教官   作:takoyaki

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外伝45です。


秋も深まり、過ごしやすくなりましたね。
いつもよりも早く秋になって、『気候が変わってきてるな』と思いましたが、冷静に考えれば、今までがおかしかっただけですよね。
だって、立秋だって過ぎてるし………



てなわけで、どうぞ


「そりゃあね。私はこれがお仕事だし」

「よし、今日は間に合った」

図書館に入った瞬間ルイーズは、そう呟いた。

男子達が報復に来ることは、余裕で想像出来ていたルイーズは、直ぐに教室を出た。

そして、一番奥の机の右端に座り、鞄を置いて場所取りをする。

この場所がルイーズの定位置だ。

この場所を選ぶ理由は、主に二つ。

窓を見る形になるため、出入り口には背を向けることになる。

おかげで誰かが入ってきてもルイーズがいると分かりづらいのだ。

もう一つは、本を読み疲れた時に顔を上げると外の景色が見えるということ。

この二つの理由からルイーズは、いつも図書館で本を読む時はこの席に座っていた。

「さてと、」

ルイーズは、呟いて本棚に探しに行った。

ノンフィクションの棚にたどり着いたルイーズは作者、アイフリードを元に探す。

「えぇーっと、『アイフリードの航海日誌』は、っと…………」

目を皿にして背表紙を眺める。

指で頭文字を撫でながら一冊一冊見ていく。

 

 

 

 

 

 

「そこに『アイフリードの航海日誌』は、ないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある声に振り返るとそこには、やっぱりというか、見覚えのあるタレ目の茶髪の長髪の女性、自称アイフリードがいた。

「やっほー」

「嘘………また会った………」

「だからまたねって言ったじゃん」

ポカンとしているルイーズにアイフリードは、まるで子供ような笑顔で答える。

「何で、ここに…………」

そこまで言ってアイフリードの格好を見る。

この前会った時にも見たネクタイは、ちらりと見える。

だが、それより目を引くのが、真っ黒なエプロンだ。

「もしかして、司書なのかい?」

「そうだよ。気づかなかった?」

ふふんと胸を張るアイフリードの首に名札がかかっていないかと目をこらす。

だが、名札には『アイフリード』と下手くそな手書きの文字が書き込まれていた。

「………………」

ルイーズのジトっとした目線を送るがアイフリードは、フッと視線をそらす。

「それで、どこにあるの?その、アイフリードの航海日誌は?」

「ああ、こっちこっち」

アイフリードは、おいでおいでというふうにルイーズを手招きする。

手招きされたルイーズは、ため息をつきながらアイフリードについていく。

アイフリードは、ルイーズが付いて来られるぐらいの歩幅で、本棚の間を進む。

そして、しばらく行った本棚で止まる。

「ここだよ。航海日誌は、ノンフィクションというより、歴史書扱いなんだ」

そう言いながら、本棚を指差す。

背表紙には、アイフリードの航海日誌(上)と書かれていた。

ルイーズは、脚立を使ってその本を引っ張り出す。

手元に収められた本の表紙には、帆船が書かれていた。

「ありがとう、教えてくれて」

「どういたしまして。それより、今日借りてく?」

「うん」

「じゃあ、一緒にカウンター行こう。貸し出しの手続きしなくちゃ」

アイフリードはルイーズをそう促す。

促されたルイーズは、カウンターに行く。

アイフリードは、カウンターでルイーズの本を受け取り、貸し出しの手続きを終わらせる。

「それじゃあ、貸し出し期間は二週間だよ。忘れないようにね」

「二週間で読めるかな…………」

「読めなくたって返してね」

「お姉さんって意外にシビアだよね」

「そりゃあね。私はこれがお仕事だし」

アイフリードの言葉にルイーズは、肩をすくめると、先ほどカバンを置いたところに座り本を広げた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「お嬢さん、閉館時間ですよ」

肩を揺すられたルイーズは、ハッと顔を上げる。

外を見ると日が傾いている。

「え?」

「ったく………どれだけ声をかけても全然気が付かないんだから」

隣を見ると腰の両方に手を当てたアイフリードがため息を付いている。

それからニヤリと笑う。

「やっぱり、面白かった?」

「とても!!」

そう言うと眠そうなタレ目である事を忘れそうになるほど、ルイーズは、目を輝かせていた。

「その時、その時の航路はもちろんだけど、その時行った場所の地図、更に経費まで載ってる!!何より驚いたのは、この黒匣(ジン)なしで、ジンテクスを平気でやっていることだよね!!」

