お待たせして申し訳ありません!!
てなわけで、どうぞ
「先手必勝!!」
ルイーズは、拳を構えたまま距離を詰める。
対する切り裂きジャックは、刀を上段に構える。
間合いに入った瞬間に振り下ろすつもりだ。
「ふん」
(拳が届くのが速いか、オレが刀を降ろすのが速いかの勝負、か)
有利なのは、刀だ。
理由は簡単。
単純に間合いが広いのだ。
そこに飛び込むルイーズは、小柄だ。
単純にリーチが短い。
「それを補う速さが出せるのか?」
ルイーズは、徐々にスピードを上げていく。
切り裂きジャックは、それに合わせるように刀を振り下ろした。
当たれば即死。
それだけの力をもって振り下ろされた刀は、
「!?」
ルイーズの目の前の床を切りつけただけだった。
ルイーズは、刀の間合いの一歩外で、止まっていた。
いずれ来る場所に刀を振り下ろした切り裂きジャックのタイミングをずらしたのだ。
振り下ろしの死に体、これを逃す手はない。
「ぬん!!」
ルイーズは、刀を思いきり踏みつけ切り裂きジャックの顔面を殴りつけた。
「っ!?」
切り裂きジャックは、刀から手を離し、後ろに下がる。
ルイーズの拳は、虚しく空を切る。
「なんの!!」
ルイーズは、態勢を崩しながら更に拳を放った。
切り裂きジャックは、右腕で受け止める。
「─────っ!?」
ルイーズの拳を受けた右腕に走る衝撃に切り裂きジャックは、顔をしかめる。
更に追撃しようとしているルイーズ。
切り裂きジャックは、大きく距離をとった。
「テメー本当に女かよ。腕めちゃくちゃ痺れてんだけど」
「女の子のおかげで腕が痺れるなんて、男冥利に尽きるだろう?」
ルイーズは、足元の刀を蹴り飛ばし、切り裂きジャックから大きく離す。
「はっはっはっ」
ワザとらしく笑うと腰にある刀に手をかける。
「ほざけ」
切り裂きジャックは、目の前から消えた。
「っ?!」
ルイーズは、すぐに振り返る。
だが、どこにもいない。
「どこ………にぃ!?」
足元の影が大きくなっていく。
ルイーズは、自分の真上を見上げるとそこには、抜刀の態勢のまま落下してくる切り裂きジャックがいた。
慌てて一歩下がるルイーズ。
だが、
「おっっせぇ!!」
切り裂きジャックの刀がルイーズをかすめる。
「っぐ!」
右肩から血が噴き出す。
(浅かったか………だが、)
「これで終わりと思うなよ」
切り裂きジャックは、着地するとルイーズに切っ先を合わせ、突きを繰り出した。
迫る切っ先。
ルイーズは、左の拳を握り締める。
「君こそ」
そして、腰を落とし真っ直ぐに迫る切っ先に向かって拳を打ち抜いた。
ぶつかり合う切っ先と真っ黒な拳。
二つは、金属がぶつかり合うような甲高い音を響かせる。
「これで終わったなんて思うんじゃあない!!」
ルイーズは、更に力を込め刀を砕いた。
「おいおいおい………」
切り裂きジャックは、冷や汗を滲ませる。
ルイーズは、更に一歩踏み込み右の拳を打ち込む。
切り裂きジャックは、一歩後ろに下がってかわしながら、倒れている男から刀を奪い構えた。
「あー………そっか、そうだよねぇ」
その光景を見たルイーズは、ため息を吐く。
武器を取り上げればこちらが有利に傾くと思っていた。
だが、周りに武器が溢れている。
この状態では、どうしようもない。
「お前、その手袋どうなってやがる?刀で切れない布なんて見たことない」
「んー………企業秘密」
ルイーズはニヤリと笑い、切り裂きジャックに指を突きつける。
「私からも質問させてもらおう。ここの男達は、君の部下かい?」
その言葉を聞いた瞬間、切り裂きジャックは、大笑いをする。
「こんな奴らを部下にするものか!ただのゴロツキをちょいと小突いて脅しただけだ」
「なら、質問その二」
ルイーズは、そう言って指を二つ立てる。
「なんでわざわざ軍の人間を誘い込もうとなんてしたんだい?」
「誘い込む?何のことだ?」
