大変遅くなりまして申し訳ありません!!
てなわけで、どうぞ
《ハァッ!》
ルイーズ(着ぐるみ)の拳が切り裂きジャックに襲いかかる。
【く!】
切り裂きジャックは、短剣を交差させて受け止める。
拳を止められたルイーズは、直ぐに拳を引き距離を取る。
(全部演し物にするなら、絶対に─────)
切り裂きジャックの短剣がルイーズに振るわれる。
ルイーズは、一歩引いてかわす。
(斬擊を食らっちゃあ、ダメだ!!)
観客も一人二人と集まってきた。
着ぐるみに切り傷が出来れば、演し物として見なくなる。
もしかしたら、本物かもしれないと考えてしまう。
そうなってしまえばお終いだ。
そうならないためにもルイーズは、いつも以上に神経を張る。
迫る短剣。
ルイーズは、切り裂きジャックの手首を掴み右の拳を放つ。
切り裂きジャックは、摑まれた腕を回し、ルイーズの拘束を解く。
そして、距離を取り短剣を投げる。
ルイーズは、いつものように躱そうとする。
(─────って、ダメだ!それは、ダメだ!)
今、この戦闘は演し物として、加工している。
つまり、普通の戦闘ではいない者がいる。
(観客に当たる!!)
そう、演し物を楽しむ面々がいるのだ。
ルイーズは、慌てて手を伸ばし、宙を舞う短剣を次々と掴む。
(後一つ……………!!)
視界の狭い着ぐるみを必死に動かしながら短剣を探す。
(あった!!)
残りの短剣は、観客の目前のまで迫っていた。
ルイーズは、最後の短剣を掴む。
その曲芸じみた動きに歓声が沸き起こる。
(セーフ……………)
安堵するのもつかの間、切り裂きジャックは、その隙を逃さない。
弧を描いて振るわれる短剣。
態勢の崩れた今のルイーズでは、避けられない。
ルイーズは、手に持った短剣で受け止める。
【ほう、これを防ぐか】
《当然、貴様に復讐するためにどれだけの歳月を過ごしたと思っている?》
突然の切り裂きジャックの台詞にもルイーズは、瞬時に対応し、短剣を弾き返す。
手に持った短剣を捨て、ルイーズは再び拳を固め、切り裂きジャックの胸を殴りつける。
切り裂きジャックは、少し殴られた胸を押さえた後、ルイーズに突っ込んできた。
突き出される短剣。
ルイーズは、短剣を持つ手に拳を金槌を振り下ろすように叩き付ける。
(……………っ、思ったよりきつい……!)
そもそも、着ぐるみは動き回るように作られていない。愛想を振りまくために作られたものだ。
動きづらく、視界も狭く、更に被り物をしているため、息苦しい。
(時間を稼ぐ!!)
ルイーズは、短剣を落とした切り裂きジャックの腕を掴み自身に引き寄せる。
《(おい、いつから私だと気付いていた?)》
切り裂きジャックにだけ聞こえる声で尋ねる。
【お前、伊達眼鏡だろ?】
近すぎるため、ルイーズにしか聞こえない返答。
【お前、涙を拭くとき、眼鏡に手をぶつけていただろ?それは、眼鏡に慣れていない人間がやることだ】
切り裂きジャックは、ルイーズの手を振りほどく。
【後なら】
そして切り裂きジャックが再び向かって短剣を振るう。
【時間稼ぎに付き合うつもりはない!】
(……………こりゃあ、あんまり引き延ばせそうにないねぇ)
ルイーズは、拳を握り込み、切り裂きジャックの顔面に向けて放った。
◇◇◇◇
(どいつもこいつも、イチャイチャと……………)
見張りをしているクイーンは、辟易としながら、ため息を吐く。
因みにクイーンが見張りをしているのは、ハーブだ。
ハーブは、今、ジョンと一緒に行動している。
いわゆる、文化祭デートという奴だ。
そのため、クイーンの近くには、エラリィもいる。
『ベイカーとは、しばらく一緒にいたが、途中で対象が別の場所に移動したから別れた』
エラリィのGHSからのメッセージにクイーンはコクリと頷く。
(それにしても文化祭……………ですか……………)
学生の頃は、クイーンとエラリィは、完全に話もしない間柄だった。
まあ、エラリィではない男性と付き合っていたのだが。
ついでに言うなら、奢ってくれと頼まれたので片っ端から断ったらそのまま別れることになった。
(……………余計なこと思い出したです)
クイーンは、再びため息を吐き、それから、隣にいるエラリィに視線を向ける。
(まあ、ある意味これも文化祭デートですよね)
クイーンが現実逃避をするように無理矢理納得していると、ハーブに一人の女子生徒が、駆け寄って来た。
「ねえねえ!あっちの方でなんか面白いのやってるみたい────あ、ごめん、お邪魔だった?」
二人が仲良さそうにしているのを見て、女子生徒は、申し訳なさそうに目を伏せる。
「いいよ、ぜんぜん。それより、面白いのって何?」
「うーん…………一言では説明しづらいんだよね………お邪魔じゃないんだったら二人とも私についてきてよ」
「私はいいけど」
「俺も」
「じゃあ、こっちこっち!!」
ハーブの友人が二人を先導し、歩き始めた。
エラリィとクイーンもバレないように二人の後に続く。
しばらく歩いたその先には、かなりの人だかりが出来ていた。
その人だかりの中心には、見覚えのある仮面を付けた切り裂きジャックとこれまた見覚えのあるクマの着ぐるみに身を包んだルイーズがいた。
(…………………え?)
