教官   作:takoyaki

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外伝30です!!


1人と1匹の時の30話って、何だっけと思って見てみたらローズ初登場でした。
ヒロイン初登場が30話ってヤバいよね。
ま、今回は、最初っからヒロイン出てるしいいよね!?



てなわけで、どうぞ!


「なぁ~んか、デジャヴ……いやだなぁ……」

「どういうこと…………?」

ベイカーは、その資料に息を飲む。

「だって、隊長は病死だって…………」

冷や汗が流れる。

どんよりと頭の中にヘドロのようなものが溢れ出す。

ベイカーは、ヘドロを押し出すようにGHSを取り出し、クイーンに電話をかける。

『はい、クイーンです!珍しいですね、ベイカーが私に電話するなんて。ルイーズじゃなくていいん』

「隊長!!」

クイーンの冗談を遮って続ける。

「隊長の苗字は、リーでいいんですよね?」

『へ?は、はい?』

「おじいさんの名前は、フレデリックでいいんですよね?」

『そうですけど…………』

「もう一個、いいですか?」

ベイカーは、躊躇いながらもう一押しする。

 

 

 

 

「おじいさん、本当に病死なんですか?」

 

 

 

 

 

『…………どういう意味ですか?』

気持ちが悪い。

気持ちが悪い。

気持ちが悪い。

クイーンが嘘を付いているならまだいい。

だが、この声音は…………

病死(ヽヽ)ですよ。葬儀に私も立ち会っているんですから間違いないです」

呼吸が荒くなる。

せり上がる胃の内容物を必死で歯で抑え込む。

(知らない……隊長は、知らない(ヽヽヽヽ)んだ)