「とぼけるんじゃあないよ。人っ子ひとりいないロビー、まるでワザとみたいに聞こえる叫び声、そして、ワザと逃した人質、これだけ揃ってまだとぼけるのかい?」
「おいおいおい……人質は、別にワザと逃したわけじゃない。あいつの実力だろ?もっと部下を褒めたらどうだ?」
「なら、なおのことだよ。あの子の実力で逃げ出すなんて無理だ。
監禁場所も分からない、
目印も分からない、
置いてきた仲間の救出の仕方も分からない、
そんなないない尽くしの子にここから逃げ出す実力なんてあるわけない」
ルイーズは、指を切り裂いジャックに突きつける。
「そしてもう一つ。まあ、これが決定的なんだけど」
そう言ってジロリと切り裂きジャックを睨む。
「君がいるここから、あの子が逃げ出せるわけがない」
ルイーズの言葉に切り裂きジャックは、本当に面白そうに大笑いをする。
「大正解!!」
笑い過ぎて涙が浮かんだ目元を拭いニヤリと笑う。
「ここのゴロツキ共に訓練生の馬鹿共が絡んだのも偶然じゃあないんだろう?」
「当然。力を手に入れて強くなったと勘違いしてるガキ共を煽るなんて出来て当たり前だ」
楽しそうに笑う切り裂きジャックにルイーズは、拳を握る。
「それで?最初の質問に答えていないよ。なんでわざわざ軍の人間を誘い込もうなんてしたんだい?」
切り裂きジャックは、笑顔のまま言葉を続ける。
「言わないって分かってるくせに聞くってのは、無駄だと思わないか?」
「分かってないなぁ。女の子は、無駄な会話を楽しむ生き物なんだよ」
ルイーズは、拳を握り締める。
「キリの良いところで逃げようと思っていたけどもうやめだ」
そして、地面を打ち鳴らし踏み込んだ。
切り裂きジャックは、一歩後ろに下がる。
先ほどまでいた場所には、床を殴りつけるルイーズが現れた。
床に放射状のヒビが広がる。
「ふん縛って朝飯から思惑まで全部吐かせてやる!!」
「できるもんならやってみろ!!」
切り裂きジャックは、刀に回転をのせて振るった。
ルイーズは、屈んでかわす。
そんなルイーズの顔面を切り裂きジャックは、蹴り飛ばした。
ルイーズは、大きく後ろに弾き飛ばされる。
「っ痛」
切り裂きジャックは、足に走る痛みに思わず顔をしかめた。
(あの女………防ぎやがったな)
まるで鉄の塊を蹴ったような衝撃が切り裂きジャックの足に残っていた。
「鉄の強度を持った手袋……か」
切り裂きジャックが呟いている間にルイーズは、態勢を立て直すと再び走り出す。
切り裂きジャックもそれを迎え撃つ。
刀がルイーズに振るわれる。
ルイーズは、迫る刀を思いきり殴りつける。
鈍く高い音が響き渡る。
「くっ!?」
ルイーズは、拳に走る衝撃に顔をしかめた。
鉄の強度を持つ手袋とは言え衝撃全てを吸収することはできない。
「だからって……!!」
拳を握り直す。
先ほど切られた肩からは、血が噴き出すがそんな事に構ってはいられない。
「ここで引いてちゃ女が廃る!!」
握られた拳は、迫る刀を弾く。
切り裂きジャックは、弾かれた刀を再びルイーズに振るう。
ルイーズは、刀を殴りつけ弾くと懐に入り込み拳を放つ。
迫る拳を切り裂きジャックは、刀の柄で受ける。
ルイーズは反対の拳を振るう。
慌てて切り裂きジャックは、後ろに下がり、ルイーズに刀を振るう。
ルイーズは、迫る刀を肘と膝で挟み止める。
「ふん!!」
刀をそのままへし折る。
「かーらーの!!」
ルイーズは、足で地面を踏み鳴らし、拳を切り裂きジャックの腹に打ち込む。
鈍い音ともに切り裂きジャックは、大きく後ろに吹き飛ばされた。
「くそ!下がって受けやがったね」
ルイーズは、追撃しようと歩みを進めた瞬間、
「カハっ………」
口の中が血の味でいっぱいになった。
ルイーズは、堪らず口に溜まった血を吐き出す。
「何が………ぐっ!?」
激痛を感じた脇腹を見るとそこには、先ほど折った刀が深々と刺さっていた。
「やれやれやれ………やっとまともな一撃が入ったな……」
