魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はいどうもです

来年まであと一週間と少しです

この作品を作り始めてから、もう半年が過ぎてるんですよね

早いなぁ

それではお楽しみください

2020/10/18:文章を修正しました。


いざ、九校戦へ!

 九校戦のメンバーも決まり、発足式の後、九校戦の準備は過激さを増していった。

 代表選手は閉門ギリギリまで残って戦術スタッフや技術スタッフと打ち合わせをしたり、練習に励んだりと大忙しの日々を送っている。

 禅十郎もモノリス・コードに向けてチームメイトと打ち合わせを行っているところだった。

 モノリス・コードは最も実戦形式に近い競技であり、戦略を考えなければならない。まずはチームのリーダーを決めるのだが、これに関しては担当している市原だけでなく他の先輩方から禅十郎がやるように勧められ、いずれ先輩としてやっていく為に後進を育てるという名目で彼が中心となって会議が進んでいた。

 

「モノリス・コードは平原、市街地、森林、岩場、渓谷の五種類のステージで行われているが、フォーメーションはステージ毎に変更はしない。護衛を経験している森崎はディフェンス、中距離から遠距離に対応できる井上は遊撃、俺がオフェンスを担当する」

 

「ああ、それで構わない」

 

 実際に要人警護を手伝ってきた森崎は特に異論を出さずに頷いた。

 彼とは入学直後の一件以降、特にいがみ合うこともない。あの後、風紀委員となるはずの人間の振る舞いとして問題があったと本人も自覚し反省しており、今では良きクラスメイトとして仲良くやっている。

 ただ、二科生を見下す所だけはどうにかできないだろうかと常々思っているのだが、意識の改革はそう簡単にはいかないものだ。何か切っ掛けがあれば一皮剥けるだろうなと禅十郎は感じているが、本人の問題に勝手に入り込むつもりは毛頭なかった。

 

「僕も問題ないよ」

 

 同じくチームメイトの井上はC組の生徒であり、克人の所属するクロス・フィールド部の後輩で、その実力は確かなものだ。

 三高の一条ほどではないが、中距離から遠距離の魔法には三人の中で最も高い適性がある。場合によってはオフェンスの後方で攻撃の援護、または離れていてもディフェンスの援護に回れる機転の高さであるならば、遊撃に向いている。

 フォーメーションが直ぐに決まったのも、禅十郎の手腕もあるが、克人が協力してくれたこともあり、チームメンバーはそれぞれの特性を活かしたバランスのとれた組み合わせとなっていた。

 

「一年生にしては随分しっかりとした作戦を立てるな」

 

「だって、『あの先輩』の弟だもの」

 

「噂の先々代生徒会長ですか?」

 

「そうそう。あの『暴君』。懐かしいなぁ、俺が一年の時の会議で無駄な時間を費やしてたら、言葉と魔法が飛んできたんだよな」

 

 自主性を尊重して最初は一年生同士で作戦を立案するようにして、少しずつ先輩達が手を加えていくはずなのだが、禅十郎が普段の行動とは打って変わってまともな作戦を立てていくため、先輩達は揃って禅十郎の手腕に驚いていた。

 しかし当然禅十郎の話を聞いて疑問を抱く者がいた。

 

「篝君がオフェンスで大丈夫なの? 森崎君の方がオフェンス向きだと思うし、篝君の移動魔法ならディフェンスか遊撃にした方が良いと思うんだけど」

 

 代表で質問したのはCAD担当の三年の女子。

 

(確か、えっとイズミん、じゃなかった和泉理佳先輩だっけか)

 

 真由美が事前に教えてくれた情報を頼りに彼女の名前を思い出す。

 彼女も千景が生徒会長をしていた時に入学しており、篝家が体術の名門だということは彼女も十分理解しているのだろう。なにせ、千景は篝家でありながら体術はからきしであったこともあり、それが話題として今の三年に広まっていた。

 

「そうだな。森崎の方がオフェンスに向いてるんじゃないか? 井上がディフェンスをやって、篝の機動力があれば遊撃の方が向いているし短時間で二人のサポートに移れる気がするが」

 

 彼女に続いて他の先輩達も頷き始めた。

 彼等の提案を禅十郎は頷いて聞いていた。彼等から見た禅十郎がどう見えるのかよく分かった。

 

