魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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2020/04/07:修正しました。


面倒ごとまでの話 後編

 昼休みの後、午後の実技の見学では真由美のクラスである三年A組の遠隔魔法の実技が行われていた。

 禅十郎は他の実技に行こうと考えていたが、昼休みに真由美に見に来てねと念を押されたのである。行かないと面倒な噂を流されかねないと思い、言われた通りに彼女の様子を見学しに来ていた。

 最初のほうに顔を出して、後は他の所を回ろうと思い、最前列に禅十郎は来ていた。

 

「何で二科生が最前列に来てんだよ。立場をわきまえろよな」

 

「ここは一科生の私達に譲って、他の所を見るのが普通でしょ」

 

 見学中、静かにしているのが正しいのであるが、どうも先ほどから不審な声が聞こえてくる。

 

(あ、二科生?)

 

 最前列にいた禅十郎はちらっと辺りを見回すと、確かにそこには制服の左胸には八枚花弁の紋章がない生徒達がいた。

 明らかに悪目立ちしてるが、彼らはそれに気にしている素振りは無かった。

 

(あー、あれか。二科生にもあんな奴らがいたの……ん?)

 

 四人の二科生の中に二人ほど知った顔がいた。正確には何度かあったことがある女子が一人とどこかで見たことがあった気がする男子が一人である。

 

(あいつは千葉のとこの……。でもあいつは誰だっけな? どっかで見た気がするんだが、さて何処だったか……)

 

 そんなことを考えていると、周りの空気がいつの間にか期待に満ちた雰囲気となっていた。考え事をしていたために気付かなかったが、どうやら真由美の出番らしい。

 遠隔魔法においては十年に一人の英才と言われた真由美の実技を見たいがためにここに来ている人は多い。

 しかし、その内の何割かが真由美の実技よりも彼女自身に会いたいが為に来ている気がした。それも一科生の方が多い。正直、真面目に見ることにしていた禅十郎にとってはちゃんと見ている二科生より彼等の方が邪魔に感じてしまう。

 それから真由美が最高得点で叩きだしたことに多くの見学者が拍手をしていたが、禅十郎からしてみれば、当然の結果だと思う内容だった。

 何せ、昔から彼女の遠隔魔法を見てきたのだ。真由美の実力からしてみれば、肩慣らし程度にしかならないと禅十郎は確信していた。

 

「つか、これなら実家の射撃場の方がずっとやり甲斐があるんじゃねぇか?」

 

 そんなことを呟いていると、禅十郎の存在に気付いたのか真由美が軽く手を振って笑顔を向けた。

 そんな彼女を見て黄色い声を上げる生徒がちらほらと見受けられるが、残念ながら真由美は彼等に手を振ったわけではない。その証拠に彼女の口が自分を呼んでいた。

 

(たく、あの人は……)

 

 と心の中で愚痴りながらも、禅十郎は笑みを浮かべて真由美に手を振り返す。

 ついでにあの時の仕返しもしようと決心した。

 

「七草先輩、ちゃんと授業やらないと姉貴に言いふらしますよー!」

 

 すると真由美は一瞬だけ目を丸くするが、直ぐにくすくすと微笑んで演習へと戻っていった。その時、同級生に絡まれているところを禅十郎は見逃さなかった。

 そしてほぼ同時に黄色い声は消え、一瞬にして静寂が生まれた。

 今のやり取りを見て何も思わない人はいない。新入生にとって高嶺の花である真由美に気さくに話しかけ、あまつさえ手を振ってもらったのだ。

 真由美に憧れている女子は羨ましそうな視線を、男子は嫉妬の視線を禅十郎に向ける。

 その視線に禅十郎は気付かないほど鈍くはない。しかし、面倒なためほとんど無視した。

 この時、一時的にだが最前列にいた二科生のグループよりも禅十郎は悪目立ちしていた。

 それが意図的なのかどうかは、彼のみぞ知ることだった。ただ、彼女への意趣返しは少しは出来たことに満足であったのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 そして放課後、見学と帰りのホームルームが終わり、多くの生徒が帰ろうとしていた。

 

「それじゃあ、今日から禅は風紀委員の仕事をするんだ」

 

 禅十郎は雫とほのかと一緒に廊下に出ていた。

 何処から流れたかは知らないが、A組のほとんどが禅十郎が風紀委員に任命されていたのを知っているのだ。

 

「そっ。まったく姐さんも人使いが荒いんだよなぁ」

 

 本人がいないのをいいことに禅十郎は摩利を姐さんと呼んで愚痴っていた。

 

「そこは考えようだと思いますよ。任命して次の日に仕事を任されるってことは即戦力として期待されてるってことですよね」

 

 そんな禅十郎にほのかがフォローする。

 

「まぁ確かにそうかもしれないが。でも姐さんのことだしなぁ。どうせ、足りない人手が埋まったから楽できるって……」

 

