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あるところに一人の女子高生モデルがいた。
彼女には才能があって、デビューしてから間も無く世間で有名になる。それも、並々ならぬ程に。同年代だけではなく、普通に生活しているだけでもその名前を聞かない日はないという有様だった。
《カリスマJKモデル》なんて呼ばれ始め、彼女のセンスは常に時代の流行を先取るものとなっていった。
ただ、彼女はまだ学生だったし、精神的に熟しているとは言い難かった。
その身に余る成功を収めた時、人は正常な判断力を失ってしまうことがあるというのは、皆さん経験したことや目にしたことぐらいはあるだろう。
つまりは、彼女は調子に乗ったのだ。
彼女が元から人一倍努力していたのは間違いない。それだけでも充分に成功する可能性はあっただろう。ただそれ以上に彼女の才能は、彼女が平凡な一人のモデルとしてその生涯を終わることを良しとはしなかった。
予想以上の成果が得られた。同じ分野で彼女に及ぶものはいなかった。周囲の人たちは彼女を褒め称えた。誰も、彼女を否定しなかった。
彼女が気を迷わせてしまうのには十分過ぎた。
そこに一人の男性が横槍を入れる。
それは彼女にとって想定外のことだった。なぜなら、他でもない彼こそが彼女の才能を見出した恩人、その人だったからだ。
その言葉を彼女は理解しようとはしなかった。いや、できなかったという方が正しいだろうか。
『裏切られた。』
彼女はそう思った。
彼のおかげで今の私があるのに。彼のために、彼に恩返しをするために頑張っていたと言っても過言ではなかったのに。
それなのに、彼は私の成功を一緒に祝ってはくれないのだと。
怒りがこみ上げてくると同時に、悲しくもあった。そして、彼のことを意識の外へと追いやり、それまで通りにそれまで以上に。その人並みならぬ資質と弛まぬ努力で人々を魅了していった。
しかし、次第に彼女は時の人ではなくなっていく。減らない才能と最低限の努力で何とかやっていけているような状態だった。それこそが、彼が懸念していたことそのものだった。
彼女が彼の真意に気がついた時。彼は彼女の手の届く場所にはいなかった。
彼女の笑顔は、失われた。
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「店長さん店長さん。ちょっといいですか?」
「なんだい、幸子ちゃん。今日もかわいいね。」
「ふふーん、当然です! あのバイトの人なんですけど、少しお借りしてもいいですか?」
「あぁ、別に構わないけど。他に客もいないしね。あの子がどうかしたのかい? まさかなんかミスでもした?」
「いえ、違うんですけど、なんか美嘉姉が話をしてみたいらしくて。それにあの子、ボクたちと面識があるみたいなんですよ〜。」
「え、もしかして幸子ちゃんたちの事務所の子だったの?」
「いえ、そうではなくてですね。ボクたちが撮影しているところを見学したことがあったみたいで。」
「あら、そう。妙に綺麗な子だからそうなのかな、と思ったんだけど・・・。」
「二ヶ月前に」「京都で」「どすか?」
やはり、彼女たちは京都で見たアイドルに間違いないようだ。
でも、六月に京都でプロデューサーと出会って彼の勧めで三人のロケを見学していたことを伝えてみたが、その反応はイマイチだった。
まぁ、彼女たちは毎日のように仕事をこなしているはずなのだから、急に二ヶ月も前の話をされてもピンとこないのは当然かもしれない。
「どうやったかなぁ・・・京都でロケをした憶えはあるんやけどなぁ。友紀はんはどないですか?」
「いやー、私も紗枝ちゃんと同じかなー。ロケのことは分かるけど、見学してる子がいたなんて知らなかったよ。幸子ちゃんは知ってた?」
「えぇ、ボクは知ってましたよ!」
おっと。意外にも、幸子ちゃんだけは知ってたみたいだ。どうやら誰かから直接話を聞いたのではなく、スタッフさんたちが話しているのを偶然小耳に挟んだらしい。
あたしが見学に来ていたことを伝えるつもりはなかったってことかな。
「むしろ、お二人が知らなかったことに驚きなんですが。」
「まぁー、あんたたち収録中だったんでしょ? たぶんプロデューサーが、気を紛らわせないために気を使ったんじゃないの。いかにもあの人が考えそうなことだし。」
「あぁー、それはあるかも。」
「プロデューサーはんも忙しそうにしてはりましたし、バタバタしとったからなぁ。」
「なるほどー。」
そういう気遣いができるところはさすがというべきなのかな。
「それにしても、塩見周子ちゃんだっけ?」
「うん、そうだよ。シューコちゃんだよ。」
「プロデューサー直々のスカウトって、美嘉さん以来なんじゃないですか?」
「そうかもしれまへんなぁ。」
「いやいや、この間いたじゃん。ほら、こないだのオーディションのグランプリだった・・・「拓海ちゃん?」そう! 拓海ちゃん! 拓海ちゃんもプロデューサーがスカウトしたってアタシは聞いたよ?
