遅くなりまして申し訳ありません!!
てなわけで、どうぞ
「指示?」
「そ、指示」
ルイーズは、二人を指さす。
「二人とも、切り裂きジャックと戦ってもらう」
ルイーズの言葉にベイカーとエラリィは、息をのむ。
二人の顔色を見てルイーズは、静かに頷く。
「ベイカーみたいに逃げ切るのも決して間違いじゃあない。でも、軍服を着て、切り裂きジャックを追う以上、いつか、逃げることが許されない時が来る」
ベイカーもそれは、自覚していた。
二回とも逃げるという選択肢が許されていた。
だが、後ろに国民がいて、なお且つ目の前に切り裂きジャックが居たとき、その時は、決して逃げるという選択肢は許されない。
「何より、タチの悪いことに切り裂きジャックの狙いは私だからね。他より君達はその機会が多い」
ルイーズは、淡々と続ける。
「もし、その時が来たとき、立ち向かえる力が無ければ君達は死んでしまう」
「つまり、これは、その時のための練習と言うことですか?」
ベイカーの質問にルイーズは、指を横に振る。
「頭に『命がけの』が着くよ」
ルイーズは、そう言うと肩をすくめる。
「ま、とはいえ、君達の安全も可能な限り配慮するよ」
「というと?」
「君達は、クイーンと一緒に戦いたまえ」
ルイーズは、そう言うと更に続ける。
「クイーンは、リリアルオーブ持ちだし、それに実力だって申し分ない。君達二人と連携を組めば倒せ───」
「却下です」
全て言い切る前にルイーズ言葉をクイーンが遮った。
「ある程度好きにさせてきたつもりですけど、ここまでですね」
クイーンは、そう言って続ける。
「いくら私にリリアルオーブがあるからと言って二人をフォローしながら戦うとか無理です」
そこまでいうとクイーンは、ルイーズを見る。
「だから、私が組むのはエラリィです。戦闘経験が乏しいんですから、リリアルオーブ持ちの私と組んだ方がバランスがいいでしょう?」
「………なら、私はベイカーとかい?」
「えぇ。逃げの一手とは言え切り裂きジャックとの戦闘経験ありのベイカー一人のフォローなら、いくらリリアルオーブがないとはいえ、どうにかなるでしょう?」
ルイーズは、腕を組む。
「………まあ、たぶん」
薄ぼんやりした返事をするルイーズをクイーンがジロリと睨み付ける。
「分かってるでしょうね、ルイーズ」
ルイーズは、大きくため息を吐く。
「分かってるよ」
そう言うと二人の肩をパンと叩く。
「そんじゃあ、二人とも根性いれたまえよ」
◇◇◇◇◇
「うおおぉら!!」
エラリィが職員室の扉を叩き飛ばして学園長室に飛び込む。
エラリィは、その勢いのまま柄の長いハンマーを切り裂きジャックに向けて放つ。
切り裂きジャックは、一歩後ろに下がって躱す。
「新手ですか!」
代わりに床が派手にひび割れた。
飛び散る破片。
切り裂きジャックは、一歩下がったところで足を踏みかえ、サーベルを水平に繰り出す。
「瞬迅剣」
「────っ!!」
繰り出される突き。
エラリィは、ハンマーに力を込め、地面に食い込ませる。
そして、それを使って棒高跳びのように跳びあがり、切り裂きジャックの頭上に逃げた。
「魔神剣!!」
エラリィが宙にいる間にクイーンが斬擊を放つ。
宙にいるエラリィに一瞬気を取られたサーベルの切り裂きジャックは、足下を掬われる。
「くっ!!」
態勢を崩したサーベルの切り裂きジャックにクイーンが距離を詰める。
迫るクイーンの刀を何とか、態勢を崩しながらもサーベルで防ぐ。
「っ!!剛招来!!」
紅い闘気がクイーン包み、態勢を崩したサーベルの切り裂きジャックを隣の職員室まで吹っ飛ばした。
「エラリィ、私のフォロー出来そうですか?」
「あいにく、僕の武器は一撃筆頭の武器だからなぁ」
「なら、私がフォローするです」
クイーンは、ゆっくりと刀を構え、エラリィの背中を軽く叩く。
「さあ、追うですよ」
「当然だ!!」
◇◇◇◇◇
「ナイスタイミングだよ、ベイカー」
ベイカーは、切り裂きジャックのレイピアを十手で弾き飛ばす。
十手の持ち手に巻き付けられ、余った紐がその衝撃で揺れる。
「教官が呼んだんでしょう」
