そんな気持ちで書きます。
1話《銀髪の少女》
これはある一人の少女が《銀髪姫》と呼ばれるトップアイドルになるまでの、物語。
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古風な街並み。見渡せる範囲に目立つ建物はなく、一見すると殺風景に見えなくもない。
しかし、そんなことは決してなく、初めてこの街を訪れた人でもこの風景がどれだけの人々に愛され、どれだけの労力の上に成り立っているのかが感じられる。
京都というのは、そんな街である。
「おーい、プロデューサー! 早く早くーー!」
「早くせんと、置いていきますえ~?」
「ほらほら、ボクを見失わないでくださいね! と言っても、こんなにカワイイボクを見失うわけもありませんが!」
そんな中、三人の少女がこちらを向いて手を振っていた。え、少女というのはもっと若い女性に向けて使うものなのではないかって?
いやいや、「夢見る女性はもれなく少女」というのが私の持論でね。麦ジュース片手に野球観戦をするあの子も、京都を体現しているかのようなあの子も、カワイイを自称するカワイイあの子も。私にとっては等しく少女なのです。
「ちょっと待って待って。そんな勝手に行かないで。」
全く・・・彼女たちにはアイドルとしての自覚があるのだろうか?
彼女たちの名前は《
そして何を隠そう、私こそが彼女たちを担当するプロデューサーなのだ。
「次の撮影まであまり時間がないんですから、もっと急ぎましょう!」
もちろん、私たちは京都に遊びに来ているわけではない。今回は彼女たちのユニット《
今は休憩中なだけで、サボタージュしているのではないと一言言っておく。
「ってあれ?」
あれ・・・。
「見失った・・・。」
まずいまずいまずい。ヒジョーにまずい。
担当アイドルを見失ったとなったら部長になんと言われるか・・・。いや、そもそも彼女たちがこの街に来ていると分かった時点でパニックになるかもしれない。
まぁ、彼女たちは高垣楓や城ヶ崎美嘉に比べれば知名度のあるアイドルじゃないし、曲がりなりにもプロだ。そんなへまはしないだろう。
あ、なんか大丈夫な気がしてきた。
うん、あいつらなら大丈夫だ。むしろ、いつもいつも手間ばかりかけさせやがって・・・。たまには一人で息抜きでもさせてもらおうか。
「といってもなぁ。」
仕事で来た手前、観光名所も調べてないし・・・。
「適当にぶらつくしかない、か。」
うん、ここからだと撮影場所も近いな。彼女たちを探しながら遠回りで戻る感じで行こう。
あ、土産の一つでも買っていかないと文句言われるかも。下手な物を買うのは気に入らないし、地元の人にでも訊いた方がいいか。おし、思い立ったが吉日だ。
そう考えた私は近くを通りすがったおじさんに声をかけることにした。知らない人に声をかけるのには慣れているので、あまり抵抗はなかった。
「あのー、すいません。ここら辺でおすすめの和菓子屋ってありますか?」
「ん? なんだい、あんた、観光かい?」
「え、あ、まぁ、そんな感じです。まだ何日かいる予定ですが・・・。」
「そうかそうか。そんなら、あそこの角を右に曲がって、少し行ったところで左手に見える和菓子屋がおすすめかねぇ。一度じゃダメかもしれないから、何度か通ってみるとええよ。」
「・・・?? はい、ありがとう、ございま、す・・・?」
そう言い残し、その親切なおじさんは人ごみの中へと消えていった。・・・店の名前とおすすめの理由も訊きたかったのだけれど。ま、いいか。
それにしても「一度じゃダメかもしれない」ってどういう意味だろう? まぁ、おすすめには違いないし、とりあえず行くか。
そう思って歩き出そうとしたその時、私の目の端に気になるものが映った。
銀髪。
そう、銀髪だ。仕事柄、髪を染めている少女を見かけることは多い。ただそれでも銀髪なんてそう見かけるものでもない。しかも、ことここ京都において、だ。
外見で人を判断するつもりはないが、自分でその色をチョイスしているのだとしたら・・・。そう考えると、興味を持つなというのは無理な相談だろう。
私はすぐさま振り向き、見渡す。
が、すでにその面影はなかった。
銀髪の子を見失って意気消沈しながら、私はおじさんに言われた場所へとやってきていた。
《和菓子屋塩見》か。聞いたことはないけど、ここら辺では有名なのかな? 普通のお店だったような・・・。てかむしろ、お店の人の機嫌が悪かった気もするけど。
それにしても、銀髪の子を見失ったのは痛かったな。たぶん少女だったと思うのだが・・・。え、いや、何が問題かと言われれば困るが、その少女(仮)に何か特別なものを感じた、ような気がしたのだ。地元の子じゃないだろうし、もう会えないだろう。
「プロデューサー! おっそい!」
「どこ行ってたんですか、もー。」
「すまんすまん、お土産買ってきたから、これで許してくれ。」
「はうっ! そ、そんなものでボクが釣られるとでも思ってるんですか? ・・・ま、まぁ、ここはそのカワイイお菓子に免じて許してあげましょう!」
「幸子はん、思い切り釣られてはるな~。」
あ、そうだ。
「なぁ、小早川さん、《和菓子屋塩見》って知ってるか?」
「え。いーえ、知りまへんなぁ。そこがどうかしたんどすえ?」
「いや、大したことじゃないんだ、忘れてくれ。」
京都育ちの小早川さんでも知らないとなると、デマを掴まされたかな・・・?
