教官   作:takoyaki

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外伝94です!!



凄い!最近スゴく筆が進む!
てなわけでどうぞ!


「おい、言い直してんじゃあないよ」

 「あぁ、今日も美味しいです」

 噛み締めるようにマーボーカレーを食べるクイーン。

 本日の夕飯のメニューは、マーボーカレーとサラダだ。料理を作ったのは、もちろんスカーレット。

 「そういってもらえるのは、何よりッスけど」

 そう言いつつ、ルイーズ達の器に視線を移す。

 「ルイーズ、おかわりは?」

 「いいよ。自分で盛るし」

 ルイーズは、そう言うと目の前の二つの鍋から、マーボーカレーとご飯を両方自分の更に盛る。

 スカーレットは、そんなルイーズから早々に視線を外すと自分のサラダに視線を移す。

 「はい、スカーレット。ドレッシングですよ」

 「あ、ありがとうございます」

 スカーレットは、少し驚いたように言うとクイーンからのドレッシングをベイカーを経由して受け取り、サラダにかける。

 「終わったら、次貸して」

 「ほらよ」

 スカーレットは、ベイカーにドレッシングを渡す。

 「教官、すいませんがカレーとご飯の鍋こちらに下さい」

 「んー」

 ルイーズは、食べ物の詰まった口を閉じたまま返事をすると鍋を二つをエラリィに渡した。

 「ありがとうございます」

 一言礼を言うとエラリィは、自分の皿に盛り付ける。

 「スカーレット、ついでだし、お代わり盛るか?」

 「へ?あ、あぁ、頼む」

 戸惑いながらスカーレットは、自分の皿をエラリィに渡す。

 そんな食事の中、クイーンは、思い出したようにルイーズに尋ねる。

 「ところでルイーズ、練習は順調ですか?」

 「まあ、何とか」

 ルイーズは、カレーを飲み込みそう答えた。

 今度の音楽祭で弾くピアノの演奏曲は、案の定とんでもない難易度の曲が指定された。

 「テンポが厳ついうえに、右手も左手もメロディだから、普通にしんどい」

 げんなりとしながら、もう一口放り込む。

 「へぇ~、教官でも出来ないことが……………料理以外に出来ないことがあるんですね」

 「おい、言い直してんじゃあないよ」

 ルイーズにジトッとした視線を向けられてもベイカーは、素知らぬ顔だ。

 「だいたいねぇ、出来ないなんて言ってないだろう?しんどいだけだよ」

 そんな二人の会話を適当に聞き流しながら、クイーンは、エラリィに視線を向ける。

 「ちなみにエラリィ、開発は順調ですか?」

 「まあな。取りあえず二つは出来てる」

 「お、早いねぇ。せいぜい、まだ一つだと思ってた」

 ベイカーにデコピンを一発当てながら、ルイーズは感心している。

 因みにベイカーは、予想外の痛みに悶えている。

 「ただ、まだ試運転が終わっていないから、『取りあえず』がつくんだが……………」

 因みにルイーズは、ぶっつけ本番で使っている。

 「別にいいだろう?被害受けたのは、私だけなんだし」

 無言の圧力をかけてくるベイカーとクイーンの二人に大して詫びれもせずに言うルイーズ。

 「まあ、過ぎたこと言っても仕方ないですし、これからからの話でもするべきですね」

 クイーンは、諦めたようにそう言うと最後の一口を飲み込む。

 「ベイカー、スカーレット」

 突然呼ばれた二人は、ピタリと動きを止める。

 「明日、二人は、私と稽古です。疑似リリアル・オーブの実験も兼ねてね」

 「「へ?」」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 翌日。

 詰所の裏庭にベイカー、スカーレット、クイーンが集まった。

 そんな三人を観察する、エラリィとルイーズ。

 「さて、準備運動はいいですか?訓練で怪我とか嫌ですからね」

 「大丈夫ですよ」

 「同じく」

 「疑似リリアル・オーブの使い方は、エラリィから聞いてるですか?」

 「えぇ」

 「はい」