切り裂きジャックは、殴られた腹部を押さえながら立ち上がる。
あの時切り裂きジャックは、拳を打ち込まれるより早くルイーズの腹部に折れた刀を突き刺し、そして、その刀を釘でも打つようにして足場にし、後ろに下がったのだ。
ルイーズは、歯を食いしばり口角を無理やりあげる。
「君…………女の子相手に随分えげつない手を打つじゃあないか」
「阿保………女のクセに随分えげつない一撃決めといて何言ってやがる」
ずきりと痛む肋骨に切り裂きジャックは、顔を歪める。
「まともに食らってたらさよならだったな」
「そんなことないさ。牢屋の中でちゃんと完治するよ」
ルイーズは、そう言いながら拳を握り締める。
「その状態でまだ、やるのか?」
「お互い様だろう?」
ルイーズは、血の混じった唾を吐き出すと足を一歩前に出す。
「ざんねんだが、ちと違う」
切り裂きジャックは、懐から輝く琥珀色の石をとりだした。
「ちょっと、待ちたまえ、ソレって……」
「そうリリアルオーブだ」
ルイーズは、ギュッと唇を噛む。
「ソレは、軍属の隊長格に渡されるものだ!どうして君が持っている!?」
「それを言う必要があるのか?」
「私には、聞く必要がある!!だから答えたまえ!!」
「断る。オレが言う必要はないからな」
そう言うとリリアルオーブを輝かせ刀を拾って構える。
「驚いたぜ。技は使ってないとはいえ、リリアルオーブを持ったオレと互角の戦い繰り広げたんだからな」
ルイーズは、目の前の男を睨みつける。
「私が持っていれば何も不思議じゃあないだろう?」
「持っていればな?」
切り裂きジャックは、そう言って刀を振りかぶる。
「蒼破刃!!」
蒼い剣戟が、空を走る。
ルイーズは、何とか一歩横に動きかわす。
かわしきれずかすった肩に衝撃が走る。
激痛が走る肩をルイーズは、手で押さえる。
「ぅぐっ!!」
「持っているならどうして技を出して打ち消さなかったんだ?」
ルイーズは、激痛を堪えながら何とか膝を付かぬよう踏ん張った。
それから人を小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「おいおい、こんなどこにでもいるひ弱な女の子相手に本気を出すのかい?」
「お前みたいな奴がどこにでもいてたまるか」
それに、と言葉を続ける。
「お前に負けた時オレはなんて言えばいいんだ?『本気を出さなかったら負けた』とでも言えばいいのか?それとも『今のは実力の三割も出してない』とでも言えばいいのか?」
「さてね」
そう言うと拳を固め切り裂きジャックに向かっていった。
「負けてから考えたまえ!!」
「なら、そうしよう」
刀を構える。
「散沙雨!!」
繰り出される無数の突き。ルイーズは、両の拳で殴りつけて幾つか相殺する。
だが、拳をすり抜けた刀がルイーズを襲う。
「ぅっぐ………!」
ルイーズは、激痛を噛み殺しながら後ろに下がる。
「距離をとったつもりか!!」
切り裂きジャックは、更にルイーズへと踏み込む。
「獅子戦哮!!」
獅子の形を纏った闘気がルイーズに喰らいつく。
ルイーズは、そのまま吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
全身に走る衝撃にルイーズは、肺から息を吐き出した。
「………くそ……たれっ」
立ち上がろうとするが身体に上手く力が入らない。
ルイーズは、激痛で顔を歪めながら目の前の切り裂きジャックを睨みつける。
「おいおいおい、マジかよ。まだ、そんな顔が出来るのかよ」
ルイーズは、吐血しながらももう一度四肢に力を込めて立ち上がる。
─────「私たちの任務は、人質の救出であって、切り裂きジャックの確保ではないのですよ」──────
人質の救出、それを達成するには、クイーン達が人質を安全な場所に連れて行き、尚且つ、応援を連れてルイーズを回収しなければならない。
必然的にルイーズは、それまで残って切り裂きジャックを足止めしなければならないのだ。
