教官   作:takoyaki

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外伝87です!!



ぐらんぶる見てきました!!



笑った笑った!!


てなわけで、どうぞ


グランツ音楽祭
「「そんなことは分かってる」」


 「それで、お前は何をしようとしてるんだ?」

 「え?料理だけど」

 麺切り包丁をもって当然というような顔つきで肉を切り始めた。

 「今すぐ出てけ!!つーか、お前はもうキッチンに立つな!!忘れてねーからな!!あの、甘ったるいミネストローネ!」

 「砂糖と塩を間違えただけじゃあないか」

 「あの甘さになるまでの砂糖と同量の塩を入れようとしていたんなら、それはそれで、問題だ!!」

 「文句の多い………じゃあ、誰が料理するんだい?」

 ルイーズに言われ脳裏によみがえるのは、クイーン隊各々の料理。

 唯一まともな料理を作るクイーンは、金を湯水のように使うのであまり台所に立たせられない。

 「あーもう!!分かったよ!!あたしが作ってやる!!クイーン隊の台所番は、あたしだ!!」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 「───なんて、やりとりから早一ヶ月、私は感動してるです」

 クイーンは、泣きながらスカーレットの作った肉じゃがを口に運ぶ。

 「美味しい………やっぱり、料理はこうあるべきです」

 ちなみにご飯を炊くのだけは、エラリィがやっている。

 「それは、どうもッス」

 よって、台所からベイカー、クイーン、そして、ルイーズは、完全に追い出された。

 「納得いかないんですけど、教官と隊長は、ともかくなんで、俺まで追い出されてるんですか?」

 「胸に手を当てて考えたまえ。毎度毎度、肉野菜炒めと塩味だけの煮物なんて耐えられないんだよ。だしの取り方も知らないだろう、君」

 「えぇ。教官と同じですけどね。ついでにいうなら、教官、アクの取り方知りませんでしたよね?」

 「ハイハイ、ストップです。二人とも」

 今にも頰のつねり合いを始めそうな二人を肉じゃがを泣きながら食べていたクイーンが止める。

 「クイーン隊長、おかわりは?」

 「ください」

 クイーンからお茶碗を受け取ったエラリィは、炊き立ての白米を盛り付ける。

 「ありがとうございます」

 ご飯を受け取ると再び肉じゃがと一緒に食べ始めた。

 「つーか、ルイーズ、てめぇ、菓子作りはあんだけ出来るくせに何で、料理になると途端にダメなんだよ」

 半眼を向けながら尋ねるスカーレットにルイーズは、小首を傾げる。

 「さあ?」

 「味見しないくせに分量守らないからですよ」

 「致命的じゃねーか」

 クイーンの合いの手にスカーレットは、眉間にしわを寄せる。

 ルイーズは、目をそらす。

 そんなやりとりをしているうちにクイーンは、自分の目の前の皿を空にした。

 「さて、ベイカー、エラリィ、それとスカーレット」

 クイーンは、三人に書類を一枚ずつ渡す。

 「何だこれは?」

 「新人研修の通知です。訓練生を卒業したメンバーが対象です」

 通知に書かれた日付を確認すると一週間後だった。

 「来週?」

 「そ。来週です」

 「あれ?そう言えば、私達も来週、本部に呼び出しかかってなかったっけ?」

 「そうですよ。なので、エラリィ達と一緒に本部に向かうです」

 そんな風に着々と予定を詰めていく二人。

 「内容が『新人の基礎能力向上』としか書かれてないので、何するんだか謎なんだが……」

 「教官の時って、何しましたか?」

 困惑するエラリィに代わり、ベイカーがルイーズに尋ねる。

 ルイーズは、自分の前にある肉じゃがをつつきながら考え込む。

 「確か、戦闘訓練だったよ。部隊ごとに戦闘したりして、それで得点を競った」

 ルイーズの返答を聞いたベイカーは、目を輝かせる。

 「なるほど!!なら、何の問題もないですね!!」

 「何故だ?」

 「だって、俺たち何度も切り裂きジャックと戦っているんだよ。そんじょそこらの奴らなんて目じゃないでしょ?」

 ベイカーは、エラリィからの質問に胸を張って答える。

 「おまけに今回、スカーレットもいるし」

 軍としての日は浅くとも実力は折り紙付きだ。

 突然、ベイカーから話題を振られて少し戸惑うスカーレット。

 「ついでに言えば、同期の連中は、俺たちのことをなめてる」

 「へぇ………その心は?」

 「『油断されてる』、これ以上のアドバンテージは、ないんですよ!!」

 「流石。初対面で私のことナメて掛かってきて、私にフルボッコにされた君が言うと説得力が違うね」

 「ヴッ…………」

 「あぁー、あったな、そんなこと」 

 過去の黒歴史を指摘され、胸を押さえるベイカー。

 そんなベイカーを見ながらエラリィは、懐かしむように頷いている。

 「私、隣で訓練していたので、見ていたんですけど、久々にやべぇ命知らずが来たなって思ったんですよね~」

 「あぁー!!聞こえない!聞こえない!聞こえないぃぃぃぃいいい!!」

 (えぇー……………)