「でしょ!!このアイフリードの航海日誌の面白いところはね、現実の話のはずなのに、物語みたいな展開があるんだよ!!それにね、何よりこの本は……」

「アイフリード!」

アイフリードを叱りつける声が響く。

声の主をよく見ると『館長』と書かれた名札をかけている。

アイフリードは、思わず首をすくめる。

「閉館時間でしょう!!何利用者との話に花を咲かせているんですか!!」

「い、いやあ、すいません………」

「全く…………規則なんですから。とりあえず話すのは閉めてからにしなさい」

「分かりました…………」

アイフリードは、がっくりと肩を落とした後、ルイーズの前で両手を合わせる。

「ごめん!!」

「いいよ。私、外で待ってるよ」

「ありがと……………う?」

ルイーズの言葉にアイフリードは、首を傾げる。

「え、今………」

「早くしたまえよ。お姉さん、それで給料もらってるんでしょ?」

「え、あ、う、うん!すぐ終わらせるから待ってて!!」

ルイーズは、ため息を吐いてアイフリードの航海日誌をしまい、図書館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「待たせてごめん!!」

「いや、マジで全く待ってないんだけど………本当に片付けやったのかい?」

ルイーズが外に出てから一分もかからないうちに出てきた。

「当然」

「まあ、いいけど」

「とりあえず、もうそこそこいい時間だし、おうちまで送っていくよ。それがてら話をしよう!!」

エプロンをたたみながらカバンにしまう。

そして、真っ黒なネクタイを緩めあのベレー帽を被る。

「ねえ、この話が本当ならエレンピオスにも緑があったのかねぇ?」

「そうだと思うよ。木の化石とかも結構出てきてるし、そこは本当のことだよ」

アイフリードは、頷く。

「ならさ、どうしてこんなことになっちゃだんだろうね?」

ルイーズが指差す先には、ほとんど自然はなく、ただの人工物だけだ。

「別に積極的に木を切っているわけでもないのにさ………」

「自然があるには必要なものが、この日誌のころにはあって、今はないって考えるのが妥当かもね」

「必要なものって?」

「『マナ』とか?」

アイフリードの提案にルイーズは、考え込む。

「『マナ』って確か、化け物の記録とクルスニクの日記に載ってるアレだよね?」

「そうそう。というか、それも読んだの?」

「あの二つに書いてあるものを信用していいのか、微妙だよね。それこそおとぎ話みたいな内容だし」

「それを証明できる?」

アイフリードは、ニコニコと笑っている。

ルイーズは、ぐっと押し黙る。

「少なくとも近い時代の作者がそれぞれ違う本に共通して載っているのだからあながち間違いじゃないと私は思うけどね」

アイフリードは、茜色に染まる空を見上げる。

「………確かに。でも、だったら、この精霊ってのも本当にいるのかねぇ?」

「さてね。でもさ、」

アイフリードは、にっこりと笑う。

「いると楽しくない?」

「私達に好意的な存在ならね」

純真無垢なアイフリードの笑顔に対しルイーズは、嫌そうに顔をしかめている。

アイフリードは、引きつり笑いを浮かべる。

「またそういう夢のないことを………」

「近頃の子供と違って現実と区別がつくから」

ルイーズは、淡々と返す。

アイフリードは、その可愛げのない返答にため息を吐いた。

「ま、それはともかく、ルイーズなら二週間以内に全部読めそうだね」

「まあね。二週間以内に読むよ………と、そうだ。下巻、予約しといていい?読み終わった時にノータイムで読みたから」

「あぁ、それなら心配ないよ」

アイフリードは、何てことなさそうに手をひらひらと振る。

「へ?何で?」

「だって、下巻なんてないもの」

「あの図書館にないってこと?なら、取り寄せしといておくれよ。図書館なら出来るだろう?」

「違う違う。存在してないんだよ」

「…………どういうこと?だって、アレ、上巻って書いてあったよね?」

待ってましたとばかりにアイフリードは、胸を張る。

「アイフリードの航海日誌はね、下巻が存在しないんだ」

「なにそれ?そんなことがあるの?」

「あるんだなぁ、これが」

ルイーズは、首をかしげる。

そんなルイーズに対しアイフリードは、指を三つ立てる。

「いい?ルイーズが今言った化け物の記録、クルスニクの日記、そして、アイフリードの航海日誌は三つ合わせて三大奇書と言われているんだ」

「奇書?」

「奇妙な本のこと」

そう言ってアイフリードは、指を一つ折る。

「まず、化け物の記録。読んだなら分かると思うけど、文章の書き方から見て筆者が子供なんだ。だから、二千年前以上も前の子供の想像のものと言ってもいいんだけど、問題点が一つ」

