魔法科高校の劣等生と優等生、加えて問題児   作:GanJin

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はいどうもです

お気に入りが五百越え、UAが五万越えしたことに驚いています

読んでいただき本当にありがとうございます!

これからも頑張っていきます!

では、お楽しみください!

2020/04/08:修正しました。


討論会前日

 禅十郎が失踪して数日後、『学内の差別撤廃を目指す有志同盟』と名乗る生徒たちが放送室の占拠する事件が起こった。

 最初は戸惑う生徒もいたが、この事件は生徒会と風紀委員会、そして部活連のメンバーによって無事収束した。と言っても、今回の立役者は放送室を占拠したメンバーの一人である壬生のプライベートナンバーを知っていた達也だ。

 彼は禅十郎の言った通り巧妙な話術によって壬生達の警戒心を緩ませ、放送室から出てきたところを狙ってメンバーを一斉に捕らえることに無事成功した。

 その後、学校側から今回の件を生徒会に一任することが決定し、壬生達は真由美と交渉の段取りと打ち合わせをすることとなり、今回の騒動はこれで終結した。

 事件の翌日の朝、過去に例のない討論会が明日開催されると発表があり、校内ではその話題で持ちきりである。

 その日の放課後、深雪のいるA組でもその話題をあちこちで話し合っていた。

 当然、深雪達の間でもその話題が上がっていた。

 

「明日の全校集会に深雪も参加するの?」

 

「そうね、あまり気が乗らないけど」

 

 ほのかの問いかけに深雪はあまりやる気のない様子であった。

 

「気が乗らない?」

 

「だって興味が持てないもの。主義主張の為なら何をしてもいいと考えている人達なんて」

 

 深雪の言う通り、同盟(学内の差別撤廃を目指す有志同盟のこと)のメンバーは放送室の不正利用と立て籠もりという明らかな犯罪行為をしたにも拘らず、自分達の目的のための手段を正当化していた。

 そのことに深雪は少なからず不満があったのだ。

 

「じゃあ、同盟の主張についてはどう思う?」

 

 雫の言う同盟の主張とは一科生と二科生の差別撤廃のことである。

 しかし一科生と二科生の待遇を平等にしろと言うのが彼らの主張ではあるが、具体的なことは全く考えていないようだと深雪は今朝、真由美から聞かされていた。

 深雪は彼らの主張についてこう答えた。

 

「甘いと思うわ」

 

 バッサリと彼らの主張を切り捨てたことに雫とほのかは目を丸くする。

 

「評価をしてほしいなら実績を示すのが先だと思うわ。魔法以外で評価されたいのなら魔法以外で実績を示すべきよ。平等じゃないから評価を上げろと言うのは高い評価を受けている人達の実績にぶら下がっているようで、なんだか嫌な感じを受けるわ」

 

 深雪の言葉は最もだと二人は思ったが、言い方があまりにも冷たすぎてどう反応していいか分からなかった。

 

「深雪の言ってることはその通りだと思うけど……」

 

「深雪、意外と容赦ない性格?」

 

 二人の反応に深雪は軽く微笑んでこう言った。

 

「そうよ。私って冷たい女なの」

 

 本音とも冗談とも聞こえる言葉に二人は軽く苦笑いするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 深雪と別れた後、二人は帰路についていた。

 

「でもなんかびっくりしちゃった。深雪もあんな冗談言うんだね」

 

「うん……」

 

「雫?」

 

 雫の反応が薄いことにほのかは怪訝な顔を浮かべる。

 

「深雪、少しいつもと様子が違ってた」

 

「言われてみればそうかも」

 

 先程の会話を思い出してみると、確かにその通りではないかと思えてくる。

 普段優しい深雪がいつになく冷たい気がした。

 

「もしかして、この前のことが関係してるのかな?」

 

 ふと数日前にあったことが唐突にほのかの頭をよぎる。

 思い返してみれば、あの時、禅十郎だけでなく深雪もその場に残っており、二人で何をしていたのだろうかと今になって疑問を抱いた。

 

「禅……」

 

 ほのかはその話題を出したのが間違いだったと後になって気付いた。

 

「ご、ごめん雫。別にそんなつもりで言ったわけじゃ……」

 

 禅十郎が無断欠席したときから雫の様子が変だとほのかは薄々感じていた。

 後で一身上の都合による休学だと言われたが、どうも雫はそれに納得していないらしい。あの事件があった後なのだからなおさらである。

 そして雫が禅十郎に向ける感情は友人の域を超えているとほのかは理解した。

 それ故に禅十郎のことで何かを思い詰めている雫にどう切り出せば良いのか分からず、今までその話題を避けていたのである。

 

(でも、篝君って一体何者なんだろう?)