でも、そうだね・・・それを含めても珍しいのは確かかも。あの人ってどっちかと言えばスカウトよりも営業とかプロデュースがメインみたいだし。」
そうなんだ。スカウトって数撃ちゃ当たる方式なのかとばかり思ってたから、ちょっと意外かも。そんな風に言われるとさすがに照れるなー。
・・・あ。この人、どこかで見たことあると思ったらあれじゃん。城ヶ崎美嘉じゃん。カリスマJKモデルの。やっぱり本物はオーラが違うなー。
別にKBYDが本物じゃないって言ってるわけじゃないよ? ただ、やっぱり格が違うのは確かなんだと、こうして二つの例を実際に目の当たりにして思うんだよね。
「それで、シューコさんはどうして東京にいるんです?」
「それはもちろんアイドルになるためだよー!」
「へぇー、なるほどなるほど。アイドルにねー・・・って」
「「「「ええぇぇぇー!?」」」」
次の瞬間、あたし以外の四人は驚きを隠せなかったようで、悲鳴にも似た声をあげその場に立ち尽くした。
え、なんかおかしいこと言ったかな・・・?
だってあたしがプロデューサーにスカウトされたってことは話したし、KBYDのロケを見学したことも含めればアイドルを目指すのは別におかしいことじゃないと思うんだけど。
「しゅ、シューコちゃんはさ、どうやってアイドルになるつもりなのかな・・・?」
「え、うーん、まだよくは考えてないんだけど・・・。とりあえずはオーディションを受けてみて、結果を待ってからプロデューサーさんに連絡って感じかなー。」
「あのー、とても言い難いことなんやけど・・・オーディションは終わったばかりどすえ・・・。」
「それは残念。じゃあじゃあ次の「それもずっと先。」え、そうなの?」
なんで?
「此間のオーディションは特別でしたから。その規模たるや、日本だけでなく外国までも巻き込んだ程でしたよ。」
「それで、どうしてオーディションがなくなっちゃうわけ?」
「考えてもみなって。オーディションってのは、全国から洗いざらい、しらみ潰しに才能のある子を探すシステムなんだから。丁寧であればあるほど成果は出やすいけど、その分お金も時間も、人手だってかかるじゃん?」
ほうほう。
「例えれば、砂漠の中からダイヤの原石を探し出すみたいなもんよ。一々そんなことしてらんないし、一度見つかってしまえば次の原石が出てくるまで時間がかかるし。あんだけ大々的にやったら次は一体いつになることやらね。」
おぉー。
「アッタマいいーー!」
「ちょっと! 今の話を聞いての感想がそれ!?」
「シューコちゃん、たぶんそれなりにピンチだと思うよ? そう・・・例えるなら、九回裏に三点差を追いかける我ら。ツーアウト満塁の場面で一本出れば逆転。しかし、相対するはセーブ王! 為す術なし! って感じだよ。」
「つまりどゆこと?」
野球に例えられてもー。
「だから、崖っぷちってこと!」
「えー、それは困るー。」
「んなっ!」
「ふふっ、呑気やお人やなー。」
うん、よく言われるよく言われる。
でも、実際にどうしたものかな。
「何をそんなに悩んでるんです?」
みんなが頭を悩ませている中、一人だけキョトンと首を傾げている影が一つ。
呑気さで私に張り合うつもりかい? 負けないよ、幸子ちゃん!
