気温が上がったり下がったりと体調不良になりやすい時期になってきました
そしてもう二月ですよ、二月
もう年明けから一か月経ったんですよ
早い、早すぎる
あー、子供の頃に戻りたーい!(現実逃避)
ではお楽しみください!
2020/10/18:文章を修正しました。
九校戦二日目、禅十郎はクラウド・ボールの試合を見に来ていた。
本当はアイス・ピラーズ・ブレイクも見たいのだが、自分が出場する競技を見るべきだと今日も達也達とは別行動をとっている。と言っても、初日のように誰とも約束していない為、今日は適当に遭遇した知人達と見に行くかと言う気持ちでいた。
しかし、流石は九校戦である。多くの観客が訪れる為、知人や友人に偶然会うことはないまま競技場についてしまったのだ。
「まぁ、こんな日もあるか」
禅十郎はそうぼやきながら先輩達の試合を観戦する為に会場に入っていった。
一方、アイス・ピラーズ・ブレイクの会場では禅十郎以外のメンバーが集っていた。
「ほのか、雫に何かあったの?」
「え、えーっと。何かあったと言えば、あったような、なかったような……」
「どっちなのよ?」
深雪の質問に対して、ほのかの目が泳いでいることにエリカは訝しむ。何か隠し事をしているのは明白であり、それでは雫に何かあったのだと教えているようなものだった。
当の本人は傍から見れば普段通りなのだが、深雪達も雫の感情の機微が掴み始めていたため、今日の雫の様子がおかしいことに気付くことが出来ていた。具体的に何処がおかしいかと言うと、雫が競技場に来る前から終始不機嫌になっているのだ。
そして現在、雫が席を外している為に彼女達はその理由をほのかに問い詰めていた。
「それが今日篝君と一緒に観戦しようって誘ったんだけど、断られちゃって……」
「うわ、折角の女子からの誘いを不意にするとか、あいつもやるわね」
「篝君には悪気はないんだと思います。明後日のクラウド・ボールの試合の為に観戦したいから断ったんでしょうけど、言い方が……その……」
「アホやったわけね」
ほのかは頷いて肯定するのを見たエリカは呆れた顔を浮かべた。
「それで、篝君はどんな風に言ったんですか?」
美月の問いに、ほのかは一瞬口にするか迷ってしまうが、ここは意を決して話すことに決めた。
あの時の状況を再現するとこうだ。
『禅、今日の競技だけど』
『あー、アイス・ピラーズ・ブレイクとクラウド・ボールだったな』
『うん、それで……』
『新人戦二日目に俺らが出る競技だからな。今年は三連覇が掛かってるし、先輩達も気合が入ってる。俺も気合を入れ直す為にも先輩方の試合を見た方が良いな』
『う、うん……』
『と言っても、千代田先輩の場合、気合入りすぎてやらかしちまうかもな。ハハハハ』
『そうだね……。でね』
『ああ悪い。俺、先輩達に呼ばれてんだわ。またな』
『……』
と言う流れである。
「うん、ギルティ―だね」
エリカの反応に対し、深雪達はどう返せばいいのか困惑してしまった。
「えっと、これはどっちが悪いんでしょうか?」
「どっちも何もどう見ても禅が悪いでしょ」
「でも、禅君だけが悪い訳じゃないと思うけれど」
エリカは禅十郎が悪いと断言するが、深雪は擁護した。
「だとしても、その流れは無いでしょ。折角女子から声を掛けてもらってるんだから、少しくらい期待してなさいよ。ミキだってそう思うでしょ」
「僕に振られても困るんだけど……。それと僕の名前は幹比古だ」
突然、話を振られた幹比古は溜息交じりにそう言った。
「エリカ、禅君にそんなこと求めても仕方がないと思うわ。お兄さまも禅君は勝負事になると熱くなって他のことに気が向かなくなるって仰ってたもの」
深雪の言う通りだと全員が思った。勝負事において、この中で一番拘っているのは禅十郎だと全員が断言出来る。たかがジャンケンでも割と本気で悔しがっており、数か月の付き合いで彼の勝負への熱意は嫌というほど理解させられた。
「まぁ、別にあいつだってクラウド・ボールの全試合を見るつもりは無いんでしょ? 後でまた誘えばいいんじゃん」
エリカの言い分は最もであるが、ほのかは首を横に振ってそれを否定した。
「えっ、全試合見る気なの、あいつ?」
「雫が言うにはそうみたい。昨日の試合を見て闘志に火がついちゃったらしくて……」
だからと言って全試合見ようとは普通考えないだろうとここにいる全員が思った。録画をしたものだってあるのだから、それを見ても同じはずなのだ。
なおこれを後で禅十郎に言ってみると『リアタイ視聴するから意味があるんだ』と強く言い切られてしまうことになる。