 

 今にして思えば、道場を営んでいる家の息子とは言えないほどに彼はあの事件への対処に慣れ過ぎていた。犯人への捕縛からその事後処理までの流れがあまりにもスムーズだった。まるで何度も経験しているかのような振る舞いをしており、到底ただの学生とは思えなかった。

 それに加えて禅十郎は事件の事は誰にも話さないことをお願いしてきた。つまり、あの暴漢と禅十郎は何かしら関係があるのだとほのかは察していた。今回の禅十郎の休学と例の事件が無関係だとは思えなかった。

 しかしそのことを知る方法はほのかにも雫にもなかった。

 だというのに、ほのかは誤って禅十郎が関与している話題を出してしまった。迂闊だったと今になってほのかは後悔した。

 

「ほのか」

 

 雫が何を言い出すのか、ほのかは息の飲んで待った。

 

「帰りに少し寄り道していいかな? あんまり遠くないから」

 

「えっ……、良いけど」

 

 突然寄り道することにほのかは驚くが、その提案を了承した。

 

「うん、ありがとう」

 

「それで雫、どこに寄って行くの?」

 

 恐る恐る聞くほのかに雫はいつもの表情で言った。

 

「禅の家だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 雫の言う通り、禅十郎の家への道のりは雫の家と途中まで同じであった。

 

「雫、ここが?」

 

「そう。禅の家だよ」

 

「雫もそうだけど、篝君の家も随分大きいよね」

 

「道場も兼ねてるから私の家より敷地は広いよ。確か、九州の方がさらに広くて山をいくつか所有地にしているって」

 

「へ、へぇ……」

 

 禅十郎はかなりのお坊ちゃんなのだと知り、同じエレメンツの家系でも随分違うのだと感じた。両親からも彼の家はかなり逸脱しているとは聞いていたが、予想以上だった。

 

「それにしても雫の家とはずいぶん雰囲気が違うね。確か……」

 

「武家屋敷」

 

「そう、それ」

 

 禅十郎の家を初めて見たほのかは、一瞬タイムスリップでもしたのかと思ってしまった。何せ、かつての日本の住居を代表とする武家屋敷の門が堂々と目の前にあるのだから、そう思うのも当然である。

 近年、武家屋敷は文化財を除いて減少しており、ほのかも見るのは初めてであった。

 

「こういう家ってテレビのドラマで出てくるヤクザとか暴力団のトップが住んでるくらいのイメージしかなかったけど、今でも住んでる人はいるんだね」

 

「見た目は武家屋敷だけど、セキュリティは最新技術を使ってるし、家の中も和室と洋室が両方備えてあるよ」

 

「よく知ってるね」

 

「ここには何度か来てるから」

 

 話に夢中になっていると二人に近づく人物がいた。

 

「もしかして雫か?」

 

 声を掛けられた二人はその女性に視線を向ける。

 そこには見た目が二十歳ぐらいの大人びた雰囲気を漂わせた美女が立っていた。

 雫の顔を見ると女性は笑顔を見せる。

 

「やっぱりか、久しぶりだな」

 

「はい、ご無沙汰しております。千景さん」

 

 雫の目の前に現れたのは禅十郎の姉、篝家の次女の千景であった。

 

「そうだな。最後に会ったのは去年の九校戦以来か。元気にやってるようだな」

 

「はい」

 

 元気に返事をする雫を見て、千景は雫の隣にいたほのかを見る。

 

「隣にいるのは友達か?」

 

「は、はい。はじめまして、第一高校一年の光井ほのかと言います」

 

 突然話しかけられ、少し緊張しているほのかに千景は同姓でありながらも見惚れるほどの微笑みを浮かべる。

 