エラリィの思考が止まる。
隣を見るとクイーンも引きつった笑顔を浮かべている。
切り裂きジャックの短剣が振るわれ、ルイーズの首に迫る。
ルイーズは、切り裂きジャックの腕にアッパーを食らわせ短剣の軌道をそらした。
「すごいでしょ!さっきからずっとこんな調子なんだよ」
連れてきた女の子は、興奮した様子でハーブに話しかける。
【まだ避けるのか!!】
《当然!母を殺された恨み、ここで晴らさずしていつ晴らす!!》
ボイスチェンジャーのかかった声と声色を変えたルイーズの声が行きかう。
「………………なんか、喋ってない?」
「母熊を殺された小熊が母を殺した狩人に復讐を誓う復讐劇だよ。因みに復讐のために二足歩行になったらしい」
そんな解説を余所にルイーズと切り裂きジャックの戦闘は、更に激しさを増していく。
エラリィは、眼鏡を直す。
(ジョンとハーブは、ここにいる。遠くに見えるのは、ハレだ)
エラリィは、この場にいる人数を数える。
(となると、残りは、スミスとリッパーだ)
隣を見るとクイーンは、エラリィに覗き見防止の壁になるようサインを出している。
エラリィがさりげなくクイーンと周囲との間の壁になる。
『ベイカー、スミスに動きは?』
メッセージを送信すると直ぐに返信がくる。
『ないです。そちらは何か動きはありましたか?』
クイーンのGHSの画面に並んだその文章にエラリィは、眉をひそめる。
クイーンは、ベイカーに返信を打つ。
『ルイーズと切り裂きジャックが交戦中です。幸い、演し物として、乗り切っているのですが、時間の問題です』
クマの着ぐるみを確認すると、少し、肩で息をしている。
(スミスではない、ジョンではない、ハレではない、ハーブではない…………となれば…………)
◇◇◇◇◇◇
ベイカーは、GHSの文面を見ながら考え込む。
(切り裂きジャックと交戦中。それなのにわざわざ俺にスミスの事を聞いたのは、隊長たちが見張りを担当しているメンバーは、全員、動きがないってこと?)
クイーン隊で見張りをしている容疑者候補の面々は、これでシロが証明された。
「なら、あと一人は………」
リッパーだ。
ベイカーは、スミスの見張りをやめ、ルイーズのところへ加勢に向かおうとする。
─────「当たり前のことをちゃんとやりたまえよ。そこをないがしろにすると以外にデカイしっぺ返しが来るんだよ」─────
訓練生時代、ルイーズがベイカーによく言った言葉が脳裏を過ぎる。
「───!」
ベイカーは、足を止め、引き返す。
ルイーズに加勢するよりもまずするべきことがある。
(ここだ。教官が潜入してるクラスは)
画架には、リッパーの描いた看板が飾られている。
教室の扉に手をかけ、ベイカーは、中に入る。
「へ、は、えっと、い、いらっしゃいませ?」
教室には、つっかえながら出迎えるリッパーが一人いた。
(な─────!!)
