魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はいどうもです

さて、今年もあと三週間と少しとなりました

年を重ねると本当に時間の間隔が短くなった気がします

やり残したことがないよう新年を迎えたいです

それではお楽しみください

2020/04/08:修正しました。


これにて一件落着

「十六年前に三鏡恭介があなたのお父様に殺された日、その四日前にあなたが生まれたのはただの偶然なのかしら?」

 

 部屋を出る前に口にした真夜の質問に対し、禅十郎は眉間に皺を寄せて真夜を見る。

 真夜はこちらに顔を向けてはいないが、目だけはこちらを見ていた。

 禅十郎と真夜の視線が交錯し、不穏な空気が二人の間を漂っていた。

 しかし、それは一瞬の事だった。

 直ぐに普段通りの表情に戻した禅十郎は真夜の質問に対してこう答えた。

 

「偶然ですよ。俺があの事件について詳しく知っていることとすれば、俺の出産に立ち会うことが出来なかったことを父が悔やんでいたぐらいです」

 

 その答えを聞いた真夜は「そう」とだけ言うと、お茶を口にする。

 

「それにしても意外ね。あの方がそんなことを……。いつも仏頂面を浮かべているから、喜怒哀楽の怒以外は無いと思っていたわ」

 

「確かに、あの強面親父には似合わないですね。今でも知り合いの子供に顔を見て大泣きされていますよ」

 

「あらあら、あの人は今も昔も変わらないのね」

 

 不穏な空気は霧散し、お互いに軽く口元を緩ませる。

 

「わざわざ時間を作ってもらって、ごめんなさいね。それとお母様によろしくとお伝えください」

 

「いえいえ、私もあなたとお話しする機会を得られましたので。それでは」

 

 そう言って禅十郎は部屋を去っていった。

 それから部屋の中は随分静かになった。

 しかし、それも束の間。誰かが笑いを嚙み殺そうと必死になっていた。だが、それも長くは持たなかった。

 部屋の中で笑い声が響き渡った。

 意外なことに、笑い声をあげていたのは真夜であり、貴婦人にはあるまじき笑い声をあげていた。

 近くにいる葉山はそんな主の振る舞いに対して非難することもなく、いつも通りのつつましい態度をとり続けた。よく見ると、少々口元が緩んでいるのは気のせいだろう。

 真夜も十分に笑ってようやく落ち着くとハンカチで僅かに滲んだ涙をぬぐった。

 

「ごめんなさい。まさか達也さんと友人でいたいから、しばらく四葉と関係は築きたくないなんて返されるとは思わなかったから、つい」

 

「彼も将来よりも友情を優先したい年頃なのでしょう。結社の一員とはいえ、まだ学生ですから」

 

 涙をぬぐうと真夜は普段通りの顔に戻ると、葉山の言葉に対して首を軽く横に振った。

 

「葉山さんの言い分にも一理あると思うけど、違うわね。彼は大方気付いているのでしょう。達也さんがいずれ四葉に反旗を翻そうとしていることも、私達もそれを承知していることも」

 

 真夜の言葉に葉山は眉をひそめた。

 

「確かに彼は驚くほど頭が切れます。僅かな情報であそこまで考えられるとは、私も少々驚かされました。あの洞察力は達也殿と同じかそれ以上でしょう」

 

「ええ、彼は想像力が豊かだわ。まさか『完璧であること』に疑問を抱かれるなんて」

 

 これには真夜ですら予想できなかった答えだった。

 確かに二人のパーソナルデータは平凡なものであるものの、その実力はそれでは到底言い表せることではない。

 

「少々やり過ぎたかしら?」

 

「いえ、公安ですら掴めていないところを見ると今後疑問は抱かれても確証を得る者はいないかと思われます。それに彼は些か例外と見てよろしいかと。彼の想像力も然ることながら結社の情報力も影響していると思われます」

 

 葉山の言葉に一理あると真夜は思った。確かに彼が所属している組織は情報収集において高い能力があり、それをもとに様々な仕事を熟してきている。だが、彼らは依頼がない限り余計な情報は集めることはしない。もちろん、情報は多いに越したことはない為、必要最低限のことは独自で調べるだろうが、こちらに干渉してくることはないだろう。

