魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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どうもです。

今期のアニメは個人的に良い作品があって満足しています。

その中でもゴブスレが一番ですね。

では、お楽しみください。


地下闘技場

九州の実家に戻って三日目の昼。

 

平穏な夏休みを謳歌することもなく、禅十郎は街中のカフェで大神と今後の方針を決めていた。

 

「で、情報収集は上手くいってんの?」

 

「葉知野と吉崎を中心に他の部署も動いてくれたおかげで手に入った」

 

コーヒーを飲みながら、大神は禅十郎に大型端末を渡す。

 

そこに書いてある内容を見て禅十郎は眉間に皺を寄せた。

 

今回赴く地下闘技場はそこそこ長く続いている催しらしく、海外からも指示されており、何重にもロックがかけられている専用の動画サイトでも見ることが出来るとのことだ。

 

ルールは単純、武器の使用は無しで常に一対一で試合を行う。

 

完全決着をつけるための時間無制限のデスマッチ形式を採用しており、場外への逃げ道を封じる為にリングは金網で覆われている。

 

「これ、いつの時代だ? 流石に道場でもこんな事しねぇよ」

 

時代錯誤もいい所だ。

 

未だにこんな催しが開かれているとは、流石の禅十郎も思わなかった。

 

「良いから最後まで読め」

 

「へいへい」

 

めんどくさがりながら続きに目を通すと、対戦形式について書かれていた。

 

出場人数に制限はなく、性別、年齢、体格などの区分もない。

 

選手は勝つまでひたすら戦い続けることを義務付けられている。

 

ただし、五連勝すれば二試合分だけ休憩を取り、二試合後再び対戦し、五連勝したら休憩を取る流れとなる。

 

そして出場者の中で数多くの試合を勝ち抜いた順に順位が決まる。

 

因みに優勝賞品は勝利数×二百万円であり、順位が下がっていけば金額が減少するシステムとなっている。

 

勝てば勝つほどもらえる金が貰えるということで一獲千金を狙う腕利き達が出て来ることもあり、観客席は毎回キャンセル待ちになっているほどの賑わいを見せていた。

 

当然、試合の結果を予想して賭け事も行われており、観客と視聴者も楽しめるようになっている。

 

「ふーん、随分と大盤振る舞いだな、主催者側は」

 

「ああ、表向きはな」

 

「だろうな」

 

そう、これはあくまでも動画配信に記載されているルールなのだ。

 

当然、この催しには裏のルールがある。

 

「記載されていないが、出場選手には一般枠と特別枠の二つがある」

 

一般枠はその名の通り、ただ出場して沢山勝って賞金を手に入れるだけの選手。

 

そして特別枠の選手はほぼ雇い主の代理として出場する者達ばかりだ。

 

雇い主は金持ちや裏社会に住まう者達ばかりであり、彼等は地下闘技場の一般の観客や視聴者とは別に裏で行われている『賭け事』に参加している。

 

賭けるのは『価値あるもの』であれば上限は一切なしで賭ける事が可能であり、非合法の物も飛び交う場所となっている。

 

そして、その特別枠には主催者も参加し、賭けるものに例の聖遺物が組み込まれている事を提示していた。

 

主催者は裏社会を通じてその情報を世界各地に広め、多くの伝手を通じて、その価値を見出す者達へと伝わっている。

 

「つまり、こいつの価値を知った組織が動き出すって訳か。これって結構ヤバいんじゃねぇか? だってよ、主催者を襲って景品を取っちまえば終わりだろ」

 

「そうなんだが、今回はそうはなりそうもない」

 

「なんで……あ、そう言う事か。納得納得」

 

大神に質問しようとしたが、禅十郎はあることに気が付いた。

 

「動く組織が多すぎたってわけか」

 

「そう言う事だ」

 

主催者は意図的に多くの者にその情報が渡るようにし、動き出す組織を増やしたのである。

 

そうなると、聖遺物を狙って抗争が起こることになるが、それはあくまでも対立する組織が少なかった場合である。

 

それが世界各地となれば、動き出す組織は増え、敵対関係の組織は互いを牽制しあいう。

 

なるべく秘密裏に証拠を残さずに回収したいが、こうも動く組織が増えてしまうと戦闘に入る可能性がどっと高くなっていく。

 

流石に日本の警備を過小評価していない組織は極力リスクを避ける為に、主催者側のやり方に乗るしかなくなっていく。

 

残念なことに警察を舐めてかかって対立組織と抗争になってしまい御用になった組織があったのが、決定打となった。

 

これによって主催者側は硬直状態へと陥らせることに成功するだけでなく、楽をして参加者を増やすことまでしてみせたのである。

 

「それにしても、どんな能力があるかも分からない聖遺物だけでそこまで動くって言うのか?」

 

「出所が国防軍だからな。あそこが隠していたということは、それほどまでに価値があるものだったという裏付けにもなる」

 

「なるほどなぁ……。で、それに俺も参加しろと?」

 

「こちらからも動きずらいのでな。業腹だが、奴等の手に乗るしかない」

 

