魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はいどうもです

最近、忙しくて全然投稿できませんでした

しばらく投稿に時間が掛かると思いますが、これからも楽しんでいただけたら嬉しいです

では、お楽しみください

2020/04/08:修正しました。


事件解決

 空が茜色に染まり始めた頃、一台の大型オフローダーと黒いバイクが疾走していた。

 オフローダーには保健室のメンバーに加えて桐原が同乗している。

 戦力は多くに越したことは無い為、桐原が参加することに誰も異を唱えず、その理由も聞こうとはしなかった。

 

「司波、お前が立てた作戦だ。お前が指示を出せ」

 

 運転している克人が達也に指示を仰いだ。

 

「レオは退路の確保。エリカはレオのアシストと逃げだそうとする奴の始末」

 

「捕まえなくていいの?」

 

 始末しろと言われてエリカは意味ありげに笑みを浮かべる。

 

「余計なリスクを負う必要は無い。安全確実に始末しろ。会頭と桐原先輩は裏口に回ってください。俺と深雪はこのまま踏み込みます」

 

「分かった」

 

 今ここにいるメンバーの方針を決めるとエリカはちらっと後ろを振り向いて、バイクで追いかけてきている真由美の護衛を指さした。

 

「ねぇ、あっちの人はどうするの?」

 

「彼には会頭達と別の裏口から侵入してもらう。七草家のお抱えのボディーガードだ。一人の方が上手くいくだろう。それに、知らない人と一緒に行動するのには抵抗があるだろうしな」

 

 それにエリカは納得して頷く。

 

「まぁね。でもどうも胡散臭いのよね、あいつ。それにあの動きどこかで見た気がするんだけど……」

 

 それが何処だったか思い出せずエリカはもどかしかった。戦い方としてみれば、誰かに似ていると思ったのだが、大した記憶ではないのか、はたまた意図的に忘れているのかは分からないが、彼の戦い方を確実に見たことがあるという確信だけはあった。

 だが、エリカが思い出す前に克人が目的地である工場を捉えたため、話は打ち切りとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 工場に到着した後、禅十郎は達也の指示通り別の入り口から建物の中に侵入した。しかし開けた裏口のドア付近には誰もおらず、ガランとしていた。

 

「うわ、ホントに誰もいねぇ」

 

 残念な事に独り言に反応してくれる人は誰もいない。

 

「ここまであいつの言う通りだとすると、多分あの野郎は達也の方だな。……腹立つなぁ」

 

 ここまであの男の情報通りであり、彼の掌の上で踊っている気がして禅十郎は徐々に苛立ちが募っていく。

 

「まぁ、いいか。どうせ、あの野郎は確実にぶっ潰す。司一は……まぁ、大丈夫だろ。遊び程度のトリックで達也をどうこうできるはずもねぇしな」

 

 グダグダ言っても仕方がないので禅十郎は適当に工場内を徘徊し始めた。

 しばらく歩いていると、何処からか銃の発砲音が聞こえてきた。建物の構造を思い出し、誰が戦闘を行っているか大体予想がつく。

 

「あー、やっぱり十文字先輩のとこは外れだったか。ま、あの壁を攻略できる奴なんざいるはずもねぇし、問題ねぇか」

 

 『鉄壁』の異名を持つ十文字家の次期当主を相手に素人に毛が生えた程度のテロリストでは歯が立つはずがない。

 加えて一緒に剣術で名の知れた桐原もいる。

 二人の心配する必要は無いと再び、徘徊を始めると発砲音とは別の音が聞こえてきた。良く耳をすませば、人の声だ。

 

「では手始めに……共に歩んで……の妹を……始末してもらおう!」

 

 途切れ途切れだが、男の声が聞こえてくる。どうやら、今歩いている廊下のすぐ隣の部屋からだった。

 その後もやや芝居がかった言動が聞こえてきて、禅十郎はやや呆れた顔をする。

 

「そう言えば、日本支部のリーダーってハリボテの器だっけか」

 