「まあね。ナイスタイミングだろ?」
「というか、俺いつから教官の弟子になったんですか?」
「君の気付かないうちさ」
胸を張るルイーズに軽くイラッとしながらベイカーは、右手で拳銃を構える。
「サイレンサー付きか」
ベイカーの拳銃を見てレイピアの切り裂きジャックは、目を細めた。
「まあね。教官がうるさいから」
「銃声させるわけにいかないだろう?」
ルイーズは、肩をすくめる。
そして、床にへたり込んでいるスカーレットと向き合うように腰を下ろして優しく抱きしめる。
「もう少し待っていておくれ」
スカーレットから離れ、静かに立ち上がる。
「君の未練は私達が引きちぎってあげるから」
ルイーズは、レイピアの切り裂きジャックを睨み付ける。
「出来ない約束は、嘘と言うんだ」
レイピアをゆっくりと構える。
「出来る出来ないじゃなくて、やるって言ってんの」
ベイカーの銃口が火を噴いた。
レイピアの切り裂きジャックは、弾道を見切って躱し、ベイカーに突きを繰り出す。
ベイカーは、もう片方の手で持っていた十手で迫るレイピアを弾く。
間髪を入れず、ルイーズがベイカーの肩を足場にして空中に躍り出た。
「だぁっら!!」
そして自分の体重を重力に乗せてレイピアの切り裂きジャックに叩き込んだ。
「剛招来!!」
しかし、ルイーズの拳が届く瞬間、切り裂きジャックを紅い闘気が身を包む。
ルイーズの拳は、切り裂きジャックの紅い闘気に弾かれた。
「ちぃっ!!」
床を転がりながら、ルイーズは、立ち上がり構えようとする。
そんなルイーズの顔面を切り裂きジャックが蹴り飛ばす。
ルイーズは、教室のロッカーに背中をしたたかに打ち付けた。
背中から肺に賭けて衝撃が走る。
「この手応え…………」
切り裂きジャックは、咳き込むルイーズと蹴った足を交互に見る。
ルイーズは、顔からゆっくりと交差した黒い手袋をどかした。
「それ、手袋ですよね?どうして鉄みたいな手応えなんですか?」
「どうしてだろう─────ねっ!!」
ルイーズは、近くにあった椅子をレイピアの切り裂きジャックに向かって放り投げた。
レイピアの切り裂きジャックは、躰を僅かにずらして躱し、ルイーズに向かって距離を詰めようとする。
その瞬間、サイレンサーにより押し殺された甲高い銃声が響く。
放たれた銃弾は、ルイーズの投げた椅子に当たった。
銃弾の当たった椅子は、レイピアの切り裂きジャックの避けた方に軌道を変えた。
「っつ!!」
最小限の動きで避けたことがあだとなった。
鈍い音と共に椅子がレイピアの切り裂きジャックに当たる。
「やるじゃあないか」
素直に驚くルイーズ。
(驚きたいのはこっちだよ)
この場にいる誰よりもベイカー自身が驚いていた。
だが、それを顔に出さない。
この場で誰よりも実力の劣るベイカーは、弱味を見せない。
出来て当然という顔のまま、十手をレイピアの切り裂きジャックに振るう。
レイピアの切り裂きジャックは、迫る十手をレイピアの柄の装飾で受け止めた。
「くっ!!」
硬直状態になる二人。
その隙にルイーズが拳で殴り付ける。
(くそ!分かってはいた!!分かってはいたけども!!)
「なるほど、リリアルオーブがないのが悔やまれますね」
剛招来をしたレイピアの切り裂きジャックには、大きなダメージにならない。
レイピアの切り裂きジャックは、まず、ベイカーを蹴り飛ばし、その行動に一瞬気を取られたルイーズを殴り飛ばした。
「っつ!!」
「うっ!!」
二人とも先程片付けた文化祭の小道具やゴミに突っ込む。
「転校生!!」
スカーレットの悲痛な声が夜の教室に響き渡った。
切り裂きジャックは、つま先でトントンと床を叩く。
「さて、まずは」
そう言って、ルイーズに向かって突撃した。
その瞬間、チャキリと銃口の上がる音が響く。
その音に思わず一瞬警戒し、ルイーズへの突撃を止めた切り裂きジャックにベイカーの銃弾が撃ち込まれる。
ゆっくりと上体を起こしながら撃ち込まれる、銃弾。
「くっ!!」
切り裂きジャックは、何とか躰を捻って躱す。
(くそ!!まずは、あいつからやるべきでしたか!)