「……成程。確かにそうですが、森崎はどちらかというと攻めるより守りに入った方が実力を発揮します。警護を生業としている家なので、モノリス防衛の役割を振った方がより効果的です。井上も視界が広い場所であれば、やや離れていてもオフェンスとディフェンスの援護が行えます」

 

「そうなると消去法で君がやるしかないってことだろ。流石にそれはマズいんじゃないか?」

 

 余ったから禅十郎がやるのであるならば、それは危険だと示唆した。他の先輩達も同じ考えのようである。

 だが、彼らと違った反応をしている人が一人だけいた。

 

「篝君、時間の無駄ですから、そろそろ立案した作戦を提示してください。既に対策はとってあるのでしょう」

 

 先程から黙って聞いていた市原である。

 

「気付いてましたか。流石です」

 

 禅十郎は彼らを納得させるための秘策を発足式前に思いついていた。

 このことは事前に森崎達にも伝えてあるため、先程までの会話は内容の再確認のようなものであることは先輩達は誰一人として知らなかったのだ。

 

「チームメイトが反対しない時点で妙です。大方、既に御二人を納得させる作戦を立案していたのでしょう」

 

 以前から市原の思考回路は三年の中ではぶっちぎりだと思っていたが、予想以上に頭の回転が速い為、禅十郎も舌を巻いていた。

 

「お見事です、市原先輩」

 

「大したことありません。あなたのお姉さんに振り回されていた頃と比べてみたら容易いことです」

 

「あ、それ姉ちゃんに言っちゃいますよ」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる禅十郎に対し、市原は表情を崩すことなく毅然とした態度で携帯端末を取り出した。

 

「では、今すぐ会長達に報告させていただきます。篝君が時間を無駄にしているので叱っておいてくださいと」

 

「すみません。真面目にやります」

 

 一瞬にして真顔に戻り、禅十郎は話の続きを語りだした。

 禅十郎の扱いの手慣れている市原の姿に彼等は揃って驚嘆していた。だが、ここにいる三年生は市原が千景の所為でどれほど気苦労が絶えなかったのかを思い出した。当時と比較すれば今の禅十郎のやり口は随分かわいく見えてきた。

 

「では、私が立案した作戦はこちらです」

 

 教室のモニターにその作戦内容をまとめた図が表示される。それを見た多くの上級生は揃って目を丸くした。その内容はこれまでの競技のあり方を一刀両断するものだった。

 彼等の反応を見て禅十郎は彼等の度肝を抜いたことに満足し、満面の笑みを浮かべた。

 

「これに関しては、既にモノリス・コードのルールと大会委員会に問い合わせて確認を取っている為、違反行為になることはありません。その会話も録音してますので、よろしければ後でお聞かせします」

 

 数名ほど質問をしようとする前に禅十郎はそう言い、そこまでしていたのかとここにいる誰もが驚いていた。

 

「用心深いですね」

 

 一方で鈴音は面白そうに微笑んでいた。

 

「折角立案した作戦が本番で使えなかった、なんて恥をさらしたくなかったので。これぐらいは当然です」

 

 然も当たり前のように話す禅十郎に感心する者は多数いた。

 

(ふむ、やはりこういう所はお姉さんに似ていますね……)

 

「ですが、この作戦、少々無理がありませんか?」

 

 軽く見てみたが、幾つか問題点があり、それを解決しなければ彼の作戦を全て却下しようと市原は考えていた。しかし、その程度の落とし穴を彼が気付かないはずがない。

 

「大丈夫です、この作戦の要はスペシャリストにお任せするつもりですので」

 

 禅十郎が出した作戦にはここにいる多くの者を驚かせた。ルールを再確認した上級生達は禅十郎の案に乗るのも面白いと思うようになった。

 彼の発案の作戦の元、他校を驚愕させるためにモノリス・コードの戦略会議は他の競技よりずっと白熱することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 練習も滞りなく進み、時間もあっという間に過ぎて八月一日。

 明後日に九校戦を控えているが、一高は例年、開催日ギリギリになって宿舎入りしている。

 場所が場所なだけに、遠方から来る魔法科高校の選手に優先的に現地の練習場を割り振ることからわざわざ早く行く必要がないのである。

 