 間違いなく司一がいることを確信すると、今度は達也の声が聞こえてきた。内容は司一が使用する手品のような魔法についてだった。

 禅十郎は魔法を使用して、壁を振動しやすくし、向こうの声をよりはっきり聞こえるようにした。はっきりと聞こえてくるその内容はなかなか興味深いものであった。

 魔法によって壬生の記憶をすり替え、自分達の仲間に仕立て上げたという達也の仮説に司一は呻く声を聞いた。

 会話を聞いていると、司一は達也に対して力の差を理解させられたらしい。

 

「そろそろいいかなぁ。どうせ廃工場だし……」

 

 自分ではもう打つ手がないと認識すると、司一は達也に向かって銃を撃つよう叫ぶ。その直後、大量の金属が地面に落ちる音が響き渡る。

 禅十郎はこの壁の向こうで何が起こっているのか物凄く気になり、好奇心を抑えられなかった。

 

「よし、行こう!」

 

 そう言いながら禅十郎は左足を引いて構えつつ、CADを操作する。

 

「つーかさくーん、あーそびーましょーっ!!」

 

 一昔前の子供が言いそうな間の抜けた声を上げる。それと同時に魔法によって威力を上げた禅十郎の蹴りが達也達がいる部屋の壁に炸裂した。

 その蹴りは大きな音を立てて壁を崩壊させ、大穴を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「つーかさくーん、あーそびーましょーっ!!」

 

 その声は明らかにこの場にふさわしくないものであった。

 

(何をやっているんだ、あいつは……)

 

 壁が崩壊する光景を目にしながら、達也は内心呆れていた。

 達也は図書館の前での戦闘時からヘルメットの男が禅十郎であると気付いていた。

 彼がどのような組織に所属していたのかもおおまかにつかんでおり、今日まで姿を暗ましていたのは恐らくブランシュに関係していたからと勘づいていた。

 

「よー、お取込み中のところ失礼するぜ、司一さんよぉ」

 

 壁の穴からやってきた禅十郎は達也達がいるにも拘らず、ヘルメットを脱いで投げ捨てた。

 

「き、貴様はっ!? 馬鹿なっ! 何故生きているっ!! 既に死んだはずだ!!!」

 

 禅十郎の顔を見た瞬間、司一の態度は驚きのあまりしりもちをつくという無様な姿をさらした。先程まで達也に対して恐れを抱いていたにもかかわらず、それ以上に禅十郎に恐怖を抱いている様子だった。

 それを見た彼の部下は、嘗てないほどのリーダーの情けない姿に困惑する。

 

「うわぁ、相変らず三下の悪の組織の親玉みたいなこと言ってんのな。やっぱりお前、リーダーに向いてねぇわ。世渡りはそこそこ上手いだろうけどな」

 

「ひっ、ひぃぃぃ!!」

 

 一歩一歩禅十郎が進むにつれて、司一は手足をばたつかせて後ろへと下がる。

 今の彼からしてみれば、死んだ人間が蘇り、自分の前に現れて復讐をしに来たようにしか見えなかった。

 

「おいおい、そこまで怖がることはねぇだろ。たかだか、小学生にボコボコにされて、睾丸潰されかけた程度でそこまでトラウマになるなよ」

 

「う、うるさいっ!! この外道めっ!! 貴様の所為で、私がどれほど惨めな思いを……」

 

「知らねぇよ。テロリスト風情が今更善人ぶってんじゃねぇよ。それに、そいつはこっちのセリフだ。テメェの所為で俺の友人が怖い目に遭ったこと忘れたとは言わせねぇぞ。俺の身内に手を出して、お前等覚悟は出来てるんだろうな?」

 

 指をポキポキと鳴らして、狂気を孕んだ目で禅十郎は司一だけでなくその周りの配下も睨み付ける。

 その怒気に当てられた彼らは揃って戦慄する。明らかに狙いが彼一人ではなく、ここにいる全員だと理解させられた。

 何人かがナイフを禅十郎に向けるが、壁をあっさりと破壊した禅十郎に勝てるとは思えなかった。

 その直後、司一が恐怖のあまりか発狂した声を上げて奥の扉へと走って逃げていった。

 それを見た禅十郎は達也を見て、左手の親指で司一が逃げた方向を指した。

 