黙っているとGHSの向こうでガタガタと騒がしくなる。

『へ?は?ちょ、何ですかルイーズ、は?スピーカーですか?分かったですよ、変えるから待ってください』

しばらくしてスピーカーになる。

『やっほー、ベイカー』

「教官………あの!!」

『深呼吸』

「へ?」

『いいから深呼吸したまえ』

落ち着いた声音がGHSから響く。

ベイカーは、促されるように深呼吸する。

『落ち着いたかい?』

「はい………」

『何があったんだい?』

「エラリィが資料室から消えました」

『な!?』

クイーンの声が聞こえる。

ベイカーは、それに構わず続ける。

「それと隊長のおじいさんの名前が切り裂きジャックの被害者リストに載っていました」

『……………………』

GHS越しに二人が息を飲んだのが聞こえた。

「あの………二人とも本当に知らないんですか?」

その言葉に二人は返事をしない。

「あの」

『ベイカー、今すぐそっち行くから動くんじゃあないよ』

そう言うとGHSの通信が切られた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ベイカー」

三時間もしないうちにベイカーの元に二人がやってきた。

「教官、隊長」

「資料見せたまえ」

「あ、はい」

ベイカーは、戸惑いながら資料を渡す。

ルイーズの隣にクイーンが座る。

資料を端から端まで読み進める。

「どういうことですか……………」

資料を読み終えたクイーンの第一声は、絞り出すようなそんな一言だった。

「私は、確かに聞いたんですよ!!おじいちゃんは、病死だって」

「私も聞いた」

だが実際は、こうだ。

「親族の誰かが騙したってことですか?」

「でも、何のために?嘘をつく理由がないですよ」

ベイカーの提案に対し、ルイーズが頷く。

「そもそも、親族全員を騙すなんて無理だ。だって、ここに記録があるんだもの」

そこまで言ってルイーズは、言葉を切って考え込む。

「………いや、逆だ。親族全員()騙すんじゃあない。親族全員()クイーン、君を騙していたんだ」

「……………どういうことですか?」

「多分、エラリィもそれに気付いた。だから、確かめに行ったんだ」

「ルイーズ!!質問に答えてください!!」

詰め寄るクイーンをルイーズは、手で制する。

「移動しながら話してあげる。だから、君は個室の電車をとりたまえ」

「どこ行きですか?」

「君の実家、トリグラフ行き」

クイーンは、少したじろいだ後、直ぐに頷き、資料室を出て行った。

「ベイカー、その間に資料を片付けるよ」

「分かりました」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、本当に取れるとは思わなかったよ」

ベイカーは、腰掛けながらそんなことを言っていた。

個室に乗り込んだ三人は、トリグラフに向かっていた。

「それで?ルイーズ、話してください」

促されたルイーズは、電車を待つ間に買った苺大福を取り出し、かぶり付く。

「さて、何から話したもんか………」

ルイーズは、考え込みながら苺大福を食べる。

言いたいことも答えも決まっている。

ただ、何から話すべきか考えているのだ。

「……………よし」

苺大福を一個丸々食べ終えると、口に付いた砂糖を拭う。

「まず、最初に言っておくけど、推論だよ」

そう前置きをして話し始める。

「切り裂きジャック、クイーンのおじいさん、そして、親族が隠した死因」

ルイーズは、指を三つ立てる。

「今回の謎はそれが絡まったせいで複雑なんだよ」

カバンからノートを取り出す。

「まず、切り裂きジャックの目的から行こう。君たちにも探し出してもらったけど、被害者は多種多様だ。

貧乏人もいれば金持ちもいる。

子供いれば大人もいる。

男もいれば女もいる。

性格の悪い奴もいればいい奴もいる」

ベイカーは、頷く。

「だから、共通点なんてなかったですよ」

「いいや、ある」

ルイーズは、そう言ってノートを取り出す。

「切り裂きジャックに殺された人間は、全員、殺される理由(ヽヽヽヽヽ)を持っていた」

首をかしげながら、クイーンは、眉をひそめる。

「それは、そうですけど…………」

「そんなことを言い出せばキリがありませんよ」

ベイカーとクイーンが口々に言う。

日付などに関連性がなく、快楽殺人でない時点で、被害者には全員殺される理由があるのだ。

二人の意見にルイーズは、首を横に振る。

「顕著なのが、子どもなんだ。殺されている子どもは、イジメの主犯だったり、万引きを繰り返して店を潰したりといった、所謂怨まれている連中ばかりなんだよ」

その言葉にベイカーは、頷く。

「まあ、確かに偶然の一致というには少々出来過ぎですね」

「だろう?」

「でも、正直、だから?と言った感じですよ」

「じゃあ、言い方を変えよう」

ルイーズは、ノートを開く。

そこには、被害者の名前とそれぞれの人となりが書かれている。

 

 

 

 

「被害者が殺されることによって得をする人間がいる」

 

 

 

 

二人は息を飲む。

「子どもを自殺に追い込まれた親、

犯罪行為に巻き込まれた被害者、

いなくなることによって富を手に入れられる者」

ルイーズは、ノートを閉じる。

「精神的にしろ金銭的にしろ、彼らが切り裂きジャックに殺されることにより充足感を得る連中がいる」

「つまり………?」

声が掠れていることに気付きながらクイーンが尋ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「切り裂きジャックは、殺しの依頼を受け報酬を貰う………いわゆる殺し屋だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞いてみれば簡単な話だ。

簡単すぎて気づかなかった。

目的があり、殺しを止めるわけにもいかない理由。

依頼を受け金を受け取る以上、殺害することを止めるわけにもいかない。

 プラートの連中が狙われるのも当然だ。

「でも、だったらどうして刃物による殺しに固執しているんですか?毒殺でも何でもいいでしょう?」

ベイカーの質問にルイーズが指を二つ立てる。

「考えられるのは、二つ。一つは、刃物による殺しというのがある種の宣伝になるから。

ここまで派手に報道されていればみんなが切り裂きジャックというキャッチフレーズを知ってくれるからね」

指をひとつ消し一本だけが残る。

「もう一つは、それ以外の殺しをやっているが彼らの仕業と気付かれていないって可能性」

ルイーズの言葉にベイカーは、思わず肩を抱く。

「ま、それは、とっ捕まえてから考えればいいことだ」

話を戻そうと告げる。

「今の話を元に考えると、おじいさんが死ぬことによって得をした人間が依頼主になるわけだ」

「………それって、隊長ですよね?」

ベイカーが首をかしげる。

遺産を受け取ったのはクイーンだ。

「多分、そこが一番の事故だ。そうだろう?クイーン?」

「えぇ」

ルイーズから引き継いだクイーンが口を開く。

「遺産の分配をする前に遺書が親族の前で開封されたんです」

そこに書かれていたものは………

 

