魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

30 / 86
はいどうもです

最近、かなり寒くなってきて、外に出たくなくなってきました

年末まで今日で後二週間です

やるべきことはしっかりやって、新年を迎えたいです

それではお楽しみください

2020/10/18:文章を修正しました


九校戦出場を祝われました

 達也が技術スタッフとして相応しいか判断する為に実際にCADの調整をすることが決まり、その実験台を桐原が引き受けることになった。

 その準備に取り掛かっている中、禅十郎はふとあることを思い出し苦笑していた。

 

「禅、どうしたの?」

 

 唐突に笑いだした禅十郎に一緒にいた雫が問いかける。

 

「ん? いや、あの時深雪ちゃんが会議に出てなくて良かったなぁって話」

 

「あー」

 

 雫は納得したように相槌をうった。

 

「あそこまで達也に酷いこと言われて何事も無く終わると思うか?」

 

「深雪だったらありえる」

 

「だろ」

 

 あの時、会議に深雪が出ていれば、あそこにいた生徒全員が猛吹雪、いや氷河期の中に叩き込まれていたと容易に想像がつくだろう。

 今にして思えば、反対した者達は深雪があそこにいなかったから、強く反対できたのではないだろうかと思えてくる。深雪の重度のブラコンは、同級生だけでなく先輩にも伝わっているのでこの推測はあながち外れてはいないのかもしれない。

 

「ま、夏場だから涼しくなるのに越したことはねぇけどな」

 

「禅、冗談でもそんなことは言わないで」

 

 雫の言う通りだと、ほのかもうんうんと何度も頷いた。

 そうこうしている内に準備は滞りなく進み、達也の実力を試すために用意された部屋には技術スタッフのメンバーと部活連執行部および反対派の生徒がいる。

 禅十郎はこの件の発案者である為、一緒に部屋に来ており、他には興味のある一年生や上級生もちらほらと残っていた。

 

「ねぇ司波君ってどれくらい出来るの?」

 

 一緒に残っていたスピードシューティングおよびアイス・ピラーズ・ブレイクの選手である英美が雫に尋ねた。

 

「深雪のCADの調整はしてるから、相当の腕だと思うけど……。禅は何か知ってる?」

 

「いや、まったく知らん」

 

 禅十郎が即答したことに英美は驚かされた。

 

「へー、割と禅って司波君と仲が良いから知ってるかと思ってた」

 

 そう言われると禅十郎は首を横に振った。

 

「そこまで全部は知らねぇよ。俺があいつのことを知っているとすれば、魔法の知識量が凄まじいのと実戦向きの魔法師としての実力が高いこと、そんで俺と真っ正面から拳を交える体術の技量があるってことぐらいだな」

 

「意外と高評価だね」

 

 マジックアーツでの試合の一件を知っている英美は禅十郎が達也に対する評価が高いことに意外だと言いたげな顔をする。

 

「うん、体術に関して辛口の禅にしては珍しい」

 

 雫も含めて周りにいた知り合いも同じ思いのようである。

 

「そうか? 割と気に入らない所とかあるぞ」

 

 友人であるのに、気に入らないところがあることを堂々と言い切る禅十郎にほのかはびっくりした。

 

「え? 例えば何があるんですか?」

 

「あぁ、そうだな……」

 

「禅、私語は慎め」

 

 ほのかの質問に答えようとしたが、摩利に注意されて口をつぐんだ。

 どうやら完全に準備が出来たらしい。

 今回、達也に出された課題は競技用CADに桐原先輩のCADの設定をコピーして、即時使用可能な状態に調整する。ただし起動式に一切手を加えないということだ。

 課題を確認した達也はすぐさま作業に取り掛かった。

 

「ねぇ、達也さんの言ったことの意味ってどういうこと?」

 

 話を聞いていた雫が禅十郎に問いかける。

 

「ん? ああ、スペックの違うCADの設定をコピーするのが良くないってことか。俺もその話は姉ちゃんから口酸っぱく言われてるんだが、俺も詳しくは知らね」

 

「千景さんは魔工師希望だからね」

 

「まぁな。姉ちゃんがいてくれればあいつが言ったことの意味が分かると思うんだが……。にしてもスゲェな、アレって完全マニュアル調整ってやつじゃねぇか?」

 

 達也のやり方を見た禅十郎は興味深そうな顔を浮かべていた。

 

「それって何?」

 

 完全マニュアル調整というワードを聞いた雫達は揃って首を傾げた。

 