切り裂きジャックは、ベイカーにターゲットを変更する。
まさか一切狙いも付けず的確に進路を阻んでくるとは思わなかったのだ。
「瞬迅────」
「おい」
不機嫌そうな声と共にルイーズは、切り裂きジャックを殴り付けた。
「君のせいで私、コーヒーまみれなんだけど」
その自分の攻撃が通らないことなど一切気にしない一撃は、切り裂きジャックを黒板に叩きつけた。
(チャンス!!)
ベイカーは、拳銃を構え、思わぬ衝撃に一瞬息の詰まった切り裂きジャックに狙いを定め、引き金を引いた。
次の瞬間、ガチンという少し鈍い音が響く。
銃弾が出ない。
(弾切れ………いや!)
弾は込められている。つまり、
「弾詰まりだな」
切り裂きジャックは、一歩で距離を詰める。
「散沙雨」
「ベイカー!!」
繰り出される連続の突き。
それと同時にルイーズは、ベイカーの腰に飛びついた。
飛びつかれたベイカーは、態勢を崩し床に背中から落ちる。
仰向けのベイカーの前を無数の突きが過ぎる。
ルイーズが飛びついてくれなかったらどうなっていたかと思うと背筋が凍る。
背中から落ちたベイカーは、そのまま床を少し滑る
「────っ」
突然の衝撃に顔をしかめながら、自分の腰に抱きついてるルイーズを見る。
ルイーズの肩からは、血が流れていた。
恐らくベイカーを庇った時に僅かに食らったのだろう。
「教官!血が!!」
「かすり傷だよ」
「でも!!」
「いつもよりは、大分マシだろう?」
「……………なんて無駄な説得力でしょう」
「納得してくれて嬉しいよ」
そう言いながらルイーズは、ベイカーの拳銃を見る。
「弾詰まりかい?」
「えぇ。あ、因みに言っときますけど、ちゃんと整備してましたからね」
「そこは疑ってないよ」
ルイーズは、そう答えながらも渋い顔を崩さない。
実力にしろ、マグレにしろ、ベイカーの拳銃のおかげで何とかなっていた。
「予備の拳銃は?」
「ないです。教官は?」
「私もない」
クイーンがいたら二人とも大目玉を食らっていただろう。
「お話は終わったか?」
切り裂きジャックは、構えたレイピアを繰り出した。
二人は、躱しながら立ち上がる。
目の前にはリリアルオーブ持ちの切り裂きジャック。
対するは、リリアルオーブのない二人組。
ルイーズは、手袋の裾を引っ張る。
「愚痴ってても仕方ない、根性見せたまえよ、ベイカー」
「了解!!」
◇◇◇◇◇◇
夜の職員室。
先行してエラリィが踏み込んだ瞬間、サーベルが振り下ろされた。
「ふんぬ!!」
エラリィは、ハンマーのヘッドで受け止める。
サーベルの切り裂きジャックは、直ぐにサーベルを返すとエラリィに向かって振り抜いた。
「瞬迅剣!!」
サーベルとエラリィの間にクイーンの刀が割り込む。
鉄同士がぶつかり合い、独特の甲高い音が響く。
「虎牙破斬!!」
割り込んだ勢いそのままにクイーンが技を放つ。
切り上げと空中からの振り下ろしをサーベルの切り裂きジャックは、後ろに大きく飛んで躱した。
下がった時に軸足の左足に力を込め、クイーンに突撃するサーベルの切り裂きジャック。
そんなサーベルの切り裂きジャックにエラリィが近くにあったチューブファイルを投げつける。
突進し、勢いの殺せないサーベルの切り裂きジャックにまっすぐ向かってくるファイル。
「こざかしい!!」
サーベルの切り裂きジャックは、迫るファイルを切って捨てた。
ファイルの影からクイーンが現れ刀を振るう。
クイーンは、エラリィの投げたファイルを目眩ましに利用したのだ。
「だから、こざかしいと言っているでしょう!」
サーベルが迫るクイーンの刀とぶつかり合う。
二人の刃、それぞれがそれぞれの刃に弾かれ、火花を散らす。
力勝負が同等だったことに悔しそうに歯を食いしばるサーベルの切り裂きジャックの横から襲いかかるエラリィ。
サーベルの切り裂きジャックは、空中で一回転して躱す。
標的を失ったエラリィのハンマーは、職員室の黒板を思い切り叩きつけた。
ひび割れ、凹む黒板。
エラリィは、ハンマーを構え直そうとする。
サーベルの切り裂きジャックは、その隙を突いた。
まだ構え終わっていないのに、迫るサーベル。
(ヤバイ!!)