 二人の返事に満足そうに頷くクイーン。

 「それじゃあ、ルールの確認です」

 そう言うクイーンの手には、木刀が握られている。

 「私は、木刀を。ベイカーは、ゴム弾の拳銃と十手。スカーレットは、刃を潰した短剣。これを武器にそして、エラリィ作の疑似リリアル・オーブを使って稽古してもらうです」

 「あの、いいですか?」

 遠慮がちに手を上げるベイカー。

 「この前から思っていたんですけど、スカーレットも参戦するんですか?」

 当の本人は、キョトンとしている。

 「教官の話を聞く限り、スカーレットは、保護したんですよね?」

 「そだよ」

 「………………当たり前のようにスカーレットが作戦に参加してるのは何でですか?」

 「忘れたかい?スカーレットは、名目上は、飛び級と推薦制度を使って入隊してるんだ」

 「つまり、参加しない訳にはいかないんです」

 ルイーズとスカーレットの答えにベイカーは、首を傾げる。

 「まあ、兄貴の言いたいことも分かるけどよ、あたしは、こっちのが性に合ってる。事務作業とか化かし合いとかは、ルイーズや隊長の方が得意だしな」

 スカーレットの言葉にクイーンは、心の底から嫌そうな顔をする。

 「ルイーズと一緒にされたくないんですけど………」

 「今回、私より大立ち回りしといて、それは無理だと思うよ」

 ルイーズの指摘にクイーンは、更に眉間の皺を深くし、ごほんと咳払いをする。

 「ま、そんな訳ですから、スカーレットも参加です。こう言っちゃあ何ですが、戦力としては、申し分ないんです。だから、作戦に参加してくれてスゴく助かったです」

 「さて、そんな説明で安心かい?お兄ちゃん」

 ニヤリと笑うルイーズの言葉にベイカーは、本気で引いた顔になる。

 「鳥肌立つんでやめてください。別に心配なんかしてないですよ。単純にどんな筋を通したのかなって思っただけです」

 真顔で目も背けず、真っ直ぐルイーズの目を見ているベイカーにルイーズとスカーレットの頰が引きつる。

 「何て澄んだ目をしてるんだい」

 「て、照れ隠しとかじゃないのが、ひしひしと伝わって来やがる」

 「はいはい、話を戻すですよ」

 クイーンが手をパンパンと叩く。

 「えぇ~………ただ打ち合ってもつまらないですし、」

 そう言ってクイーンは、懐から白い紙を二枚取り出す。

 「何ですか?それ?」

 「あぁ、そうか。二人には見えないんですね」

 クイーンは、ニヤリと笑う。

 「これは、二人の寝顔の写真です」

 「「……………は?」」

 「この写真を私の首にかけた入れ物に入れておくので、制限時間内に奪い取ってください」

 「それ、奪い取れない場合はどうなるんですか?」

 ベイカーの質問にクイーンは、とてもいい笑顔で答える。

 

 

 

 

 「ベイカーの写真はルイーズに、スカーレットの写真は、リッパーに渡すつもりです」

 

 

 

 

 

 二人の顔から血の気が引いた。

 (じょ、冗談じゃない!!教官にんなモノ渡したら絶対ろくでもなことになる!!)

 (なんでそこで、リッパーが………いや、大丈夫だろ。ルイーズみたいに絶対からかったりしねーし。いや、でも突然寝顔の写真なんて送られても困るよな。そうだ!それだけだ!!)

 「制限時間は、30分です。それじゃあ、ルイーズ、合図を!」

 「へいへい。それじゃあ、二人とも頑張りたまえよ」

 ルイーズは、手を上げる。

 「始め!!」

 掛け声とともにベイカーとスカーレットは、踏み込んだ。

 スカーレットの短剣がクイーンに向かって真っ直ぐ飛ぶ。

 それと合わせて距離を詰めるスカーレット。

 クイーンは、躰を捻って躱す。

 ベイカーは、そこに銃口が狙いをさだめ、銃弾が放った。

 スカーレットの短剣を買わずその瞬間に合わせて放たれた銃弾は、もう行動を起こしているクイーンにとっては、完璧な隙を付いた一撃だ。

 

 

 

 「それじゃあ、甘い甘い」

 二人の連携を見ていたルイーズは、呟く。

 

 

 

 

