教官   作:takoyaki

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外伝49です

実は風邪を引きました。久々です。
今の時期下手に行くと、別の病気もらいそうなのであまり行きたくないのですが、治すには仕方ないと覚悟決めて行ってきました


てなわけで、どうぞ


「あははは、やっぱり長いね」

「どうも、今までお世話になりました」

出発の日アイフリードは、モーリスとリーフの元へ挨拶に向かった。

リーフは、少しだけ真剣な目でアイフリードを見る。

「それで、次は何処に行くか教えてくれないんですか?」

「はい」

寂しそうだが確かな決意を込めてアイフリードは、そう返した。

モーリスは、腕を組む。

「そう言ってもあいつは、しばらく牢屋にいるんじゃから………」

「その間に行方をくらませないと意味がないですから」

そうしばらく牢にいるだけであって永遠にいるわけではないのだ。

外界と情報が遮断さている今がチャンスなのだ。

「私達にも教えてくれないんですか?」

リーフの言葉にアイフリードは、頷く。

「えぇ。私の居場所バレてしまうと困るので」

「随分信用ないですね。誰にも言いませんよ?」

不満気なリーフにアイフリードは、困ったように頬をかく。

「いや、その、お二人を信用していないわけじゃないんですけど………」

「嘘嘘、冗談ですよ。そんなに真剣に取らないでください」

にっこりと笑ってそう言うリーフにアイフリードは、ハハハと乾いた笑いを浮かべる。

「いやでも、お二人には話さない理由を教えますね」

そう言うとアイフリードは、ふっと柔らかく微笑む。

「多分、お二人に話すとルイーズが突き止めちゃうと思うんですよ」

モーリスとリーフは、目を丸くする。

「私達が今のルイーズに劣ると?」

「いえ、行動力が伴う年齢になる頃にはの話です」

そう語るアイフリードの目は一切揺らぐことがない。

それを見たリーフとモーリスは、吹き出した。

「なるほど。つまり、お前さんは、儂等より、ルイーズ(丶丶丶丶)の方を信用しているということじゃな?」

「…………ってことになるんですかね?」

「なりますね」

リーフにまで言われてしまいアイフリードは、腕を組んで考え込む。

「そうかもですね」

そう言った後、リーフとモーリスの後ろの家を覗き込む。

「あの、ところで、そのルイーズは?」

「まだ、寝てます。まあ、色々あって疲れたんでしょう」

「あ、そうですか………」

そう言って昨日血だらけだったルイーズの姿が脳裏に蘇る。

「その、あの後どうなりましたか?」

リーフは、肩をすくめる。

「あの後は、直ぐに医者に連れて行きましたよ。傷口に砂とか入っていたので、お医者さんに洗浄してもらいました」

「まあ、それでなくてもうちで手当てするには無理なレベルじゃったからな」

「相手の親御さんとかは………」

「今日、謝りに来る予定ですけど………あ、来ましたね」

そう言うアイフリードの後ろには先日、ルイーズに対して暴力を働いたリーダー格の男子とその父親がいた。

父親は目の上に傷があり目付きも鋭い。

リーフとモーリスは、身構える。

「大勢で押し掛けては迷惑かと思い、今回は私が来ました。他の面々も後で謝りにきます」

すると父親は、深々と頭を下げた。

「先日は、うちの息子達がおたくの娘さんに暴力を振るい申し訳ありません」

「と、父ちゃん………相手も殴ったんだから………」

その男子がそう言った瞬間、その父親は張り手をかました。

男子は涙目になりながら頬を押さえている。

「馬鹿野郎!!身を守る為なら殴るに決まってるだろ!!それを何被害者ヅラしてやがる!!てめー、昨日あれだけ叱ったのにまだ分かってねーのか!!」

見た目通りドスの効いた声で父親は叱った。

父親は、モーリスとリーフの視線に気づくと咳払いをする。

「申し訳ありません。それと治療費の領収書を見せてくれませんか?」

リーフは、家に戻って領収書を見せる。

父親は金額を確認すると、財布からぴったりの金額を払った。

リーフは、少し考える。

「ばあさん。別にこやつは、金で問題を解決するつもりではない。金の問題を解決しようというケジメじゃ」

「…………分かりました」

「あの、娘さんは………」

「まだ寝ています」

「分かりました。それではまた出直します」

父親はそう言うと男子を促し頭を下げて戻って行った。

「驚いた。親御さんは結構まともでしたね」

アイフリードの言葉にリーフは、肩をすくめる。

「後四人がそうとは限りませんけどね」

アイフリードは、少し渋い顔になる。

「あの男の子謝りませんでしたね」

「私達に謝っても仕方ありませんから」

リーフは、肩をすくめるとアイフリードの方を見る。

「ところで、まだ部屋の鍵ありますか?」

「えぇ。これから返しに行く予定ですし………」

「なら、ちょうど良かった。あの子、あなたの部屋にアイフリードの冒険を忘れたみたいなんです。取りに行ってもらってもいいですか?」

リーフの言葉にアイフリードは、頷く。

「分かりました」

そう言ってアイフリードは、自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「お別れ言いたかったんだけど………」