「幸子ちゃん、今の状況が分かってないの? この子はもう、オーディションを受けられないんだよ?」
「だーかーらー、それがなんの問題があるんですか。なればいいじゃないですか、アイドル。」
「「「「?」」」」
そして彼女は言い放った。
それは間違いなくこの問題を解決するための正解の一つで、むしろ、どうして今までそのことに気付けなかったのかと頭を抱えるほどに単純明快なものだった。
ようは、手順を難しく考えすぎていたのだ。
「だってスカウトされたんでしょう、プロデューサーに。会いに行って言えばいいじゃないですか。『アイドルになります』って。」
アイドルになる道のりは、なにもオーディションだけではないのだ。
後に友紀ちゃんはこう語る。『あれは見事な代打逆転満塁サヨナラホームランだった。』と。
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アイドルになる方法というのはいくつかある。細かいものもあげていけば暇がないが・・・大きなものをあげるとしたら三つが挙げられる。
まず一つ目は、オーディションに参加し勝ち上がること。周子が元々目指していた方法である。もちろん、その難しさは誰もが知るところではあるが、オーディションを勝ち上がったという実績を提げてデビューすることができるというメリットがある。例として速水奏と向井拓海、そして水本ゆかりがあげられる。
二つ目。専門学校に通ってからデビューする方法。地味ではあるが、幼少時からレッスンを積み重ねて確かな実力をつけた上でデビューすることができる、ある意味一番王道な方法だ。
そして三つ目。それこそが、幸子が言っていた方法、スカウトによるデビューである。アイドルというのは、ある意味「なる」のではなく「作られる」ものだ。そのアイドルを作る人たちが事務所であり、プロデューサーやスカウトマンである。彼らがその気にさえなれば、オーディションや学校などを経ずにアイドルになることは容易なのだ。
ただ、この方法には決定的な欠点がいくつも存在する。博打に過ぎるのだ。オーディションで篩にかけるでも、学校で磨きをかけるでもない。それに比べて特筆するメリットもないとなれば、どうしてもという状況にならない限りは当てにすべき方法でないのは明らかである。
ただ、これについては例外もあるにはある。城ヶ崎美嘉のような存在、つまりは天才のことだ。高垣楓もその類だが、彼女はモデルからアイドルに転向しているので別枠になる。それに至った経緯についてはまたいずれ・・・。
まぁ、つまりは何が言いたいのかというと。
スカウト組は余程の運と実力がなければ生き残ることはできない、ということである。
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「うーん、でもなぁ、スカウトかー。」
「あんまりオススメはできまへんなぁ〜。」
「え、そうなんだ? どうして?」
そう尋ねると、四人がそれぞれの経験や周囲で見てきた感想を教えてくれた。まとめると、スカウトは博打なのだとか。あたしが思っていた、数撃ちゃ当たるというイメージは当たらずも遠からずといったところだね。
「だからこそ、プロデューサーも気になった子がいてもとりあえずはオーディションを受けさせるわけだしねー。」
「あ、あれってそういう理由だったんですか。なんでそんな面倒なことしてるんだろうな、って前々から疑問だったんですよ。」
うーん、あたしとしてはこのままデビューしてもいいんだけど・・・。
そう考えていると、美嘉ちゃんが考え事でもしているかのように顔を俯かせていた。彼女が顔を上げた時、その表情はさっきまでと打って変わって厳しいものだった。もしかしたら、これが《カリスマJKモデル》としての彼女の顔なのかもしれない。
「・・・ねぇ、シューコちゃんさ、本気でアイドルを目指す気はあるの?」
「えー、美嘉ちゃんどうしたのさ、急に改まっちゃって。」
「茶化さないで、友紀ちゃん。今は大事なこと聞いてるの。ねぇ、どうなの? 本気であの人のために、これから出会うだろうファンの人たちのためにアイドルになる気はある?」
「・・・。」
どうだろう。
確かにあたしはアイドルになりたいと思った。しかし、それはなってみたいと思っただけで、本気でアイドルそのものに憧れたわけではない。
プロデューサーにスカウトされて、一度は立ち止まった。家を追い出されてからやっとその気になってこうして東京に出てきたのだ。覚悟なんて、できているかと言われればできてないと答えるしかないんじゃないか。
・・・それでも。あの人はあたしが「寂しそう」だと言っていた。そう見えたのなら、きっとそうだったのだろう。それに対する答えがアイドルなのだと教えてくれた。
こうして本物の彼女たちを見て、その姿に憧れつつある自分もいる。
というか、こうしてここにいる時点で決心はついているんだから、悩む必要なんて、ないんかな。
うん、ない。
「・・・今更だよ。もちろんなるよ、アイドル。」
「そっか・・・。」
「「「「?」」」」
あたしの答えを聞いて、満足したような、それでいて何かを心に決めたような表情で彼女は話をしだした。
それは間違いなくあたしに訪れた二度目の転機で、あたしが本当の意味でアイドルになるための一歩目を踏み出した瞬間でもあった。
「これはアタシから提案なんだけど。
シューコちゃんさ、アタシのレッスンを受けてみる気は、ないかな?」
〜話し合いを始める前〜
「幸子ちゃん幸子ちゃん、店長にバイトの子を借りるって言ってきてよ。」
「えー、なんでボクなんですか。ここはジャンケンとかするところじゃないですか?」
「いやいや、だってほら、カワイイ幸子ちゃんが行った方があたしがサボれる確率高いんだって。ね、お願い。この通りだから!」
「ふ、フフーン、しょうがないですねー、そこまで言うならこのカワイイボクが行ってきてあげましょう!」
「(ちょろい。)」
「(早くも幸子ちゃんを扱い慣れてる・・・恐ろしい子!)」
「(幸子ちゃんカワイイ。)」
「(ちょろいどすえー。)」
紗枝はんは間違いなくドS。