 すると突然、後ろから肩を掴まれた。

 

「ん…?」

 

「やあ、禅」

 

 その声を聞き、グギギギギギっと首をゆっくりと後ろに向ける。

 

「……渡辺先輩、なしてここに?」

 

 そこに立っていたのは笑顔でありながらも目が全く笑っていない摩利であった。

 

「なに、近くまで来たから迎えに来てやろうと思っていたが……。どうやらまだ説教が足りなかったようだな」

 

「渡辺先輩、私はここで。禅、それじゃあ、また明日」

 

「えっ、ちょっと、北山!?」

 

「じゃ、じゃあ、私もこれで…」

 

「光井さんもっ!?」

 

 そそくさと去っていく雫と軽く会釈をして雫の後を追うほのか。

 

「それじゃあ、禅、ゆっくりと風紀委員会本部まで行こうじゃないか」

 

 肩にさらに強い力が加わり、摩利に引っ張られていく禅十郎。

 

「ぎぃぃぃやぁぁぁっ!!」

 

 そして廊下には禅十郎の悲痛な叫び声がこだまするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 禅十郎は摩利によって風紀委員会本部に連行され、軽く(物理的にも)説教された。

 そして現在、風紀委員としての仕事を教わっていたはずなのだが……。

 

「ま、見回りのコースは基本自由だ。では頑張ってくれ」

 

「説明スゲェ雑っ!」

 

 風紀委員の腕章と薄型のビデオレコーダー、委員会用の通信コードを渡し、ざっくりとした説明だけをした摩利に禅十郎は開いた口が塞がらなかった。

 

「風紀委員の仕事は昨日話しただろう?」

 

 何を言ってるんだという顔をする摩利に、禅十郎はそっちこそ何を言っているんだと手を横に振る。

 

「イヤイヤイヤイヤ……。あの時は仕事の内容しか言ってないですよね。せめて仕事のやり方ぐらい」

 

「習うより慣れよと言うだろ?」

 

(あっ、ダメだこの人。教える気がねぇ)

 

 摩利は言葉で教えるよりも体に叩き込む方が覚えが早いと考えている。

 加えて、風紀委員に入ったばかりでも上級生が付き添って見回ることがない風習らしく、禅十郎も例外ではないようだ。

 

「確かに言いますけどね、もう少し決まり事ぐらい教えてくれてもいいじゃないですか」

 

「風紀委員として恥じない行動をとれば何も問題はない。一昨年バカをやって退学を喰らった奴がいるが、君はそうはならないだろう?」

 

 誰だそんなことしたのは、と禅十郎は心の中で呟いた。

 これ以上問答をしても無駄だと確信し、禅十郎は諦めた。

 

「……もういいですよ。見回りに行ってきます」

 

「ああ、頑張ってこい」

 

 禅十郎はさっさと見回りに行く為に部屋から出ていった。

 扉が閉まり部屋が摩利一人になると上にある生徒会室から誰かが降りてきた。

 

「摩利、いくら何でも適当過ぎない?」

 

 やってきたのは真由美だった。先程の禅十郎と摩利の会話を聞いていたのである。

 

「あれぐらいでちょうどいいさ。風紀委員はいちいち手取り足取り教える風習は無いからな」

 

 問題ないと言う顔で言う摩利に真由美は溜息をついた。

 

「今日ぐらい一緒に回ってもいいと思うんだけど……。それに、今日は摩利が見回りの当番なんでしょ?」

 

 そんなことを言う真由美に摩利は訝しんだ。

 

「真由美、あいつに過保護過ぎないか。正直言うとらしくないぞ」

 

「そう?」

 

 特に意識してなかったが、そこまで過保護だったろうかと真由美は思い返してみた。態々顎に手を当てうーんと考え込んでいる姿は割と様になっていた。

 

「多分だけど、過保護になっちゃうのは禅君が弟みたいだからかな?」

 

 考えて思いついた真由美の答えに摩利は眉をひそめる。

 

「何だそりゃ?」

 

「ほら、禅君って無茶なお願いしてイヤだって言うのに結局やってくれるじゃない。弟ってこんな感じなのかなぁって思うとちょっと特別扱いしちゃうのかもね」

 

 真由美と彼のやり取りを見ていると確かに禅十郎は彼女の頼みを面倒だと言う事は多かったが断ったことは一度もなかった。

 その上、彼女には兄と妹は要るが弟はおらず、幼少期からの付き合いである禅十郎が彼女にとって弟の様に思えるのも納得がいく。

 

「ま、実際、禅には姉が二人もいるわけだしな。姉の扱いには慣れてるんじゃないか?」

 

「なによ、摩利。それじゃあ、禅君が私を手懐けてるみたいじゃない」

 