逃げることは許されず、死ぬことも許されない。
「殺人鬼を野放しにするほど大人しくないよ」
何より、応援さえ来ればこの狂った殺人鬼を捕まえられる。
「大した女だ。とてもボロ雑巾とは思えないな」
そう言うと刀を構える。
「だけどな、そりゃあ無理ってもんだ」
切り裂きジャックは、そう言うと刀をルイーズに向かって振り下ろした。
「こなくそ!」
ルイーズは、刀を受けようと拳を動かそうとする。
だが、激痛で視界が歪みそのまま地面に膝をついてしまった。
ルイーズに刻一刻と刀が迫る。
ルイーズは、やがて来る激痛を覚悟する。
ルイーズに迫るその刀を金髪の女が自身の刀で防いだ。
「君ぃ!!」
「やっぱり!戻ってきて正解でした!!」
金髪の女、クイーンは、ルイーズへと向かう刀を食い止めながら悪態を吐く。
「撤収です!!つり目くん!!」
「了解です!!」
クイーンの下知と共にベイカーが突入し、煙玉を投げる。
「!?」
真っ白な煙がモウモウと切り裂きジャックの前に広がる。
「陰険メガネの特性煙玉、煙増量バージョン!!(当社比三倍)」
クイーンは、その隙にルイーズを担ぐ。
「何で君たちだけで戻ってきたんだい!!人質は、置いてきたみたいだけど、せめて応援つれてきたまえ!!何のために私が残ったんだか分からないじゃあないか!!」
ルイーズの言葉に耳を貸さずクイーンは、出口へと走り出す。
「いいからほら、逃げるですよ!!」
「そんなわけないだろう!!応援が来て逮捕してくれると思ったからここまでこらえたんだよ!!これじゃあ、正体不明の殺人鬼がまた、世に放たれちゃうじゃあないかい!!」
「その前にたれ目ちゃんが死ぬって言っているんです!!この強情っぱり!!」
ジタバタと自分から逃れようとするかルイーズをクイーンは、力づくで押さえつけながら出口へ向かう。
「とにかく!!ここから逃げる!切り裂きジャックの正体を見たということに意味があるんです!!」
そう言うクイーンに構わずルイーズは、ずっと暴れている。
「もう直ぐ出口です!!」
ベイカーは、二人を何とか励ます。
指差すその先には、入ってきた出口が見えた。
誰ともなく思わず安堵のため息を吐いた。
「おいおいおい、安心するにはまだはえーだろ」
煙から飛び出た切り裂きジャックが刀を振りかぶってベイカーの真横に現れた。
「マジかよ………!」
煙は確か広がっていたが、濃いところと薄いところがあったのだ。
切り裂きジャックは、そこをクイーン達の声を頼りに通って現れたのだ。
切り裂きジャックは、ニヤリと笑いながら刀を振り下ろす。
その瞬間エラリィのハンマーが彼の体をとらえた。
「その言葉ごとそっくりそのまま打ち返してやろう」
めりめりと音を立てながら切り裂きジャックは、大きく吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた切り裂きジャックは、派手な音を立てて壁に打ち付けられた。
「カッハ……」
「煙の濃淡を作っておけばもしやとおもったが……」
エラリィは、ハンマーを肩に担ぐ。
「まんまと引っかかったな、間抜け」
エラリィは、単純に煙が薄くなるところも考えながらあの煙を作っていたのだ。
後は簡単だ。
自分はそこで待ち伏せしていればいい。
案の定切り裂きジャックは、そこを頼りにやって来た。
「ナイスメガネ!!今のうちに………」
「ダメですって!!他のゴロツキ達も起き出してくるんですから!!一緒には来ませんでしたけど応援も頼んであるんで今回は撤退です!!」
ルイーズは、悔しそうに歯軋りをすると壁に打ち付けられた切り裂きジャックを睨む。
「切り裂きジャック──────!!」
ルイーズの慟哭が洋館に響き渡るのを聞きながらクイーン達は、洋館を後にした。
親子揃って初陣は敗走です………
最近寒くて寒くて………布団から出ている顔が痛いです………
ではまた外伝13で( ´ ▽ ` )ノ