教官   作:takoyaki

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外伝46です


戦隊ものが面白いです。
胸がきゅっと締め付けられます。
てなわけでどうぞ



「ささ!ぷりーずかむいん」

「あれ?ルイーズ?」

ルイーズは、クレープ屋台で買い食いをしていた。

アイフリードの言葉にルイーズは、振り返る。

「あれま、お姉さんじゃん」

少し目を丸くしながらルイーズは、お金を払ってクレープを受け取った。

「こんなところで何しているんだい?」

「いや、私は今日はお休みもらっから……いや、それよりルイーズこそ、どうしたの?」

「私もお休みもらったんだ」

「…………………」

「冗談だよ。今日は学校の建立記念日だからお休みなの」

ルイーズは、そう言ってクレープにかじりつく。

かじりついた後、口とクレープの間に糸が引かれる。

「…………………何味のクレープなの?」

「納豆とネギと海苔」

「随分渋いもの食べるね……」

おかずクレープどころの騒ぎではない。

「おいしいよ。お姉さんも食べる?」

ルイーズは、クレープをアイフリードに向けて尋ねた。

アイフリードは、にっこりと笑って頷いた。

「うん」

「じゃあ、まだあるから買ってくるといいよ」

「…………………」

色々言いたいことはある。

だが、アイフリードは、もう二十五歳だ。

だから、十歳の女の子にいちいち目くじらを立てたりしない。

ぐっとこらえてクレープ屋でルイーズと同じものを買った。

「それで、せっかくのお休み、ルイーズはどうするの?」

「別に。その辺ブラブラして、帰って本読んで寝る」

疲れた父親のような休日の過ごした方にアイフリードの頬が引きつった。

それからポンと手を叩く。

「そうだ!!それじゃあ、これから私の家においでよ」

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

案内されて辿り着いた場所は、マンションだった。

「ささ!ぷりーずかむいん」

アイフリードは、そう言って扉を開けた。

部屋に入ったルイーズは、まず、その本の量に圧倒された。

というより、本棚の量が多すぎて何処に生活スペースがあるのかわからなかった。

真ん中にある黒い箱のようなもの以外全て本棚だ。

その本の量にルイーズのテンションが上がっていく。

だが、それと同時に一つの疑問が頭に浮かぶ。

「お姉さん。どうやって生きてるんだい?」

「どうやってって普通に……………」

部屋を見たアイフリードは、自分の鍵をもう一度見る。

「あ、いけない。こっちじゃなかった。こっちこっち」

アイフリードは、照れ笑いを浮かべて隣の部屋を開けた。

隣の部屋は、先ほどの部屋と違い、目に付くところに本は一つもなかった。

「さ!入って入って」

部屋に通されたルイーズは、机に座らせる。

「紅茶でいい?」

「いいよ」

ルイーズがそう答えるとアイフリードは、キッチンから温度計を取り出した。

「温度計なんて何につかうんだい?」

「紅茶はね、温度管理が命なんだよ」

アイフリードは、そう言って温度を測りながら、お湯をわかす。

その間にルイーズの頭の中にある予想を一つ尋ねる。

「……………お姉さん、もしかして」

「そ。二部屋借りてるんだ。

一つは、本専用の部屋。もう一つは、生活していくための部屋」

自慢げに胸を張るアイフリードにルイーズは、大きなため息をつく。

「なんでそんなに………読みたい本があれば、借りるなりなんなりすればいいだろう?お金だって無限じゃあないんだから」

「……………社会人になって、自由にできるお金が貰えるようになるとね、際限がなくなるんだ」

遠い目をしながらそんなことをいうアイフリードにルイーズは、首をかしげる。

「そうなの?」

「そうなの。適当な時間潰しで買った本とか、思わず衝動買いしちゃった本とかが凄い量になっちゃって………」

「それで?」

「一回読んでつまらなかった本とかをまとめて古本屋に売ったりもしたんだけど………」

「だけど?」

「そのお金でまた本買ったりとしかしてたらちっとも量が減らなくて………」

「だから?」

「家賃が一番安い部屋を借りたんだ」

本の虫の鑑のような頭の悪い発言を堂々っと言ってのけるアイフリード。

ルイーズの中に少しだけある常識がツッコミを入れているのだが、それ以上に……

「いいなぁ………だって、それって図書館持ってるようなものだろう?」

