クイーン隊、また入院です!!
まあ、仕方のないことです。
「エラリィ…………」
入院服に身を包んだクイーンは、病院で眠っているエラリィのベッド近くに座りながらポツリと呟いた。
蘇るのは、あの記憶だ。
「どうして…………」
自分とエラリィとの間に溝があったはずだ。
まだ、ルイーズがあの行動を取るなら分かる。(許しはしないが)
だが、エラリィにはそれをする理由がないのだ。
そう思いながらエラリィを見る。
(眼鏡がないと感じが違うですね。今なら誰もいないし、キスぐらいしてもいいですよね………でもいきなり口は………そうだ!おでこにすればいだだだだだだだだだだだだだだだだ!!」
「何、人の頭の中に変なナレーション流してるんですか」
クイーンは、くだらない事を言っているルイーズにアイアンクローをかけていた。
入院服に身を包んだルイーズは、涙目になりながら弁解する。
「だって!そう言う雰囲気だったじゃんんんんんんんんん!!いだい!!右手やめて!!」
「何してるんですか二人とも」
頬を引きつらせながらベイカーが病室に入ってきた。
クイーンは、パッと手を離す。
「おぉおぉおぉお…………」
ルイーズは、奇妙な呻き声を上げながら座り込んでいた。
顔を押さえるルイーズの腕には点滴がされていた。
近くにある点滴スタンドを持ちながら呻くルイーズは、見る人が見たら一発でナースコールをされるレベルだ。
「エラリィは、幸い命に別状はないとのことでした。後、二、三日もすれば起きるとのことでしたよ」
「良かったです…………」
クイーンは、安堵したように息を吐き出した。
ベイカーは、渡された診断書を読む。
「隊長は、脇腹の傷が一番重いみたいですが、術後経過は良好なので、激しい運動さえしなければ、どうということはないとのことでした」
「……………フラグだね」
「やめてください。そう言う不吉なこと言うの」
余計なことを言うルイーズにクイーンは、半眼を向ける。
「教官は、打撲とそれによる内臓の損傷、左手の貫通した傷、後、これが一番なんですけど」
「?」
「栄養失調ってどういうことですか?」
「あー、それ?」
そう言ってルイーズ入院服の懐から試作品のリリアルオーブを取り出す。
「これは?」
「リリアルオーブの試作品」
ルイーズは、指の上でくるりと回すと近くのテーブルに置く。
「リリアルオーブ並みの力を出すために、使用者のカロリーを使う」
その言葉にベイカーは、今までのルイーズを思い出す。
「もしかして、ここ最近よく食べていたのは?」
「そう。この仕組みを思い付いたから、その時まで、いくらか蓄えておこうと思ったんだ」
胸を張るルイーズから伸びる点滴。
クイーンは、半眼を向ける。
「結果は?」
「想定よりカロリーの消費が激しい。設定しておいた五分経たないうちに全部使いきった」
ルイーズは、そう言って点滴を指差す。
「おかげで栄養失調になった………」
首をかしげるエラリィにクイーンが解説する。
「人間の身体はエネルギーが足りなくなると身体の蛋白質を分解しだすんです。そんなものを使って消費なんてした日には、どんなペースでそんな事されるか分かったものじゃないですね」
「大分欠陥品ですね」
「まあ、ここから改良するさ」
ルイーズは、そう言って懐にしまう。
「そもそもルイーズは燃費が悪いですからね。根本的にあっていないですよ」
「だよねぇ〜………」
ルイーズは、ため息を吐きながらベイカーの方を見る。
「それで、君は?」
ベイカーは、軍帽を少し触る。
「前も言いましたけど、斧を持った切り裂きジャックに追われました。何とか、足止めして俺は逃げましたが、その切り裂きジャックは、現在行方不明とのことです」
ベイカーは、今度は報告書を読み上げながらそう答える。
「で、君は怪我なしか………」
ルイーズは、そう言いながらジロジロとベイカーを見る。
「な、何ですか」
「良くやったね、ベイカー」
ベイカーは、突然の事にポカンとした顔をしながら首をかしげる。
「命令こなして、怪我もしてない、前回よりは成長したんじゃあないの?」
ベイカーは、予想もしてない方向からのルイーズの褒め言葉に戸惑う。
居住まいを正しながら咳払いをする。
「………あ、ありがとうございます」
「ま、私は切り裂きジャック捕まえたけどね。君と違って」
「台無しだ!!」
自慢げに言うルイーズに対し、ベイカーの魂の叫びが放たれる。
さっきまでの少しだけでも嬉しかったあの気持ちを返して欲しい。
そんな二人を見て思わずクイーンの目頭が熱くなる。
自分とエラリィでは、こうは行かない。
何故だかは、分からない。でも、こんな風にはなれない。
手に入らないものを見ているのは苦しいことだ。
クイーンは、目を閉じて顔を振る。
「さてと、あまり居てもアレですし、私達は病室に戻るですよ」
クイーンが立ち上がりながらそう宣言する。
「それもそうだねぇ」
ルイーズは、同意しながら後に続いて立ち上がった。
「ベイカー、君は?」
「護衛も交代ですし、一旦詰所に戻ります」
ベイカーは、資料をトントンと揃える。
「ほいほい。それじゃあ、気を付けて」
◇◇◇◇
「ねぇ、ルイーズ」
「何だい?」
病室に戻ってきた二人は、それぞれのベッドの上で横になっていた。
「何で、エラリィは私のことを庇ったんでしょうか?」
ルイーズは、黙っている。
「そこまでやってもらうほど、私はエラリィに好かれていないと思うんですけど」
ルイーズは、耳元の茶髪を触る。
「………あのさ、もう一回聞かせてくれないかい?」
「へ?」
「だから、君とエラリィの話」
ルイーズの真剣な声音に戸惑いながらクイーンは、話し始めた。
◇◇◇◇◇
えぇっと、どこから話すべきでしょう……
あ、また、最初からですね。
エラリィと同じクラスでした。どんな感じだったか、ですか?