「へぇ、篝君はそれを知ってるんだ」

 

 関心したように禅十郎に声を掛けたのは近くにいた中性的な顔立ちの美少年だった。

 

「五十里先輩はご存知なんですか?」

 

 名前は何だったかなと少し考え込もうとしたが、禅十郎の代わりに雫が反応した。

 

(ああ、五十里って、あの……)

 

 そのおかげで、彼が百家の一角である五十里家の御子息の五十里啓だということを思い出した。

 とすれば、隣にいる美少女が噂の許嫁である千代田花音なのだろう。以前、沢木と辰巳に聞いてはいたが、摩利が花音を次期風紀委員長に任命しようとしているらしい。見た目で内気な性格ではないのは間違いなく、風紀委員になっても問題はないだろう。

 

(うーん、なんだろう。姐さんに近い何かを感じる。いや、下手をしたらもっとヤバいような……)

 

 一抹の不安を覚えるが、そんなことをわざわざ口にするわけもなく先程の話題に焦点を戻した。

 

「あれは自動調整に一切頼らない調整法のことだよ」

 

「啓、それって凄いことなの?」

 

 花音が啓に尋ねると彼は頷いた。

 

「かなり高い技術なんだけど、彼のやっていることが分からない人の方が多いようだ。と言っても完全に分かるとすれば中条さんくらいだと思うけどね」

 

「達也さんってそんなにすごいんだ」

 

 雫達は啓の話を聞いてその技量に驚いた。やっていることは地味だが、その内容はかなり行動な物であることを知り、彼なら技術スタッフを任せてもいいと感じた。

 

「俺の姉ちゃんも高校三年の後期辺りから、アレに手を出し始めたんだけど、如何せん難しくてな。俺も成功したのをあまり見てないし、失敗した時は誤爆して吹っ飛ばされたんだよなぁ。さーて、あいつはどうなるかな?」

 

 口ではそう言っているが、禅十郎は達也は見事成功するだろうと確信していた。彼の一度も止まることのない指の動きまで見れば一目瞭然だ。

 そんな達也の技量を見て、今度、千景に会わせてみるかとふと考えた。千景にとっていい刺激になるだろうし、魔工師希望の者同士で気が合うかもしれない。

 そうこうしていると、いつの間にか達也の調整は終わり、直ぐに桐原は調整したCADで魔法を発動させた。選択した魔法は高周波ブレードである。

 

「桐原、感触はどうだ」

 

「問題ありませんね。自分の物と比べても、全く違和感がありません」 

 

 克人の問いかけに桐原は迷いなく即答した。

 達也を推薦した真由美達は安堵の笑みを浮かべていた。

 

「一応、技術だけはあるようですが、当校を代表するほどのレベルには見えません」

 

「あまりいい手際とは思えないな」

 

「やり方が変則的過ぎる」

 

 しかし、一部の二年生の選手の評価はあまりいいものではなかった。

 それでも啓の言う通り、達也の技量の凄さを理解していた中条は猛反発して、達也のチーム入りを強く支持した。しかし、中条が達也の技術がとても高度なものだと主張しても、『ちゃんと魔法を発動できた』という表面上の事しか見えてない彼らにはあまり効果がなかった。

 そんな光景を見ていた雫はちらりと禅十郎の様子を見た。

 

(あ、これはマズい……)

 

 長い付き合いだからこそ(本人は絶対に否定することだが)、今の禅十郎がこの光景を見てどう思っているのか直ぐに理解出来た。彼等の態度が大層腹に立つようで、雫は声を掛けることすら躊躇った。

 禅十郎は雫と違って表情変化が多い方だが、以前の暴漢事件のようなことがない限り、怒りを顔で露わにすることはまず無い。その為、ほかの人から見れば特に変化があるとは見えず、ただ様子を見ているようにしか見えないだろう。

 だが雫は知っている。顔には出さないが、腕を組んで、人差し指で二の腕を何度も叩いているのが禅十郎の怒りのサインであることを。しかも感情的な怒りではないなら猶更である。

 どうしようかと雫は悩んだ。これは爆発させたら間違いなく面倒になるのは明白だった。

 

「出来上がりが平凡だったらあまり意味はないよ」

 

 しかしその解決案も浮かばずに、二年生の一人が地雷の言葉を口にする。それを耳にした瞬間、誰かの歯ぎしりをする音が鳴った。

 

「禅、まっ……」

 

「桐原個人が所有しているCADは、競技用の物よりハイスペックな機種です。スペックの違いにも拘らず、使用者に違いを感じさせなかった技術は高く評価されるべきだと思いますが」

