4月1日。
どうもあたしだよー、シューコちゃんだよー。
さてさて、今日はエイプリルフールということで、日記を書き始めることにしましたー! えー、意味が分かんないって? ま、そうかもね。うん、そうやろね。
つまりこれは、「あたしが日記を書く」という嘘みたいなことを、このエイプリルフールで実行に移すという、あたしのキャラを最大限に生かしたお茶目なイタズラなのだ! 恐れ入ったかー。
仰々しく日付まで書いちゃってるけど、実は続ける気なんてさらさら無いんよねー。あ、これは知ってた?
まー、何を書くんでもないんやけど・・・。とりあえず、高校は卒業したよね? でも大学受験とか周子ちゃんの趣味じゃないし? 特にやりたいこともなく? 親のすねをかじってやるのだ! まいったかー。
まぁ、高校の時から手伝いはしてたからね。目下のところはそれでええかなー。やっぱシューコちゃんかわいいし? 常連さんともすでに顔なじみだもんね。じゃあ決定!
今日はここまでー。じゃねー。
4月2日。
どうもー、シューコちゃんだよー。
まさかの二夜連続投稿だよ! まいったかー。
さっき観たドラマが面白かったー。お話もよかったけど、主演の女の人がすごい綺麗でさー。すごいスタイル良くって、クールビューティなの! あんな人もいるんやねー。
はーぁ、お腹すいたーん。
5月某日。
どうもー、シューコちゃんだよー。
三日ともたなかったね。二日続いたから「もしかして?」って思ったけど、やっぱあかんかったわー。え、なんで日付が某日なのかって? なんとなくー。
今日の朝ご飯はパンだったよ。お昼は蕎麦。おやつはお団子。夜は秘密ー。
最近はね、あたしも看板娘として定着してきたんよ。シューコちゃん目当てのお客さんもいるみたいやし。順調順調ー。
6月15日ー。
どうもー、シューコちゃんだよー。
え、どうして毎度毎度自己紹介するのかって? だってほら、あたしって伝統を重んじるいい子やん?
なんかね、あたしのことを探してる人がおるらしいんよ。えー、何それ、ストーカー?(笑)
あちこちで《銀髪の少女》のことを聞きまわってる人がおるらしいんよねー。それって間違いなくあたしのことやん? いや、自意識過剰でもなんでもなく。
パパもやたら心配しとったけど。サボるいい口実ができてあたしとしてはラッキー、みたいな。
うーん、でも本当にストーカーなら笑い事じゃないんだよねー。どうしよっかなー。会ってみたい気もするんだけどなー。
6月16日ー。
噂のあの人に突撃インタビュー! いや、正確には、突撃されたんはあたしだったんだけどね?
会ってみたら、なんとアイドルのプロデューサーでした! しかもスカウトされちゃいました! 何それマンガみたーい!
しかもね、変な人だったんよー。あたしのことを探してたってだけでもかなりのもんなんだけど、その理由が「寂しそうだったから」なんて・・・。普通なら、思ってもそんなこと言えんよねー、恥ずかしくってさー。
その人が担当してるアイドルに会いに行ってみたけど、確かにいい表情してたわー。少なくとも寂しそうではなかったよね。
あたしがアイドルなんてねー・・・本当に変な人。
8月某日。
家を追い出されたーん。
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あたしは今、大っきなビルの前で一人佇んでいた。
いやー、それにしても暑い。本格的な夏場は終わったかもだけど、まだまだ残暑が著しい。これはコンクリートジャングルと言われる東京ならではなんかな? 事実、木造ばかりの京都の夜はこれ程じゃなかった気もするし。
てか、移動にこれほど手間がかかるとは思ってもみなかったなー。もっと近いかと思ってたんだけど。こんな遅くなるなんて完全に予想外だったわ。
「とりあえずは堀伯父さんのところに行かなきゃ。」
今回、《あたしが実家を追い出された事件》発生に伴い、解決のための協力者として名乗りを上げてくれたのがあたしの伯父さん、ママのお兄さんにあたる堀さんだった。
東京に住んでるからあまり頻繁に会えるわけじゃなかったけど、小さかった時にはよくテーマパークとかに連れて行ってもらった憶えがある。
そんな気恥ずかしくとも感慨深い記憶と共に思い出されるのは、よく一緒に遊んだあの双子。
「元気にしとるかなー、裕子ちゃんに裕翔くん。」
えーっと、確かウチが中学校に上がった時に小5だったから・・・今は高2、かな?