「こういうのって笠崎のおっさんとこの奴がやった方が良くないか?」

 

「あの人の元で動けるのは『ヤツ』しかいない、と言ってもか?」

 

それを聞いた禅十郎は仕方ないと肩をすくめる。

 

「そりゃ仕方ない。了解だ。で、開催日は何時だ?」

 

ここで失敗したらどうすると禅十郎は聞かなかった。

 

別に勝つ自信があるから言った訳ではなく、試合に出て聖遺物を回収するのが自分の役目であり、失敗した時の対策は他の者が担当すると分かっているからだ。

 

常にあらゆる状況に対処できるように他の部署も動いており、彼等も結社に所属するだけあって能力は高い。

 

だからこそ、禅十郎は気兼ねなく地下闘技場へ参加出来るのである。

 

「明後日だ。社長の別名義で特別枠として参加する」

 

「あいよ。じゃあ、それまでは兄貴に手を貸してもらおうかね」

 

「それと出場する選手は決まり次第更新されていく。と言っても殆どが偽名で、体格程度しか分からないのが現状だがな」

 

「成程。おっ、また参加者が増えたな」

 

端末を見て、禅十郎は大神の説明を裏付けた。

 

「因みに偽名や武器にならないなら覆面を被って参加も可能だ」

 

「へぇ」

 

「お前の選手としての名前は『ゼット』だ。覆面は被るかは好きにしていいが、なるべく被っておけ」

 

「ああ」

 

「『賭け事』に関しては俺が社長の代わりに出場する。代理出場も認められているからな」

 

「おーう」

 

先程から短い返事しかしてこない禅十郎に大神は怪訝な顔をする。

 

「聞いているのか」

 

「んー。まぁ、一応」

 

適当な返事をしながら禅十郎は出場する選手を眺めていた。

 

聞いているのかともう一度問いただそうとしたが、禅十郎の顔を見て大神は諦めることにした。

 

(何が面白いんだか……。このバトルマニアが)

 

禅十郎は笑っていたのである。

 

それは一条将輝との試合で見せていたものと全く同じであった。

 

これから相手にする数々の選手がどんな技の使い手なのか、どれ程の強さなのか知りたいという知的好奇心にあふれた子供のような笑顔だった。

 

自分の知らない猛者達と戦う機会を得るだけで禅十郎は満面の笑みを浮かべていた。

 

(相変らず、こいつの考えてることは理解出来んな)

 

そう思いながら、大神は再びコーヒーを飲んだ。

 

 

 

 

 

聖遺物を掛け金としていることは世界中に広まると、正規の手続きまたは裏ルートを使って海外から地下闘技場に参加する者、そして裏の賭け事に参加する者達が集い始めていた。

 

能力が分からない聖遺物にここまで動くのかと思うだろうが、やはり日本の国防軍から出たとなれば、その重要性だけでも裏が取れる。

 

島国でありながら魔法技術がUSNAや大亜細亜連合、新ソビエト連邦などの大国と渡り合える日本の国防軍が隠している。

 

それだけでもややリスクを負ってでも動いてみる価値はあるのだ。

 

特に大国から被害を受けている小国は直ぐに行動を開始していた。

 

そして、各国の軍からの依頼で動いている者や、莫大な利益を得る手段として入手に動く者、独自の目的の為に動く者などが着々と日本に集結する。

 

情報を得た者の中には刺客を送り込まずに静観することに徹する者もいた。

 

様々な思惑が飛び交いつつも、二日という短い時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

地下闘技場の開催地は何重にもロックされた暗号メールで送られ、専用のコミューターによって移動させられるため、場所は完全に秘匿されていた。

 

会場に辿り着くと、出場選手は専用の部屋で待機することとなっている。

 

(人種のサラダボウルってのはこの事を言うのかね?)

 

覆面を被ったゼット、もとい禅十郎は部屋を見渡してそう思った。

 

部屋に待機しているのは白人や黒人、黄色人種など様々な人種が集まっていた。

 

当然、性別も年齢も一切関係がない為、女性や腕に覚えがあるのか五十代らしき人物もそこにはいた。

 

(それにしても、服装にもいろいろあるなぁ)

 

この催しでは武器にならなければどんな服装でも構わない為に、選手の服装は奇抜なファッションもあれば、戦闘の理にかなった服、スーツなど様々な服装があった。

 

奇抜な服装の中には男を誘惑する露出の高い服を着ている女もいれば、オペラ座の怪人をイメージしているかのような服装をしている男や葉知野が昔見ていたアニメのコスプレをしている者などがいる。

 

理にかなった服装をしている者は様子からして元軍人か、殺し屋か、それとも武道家だとうかがえた。

 

因みに禅十郎は四月の襲撃時に使用したライダースーツで顔は奇抜にならない程度の覆面(一昔前のアメリカのヒーローのように目も口も全体的に覆っている覆面)を被って参加している。

 

だが、姿形など知ったことかと言わんばかりの空気がそこには流れていた。

 

根底にある思惑は違えども、この戦いに勝つという気迫がそこにはあった。

 

勝利だけを求める猛者達が揃っていた。

 