「それにしても暑い……」 

 

 太陽の熱気にあてられて、そんなこと愚痴る禅十郎

 

「いい加減、お前も入ったらどうだ? これは俺の役割だ。わざわざお前まで出る必要は無いだろう?」

 

 禅十郎と一緒に外にいる達也は禅十郎にバスに入るよう促す。

 

「うっせ。それだとお前が暇だろうが。待ち時間を有効活用しようって友人の心遣いに感謝しろよ」

 

「要するに禅も暇だから時間つぶしにこっちに来たということかな?」

 

 一緒にいる摩利は日傘をさして、禅十郎達と一緒にバスの外に出ていた。

 時間を潰すために、例年どのような流れで九校戦に臨んでいたのか、今までの九校戦であったネタ話など様々なことを話していた。

 そんな話を摩利から聞きつつ遅れてくる人を待っていた。

 

「何言ってるんですか。俺は友人をこの暑い中一人寂しく立たせたくないという親切心で残ってるんです」

 

「凄く押しつけがましいな。ただ単にお前がじっと我慢するのが苦手なだけだろう。昔から一か所に留まることが苦手だからな」

 

 達也がそう言うと禅十郎が眉間にしわを寄せた。

 

「何だと? お前、俺がマグロかサメみたいな奴だと思ってんのか?」

 

「海洋生物というより、君はどちらかと言うと猪だろう?」

 

 そう言う摩利に対し、達也は珍しく吹いた。

 

「牛、というのもありですね。と言っても禅の場合は猛牛の方ですけど」

 

 そんなことを言う達也に対し、禅十郎の眉間の皺がさらに深くなった。

 

「どつくぞ、この野郎。今すぐヘッドバットかましてやろうか? 自他ともに認める石頭だぜ」

 

「……禅の頭を叩いた時、師匠の手が腫れていたな」

 

「殴るのは今後避けるべきかな? それでは私の骨がやられるな」

 

「殴らなくても先輩はしょっちゅう叩くじゃないっすか」

 

 そう言う達也に禅十郎は仕方ないと溜め息をついた。

 

「勝手な事ばかりするお前が悪い」

 

「いや、偶に理不尽な理由でやりますよね。そんな事ばっかしてると、彼氏に言いつけますよ」

 

 禅十郎がそう言うと摩利は彼を睨みつけた。

 

「よし、禅、今すぐその喧嘩買ってやる」

 

「ルール無用の試合で俺に勝てますか? 近接戦闘だけで縛り付けても先輩はあくまで他の人達より長く戦えるだけであって、勝率は数割り増し程度じゃないっすか」

 

 正直に言えば、摩利もこの数か月で自身と禅十郎とでは近接戦闘で勝てる見込みはほぼ無いと感じていた。自身の努力を否定する気はないが、素直に禅十郎の努力が自身を上回っているのだ。

 

「……かもしれないな。正直、君の実力は本物だ。この学園で君を相手に近接戦闘で勝てる者は一人もいないだろう」

 

「うーん、どうですかねぇ。一対一なら兎も角、複数人相手にするなら可能性はあると思いますけど」

 

「どの道、一人で勝てないことに変わりはないさ」

 

 この話はこれで終わりと摩利の態度が物語っていた。その上、丁度、待ち人がやってきたのでいい区切りだと思った。

 

「三人共、ごめんなさーい!」

 

 こちらに向かってくる人物の声が聞こえ、禅十郎達は声のする方へと目を向けた。

 

(へー、ああいう格好もありなのか)

 

 その人物の格好を見て禅十郎はそんな感想を抱いた。

 両腕両肩を露出し、加えてスカート丈も膝上までのサマードレスを着ており、思春期男子であれば目のやり場に困るだろう。

 気のせいか達也も若干目を逸らしているようにも見える。

 言うまでもないが、そんな格好をしてきたのは真由美であった。年頃の少女がそんなに露出していいのだろうかと思ってしまうが、この人の場合、注意する以上に似合ってしまうので誰も強く言えなかった。

 

「いや、大丈夫ですよ。渡辺先輩達が待つって言ってこうなったんで」

 