ルイーズは、そんなアイフリードの行動に憧れていた。

自由にできるお金もスペースもないルイーズにとってそれは本当に夢のような話だ。

「図書館か、そうきたか………」

アイフリードは、うむうむと頷いている。

そんな会話をしているうちにお湯が最適な温度になった。

それをアイフリードは、確認し、ティーポットに注ぎ始めた。

残ったお湯をカップにいれ温めておく。

しばらくしてお湯を捨て、カップに紅茶を注ぐ。

「さ。出来た!ルイーズは、椅子に座って」

アイフリードは、ルイーズと自分の前に紅茶を置き、椅子に座る。

「ごめんね。ケーキとかはないんだ」

「いいよ、別に」

ルイーズは、そう言って紅茶に口をつける。

そして目を丸くする。

「おいしい………」

「でしょ?やっぱり温度なんだよ温度」

うんうんと勝手に納得しているアイフリード。

「で、私はここで何すればいいの?」

「へ?」

アイフリードの動きが止まる。

視線が宙を泳ぎどう答えたものかと悩む。

何せ実質ノープランなのだ。

「え、えーっと………そうだ!!ルイーズも本を読んできなよ!」

「?アイフリードの航海日誌なら読み終わったよ?」

「早!!じゃなくて、隣の部屋から好きな本を持ってきて読んでごらんよ」

アイフリードの提案にルイーズの眠そうなたれ目が輝く。

「いいの?」

「もちろん!」

アイフリードは、そう言って鍵を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ねぇ、お姉さん」

しばらくして戻ってきたルイーズは、一冊の本を抱えていた。

「どうしたの?面白そうなのあった?」

「これ、なに?」

ルイーズから受け取ったそれを見たアイフリードは、納得したように頷く。

「あぁ。これはね、楽譜だよ」

「楽譜?」

「演奏する時に使うんだ」

「??」

首をかしげるルイーズにアイフリードは、少しだけ顎に手を当てて考える。

「よし、百聞は一見に如かずだ!見せてあげよう!」

アイフリードは、そう言うと奥の部屋に案内する。

その部屋に入って真っ先に目に入ったのは黒い妙な巨大な箱だ。

箱の下には脚が4本ある。

「……………なんだい、これ?」

「ピアノだよ。黒と白の鍵盤で音楽を奏でるんだ」

アイフリードは、そう答えるとピアノの前に座る。

そして、手に持っている楽譜に目を通す。

「まあ、前に弾いたことあるし、ちょっと勘を思い出せばどうにかできるでしょ」

アイフリードは、そう言うと簡単に音階を弾き、指の準備運動をすませる。

それだけでもルイーズは、目を丸くしている。

だが、それだけではない。

これは、まだ音楽ではない。

「よし」

アイフリードは、そう呟くと開いた楽譜に一瞬視線を向けピアノの鍵盤を弾き始めた。

先ほどの音階とは明らかに違うその響きにルイーズは、目を輝かせた。

目の前の白黒の鍵盤からは考えられないほど彩り鮮やかな音色。

それらは、強弱をつけて進んでいく。

右手と左手で紡がれていくその音達は、ルイーズを魅了し続けた。

アイフリードは、最後の音を弾き終えた。

「……………どう?」

「凄いよ!!お姉さん!!なんか、普段の変なお姉さんから想像出来ないよ!!」

「よおし、余計な言葉が聞こえたけど無視するぞ!!」

アイフリードは、そう言って楽譜をルイーズに渡す。

楽譜の表紙の作曲者の欄には、ピーター・ドイルと書かれていた。

「ピーター・ドイル?」

「そ。この曲を作った人だよ。昔、演奏を聴きに行ったら素敵だったから買っちゃったんだ」

アイフリードの言葉にルイーズは、首をかしげる。

「この人が曲を作って演奏したの?」

「そうだよ」

「ね、ねぇ。お姉さん。私、この人の演奏聞いてみたい。この曲を作った人の演奏を聞いてみたい!!」

目を輝かせていうルイーズにアイフリードは、寂しそうに首を振る。

「ううん。無理なんだ。この人、最近演奏会に出てこなくなっちゃったから」

「えぇー…………」

ルイーズは、がっくりと肩を落とした。

そんなルイーズを見てアイフリードは、なんとなく口にした。

「そうだ。ルイーズも弾いてみる?」

それを聞いたルイーズは、少しだけ戸惑いの色を浮かべた。

「…………いいのかい?」

「いいよ」

そう言ってルイーズに席をゆずる。

「まずね……」

そう言ってアイフリードは、一つずつ教えていった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ポーンという音ともにルイーズは、鍵盤から手を離した。