 叫ぶベイカーに困惑するスカーレットを余所にその日の夕食は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 一週間後。

 

 

 

 「えー、今回の新人研修は、」

 マイクを持ち司会をする軍人。

 「『文書の書き方』です」

 ベイカーの思考が停止した。

 「あれ?教官の話と違くない?戦闘訓練は?」

 「お前、あの話信じたのか?」

 隣でエラリィは、呆れながら指を一本立てる。

 「教官は、研究者兼技術職で入ってるんだ。そんな教官の新人研修がいきなり戦闘訓練なわけないだろ」

 つまり、ルイーズは、大嘘を付いていたのだ。

 ベイカーの脳裏に人のことを馬鹿にするルイーズがチラつく。

 「あのクソ教官!!」

 「そこ、うるさいぞ!!静かにしろ!」

 「…………すいません」

 ベイカーは、小さくなる。

 ベイカーの謝罪に軽く頷いた軍の人間は、説明を続ける。

 作成する文書の重要性とよくある間違いなどについて懇々と説明された。

 「さて、以上のことを踏まえて皆さんには、文書を作成してもらいます。それぞれの机の上に例題がありますので、それを元に報告書を作成してください」

 机の上には箇条書きにされた情報たち。

 見ると、暴漢を確保したことについての情報だ。

 それを報告書としてまとめればいいようだ。

 ベイカーは、眉間をもみながら考え込む。

 「ねぇ?こんな研修やる意味あるの?こんなことするなら、武術とか射撃の訓練やった方がよくない?」

 「お前は、クイーン隊長と教官みてもそんなこと言えるのか?」

 めちゃくちゃするルイーズとそれの辻褄合わせをやるために涙目になりながら報告書を作るクイーン。

 そして、クイーンの作った報告書をクマを作りながら添削するルイーズ。

 「………………そうだね。やっぱり頑張ろうかな」

 「僕達もいずれ部下を持ったときに痛い目見るだろうからな」

 決意を新たに固める二人を見て、スカーレットは、頰を引きつらせる。

 「ちょっと前まで学生だったからよく分からねーけどよ、報告書って本来そういうモノじゃねーだろ」

 本来は、事件のことを報告し、記録を残すためのモノだ。

 決して辻褄合わせのためにやるモノではない。

 「「そんなことは分かってる」」

 死んだ目をして声を揃えて答える二人にスカーレットは、社会の厳しさを目の当たりしにした。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 「さて、三人はどうかな?」

 「本当、性格クソですよね」

 ことの顛末を見守り、オチまで見通していたクイーンは、あきれ顔でため息を吐く。

 そんな二人は、会議室にいた。

 二人以外にもそれなりに軍の人間がいる。

 ルイーズは、辺りを見回しながら首を傾げる。

 「何だか、隊長格ばかりだねぇ…………ますます、私がここにいる理由が分からないんだけど」

 元教官。隊長の資格はもうない。

 そんな自分がこの面子と混じって呼び出される意味が分からないのだ。

 クイーンとルイーズを遠巻きに見ながら、隊長達はこそこそと話していた。

 ルイーズは、そんな彼ら彼女らに一瞥をくれて肩をすくめる。

 「おやおや、随分人気者だねぇ。私達」

 元々、軍の鼻つまみ者である二人だ。その癖切り裂きジャック関係で功績を挙げている。

 これで、何も言われない訳がない。

 「そりゃあ、そうでしょう」

 クイーンが胸を張る。

 「忘れてないですか?私はモテるんですよ?」

 「忘れてたよ。君、結構そういうところあるよね」

 呆れたようにため息を吐くルイーズ。

 そんな会話をしていると、会議室にジランドともう一人、恐らく上層部の金縁眼鏡をかけた人間が入ってきた。

 二人が入ってきただけで会議室の空気に緊張感が走る。

 「それでは、定刻となったので会議を始めさせてもらう」

 ジランドは、席に着くと会議を始めた。

 「今回の議題だが、」

 「ジランド、それは、私から話そう」

 そういってもう一人がジランドの後を引き継ぐ。

 「二ヶ月後にエレンピオスでグランツ音楽祭があるのは、知っているな?」

 座っている隊長達が頷く中、ルイーズが首を傾げる。

 「(何それ?)」

 「(……国を挙げての音楽祭です。プロ、アマ問わず、多数の参加者がある、エレンピオスの中でも最大の音楽祭ですよ)」

 「(へぇ………)」

 小声で尋ねるルイーズにクイーンか簡潔に伝える。

 「(というか、ルイーズ、ピアノ弾けるくせにどうして知らないんですか?)」

 「(別に弾けるだけだもの)」

 どうでもいい会話を繰り広げる二人に構わず、上層部の人間は続ける。

 「諸君には、そこの警護にあたってもらいたい」

 (まあ、そういう話だよねぇ)

 ルイーズは、特に驚きもせず淡々と聞いている。

 (ただ、それにしたって、なんで私をここに呼んでいるんだ?)