 加えて今回の件で禅十郎から結社に何かしらアプローチを掛けることになると真夜は予想した。恐らく自分の友人に関して調べる依頼は一切受け付けるな、などと言ったものだろう。

 

「それと先ほどの件ですが、流石に用心が過ぎるのではないでしょうか?」

 

 禅十郎が達也に関することにも気づいていることに対することだった。葉山の言い分はもっともだろうが、真夜はすでにあることを確信していた。

 

「ええ、葉山さんの言うことも間違ってはいないわね。でもね、私はそうだと確信しているわ。いえ、そうでなくては辻褄が合わないもの」

 

「左様でございますか」

 

 何の辻褄が合わないのかと葉山は聞こうとはしなかった。真夜の表情を見て、間違いなく何かを確信していると理解したからだ。

 

「さて、彼はどこまで気付いているのでしょうね。フフ……」

 

 彼はうっすらと笑みを浮かべて何かを楽しんでいる主を黙って見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 多くの者達の数多の思惑が交錯しても、いつも通り朝はやってくるのである。

 勿論、禅十郎の家でもいつも通りの朝がやってきていた。

 

「テメェ、本当に放置して寝やがったな!」

 

 朝食を食べつつ、禅十郎が千景に昨日の件について文句を言った。

 

「あの時、私は放置すると言っただろう。あそこで寝てるお前が悪い。それと飯を食べながら喋るな」

 

 千景は素知らぬ顔で返した。

 

「まぁまぁ、二人とも。朝食ぐらい仲良く食べましょうよ」

 

 そんな二人を笑顔で見守りながら朝食の用意をしている女性がそう言った。

 柔らかな笑顔で喧嘩している禅十郎と千景を窘めている女性は篝家の長女である篝千鶴だ。すでに結婚しており、子供も二人いるが、家を出ることはせず、禅十郎達と一緒に暮らしている。

 

「そういう千鶴姉も放置してたじゃん」

 

「禅、千鶴は優姫(ゆうひ)達を寝かしつけていたんだ。非難するのは筋違いだ。それと何か考え事をする度に屋根に上るのを止めろ。あの子に悪影響を与える気か」

 

 千鶴へ食って掛かる禅十郎に対し、千鶴の旦那である荻こと荻原仁(おぎわらじん)が注意する。三年前に千鶴と結婚してからこの家で一緒に暮らしている。

 彼は結社の社員であり、若くして隆禅の右腕とも言われている。休日は仕事の時と異なって完全に子供に甘い究極の親バカである。個人用端末には嫁と子供の写真と動画がびっしりと入っている程だ。荻原(おぎわら)は旧姓であり、今では入籍では篝の姓としたが、禅十郎など知り合いからは相変わらず荻と呼ばれ続けている。

 

「あそこだと普段より落ち着いて考えられるんだよ。それに、あそこの風はなかなか心地いいし、眠気を誘うんだよ」

 

「確かに禅ちゃんの言う通りよね。私も昔はあそこで横になって、気付いたら朝まで眠ってたわ」

 

 うんうんと頷く千鶴に荻はやれやれという顔をした。

 

「千鶴、お前はどっちの味方だ」

 

「あら、私は何時だって家族の味方よ?」

 

 悪戯っぽく笑みを浮かべる千鶴に対し、禅十郎は肩をすくめる。

 

「諦めろよ。こういう時に千鶴姉が味方に付くことなんてまずねぇから」

 

 いつだって中立の立場に立つことが多い千鶴が最初から誰かの味方になることはまずないことなのだ。

 家族内で喧嘩が起こった時は特にそれが顕著に表れ、どちらかに味方に付くことはない。

 しかし味方につくことはないというが、それは別に突き放すことではない。まずは話を聞いて、明らかに悪いことをした方を叱る。そんな事をし続けてきた彼女は、いつの間にか絶対的な存在となり、兄弟の中で誰も彼女に頭が上がらないのである。

 

「そんなこと昔から知っている」

 

「荻、そこに惚れたのか?」

 

「……否定はしない」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる禅十郎に対し、真顔で返す荻。

 