「禅十郎の姉、篝千景だ。よろしく。で、今日はどうした?」

 

 千景の質問についてきただけのほのかは戸惑ってしまう。

 

「禅に数日溜まった重要なプリントを届けに来ました」

 

 雫の言っていることは嘘ではない。学校からの通知が情報端末で送られてくることが多くなっても重要な内容については未だに紙で配布しているのである。

 だが、雫にとってそれはついででしかない。本来の目的は別にあった。

 

「わざわざすまないな。折角ここまで来てもらったんだ。少し上がってお茶でも飲んでいくと良い。最近、良い茶菓子も手に入ったしな」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

 千景の誘いを受けた雫達はそのまま家の中へと案内された。

 二人を客室へと案内し、お茶を持ってくると言ってその場を後にした。

 

「雫、あの人が先々代の生徒会長さんなんだよね」

 

 禅十郎の姉と言うこともあり、千景の話は雫から少し聞かされていた。

 

「うん、ちょうど今の三年生が入学した頃に生徒会長をやってた人だよ」

 

「すごい美人だったよね。かっこいい大人の女性って感じで。本当に篝君のお姉さんなのかなって思っちゃった」

 

 ほのかの印象からして禅十郎はカッコいいとは思うが、少々強面で初めて会った時は顔の傷もありヤクザの息子かと思ってしまった。

 それに対して千景は摩利以上にカッコいいと思える大人びた容姿である。顔付からして本当に血の繋がった姉弟なのかと疑問を抱いてしまう程であった。

 

「禅の顔はお父さんに似て強面で、千景さんはお母さんに似てるから」

 

「そうなんだ。それにしても凄いなぁ、あんな人が生徒会長だなんて」

 

 カッコよくて頭もいい上に生徒会長だと言えば、羨望の眼差しを向けるのも当然である。

 

「多分、直ぐにその印象は変わると思う」

 

「え?」

 

「見た目は違っても中身は禅と同じ」

 

「へっ?」

 

 幼い頃からの付き合いで雫は知っている。禅十郎と千景が外見は全く似てないが性格面では完全に瓜二つであることを。思考回路が禅十郎並み、いやそれ以上にぶっ飛んでいることをよく知っていた。

 いくら容姿がカッコよくなっても、今のほのかのように羨望の眼差しで見ることは出来なかった。精々、優秀な魔法師になれる先輩と言ったところだ。

 そんなことを話していると、お茶を持って千景が戻ってきた。

 雫は先程も言ったように禅十郎のプリントを千景に渡して、緑茶を頂いた。

 軽く一口飲むと雫は眉をひそめた。

 

(これって……)

 

「どうした?」

 

 雫の様子に千景は首を傾げる。

 

「いえ、予想以上においしかったので、つい」

 

「あ、私もそう思いました。普段飲んでいるのと全然違いますね」

 

 二人の反応に千景は満足した笑みを浮かべた。

 

「うちのお茶の淹れ方には拘りがあってね、そう言ってくれるとここの使用人も喜ぶだろうさ」

 

 それから雑談交じえて、学校生活や勉強などのアドバイスや昔第一高校で何をしていたのか、魔法大学で何をしているかについて二人は教えてもらった。

 会話の内容には高校時代に巻き込まれた事件や騒動について含まれており、千景が生徒会長になったことにも触れていた。一つ間違えれば大惨事になっていたというのに、それをしれっとした顔で言う千景にほのかは面食らっていた。

 その会話の中で、雫はほのかが千景に対して抱いていた羨望の眼差しから、禅十郎と同様に少々危険な人なのだと理解していく姿を温かい目で眺めていた。

 しばらくして会話を始めてからかなり時間が経っていることに気付いた。

 

「もうこんな時間か。すまないな、こんなに長居させてしまって」

 

「いえ、貴重な話を聞けてうれしかったです」

 

「はい、私もいろんな話が聞けて楽しかったです」

 

 ほのかは雫についてきただけであったが、卒業した先輩から有益な話を聞けて満足していた。

 それから二人は千景に玄関まで送ってもらった。

 

「千景さん、今日はありがとうございました」

 

「お礼を言うのはこっちの方だよ。すまんな、うちの愚弟がバカやった所為で、余計な手間を取らせた」

 