 

 

 

 

「『我が財産の四分の三をクイーン・リーに。残りは法律に従って分割するように』」

ベイカーは、目を丸くする。

「当然といえば当然だね。君はかなりのおじいちゃん子だった。そんな孫を遺産目当てで近づいてくる親族よりも大事にするのは当たり前だ」

「だったら、隊長もいつか切り裂きジャックに狙われますよ」

金欲しさに殺しを依頼するような一族だ。

だが、クイーンは首を横に振る。

「遺言状には続きがあるんです。『ただし、遺産の入った金庫は今から五十年後、クイーン・リーの指紋認証によって開かれる』」

クイーンは、それを言った瞬間呆れたように笑う。

「あの人たちは、私を殺したくても殺せないんです。ま、私自身もいくらあっても使えないんですけど」

「おまけに五十年後じゃあ、切り裂きジャックがいるかもわからない、というより、自分達が生きているかも怪しいもんだ。結局彼らは、自分達で金を得ることも出来ない」

「なるほどね…………納得がいったです。おじいちゃんは、多分分かっていた。分かっていたからこんな事仕掛けたんですね」

少しだけ優しく微笑んだ後、クイーンは下唇を噛み締める。

「ルイーズ………関わっていた親族って…………」

「聞きたいのかい?言ってもいいよ。でも…………」

ルイーズは痛む心を抑えるようにクイーンを見る。

「君が分かっていないとは、思えないけどね」

クイーンは、必死に考えないようにしていた。

だが、目をそらすには無理がある。

「……………遺産を普通に分配するなら、子供と配偶者です。でも、おじいちゃんに配偶者はいないです。となると……」

クイーンは、ぎゅっと拳を握り締める。

「おじいちゃんの子ども…………私の叔父さん、叔母さん、そして、お父さん」

「少なくとも言い出しっぺは、その辺だろうね。そして、それに君以外の親族が乗っかった」

それに協力する代わりに何割かもらう予定だったのだろう。

ルイーズは、さらに続ける。

「彼らはそれに関わってしまった事が後ろめたかった。いや、或いはバレるかもしれないと、考えた。だから、何も関わりのない君には病死と伝えた」

「報道規制だって多分お手の物です。ただ、流石に軍部の記録にまでは手が出せなかったと言ったところですね」

クイーンの言葉にルイーズは、頷きながら指を立てる。

「エラリィは、この資料を見た時にそれに気付いた」

「じゃあ…………!!」

「エラリィは、君の実家でこの話を確かめるつもりだ」

ベイカーは、眉をひそめる。

「素直に答えてくれますかね?」

「………それだけならいいけどね。何せ、人殺しを依頼するような連中だ」

ルイーズは、苦虫を噛み潰した顔で舌打ちをする。

「どっかの阿呆な訓練生よろしく、雇われたチンピラ共にリンチにあってるかもしれないですよ」

クイーンは、カタカタと膝を揺らしながら歯軋りをする。

「とにかく、無事でいてくれることを祈るしかないよ」

 

 

 

 

 

列車は、三人の不安を乗せながらトリグラフへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたです…………」

クイーンは、実家の前で大きく深呼吸をする。

着いた頃には、辺りは暗く、夜空には太陽の代わりに大きな三日月が現れていた。

「笑顔でね。君は、今日、たまたま実家に遊びに来ただけなんだから」

「分かってるですよ」

ルイーズの言葉にクイーンは、そう返事をする。

チャイムを鳴らす。

しばらく待つが返事がない。

「………………おや?」

ルイーズが首をかしげ、ドアノブを引く。鍵は、かかっていないようだ。

玄関を入って直ぐに目に入るロビーには人影が一切なかった。

「なぁ~んか、デジャヴ………いやだなぁ……」

ルイーズは、そう呟きながら真っ黒い手袋をはめる。

「…………嫌な感じです」

クイーンは、自分の腰にある刀に手をかける。

「自分の家のはずなのに他人の家みたいな…………」

知っているものに、

慣れているものに、

親しんだものに、

お前など知らないと言われている感覚。

刀に手をかけ辺りを見回す。

 

 

 