 「それと、ルイーズ隊員」

 「へ?はい」

 考え事をしていたルイーズは、直ぐに現実に引き戻される。

 『隊員』という言葉に少しだけ嫌な笑いがあがるが、ルイーズは、特に気付かないフリをして指令を聞く。

 「君には、出演者(ヽヽヽ)としてこの音楽祭に参加して欲しい」

 「………へ?」

 「ルイーズ、テメーなんだそのナメた返事は」

 ジランドにジロリと睨み付けられたルイーズは、顔の前で手を振る。

 「いやいやいや!だって、おかしいじゃないですか!!なんで私がこんなことをやる羽目になるんですか!!」

 「プロ、アマ、問わずのお祭りなので、(ウチ)としても是非イメージアップも兼ねて君にも出て貰おうという話になった」

 「(ウチ)は、音楽隊がいるでしょう?そういうことだったら、私が出る必要ないじゃあないですか」

 「最初からプロの腕前を持っている人が出ても意味はない。君のような一般人が出ることこそ意味があるんだよ」

 そこまで言われたルイーズは、沈黙する。

 『欲しい』とは言われているが、事実上の上官命令だ。

 「あ、あのー、その話私も初耳なんですけど………」

 控えめにクイーンが手を上げる。

 クイーンがそう言うと上層部の人間は、ニコリと笑う。

 「あぁ、隊長の君に通さなかったのは悪かったね。こちらとしても急遽決まったことなんだ」

 クイーンにそう返答をすると再びルイーズの方を向く。

 「さて、そういうわけなんだけど、受けてもらえるか?」

 腕を組んで成り行きを見守っていたルイーズは、腕を解き立ち上がる。

 

 

 

 

 「はっきり言ったらどうですか?囮役をお願いしたいって」

 

 

 

 

 

 

 ルイーズのその返事にジランドとその上官は、表情を凍らせた。

 「まさか、バレないとでも思ったんですか?」

 二人の表情を見ると呆れたようにため息を吐く。

 「そもそも、私は、あの事故の原因として実名報道されているんですよ?そんな私が、軍の名前背負って演奏したところでイメージアップになんてなるわけがない」

 ベイカーが探し出した記事には当時未成年にも関わらず実名で報道されていた。

 だからこそ、ベイカーとエラリィは、あの事故のことを知っているのだ。

 「囮って………まさか!?」

 息を呑むクイーンにルイーズは、頷く。

 「私は、切り裂きジャックに狙われている。だから、切り裂きジャックをおびき出す囮として、この音楽祭に出ろと、つまりはそういうことでしょう?」

 ルイーズの発言に会議室がざわめきだす。

 ただの警護ではない。

 いつの間にやら、切り裂きジャックを捕まえるための作戦に変わっているのだ。

 当然と言えば当然の反応だ。

 上層部の人間は、明らかに狼狽したように口を開こうとする。

 しかし、それより先にジランドの方が口を開いた。

 「だったら、何だ?何が問題だ?お前は、軍人だ。囮役として命をかけて切り裂きジャックを捕まえる。その過程に何の問題がある?」

 「強いて言うなら、それを伏せていたことでしょう?しかも直属の隊長も通してない」

 肩をすくめながらやれやれといった感じのルイーズは、更に続ける。

 「ま、私に囮役なんてやらせれば何要求されるか分かったもんじゃありませんからねぇ?というか、囮役って確か、特別手当が出るはずですよねぇ?」

 『音楽祭の出演者』なら、別に手当なんて出す必要は無い。

 だが、『囮役』となると話は別だ。

 普段より危険が伴う分更に手当が必要だ。

 ジランド達は、それをルイーズだけでなくクイーンにも黙っていた。

 「てなわけで、特別手当をいただきましょう!」

 そういって指を四本立てる。

 「一つ、我が隊へリリアル・オーブの追加。

 二つ、─────────。

 三つ、スカーレット・スヴェントへのリリアル・オーブの返却。

 四つ、我が隊への技術予算の追加」

 ルイーズは、底意地の悪い笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 「これを条件に受けましょう。音楽祭での囮役をね?」

 







また、お祭りです!!


では、また外伝88で

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