「凄いよ、ルイーズ!!もう右手と左手それぞれは完璧だね」

あの後、アイフリードの訓練により、何とか右手のパートと左手のパートは、別々で最後まで弾けるようになった。

「次は、両手を合わせなきゃいけないんだけど………」

そうここからが難関なのだ。

片手ずつならどうにか出来ても両手となるとタイミングをそれぞれ合わせなくてはならない。

「まあ、残りは明日にしようか」

アイフリードの提案にルイーズは、首を横に振る。

「いや、いいよ。ここまで来たら両手で弾けるようになるよ」

「結構いい時間だけど………」

「大丈夫。ばあちゃんとじいちゃんには、連絡入れてあるし」

「そ、そう………」

ルイーズは、少しだけうつむく。

「私は、ちょっと頑張れば大抵の事はそれなりに出来るんだ。だから、今日、弾けるようになると思うよ」

投げやりに言うルイーズを見ながらアイフリードは、首をかしげる。

「なんだか、つまらなそうだね。ルイーズ」

「…………何でも出来るってそんなに楽しくない」

鍵盤から手を離してそういうルイーズの頬をアイフリードが引っ張る。

手加減しているので全く痛くはない。

「音楽をするなら、笑顔でないとダメだよ?」

「…………」

ルイーズは、笑顔にならず更にジトッとした目を向ける。

「それにね、ルイーズ。ちょっと努力すれば大抵の事はそれなりに出来るんだったら」

そう言って両手を離す。

「凄く努力すれば凄く出来るようになるってことでしょ?」

その言葉にルイーズは、目を丸くする。

「それなりで満足するなんて、人生もったいないよ」

アイフリードは、にっこり笑いながらルイーズの肩を軽く叩いた。

それは、ルイーズの今までの価値観を根本から壊す言葉だった。

それなりでいい、

そこそこ出来れば、充分。

その考えは間違っていない。

でも、これから長い人生を歩むルイーズにとって、それは少し

「もったいないね………」

肩を叩かれたルイーズ目の前には、白と黒の鍵盤が続いている。

今日、それなりに頑張れば、及第点は貰える演奏を出来るようになるだろう。

でも、ルイーズは今、もう一つ頑張るべきものがある。

そっちも頑張るには、ここでそれなりの努力で時間を取るわけにはいかない。

「ゴメン、お姉さん。やっぱ、私、帰るよ。それと楽譜借りてもいい?」

鍵盤からは手を離してアイフリードを真っ直ぐ見据えてそう言った。

アイフリードは、うんと頷く。

「いいよ。またね」

「うん。またね」

ルイーズは、荷物をまとめて、アイフリードの家を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ただいま」

「おや、おかえりなさい」

連絡した時刻よりも早く帰ってきたルイーズにリーフは、少し驚いた顔をしていた。

「ばあちゃん、夕飯は?」

「もう、後は汁を温めるだけですけど………」

「なら、夕飯前に稽古つけてよ」

その言葉にリーフは、目を丸くする。

「必要最低限の武術は、この前、教えた通りですし、あなた自身もう全部出来るようになったじゃないですか」

「及第点程度でしょ?」

「別に子ども喧嘩なんですから、満点なんていらないですよ」

ルイーズは、首を横に振る。

「及第点で満足したくない。やるなら、満点を超えたい」

今までのルイーズからは、考えられない言葉にリーフは、少しだけ面白そうに笑った。

(ホント、子どもというのはあっという間に変わるものですね)

「いいでしょう。その代わり、手加減はしませんからね」

その言葉を聞いた時、ルイーズは、ニヤリと笑って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「またね………か」

アイフリードは、読んでいた本を閉じる。

「後、何回言えるんだろうね………」

本の隣には、『辞令』と書かれた紙が置かれていた。








ちょろっと見た事のある名前が出たところで



では、また外伝46で( ´ ▽ ` )ノ

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