 

 だが、突然の服部の発言によって雫の言葉はさえぎられた。ここにいる誰もが服部が達也に助け舟を出したことに驚いていた。彼を知っている多くは服部が二科生に対してあまりいい顔をしないことを知っていたからだ。

 

「会長、私は司波のエンジニアチーム入りを支持します」

 

 真由美の顔には隠し切れない意外感を浮かべていた。

 そんな反応をする真由美に対し、服部は内心ショックではあるものの、怯むことなく話を続けた。

 

「九校戦は、当校の威信を掛けた大会です。一年生とか前例がないとかそんなことに拘っている場合ではありません」

 

 達也に対して、あまり良い印象を持っていないと思われていた服部が彼を支持したことはこの場の雰囲気を変えるのに十分なインパクトを出していた。

 服部の意見に克人も賛同し、達也の技術スタッフ入りが決定した。

 この時、禅十郎を見るといつの間にか組んでいた腕が解かれており、雫は内心ホッとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、禅十郎の家は少しばかり賑やかになっていた。誰もが多忙でありながら、今日は何故かこの家にいるほとんどがそろって食卓を囲んでいる。

 ここに暮らしているのは禅十郎の父と母、長女と次女に長女の旦那と甥、姪の八人だ。残りの兄弟はそれぞれ離れて暮らしている。長男と三女は母方の実家、次男は仕事の都合上東北で暮らしている。

 

「禅ちゃん、九校戦出場おめでとう!」

 

 今日の食卓はいつもより数割豪華な料理が並んでおり、それを作った本人が禅十郎の九校戦出場を喜んでいた。

 

「喜ぶなよ、千鶴姉。これのおかげで九州修行が無くなっちまったんだからさ」

 

 やや面倒くさそうな顔をしつつ、禅十郎は目の前の料理をほおばる。

 

「いいじゃないか。別に兄さんは来たければ勝手に来いって言ってるんだ。夏に行けなくても冬に行けばいいじゃないか」

 

「えー、そろそろ勝ち星取りてぇんだけど。これ以上負けっぱなしは嫌だ」

 

 面倒くさがっている禅十郎を千鶴が宥めるが、あまり意味はなかった。禅十郎にとって彼の兄との試合で勝ち星を取ることの方が優先度が高いのだ。

 

「禅十郎、選ばれたからにはその務めを果たせ」

 

「うへぇ」

 

 しかし、父である隆禅は宥めるどころか厳しく言い聞かせ、禅十郎はがっくりと頭を下げた。

 

「そう言えば宗士郎(そうしろう)から、千香(ちか)を連れて九校戦を見に来ると聞いてたが」

 

 荻原の情報に禅十郎は意外な顔をした。

 

「なんだ千香の奴、来るのか?」

 

「らしいな。お前の惨敗する姿を見たいらしい」

 

「ふーん、相変わらず捻くれてんなぁ」

 

 そんなことを口にする禅十郎に千景は呆れていた。

 

「捻くれてるって誰の所為だよ」

 

「ん、なんか言った?」

 

「別に何も。ま、第一高校の初の三連覇が掛かってるんだ。真由美達の足を引っ張るなよ」

 

「へーい」

 

「でも、今年は難しいわね。三高には一条家と一色家のお子さんが入学してるんでしょう?」

 

 千鶴の懸念に対し、禅十郎は頷いた。

 彼女の言う通り、今年の第三高校はかなり優秀な新入生が多数入っているのである。

 

「『クリムゾン・プリンス』と『エクレール・アイリ』に加えて『カーディナル・ジョージ』ときたもんだ。今年の三高の一年はチートにもほどがあるっつうの」

 

 食事をしながら禅十郎はぼやいた。

 知名度で言うならば、この三人の内一人も知らない者はいないだろう。特に『クリムゾン・プリンス』はここ数年でその名を轟かしている。

 

「禅十郎、やるからには誰であれ全力で戦えと言った筈だが、忘れたとは言わせんぞ」

 

 隆禅の言葉に禅十郎はやれやれと言いたげに肩をすくませる。

 

「分かってるって。大方、一条もモノリス・コードに出るだろうし、対戦することになれば全力で迎え撃ってやるよ」

 

「理解してるならそれで構わん。だが、あまり馬鹿なことはするなよ。九島殿もいらっしゃるのだからな」

 

「何したら馬鹿なことになるんだよ」

 