「ほらほらー、早くしないと紗枝さんの分も食べてしまいますよー?」
「んー? 生意気を言っているのはこのお腹かなー?」
「え、いや、友紀さん! それを言うなら口ですよね!? だめですって、腹パンはダm・・・いやーーーー!!」
「あんまりはしゃぎすぎるなよー。」
「これがただはしゃいでいるだけに見えますか!?」
うん、いつも通りだ。
次の日から、私一人による銀髪の少女(仮)探しが始まった。と言っても、撮影中、私は暇になることも多いので、現場の代理を後輩に任せて街をぶらつくだけだが。
私に残された時間は今日を含めて三日間。三日後には、KBYDの三人を連れて東京に帰らなければならない。まだまだ仕事は山積みだ。
地元の少女でない可能性を考えれば、捜索範囲は広い方がいいかもしれないな。
どうしてこんなにあの子のことが気になるのか・・・。とにかく、やるからには結果を出さなければ。こうなったら何が何でももう一度見つけてみせる。
一日目は初めて見かけた場所付近で待ち伏せをしてみた。
成果はなく、ただいたずらに時間だけが過ぎていった。
二日目は場所を変えて聞き込みも開始した。こうなったら意地でも見つけ出したい。
すると、有力な情報が得られた。たまたま観光に来ていたご家族が、なんと、私が初日に探していた近辺でそんな女の子を見かけたらしい。
もしかしたら地元の子なのかもしれない。
そして運命の三日目。
先の決定的な証言をもとに、またしても私はこの場所へとやってきていた。
「これで四回目か。」
これで見つからなければ諦めるべきだろうか。いや、それは見つからなかった時に考えればいい。そんなことを考えながら私は聞き込みを開始した。
「み、見つからない・・・。」
かれこれ聞き込みを始めて三時間といったところか。けっこうな人数に聞き込みをしたと思うのだが・・・思ったような成果が出ないのはなぜだろうか。
なんだか不審者を見たかのような対応をする人もちらほらいるし・・・。
あ、それが理由ですやん。もしかしたらここら辺で「不審者出没、注意されたし」なんていう噂が流れているのかもしれない。
それが本当なら。もうこれ以上聞き込みをしても無駄だろうか。
「ん?」
そう思っていた時、思わぬ出会いが私を待っていた。
「あんたは確か・・・。」
「あ、あの時の親切なおじさん。」
「あー、なるほど。あの子を探している不審者ってのはあんたのことだったんかい。」
「やっぱりそんな噂が流れてたのか・・・ってあの子?」
「え、あぁ。だって君が探してるんは《銀髪の少女》なんやろ?」
「ご、ご存じなんですか!」
や、やった! これでやっとあの子に会える! やっぱり少女だったんだ!
「まぁ、知らないって言ったら嘘になるんやけど。・・・あんた、あの後、俺が教えた和菓子屋には行ってみたかい?」
「え? いえ、あれ以来行ってませんが・・・。」
だってデマ、だと思ったから・・・。
というより、今は《銀髪の少女》の話をしていたと思うのだけれど。
「じゃあ、とりあえずはもう一度行ってみんさい。」
「は、はぁ・・・。」
「今度は表からじゃなく、裏にある広場に行くといい。それじゃあね。」
「あ! ちょ、ちょっと、ま・・・!」
行ってしまった・・・。
裏の広場? そんなもの、あったのか。
言われた場所へ向かいつつも私は半信半疑のままだった。
「あの人、もしかして《和菓子屋塩見》の関係者なんじゃないか?」
何も知らない観光客を唆して、なかなか伸びない売り上げを無理やりにでも伸ばそうとしているのではないか。そんな疑惑が私の中で沸々と湧きあがる。
きっとそうだ。それならいっそ別の場所を探しに行こうかとも思うが・・・聞き込みが効果的でないと分かってしまった以上、足で探すしかない。今から行く場所はまだ探してないし、方針を変えるのはそれからでも遅くないだろう。
もどったら《和菓子屋塩見》の悪口をあちこちにばら撒いてやろうか。
「っと本当だ、こんなところにこんな場所があったのか。」
考え事をしているうちに着いていたらしい。
確かにそこには、あのおじさんの言っていたような場所が広がっていた。公園というよりは観光客用の休憩スペースって感じだろうか。ちらほらと和菓子を頬張る人々がいる。
カップルらしき二人組や子供連れの家族、修学旅行中の高校生や銀髪の少女まで・・・
「って銀髪の少女? ・・・あーーーーー!!」
「ッ!?」
そこでは、私が追い求めた《銀髪の少女》が饅頭片手に佇んでいた。
書いたら出ると聞いたので書いた。つまりまだ出ていない。