年末ですね!!
遅れてしまい、申し訳ないです!!
てなわけで、どうぞ!!
「退きたまえ!!」
人だかりをかき分けてルイーズは、傷だらけで倒れている男に駆け寄る。
遅れてベイカー達が駆け寄る。
傷だらけの男の顔を見てベイカーは、目を丸くする。
「お前……!?」
遅れてやってきたエラリィが眉をひそめる。
「あぁ、この前僕に絡んできたうっとおしいやつか」
その男は、あの廊下でベイカーとエラリィに絡んできた男だった。
あの時あんなに元気だった男が、今、目の前でボロボロになって倒れている。
その突然現れた非日常の光景にエラリィとベイカーは、ただ立ち尽くしていた。
「クイーン!!君は医務室の先生を呼んできたまえ!!エラリィ!君は地図を持ってきたまえ!ベイカー!君は手伝いたまえ!」
ルイーズは、矢継ぎ早に指示を出す。
「了解です!!」
「はい」
エラリィとクイーンは、直ぐに頷くと食堂を出て行った。
ベイカーは、突然の指名に一瞬頭の中が真っ白になった。
しかし、直ぐに頬をパンと勢いよく叩き切り替える。
「わかりました。指示お願いします」
「水を持ってきたまえ。とりあえず傷口を洗う」
「分かりました」
ベイカーは、そう言うと厨房に行ってで水を汲みに行った。
その間にルイーズは、傷口を確認する。
(傷は多いけど致命傷ってわけじゃあない。これは、痛めつけられたってかんじだねぇ)
「ルイーズ教官、持ってきました」
「サンキュー」
ルイーズは、鍋にたっぷり入った水を受け取るとコップに汲んで傷口にかける。
男は少し痛そうに顔をしかめる。
「君、答えられるかい?」
「………はい」
「座るのと寝るのどっちが楽だい?」」
「寝てる方……です」
「わかった。吐いても窒息しないように回復体位にするよ」
「は………い」
ルイーズは、寝かせると更に質問を続ける。
「いくつか質問するよ。まず、ここがどこだか分かるかい?」
「はい」
「どこ?」
「エレンピオス軍訓練学校」
「君の名前は?」
「スコット」
ルイーズは、顎に手を当てる。
意識ははっきりしている。
受け答えも問題ない。
「息が切れているのは、全力疾走してきたからかい?」
「は………い」
「逃げるためにかい?」
「……………」
スコットは、言い辛そうに目を伏せる。
ルイーズは、眉を潜める。
「答えないなら逃げるために全力疾走したととるよ」
有無言わさずルイーズが言葉を続けるとスコットは、迷った末に頷いた。
まあ、逃げてきた可能性ぐらい分かっていたので、地図を頼んだのだ。
「答え辛い、そして逃げてきた……」
ルイーズの中でこのキーワードを考える。
というより悩まなくても直ぐに分かることなのだが、一応後一押し欲しい。
「ベイカー、本部に連絡したまえ」
ルイーズの言葉にスコットは、目の色を変える。
「ま、待っ………てください!それだけは………」
必死の形相で食い下がる。
「なるほどねぇ」
その瞬間、ルイーズの中で全てが繋がった。
それから息を吸い込む。
「教官権限を発動する!!食事を終えた訓練生も終えてない訓練生も今直ぐここから出て行きたまえ!!例外は、私が仕事を振ったベイカーとエラリィのみ!!」
食堂に響き渡る大声で一気に捲したてる。
突然の指示にポカンとした後、半分の訓練生は動き出した。
残りの半分は、ルイーズに詰め寄った。
「何で、俺たちが出て行かなくちゃ行けないんですか!?」
詰め寄る訓練生の胸ぐらをルイーズは、掴み無理やり自分と同じ目線まで落とす。
その眠たそうな瞳と小柄な身体からは、想像もつかないほどの力に思わず沈黙する。
「けが人、病人のプライバシーのためだ。野次馬根性しかない奴らにこんなところにいられたら迷惑だ」
ドスの効いたその言葉に詰め寄った訓練生は、言葉が出ない。
「分かったら出て行きたまえ!早く」
訓練生達は不平不満をぐちぐちと言いながらも食堂を出て行った。
残ったのは、ルイーズとベイカーのみだ。
「私達が呼び出し組じゃなくてよかったよかった」
「呼び出し組?」
「希望者が定員を超えた隊の教官は、今日から本部で選別を行うんだ」
ルイーズとクイーンは、残っているが気にしてはいけない。
ベイカーは、咳払いをして誰もいなくなった食堂を見渡す。
「それにしても教官権限なんてそんなものがあるんですね」
ベイカーが感心していると、ルイーズは、どうでも良さそうに口を開く。
「そんなものない。今勝手に作った」
「教官は、そういうこと言ってるから今日、ここにいるんですよ」
ジトっとした目のベイカーに構わずルイーズは、スコットに尋ねる。
「君、監禁されていたね」
ルイーズの言葉にスコットは、頷く。