「行って良いぜ。どうせ向こうには会頭と桐原先輩がいるからあいつも逃げきれねぇだろ」

 

 その言葉を聞いた達也は怪訝な顔をする。

 

「良いのか? 色々と恨みがあったようだが」

 

「今回はブランシュを一網打尽にすることが第一なんでな。捕まることが確定している奴を追いかけるより、ここにいる奴らを一人残らず捕まえる方が良い。逃がしてまたテロ活動をされたらたまったもんじゃねぇしな。ま、捕まっても二度とテロなんざ起こせないようトラウマは植え付けるけどな」

 

 禅十郎がニヤリと笑みを浮かべて、ブランシュの構成員に目を向けると彼等は揃って悲鳴を上げる。

 

「ならそうさせてもらうが、後で話しがある」

 

「ああ、文句でも何でもこれが終わればいくらでも聞いてやるさ」

 

 それを聞いた達也は司一の後を追った。

 先程まで司一の後ろにいた配下の者達はどうしていいか分からず、達也の通る道を開けるしかなかった。

 達也が彼等を通り過ぎると、配下の一人がナイフで恐怖による錯乱か、達也に襲い掛かった。

 だが、襲い掛かった男は達也に辿り着く前に、一瞬にして霜が覆われ、その場に倒れ込んだ。

 

「へぇ、すげぇな」

 

 その光景を見て配下の者達は恐怖する一方、禅十郎は感嘆の声を上げる。

 

「程々にな。この連中にお前の手を汚す価値はない」

 

「はい、お兄様」

 

 こんな時までイチャイチャするなと思いつつ、禅十郎は達也を見送った。

 残った男達を無視して、禅十郎は深雪に目を向ける。

 

「どうする司波さん、俺がやろうか?」

 

「いえ、必要ありません」

 

 きっぱりと深雪はそう言うと二桁もいる男達に向けて蔑んだ眼を向ける。

 すると、部屋の床一面が霜で覆われ始めた。

 男達はその変化に気づくが、足が既に凍り始めて動くことが出来ない。

 絶望に染まった悲鳴が部屋にこだまする。

 

「お前達は運が悪い。お兄様に手出しをしようとさえしなければ、少し痛い目を見るだけで済んだものを」

 

 冷気が徐々に這い上がり、男達の体の芯まで襲い掛かる。

 その光景を禅十郎は黙って眺める。

 

「こいつは……『ニブルヘイム』か。初めて見たぜ」

 

 男達の断末魔を聞きながら、自分が知る中でも最高位の魔法を見てそんな感想を抱いた。

 自分の目の前に恐怖に染まった顔を浮かべる男達の生きた氷像を見せつけられて、禅十郎は深雪の実力を改めて実感した。そして、このことで禅十郎のこれまでの予測が確信へと変わった。

 

「なぁ、深雪ちゃん、一つ聞いて良いか?」

 

 禅十郎は周囲に誰もいないことを確信しつつ、念のために遮音障壁を展開して二人だけで会話を出来るようにした。

 隙の無い手際を見せた禅十郎に深雪はこれまでにないほどの警戒心を向ける。

 それを見た禅十郎は大慌てで両手を上げる。

 

「待て待て、別に取って食いやしねぇよ。達也に殺されるし、どの道、俺じゃ司波さんに勝てねぇから」

 

「では、私からもいくつか質問してもよろしいですか?」

 

「可能な限りならな」

 

 禅十郎の態度から恐らく碌な答えは得られないと深雪は確信するが、それでも必ず聞かなければならないことが彼女にはあった。

 

「あなたはブランシュのことを知っていたのに、どうして今まで動かなかったのですか?」

 

「それは答えられないな」

 

 篝家について達也から聞いていた深雪は、禅十郎ならば襲撃が起こる前に動くことが出来たのではないかと考えていた。そうなれば怪我をする学生も少なかったはずだ。今の今まで動かなった理由を問いただしたかったが回答を拒まれてしまった。

