この前、職場の食堂でメニューにある玉子うどんを頼んだら、いま、材料切らしててないと言われました。
今、平成だよね?戦時中じゃないよね?
てなわけで、どうぞ
「うわぁ………」
話を聞いていたベイカーから思わず、そんな言葉が漏れた。
エラリィも口にこそ出さないが似たような気持ちのようだ。
クイーンは、そんな二人を見て苦笑いを浮かべる。
「…………まあ、そんな感じだったんですよ」
クイーンは、そう言ってお茶を一口飲む。
ベイカーは、過去のルイーズの話を思い出し、首をかしげる。
「でも、教官、良い悪いはともかくとして面倒はよく見る方だと思うんですけど…………」
自分の訓練生一人一人にあったトレーニングメニューを作ったり、ベイカーの闇討ちに付き合ったりとまあ、確かに悪い方ではない。
ベイカーの言葉にクイーンは、優しく笑う。
「少し付き合いがあれば分かるんですけど、何せ私にはそんなものがなかったので、苦戦したもんです」
普通、そんな人間に好き好んで関わりたいと思うものはほとんどいない。
「…………あの……いまいち今の話で仲良くなった理由がわからないんですけど………」
ベイカーの言葉にクイーンは、チッチッチと指を振る。
「違うですよ。仲良くなったではないです。友達になった、です」
クイーンの訂正にベイカーは、首を少しかしげる。
「それ、なんか違うんですか?」
「例えるなら、卵と鶏ぐらい」
ベイカーは、しばらくフリーズした後、隣にいるエラリィに尋ねる。
「どういう意味?」
「鶏が先か、卵が先かという話だ」
「つまり?」
「ルイーズ教官と仲良くなったから友達になったんじゃない。
「そう言うことです」
クイーンの言葉にベイカーは、首をひねりながら頷く。
「分かるような、分からないような………それで、どうして教官と友達になったんですか?」
クイーンは、ポケットから煎餅を取り出し、バリバリ音を立てて食べ始めた。
「実はですね、うちのクラスには、女の子の人気者の男の子がいたんです」
「どんな人だったんですか?」
「足が速くて、整った顔立ちをした子です」
「好きですよね、それぐらいの女子って足の速い男子」
「…………どうしたんですか、ベイカー。顔が暗いですよ?何か嫌なことでもあったんですか?」
「…………まあ、色々」
顔に影を作りながらそう返すベイカーに深く触れてはいけないと判断したクイーンは、咳払いをして話を続ける。
「まあ、そんな男の子………仮にAくんとするです。Aくんはクラス中の女の子から好かれていたんです。貰ったラブレターも数知れずってところだったようでした」
ベイカーの顔が薄暗くなっていくのをクイーンは、見て見ぬ振りをして続ける。
「そんなAくんを巡っての話です」
◇◇◇◇◇
「はい、それじゃあ、一班、放課後の掃除よろしく」
ルイーズ流血事件から数日後、帰りの会の後、クラス担任がそう告げた。
この学校では班ごとに一週間、放課後にクラスを簡単に掃除するのだ。
今週は、Aのいる一班が掃除当番だった。
「うぇぇ………」
露骨にAは嫌そうな顔する。
学校が終わったのなら遊びたい。
そこに一分一秒だって無駄があってはならないのだ。
そしてそこに上乗せされる厄介な事案が一つ。
「面倒くさいなぁ………」
同じく一班のルイーズは、正直に胸の内を吐露してポカリと出席簿で叩かれていた。
Aは嫌そうな顔をする。
あの件以降クラスで浮いているルイーズと班が被り、更に班の中の役割分担がAと被り、おまけにその担当はAとルイーズの二人組。
断固として避けねばならない。
「しっかりやれよ〜」
担任は、そう言って教室を出て行った。
担任がいなくなったのを確認すると、Aは近くにいた女子に声をかける。
「ねぇ、今日の掃除当番代わってよ」
「え?」
戸惑うその女子はルイーズを突き飛ばしたあの女子だった。
「…………うん!いいよ」
少しだけ顔を赤らめながらその女子は、快く承諾した。
それをじぃっと見ていたルイーズは、近くにいるクイーンを呼び止める。
「ねぇ、クイーン。掃除」