眠っているのなら仕方ない。

アイフリードは、そう言い聞かせながら部屋に向かう。

「やぁ、遅かったね」

そこには、包帯とガーゼだらけのルイーズが、ワイシャツとズボンのスタイルで立っていた。

予想もしていなかった展開にアイフリードは、目を丸くする。

「え、あれ?寝てるって………」

「あんなの嘘だよ」

アイフリードの脳裏に悪戯っぽく笑うリーフが現れる。

「サプライズサプライズ」

そう言って扉をコンコンと叩く。

早く開けろということだろう。

アイフリードは、イマイチ状況が飲み込めないまま、部屋を開ける。

部屋の中にはもう何もない。

いや、一つだけ残っている。

「やっぱり、ピアノは残ってるよね?」

ルイーズは、そう言って隣の部屋に目を向ける。

「あの本だらけの部屋にもピアノがあったということは、このマンションはピアノが備え付けかな、と思ったんだけど、大当たりだったね」

アイフリードは、肩をすくめる。

「まあね。だから、家賃安くて助かってるんだけど」

何せ楽器というのは騒音トラブルの元だ。

「で、何するつもりなの?」

アイフリードの質問に答えずルイーズは、ピアノの蓋を開け椅子に座り、借りていた楽譜を返す。

「んー………たった一人のためのたった一曲の演奏会」

そう言ってルイーズは、両手を鍵盤に置く。

弾くのは、アイフリードに教えてもらったあの曲だ。

小さく息を吸い、一気に弾き始めた。

初めて弾いた時とは片手でたどたどしかった。

だが、今は両手で止まることなく鍵盤を踊っている。

テンポもズレず、強弱も付いている。

ちゃんと曲として成り立っている。

何よりアイフリードが驚いたのは、

「嘘…………もう暗譜してるの?」

そうルイーズは、楽譜を見ることなくピアノを弾いていた。

譜面台には、何もない。

ルイーズは、黒と白の鍵盤だけに目を走らせ曲を奏でている。

その音色に耳を傾けながらアイフリードは、思わず顔をほころばせた。

「そっか…………凄く頑張ったんだね」

普通こんなに早く暗譜まで辿り着けない。

だが、ルイーズは辿り着いた。

才能だけでは不足だ。

才能だけでは、この短期間ではそれなりの演奏が限界だ。

努力だけでも不足だ。

努力だけでは、この短期間ではそもそもそれなりの演奏にも辿り着けない。

ルイーズはアイフリードから受け取ったもの全てを使ってこの曲を完成させた。

(それにしても、この曲か………)

わたされたその楽譜に目をやる。

目の前で傷だらけの女の子が引いている曲の楽譜だ。

楽譜に書かれていた曲名は、

 

 

 

 

 

 

「『最後の挨拶』」

 

 

 

 

 

 

 

そうこれは、素直な言葉を口にしたがらないルイーズなりの精一杯のさよならだ。

最後の音階を途切れることなく弾き終えるとルイーズは、鍵盤から静かに手を離した。

アイフリードは、拍手を送る。

「凄いよ。曲として完成してる!」

「ありがと」

ルイーズは、鍵盤を乾いた布で拭くと蓋を閉める。

椅子から降り、ルイーズは、アイフリードと向かい合う。

「お姉さん」

「何?」

 

 

 

 

 

 

「私、リーゼ・マクシアに行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

アイフリードは、目を丸くする。

「だから、お姉さん、リーゼ・マクシアに会いに来てよ。それなら、いいだろう?」

確かにエレンピオスでなければ追ってこない確率は高い。

というより、アイフリードはルイーズに事情を話していないが、どうやら察してくれたようだ。

アイフリードは、ニヤリと笑う。

「随分、夢のあるこというじゃん」

「そりゃあ、私だって近頃の子供だもの」

ルイーズは、にっこりと笑いながらそう返した。

アイフリードは、そんなルイーズを見て首元のネクタイをしゅるりと外す。

「?」

「ほら、顎あげて」

戸惑うルイーズの顎を上げるとワイシャツの第一ボタンを閉める。

そして、その真っ黒なネクタイを締める。

「あははは、やっぱり長いね」

「大人用のネクタイが子供に合うわけないだろう」

呆れているルイーズの頭にアイフリードは軽く手を乗せる。

「それじゃあ、いつかそのネクタイが似合う姿を見せてね」

ルイーズは、少しだけ泣きそうになるが、ぐっと涙を堪える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。任せたまえよ!」

 

 

 

 

 

 

とびっきりの笑顔でそう答えた。







章タイトルも回収できて何よりです。
もうぶっちゃけますが、これ書いた時は記録的な猛暑でした。
なので、当初はアイフリードがかぶっていたのは、つばの大きな麦わら帽子でした。
青い空に白い雲に麦わら帽子………いいよね!!なんて思ってましたが、何だかだんだん涼しくなり、これはダメだなとなりました。
まあ、麦わら帽子を渡すとかどこの海賊だよって感じになるので結果オーライでした。



ではまた、外伝50で( ´ ▽ ` )ノ

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