「邪魔です!!」
クイーンは、エラリィを蹴り飛ばした。
「剛招来!!」
そして、紅い闘気を纏い、サーベルを弾き飛ばした。
キャスター付きの椅子まで蹴り飛ばされたエラリィは、少し椅子に乗って進んだ後、そのままひっくり返った。
そんなエラリィを視界の端に捉えながら、クイーンは刀を振り下ろす。
サーベルの切り裂きジャックは、サーベルで受け流した。
受け流されたクイーンは、態勢を崩しながら空中で蹴りを放つ。
放たれた蹴りは、サーベルの切り裂きジャックに当たり、そのまま吹っ飛ばされた。
サーベルの切り裂きジャックは、職員室の机の上に背中から落ち、その拍子に書類が崩れ、宙を舞う。
舞い落ちる書類の中、サーベルの切り裂きジャックは、ピクリともに動かない。
「寝たフリこいて、何を誘っているんですか?」
クイーンは、刀を向ける。
「初老の男の寝顔なんて見てても楽しくないんでとっとと起きてください」
サーベルの切り裂きジャックは、ため息を一つ吐いてむくりと起き上がる。
「バレてたか」
「当然」
クイーンの刀が月光に照らされる。
クイーンが刀の存在感をアピールしている横で、先程蹴り飛ばされたエラリィがゆっくりと回り込む。
サーベルの切り裂きジャックは、肩をすくめる。
「そう初老の男とか言って馬鹿にしないでくださいよ。まったく、貴方がおじいちゃんっ子だったとか信じられませんね」
クイーンの刀がピクリと動く。
「別におじいちゃんっ子は、初老の男が好きなわけじゃないですよ」
表向きは、とても穏やかに告げるクイーン。
「それにね、私のおじいちゃんは、貴方よりずっと素敵でしたよ」
「いやいや、私の方が素敵ですよ」
「は?」
クイーンは、不愉快そうに眉を潜める。
「だって、お前の祖父、フレデリック・リーを殺したのは私ですよ?」
「────────は?」
回り込もうとしたエラリィも思わず足を止めた。
「あれは、笑いました。『わしを殺すな!!孫達にアイフリードの航海日誌の後編を見つけると約束をしたんだ!!』とかずっと喚いてました。ま、鬱陶しかったから直ぐ殺したんですけれども」
ニヤリと笑うサーベルの切り裂きジャック。
対照的にクイーンの顔からあらゆる感情が、一瞬消える。
そして、直ぐに一つの感情が、戻ってきた。
「よせ!!挑発だ、乗るな!!」
エラリィは、自分の役割を忘れ力の限り叫ぶ。
だが、クイーンは、床がひび割れるほどの踏み込みと共に姿を消す。
そして、一瞬で切り裂きジャックまで距離を詰め、斬りかかっていた。
迫る刀を切り裂きジャックは、サーベルで受け止める。
「切り裂きィ……………ジャック------!!」
職員室を震わせるほどの慟哭が響き渡る。
クイーンの攻撃をサーベルの切り裂きジャックに受け止めた事によって今、二人は鍔迫り合いになっている。
(どちらにせよ、やるしかない!)
エラリィは、回り込んでハンマーを奮おうとする。
「剛招来!!」
紅い闘気が更にクイーンを包む。
溢れ出す闘気は、切り裂きジャックだけでなく、エラリィまでも吹き飛ばした。
本棚に突っ込んだエラリィ。
上にその衝撃で崩れた本が降り注ぐ。
「っつう!!」
頭に落ちた本を振り払い、紅い闘気を身に纏うクイーンを睨み付ける。
「おい!!それは、重ね掛けしていいものなのか!!」
エラリィの質問など耳に入っていない様子のクイーンは、そのまま切り裂きジャックと戦闘を再開する。
その激しい戦闘にエラリィが、入れる余地などない。
(それで勝てるならそれでもいいが………)
怒りは原動力だ。
だが、自分の力量以上の力を引き出してしまう。
(しっぺ返しが必ず来る、そうならないように僕がフォローしないといけないのか?)
リリアルオーブがない、というのもあるが、それ抜きでもまだ、実力ではクイーンには及ばない。
(そんな僕に出来るのか?お世辞にも僕の武器は、フォローには向いてない)
鬼の形相で切り裂きジャックと切り結ぶクイーン。
(だが、やるしかない!!僕がやるしかない!!)
────「なら、私がフォローするです」────
「ったく、言ったことには責任持ってもらいたいものだ」
エラリィは、ハンマーを握り締めた。
見えない目撃者見てきました!
すっごく面白かったです。
あんなにドキドキしたのは久々でした