 呆れる千景に、雫は首を横に振る。

 

「いえ、クラスメイトとして当然のことをしただけです。それに……」

 

「それに?」

 

 雫は何かを言いかけたが、最後まで言うのを止めた。既に今日来た目的をしっかり果たしており、それを口にする必要はなかったからだ。

 

「いえ、お邪魔しました」

 

 雫は笑みを浮かべてそう言った。

 

「ああ、機会があればまた来るといい」

 

 別れの挨拶を終えた後、二人は帰っていくのであった。

 二人が見えなくなった後、千景は物陰に隠れている人物に目を向ける。

 

「お茶、美味しかったってさ」

 

 それだけ聞くと、物陰に隠れていた人物は笑みを浮かべてその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中ともいえない時間、達也と深雪は八雲の下へと向かっていた。その目的は八雲にある人物について何か知っていないか尋ねるためであった。

 その人物とは三年生の司甲という新入部員勧誘週間に一度だけ達也を襲撃し、達也のクラスメイトである美月を胡散臭いサークルの仲間に引き込もうとした人物である。司甲はエガリテのメンバーであることも気付いており、ブランシュとも関係があると達也は睨んでいた。

 事前に八雲に連絡を入れており、九重寺に着くと二人は真っ直ぐ八雲の下へと向かう。

 八雲は縁側に腰かけて二人を待っていた。

 簡単な挨拶を済まし、本題に入った。

 

「それで、今日は一体何の用かな?」

 

「実は師匠のお力で調べていただきたいことがありまして」

 

 達也は八雲に司甲について説明する。

 司甲がブランシュにも繋がっていると睨んでいる達也は、ブランシュがどのようなことを目論んでいるのか知る必要があると考えていた。勿論、八雲より的確に情報を提供している人物に心当たりがあるが、諸事情によってそれを使うことは出来ない。

 それを理解した八雲は二人を縁側に座るよう勧め、話を始めた。

 

「司甲。旧姓、鴨野甲。両親、祖父母いずれも魔法的な因子の発言は見られず。いわゆる普通の家庭だけど、実は陰陽道の大家、賀茂氏の傍系に当たる家だ」

 

「俺が司甲の調査を依頼することが分かっていたんですか?」

 

 調査を依頼する為に来ていたのだが、まさか来てすぐに話をするとは思っていなかったが、達也も深雪も然程驚いてはいない。八雲と付き合っていくならばこの程度でいちいち驚いてはキリがないのである。

 

「いや、君の依頼とは関係なく、彼のことは知っていたよ。僕は坊主だけど、同時に、いや、それ以前に忍びだ。縁が結ばれた場所で問題になりそうな曰くを持つ人物のことは、一通り調べておくことにしている」

 

「俺達のこともですか?」

 

 達也の質問に八雲は楽しげに笑った。

 

「調べようとしたけどね、その時は分からなかった。君達に関する情報操作は完璧だ。さすが、と言うべきだろうね」

 

 達也が八雲を睨み、二人の間に何やら不穏な空気が流れる。

 それを見ていた深雪が慌てて口を挿んだ。

 

「それで先生、司先輩とブランシュの関係については?」

 

 深雪の雰囲気に、達也と八雲は同時に頬を緩めた。

 

「甲君の母親の再婚相手の連れ子、つまり甲君の義理のお兄さんが、ブランシュの日本支部のリーダーを務めている。その司一と言う男は表向きの代表だけじゃなくて非合法活動を始めとする裏の仕事の方も仕切っている本物のリーダーだよ」

 

 八雲の答えはかなり穏やかなものではなかった。

 

「甲君が第一高校に入学したのは、司一の意志が働いているんだろうね。明日の討論会は何かあるかもね」

 

 予言めいたことを言う八雲に達也は明日の討論会への警戒心をさらに上げる。明日にでも司甲をマークするよう摩利に進言しておくことを決めた。

 これで話は終わりだと達也は思い、縁側から立ち上がろうとする。

 

「先生、もう一つ教えてください」

 

「深雪?」

 

 達也は深雪の予想外の行動に少々驚いた。

 

「いいよ、僕が答えられることならね」

 

 深雪の唐突な質問に対して八雲は笑みを浮かべて頷いた。

 