アイフリードは、もう片方の手で指を一本立てる。

「矛盾がない。子供が書いたにしては矛盾がなさ過ぎる。だから、もしかしたらこの話が真実なんじゃないかと言われているわけだよ」

「それが真実だとすると、この化け物が存在することになるんだけど」

これに出てくる化け物は、人間達に牙を向いていた。

そんな奴が実在するとなると、今の自分達も危ない。

「世に蔓延る終末論の一つだね」

「週末?」

終末(丶丶)論。この世の終わりってこと」

「あぁ、なるほど」

「『その化け物が世界を滅ぼす!!』てな説があるんだよ」

「まあ、その化け物が滅ぼさなくても滅びそうだけどね」

そういうルイーズの目の前に自然はなく薄暗い空が広がっている。

アイフリードは、肩をすくめる。

「ノーコメント。次にクルスニクの日記」

アイフリードは、二つ目の指を折る。

「ミラ・クルスニクという女性とマクスウェルとの日々を記したものなんだけど、奇妙な点がいくつかあるの」

「なんだい?」

「物語ではなく日記。だと言うのにどうにも色々と今じゃ考えられないことが起きているんだ」

「まあ、まずマクスウェルがいないからね」

ルイーズの言葉に対しアイフリードは、肩をすくめる。

「そして、ついでにもう一つ」

「?」

「クルスニク家は実在する」

「つまり?」

「少なくとも全部が全部嘘じゃないってこと!!」

「化け物の記録と似たような感じだねぇ」

ルイーズの言葉にアイフリードは、うんうんと頷く。

そして、最後の一本を折り手を拳にする。

「そして、最後!アイフリードの航海日誌。これは………ネタバレ大丈夫?」

「程度による。裏切る登場人物とか退場する登場人物とかラスボスとか主人公の出した結論とかどんで返しの中身とかなら許さない」

「なら、いいかな。実は航海日誌の最後に次の航海の計画があるんだよ」

「…………?」

ルイーズは、訳がわからないという風に首をかしげる。

「でも、お姉さん。今、下巻はないって………」

「そ。だから奇妙なんだよ。あんなに綿密建てられた計画なのに、何故か次の航海の記録がない。ついでに言うならアイフリードは、それ以降行方不明」

「普通に考えるなら海で遭難したってことだろう?」

「夢がないなぁ…………世の人はそうは考えなかった」

アイフリードは、胸を張る。

「『もしかしたら、この世の何処かに存在しているかもしれない!!ただ、それが、巧妙に隠されているだけで!!』と考えた人たちがアイフリードの航海日誌を奇書に数えたんだよ」

「なんか、強引だねぇ」

「でも、面白いでしょ?」

確かにその通りのため、ルイーズも反論出来ない。

「さて、そんなことをしてる間に着いたね」

アイフリードの言葉にルイーズは、目の前の家を確認する。

いつの間にやら自分のうちに辿り着いていた。

アイフリードは、そのままインターホンを鳴らす。

「え?」

「一応、私が送ったんだから挨拶ぐらいするよ」

そんな会話をしていると、リーフが扉を開けて現れた。

「どうも、リーフさん。アイフリードです」

リーフは、アイフリードの顔を見て目を丸くする。

「そっか………貴女でしたか…………」

「ばあちゃん?」

首をかしげるルイーズに対しリーフは、優しく微笑むとルイーズの頭を撫でる。

ポカンとしているルイーズに構わずアイフリードは、小さく笑う。

「アイフリードといいます。遅くなってしまったので送ってきました」

「はい。ご丁寧にどうも」

リーフは、そう言うとルイーズの方を見る。

「ルイーズ、お礼は?」

「へ?は?うん!」

我に返ったルイーズは、アイフリードの方を向く。

「ありがとう、お姉さん」

「どういたしまして」

「またね」

何気なくそう言ったルイーズの言葉にアイフリードは、目を丸くした後、本当に嬉しそうに笑って頷いた。






三連休、皆様はどうお過ごしでしたか?
私は、山に登りました。
山道には迷いませんでしたが、登山道入り口の駐車場に辿り着くまでに迷いました。



では、また外伝46で( ´ ▽ ` )ノ

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