「あらあら」

 

「はいそこ、朝から惚気話をするな」

 

 千景が箸を荻に向けて注意する。

 

「事実を言ったまでだ、何が悪い」

 

 再び真顔で返す荻に千景も「もう好きにしろ」と匙を投げた。

 

「もう仁さんたら。そんなこと言うならお弁当のおかず増やすわね」

 

「待った、まさか俺の弁当のおかずから引っこ抜くんじゃねぇだろうな?」

 

 あまり口にしたくないが、千鶴はエレメンツの血統が兄弟の中で色濃く出ている。つまり誰かに依存しやすい性格なのだ。当然、千鶴は荻に相当依存しており、今の状態ならそんなことしかねないと禅十郎は弁当のおかずの減少を懸念していた。

 禅十郎にとって食事は死活問題なのだ。

 

「そんなことしないわよ。ちょうど昨日作った新作料理があるの。お弁当に入れるからお昼に食べてみて」

 

「「え゛っ……」」

 

 禅十郎と千景は揃って変な声を上げた。

 

「あら、二人ともどうかしたの?」

 

「「ううん、何でもないよ」」

 

 首を横に振る行動と言葉が完全に一致している二人に千鶴は不思議そうな顔をする。

 

「弁当にスペースがあるなら入れてくれるか」

 

「ええ、直ぐ入れるわ。ちょっと待っててね」

 

 荻がそう言うと千鶴は嬉しそうに台所に戻っていった。

 千鶴がいなくなったのを確認した禅十郎は荻に迫り小声で尋ねた。

 

「荻、マジで食う気か? 千鶴姉の創作料理もといゲテモノ料理を」

 

「いつも思うが正気の沙汰じゃない。姉さんの創作料理は母さんとの数回の改良を経てやっと食卓に並べられる味になる代物だぞ」

 

 千景も台所の方に気を付けつつ、荻に尋ねた。

 

「創作料理は基本、何でも入れちまうから途中で変な色出てる時なんてしょっちゅうやってんだぞ」

 

 何度も食材で出せる色なのかと言わんばかりの奇妙な色をした料理を出してくることがあった。最悪なのが、見た目がグロテスクな割にちゃんと食べられるのだ。しかし、それは食べられる不味さであり、見た目が悪い所為で本来の味以上に不味く感じ、無理して食べては腹痛に襲われた。

 そんな千景の創作料理の不味さを主張する二人に対し、荻は眉をひそめた。

 

「何を言ってるんだ、お前らは。千鶴の料理は何だって旨いだろう」

 

 真顔で言い切る荻に二人はげんなりした。

 

「こんな時でさえも惚気るか、この鉄人男」

 

「おめぇの胃袋、何で出来てんだよ。胃液は王水かなんかか」

 

「いいから、お前らは飯食ってさっさと学校行け。あと人の体で王水は出来ん」

 

 そんなこんなで禅十郎の朝は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ブランシュの襲撃の騒ぎも治まり五月になった。今ではどの学年も学生の本分を全うしている。当然、A組も端末学習を行っていた。

 

「雫、今日は深雪来てないの?」

 

 今朝から教室で深雪を見かけておらず、気になったほのかは雫に尋ねていた。

 

「うん。知り合いの先輩が今日退院するから、達也さんと一緒にそのお祝いに行くんだって」

 

「そうなんだ。じゃあ、篝君は?」

 

 納得しているほのかは雫の近くの席を見てそう言った。なんと禅十郎も今朝からいないのである。

 だが、もうすでに禅十郎が突然いなくなっていることに誰も気にしなくなり、深雪のブラコンと同じような扱いになっていた。

 

「ほのか、何で禅の事まで私に聞くの?」

 

 そんな質問をどうしてしてくるのだろうかと雫は疑問に感じ、首を傾げた。

 

「だって、雫なら篝君のこと何でも知ってると思ったから」

 

 ほのかの話を聞いて、雫はちょっとムッとした。いつから自分は禅十郎の保護者になったのだと言いたげな顔である。

 

「……どうしてそうなるの」

 

「だって周りの皆も言ってるよ。篝君についてなら生徒会長か風紀委員長か雫に聞いた方が早いって」

 