 

 

すると両階段の左からボロボロなったエラリィが現れた。

「エラリィ!!」

クイーンが真っ先に階段を駆け上がる。それに続いてベイカーとルイーズが駆け寄る。

エラリィは、そのままクイーンに倒れこんだ。

クイーンは、目を白黒させながら、エラリィを床に座らせる。

「何があったんだい!?」

クイーンの後ろから尋ねるとエラリィは、ゆっくりと口を開く。

「捜査資料に………フレデリックさんの名前があった………から……確かめに来たんです…………そしたら…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレがいたってことさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その聞き覚えのある声にルイーズは、顔を険しくする。

「切り裂きジャック…………!!」

「こんなに早く会えるとは思わなかったぜ」

ルイーズは、三人を庇うように前に出る。

「さて、こんなにいるとはなぁ……誰にしようか………」

切り裂きジャックは、顎に手を当てて考える。

その隙にルイーズが指摘する。

「依頼があったのは私とエラリィ、恨みがあるのは、ベイカーってところかい?」

その言葉に切り裂きジャックは、濁った目を細めた。

「なんだ…………知っていたのか………いや、気付いたのか?」

「当然」

ルイーズは、拳を構える。

「私達を舐めるなよ、切り裂きジャック」

険しい顔で睨みつけるルイーズに対し、切り裂きジャックは、刀を床で擦りながらゆっくりと構える。

「なるほど、そこまで辿り着いてるなら、誰だっていいな」

「は?」

「決めた」

そう言うと切り裂きジャックは、目の前から消えた。

ルイーズは、すかさずカードする。

だが、切り裂きジャックの狙いはルイーズではなかった。

 

 

 

 

 

 

「お前にしよう、クイーン・リー!!」

切り裂きジャックの白刃がクイーンに向かって振り下ろされた。

「くっ!!」

クイーンは、抜刀し受け止めた。

その瞬間甲高い音と紅い火花がちる。

「お前とだけはまともに戦っていない!!だから、お前と殺ろう」

「───上等です!!」

クイーンは、歯を食いしばりながら無理矢理押し返す。

そして、一歩踏み込み、今度はクイーンから斬りかかる。

「ルイーズ!!ベイカー!!エラリィを連れて逃げてください!!」

「いやいや何言ってるんだい!?君が一人で切り裂きジャックと戦うなって言ったんだろう!?」

「リリアルオーブがあればこいつ一人くらいなら時間稼ぎぐらいなら出来るです!!それに!!」

クイーンは、距離を取り構え直す。

「隊長の命令を隊長が無視するならなんの問題もないです!!」

クイーンは、思い切り切り裂きジャックを現れた方に押す。

態勢が崩れたところにクイーンは、横薙ぎの一撃を放つ。

切り裂きジャックは、間一髪のところで避けた。

二人の戦闘は、激化していく。

「隊長の暴論は、後で問い詰めましょう。それより、今のうちにベイカーを……」

ベイカーは、エラリィの肩を持つように立ち上がる。

だが、ルイーズは、眉をひそめたままだ。

「教官?」

「刀………刀だよね………」

ブツブツと呟くルイーズの脳裏には、病院の上で見た資料が現れる。

耳元の髪をいじりながら必死に思い出す、

『多種多様な刃物で的確に殺害されている………』

ルイーズの手が止まる。

ベイカーは、思わず尻餅をついた。

「クイーン!!ダメだ!!」

ルイーズの張り裂けんばかりの声が響く。

そして、それを狙ったかのようにクイーンの後ろに仮面を被った人影が降り立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「切り裂きジャックは、一人じゃあない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クイーンの後ろに現れた人影は、レイピアを真っ直ぐクイーンに向かって突き出した。

点と点を結ぶ線となりレイピアは、突き進む。

「カハッ……………」

口から血が溢れ、床に滴り落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

「エラリィ……………?」

 

 

 

 

 

もう一人の切り裂きジャックとクイーンの間にエラリィが入り込んでいた。

自分の目の前に訪れた光景が信じられないというクイーンの声が静かにその場に木霊した。









ゲームやっていようと思っていたんですが、家から追い出されたので、安室さんを百億の男にして来ようと思います。



では、また外伝31で

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