「でも、それを自分から言わない、本部に連絡を入れられるのを嫌がる。
この二つから考えられるのは、一つだよねぇ」
ルイーズは、そう言って言葉を続ける。
「君、何かやらかしたね。大丈夫誰にも言わないから言ってごらん」
ルイーズが優しくそう促すとポツポツ話していく。
どうやらまとめると規則を破って門限後に友人達と寮を抜け出し、飲みに出かけていたようだ。
ここまでならまだ良かった。いや、良くは無いが最悪でなかった。
問題はその後だ。
その飲み屋でどうも裏社会の人間に絡んだらしい。
自分達は軍の人間なのだから、反抗されないだろうと思っていたようだ。
だが、予想は大きく外れその場でボコボコにされた挙句拉致監禁となり、隙をついてスコットだけ逃げてきたというわけらしい。
「バカだねぇ、軍属ってだけで犯罪者共がひれ伏すなら憲兵の連中が殉職なんてするわけないだろう?」
ため息を吐いた後、ルイーズは、再度質問を続ける。
「友達と飲みに行って監禁されて、君だけ逃げてきたと言っていたね?監禁されているのは、後何人だい?」
「二人………です」
「場所は?」
「逃げるのに必死で…………どこだか………」
ルイーズは、顎に手を当てて考え込む。
「何か、他はないかい?景色を覚えていないなら、何か聞こえたとか?」
ルイーズの質問にスコットは、考える。
「………そう言えばチャイムの音が一回聞こえました、キンコンカーンコーンみたいな」
「それ、何時?」
「そこまでは………」
「陽射しは、弱かった?強かった?」
「………強かったです」
「山道を走ったかい?」
「いいえ。ずっと石畳でした」
ルイーズが質問を繰り返していると食堂の扉が開かれた。
「やあ、待ってたよ、エマ先生、エラリィ、クイーン………と」
そこには、男が一人いた。
ルイーズは、心底驚いた顔をする。
「
「クイーンが呼び出しサボりやがったから、わざわざ呼びに来たんだ」
ルイーズは、ジロリとクイーンを睨む。
「君、今朝呼び出しはないとか言ってなかったかい?」
「さあ?それより、具合はどうですか?」
「君、後で覚えておきたまえよ」
ルイーズは、そう言うとエマに向かって歩いていく。
「場所、名前、それと簡単な受け答えも出来ます。ただし、切り傷打撲多数。膿んできているものもあり、呼吸は落ち着いてきましたが、吐瀉物がつまらないように回復体位を取ってあります」
「分かりました」
エマは、ルイーズの状況報告に頷くとスコットの近くに駆け寄った。
「ジランド長官。ルイーズから報告です」
ルイーズは、かしこまって敬礼をしながら続ける。
「そこのスコットですが、飲食店でトラブルを起こし、共に行動していた残り二人と共に拉致監禁にあいました。スコットだけ逃走。他の二人は、未だ監禁中です。救助の応援を要請します」
ルイーズの報告をスコットは、信じられないものを見るような目をしながら聞いていた。
ルイーズの真剣な声音にジランドを頷く。
「わかった。本部に報告する」
「ま、…………!」
スコットの言葉を聞くことなくジランドは、食堂を出て行った。
エマは、スコットを支えながら立ち上がらせる。
「とりあえず医務室で手当てするわ、こっちに…………」
立ち上がったスコットは、ルイーズに詰め寄る。
「約束が………違う!!教官が………誰にも言わないからって、それを信じて俺は話したんだ!!」
「女の嘘を信じてるようじゃ、男として二流だね」
詫びれもせずにしれっと言うルイーズにスコットの顔は更に険しくなる。
「テメ………」
「君は何を心配しているんだい?」
「聞いてなかっ………たのかよ、罰則が」
「だとしたら、君は救いようもない阿呆だねぇ」
思い切り軽蔑した目でルイーズは、続ける。
「君が今、心配すべきは友人の命だろう?友人達を救うためには、当然だけど人手がいる。人手を要請するためには、報告しなくちゃいけない」
「………でも」
「罰則と人の命、そもそも天秤にかける方がおかしいだろう?」
ルイーズは、そこまで言うと感情覆い隠し、そして、挑発するような胡散臭い笑みを浮かべる。
「私は、何か間違ったことを言っているかい?」
反論する隙を何一つ見せないルイーズの言葉にスコットは、押し黙ってしまった。
「行くわよ」
エマにそう促されスコットは、食堂を後にした。
パタンと扉を閉じる音が食堂に響き渡る。
「………教官……食堂から俺たち以外追い出したのって………」
「他の訓練生に聞かれたら彼の居場所がなくなっちゃうだろう?」
ベイカーの言葉にルイーズは、どうでも良さそうにそう返すと椅子に座る。
「何で僕たちの前であの報告をしたんですか?」
エラリィの質問にルイーズは、きょとんとした顔をする。