「会長や委員長なら分かるけど、私まで入れられるのは嫌」

 

 不満そうな顔をする雫。だが、内心ではほのかの言ってることは間違っていないとは思っている。彼とは付き合いの長さで言うなら、同学年でもぶっちぎりのトップであり、彼の行動の意図を少しだけ理解出来なくもないのだ。

 

「でも、このクラスの中だと、雫が篝君の一番の理解者だと思うけど」

 

「慣れれば誰でも分かるようになるから。達也さんも何となく理解してるみたいだし、深雪も扱いが分かってきたって言ってたから、ほのかも出来るよ」

 

「私には無理かな」

 

 入学してから一か月が経ち、禅十郎を見てきたほのかはしばらくは奇抜な発想と行動に慣れそうもないと思っていた。

 時折魔法学において相当専門的な解説に全員がドン引きしたり、学食メニューの大盛り三人前をペロッと平らげたり、体育のランニングで課題を終えても全員が走り終えるまでずっと走り、五周の所を十五周以上走ったりしている。今では風紀委員の活動中に壁や天井を走っている姿を目撃したとか屋上から魔法も無しで手もつかずに着地したとか、空を走ったとかなどの人間離れした身体能力を持っているという噂が流れている。

 一番新しいの話題だと、マーシャル・マジック・アーツの部員全員と体術だけで総当たり戦をして全員を負かしたことが挙がっている。もはや禅十郎の規格外っぷりを知らない生徒はもう学校中を探しても一人もいないのではないだろうか。

 因みに総当たり戦の結果は一部を除いて一年が開始五秒以内で瞬殺、二年も開始二十秒以内で敗北、三年が長く持っても三十秒で敗北という結果である。その中でまともな勝負になったのは一年は『レンジ・ゼロ』の二つ名で名の知れた十三束鋼のみ、上級生は沢木を含めてわずか数名だけだった。

 

「最近になって昔の雫の気持ちが分かってきた気がするよ」

 

「うん」

 

「でも、結局篝君は何処にいるんだろう?」

 

 結局、禅十郎の欠席の答えはないまま、次の授業のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何でこうなった」

 

 雫達が噂をしている同時刻、禅十郎はとある病院の入り口前にいた。その隣には達也と深雪もおり、禅十郎は達也を睨みつけていた。

 

「仕方ないだろう。あの時にお前がそんな格好でいたのが悪い」

 

「だからってな、この格好で来させるなや!」

 

「とても似合ってますよ、ライダースーツの紳士さん」

 

 そう、禅十郎は制服を着ていない。今着ているのは先日の事件で着ていたライダースーツなのである。

 

「なぁ、深雪ちゃんも段々俺の扱い酷くなってない? 気のせい?」

 

「勿論、禅君の気のせいですよ」

 

 深雪は誰もが見惚れるような笑顔でそう言った。

 あの事件の後から、お互いに名前で呼び合うようになっていた。達也は名前で呼んでいるのに対して、いつまでも深雪は苗字で呼ぶのもいい加減面倒になってきたからだ。深雪も達也のことをかなり評価し、対等の友として接してくれる禅十郎に心を許しており、愛称で呼ぶようになっていた。

さて、ではどうして禅十郎がライダースーツの格好でいるかというと、数日前に遡る。その日、達也から壬生が今日退院することを聞かされた。

 事件の後、壬生が入院しているのは知っていたが退院する日までは知らなかった。

 何故そんな話をするのかと思ったのだが、どうも壬生のお見舞いに頻繁に足を運んでいるエリカから聞いていた話が切欠だった。壬生が保健室にいた真由美のボディーガードに会ってお礼を言いたいと達也と深雪に話したのである。

 エリカは仲良くなった壬生の願いを叶えてあげたいと思ってはいるものの、真由美と直接的な接点がない所為で話しかけずらかった。そこで生徒会に所属している深雪に会えないかどうか聞いてほしいと頼んだのである。

 達也と深雪は禅十郎があの時のライダースーツの男であることを知っている。禅十郎の正体を知られないようにエリカの代わりに聞くことを引き受けたのだ。

 そして真由美に相談し、真由美から禅十郎に頼まれ、今に至る。

 