 クイーンは、向かって来るスカーレットの襟首を摑み、そのままベイカーのゴム弾の盾にした。

 「─────っ!」

 ゴム弾とは言え、拳銃で撃たれている以上、痛みもしっかりある。

 クイーンは、痛みに顔をしかめるスカーレットを自分の後ろにおざなりに投げ飛ばし、ベイカーまで一気に距離を詰める。

 「こんの!!」

 十手で迎え撃とうするベイカー。

 クイーンは、その一歩間合いの外で止まる。

 クイーンの緩急を付けた攻撃にベイカーは、まんまと引っかかり、空振りしてしまう。

 「残念」

 クイーンは、ワンテンポずらして、もう一度踏み込み、空振りして態勢を崩したベイカーの背中を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたベイカーは、投げ飛ばされたスカーレットのところまで転がった。

 「って、うぉ!!」

 態勢を立て直し、突っ込もうとするスカーレットは、転がってきたベイカーに足を取られ転んでしまう。

 「ってぇー…………」

 地面に向かって思いっきり大分したスカーレットの鼻の頭は少し、すりむけてしまった。

 そんなスカーレットの腕をもってベイカーが立ち上がらせる。 

 「さんきゅー」

 「どういたしまして。まあ、それより、今度は俺が突っ込むからフォロー頼むよ」

 クイーンに聞こえないように声をひそめるながベイカーは、スカーレットに伝える。

 

 

 

 

 「さて、気が付くかなぁ」

 「何にですか?」

 買ってきたサンドウィッチを食べながら呟くルイーズにエラリィが尋ねる。

 「課題」

 ルイーズがそう答えている間にスカーレットは、持ち直し短剣を投げようとする。

 次の瞬間、クイーンが身体を入れ替え、ベイカーを間に入れる。

 (ダメだ!!兄貴にあたる!!)

 スカーレットは、投擲の姿勢でピタリと止まった。

 (って、待て待て、そもそも……………)

 スカーレットの思考にある疑問が浮かぶ。

 (フォローって、どうやるんだ?)

 

 

 

 「…………気付いたみたいだねぇ」

 頬杖をつきながら、ルイーズは、固まってしまったスカーレットを見ていた。

 「気付いた?」

 「そ。あの子は、誰かと戦うと言うことをしたことがないんだよね」

 スカーレットは、切り裂きジャックとして活動していない。

 基本的にルイーズと戦ったときも一人で戦っていた。

 「頭で何となく分かっていても、実際にやれば必ずボロが出る」

 ルイーズは、組んだ手の甲にあごをのせる。

 「さあ。ここから、どうする?二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 (どうする!!)

 改めて追い込まれた環境に焦りを募らせる。

 模擬戦とは言え、これは戦闘だ。

 初めてのことだからと言って、動きを止めるなど許されない。

 だが、下手に動けば状況は、悪くなるばかりだ。

 「カウント2!!」

 考えを巡らせ、動きを止めたスカーレットに構わずベイカーは、疑似リリアル・オーブを起動させる。

 身体に力が満ちる。

 (マジかよ!これが!!)

 その溢れる力に少々面食らいながらもベイカーは、十手を振るった。

 クイーンは、迫る十手を身体を一歩引いて躱す。

 (あーもう!!出来ないなら出来ないなりにやるしかねーだろ!!)

 スカーレットは、息を吐き出す。

 

 クイーンに躱されその特別な2秒は、直ぐに終わってしまう。

 これを決めきれなかったのは、大きな痛手だ。

 (どうする?いや、でも諦めずに!!)

 

 

 

 「動くな兄貴!!」

 

 

 

 スカーレットから指示が飛んだ。

 

 

 

 

 それを目の当たりにしたルイーズを思わず口笛を吹いた。

 「へぇー。なるほど」

 下手に打てばベイカーに当たる。

 しかし、阿吽の呼吸で合わせられるほど二人の連携は、出来ていない。

 だったら、直接指示を出すしかない。

 ベストな選択を捨て、ベターな選択をしたのだ。

 スカーレットの凛とした声にベイカーは、一瞬止まる。

 「……………ベイカーもちゃんと聞くんだな」

 エラリィは、感心たように独り言ちる。

 自分の妹。

 しかも軍隊歴としては、ベイカーの方が上。

 それぐらい分かっているのにちゃんとスカーレットの指示に従う。

 それが正しい指示だと分かっているからだ。

 例え、その止まった隙をクイーンに突かれようとも。

 

 