「でも、わざわざ外で待たなくても大丈夫だったんだけど?」

 

「どうしても達也が選手全員の乗車を確認するって聞かないもんで。まぁ、俺らはその付き添いでいただけです」

 

 真由美が遅れてきた理由は、家の用事が入ったからであるのは九校戦メンバー全員が知っていた。

 彼女は先に出ても良いと言っていたのだが、主に三年生が来るまで待とうと言い出した為、当初の出発時間から大幅に遅れてしまっているのである。

 

「凄く暇だとボヤいたました。会長が遅れる所為で出来た時間を潰す方法がないらしく、ずっとここで時間を潰していましたね。内心、先輩が遅れてくるのに腹を立てていたのでしょう」

 

 そんな言葉をしれっと言う達也。本人は冗談のつもりなのだろうが、声のトーンが本気で言っているようにしか聞こえず、真由美を責めているような言い方であった。

 

「うう……、ひどいわ。禅君がそんなこと思っていたなんて」

 

 こういう悪乗りにかなり敏感な真由美はすぐさま達也の冗談に乗っかった。しかもワザと目を潤ませて、上目遣いでこちらを見てくる。

 それを見た禅十郎はややたじろぐがすぐに持ち直し、達也を怒りに満ちた視線を向ける。

 

「テメェ、変なこと吹き込んでんじゃねぇよ。そんなこと俺は一言も言ってねぇじゃん!」

 

 禅十郎がそう言い切ると、わずかに静寂が起こった。

 それもわずか数秒であり、摩利はすぐさま満面の笑みを浮かべて禅十郎の肩を叩いた。

 

「はい、禅の負け」

 

「あっ?」

 

 何を言っているのだと呆けた面をする禅十郎。

 真由美も何の事だか分からず、首を傾げていた。

 

「禅、さっきお前、俺に向かって何て言った?」

 

 達也も同じような笑みを浮かべている。

 

「あ……。あー、やっちまった」

 

 思い出した禅十郎は頭を片手で抑えた。

 それを見た達也は禅十郎の肩をポンと叩いた。

 

「じゃ、ご馳走様」

 

 それだけ言うと、達也は作業車両に向かっていった。

 

「さて、私も会場に着いたら下調べでもしておこうかな」

 

 摩利も上機嫌に言うと先にバスに乗り込んだ。

 取り残された禅十郎はやってしまったことを後悔し、深い溜息をついた。

 

「あーあ、負けちまった」

 

「禅君、今まで摩利達と何してたの?」

 

 悪乗りしてはいたものの、先程まで蚊帳の外に置かれていた真由美が何事かと尋ねる。

 

「時間潰すために達也と渡辺先輩と俺で『会話しりとり』してました」

 

「それはまた随分と変なことをしてたのね」

 

 何をしてるんだかと呆れ混じれに溜息をつく真由美。

 

「ただのしりとりじゃつまらないって渡辺先輩が言ったんで、じゃあ会話でしりとりしましょうかって話になって今に至ります」

 

「で、禅君の負けってわけね」

 

「おかげで奢る羽目になりました。ハハハ……」

 

 乾いた笑い声をあげる禅十郎に真由美は苦笑を浮かべるしか出来なかった。

 

「禅君ってこういう勝負は弱いわよね。感情的になると特に」

 

 昔似たようなことをしたことがあり、その時も勝負は普通だったのに禅十郎が感情的になると一気に弱くなる傾向があった。

 

「まぁ、負けるのは慣れてますからね。それは兎も角、九校戦の移動は私服でも良かったんですね」

 

 バスの中にいる生徒と真由美の服装を見て、禅十郎はそんな感想を抱いた。

 

「学年が上がっていくと私服になる割合が上がるのよね。学校からも特に指示もないから」

 

「成程」

 

「それより禅君、これ、似合ってる?」

 

 幅広の帽子を片手で押さえて、禅十郎の前でくるりと回転する。スカート部分がひらりと舞い上がり、気取ったポーズをする真由美。その姿に釘付けになる男子はバスの中からでも多かった。

 

「ええ、よく似合ってます。俺はその服装、好きですよ」

 

 真由美の艶姿を前にして顔を赤くして照れることもなく、屈託ない笑顔で禅十郎が褒めると真由美は少しだけ恥ずかしくなった。

 

