりとも無言で廊下を歩いていると、皐月と長月が走って追いかけてきた。

 

「司令官、司令官!」

「ん、どうしたんだい? あと廊下はなるべく走らないようにね、危ないから」

「ごめんごめん。それでね、ボク探照灯が欲しいんだ、できればふたつ!」

「探照灯? 長月と夜戦の練習でもするのか?」

「正解だ。私と皐月はある程度砲撃を狙ったところに飛ばすことができるようになった。一度夜戦のほうも経験しておきたくてな」

「えっ、貴女達もうそんなに上達してるの?」

「私は休憩以外ほぼ海上にいるからな。皐月も私ほどではないが海上にいることが多い。互いに成長を感じられて楽しいぞ。司令官も来たことだし叢雲もどうだ?」

「ボコボコにされそうだから遠慮しとくわ。私は的当てから始めさせてもらうわよ」

「残念だ。まあ、そういうわけだ司令官。どうにかして工面できんか?」

「頼むよ司令官、無理なら無理でいいけど……」

「いや、畑部に頼めば貸してくれるだろう。後で話を通しておくよ」

「わ~い、ありがとう司令官っ! じゃ、ボク達はまた海に出てくるよ!」

「アンタ達、本当に向上心の塊ね……」

「向上心というか……この体で動くのが楽しいっていうのはあるな。今度、叢雲も数キロくらい走ってみるといい」

「え、遠慮しとくわ……」

 

 そう返すと、長月は笑って踵を返した。それに皐月も付いていき、また司令官とふたりになった。廊下を歩きだすと、司令官が口を開いた。

 

「……長月は休憩以外ずっと海上に居るって言ってたな。本当なのか?」

「私が知る限りはそうね。休憩も明石に艤装を見て貰ってる時とクールダウンの時くらいしか取ってないと思うわ。よくやるわね、ホント」

「僕にはできない芸当だなぁ。寝てる時以外運動と考えるとぞっとするよ」

「私もよ。私達は別に寝る必要はないけれど疲れはするはずだし……どうしてるのかしら? うちにはまだ間宮さんも伊良湖さんもいないわけだし……」

「気になるな。今度聞いてみるか」

「そうね、あんまり変なことしてたら注意しないといけないし」

「明日、探照灯の件を伝える時についでに聞いておくよ。一応僕が提督なわけだしね」

「そういえば一週間くらいは私が先輩になるわけね。実感は湧かないけれど」

「学校時代は後輩がいただろ?」

「私、普通なら数年かけて教えるものを半年で教えるために特設教室で24時間勉強してたからほとんど誰とも話してないわよ」

「うっわ、ご愁傷様……」

「先輩後輩の関係、睦月から借りた小説で読んでちょっと気になってるのよねぇ。どう、私の後輩みたいな立ち回りしてみない?」

「遠慮しておくよ。というか、黙ってても後輩はできるじゃないか。建造すればすぐだろ?」

 

 建造すればすぐ。それは確かにそうなんだけど、本格的な始動は司令官が来てからにしようと思っていたから建造に回す資材はあんまりない。

 残念ながら、私の後輩ができるのはもっと先になるだろう。

 

「――っていうか、そもそも、例え今すぐ建造できたとしても私の戦闘経験値はほぼゼロなんだから後輩にはならないんじゃない? あったとしても留年してる先輩みたいな扱いじゃない?」

「『留年してる先輩』ねぇ。面白い例えだね」

「面白くないわよ。とりあえず、アンタがしっかり執務できそうなら数日は海上に出させてもらうわ。長月チームと皐月チームに分かれて練習、数日やったら3対3の演習をしようと思っているわ」

「いいんじゃないかな。それなら、僕も早く執務に慣れないとね」

「問題はアンタがいつ居なくなるかわからないってことね。一体何をしているのかしら、畑部さんに聞いても答えてくれなかったし」

「それは秘密。いつか言える日が来るといいんだけどね」

「ま、いいわ。そっちの用事を済ませるのはいいけれど、できれば出向期間の延長はやめてほしいわね」

「努力するよ」

 

 本当に司令官は何をしている人なのか、謎だらけだけど。とりあえず、鎮守府に着任したことで司令官が来るまで待っていたことができるようになった。次の目標は資源獲得の安定化かしら?

 司令官の執務を見ても問題はなさそうだし、明日からは私も海に出て、私に睦月、如月、弥生、皐月、長月の6人で当分はやっていきましょ。

 

 

 

「――叢雲。畑部が最低値建造30回分超の資源と各種装備をくれるってさ」

「え……っと。貯蓄しましょ。急に戦力増やしても教導出来るのが皐月と長月だけじゃ話にならないわ」

「ふーむ、そうだな、わかったよ。貰う資源は半分にしておこう。あまりありすぎると変な浪費癖がつきそうだ」

「そうね。でも、装備がもらえるのはありがたいわね。で、何がもらえるの?」

「とりあえず探照灯はくれるって言ってる。まあ、余ってる装備を在庫整理ついでにくれるくらいなんじゃないか?」

「それもそうね。じゃ、私は部屋に行くからわからないことがあったら呼んでちょうだい」

 

 ……この分じゃ、近いうちに6人じゃなくなりそうね。


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