「まぁ、この件に先輩を巻き込んだのは正解だったな。これなら余計な混乱は起きねぇし。そこは礼を言っておく」

 

「ああ、流石に俺もお前も色々とバレたら不味い立場だからな」

 

「お前が友達思いで助かったぜ」

 

 本人に直接言わずに真由美にも一枚噛ませていたことは、禅十郎にとって僥倖であった。嘘とは言え真由美のボディーガードであると言ってしまった以上、その体裁を保つ必要がある。それ故に真由美を巻き込んだことで壬生からその話をされても齟齬は生じないようになる。

 だが、問題があるとすれば素顔を晒せないということだ。それ故にライダースーツの格好でお見舞いに行くというなんとも奇妙な形になってしまった。

 

「流石にその格好で中に入るわけにはいかないだろうから、禅は外で待っていればいい。壬生先輩には俺からお前が来ていると言っておこう」

 

「そうしてくれや」

 

 それから達也達は病院の中に入っていき、禅十郎は入り口の前で待機していた。

 後からやって来たエリカに一瞬だけ不審な目を向けられたが、何事も無かったかのように病院へと入っていく。

 それから少しして外に出てきた壬生にあの時のことについてお礼を言われた。

 禅十郎の見た印象では、あれから随分と立ち直っているように見えた。一緒に桐原が出てきたのは意外だったが、その理由は後で達也の口から聞かされ納得することになる。

 壬生の両親には達也が上手く言っておいたのか、この格好のままでいても特に気にすることなく感謝の言葉を言ってくれた。

 それから、エリカと桐原はしばらく壬生と話をしそうであるため、達也と深雪、禅十郎は病院を後にすることにした。

 病院の敷地から出た後、禅十郎は近くで待たせていた車で着替え、達也達と共に学校へ戻っていた。

 

「ああ、これでようやく日常に戻れる」

 

「お前がいるだけで日常が送れるとは思えないんだが……」

 

「何でだよ」

 

 自分がいるだけで日常崩壊が起こるとでも思っているのかと禅十郎は達也を睨み付ける。

 

「お前は事件に愛されてるからな」

 

 達也は不敵に笑みを浮かべた。

 それには異議申し立てをしたいと禅十郎の顔に書いていた。

 

「達也、お前にだけは絶対言われたくねぇわ。このトラブル発生装置」

 

「それを言うなら、お前は日常破壊装置だ」

 

 それを聞いた深雪があまりにも的を射ている表現であったため、笑みを浮かべていた。

 

「ふざけんなよ、お前より質が悪いじゃねぇか」

 

「だからそう言ったんだ。それにお前の噂が日に日に増えてるんだ。少しは自覚しろ」

 

「何もしてねぇよ。大盛り三人前はその日に道場で一対多の乱取りの予定があるからスタミナつけるつもりで食っただけだ。あと沢木先輩達との試合は瞬殺される奴らが悪いし、俺は学校では壁も天井も走ったことねぇよ!」

 

 学校以外だったら走ったことがあるのか、と達也と深雪は思ったが、あえて口にすることはしなかった。

 

「たく、みんな揃って異常だって言ってるけどよ、俺の兄貴と母ちゃんと爺ちゃんだって同じこと出来るぞ」

 

「待て、お前の家族はどうなってるんだ」

 

 達也も禅十郎の家族と直接会ったことはほとんどないが、もし本当なら篝家は非常識な問題児一家と言わざるを得ない。

 

「禅君のご家族がどのような方々なのか、少し気になりますね」

 

「いやぁ、普通だと思うよ」

 

「お前の話からまともな気配が全くしてこないんだが」

 

「気のせいだって」

 

 そんな他愛のない会話をしつつ、三人は学校へ、自分たちが望む『日常』へと戻っていった。




はい、これにて入学編は終了です

長々と書きましたが、次の章はもう少しシンプルに書けたらいいなぁ(願望、できるとは言ってない)

さて、次回からは九校戦編です

劣等生、優等生に出てきたキャラは可能な限りバンバン使っていきます

さて、禅十郎はどう関わっていくのやら

それでは、今回はこれにて

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