「ねぇ、前から思ってたんだけど、禅ってバカなの?」
「どうかな? 奇行を除けば普通だと思うけど……」
「あいつの行動の大半以上が奇行でしょうが」
エリカの言葉に誰も否定できる者はいなかった。
その後、雫が禅十郎を誘えなかったことに不機嫌になる理由は誰も追求しようとはしなかった。
別の会場で話のネタになっていることも知らず、禅十郎は男子クラウド・ボールの試合を一番前の客席で観戦していた。
「男子は三人のうち二人が二回戦進出か。まぁ、優勝を狙えるだけであって優勝確実な選手はいなかったから妥当な所かねぇ」
一高男子の一回戦の試合を見た禅十郎は観客席から客観的な感想を口にしていた。
禅十郎が口にする通り、男子クラウド・ボールに出場する代表メンバーは女子のメンバーと異なり優勝確実と呼べる選手がいなかった。
勿論、能力は決して低くはない為、優勝が狙えるレベルであるのは間違いない。
しかし、今回の競技には三高の優勝候補であるエースがいる。
勝ち進んだ先輩達の内、桐原がその選手と二回戦で戦うため、三回戦出場が出来るのか危ういと言うのが禅十郎の見解である。
「さて、予定通りに行くと良いが……」
そんなことを口にしていると、ふと視界の右端に誰かが立っていることに気が付いた。
「失礼。隣、よろしいかね?」
ちらりと横を向くと顔ははっきりとしなかったが老齢の男性と
「ええ、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
禅十郎は快く了承し、男性はゆっくりと腰を下ろす。
「やはり年は取りたくないものだな。昔のように体が動かなくなってしまったよ」
(っ! これはこれは……)
隣に座ってきた老人の声をはっきりと聴いてを彼を一瞥すると禅十郎はその正体に内心驚きつつもニヤリと笑みを浮かべた。
「そんなこと仰るならわざわざこのような席で観戦しなくてもよろしいのではないですか?」
独り言を言っていたはずの老人に禅十郎は話しかけた。
すると老人は不快感どころか満足げな笑みを浮かべていた。
「なに、少々時間が空いたのでね。先日のことについて直接話す機会に丁度良いと思ったまでだ」
「大会委員はあなたがいなくなって混乱していると思いますよ」
「問題あるまい。少々席を外すと言っておいた。少し遅れても向こうも五月蠅く言わないだろう」
そう言ってしまう老人に禅十郎は思わず声を上げて笑ってしまった。
「良いんですか? それにあなたほどのお方がここにいれば目立ってしまいますよ、九島閣下」
禅十郎の隣に座っていた老人、九島烈はニヤリと笑みを浮かべた。
「心配はいらない。先ほどから私に気付いておる者など一人もおらんよ」
九島烈の言葉の意味を禅十郎は理解した。確かに彼は誰にも気付かれずにここに辿り着いている。本来ならそれはおかしいのだ。魔法に携わる者であれば知らぬ者無しと言われるほどの魔法社会の重鎮である九島烈を目にして何も反応がないというのはおかしな話なのだ。
「やはりトリック・スターの異名は伊達じゃない、と言うことですか」
今、彼が使っている魔法は先日の懇親会とは別物だと禅十郎は理解する。
「今使っているのは先日のような特定のモノに意識を向けさせる魔法ではなく、一定の範囲において自分の存在を相手に認識させない精神干渉魔法ですね」
禅十郎の言葉に烈は満足げに頷いた。
「正解だ。流石にこの大人数では先日のような魔法は向いていないのでな。では、君は何故私の存在に気付くことが出来たのか、分かるかな?」
烈はまるで教師のような質問をしてきた。
「今掛けている魔法は視覚にのみ干渉するからです。人の目は意識していない物体を鮮明に知覚出来ないと言われています」
「ふむ、続けなさい」
「現在使用している魔法はこのことをを応用して魔法を掛けている対象を意識して見ないようにしている。その為に効果外の感覚、今回は聴覚ですね。視覚以外の感覚で魔法を発動している人物を認識した場合、その効果は薄れる為に自分は気付くことが出来た」
「ほう、そうすると今私が君と会話をしていれば、いずれ気付かれると言うことになるが?」
「それは閣下が自分が気付いた後に自分も対象に含めたからですね。しかも今は九校戦の競技中です。試合を見に来ている人は自分達の会話より試合に集中しています。それに閣下と直接話したことがある者がこの観客席に何人もいるとは思えません。聞いていたとしても他人の空似ぐらいにしか感じないでしょう」
禅十郎がそう占めると、烈は満足げに頷き、丁度試合が終わり観客が白熱している中で拍手した。
「うむ、合格だ」
「おしっ!」