 じっとこちらに目を向ける隆禅に対してそう言うが、彼はこれ以上何も言う事はないとお茶を飲んでいた。これ以上訊いても無駄と判断した禅十郎はがつがつと目の前に並ぶ料理を夢中になって食べ始めた。

 なお、今回の料理は軽く十人前以上はあったが、余った料理は一つ残さず禅十郎が食べ切ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 食事が終わってしばらくして、禅十郎は隆禅の書斎に呼ばれた。

 

「無頭竜(No Head Dragon)?」

 

 隆禅が口にした組織の名前を禅十郎は復唱した。

 

「そうだ、香港系の犯罪シンジケートであるその組織が九校戦会場付近で不穏な動きをしているという情報が出た」

 

「まさか、またテロじゃねぇよな?」

 

「犯罪シンジケートがそんなことを進んでするはずがない」

 

 隆禅の言う通りだと禅十郎は苦笑を浮かべた。

 彼等はどちらかと言えば、裏取引の方が性に合っている組織である為、ブランシュのような行動をすることはまずないのだ。

 

「だよな。だとしたら目的は何だ?」

 

 犯罪シンジゲートが九校戦で何を狙っているのか情報量が少ない現状では禅十郎は曖昧な予想しか立てられなかった。

 

「ここ最近、主催者不明の裏カジノが行われているとの情報が入った。対象は九校戦だ」

 

「ああ、そう言うことかよ。理解した」

 

 溜息交じりに言う禅十郎に、隆禅は黙ったままだった。それを見て、禅十郎は自分の予想を口にすることにした。

 

「今年の第一高校には三年生最強の七草先輩達がいるから、ほとんどのカジノの参加者は第一高校が優勝することに賭けている。そんで、そのカジノを開いたどっかの誰かさんはぼろ儲けする為に他の高校が優勝できるよう何かしらの裏工作をしかねないってところだろ?」

 

「その通りだ」

 

「あー、面倒くせぇ!」

 

 自分で予想しておいて、その内容に腹を立てた禅十郎はガシガシと頭をかいた。たかだか学生の競技でくだらない賭け事をするなと悪態をつきたくなった。だが、禅十郎は無頭竜が何をしようとしているのか当てるためにここに呼ばれたのではないことには会話の流れで気付いていた。

 

「で、そいつらはあいつと関わりがあんのか?」

 

 故に、禅十郎はそのことを訪ねた

 

「……ある」

 

 少し間をおいて肯定する隆禅に禅十郎は溜息をついた。

 

「あー、更にめんどくせぇ」

 

 こうなったのも元はと言えば禅十郎の所為なのだが、それを隆禅は指摘するつもりは無かった。過ぎた事など掘り返しても何の意味も持たないし、当時の禅十郎にとって相性最悪の手で来たため、不意を突かれてが仕方ないという分析結果も出ている。故に隆禅は言うべきことだけを口にする。

 

「このまま内情(内閣府情報管理局)に任せても構わないのだが、折角つかんだ情報を無駄にするのも勿体ない」

 

「つまり条約に反さないように動けってか。かー、悪どいねぇ。九校戦に出場する生徒に危害を加えようとした者がいることを内情にリークしたら、無頭竜の構成員だったってならいくらでも言い訳が立つってか?」

 

 即座にそんな悪知恵を働かせる禅十郎も大概ではあるが、隆禅は何も言わなかった。

 

「直接関与しなければ問題はない。餌を巻いて群がる犬がいれば、後は勝手に匂いを追ってくれるだろう」

 

「了解。まぁ、その犬はおいおい適当に探すとして、俺は普段通り学校生活をエンジョイさせてもらうよ」

 

 どの道九校戦には出なければならず、それはそれで学生らしい青春を送れると禅十郎は九州での修業が出来ないことを吹っ切っていた。それ故に学生らしく九校戦を楽しもうと前向きになっていた。

 

「禅十郎」

 

 話が終わり部屋を出る直前、隆禅が禅十郎を呼び止めた。

 

「己の役目を忘れるな」

 

「……ああ、分かった」

 

 短くとも隆禅が伝えたいことを理解した禅十郎は部屋を後にするのだった。




いかがでしたか?

まぁ、特に大きな変化がない話でしたが、ここら辺はしっかり入れておかないと、今後の話に繋がらないので……

それとUAが十万越えになったり、お気に入りが八百越えになったりと読んでくださっている皆様には本当に感謝しています。

これからも楽しんでいただけるよう頑張っていきます!

それでは、今回はこれにて

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。