「先生は篝君とブランシュの関係もご存知なのですか?」

 

 八雲の話を聞いている間、深雪はあることを思い出していた。それは数日前にあった禅十郎と八雲の会話の内容である。

 事件の後、すぐ傍で二人の会話を聞いていた深雪は禅十郎について深くまで踏み込もうとはしなかった。しかし、事件があった次の日から突然禅十郎が休学することになったのは、その件に彼が深く関与しているからではないかと深雪は推測していた。

 もしそうなら、八雲はその件も知っているのではないかと思い至ったのである。

 

「勿論知ってるよ」

 

「それを教えてもらうことは出来ませんか?」

 

 深雪の頼みを八雲は首を横に振って拒んだ。

 

「深雪君には悪いけど、これに関しては僕も口にしないよう事前に釘を刺されていてね。残念だけど、僕の口からそれを教えることは出来ないんだ」

 

「そう、ですか……」

 

 深雪は残念そうな顔をして俯いた。

 達也は深雪の反応が意外だった。今まで深雪が異性に対してここまで気に掛けていることは達也の記憶上、一度も無かったからだ。

 

「深雪君が禅君のことを気にしているのは、クラスメイトの北山家のお嬢さんが理由かな?」

 

 八雲の言葉に深雪は目を見開いて驚いた。

 高校で初めてできた友人が落ち込んでいるのを見過ごせなかった深雪は八雲なら少しでも彼女を安心させることは出来る情報を持っているのではないかと考えていたのだ。

 

「はい、仰る通りです」

 

 それを聞いた達也は深雪の質問に納得した。ここ数日、彼女の様子がおかしかったことに気付いていた。しかし、それが禅十郎が休学することになってからだったのは認識していなかった。

 

「二人の家は祖父の代からの付き合いだ。禅君と北山家のお嬢さんの関係はいわゆる幼馴染と呼べる仲と言えるだろうね。そして先日起こったエガリテメンバーによる暴行未遂のすぐ次の日に禅君の突然の休学している。前日に最後に会ったお嬢さんは彼に何かあったのではないかと思うのは当然だろうね」

 

「師匠、プライバシーという言葉をご存知ですか?」

 

「言葉の意味なら知ってるよ」

 

 達也もさっきプライバシーの侵害を依頼したのを棚上げにして八雲を非難する。

 それを見兼ねた深雪は片手でこめかみ辺りを押さえていた。

 

「これだけは言っておくよ。禅君はね、一度ヘマした程度でやられるほど可愛い男じゃないってことさ。達也君はそれを良く知ってるよね?」

 

「……ええ、まぁ」

 

 何処か遠い目をする達也に深雪は首を傾げた。一体、昔何があったのだろうかと気になったが、それ以上のことは何も口にしなかった。

 結局、深雪は禅十郎について八雲から聞きだすことは出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、とある廃工場ではブランシュ日本支部のリーダーである司一と第一高校で活動している同盟のメンバーが集まっていた。

 その中にも当然、壬生もいた。

 

「さて諸君、明日は予定通り作戦を開始する。討論会が行われている間に偽装したトラックに乗せた実行部隊が突入。君達は手筈通りに動いてくればいい」

 

 司一がここにいる全員に明日の作戦について説明していた。

 

「明日に討論会を開くことになったことを知った時、私は君達の勇気に心動かされたよ。君達のように自身の理想のために積極的に動くその意志が、この間違った世の中を変えることになるだろう」

 

 しかし、彼が話しているのは作戦の表面上でしかない。そのことに気が付いている者はここにはいなかった。所詮、ここにいる者は全員、司一の傀儡でしかないのである。

 作戦の核心を知らずとも、ここにいる一部の者は薄々気づいてはいるのだろう。

 自分達は利用されていることを。

 等しく優遇された世界など、完全な平等など不可能であることを。

 だが、彼らはその現実を直視しようとしない。

 魔法師を目指すために努力してきたのに、それが評価されないことに彼らは耐えられなかった。

 それ故に平等と言う耳当たりの良い理想に縋りつこうとする彼らに今更退くことなど出来ないのであった。




いかかでしたか?

次回から終盤に入っていきます

今後の展開をお楽しみ!

では、今回はこれにて

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