軽くガッツポーズを決め、烈の抜き打ち試験をクリアしたことを喜んだ。
「先日もそうだが、魔法の修練もしっかりと行っておるようだな。私はてっきり、君の祖父のように体ばかり鍛えてるのではないかと心配しておったが、どうやら杞憂だったようだ」
烈の心配事に禅十郎は苦笑いを浮かべた。
「あの筋肉達磨と一緒にしないでください。流石に今の門下生でも爺さんと同じような考え方をしている人はいませんよ」
「それならば安心なのだが……。だが、あの男は時折、何かをしでかすことが多いのでな。それが気がかりなのだよ」
「閣下、もう一度聞きますが、あの爺さんが本当に戦友だったんですか? 一部の門下生から疑惑がかけられているんですよ」
禅十郎の祖父のことをよく知っている九島閣下は愉快そうに笑った。
「私の周りからも言われるが、間違いなく彼と私は戦友だったよ。今でも彼が上官に逆らった日の事は覚えているよ」
それを聞いた禅十郎は自分の祖父が何をしでかしているのやらと呆れていた。ここに禅十郎の友人や知り合いがいれば『お前が言うな』と言われていただろう。
「実際にそうでなければ、閣下から直々に教えを乞うことは無かったでしょうね。その節は大変お世話になりました」
「構わんよ。君は実に教え甲斐のある子だったから私も楽しめたのでな」
数年前のことにも拘らず、随分と昔のことを思い出すように口にした。
「それに
唐突に頭を下げる烈に禅十郎はギョッとした
「止してください。自分は何もしていませんよ。ただ、あいつと仲良くなりたかっただけですから」
「それでもあの子にとって君のような存在は必要だった。これからもあの子の良き友でいてやって欲しい」
烈の口にしたことが切実な思いであることを禅十郎は知っていた。
どれほど強い思いが込められているのかまでは自分では計り知れないが、それでもその思いに禅十郎は応えるつもりでいた。なにせ、彼と自分は境遇がよく似ているのだから。
禅十郎は笑みを浮かべて親指を立てた。
「勿論です。俺はあいつの友人かつ兄貴分ですからね」
「……それを聞けて良かった。では、私はここで失礼するとしよう。新人戦での君の活躍を楽しみにしている」
そう言い残して、烈はここから去っていった。
結局、周りの人々は誰一人、彼の存在に気付くことはなく観戦しているのだった。
その日の夜、禅十郎はミーティング・ルームに来ていた。
明日も本戦の試合が残っているが、今日の競技の結果で急遽幹部と戦術スタッフで会議を開くことが決定し、その通達を受け取った禅十郎は新人戦総括役(本人は否定したい)として出席している。
全員が集まると第一高校の代表である真由美が司会となり、会議は開かれた。
「それでは、本日までの競技の結果を踏まえて戦術スタッフの見解を教えてください」
「男子クラウド・ボールの結果が芳しくなかった為、現時点でのリードを踏まえ見通しを計算し直した結果、女子バトル・ボード、男子ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バット、モノリス・コードで優勝すれば安全圏であると予測されます」
戦術スタッフである鈴音がそれに答える。
(んな、無茶な)
本戦の男女計六種目の内、四種目を優勝しなければならないとなれば、ハードルが高いと感じるだろう。
しかし、わざわざそれを口にする者はここにはいなかった。
禅十郎も内心そう思ってはいるものの、今年の第一高校のメンバーには優勝確実と言われる猛者が揃っているのだ。
ここで心配するのは、彼らの実力を疑っていることになり失礼にあたる。それ故に余計なことは何も言わなかった。
この時、禅十郎には一つ懸念があった。
無頭竜が未だに動きを見せないのだ。何かしらの妨害はしてくるだろうと予測はしていたものの、この二日間、全く動きがなかった。第一高校の優勝を妨害するのであれば、そろそろ何かしてきてもおかしくない。優勝候補である生徒を襲撃するかと思えば、手を出してこないため、あまりに奇妙だと禅十郎は疑問を抱いていた。
だが、今はそれを考えている場合ではないと理解しており、直ぐに意識を目の前の会議に戻した。
「市原先輩、もし本戦の結果が予定した通りになった場合、総合優勝するには新人戦の成績はどれくらいあった方が良いでしょうか?」
勿論、これは後ろ向きの考えではないことはここにいる全員が分かっている。
禅十郎は現在新人戦メンバーの代表であり、それを気に掛けるのは当然のことだ。