「君達はここにいるメンバー以外に話す相手がいないだろう?」
そのあまりに失礼な物言いに一行の額に青筋が浮かぶ。
「それは、ルイーズとベイカーだけです。私達と一緒にしないでください」
クイーンの不満気な様子に驚いた顔をする。
「ありゃ?クイーンは、ともかくエラリィにもそんな相手がいるのかい?」
「教官?何で俺のことを否定しないんですか?」
「居ても喋りませんよ。それぐらいの分別はつきますから」
「あれ?無視?あと、エラリィ。お前も反論して欲しいんだけど」
ベイカーの不満に構わずルイーズは、ポケットから手帳を出し先ほど聞いたことを箇条書きにする。
「さて、エラリィ、地図あるかい?」
「ええまあ」
エラリィは、そう言って先ほど持ってきた地図をルイーズに渡す。
「市街地図ですけど、いいですか?」
「十分。それを待っていたぐらいだからね」
ルイーズは、受け取った地図を広げた。
「さて。突然で悪いけど今から監禁されている二人の救出に向かおうと思う」
ルイーズの言葉にベイカーは、目を丸くする。
「………今なんて言いました?」
「救出。とりあえず私の隊員のベイカーは、参加決定。エラリィとクイーンには、協力を要請したいんだけれど、いいかい?」
「分かりました」
「まあ、そうなるだろうなって思っていたので別にどうってことないですよ」
協力する側が簡単に了解してしまい、肝心の隊員であるベイカーがついていけてない。
「あの………本部に応援を要請したんですよね?何で俺たちも?」
「本部のメンバーには、ローラー作戦でもやってもらって、私達は私達で別ルートから探してみようって寸法さ」
得意気に胸を張るルイーズにベイカーは、少しだけ怪訝そうな顔だ。
「あんなこと言われても助けに行くんですか?多分捕まってる二人も教官のこと嫌ってると思いますよ」
スコットに詰め寄られたルイーズを思い出す。
あの詰め寄り方はルイーズが嘘を吐いたというのももちろんあるが、それだけでは詰め寄ったりしない。
詰め寄ってもいい人間だと、認識しているからこそ出来たことなのだ。
あの夜の言葉を聞いたベイカーは、どうにも納得が出来ない。
「訓練生の不始末は、私の仕事だからね」
「建前は、了解です。本音は?」
ウィンクするルイーズにクイーンは、じとっとした目を向ける。
そんなクイーンに詫びれもせずルイーズは、胸を張る。
「試したくなって!」
「………何を?」
不思議そうなベイカーにルイーズは、いたずらを思いついたような顔をしながら答える。
「私達の実力」
ルイーズは、クイーン、ベイカー、エラリィを見ながら自慢げに胸を張る。
「ここにいるメンバーなら、多分誰よりも早く助けられると思うんだ」
ポカンとしているベイカーの肩をルイーズがバシッと叩く。
「やってみようゼ、ベイカー。私達なら、絶対出来る」
叩かれた肩を抑えながらベイカーは、何とも言えない顔をしてエラリィとクイーンをみる。
エラリィは、肩をすくめる。
「可能性があれば試したくなるのが、研究者ってものだ」
ルイーズの質問にベイカーは、大きくため息を吐く。
特に断る理由もない。
やらなかった後悔ややった後悔よりも出来たかもしれない後悔の方が数倍達が悪いのだ。
「分かりましたよ。それで、俺は何をすればいいんですか?」
ルイーズは、にまりと笑う。
エラリィとベイカーは、怪訝そうな顔をする。
対照的にクイーンは、頭痛を堪えるように額を押さえる。
長い付き合いクイーンは、この笑みを何度も見てきた。
(これは、アレです…………)
「それじゃあ、ベイカー、君が場所特定したまえ」
(悪巧みしてる時の顔です………)
ルイーズは、そう言ってスコットから聞き取った手がかりの紙を渡す。
「へっ?は?…………うぇえええええええ!?」
突然の司令にベイカーは、目を白黒させる。
「いや、無理です!嫌ですよ!!俺に出来るわけないじゃないですか!!」
「出来る出来ないじゃない、やれと言っているんだよ?」
「いやだから、出来ないことはやれないって言ってるんです!!」
こんなにベイカーが必死だというのにルイーズのニマニマ笑いは、消えることはない。
「そうそう言い忘れてたけどねぇ」
ルイーズは、更に言葉を続ける。
ニマニマと笑いながらルイーズは、人差し指を口元に持っていく。
「教官権限はないけれど、隊長命令はあるんだよ、ベイカー君?」
タチの悪さはホームズ以上です。
今年は振り返ると中々色々ありました。
1人と1匹のエクシリア編の完結、止まる更新。
如何にゼロから作るのかが大変か改めて分かりました。
何とか更新していきたいので来年もよろしくお願いします!!
では、また外伝10で( ̄▽ ̄)