・・・あれ、けっこう危ない時期な気がするんだけど。ちょうど精神的に自立し始めて、他を寄せ付けない感じになってる頃だと思うんだけど。どうしよ、急に不安になってきた。
「ま、行かないわけにはいかないしね。」
あたしは一抹の不安を胸に伯父さんの家へと向かった。
「うわー、本当に周子ちゃんだ。久しぶりー。中学に上がって以来だから・・・6年ぶり!?」
「周子姉が来るのを、今か今かと待ってたんですよ! そしたらねそしたらね、何かこう、ビビッと来てね! 周子姉が来るのをついさっき予知してしまったんですよ! これぞサイキック再会だねーー!!」
うん、何も心配いらなかったね。
「うん、久しぶりー。二人はまだまだ子供って感じがするかな。」
「えー、そうですかー?」
「そういう周子ちゃんもあまり変わってない気がするけど・・・昔から格好良かったからね。まぁ、お互いに成長してるから、評価も横並びしてるってことかな?」
この二人はあたしの従兄妹の裕子ちゃんと裕翔くん。
裕子ちゃんは昔から変な子だったけど、それに拍車がかかっちゃったみたい。きっかけは何だったかかな・・・スプーン曲げ、だったかな? でも、かわいさにはより一層の拍車がかかってるから平気平気。文句なしの美少女だよ。
裕翔くんは、うん、年相応に大人びてきてるみたい。兄妹なだけあって、こっちもなかなかの美形だと思う。全体的なラインが縦に伸びてる割にはしっかり筋肉もついてるみたいだし・・・こりゃさてはモテるね?
「こらこら、二人とも。周子ちゃんは疲れてるだろうから早く中に入れてあげなさい。」
「「はーい。」」
息ぴったりだねー。さすが双子。
「それじゃ、遠慮なく。お邪魔しまーす。」
「こらこら、しばらくはここで暮らすんだ。そうじゃないだろう?」
・・・伯父さんはなかなか良いこと言うね。
「うん、そだね。・・・ただいま。」
そして、あたしは新しい我が家へと足を踏み入れた。
一通りの挨拶を済ませた後、私は自分の部屋に案内された。そこには、あたしが先に送っておいた段ボールが既に置いてあって、ベッドやタンスなんかも完備されていた。急な話だったから部屋無しも覚悟してたんだけど、この家は思ってた以上に広かったし、すごくいい家だ。堀さんの収入はなかなかのものらしいね。
荷物の確認をした後、ジュースと和菓子を抱えてリビングで旅の疲れを癒しにかかる。他のみんなは、とりあえず各々の部屋にも戻ったみたいだ。
「周子ちゃん、お夕飯は何か食べて来たの?」
「うん、実家から持ってきた八ツ橋を今から食べるところです。」
「え、ちょ、ちょっと! それだけ!? そんなのダメよ、もっとしっかりしたもの食べないと! 今から何か作ってあげるからちょっと待ってて!」
「え、あ、ちょ・・・。」
せっかちな人だなー。まぁ、出してくれるなら食べるけどね。
「・・・。」
ん、なんか背後から視線を感じる・・・。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・どうかしたの、裕子ちゃん。」
「へ!? ど、どうして私だって分かったんですか! も、もしかして・・・周子姉もサイキッカーなんですか!?」
「いやいや、丸見えだしー。変わらないねー、裕子ちゃんは。」
「へぅっ・・・。」
ん? なんかショックを受けてる? 別に悪い意味で言ったわけじゃなかったんだけどなー。
でも、負けじと顔をあげて・・・あ、おもむろにスプーンを取り出して・・・ふんふん、右手に持ち替え・・・ほうほう、柄の部分を親指で押さえて・・・おっと、突き出した。
まさに「じゃじゃーん!」って感じ? 慣れた手つきだねー。
「そ、そーんなことはありません! エスパーユッコは日々、厳しいトレーニングを積みながらサイキック能力の開発にいそしんでいるのです!」
「へー、例えば?」
「へっ? え、えーと、例えばですねぇ・・・そ、そう! サイキックテレパシーとかですよ! 私は人の心を読むことができるのです!」
「ほんとにー!? すごーい!」
あ、なんか嬉しそう。
「フフーン、でしょでしょー。」
「じゃあさじゃあさ。あたしが今、何を考えてるか分かるー?」
「もちろんです! ではいきますよー、ムムム~~ン!!」
「・・・。」
「・・・ムムン。」
「・・・。」
「・・・み、見えました! ずばり・・・『お腹すいたーん。』ですね!」
「すっごーーい!! 一字一句ぴったり!!」
「そ、そうなんですか!?」
「え、うん、そうだよ?」
なんで当の裕子ちゃんが驚いてるんだろうね?