ルイーズと同じでクラスでは本を読んでいるタイプでしたよ。
そのせいでクラスではあまり馴染んでいなかったです。
でも、私とはよく話していたですし、一緒に学校行ったり帰ったりをしていたんです。
え?何を話していたか、ですか?
取り留めもない話ですよ。
今日の給食は、何が美味しかったとか、あの先生は意外に細いから気をつけた方がいいとか、そんなところです。
ああ、エラリィは、将来の夢を語っていたです。
将来研究者になりたいと言っていたです。
なんでなのか、聞いたら目をそらして誤魔化されたんですけどね。
そう、この頃はまだ、エラリィから話しかけてくれたんです。
周囲の反応ですか?
その、なんと言うか……宿命というべきなんでしょうね。
冷やかされたし、からかわれたです……
その度に一応否定したんです。
恋愛感情があるわけじゃない、と。
聞いてくれたかは怪しいところですけれどね。
……………なんですか、その顔は。
とにかく!!その頃までは、エラリィとは仲が良かったはずなんです。
一緒に登下校したり、話したりしながら楽しく過ごしていたんです。
そんな日々がずっと続くと思っていたんです。
いつから、こんなことになったか、ですか?
突然です。
突然、エラリィが登校時の待ち合わせ場所に来なくなったんです。
後は、それっきりです。
それ以降は、ルイーズも知っている今みたいな関係になったんです。
…………ねえ、ルイーズ、やっぱりおかしいです。
どう考えてもこんな関係になるなんておかしいです。
私には、喧嘩した記憶もないんです。
仲違いを起こすようなきっかけがそもそも存在しないんです。
エラリィは、一体どうして私と口をきいてくれないんでしょう?
◇◇◇◇
ルイーズは、その話を聞き終わると渋い顔をしていた。
「ルイーズ?」
不思議そうなクイーンに対し、ルイーズは、耳元の茶髪をいじっている。
「……………さて、どこから話したものか」
「?」
ルイーズは、耳元の茶髪から手を離し身体を起こす。
そして、ベッドに腰掛け、クイーンの方を向く。
クイーンもそれに習う。
二人は膝を突き合わせて向かい合った。
「『信頼出来ない語り手』って知ってるかい?」
ルイーズの質問にクイーンは、頷く。
「確か、叙述トリックの一種ですよね?」
「そうだよ。さすが」
ルイーズは、そう言ってクイーンを指差す。
「君がまさにそれだ」
「え…………?」
「クイーン、君の話には嘘がある」
「へ?」
ルイーズの宣告にクイーンの口から思わず間抜けな声が出た。
「まあ、嘘というより真実じゃないと言った方が正しいかもねぇ」
ルイーズは、そう言って肩をすくめる。
「人は辛いことがあると記憶を改竄したり、忘れたりしてしまうらしい。だから、きっと君もそういうことなんだと思う」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
クイーンは、首を振る。
「今の話のどこに嘘があるっていうんですか?」
「エラリィだよ」
ルイーズは、今まだ意識を取り戻さない隊員の名前を告げる。
「エラリィと君が同じクラスというのがありえない」
ルイーズの指摘にクイーンは、首を横に振る。
「ルイーズがエラリィと同じクラスになったことがないからそう言ってるんですね?でも、これはルイーズと同じクラスになる前の話です。だから」
「いいや、違う。そんなことじゃあない、そんなことが理由じゃあない」
ルイーズの眠そうなタレ目は、クイーンを捉えて離さない。
「いいかい、よく聞きたまえ」
そこでルイーズは、大きく深呼吸をする。
息を吐き出した後、次の言葉を告げた。
「エラリィは、ベイカーと
ベイカーの年齢は、本編、1人と1匹の『ジルニトラ』の章で出ています。
こっちの方でも出そうか迷いましたが、外伝1のまえがきで「本編1人と1匹をある程度読み進めていただけるとより楽しめます」と書いたので「ま、いっか。だからこその外伝だし」と思いそのままにしました(笑)
では、また外伝35で