この空気は禅十郎にとって心地が良いものだった。

 

周りには数多く戦い抜いた強者達がはびこり、彼等と戦いに胸を躍らせる。

 

(ああ、早く戦いてぇ)

 

任務のことなどどうでもいいとさえ思えてしまうほどの笑みを禅十郎はマスクの下で浮かべていた。

 

早く呼ばれないかと楽しみにしていると、部屋にあるモニターに電源がつき、スピーカーから爆音のメロディーが流れた。

 

「さぁ、今宵も始めようじゃないか、クリープショウの住人共ぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

 

モニターにはファンキーな格好をしたアフロのグラサン親父が高々と競技の開催を宣言すると観客達はスピーカーからノイズが出るほどの歓声やら奇声を発していた。

 

「司会進行、およびレフェリーは本闘技場でおなじみ、この俺、オジゴット・アネラが仕切らせてもらうぜぇぇぇぇっ!!!!」

 

(なんだその名前?)

 

禅十郎だけでなく、ここにいる初出場の選手達の大半以上がグラサン親父の名前に対して、心の中で同じことを考えていた。

 

「競技を始める前に観客共に嬉しいお知らせだぁぁっ!!! なんと今回の出場者は通常の3倍以上の数になったぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

すると観客達の歓声もさらに大きくなっていき、会場が声で大きく振動しかねるほどだった。

 

「嬉しいかっ!? 嬉しいかっ!! 嬉しいだろっ、このクソッタレ共っ!!! 今宵は存分に腹一杯になってもらおうじゃねぇかぁぁぁぁっ!!」

 

元気溌剌な司会と観客達を見て、動物園のサルって言葉はこういうのを言うんだなと禅十郎は呆れていた。

 

(あー、なんかこういうの見てると、日本って大丈夫なんだろうかって今になって不安になってくるわ)

 

「でだ、今回は予想以上に出場選手が出ちまったから、主催者側からのルール変更だ」

 

早く司会終われと思っていた矢先、オジゴットの言葉を聞いて、選手達の目つきが変わった。

 

オジゴットがズボンのポケットから一枚の紙を取り出した。

 

「えー、じゃあ主催者様のありがたーいお言葉を伝えるぜ。あー、『賞金に目がくらんだクソッタレ共、ようこそ私の『エデン』へ。これまで以上に世界各地から参加者が集ったことを私は嬉しく思う。だが、新たにやってきた者達の多くが一獲千金を狙った者達であることが私は残念でならない』」

 

その言葉を聞いて、ここにいる半数近くがふざけるなと言わんばかりに画面を睨みつけた。

 

確かに今回新たに出場する選手達の殆どが、ある意味賞金と呼ばれる物を狙っている。

 

だが、それは表向きには知らされていないことであるために、おおっぴらに怒りを露わにすることが出来ず、何人かが怒りを抑えるように拳を握りしめていた。

 

「『そのような選手が多くなった分、選手の質が落ちてしまうのではないかと私は疑念を抱いた。観客につまらない試合を見せてしまうのは私の望むことではない。そこで今回に限り、観客のクソッタレ共により質の高い試合を見てもらうために、新たなルールとして『連勝勝ち残り方式』を追加した』」

 

『連勝勝ち残り方式』という言葉を聞いて、ここにいる選手達の多くが察した。

 

説明されたルールは単純明快であった。

 

今回の競技は二段階形式で行われ、まず第一段階で通常通りの試合を行い、三連勝した者が次のステージに上がることが出来るという仕組みである。

 

当然、一度でも負ければそこで競技に参加する資格を失う。

 

真の強者であれば、三連勝するなど楽勝だろうという主催者側の言葉を聞くと、待合室は一気に殺気立った。

 

特別枠で出場する選手は雇い主と直接連絡が出来る端末を持っており、先程のアナウンスとほぼ同時に裏での賭け事でもルールの変更があったことを知った。

 

変更内容は賭け事が始まるのは第二段階のステージからとのこと。

 

これが彼らのやる気を無理矢理上げさせることとなった。

 

地下闘技場の裏で行われる賭け事には雇い主と選手が揃っていなければならない。

 

ここで勝ち上がらなければ、間違いなく聖遺物を手に入れることが出来ないために、選手達は本気で取り掛からなければならないのだ。

 

その為、主催者側の思惑である質の高い試合を彼等は始めから繰り広げなければならないことになる。

 

(まったく、主催者側は随分と煽るのが上手なようで……)

 

そう思いながらも禅十郎も気合を入れて臨まなければならない為に体を解し始めていた。

 

(さて、頼むぜ、大神。今回はお前も頑張ってくれよ)

 

裏で行われる取り引きに立ち向かっている相棒に禅十郎は望みを託すのであった。




いかがでしたか?

構想を練ってて思ったんですが、これ割と長くなるんじゃね?と後で気づいてしまった。

可能であれば、十話で終わらせたい。

と言って出来ないのが私なのである(開き直るなっ!)

こんな感じでグダグダに進めていきますが、楽しんでいただけたら幸いです。

では、今回はこれにて。

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