「さて、これで分かっていただけましたか? 私の真のサイキックパワーを!」
「うん、びっくりー。」
「はい!」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・で、あたしに何か用なん?」
「ッ! そ、そうでした! 私は周子姉と話をしに来たんですよ!」
「テレパシーで?」
「え、あ、う、そ、その・・・さ、さっきのでサイキックパワーを使い切ってしまったので今度は普通にお願いします。」
「了解ー。」
もー、アホかわいいなー、この子は。
それからあたしらは色んな、他愛もないことを話した。あたしの中学校の話とか、裕子ちゃんの最近の出来事とか。体育祭では大活躍だったんだって。この子、見た目に反して運動神経は悪くないんだよなぁ。
「ところで、周子姉はどうして突然、こっちに住むことになったの?」
「家を追い出されちゃったからだよ。」
「それは聞いたよー。どうして追い出されちゃったの?」
「分かんなーい。」
「分かんないの!?」
「うん、『やりたいことを見つけるまで戻ってくるんじゃない!』とか言われちゃってさー。」
そう、結局のところ、あたしはあたしが家を追い出された原因をいまいち把握できていないのだ。それっぽい理由は聞いたけど、何がどうなってこうなったのかさっぱりなのだ。
「えー、何か心当たりとか無いの? 例えば、お父さんと喧嘩したとか。」
「うーん、特になかったなー。たま~に手伝いをサボったことがばれたり、たま~に商品をつまみ食いしてるのがばれたりしたことはあったけど。」
「・・・それじゃない?」
あ、そっか、そうなのか。
「なるほど! 全然気づかなかったよ! さすがサイキッカー裕子ちゃんだね!」
「へ? そ、そりゃそうですよ! このエスパーユッコにかかれば、どんな難事件も瞬く間に解決です! (少しでも真剣に考えれば思いつくことだと思うんだけど・・・。)」
なるほどねー、自堕落になりつつあったあたしを戒めるために追い出したのか。
「可愛い子には旅をさせよ、ってやつだね。」
「で、周子姉はやりたいことは見つかりそうなの? 見つけないと家に帰れないんでしょ?」
「うん、実は、ちょーっと気になってることがあってね・・・。」
ま、それが無かったら追い出されるのにももう少し抵抗してたかも。
そのことについて話そうかと思い始めたとき、裕子ちゃんのお母さんが作りたてのオムライスを片手に台所から出てくるのが見えた。
「周子ちゃーん、お夕飯できたわよー。あら、裕子、ここにいたの。ごめんねぇ、周子ちゃん、この子の話し相手になってもらっちゃって。この子ったら、何日も前からあなたが来るのを待ちわびてたものだから。」
「いいんですよー、あたしも楽しいしー。」
「そうだよ、お母さん! すでに私たちはサイキック絆で深く結ばれているの!」
「もう、本当にアホなんだから、この子はー。」
「アホじゃないもん! サイキックだもん!!」
いつもこんな感じなのかな。しばらくは退屈しなくて済むかも。そう言えばやってみたいことを話し損ねちゃったけど、機会なんていくらでもあるし。別にいっか。
それからは裕子ちゃんのお母さんも交えて三人で夜までテレビを見たりして明日に備える。
あたしは運ばれてきたオムライスを頬張りながら、これからのことを少し考えてみた。まずはバイトでも探してみよっかな。さすがにお金を全くもらってないわけじゃないけど、これからこの家にお世話になるわけだし。働かざるもの食うべからずってやつ?
こうなった以上、大学に入ることも考えてみた方がいいのだろうか。初めは家の手伝いをしてればいいかと思ってたけど。キャンパスライフに興味がないと言えば嘘になる。
そして最後に、あのプロデューサーとの約束。いや、約束ってわけじゃないけど。
試しに、何かしらのオーディションを受けてみるべきかな。それとも、先に連絡を取ってみた方がいいかな。でも、やっぱ忙しいだろうし。あたしなんかに構ってる暇が合うとは思えない。向こうから見つけてくれるのが一番ではあるんだけどね。そんなの、言っても始まらないし、とりあえずは保留ー。
やっぱりバイトを始めるのが優先かな。アイドルのことはそれからってことで。
エスパーユッコマジサイキック。