 

 

 

 態勢を立て直したクイーンは、ベイカーに向かって距離を詰める。

 「カウント1!!」

 今度はスカーレットだ。

 スカーレットは、その1秒に全てをかけて短剣を投げた。

 短剣は、動きを止めたベイカーのスレスレを通ってクイーンに向かう。

 (一つですか)

 疑似リリアル・オーブで強化された短剣は、今までとは、比べものにならない勢い、そして正確さでクイーンに向かって突き進む。

 クイーンは、迫る短剣を躱そうとする。

 次の瞬間、ベイカーの陰から短剣が複数放たれた。

 「!!」

 一刀目を躱そうとした瞬間に複数放たれる短剣。

 クイーンは、躱すのを諦め、木刀を握りしめる。

 そして、向かって来る短剣を全て打ち落とした。

 「────兄貴!!」

 スカーレットから再び指示が飛んだ。

 今の一瞬で、クイーンの持っている写真までの道が開いた。

 (届け!!)

 ベイカーの手が伸びる。

 僅かに写真に触った。

 しかし、摑む前にクイーンは、ベイカーの手を膝で蹴り上げる。

 「っ!!」

 ベイカーは、しびれる手に舌打ちをしつつ、もう一度踏み込もうとする。

 「はーい、ストップ」

 ベイカーと大きく距離を取り、クイーンは、手を叩く。

 「ルイーズ、ストップウォッチ止めてください」

 「はいはい」

 ルイーズは、返事をするとともにスイッチを押す。

 「いやぁ、まさか、ここまでちゃんとなるとは思わなかったです」

 「「……………??」」

 揃って首を傾げるスカーレットとベイカー。

 「スカーレットは、連携とかしたことなさそうだったんで、今回のでそれに気付いて貰おうと思ったんです」

 スカーレットは、自分の投げた短剣に目を向ける。

 「でも、気付くどころか対処してきたので、驚いちゃったです」

 クイーンは、そう言いながら視線をエラリィに向ける。

 「さて、では、今度はエラリィも参加して貰うですよ」

 「は?何で?嫌だぞ。まだ、調整しなければならんのに」

 「自分が体験してデータを取ることも必要でしょう?

 懐からもう一枚写真を取り出して満面の笑みを浮かべるクイーン。

 「…………………なんだ?寝顔の写真か?生憎、その程度じゃ」

 「エラリィが子どもの頃の写真です」

 「上等だ!!やってやる!」

 そう言うエラリィにルイーズは、ハンマー頭がゴムになっているものを渡す。

 エラリィは、受け取るとベイカー達の元へと走って行った。

 位置に付くとクイーンから再びストップウォッチをスタートするように指示が出た。

 ルイーズは、先程と同じように適当に返事をしてスイッチを押した。

 三人は、一斉にクイーンに襲いかかった。

 そんな三人を見ながらルイーズは、足を組んで頰杖を付く。

 (クイーンは、木刀を持ってはいたけど使うつもりはなかったんだよなぁ)

 だが、最後の最後で使わせた。

 だからこそ、クイーンもまさかここまでとは思わなかったと言ったのだ。

 初めての不慣れな状況に放り込まれ、戸惑い、立ち止まっても直ぐに対処する。

 (大したもんだねぇ。おまけに────)

 スカーレットの短剣は、どんどん精度を増していき、ベイカーやエラリィの隙間を抜ってクイーンの行動を抑制するようになってきた。

 (対応してものにし始めた)

 クイーンは、木刀を振るって短剣を弾く。

 「初めから出来ないのは、当たり前。問題は出来るようになるまでの時間だ」

 類い稀なる戦闘センス。

 スカーレットには、確かにそれがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────「なあ、あたしって戦力になるか?」─────

 

 

 

 

 

 

 ベイカーの質問にへらへらと答えたルイーズだっだが、その葛藤がないわけではなかった。

 投げかけられた言葉にルイーズは、コクリと頷いた。

 「なる。間違いなく」

 スカーレットは、ニヤリと笑う。

 「よっし!なら、あたしもこれからクイーン隊だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのやりとりを思い出し、ふふふと笑う。

 「さあ、そのセンスしっかり磨きたまえよ」

 






てな訳で、スカーレットも本格参戦です!!
頑張ってね!!

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