「勿論新人戦も優勝を狙って欲しいですが、予想以上に三高がポイントを伸ばしていることも踏まえると、あまり点数差を付けて欲しくはないですね。もし負けていたとしても百十ポイント以内の差であれば十分に巻き返しが出来るかと」
「分かりました。では今後のことを踏まえて、新人戦メンバーには今回の会議についての内容を伝えないことにしておきます。全力でぶつかってこいとだけ言っておけば十分ですね」
その一言に一部の先輩が意外な顔をしていたが、禅十郎の考えを理解している者がここにはいた。
「成程。ここで余計な混乱を招くような行為は避けるべきということか。九校戦のメンバーになった以上、誰もがこの日の為に全力を尽くしている。不必要なプレッシャーを与えて、本来の力を発揮出来ないことを避ける為に配慮するのは当然の事だな」
「十文字の言う通りだ。私や他の上級生ならともかく、初の大舞台に上がる一年生に余計な重荷を感じさせるのは良くない。当然勝つことも大事だが、純粋に自分の力を試すことに意識を向けさせてやるべきだ」
克人や摩利が禅十郎の意見に賛同する。
後輩の事を思えば、先輩として余計な気遣いをさせてやるべきではないという点で二人の意見は一致していた。
それには真由美と鈴音も頷いて賛同しており、これによって今後の方針は決定した。
「分かりました。では三人の言う通り、新人戦については通達しないこととします。それでは本会議はこれにて終了とします。まだ九校戦は始まったばかりですが、明日に備えて今日はゆっくり休息をとってください」
真由美が締め括り、会議は終了した。
ぞろぞろと先輩達が部屋を出る中、禅十郎は椅子の背もたれに寄りかかり、一息ついていた。
「あー、しんどい。やっぱ幹部なんてなるもんじゃないな」
「こーら。そんなこと口にしないの」
まだ残っていた真由美は禅十郎の愚痴を窘めると彼の隣に座った。
「それにしても相変わらず気が利くわね」
「そうですか? これぐらい当然の配慮だと思いますよ。深雪ちゃんや雫ちゃんとかならこの程度のプレッシャーならものともしないでしょうが、大半のメンバーは重圧に耐えられるかどうか怪しいですからね。それなら普段通りにやらせた方が勝率が上がると思っただけです」
「ふーん。随分と二人を信頼してるのね」
真由美はちょっと不貞腐れ気味にそう言った。
「まぁ、深雪ちゃんは達也の妹って言うのもありますし、雫ちゃんは昔っから面倒見てるんでそれなりに信頼してるって感じですよ」
それを聞いた真由美は残念そうな顔を浮かべていた。
「……ほんと時間って残酷よね」
「どうしたんですか突然」
いきなり何を言いだすんだと禅十郎は眉間に皺を寄せた。
「だって、昔は私にお姉ちゃんお姉ちゃーんって懐いてた可愛いあの子が、今ではこんなに偉そうなこと口にするようになると思えばそう感じちゃうわよ」
「……いつの話ですか、それ。と言うか俺の成長にケチつけないでくださいよ」
苦い顔をする禅十郎に真由美は笑みを浮かべた。
「でも、今では生意気な弟みたいでそれはそれでいいんだけどね」
「結局俺の成長は良いのか悪いのか、どっちなんですか?」
「うーん、どっちかと言えば悪い?」
「疑問形で返さないでくださいよ。てか、結局悪いんかいっ!」
自分の成長に文句を付けられて、禅十郎は頬杖をついて不貞腐れた。
「じゃあ、聞きますけど、今の俺が昔みたいに懐けばいいんですか?」
その質問に真由美は額に指を当てて少し考えるポーズをとった。マンガに出てくるような姿勢だが、彼女がやると結構様になっていた。
幼い頃の禅十郎との思い出を振り返りつつ、それを今の自分達に脳内変換をしてみる。
出会い頭に抱き着いたり、膝枕をしたり、一緒に寝たり、ご飯を食べさせたりと様々なことをしてきたが、それを今の自分達に当てはめるとその構図はまるで……。
(こ、これ、恋人とかのレベルじゃないわよっ!?)
想像するんじゃなかったとあまりの恥ずかしさに顔を赤くする真由美に、禅十郎は首を傾げる。
疑問符を浮かべる禅十郎に真由美はわざとらしく咳をして誤魔化した。
「そ、それはそれで凄い状況よね。やっぱりちっちゃくて可愛い方が良いわ」
「……結局ダメじゃないですか」
愕然とする禅十郎はそのまま机に突っ伏し、物凄く不機嫌になった。
その一方でどうにか妄想したことを禅十郎にツッコまれなかったことに真由美は内心ほっとするのだった。
いかがでしたか?
さて、次回は九校戦三日目となりますがしばらくの間、多分二月末か三月に入るまで投稿が難しくなると思います
新人戦の話は次の次辺りで始まったらいいなと考えています
相変わらず予定通りに書かない作品ですが、これからもよろしくお願いします
それでは今回はこれにて