「代わらないですよ」
「話は最後まで聞きたまえ。手伝ってと言いたいんだよ」
「大して変わらないじゃないですか。どっちにしろ嫌です」
「頼むよ。あの子突然人を突き飛ばすんだよ。私の掃除場所階段なんだよ。突き飛されたらそのままおちてしんじゃうよ」
家での事故死の場所として毎度上位に食い込んでくる。
「別に突然でも何でもなかったですけどね」
必然だ。いい悪いはともかく。
あそこまで煽っておいて無事に済むわけがない。
ついでに言うならこの会話そこそこの音量だ。
少なくとも一緒に掃除をするその子に聞こえるぐらいは。
「…………」
ジロリと睨んでいるのがわかる。
聞こえよがしの陰口程勘にさわるものはない。
クイーンは、考え込む。
目の前眠そうなタレ目女がどうなろうと知ったことではないが、クラスメイトから殺人者を出すことは避けたい。
突き飛ばすといった実力行使は中々止められないだろうが、せめて、このルイーズの煽りぐらいは止められるだろう。
そこまで考えて、ふと思いつく。
「だったら、階段を区切って貴女は上の階から途中まで、彼女は途中から下の階までいいじゃないですか。これなら突き落とされないですよ?」
少なくとも彼女より上にいるのだ。
突き落とされる心配はない。
「いいんじゃない。それでいこうよ」
彼女はそう言って立ち上がる。
「私もあなたと一緒に掃除なんかしたくないし」
吐き捨てるようにそう言うと彼女は、そのまま教室を出て階段を降りていった。
「クラスのモテモテ男子からお願いされて直ぐに頷いたくせにね」
「そう言うこと言うからモメるってわかってるんですか?」
◇◇◇◇◇
掃除を始めたルイーズを放置してクイーンは、階段を降りる。
すると途中で例の彼女とすれ違った。
一生懸命掃除をしている。
邪魔をしても悪いと思い、そうっと隣を抜けて行こうとした時
「クイーンちゃん」
クイーンは、呼び止められた。
「な、なに?」
「あいつと仲良いの?」
「どいつですか?」
「ルイーズ」
はっきりと嫌悪の色を滲ませて言う彼女にクイーンは首を横に振る。
「仲良くないです」
「だったら一緒にいる止めた方がいいよ。クイーンちゃんも浮いちゃうよ」
今度はクイーンが嫌悪の色を滲ませる。
「いや、浮いちゃうとかその前に一緒になんていないんで、その言い方やめてください」
クイーンにとってクラスで浮くより、そっちの方が重要だったようだ。
「でも、今日だって………」
「向こうが話しかけてくるだけです」
基本的にクイーンからは話しかけない。
あの日から、ルイーズは、自身の出した問題が解けたかどうか聞いてくるのだ。
1日1回必ず。
「無視すればいいのに」
「彼女の煽りに耐えられなかったくせによく言えるですね」
まだと答えると『降参するかい?答えは教えないけど』と言ってくる。
その言い方がまた酷く勘に障るのだ。
「…………そうだね。ごめん」
「分かればいいんですよ、それじゃあ」
クイーンは、そう言うと学校を後にした。
◇◇◇◇
階段掃除最終日。
「ねぇ、君、手伝わなくてもいいからせめて、一緒にいてくれないかい?」
「やだって言ってるでしょう」
アレから一週間ルイーズは、ずっとこの調子だ。
「だって、彼女、いつキレて私を突き飛ばしにくるかわからないんだよ」
「貴女が余計なことを言わなければ大丈夫ですよ」
「どうして彼女への信頼度がそんなに高いんだい!!私は血まで流したんだよ!!君だって見ていただろう?」
「彼女に対して信頼度が高いというより、貴女に対して信頼度が低いんです」
クイーンのピシャリと言い放ったその言い方にルイーズは、頬を膨らませる。
「ちぇー…………いいよ。もし、死んだりした毎晩夢枕に立ってやるから」
「それじゃあ、塩撒いとくです」
適当に言い返すとクイーンは、むんっと力を込めて立ち上がる。
「どっちにしろ今日まででしょう?早くやって早く終わらせてきたらどうですか」
「それもそうだねぇ」
ルイーズは、ため息を吐いて立ち上がる。
ある程度歩き始めてからふと思いついたように振り返る。