 頬を膨らませて、ご機嫌斜めになる真由美を見て摩利は笑いを堪えた。

 

「いや、あながち間違いでもないかもしれないぞ。あいつには真由美より手の掛かる姉がいるからな」

 

「その言い方だと私も手の掛かる姉だって聞こえるんだけど?」

 

「はっはっはっ、何のことやら……。それじゃあ私も見回りに行ってくるとしようかな。この時期は新入生同士で事件を起こすことが多いしな」

 

「そうね。特に一科生と二科生同士のいざこざがあるからね。毎年この時期は大変だわ」

 

 困ったような顔をする真由美に摩利も頷いて同意した。

 

「それに今日の昼にも食堂で衝突があったらしいからな。今後も気をつけた方が良いかもしれんな。それに…」

 

「それに?」

 

 摩利が深刻そうな顔をしており、真由美は首をかしげる。

 

「あいつは相手を見下すことを嫌ってるからな。昔はそんなことした奴は上級生だろうが教師だろうが問答無用で咬みついて問題を起こしてきた常習犯だ。流石にもうあんなことはしないと願いたい」

 

 摩利の言っていることはほぼ事実だ。

 中学時代、上級生が集団で苛めていたのを見て腹が立ち、苛めていた上級生全員を全治1か月以上の怪我をさせ、病院送りにした前例があった。

 加えて、苛めがあったことを長期にわたり隠していた教師達にも腹が立ち、今までほとんどの科目で高得点を出していたにもかかわらず、全科目0点を叩きだした。

 さらに学校の屋上から『苛めがあった事実を隠蔽して体裁を取り繕うとしていた学校なんぞに習うことは無い!!』と大声で叫び、学校側と徹底抗戦して隠蔽していた事実を世間に晒したのである。

 一時期、これが話題となりテレビでも取り扱われていた。一人の中学生が学校の不正を暴いたというのが話題となり、名門校であったはずが一瞬にして廃校の危機に立たされてしまったのである。

 結果、学校は廃校になることは無かったが、今では名門校と呼ばれることはなくなってしまうほど落ちぶれてしまった。

 この事件によって篝禅十郎が『問題児』という認識が強まったのである。

 

「あいつは正義感が強い上に行動力もあるが、時々行き過ぎることも少なくない」

 

 そこが今の摩利にとって気掛かりなことだった。

 役目を全うするだけの実力を兼ね備え、正義感が強い禅十郎は風紀委員にとって必要不可欠な人材であるのは間違いない。

 しかし、あまりにも強い正義感はときに間違いを犯す可能性がある。

 それを知っている摩利はそこだけが不安なのである。

 

「摩利、心配しなくても大丈夫よ」

 

 だが、そんな摩利の心を読んだかのように真由美が彼を擁護した。

 

「禅君だっていつまでもあの頃のままでいるはずがないもの」

 

「だがな、そもそもあいつを風紀委員にしたのは……」

 

「過去は過去、今は今でしょ? 心配するなら今の禅君がどうするかを見てから判断してもいいんじゃない?」

 

 真由美の言葉に一理あると摩利は思ってしまった。

 そんな話をしていると、上から再び誰かがやってきた。

 

「あら、リンちゃん」

 

「市原、ここに来るなんて珍しいな」

 

 降りてきたのは鈴音であった。

 

「いえ、会長がお気に入りの新入生に現を抜かして仕事をしないので、その注意をしに来ただけです」

 

「リンちゃん、お気に入りって……」

 

 真由美は大袈裟な表現だと思った

 

「おや、会長は知らないのですか? 昨日から噂が流れてるんですよ」

 

「噂?」

 

「ああ、例の噂か」

 

 摩利も何かを知っているようである。

 

「それってどんな噂なの?」

 

 自分だけ知らない噂があると真由美は気になった。

 

「その様子だと本当にご存知ないようですね。それなら、後で渡辺さんに聞いてください。先にお伝えしておこうと思っていたこともありますので」

 

「市原、何かあったのか?」

 

 摩利の質問に鈴音は頷いた。

 

「先程、正門前で新入生が揉め事を起こしていると匿名で通報がありました」

 

「あらあら……」

 

「やっぱり起こったか……」

 

 やれやれという顔をする摩利と、困った顔をする真由美。

 その直後に禅十郎からその現場に向かうとの連絡が来た。

 いい機会に真由美と摩利は禅十郎がその騒動をどう治めるのかを見に風紀委員会本部を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

「この騒動、風紀委員としてこの俺、篝禅十郎が仕切る! 異論は認めん!」

 

 周りから注目を集めている禅十郎に真由美達は遠くから苦い顔をして様子を眺めているのだった。




やっと、ここまで持ってこれました

次回は例の騒動から始まります

禅十郎がどう動くのか、楽しみにしてください!

それでは、今回はこれにて

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