 

「本当は家の都合で休学していたのではなく、何か事件に巻き込まれたのではないですか?」

 

「それも答えられない」

 

 突如学校を休んだ理由から攻めてみたが、これもあっさり回答を拒否された。

 ならばと深雪は最後の質問を口にした。

 

「では、北山さんがあなたの身に何かあったのではと心配し、ずっと思い詰めていたことをどう思っていますか?」

 

「それは……悪かったと思ってる」

 

 初めて禅十郎が歯切れの悪い答え方をした。彼個人としての話ならば聞き出せるのではないかと深雪は考えた。

 

「生徒会の仕事に支障はありませんでしたが、篝君の話題を出した時、会長もあなたを気に掛けていましたよ」

 

「まぁな。共同戦線とはいかねぇが、先輩に少しだけ情報流したのは俺だし。俺と付き合いの長い人の中で一番に異変に気付くだろうな」

 

「だったらどうして無事であることを伝えなかったのですか」

 

「それは……そっちの方が都合が良かったとしか言えないな」

 

 少しだけ間を開けて言葉を濁す禅十郎に深雪はこれ以上は聞き出せないと確信した。

 学生の身でありながらも、余計な事は口にしないことを徹底しているようで、これ以上の情報は引き出せないと深雪は諦めた。

 

「質問は終わりかな? じゃあ、俺からの質問だ」

 

 深雪は彼が何を聞こうとしているのか、すでに予測できていた。達也から聞いた情報でその可能性があると注意されていた。

 

「司波さん、あなたは四葉の人間だね?」

 

 

 

 

 

 

 

 それから司一の身柄は禅十郎が辿り着く前に達也達によって確保された。

 現場に辿り着いた時には、司一は右腕を失って状態で失神していた。見た所、司一の腕は桐原が斬り落としたようで、何があったのか興味があったが、直ぐに他のことをしなければならず、この件はうやむやにされた。

 現在、禅十郎は達也を待っている深雪達と離れ、ことが終わるのを待っていた。

 事件の後始末は克人が引き受けてくれることになり、禅十郎の役目はこれで完全に終わるはずだった。

 

「あ、そう言えば、抜け出した魔法師のこと忘れてた」

 

 だが、学校を襲撃した脱走した魔法師の数が合わないことを思い出す。

 

「バカモンっ! 貴様、連絡を怠るなとあれほど言っただろうが!」

 

 慌てて連絡を入れると最初に聞こえたのは少し前に連絡を取っていた男の怒号だった。音漏れの心配はないが、その所為で余計耳に声が響き渡る。

 

「うるせぇ、音が洩れるわ。もっとボリューム下げてくれ」

 

「喧しい! それでも貴様、結社の人間か。規律を乱すようならクビにするぞ!」

 

「アンタにその権限ないだろ。てか、そんなことどうでもいいから、本題に入るぞ。工場に三人目の脱走兵が見当たらなかったんだが、そっちはどうなってる?」

 

「貴様、どうでもいいって……」

 

「あー、はいはい、アンタは少し頭冷やしてきなさい。その話は私がしてあげるから」

 

 突然、話し相手が女性に変わった

 

「あれ、猪瀬さん。今日から四国に行くんじゃなかったの?」

 

「それなら他の奴に押し付けといた」

 

「うわぁ……」

 

 何してんだよと言いかけるが、流石に脱線するわけにはいかないため、ぐっと堪えた。

 

「それよりもさっきの話だけど、その件は問題ないわ。別口で捕らえたって報告が来てたのよ」

 

「了解。で、その別口って?」

 

「周公瑾。例の契約を受諾してくれたサービスだってさ」

 

「あ?」

 

 かなりドスの効いた声を出し、禅十郎の機嫌が一気に悪くなったことを猪瀬は理解した。

 

「文句があるなら、背中からブッ刺されて毒盛られて拉致されて交渉の材料にされた挙句、うち等にタダ働きさせた非力なアンタを恨みなさい」

 

「……へいへい」

 

(ま、アレは交渉になってないんだが……)