「そう言えば、解けたかい?」
「…………まだです」
「別に諦めてもいいんだよ」
「それは、私が決めることです」
クイーンは、そう言ってからルイーズを恨みがましそうに見る。
「だいたい、ヒントも手がかりもないのに解けるわけないじゃないですか」
「大分出してると思うんだけどなぁ」
ルイーズは、そう言いながらふむと腕を組む。
「それじゃあ、もう一つヒント。私は別に先生に怒られていなんだよ」
「え?下級生を置いて行ったのにですか?」
「そ。あ、ついでにヒント出したから、期限つけるよ」
「へ?」
「来週いっぱいに答えられなければ君の負けだ」
「ちょっ!!」
クイーンの言葉を無視してルイーズは、教室を出て行った。
「えー………」
残されたクイーンは、今の言葉の意味を考えた。
下級生を置いて行くと言うのは許されるものではない。
「仮に私が置いて行ったら、先生は何というんでしょう」
確実に職員室に呼び出され、三十分の説教タイムだろう。
「でも、彼女は怒られていない…………なんで?」
─── 「だって悪いことはしていないもの」───
「いや、下級生を置いて行くのは悪いことです
クイーンは、ルイーズの言動を思いだして首を横に振る。
「うーん…………」
何か何処かに見落としがある。
そんな気がしてならないのだが、それが何か分からない。
「こういう時は!」
クイーンは、そう言って教室を出て行った。
◇◇◇◇
翌週。
「はーい、それじゃあさようなら。当番は、掃除よろしく」
担任は、そう言って教室を出て行った。
皆、一斉に帰り支度をまとめていく。
そんな中クイーンは、黙ってルイーズを見ていた。
ここ最近ルイーズが、クイーンに話しかけてこないのだ。
おかげで、クイーンも話すタイミングを失っていた。
(どうしたんでしょう………)
いつもなら鬱陶しぐらいに絡んでくるのに今週に入ってから三日間ルイーズは、先週、一緒に掃除当番をした女の子を見ている。
その女の子は、放課後になると慣れた手付きで階段掃除をしていた。
いつもその様子をルイーズは、見ていた。
(仲直りしたいんでしょうか?)
長く掃除を続ける内に連体感が生まれたのかもしれない。
「まあ、いいことですね」
この調子でいけばクイーンに出した問題の事など忘れているだろう。
そう思いも帰り支度をまとめようとしたその時だった。
「待った」
ルイーズの声が、凛と教室に響いた。
驚いて顔を上げるとルイーズが、帰ろうとするAの腕を掴んでいた。
「な、なんだよ!」
「掃除していきたまえ」
そう言ってルイーズは、箒を持ったルイーズを突き飛ばし、そして先週一緒に掃除をした女の子を指差す。
「彼女は君の代わりに一週間掃除を続けていた」
クイーンは、ハッとする。
そう、ルイーズは先週ずっと彼女と掃除を一緒にすることを嫌がっていた。
一週間一緒にだ。
つまり、彼女は一週間、Aの掃除当番を代わりにやっていたのだ。
「代わりにと言ったからには、彼女の当番が回ってきたら代わるべきだろう?」
眠そうなタレ目から信じられないほどの圧が放たれていた。
Aは思わず身じろぐ。
「あ、あの時は、用事があったんだから仕方ないだろ」
「そうだねぇ。友達と遊ぶという用事があったんだもの仕方ないねぇ」
ルイーズは、うんうんと頷きながら納得した後、指を一本立てる。
「でもそれは、今関係ない。関係あるのは、君が今彼女の代わりに掃除をしなければいけないということだ」
ルイーズに詰め寄られAは、目をそらす。
「分かった。明日やるから今日は、用事が」
「ダメだねぇ。今週になってもう三日目だ。その言い訳は通用しない」
「そうは言っても用事が」
「いいかい?彼女は君の代わりに掃除を一週間やっていたんだ。彼女自身、用事があったかもしれない。でも君は『ねぇ、今日の掃除当番代わってよ』と言って彼女の用事も聞かずに代わっていた」
ルイーズは、Aから手を離し、扉の前に移動する。
「そんな奴が自分の用事を優先できるわけがないだろう?」
そこまで言うと掃除道具を持ってたたずむ渦中の女子をちらりと見る。