「……アリガト」

 

 少しくらい照れても良いのにと思ったが、道場の精神修行が恐ろしいくらいに厳しいことを思い出し、真由美は彼に初々しい反応を求めるのは無駄だと諦めることにした。

 だが、本当は禅十郎の精神は思いっきり揺さぶられていることに真由美は気付かなかった。

 長話をし過ぎた為、さっさと二人はバスに乗ることにした。

 

「ああ、そうだ、先輩、移動中はちゃんと休んでくださいね」

 

 乗る前に禅十郎は真由美の耳元でバスの中の生徒に聞こえない程度の声でそう言った。

 現地で集合したかったところを無理して来た真由美に対する彼なりの気遣いであった。

 それを悟った真由美はクスリと笑みを浮かべた。とても自然で今日一番の綺麗な笑顔だった。

 

「ふふ、ありがとう」

 

 それから二人はバスに乗車し、予定より大幅に遅れて、第一高校のバスは目的地へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 目的地である宿舎まで二、三時間くらいであり、その間の時間を潰すためにおしゃべりをする者もいれば、静かに眠る人もいる。

 

(さて、あいつ起きてるかな?)

 

 その中で禅十郎は時間を潰すために端末のゲームで将棋を指すことにした。オンライン対戦も可能である為、禅十郎はフレンド登録している人物と連絡を取った。

 タイミングが良く相手もちょうど息抜きがてら将棋を指したいと返してきたため、そのまま勝負に入った。

 こんな時に何で将棋指すんだよ、と周りから笑われたりもしたが、普段見せない真剣な表情で指している姿を目にし、周りは少しずつ彼の様子を見るようになっていた。

 そして、その光景は彼をよく知る者達の中でも話題となっていた。

 

「篝君、凄い真剣な顔でやってるね」

 

「真剣勝負になるといつもああだよ。普段からもあれくらい静かだったら良いのに」

 

「ずっと寡黙な禅君というのもあまり想像できないけど……」

 

「確かに深雪の言う通りかも」

 

 普段はうるさいが、いざ勝負ごとになるとまるで別人のように無口になり、会話が出来ても必要最低限の事しか口にしないギャップに誰もが驚いていた。

 彼女達の中で唯一それを知っていた雫は普段からああであれば良かったのにと何度も思っているのだが、それはそれでらしくない為にもどかしかった。

 顔立ちも強面だが悪くないし、持っている素質はどれもがかなりのものであるにも拘らず、あの性格がすべてを台無しにしている。

 それらが直るのは無理な話なのも理解しているのだが、今の禅十郎のあの姿は何というか……。

 

「勿体ないな」

 

 ふと無意識にそんな言葉を口にしてしまう雫。

 

「雫、何か言った」

 

 そんな言葉を発した雫にほのかは首を傾げた。

 はっとした雫は顔を横に振る。

 

「何も言ってないよ」

 

 否定するが、残念ながらほのかにはちゃんと聞こえていた。

 

「雫、今勿体ないって言ってたよね?」

 

「言ってない」

 

 その否定はもう何の意味も持たなかった。

 じーっとほのかがこちらを見てくる。

 

「ねぇ、雫ってやっぱり篝君の事……」

 

「……」

 

 ほのかがそう口にしても、雫はしばらく黙っていた。

 流石に踏み込み過ぎたかなとほのかは今になってやり過ぎたことを後悔し始めていた。

 

「確かに禅のことは嫌いじゃないけど」

 

 ようやく口を開いた雫は自分の気持ちを正直に話し始めた。

 確かに禅十郎が好きか嫌いかで言えば、好きの方だろう。だが、どうしても『あの件』の所為で禅十郎に対してこの感情を向けて良いのか戸惑っていた。

 

「けど?」

 

 そのことをほのかに話すわけにもいかず、雫はもう一つの理由を挙げることにした。流石に他聞を憚ることである為、雫はほのかの耳元でそっと囁いた。

 

「ほのか、禅が会長のことを好きって知ってた?」




いかがでしたか?

次回は、例のトラブルが起こります

可能だったら、プレ開会式まで話を持っていきたいです

それでは、今回はこれにて

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