ベイカー自身いないと思っていた。
ルイーズに言われた通り念のため確認しただけなのだ。
しかし、結果としてリッパーと対面することになってしまった。
「え、えっと、お菓子もあるし、紅茶もあるよ?あ、じゃなかった、えっと、お一人さまですか?」
硬直しているベイカーにリッパーは、ルイーズとスカーレットに叩き込まれた接客の台詞を口にする。
ベイカーは、その言葉にハッとして、首を振る。
「ご、ごめん。間違えて入っちゃった。後で来るから」
ベイカーは、教室から慌てて出ると物陰に隠れ、GHSに文字を打ち込もうとし、手を止める。
周囲に目をこらし、誰もいないことを確認し、小型マイクのスイッチを入れる。
『リッパー、教室にいます』
◇◇◇◇◇◇
『リッパー、教室にいます』
戦闘中のルイーズのイヤホンにベイカーからの報告が届いた。
(わざわざ、リッパーの報告があったってことは、他の四人の裏は取れたってこと?)
『確認取れました。スミス、ジョン、ハレ、ハーブ、全員動きナシです』
そんなルイーズの考えを読むようにベイカーから報告が入る。
(ナイスだ!ベイカー!)
ルイーズは、着ぐるみの中で笑みを浮かべる。
短剣を振りかざす切り裂きジャックをいなし、その後ろに立つ。
(長期使用は無理。なら、一瞬だけ、賭けるべき一瞬だけ起動させる)
ルイーズは、通信用とは別の小型マイクに口を近付ける。
「(カウント5)」
改良を重ね、音声認識機能を搭載したルイーズの疑似リリアル・オーブが淡く光った。
ここから5秒間だけ、疑似リリアルオーブは、動き出す。
《覚悟しろ!!》
ルイーズの拳が切り裂きジャックの顔面を打ち抜いた。
パキンという音と共に切り裂きジャックの仮面にヒビが入る。
切り裂きジャックは、慌てて仮面を押さえる。
《防がなくていいのか?》
ルイーズは、大きく踏み込み、切り裂きジャックの胸に拳を叩き込んだ。
【────────!!】
切り裂きジャックは声にならない声を上げ地面に膝を付く。
その間にも仮面のヒビは、広がっていく。
【く、ここまでか…………】
切り裂きジャックは、そう言うとその場を後にした。
ルイーズは、膝をつく。
5秒たち、疑似リリアルオーブから光が消えた。
《…………今の私では、ここまでか………》
ルイーズは、切り裂きジャックの逃げた方を見る。
《だが、拳は届いた!!次こそは次こそは必ず………》
そこまで言うとルイーズは、スッと立ち上がる。
「はい!てなわけで、『帰ってきた小熊たち、リターンズ』は、これにて終了です!ありがとうございました!!」
ルイーズが声音を戻して一礼すると、周りから割れんばかりの拍手が巻き起こる。
『帰ってきた』で『リターンズ』とか、一匹だけだったくせに『小熊たち』とか、突っ込みどころは満載だが、気にしてはいけない。
「さて、私たちの出し物は、今の劇ではありません!メインは、私たちのクラスの喫茶店です!!」
ルイーズは、そう言って廊下に貼ってある校舎の地図の中から自分のクラスを指差す。
「開祭式で訂正があったかと思いますが、パンフレットに載っていない幻の喫茶店です!ぜひそちらもどうぞ!!」
よく通る声でここぞとばかりに宣伝するルイーズ。
「それでは、皆様、喫茶店で待ってるゼ!!」
ルイーズは、言うだけ言うとその場を後にした。
◇◇◇◇◇◇
ルイーズは、途中の着替えスペースで着替え終え、教室に戻る。
「転校生!!大変だ!!」
教室に入った瞬間、スカーレットがルイーズの手を掴む。
スカーレットの後ろを見ると教室は人で溢れていた。
「おや、すごい人だねぇ」
「感心してる場合かよ!!」
「まあまあ、それより、スカーレット、リッパーに動きはあったかい?」
ルイーズの質問にスカーレットは、首を横に振る。
「いいや。何にも」
「そう」
ルイーズは、短く答えると壁に掛けてあるエプロンを付ける。
「つーか、んなことより、お前何やったんだよ!!普通、着ぐるみで宣伝したからってこうはならねーだろ!!」
エプロンを身につけたルイーズは、まくし立てるスカーレットの方にくるりと振り返る。
その拍子にエプロンとスカートの裾が少しだけ広がる。
「内緒。女の子は、秘密があった方が素敵だからね」
人差し指を口元に持って行き、眠そうな瞳でいたずらっぽくウインクした。
それはそうと第一弾PVが出ましたね!!楽しみです!