「大方君は、自分が頼めば女子が断らないと知っていた。断れば嫌われてしまうからね。だから、礼儀を、通すべき筋を通さなかった」
ルイーズのその言葉は、A自身がモテる事を利用していると言っているのと同義だ。
Aは、顔を真っ赤にする。
「う、うるさい!!お前に関係あるのかよ!!お前とこいつ、仲よかったか!?」
Aは、声を荒げながら言い返す。
ルイーズは、ハッと鼻で笑う。
「馬鹿言え。この女は、私の顔血だらけにしたんだよ。仲良いわけないだろう?」
「だったら、関係ないだろ!!引っ込んでろ」
「そもそもこのクラスに私と仲の良い人なんていない。
仲の悪くない人ならそこそこあるけどね?」
ルイーズは、戯けてそう返す。
そして更に続ける。
「彼女と仲が良いから助けてるんじゃあない。
彼女が可哀想だから庇っているんじゃあない。
君のことが嫌いだから突っかかっているわけでもない」
ルイーズは、そこまで言ってAを指差す。
「そういう筋の通らない話が気にくわないから口を挟んでいるんだ」
隣で聞いていたクイーンは、目を丸くする。
ルイーズは、続ける。
「この女は、言葉に詰まった瞬間私を突き飛ばしたんだ。こんな女、嫌いに決まっている。それと同じくらいに筋の通らないことが嫌いだ。そして、それ以上に自分の都合のために人を犠牲にするやり方が大っ嫌いだ!」
ルイーズは、叩きつけるようにそう言い放つ。
一歩詰め寄る。
開いた口が塞がらなかった。
単純にクイーンは、驚いたのだ。
そんな理由で、歯向かうルイーズに。
仲の良い友達を助けると言うなら理解出来る。
仲の良い友達のために怒ると言うのも理解出来る。
仲の良い友達のためにAに嫌われるの覚悟の上で、庇うのも出来るかどうかは怪しいが理解は出来る。
だが、ルイーズはそのどれでもない。
その行為が正しくないと怒ることができる。
そんなことができる人がいるのかと、
そんなことで怒ることができる人が本当にいるのかと、
まるで、おとぎばなしのようだ。
綺麗で素敵でそれでも存在しない。
「分かったら掃除をして行きたまえ」
上目遣いというには生ぬるい、まるで下から見下ろされるかのような眠そうなタレ目でルイーズに詰め寄られるA。
Aは、ゆっくりと掃除道具を手に取ろうとする。
「待って!」
その女子は、掃除道具を離さない。
「いいよ。アレは、私が好きでやったことだもん」
「なっ!?」
クイーンが今度は別の意味で目を丸くする。
「その私別に用事があったわけでもないし、だから」
Aは、それを聞いた瞬間目を輝かせる。
「聞いたか!!こいつがいいと言っているんだ。だから、俺は帰」
「だったら彼女が告白したら君は『はい』と答えたまえよ」
その言葉に再びピタリと止まる。
「筋を通せと言っているんだ。彼女の気持ちを利用したんだ。それなりの対価を支払いたまえ」
その女子は、顔を真っ赤にする。
それに構わずルイーズは、続ける。
「私は、別に君のことがそこまで嫌いじゃあない。何せ実害はないしね。足が速いなんてカッコいいじゃあないか」
それにと言葉を続ける。
「好きな女の子にちょっかい出しすぎて泣かすこともせずちゃんと優しくしているのもポイントが高い」
ルイーズが静かに言い放つ。
その女子は、思わず箒を落としそうになる。
その意味が分からないわけがない。
Aは、俯くとその女子から箒を受け取り掃除場所へと向かった。
ルイーズを突き飛ばした女子をペタンと床に座るとそのままポロポロと泣き出した。
ルイーズは、それを見届けると教室を出て行った。
これ以降、ルイーズに話しかける人間は、誰もいなくなった。
「
一人を除いて。
そろそろ卒業シーズンですね。
在校生の皆さんは、1人1人に渡す卒業証書授与式が長くてキツイと思います。
でも、卒業生は、更に辛いので多めに見てあげてください。だって、こそこそ喋れないですからね。
高校の時の1クラス1人、そして後はクラスで渡すと言う方法を知った時なんて画期的なんだろうと思いました。
ではまた外伝18で( ´ ▽ ` )ノ