 

「兎に角、アンタはさっさとこっちに戻ってきな。来週からまた学校に行くんだから、さっさと残りの仕事を終わらせること」

 

「ちょっと待て、そしたら今日俺帰れねぇよな? 晩飯の焼肉は?」

 

 今から戻ってしまえば、夕飯に間に合わなくなってしまう。夕食のご馳走にありつけないと、禅十郎はめんどくさがった。

 

「先に頂いてるわね」

 

「おいまさか、焼肉食いたいから部下に押し付けたんじゃ……」

 

「じゃあねぇ」

 

 一方的に電話を切られ、禅十郎は大きく溜息をついた。

 

「千鶴姉、ちゃんと俺の分残してくれるよな」

 

 これほどの事件があったにも拘らず、今日の夕食を心配していると知れば、ここにいる人は誰でも呆れただろう。

 そんなことを考えていると禅十郎のもとに克人がやってきた。

 

「少しいいか?」

 

「……ええ、構いませんよ」

 

 禅十郎は克人に連れられて、オフローダーに乗った。

 扉を閉めると、禅十郎はすかさず遮音障壁を車内に展開する。

 

「助かる」

 

「いえいえ」

 

 これで盗聴を心配をせずに会話ができる為、禅十郎にとって礼を言われるようなことではなかった。

 

「篝、先程師族会議で結社に今回の件について説明を求めることが決定した。日付が決まり次第、後日、その旨を書面で伝える」

 

「当然のことですね。でも、何故俺にそのことを? 伝言で伝えるのであるならわかりますが、予め書面で伝えるのでしたら、いちいち俺に言う必要は無いはずですが?」

 

 禅十郎の言う通りだ。そんな自分に何故そのようなことを伝えるのか、克人の意図が読めなかった。

 

「今回は事情があってな。この件について結社の社長だけでなく、お前にも来てもらうことになった」

 

 そのことに禅十郎は眉をひそめた。

 

「理由をお聞きしても?」

 

「分からん。が、今回の件について最も現場に近かった者の話を聞きたいから、というのが理由だろう」

 

「……表向きは、でしょうね」

 

 克人は黙って頷いた。

 それを見た禅十郎は面倒だと言いたげに溜息をついた。

 

「やっぱり、何か裏があるかもしれないって訳ですか」

 

「否定は出来ん」

 

 禅十郎は自分が呼ばれている理由にいくつか心当たりがあった。

 

「まぁ、無くても現十師族の当主達と顔を会わせるんですよね。……嫌だなぁ、七草のおっさんはともかく、他の家はほとんど知らないんですよねぇ」

 

 十師族の当主といえば、魔法師社会における頂点にいる者達だ。そんな人達の前に立つことを考えると、正直そんなところに行きたくない。絶対に面倒なことになるのは目に見えていた。

 

「組織に所属している以上、そのような場面に何度も立ち合わねばならん。今の内に慣れておくべきだろう」

 

 克人の言い分に納得せざるを得なかった禅十郎は諦めと共に再び溜息をつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ブランシュ襲撃から次の週には禅十郎は予定通り第一高校の生徒として久しぶりに登校していた。突然の休学に周りから質問攻めにあったが、それは用意しておいた嘘で誤魔化した。

 そして放課後、風紀委員の業務を終えた禅十郎は生徒会室に来ていた。

 なお風紀委員の仕事は事情があったとはいえ長期間休んでいたことに変わりは無い為、しばらく連続で行うことが決まっている。その所為で、しばらくずっと忙しい日々を送っていた。

 

「あー疲れたぁ。この制服着て学校来ると日常が戻ってきたー、って気がする」

 

 生徒会室の机に突っ伏して、そんなことを口遊む禅十郎。

 

「禅君、こんなところでそんなこと言わないの」

 

 一緒にいた真由美はそんな禅十郎をたしなめた。

 部屋にいるのは二人だけであり、他の生徒会メンバーは既に帰っていた。

 

「どうせ、聞いてたとしても誰も本当の意味なんか分かりませんよ。精々、今回の件に深く関わっていた奴だけでしょうし」

 

 そんなこと知ったことかと禅十郎はそう言うと真由美はやれやれと溜息をつく。

 実際、禅十郎の言う通り、第一高校の殆どの生徒が禅十郎が所属している組織と接することはないだろう。今のところ、真由美達を除いて約数名程度であり、確かに問題はないのだ。

 

「ま、とにかく禅君はもう少し自重して行動しなさい。後片付けをするのは大変なんだから」

 

「はいはい、すみませんでしたー」

 

 心のこもっていない謝罪に真由美はむっとするが、これまでの事を鑑みて仕方ないと諦めることにした。

 

「ま、今回の件で事実上ブランシュ日本支部は壊滅。下部組織もどうにかなりましたから、日本での活動は実質不可能ですね。しかも、今回の騒動で反魔法主義組織への風当たりが一気に悪くなったのは僥倖ですね。しばらくは他の所も動けない状態になるでしょうね」

 

 しばらくはという言葉に真由美は引っかかったが、余計な詮索はしないことにした。どのみち、詳しいことは教えてくれそうにないと分かっていた。

 

「でも結局、政府の方からブランシュの名前を出すことなくこの件は終了ですか。あーあ、つまらねぇ終わり方だったなぁ。いっそ今回の件で政府に脅迫しちまえばよかったなぁ……、て冗談ですよ、冗談」

 

 真由美がこちらを睨んできている為、禅十郎は慌てて手を横に振った。

 

「禅君、冗談でもそう言うことは口にするものじゃないわよ」

 

 呆れた口調の真由美に禅十郎は苦笑いした。

 

「かもしれないですけどね、これに関しては仕方ないですよ。他のエレメンツと違って、俺の家はかなり特殊ですからねぇ。悪態をつきたくもなりますよ、特に今回みたいに政府の動きが無能だと」

 

「禅君……」

 

 それを聞いた真由美は少し悲しい顔を浮かべる。

 彼女は第一高校で誰よりも禅十郎の秘密を知っている。その中でも彼の出自に関することを知った真由美は時折、そのことを思い出して心を痛めてしまうことがあった。

 

「もう過ぎたことですし、俺は気にしてませんよ。それにアレのおかげでウチもかなり自由に行動できるようになりましたし……。止めましょ、止めましょ。そもそも俺がここに来たのはそんな話をする為じゃないんですからね」

 

そう言うと、禅十郎はすかさず学習端末を取り出した。

それを見た真由美はやれやれという顔をし、切りのいいところで業務を止めて禅十郎の隣に座る。

 

「それじゃ、時間もあまりないですし、ちゃっちゃと終わらせますか。長期間サボった所為で出た補習課題がこんなに出来ちゃったんで。それじゃあ、よろしくお願いします、七草先輩」

 

 満面の笑みを浮かべる禅十郎に真由美もつられて笑みを浮かべる。

 

「はいはい」

 

 それから禅十郎達は下校時間ギリギリまで補習課題を真由美に手伝ってもらうのであった。

 なお、真由美と放課後に二人っきりで勉強していることが噂となり、真由美のファンクラブと更に深い溝を作ることになるのだが、当の本人達は全く気にも留めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件から少しずつ、第一高校の日常は少しずつ戻りつつある。

 ブランシュの襲撃があったことも少しずつ忘れ去られ、生徒達は高校生活を満喫していた。やれ今度のテストだ、部活の大会だ、夏の九校戦だと多くの話題に夢中になっていた。

 今回のようなことは珍しく、しばらくは起こることは無いだろうと多くの生徒達が思っていた。

 このまま、普段通りの日常が続くと誰もが信じていた。

 だが、それは表面上の話でしかなかったことに今は誰一人として気付かない。




いかがでしたか?

入学編もあとわずかです

これから十話近く伸びることはないので、ちゃっちゃと九校戦編に入りたいです

さて、雫がヒロインと言いつつ、真由美ばかりにスポットが当たっています

でも仕方ないんです

だってこの話、雫あんまり関わらないんだもん

それでは今回はこれにて

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